2017年の投稿詩 第241作は島根県の 信如 さん、六十代の男性の方からの初めての投稿作品です。
 お手紙をいただきましたので、ご紹介します。

 漢詩を始めた頃に桐山先生宛にメールして、資料をいただいたことがあります。(今調べたら2003年8月になっていました)
 それから14年、ホームページはずっと見させていただいていました。

 先生の著書も購入して、ホームページで活躍されている方々に少しでも追いつこうと努力しましたが果たせず、今日に到っています。
 かつて何度か投稿しようとしたことがありましたので、「投稿フォーム」が無くなっていて少し驚きました。

 これからも折々に投稿したいと思っていますので、宜しくお願いいたします。

作品番号 2017-241

  中秋觀月(夫)        

月照西郊滿目C   月は西郊を照して 満目清く

乾坤萬事自分明   乾坤 万事 自ら分明

未知都邑汝消息   未だ知らず 都邑の汝が消息を

半夜雲平心不平   半夜 雲平らかにして 心平らかならず

          (下平声「八庚」の押韻)



<解説>

 初めて投稿します、信如と申します。

 家の事情で妻が先日より東京に行き、介護をしています。
 そんな折、中秋節を迎えましたので、ともに明月を見上げている気持ちを双方から詠んでみました。

 こちらは、私の側からの気持ちです。

<感想>

 信如さんからのお手紙、私も2003年のメールを確認しました。「桐山堂」に投稿できるように頑張りたい、というお言葉でしたね。
 「桐山堂」は初めての方でもベテランの方でも投稿できますから、遠慮なさらずにどんどん投稿下さい。
 私としては、始めたばかりと仰っていた信如さんが作詩を続けていらっしゃることがとても嬉しく、「桐山堂」投稿もずっと考えていて下さったことも嬉しいことです。

 先日の全日本漢詩大会愛知大会でお会いできるかと思っていましたが、残念ながら機会がありませんでした。なかなか島根県と愛知県ですのでお会いすることが難しいですが、また、是非機会がありましたらお会いしましょう。
 それまでは、この「桐山堂」での交流になりますね。

 さて、詩を拝見しました。

 前半は広がりのある光景で、秋の夜の趣が出ていますね。

 「西郊」は句としては収まりが良いですが、この詩で「西」と言う必要があるか疑問です。
 転句に「都邑」がありますから、それと対比させる形で、作者の場所を入れることを考えてはどうでしょうか。
 ただ、その自分の場所を起句で言うか、後半で言うか、がポイントになります。
 ひとまず、後半に置くようにして、起句は「秋月高天」くらいで抑えておきましょうか。

 転句は「未知」ですと「待っているのに連絡が無い」という気持ちで、そうなると結句の「心不平」は文字通り「不平」を感じているようになります。
 現代ですので、個人個人の連絡は取りやすいわけで、「但知」と逆に書いた方がもどかしさが出るかと思います。もう少し強調するなら「一消息」とするのも可能ですが、それは作者の気持ちと合うかどうか、という判断になるでしょう。

 結句に作者の居場所を出して、遠く離れたことを表したいので、どうでしょうか、「西海遠望雲影横」と心情を象徴させるような方向が良いと思います。一応日本海は「北海」ですが、「西海」とした方が合うように思います。
 更に対句にすることを考えれば、転句の頭を「東都」とすることも考えられますが、それは今後のお楽しみということで。



2017.10.25                 by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第242作も 信如 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-242

  中秋觀月(妻)        

天地無雲夜   天地 雲無き夜

主賓千里秋   主賓 千里の秋

蟲聲牽客思   虫声 客思を牽き

孤月照離愁   孤月 離愁を照す

          (下平声「十一尤」の押韻)



<解説>

 こちらは妻の側からの作品です。

<感想>

 二首いただき、二首目の方は「妻の側からの作品です」とありましたので、最初はご夫婦でお作りになったと思って、「いいなぁ」と羨ましく思っていました。
 最近では凌雲さんの例がありましたので。
 ということで、信如さんには承諾も得ずに、題名に(妻)と入れ、前作には(夫)と入れさせていただきました。

