金陵図   韋荘(晩唐)


江雨霏霏江草斉   

六朝如夢鳥空啼   

無情最是台城柳   

依旧煙籠十里堤   

          (上平声「八斉」の押韻)




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  銷夏詩   袁枚(清)


不著衣冠近半年   衣冠を著けざること 半年に近く

水雲深処抱花眠   水雲深き処 花を抱いて眠る

平生自想無官楽   平生自ら想ふ 無官の楽しみ

第一驕人六月天   第一人に驕る 六月の天



[口語訳]
 正装の役人生活を辞めて半年
 雲や水の深いところで、きれいな花に抱かれて眠る
 いつも想っていたのは、官を辞めからの楽しみ
 何と言っても一番はこの炎天下、六月の生活だ


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  初夏即事   王安石(北宋)


石梁茅屋有彎碕   石梁 茅屋 彎碕有り

流水濺濺度両陂   流水濺濺として両陂を度(わた)る

晴日暖風生麦気   晴日暖風 麦気を生じ

緑陰幽草勝花時   緑陰幽草 花時に勝る



[口語訳]
 石の橋げた、茅ぶき小屋、くねくね曲がった岸の上、
 流れる水はさらさらと、土手の間を抜けていく。
 透明な陽射しの下、穏やかな風は麦穂の香りを運び、
 新緑の木陰にかそけき草、(まったくこれは)春の花盛りに勝る風情だよ。


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  鍾山即事   王安石(北宋)


澗水無聲繞竹流   澗水 声無く 竹を繞って流れ

竹西花草弄春柔   竹西の花草 春柔を弄す

茅檐相對坐終日   茅檐に相対して坐すること終日

一鳥不鳴山更幽   一鳥鳴かず 山更に幽なり



[口語訳]
 谷川の水は静かに竹の林を繞って流れ
 竹林の西には花や草が春の柔らかな日差しにたわむれている。
 茅ぶきの檐(のき)の下、山に向かって坐すこと終日
 一羽の鳥も鳴かず、山はますます静かである。


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  明妃曲(其の二)   王安石(北宋)


明妃初嫁与胡児   明妃の初めて嫁ぎて 胡児に与えられしとき

氈車百両皆胡姫   氈車は百両あれど 皆 胡姫なり

含情欲説独無処   情を含みて説かんと欲するも 独り処無し

伝与琵琶心自知   伝えて琵琶に与えて 心を自ら知らしむ

黄金桿撥春風手   黄金の桿撥 春風の手

弾看飛鴻勧胡酒   弾きて飛鴻を看れば 胡酒を勧む

漢宮侍女暗垂涙   漢宮の侍女 暗かに涙を垂らし

沙上行人却回首   沙上の行人 却りて首を回らす

漢恩自浅胡自深   漢恩は自ら浅く 胡は自ら深し

人生楽在相知心   人生の楽しみは心を相知るに在り

可憐青塚已蕪没   憐むべし 青塚は已に蕪れ没し

尚有哀弦留至今   尚ほ哀しき弦は留まりて今に至る有り



[口語訳]
 明妃・王昭君が匈奴に嫁いだ時には氈で包まれた迎えの車が盛大に百両
 それでも辛い心を伝える場所もなく、ただ琵琶に託して歌うだけ。
 黄金の撥を持つ手には春の風、弾きながら空往く鴻を思えば異郷の酒が注がれる。
 漢からの侍女はその音を聞いてはこっそりと涙を流し、砂漠の旅人は音に振り返る。
 漢の国の恩は薄いもの、匈奴の恩は深いもの
 人が生きていく喜びは、互いに理解し合う心の交流にあるのだ。
 王昭君の墓もすでに荒れた地の草の中だが、あの琵琶の音だけは今でも残っているのだよ。


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  元旦   王安石(北宋)


爆竹聲中一歳除   爆竹の声中 一歳除(つ)き

春風送暖入屠蘇   春風 暖を送りて 屠蘇に入る

千門萬戸曈曈日   千門万戸 曈曈の日

總把新桃換舊符   総て新桃を把りて旧符に換ふ

          (上平声「六魚」・「七虞」の通韻)




「曈曈」:「太陽の光が輝くこと」
「桃」:桃の板に絵を描いた桃符


[口語訳]
  爆竹の音が響く中、一年が終わり、
  春風は暖かい気を送り、屠蘇の(杯の)中に入ってくる。
  千万の家々に、赤々と輝く初日が差し込み、
  どの家も新しい桃符を古いお札と換えている。


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  終南別業   王維(盛唐)


中歳頗好道   中歳頗る道(どう)を好み

晩家南山陲   晩に南山の陲に家(いえ)す

興來毎獨往   興来れば 毎(つね)に独往し

勝事空自知   勝事は空しく自ずから知る

行到水窮處   行きて水の窮まる処に到り

坐看雲起時   坐して雲の起くる時を看る

偶然値林叟   偶然 林叟に値(あ)ひ

談笑無還期   談笑して還期無し

          (上平声「四支」の押韻)