 承句の「主賓」は「主体と客体」、ここでは「本人(奥様)と相手(信如さん)」を表していますね。
 こちらの詩も、前半はきれいにまとまっていると思います。

 後半は転句の「牽客思」、結句の「離愁」が同じ趣で重複感があります。
 同じことで「孤」も寂しさを出していますので、これは「清月」として「中秋」を暗示しておくのが良いですね。

 さて、結句は収まりが良く、転句は虫の声を形容すれば整うように思いますので、例えば「幽蛩聲切切」と持って行ってはどうでしょうね。



2017.10.25                 by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第243作は 筑翁 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-243

  夏        

龍雲現夏天   龍雲 夏天に 現れ

西日満貧庭   西日 貧庭に 滿つ

熱暑重氷酒   熱暑 氷酒を 重ね

蝶予愈不醒   蝶たる予(われ) 愈 (酔い)醒めず

          (下平声「九青」の押韻)



<解説>

「龍雲」: 入道雲を言い換えてみました。
「氷酒」: いわゆるオンザロックです。(^^;)

 夏。夕方五時ごろ。自宅縁側で、焼酎のオンザロック(ビールもアリ)をちびちび飲み、何を考えるともなく考えながら狭い庭を眺め過ごすことが好きです。
 ときどき、黒アゲハや黄アゲハがふらふらと飛んで来たりします。

<感想>

 掲載が遅くなってしまいましたが、筑翁さんからの作品、夏の日常の一こまを描いた作品ですね。

 起句は「現」となるよりも「起」が一般的です。

 承句の「貧庭」は解説にお書きになった「狭い庭」、つまりご自宅の庭を謙遜しての言葉かと思いますが、「貧」ですと「華やかな花や植物が乏しい」ということで、筑翁さんの意図とは少しずれるように思います。
 「蕪庭」などの言い方もありますが、ここはわざわざ謙遜する必要はなく、「閑庭」くらいで描いておくのが良いと思います。

 転句は「熱暑」と下三字の「重氷酒」は直接のつながりはなく、やや飛躍はありますが、五言はどうしても字数に制限がありますので、これで通じるでしょう。

 結句は荘子の故事を持ってきたのでしょうが、「蝶予」で「蝶たる予」は無理があります。
 また、夢を見ていた「蝶」を出して「不醒」ですと、これは括弧つきでの書かれた(酔い)が醒めないとは読めず、眠りから目が覚めないと理解します。

 荘子から夢心地を出したいのならば、下三字も併せて行く必要があり、ここはせっかくの故事ですが変更して、「陶然愈不醒」とお酒で通していくと、前の句の「重」も生きてくるでしょうね。



2017.11. 1                 by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第244作は 禿羊 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-244

  夏夜口号        

生涯齷齪却無為   生涯の齷齪 却って無為

吾性頑迷常抱甕   吾が性 頑迷にして 常に甕を抱く

悶悶夏宵過四更   悶悶 夏宵 四更を過ぐ

余眠半是羞慚夢   余眠 半ばは是れ 羞慚の夢

          (去声「一送」の押韻)



<解説>

「抱甕」: 『荘子』の「抱甕灌畦」
「余眠」: 造語臭くて、しっくりきませんが、他にいい言葉も思い浮かびませんでした。

<感想>

 引用としてお使いになった「抱甕」は、『荘子』の「天地編」に出て来る話です。
 関わる部分だけを引用しますと、

 「子貢南遊於楚、反於晋、過漢陰、見一丈人方将為圃畦。鑿隧而入井、抱甕而出灌、滑滑然用力甚多而見功寡。」
 子貢が楚に南遊し、晋の国に帰ろうとして、漢陰の地を過ぎようとした時、一人の老人が畑仕事をしているのを見ました。トンネルを掘って井戸に入り、甕を抱えては出て来て田に水をまき、営営と努力しているが、大変な苦労の割りには功が少なく見える。  ということで、この後にもっと効率の良い「はねつるべ」を教えた子貢に対し、老人が「機心」(機械にとらわれる心)を語るという展開になるのですが、禿羊さんの承句はその「抱甕」に「常」を加えましたから、「便利なはねつるべを知っているけれど使わない」という意志の表れ。
 そうなれば、後半の「生涯」「羞慚」も覚悟の上、子貢との問答を終えた後の老人の心境というところでしょうか。
 水汲みは確かに疲れるし、老人にはきつい労働ですが、そこで「頑迷」であることの大切さも伝えてくれる話です。