「別業」: 別荘
「中歳」: 中年のこと。人生百年として五十歳頃を指すが、幅が広く、ここでは三十歳と思われる。
「好道」: 「道」は通常は神仙の道を表すことが多いが、ここは「仏教」であろう。
「晩」: 晩年、中歳を三十歳と考えると、四十歳くらい。
「家」: 家を構える。ここは別荘を構えたこと。
「勝事」: 美しい自然の景色。
      岑参に「聞道輞川多勝事 玉壺春酒正堪携(聞くならく輞川勝事多しと 玉壺の春酒 正に携ふるに堪ふ)」の句有り。 「空自知」: ただ自分だけが知っている。「空」は他に人が居ないこと。
「林叟」: 年老いた木こり
「無還期」: 帰る時を忘れた。『三体詩』では「滞還期」となっている。




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  輞川閑居贈裴秀才迪   王維(盛唐)


寒山轉蒼翠   寒山 転(うた)た蒼翠

秋水日潺湲   秋水 日に潺湲(せんかん)

倚杖柴門外   杖に倚る 柴門の外

臨風聽暮蟬   風に臨んで暮蝉を聴く

渡頭餘落日   渡頭 落日餘(のこ)り

墟里上孤煙   墟里 孤煙上る

復値接輿醉   復(ま)た値(あ)ふ 接(せつ)輿(よ)の酔ひて

狂歌五柳前   五柳の前に狂歌するに

          (下平声「一先」の押韻)



「閑居」: 役所つとめをしない暇な生活や暇なすまい  
「寒山」: 秋から冬にかけての寒々とした山  
「転」: かえってますます
「蒼翠」: 濃い緑色
「潺湲」: 浅い水の流れる音、サラサラ。
「柴門」: 粗末な門。自宅の謙称、隠者の住居。
「渡頭」: 渡し場のほとり。「頭」は「あたり」「ほとり」
「墟里」: 村里。陶潜の「帰園田居」に「曖曖遠人村 依依墟里煙」の句がある。
「接輿」: 春秋時代の楚の隠者。世を逃れるのに狂人のふりをしたとされる。ここは裴迪を例えた。
「五柳」: 陶潜の家には五本の柳が植わっていたことから、自分自身を「五柳先生」と称した。
      ここは、王維が自分を陶潜に見立てていて、「五柳前」は「自分の別荘の前」のこと。



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  別輞川別業   王維(盛唐)


依遲動車馬   依遅(いち)として車馬を動かし

惆悵出松蘿   惆悵して松(しょう)蘿(ら)を出づ

忍別青山去   忍びて青山に別れて去るも

其如告何   其れ緑水を如何(いかん)せん

          (下平声「五歌」の押韻)



「依遅」: ぐずぐずする  
「惆悵」: もの悲しいさま   
「松蘿」: 松にからむつる 
「忍」: 我慢する、耐える
「如何」: 「どうしようか」と手段・方法を問う。「何如」は「どうなのか」と状態を問うので区別する。




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  秋夜曲   王維(盛唐)


桂魄初生秋露微   桂魄 初めて生じ 秋露微なり

輕羅已薄未更衣   軽羅 已に薄くして 未だ衣を更めず

銀箏夜久殷勤弄   銀箏 夜久しくして 殷懃に弄す

心怯空房不忍歸   心に空房に怯えて 帰るに忍びず

          (上平声「五微」の押韻)






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  送沈子福之江南   王維(盛唐)


楊柳渡頭行客稀   楊柳 渡頭 行客稀なり

罟師盪槳向臨圻   罟師(こし) 槳(かじ)を盪(うご)かし 臨圻に向ふ

惟有相思似春色   惟だ相思の春色に似たる有り

江南江北送君歸   江南 江北 君が帰るを送る

          (上平声「五微」の押韻)



「罟師」: 漁師




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  與盧員外象過崔處士興宗林亭   王維(盛唐)


克重陰蓋四鄰   緑樹 陰を重ねて 四隣を蓋ふ

青苔日厚自無塵   青苔 日に厚くして 自ら塵無し

科頭箕踞長松下   科頭 箕踞す 長松の下

白眼看他世上人   白眼に看る 他 世上の人

          (上平声「十一真」の押韻)






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  臨高臺 送黎拾遺   王維(盛唐)


相送臨高臺   相送りて 高台に臨めば

川原杳何極   川原 杳として何ぞ極まらん

日暮飛鳥還   日暮 飛鳥還るも

行人去不息   行人 去りて息まず

          (入声「十三職」の押韻)




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  送別(五絶)   王維(盛唐)


山中相送罷   山中 相送り 罷はり

日暮掩柴扉   日暮 柴扉を掩ふ

春草明年   春草 明年緑ならんも

王孫歸不歸   王孫 帰るや帰らざるや

          (上平声「五微」の押韻)



「王孫」: 貴族の子弟。貴公子。

     『楚辞』の「招隠士」に「王孫遊兮不帰 春草生兮萋萋」とあるのに拠る。
     また、王維の「山居秋暝」の詩には、「随意春芳歇 王孫自可留」とあり、
     この「王孫」は自分自身を指しているとも考えられる。


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  送別(古詩)   王維(盛唐)


下馬飲君酒   馬より下りて君に酒を飲ましむ

問君何所之   問ふ 君何の之く所ぞ

君言不得意   君は言ふ 意を得ず

歸臥南山陲   南山の陲に帰臥せんと

但去莫復問   但だ去れ 復た問ふこと莫からん

白雲無盡時   白雲尽くる時無し

          (上平声「四支」の押韻)



「南山」: 長安の南の終南山だが、暗に陶潜が暮らした盧山を指すと思われる。
     参考 陶潜「飲酒二十首」其五の「采菊東籬下(菊を采る東籬の下) 悠然見南山(悠然として南山を見る)」
「白雲」: 隠逸、自由の象徴として用いられることが多い。

 以下は「唐詩三百首詳解」(田部井文雄)からの解説文です。
 六句からなる五言古詩。押韻は偶数句で、「之・陲・時」。
 第一句の「下馬」を「馬より下ろして」としたり、第五句の「莫復問」を「復た問ふ莫かれ」として、「二度と訪問してくれなくてよい」の意に解したりして、この詩の解釈はさまざまになされてきた。
 しかし、詩句に三度現れる「君」を、いずれも作者自身の素志を述べんとする仮構の友人とし、この詩を自問自答の作と解することができれば、この名作の本旨はかなり明確になるであろう。


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  送丘爲落第歸江東   王維(盛唐)


憐君不得意   憐れむ君が意を得ざりを

況復柳條春   況んや復た柳條の春なるをや

爲客黄金盡   客と為りて黄金尽き

還家白髪新   家に還りて白髪新たなり

五湖三畝宅   五湖 三畝の宅

万里一歸人   万里一たび帰るの人

知爾不能薦   爾を知りて薦むる能はず

羞稱献納臣   献納の臣と称するを羞づ

          (上平声「十一真」の押韻)



「況復」: 抑揚形と言われ、「ましてや」という意味
「五湖」: 江南にある太湖




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  竹里館  王維(盛唐)


獨坐幽篁裏   獨り坐す幽篁の裏

弾琴復長嘯   琴を弾じてまた長嘯す

深林人不知   深林人知らず

明月来相照   明月来たりて相ひ照らす




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  鹿柴   王維(盛唐)

空山不見人   空山人を見ず

但聞人語響   但だ人語の響きを聞くのみ

返景入深林   返景 深林に入り

復照青苔上   復た照らす 青苔の上を



[口語訳]
 ひっそりとした山には人の気配もしないが
 ただ遠くの人の声だけが響いてくる。
 夕日の照り返しが深い林の奥まで差し込み、
 青い苔の上をまた今日も照らしていることだ。


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  山居即事   王維(盛唐)


寂寞掩柴扉   寂寞として 柴扉を掩ひ

蒼茫對落暉   蒼茫として 落暉に対す

鶴巢松樹徧   鶴は松樹に巣くひて徧(あまね)く

人訪蓽門稀   人の蓽門(ひつもん)を訪るるは稀なり

嫩竹含新粉   嫩竹 新粉を含み

紅蓮落故衣   紅蓮 故衣を落とす

渡頭燈火起   渡頭 灯火起こり

處處採菱歸   処処 菱を採りて帰る

          (上平声「五微」の押韻)




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  輞川積雨   王維(盛唐)


積雨空林烟火遅   積雨 空林 烟火遅し

蒸藜炊黍餉東菑   藜を蒸し 黍を炊いで 東菑に餉す

漠漠水田飛白鷺   漠漠たる水田 白鷺飛び

陰陰夏木囀黄鸝   陰陰たる夏木 黄鸝囀る

山中習静観朝槿   山中の習静 朝槿を観じ

松下清斎折露葵   松下の清斎 露葵を折る

野老与人争席罷   野老 人と席を争って罷むに/FONT>

海鴎何事更相疑   海鴎 何事ぞ 更に相疑う



[口語訳]
 降り続く雨 人気のない林 炊事の煙の上がるのも遅い
 藜を蒸し、黍を炊いて 東の田で弁当を広げる
 広々とした水田には白鷺が飛び交い
 薄暗い夏木立の中ではうぐいすが囀る
 山の中で座禅を組み、朝開く木槿の花を観ては無常を感じ
 松の木の下で斎戒をして、露の降りた葵を手折る
 田舎の老人達は私を分け隔てしなくなった(「争席」)が
 鴎はどうしてまだ私を疑うのだろうか  