 「余眠」は「眠りから覚めずにうつらうつらしている状態」を表した言葉でしょうか。分からないではないですが、辞書には載ってませんし、用例も無いようですね。
 「残眠」が近いかもしれませんが、転句に「過四更」がありますので、時間的なところから離れて「風」あたりを持ってきても良いかと思います。



2017.11. 7                 by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第245作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-245

  憂北九州豪雨        

連面破塊筑豊河   連面 塊を破る筑豊の河

決壞堤防水没禾   堤防 決壊 水没の禾

神仏何存之惨事   神仏 何にか存す之 惨事

那知災禍不明多   那ぞ知らん災禍の不明の多きを

          (下平声「五歌」の押韻)



<感想>

 こちらの詩は、八月の終わりにいただいた詩ですが、掲載が遅れました。すみません。

 起句の「連面」は何度も繰り返しということでしょうか。特に今年の豪雨は、同じ地域に集中して被害を大きくしていたという思いがあります。
 自然現象とは言え、一体どうなってるんだという気持ちが、今回の岳城さんの詩意で、転句の「神仏何存」や結句の「不明」もそうした感情の表れでしょう。

 転句の「之」は「之の惨事」と詠んだ方が良いですね。

 結句は「不明」が何を指すのかはっきりしませんので、「天意不明多」(天意の明らかならざること多きを)と持って行くと分かりやすくなると思います。



2017.11.11                 by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第246作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-246

  盛夏午睡起        

鳥雀啁唯茅屋回   鳥雀 啁唯 茅屋の回り

緑陰芳樹送花來   緑陰 芳樹 花を送って来る

日高睡起無情思   日高く睡りより起くれば 情思無く

不動孤雲只遠雷   孤雲動かず 只 遠雷

          (上平声「十灰」の押韻)



<感想>

 こちらは分かったようで分からない表現がいくつかあります。

 承句の「芳樹」は通常「香しい花をつけた樹木」となりますが、その花の咲いた木が「送花來」はどういう状態を表しているのでしょうか。

 転句は白居易の詩を意識されたのでしょうが、「日高睡」は日が高く昇るまで寝ていることですので使えるのは午前中までです。題名の「午睡」では、もう日が落ち始めてきますので、表現が合いません。
 また、遅く起きると「無情思」という流れも、そういうこともあるかなぁと思いつつも、なんだかモヤモヤした表現です。

 結句は「孤雲動かず」とは読めず「動かざるの孤雲」でしょうが、「雲不動」「遠雷」は作者の心の中では、どうつながっているのでしょうか。
 無心で動かない雲を眺めていたら、遠くから雷の音が聞こえた、と言われても、そこにどんな作者の気持ちが入っているのかが分からないと、反応できず、「あ、そうなの。それで?」という感じです。
 実際の情景を描いただけかもしれませんが、特に結句は詩の主題が表れるところ、その情景から作者はどこに感動したのかが伝わるように導入の表現を考える必要があるでしょう。

 今回の感想は疑問点ばかり並べてしまいましたが、一句それぞれが話が伝わるように、言葉を整理されるのが良いと思います。



2017.11.12                 by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第247作は 羽沢典子・凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-247

  秋        

中秋暑去入浅眠   中秋 暑去り浅眠に入る、

赤夕雲懐夢中巡   赤い夕雲懐かしく 夢中巡。

尚覚蜻蛉飛気配   尚覚ゆ蜻蛉飛ぶの気配に、

群芒処処里山新   群芒 処処 里山新たなり。

          (下平声「一先」上平声「十一真」の通韻)



<感想>

 秋の山郷を懐い描いての詩ですね。
 夕焼け雲、赤とんぼ、ススキの原、、素材としては十分ですね。

 起句の「暑去」は秋の初めならば良いのですが、「中秋」は陰暦八月、現在で言えば九月頃ですので、違和感があります。
 確かに最近は暑さがいつまでも消えずに、九月の終わり頃まで気温が30度近い日もありましたが、それは最近が「異常」であり、その「異常」をテーマにするならば良いですが、そうでなければここは「風渡」、上四字をまとめて「秋風清爽」とするのが良いでしょう。
 また、「秋」は承句の「夢」と重なっています(同字重出)のでとりあえず「仲秋」としておきましょう。

 平仄のついでに、起句の「浅」は、水の流れを表す「浅浅」の畳語以外は仄声になりますので、こちらも「二六対」の関係で直す必要があります。色々考えられますが、「竹窓眠」「入閑眠」など、検討してみてください。
 あるいは、「下平声一先」韻でなく、「上平声十一真」韻でも探すの良いでしょう。

 承句の上四字、「赤い夕焼け雲が懐かしい」というのは「夕焼け小焼けの赤とんぼ」という唱歌を歌った子供の頃というイメージでしょうか。
 実際に見ていない、ということで、次の「夢中巡」につながるのでしょうが、そうなると、転句以降の叙景も夢の中なのか現実に見ているのかよく分からなくなります。
 ここは実際に夕焼けを見て、その上で子供の頃が懐かしいとしなくてはいけませんね。「夕照暮雲」として下三字を推敲するのが良いと思います。
 その場合には、起句は「破閑眠」とした方が良いかも知れません。

 転句以降は平仄などは大丈夫ですが、前半の関連で行くと、「覚」「気配」などは、直接見たという形にしていくのが良いですが、故郷の思い出の風景という方向では作者の意図とずれてしまうかもしれませんので、難しいところですね。
 承句の下三字の結果によるでしょうが、どちらにしても結句の「新」は「親」とした方が良いと思います。




2017.11.12                 by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第248作は 常春 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-248

  憶星天 入律古風        

連星合體瞬時   連星合体 瞬時の息

序次天倫殊異   序次す天倫 殊異の刻

重力波形捕捉鮮   重力の波形 捕捉鮮やか

先端科学工無   先端科学の工 極まり無し

揚棄時空相對   時空を揚棄して相対に論じ

矮星光譜赤偏   恒星の光譜 赤に偏り奔ると

創成宇宙開知見   宇宙創成の知見を開く

不意空懷鵬与   不意空しく懐ふ 鵬と鯤 

今宵七夕星河耀   今宵 七夕 星河耀く

織女牽牛星喜   織女牽牛の星喜び笑はん

黒洞輪廻星轉生   黒洞 輪廻 星転生す

那星我逝星宜   どの星か我逝かん 星宜しく召せ

          (入声「十三職」・上平声「十三元」・去声「十八嘯」の押韻)



<解説>

 本年 ノーベル物理学賞が、重力波観測のチーム、レイナー・ワイス、バリー・バリッシュ、キップ・ソーン、3氏と発表された。
 この詩は、昨年詠んだものだが、周りの理解がほとんど得られなかったもの。だが格好の話題、今なら少し理解得られるかな。

 2月そして6月、米国LIGOのレーザー干渉計が重力波を観測と発表された。
 夫々13億光年、14億光年離れたところ、中性子星二つが合体する瞬間僅か100ミリ秒の間に発生する重力波の序破急、そしてブラックホールが生まれる。
 私はブラックホールとは宇宙の始まり、百三十八億年前ブラックホール、インフレーション、ビッグバンそして原子が生まれ星が生まれたと聞いていた。
 ところが十数億年、しかも中性子星(星の死骸)からブラックホールが作られる!びっくりした。

 神岡に設置されたレーザー干渉計カグラは、アームの長さ3q、LIGOのそれより1q短い。7億光年までの重力波観測を目指すとのこと。
 母宇宙、子宇宙という新しい宇宙概念は、既成概念と全く異なる世界である。この世は一つユニヴァースと思い込んでいる頭にはマルティヴァースのイメージがピンとこない。
 この詩、絶句三首を重ねた入律古風である。第二解は、相対性理論を詠もうとして詠み切れなかった。
揚棄時空相対論 揚棄=止揚(Aufheben),普通に感じる空間(x,y,z)の絶対性、時間(t)の絶対性を併せて4次元空間(x,y,z,t)としてとらえる、ことを指す。
 矮星光譜赤偏奔 アインシュタインは、時計の進みは、その付近にある物質の質量が大きければ大きいほどおそくなる。太陽表面で発せられたスペクトル線は、地球上で発せられたそれに対応するスペクトル線にくらべれば、その波長が2x10−6だけ赤方へ移動する、と結論していた。
 この重力による赤方偏移は、白色矮星についてポッパーにより1954年に確認された。相対性理論実証のひとつ。
「不意空懐鵬與鯤」 やっぱり相対性理論は難しいと私の慨嘆。
 こんなこと書くから難しくなったのかな。