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  九月九日憶山東兄弟   王維(盛唐)


独在異郷為異客   独り異郷に在りて異客と為る

毎逢佳節倍思親   佳節に逢ふ毎にますます親を思ふ

遥知兄弟登高処   遥かに知る兄弟の高き処に登りて

遍挿茱萸少一人   遍く茱萸を挿すに一人をくを



「異客」:故郷を離れている人、旅人。
「佳節」:めでたい節句。人日、上巳、端午、七夕、重陽。
「親」: 肉親、この詩では兄弟のこと。
「登高」: 九月九日には一族で高い丘に登り、茱萸を髪に挿し、菊酒を飲んで厄払いをする風習が古代にあった。

  王維の弟である王縉は後に宰相にまでなった人物で、この王維の詩に対して答えた作が残っています。

   九月九日作
 莫將邉地比京都   辺地を将って京都に比する莫かれ
 八月嚴霜草已枯   八月厳霜 草已に枯れたり
 今日登高樽酒裏   今日登高す 樽酒の裏
 不知能有菊花無   知らず 能く菊花の有りや無しやを

[口語訳]
 ただ一人故郷を離れて知り合いのない身
 良い季節が巡り来るといつも家族のことを思い出す
 遥か遠く故郷では兄弟が今日(重陽の節句)は高い処に登り
 みんなが茱萸を髪に挿しているのに私一人がそこに居ないのだ


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  送元二使安西   王維(盛唐)


渭城朝雨浥軽塵   渭城の朝雨 軽塵を浥し

客舎青青柳色新   客舎 青青 柳色新たなり

勤君更尽一杯酒   君に勤む 更に尽くせ一杯の酒

西出陽関無故人   西のかた陽関を出づれば故人無からん



[口語訳]
 渭城の朝の雨は細かな塵を洗い流し
 宿屋の前の青々とした柳の芽は新しい
 君にもう一杯の酒杯を勧めよう
 西の方角、陽関を出たら、もう友人はいないだろうか


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  万戸傷心   王維(盛唐)


万戸傷心生野煙   万戸傷心 野煙生ず

百官何日再朝天   百官 何れの日か再び天に朝せん

秋槐葉落空宮裏   秋槐 葉落つ 空宮の裏

凝碧池頭奏管弦   凝碧池頭 管弦を奏す



 詩題は本来は「菩提寺禁、裴迪来相看、説逆賊等凝碧池上作音楽、供奉人等挙声、便一時涙下、私成口号、誦示裴迪」(菩提寺の禁に、裴迪来たりて相い看るに、逆賊等、凝碧池上に音楽を作し、供奉の人等声を挙げて、便はち一時に涙下ると説く。私かに口号を成し、誦して裴迪に示す)というものですが、短く表記させてもらいます。

[口語訳]
 幾万もの家々は荒れ果てて、心をいたませる
 文武百官はいつになったら、もう一度天子に拝謁できるのだろうか。
 秋の槐の葉は 誰も居ない宮殿にはらはらと落ち
 洛陽の凝碧池では、賊軍が管弦の宴を開いているのだ


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  送秘書晁監還日本國   王維(盛唐)


積水不可極   積水 極むべからず

安知滄海東   安んぞ知らん 滄海の東

九州何處遠   九州 何れの処か遠き

萬里若乘空   万里 空に乗ずるが若し

向國惟見日   国に向かって 惟日を見

歸帆但信風   帰帆 但だ風に信す

鰲身映天黒   鰲身 天に映じて黒く

魚眼射波紅   魚眼 波を射て紅なり

郷國扶桑外   郷国 扶桑の外

主人孤島中   主人 孤島の中

別離方異域   別離 方に域を異にせば

音信若爲通   音信 若為いかんぞ通ぜん



[語注]
「秘書晁監」: 秘書監の晁。日本人の阿倍仲麻呂のこと。仲麻呂は遣唐使として中国に渡り、唐の役人となる。
        帰国がかなわず、「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」の歌が有名。
        李白や王維とも親交があった。
「積水」: 海のこと。土を積んだのが山。
「九州」: 中国の外にあると考えられた九つの世界。
「信風」: 風任せ
「鰲」: 大きなウミガメ
「扶桑」: 中国の東方、太陽の出るところに生えるとされる神木。その木の生えている所として日本を指すことも。
「主人」: 仲麻呂を指すとも、仲麻呂の主人である日本の天皇を指すとも。



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  田園楽其一   王維(盛唐)


厭見千門萬戸   

經過北里南鄰   

官府鳴珂有底   

崆峒散髮何人   

          (上平声「十一真」の押韻)




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  田園楽其二   王維(盛唐)


再見封侯萬戸   

立談賜璧一雙   

詎勝耦耕南畝   

何如高臥東窗   

          (上平声「三江」の押韻)