<感想>

 相対性理論は難しいと思っていると、どうしても最初から敬遠してしまいます。
 長い解説がありましたので何が書いてあるのかと先に読みましたら、これは文系の私にはとても分からないと思いましたが、気合いを入れて詩を読ませていただきますと、ほっとしました。

 換韻していますので、韻の変わり目が段落(解)になります。
 韻字を色を変えて表示しましたので、そこに従って分けて読んでいくと分かりやすくなります。

 第一解と第三解は以前に読ませていただいたような気がしますが、詩意は明瞭ですが、第二解は、これは解説を読まないと分からないですが、でも、解説を理解する方が難解かな?という気もします。
 まあ、その辺は読者にゆだねるということで。

 相対性理論から荘子の「鵬與鯤」、はるか古代に地上に在りながら無限の広がりを想像した思想家に驚嘆するとともに、「不意空懐」という表現も面白いですね。



2017.11.20                 by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第249作は 地球人 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-249

  秋夕        

暑威未散汗珠流   暑威 未だ散ぜず 汗珠流る

喘々微痾身是憂   喘々 微痾 身是れ憂なり

日落涼生蘇病骨   日落ち 涼生じ 病骨蘇へる

書斎独座読書秋   書斎に 独り座す 読書の秋

          (下平声「十一尤」の押韻)



<解説>

 昼間はまだ暑いですが、朝夕は少し寒いくらいの時節、少々オーバーですが、昼と夕方の温度差を描いてみました。

<感想>

 最初に表記ですが、「々」は漢字ではなく「記号」ですので、漢詩本文には使わないようにしましょう。面倒でも「喘喘」として書きます。

 前半の半病人のような描写から、転句では人格が変わったかのような変貌、「温度差」を描いたとのことですが、結句ではついクスリと笑ってしまいました。
 例えれば、前半はステテコに綿シャツで団扇を使って「暑い、暑い」と騒いでいた人が、後半は涼しくなったからとスーツ姿にパッと着替えてきたような感じでしょうか。

 ま、簡単に言えば、結句が収まりすぎて、孤立しているからでしょうから、どれかの語を変更してみると解消するでしょう。
 例えば、「書斎」を「陋居」、「独座」を「纔得」のように、色々と替えてみると、予想外の展開があったりして楽しいですね。



2017.11.24                 by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第250作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-250

  悲愛犬急死        

十五星霜養育時   十五 星霜 養育の時

老年尚健不知疲   老年 尚 健 疲れを知らず

三更一吠九泉嚮   三更 一吠 九泉に嚮ふ

天界輝煌愛犬姿   天界に輝煌す 愛犬の姿

          (上平声「四支」の押韻)



<解説>

  十五年 一緒に暮らしてきた愛犬「ハッピー」が急死。
  何時もは吠えることのない夜中に「ハッピー」の声
  特に気にすることもなく朝 犬の部屋を見てみると
  絶命 あれが別れの挨拶だったのか双涙止まらず。


<感想>

 私の家の犬も、十四年生きていましたが、岳城さんの愛犬も長生きでしたね。
 長年一緒に暮らしていると、本当に家族の一員となりますから、亡くなった時には悲しみが深くなりますね。

 全体に臨場感のある詩になっていると思いますが、やや数詞の多いのが気になりますので、転句の「九泉」だけ「黄泉」としておいてはどうでしょうか。



2017.12. 5                  by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第251作は 東山 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-251

  行路偶感(一)        

同覊南北幾星霜   同覊南北 幾星霜

君克調家在職長   君 克く家を調え 職に在ること長し

今得闌柱癘虫「   今得たり間健 吾も亦爾り

欲愉偕老共携行   愉しまんと欲す 偕老 共に携ふの行

          (下平声「七陽」の押韻)



<感想>

 東山さんは夏からお仕事もすこし余裕が出来、また、奥様もお仕事をお辞めになり、お二人の時間が取れるようになったそうです。
 名古屋での全国大会にもご夫婦でお見えになり、吟行会もお二人で参加されたそうですが、良いですね。