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  田園楽其三   王維(盛唐)


采菱渡頭風急   

策杖林西日斜   

杏樹壇邊魚父   

桃花源裏人家   

          (下平声「六麻」の押韻)




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  田園楽其四   王維(盛唐)


萋萋春草秋   

落落長松夏寒   

牛羊自歸村巷   

童稚不識衣冠   

          (上平声「十四寒」の押韻)




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  田園楽其五   王維(盛唐)


山下孤煙遠村   

天邊獨樹高原   

一瓢顏回陋巷   

五柳先生對門   

          (上平声「十三元」の押韻)




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  田園楽其七   王維(盛唐)


酌酒會臨泉水   

抱琴好倚長松   

南園露葵朝折   

東谷黄粱夜舂   

          (上平声「二冬」の押韻)




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  涼州詞  王翰(盛唐)

葡萄美酒夜光杯
欲飲琵琶馬上催
酔臥沙場君莫笑
古来征戦幾人回 



葡萄の美酒 夜光の杯 
飲まんと欲すれば 琵琶馬上に催す 
酔うて沙場に臥す 君笑ふこと莫かれ 
古来征戦 幾人か回(かえ)る 


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  涼州詞  王之渙(盛唐)

黄河遠上白雲間
一片孤城萬仞山
羌笛何須怨楊柳
春光不度玉門關



黄河遠く上る 白雲の間
一片の孤城 萬仞の山
羌笛何ぞ須(もち)ひん 楊柳を怨むを
春光度(わた)らず 玉門關


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  出塞行   王昌齢(盛唐)


白草原頭望京師   白草原頭 京師を望めば

黄河水流無尽時   黄河 水流れて 尽くる時無し

秋天曠野行人絶   秋天 曠野 行人 絶ゆ

馬首東来知是誰   馬首 東来するは 知る是れ誰ぞ



[口語訳]
 白草原のほとりで都をはるかに望めば
 黄河の水は流れて 尽きる時は無い
 秋空の下 広々とした野には人の姿も無く
 ただ一人 馬首を東に向けて都に向かうのは あれは誰だろう


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  芙蓉楼送辛漸  王昌齢(盛唐)

寒雨連江夜入呉
平明送客楚山孤
洛陽親友如相問
一片氷心在玉壺



寒雨江に連なりて 夜呉に入る
平明客を送れば 楚山孤なり 
洛陽の親友 如(も)し相ひ問はば 
一片の氷心 玉壺に在りと


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  入若耶渓   王籍(梁)


艅艎何泛泛   艅艎 何ぞ泛泛

空水共悠悠   空水 共に悠悠

陰霞生遠岫   陰霞 遠岫に生じ

陽景逐迴流   陽景 迴流を逐ふ

蝉噪林逾静   蝉噪がしくして林逾いよ静かに

鳥鳴山更幽   鳥鳴いて山更に幽なり

此地動帰念   此の地 帰念を動かし

長年悲倦遊   長年 倦遊を悲しむ




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  滕王閣   王勃(初唐)


滕王高閣臨江渚   滕王の高閣 江渚に臨み

佩玉鳴鸞罷歌舞   佩玉 鳴鸞 歌舞罷みたり

画棟朝飛南浦雲   画棟 朝に飛ぶ南浦の雲

朱簾暮捲西山雨   朱簾 暮れに捲く西山の雨

間雲潭影日悠悠   間雲 潭影 日に悠悠

物換星移幾度秋   物換り星移り幾度の秋

閣中帝子今何在   閣中の帝子 今何くにか在る

檻外長江空自流   檻外の長江 空しく自ら流る



[口語訳]
 滕王の高閣は江の渚を臨んで立ち
 高官や貴族が集っての歌舞の宴も終わってしまった
 色彩やかに塗られた棟木には朝には南の入り江の雲が飛び
 赤くきれいな簾は夕方には西の山に降る雨を看るために巻き上げられただろう
 静かな雲、淵の陰影は日々変わらずにあるが
 人の世の物事は変化し、歳月は流れ、幾度の季節が過ぎたことか
 高殿の帝の御子は今はどこにおられるか
 手すりの外の長江は、ただあるがままに流れていることだ  
 


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  蜀中九日   王勃(初唐)


九月九日望郷台   九月九日 望郷の台

他席他郷送客杯   他席他郷 客を送るの杯

人情已厭南中苦   人情 已に厭ふ 南中の苦

鴻雁那従北地来   鴻雁 那ぞ北地より来たる



[口語訳]
 重陽の九月九日 高台に登って故郷を望んだ
 故郷から遠く離れたこの地で 別れの杯を交わす
 人である私の心はもう南方での苦しい生活には耐えられないのに
 渡り鳥はどうして北の地からわざわざ来るのだろうか  


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  日本刀歌   欧陽脩(北宋)


昆夷道遠不復通   昆夷は道遠くして 復た通ぜず

世伝切玉誰能窮   世 切玉を伝ふるも 誰か能く窮めん

宝刀近出日本国   宝刀 近ごろ日本国に出で

越賈得之滄海東   越賈 之を滄海の東に得たり

魚皮装貼香木鞘   魚皮にて装貼す 香木の鞘

黄白閑雑鍮与銅   黄白 閑雑す 鍮と銅と

百金伝入好事手   百金もて伝へ入る 好事の手

佩服可以禳妖凶   佩服すれば 以て妖凶を禳ふべし



伝聞其国居大島   伝へ聞く 其の国は大島に居り

土壌沃饒風俗好   土壌 沃饒にして 風俗好し

其先徐福詐秦民   其の先の徐福 秦民を詐り

採薬淹留丱童老   薬を採って淹留し 丱童かんどう老ゆ

百工五種与之居   百工 五種 之と与に居り

至今器玩皆精巧   今に至って器玩 皆 精巧なり

前朝貢献屡往來   前朝に貢献して しばしば 往來し

士人往往工詞藻   士人は往往にして 詞藻に工みなり



徐福行時書未焚   徐福行きし時 書未だ焚かず

逸書百篇今尚存   逸書百篇 今尚ほ存す

令厳不許伝中国   令厳しくして中国に伝ふるを許さず

挙世無人識古文   世を挙げて人の古文を識るもの無し

先王大典蔵夷貊   先王の大典 夷貊いばくに蔵す

蒼波浩蕩無通津   蒼波 浩蕩として 津を通ずる無し

令人感激坐流涕   人をして感激して 坐ろに涕を流さしむ

鏽渋短刀何足云   鏽渋の短刀 何ぞ云ふに足らんや




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  商山早行   温庭筠(晩唐)


晨起動征鐸   晨に起きて征鐸を動かす

客行悲故郷   客行 故郷を悲しむ

鶏声茅店月   鶏声 茅店の月

人迹板橋霜   人迹 板橋の霜

槲葉落山路   槲葉(こくよう) 山路に落ち

枳花明駅牆   枳花 駅牆(えきしょう)に明かなり

因思杜陵夢   因りて思ふ 杜陵の夢

鳧雁満回塘   鳧雁 回塘に満つ

          (下平声「九青」の押韻)




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  西亭春望   賈至(盛唐)


日長風暖柳青青   日長く 風暖にして 柳青青

北雁帰飛入窅冥   北雁帰り飛び 窅冥に入る

岳陽城上聞吹笛   岳陽城上 吹笛を聞く

能使春心満洞庭   能く春心をして洞庭に満たしむ

          (下平声「九青」の押韻)




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  題袁氏別業   賀知章(盛唐)


主人不相識   主人 相識らず

偶坐為林泉   偶坐するは林泉の為なり

莫謾愁沽酒   謾(みだ)りに酒を沽うを愁うること莫かれ

嚢中自有銭   嚢中 自ら銭有り



[口語訳]
 ここの主人とは知り合いじゃないが、
 庭が良いから ちとお邪魔。
 まあ、そんなに酒代を心配なさるな。
 わしの財布にも多少は銭がありますよ。


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  回郷偶書   賀知章(盛唐)


少小離家老大回   少小にして家を離れ 老大にして回る

郷音無改鬢毛摧   郷音 改まる無く 鬢毛摧かる

児童相見不相識   児童相見て 相識らず

笑問客従何処来   笑ひて問ふ 客は何処より来たるかと



[口語訳]
 若い時に故郷を離れ 年老いて帰ってきた
 田舎の言葉は直っていないまま髪の毛だけが白くなった
 子ども達が寄ってきて見るが、顔見知りでもない。
 笑いながら「おじさん、どこから来たの?」と尋ねてくるよ。


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  尋隠者不遇   賈島(中唐)


松下問童子   松下 童子に問ふ

言師採薬去   言ふ 師は薬を採りて去ると

只在此山中   只だ此の山中に在り

雲深不知処   雲深くして 処を知らず

          (上声「六語」の押韻)




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  度桑乾   賈島(中唐)


客舎并州已十霜   客舎す 并州 已に十霜

帰心日夜憶咸陽   帰心 日夜 咸陽を憶ふ

無端更渡桑乾水   端無くも更に渡る 桑乾の水

却望并州是故郷   却って并州を望めば 是れ故郷

          (下平声「七陽」の押韻)



[口語訳]
 并州(山西省中部)に旅暮らしをして すでに十年
 故郷に帰りたいという気持ちは昼も夜も湧き 故郷の咸陽(長安)を想い続けた。
 思いがけずも更に桑乾河(山西省から北京、渤海に注ぐ。下流は盧溝河、盧溝橋がある)を渡って北へ行く。
 振り返って并州を遠く望めば ここも故郷のように思えてくることだ。