 起句は「お二人であちらこちらと旅をした」という意味でしょうか、承句とうまく繋がらないのと、結句の「共携行」と重なりますので、どうもしっくり来ませんね。
 「羇」を「心」とか「舟」としてみてはどうでしょうね。

 転句の「閨vは「閑」としておいた方が良いでしょうね。



2017.12. 5                  by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第252作は 東山 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-252

  行路偶感(二)        

追懷十八出郷秋   追懐す十八 出郷の秋

漸放辛勤稍意休   漸く辛勤を放れて 稍 意休まる

欲倣樂天中隱道   倣わんと欲す楽天 中隠の道

竹林市井相同游   竹林市井 相同に游がん

          (下平声「十一尤」の押韻)



<感想>

 起句で書かれた「十八歳で故郷を出た時」のことが何か書かれているかと思いましたら、すぐに現在に飛んでしまいましたね。
 「追懷」を「自來」とすると流れが良くなるでしょう。

 承句の「漸」は「だんだん」ですので、意味としては通じますが、「已」と時間経過を強調する言葉にしてはどうでしょうね。

 転句は白居易の「中隠」からですね。
 「中隠」は仕事をしながら閑な時には風雅な世界に遊ぶということですが、実際にはなかなか難しいですね。
 そういう意味では、仕事に少し時間が取れるようになった時がチャンスかもしれませんね。



2017.12. 5                  by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第253作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-253

  国政選挙        

忖度破盤岩   忖度 盤岩を破り、

首班正国鑑   首班 正に国の鑑たるべし。

新星軽政策   新星 政策を軽んじ、

古貉頼青衫   古貉 青衫を頼る。

演説専論税   演説 専ら税を論じ、

赤心只免讒   赤心 只 讒を免るるのみ。

台風如散票   台風 票を散ずるが如く、

使懶赴投函   投函に赴くを懶くしむ。

          (下平声「十五咸」の押韻)



<解説>

 時事ネタなので・・・・炎上覚悟で投稿します。

 今一つ争点がはっきりしなかった感じがしました。対立軸らしきものがあったんだか、無かったんだか。
 折悪しく神風が吹いて与党圧勝の様でしたが。結局私は行きそびれました。敢えて解説はいらないと思いますが。投票に行くのが懶のは台風のせいだけではないような気がします。


<感想>

 「炎上覚悟」とのことですが、私は全く同感で、楽しく拝見しましたよ。

 第四句は日本では「古狸」としますが、平仄が合わないことと、「狸」は漢語では「山猫」を表しますので適切ですね。

 第八句は「懶くしむ」と訓じます。



2017.12. 6                  by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第254作は 三斗 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-254

  秋思        

剛風颯颯落楓飜   剛風颯颯 落楓翻り

樹上叢中鳥雀喧   樹上に叢中に鳥雀喧し

秋盡雲飛人易񐨆   秋は尽き雲は飛び人は痩せ易く

晩鐘一響又消魂   晩鐘一響また消魂

          (上平声「十三元」の押韻)



<感想>

 起句の「颯颯」は「風がさっさっと吹く」ということですので、「剛風」とは合いませんね。
 「剛風」を残すなら「凄烈」「惨慄」など、逆に「颯颯」を残すなら「西風」とするところでしょう。

 承句は「木の上でも草むらの中でも」ということですが、日本語でも「木でも草むらでも」と言えば場所は分かるように、「上」「中」の言葉が煩わしいですね。
 また、「落楓」と言っておいて、すぐにまた「樹」も変化が乏しいので、「處處叢林鳥雀喧」など一呼吸置くと良いでしょう。

 転句は、上二字、中二字、下三字のそれぞれがバラバラな感じです。「痩」を「老」とすると、多少収まるかもしれませんが、三斗さんの年齢ではまだイメージが弱いかもしれませんね。
 中二字を直しても良いでしょう。

 結句はまとまっていますので、そこに持って行けるような言葉が良いと思います。




2017.12. 7                  by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第255作は 三斗 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-255

  醉興        

縱情帶酒夜窗幽   情のまま酒を帯び 夜窓幽かなり

書册行行凝醉眸   書冊の行行 酔眸を凝らす

詩到沈吟眠未就   詩到り沈吟して眠り未だ就かず

推敲遮莫向君投   推敲 さもあらばあれ君へ向け投ぜん

          (下平声「十一尤」の押韻)



<感想>

 「醉興」ということですので、酔い心地の思いを詩にしたものですね。

 承句の「行行」は、本の一行一行を酔眼朦朧としながら読んでいる状態でしょうね。
 「書冊」と言うと単位が一冊一冊になりますので、その中の「行」となるとややずれるかな、という感じです。
 意図が分からないでもないのでこれでも良いですが、「書上」「文字」などの方がしっくりするように思いますね。

 転句も「詩」で文句はないですが、場面としては「句」が良いでしょう。

 結句は「遮莫」が問題で、三斗さんの意図としては「推敲して、とりあえず君に送ろう」ということかと思いますが、この「遮莫」は下の語句を受けますので、句意としては「推敲だけして、君に送るのはどうでもよい」となります。
 自分で推敲を楽しむということならば一応通じますが、「遮莫」を「暫且」「纔得」というところでしょう。



2017.12. 8                  by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第256作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2017-256

  八月十五日因終戦日想硫黄島作詩 其一     八月十五日 終戦の日に因んで硫黄島を想い作詩する  其の一   

南洋波迫渚連綿   南洋の波迫り 渚は連綿す

銹砲身朱草国N   銹びた砲身は朱く 草緑 鮮やかなり。

玉碎猶無収戰骨   玉砕 猶 戦骨を収むる無し、

彈音已絶歷何年   弾音 已に絶え 何年を歴しか。

          (下平声「一先」の押韻)



<感想>

 全体に分かりやすい表現になっていますが、承句だけがモヤモヤしていますね。
 「草香v「朱」を対応させたのでしょうか、「香vの位置が悪く、せっかくの色の対が逆に邪魔になっています。
 「新草」「繁草」としても「緑」のイメージは出てきますし、芭蕉の「夏草や」の句と同じように、過去と現在の対比が強くなると思いますがどうでしょうか。

 結句で「彈音已絶」と持ってくるならば、承句の「銹砲身」が先出しで、印象が弱くなります。
 承句に砂の色や海の色を出して叙景に持って行くのも一案ですし、結句で「彈音」を別のものを入れることも考えられますね。



2017.12.12                  by 桐山人
























 2017年の投稿詩 第257作は  さんからの作品です。
 

作品番号 2017-257

  八月十五日因終戦日想硫黄島作詩 其二        

黙禱有情偏想国   黙祷 情有り 偏へに国を想ふ、

蟬聲無識只鳴枝   蝉声 識無く 只枝に鳴く。

彈痕慘劇猶何語   弾痕の惨劇 猶何か語らん、

激戰塹壕不得支   激戦の塹壕 支へ得ず。

晩夏光芒隨短影   晩夏の光芒 随ふ短影、

南方孤島立翻旗   南方の孤島 立つ翻旗。

今來此地閑惟靜   今来 此の地 閑で惟だ静かなるのみ、

看白鳩飛欲託詩   白鳩の飛ぶを看ては 詩に託さんと欲す。

          (上平声「四支」の押韻)



<解説>

 若い頃元好問の影響を受け書いたものです。もうかれこえ二十年位前になります。
 旧日本軍の砲身は実際には朱くは錆びず黒くさびるそうです。勿論硫黄島は現在無人島で行くことはできませんが、自衛隊の基地があると聞いています。

 今では軍事的に大した意味は無いようですが、当時は激戦地だったようです。

<感想>

 激情的な表現を抑え、落ち着いた描写が戦後の時の長さを感じさせますね。

 頷聯の対は上句が現在の描写なのに対して下句は以前のこと、過去と現在の順番を逆にするとすっきりしたと思いますが、やや冗長な印象になっています。

 頸聯の下句は「立」は邪魔で「翻」だけで十分に分かりますので、どちらかを削った方が良いでしょう。
 流れとしては「翻」の方でしょうし、「島に旗が翻る」ということが何を言おうとしているのかはっきりしませんので、どんな「旗」なのかで表せるようにすると良いかと思います。

 最後の「白鳩」は平和の象徴ということでしょうか、硫黄島の海岸で「白鳩」が現実的かどうか、が気になりました。
 何か他の鳥とか自然物でも良いかと思いますが、そこは作者のお気持ちでしょうね。



2017.12.12                  by 桐山人