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  渡易水歌   荊軻(時代)


風蕭蕭兮易水寒    風は蕭蕭として 易水寒し

壮士一去兮不復還   壮士一たび去って 復た還らず



[口語訳]
 風はもの寂しく吹き渡り  易水の流れは寒々としている
 壮士として私は一たび去れば  二度と還ることはないのだ


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  永寧南原秋望   元好問(金)


浩浩西風入敝衣   浩浩たる西風は 敝衣に入り

茫茫野色動清悲   茫茫たる野色は 清悲を動かす

洗開塵漲雨纔定   塵の漲るを洗開して 雨纔かに定まる

老盡物華秋不知   物華を老盡するも 秋知らず

烽火苦教郷信断   烽火 はなはだ郷信をして断たしめ

砧聲偏與客心期   砧聲 偏へに 客心と期す

百年人事登臨地   百年の人事 登臨の地

落日飛鴻一線遲   落日 飛鴻 一線遲し



[口語訳]
 広々と吹き抜ける秋風は破れ衣に入りこみ、
 ぼうと広がる野の景色は、清く悲しい気持ちにさせる。
 空をみなぎるほどの塵埃を洗い流して、雨はようやく収まり
 華やかな自然を衰えさせていくことを秋は知らぬままだ。
 戦ののろしは故郷からの便りを絶やすばかり、
 砧の音はまるで旅愁と合わせたように響く。
 この一生でのさまざまな出来事を思いながら山に登ると
 落ちる夕日の中、一線を描くおおとりの飛ぶ姿も、遅く見えることだ


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  聞白楽天左降江州司馬   元稹(中唐)


残燈無焔影幢幢   残燈 焔無く 影幢幢(どうどう)たり

此夕聞君謫九江   此の夕 君が九江に謫せらるるを聞く

垂死病中驚起坐   垂死の病中 驚きて起坐すれば

暗風吹面入寒窓   暗風 面を吹きて 寒窓に入る



[口語訳]
  光の薄れた灯火は炎も立てず、火影は薄暗い。
  この夜に、君が九江郡の司馬に左遷されたという知らせを受けた。
  瀕死の病中の私は、驚いて起き上がり床に座ると
  暗闇からの風が顔を吹き、寒々とした窓から入ってきた。



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  垓下歌   項羽(楚)


力抜山兮氣蓋世   力は山を抜き 気は世を蓋ふ

時不利兮騅不逝   時利あらず 騅逝かず

騅不逝兮可奈何   騅の逝かざる 奈何(いかん)すべき

虞兮虞兮奈若何   虞や虞や 若(なんじ)を若何(いかん)せん





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  梅花九首(一)   高啓(明)


瓊姿只合在瑶台   瓊姿 只合に瑶台に在るべし

誰向江南処処栽   誰か 江南に向かって 処処に栽う

雪満山中高士臥   雪は山中に満ちて 高士 臥し

月明林下美人来   月は林下に明らかにして 美人 来たる

寒依疏影蕭蕭竹   寒は依る 疏影 蕭蕭たる竹

春掩残香漠漠苔   春は掩ふ 残香 漠漠たる苔

自去何郎無好詠   何郎の去りてより 好詠無し

東風愁寂幾回開   東風 愁寂 幾回か開く



[口語訳]
 玉のような姿は、まったく瑶台(月の世界)こそが似つかわしいのに
 誰が江南の地のあちこちに植えたのだろうか。
 雪は山中に積もり、そこでは梅は心清らかな人が臥しているようであり、
 月が林を照らす時には、美人に姿を変えて現れたと言われるのももっともだ。
 寒い時には、まだ花の少ないまばらな枝が寂しそうな竹に寄り添うし、
 春になれば、残り香が薄暗い苔の辺りにまで覆うように漂う。
 何郎がいなくなって以来、梅をうまく詠んだ詩も無く、
 春風の中、寂しそうに何度花を咲かせたことだろう。

 


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  尋胡隠君   高啓(明)


渡水復渡水   水を渡り復た水を渡り

看花還看花   花を看還た花を看る

春風江上路   春風江上の路

不覚到君家   覚えず君が家に到る



[口語訳]
 春の一日、川に沿ってゆったりと歩いてみた。
 花に誘われ、あちらの花、こちらの花と。
 風は柔らかに、そしてゆるやかに吹いて、
 おやおや、いつの間にか君の家に来てしまったよ


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  桃夭   古詩十九首


桃之夭夭     桃の夭夭たる

灼灼其華     灼灼たり その華

之子于帰     の子 とつ

宜其室家     其の室家に宜しからん


桃之夭夭     桃の夭夭たる

有蕡其実     蕡たる有り 其の実

之子于帰     之の子 于き帰ぐ

宜其家室     其の家室に宜しからん


桃之夭夭     桃の夭夭たる

其葉蓁蓁     其の葉 蓁蓁たり

之子于帰     之の子 于き帰ぐ

宜其家人     其の家人に宜しからん



[口語訳]
 桃の若々しいことよ
 燃え立つように紅い花
 この娘さんが嫁いで行けば
 向こうの家じゃ大喜びさ

 桃の若々しいことよ
 ふっくらとしたその実
 この娘さんが嫁いで行けば(子宝に恵まれて)
 向こうの家じゃ大喜びさ

 桃の若々しいことよ
 ふさふさと茂るその葉
 この娘さんが嫁いで行けば(家は繁栄して)
 向こうの家じゃ大喜びさ




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  行行重行行 古詩十九首

行行重行行   行行重ねて行行

与君生別離   君と生きながら別離す

相去万余里   相ひ去ること万余里

各在天一涯   各(おのおの)天の一涯に在り

道路阻且長   道路阻(けは)しく且つ長し

会面安可知   会面安(いづ)くんぞ知るべけんや

胡馬依北風   胡馬は北風に依り

越鳥巣南枝   越鳥は南枝に巣くふ

相去日已遠   相ひ去ること日に已に遠く

衣帯日已緩   衣帯日に已に緩(ゆる)

浮雲蔽白日   浮雲白日を蔽ひ

遊子不顧返   遊子顧返せず

思君令人老   君を思へば人をして老いしむ

歳月忽已晩   歳月忽ち已に晩(く)れぬ

棄捐勿復道   棄捐せらるるも復た道(い)ふこと勿(な)からん

努力加餐飯   努力して餐飯を加へよ


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  迢迢牽牛星(古詩十九首の十)   無名氏(漢)


迢迢牽牛星   迢迢(ちようちよう)たる牽牛の星

皓皓河漢女   皓皓(こうこう)たる河漢の女

繊繊擢素手   繊繊として素手(そしゆ)を擢(ぬき)んで

札札弄機杼   札札として機杼(きちよ)を弄す

終日不成章   終日 章を成さず

泣涕零如雨   泣涕零ちて雨の如し

河漢清且浅   河漢清く且つ浅し

相去復幾許   相去ること復(ま)た幾許(いくばく)ぞ

盈盈一水間   盈盈たる一水の間

脈脈不得語   脈脈として語るを得ず



[口語訳]
 遥か遠くの牽牛の星
 白く輝く銀河の娘
 細細とした真っ白の手を出して
 サツサツと機を織っている
 一日中かけても模様が織れず
 涙はハラハラと落ちて雨のよう
 銀河の水は清く浅く
 お互いの離れた距離もそれほどではない
 満ち満ちる水に隔てられ
 見つめ合うばかりで話すこともできない


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  人日寄杜二拾遺   高適(盛唐)


人日題詩寄草堂   人日 詩を題して草堂に寄す

遥憐故人思故郷   遥かに憐れむ 故人の故郷を思ふを

柳條弄色不忍見   柳條は色を弄して 見るに忍びず

梅花満枝空断腸   梅花は枝に満ちて 空しく断腸

身在南蕃無所預   身は南蕃に在りて 預かる所無く

心懐百憂復千慮   心は百憂を懐ひて 復た千慮

今年人日空相憶   今年の人日 空しく相憶ふ

明年人日知何処   明年の人日 知んぬ何れの処ぞ

一臥東山三十春   一たび東山に臥して三十春

豈知書剣老風塵   豈に知らんや 書剣の風塵に老いんとは

龍鍾還忝二千石   龍鍾還た忝けなくす 二千石

愧爾東西南北人   愧ず 爾 東西南北の人

          (下平声「七陽」・去声「六御」・上平声「十一真」の換韻)



[口語訳]
 人日の今日、草堂に詩を送り、友人の君が故郷を遠く思っている気持ちを推し量ろう
 (異郷の地に居ると)柳の枝が緑の芽を出すのも見るに堪えがたく、梅の花が枝一杯に開くのも辛いものだ。
 南蕃の地で世と関わりもなく、心にはただ憂いがあふれている。
 今年は人日に君のことを思うが、来年の人日は何処にいることやら。
 かつて無官の自由な日々を三十年も過ごしたが、文武の技もこうして老い朽ちていくとは思いもしなかった。
 老いさらばえても、まだ役人をしているが、自由な君に対して恥ずかしいことだよ


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  除夜作   高適(唐)

旅館寒燈独不眠
客心何事転悽然
故郷今夜思千里
霜鬢明朝又一年



旅館の寒燈 独り眠らず
客心何事ぞ 転(うた)た悽然
故郷 今夜千里を思はむ
霜鬢 明朝又一年


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  黄鶴楼   崔(盛唐)


昔人已乗白雲去   昔人 已に白雲に乗りて去り

此地空餘黄鶴楼   此の地 空しく餘す 黄鶴楼

黄鶴一去不復返   黄鶴 一たび去って復た返らず

白雲千載空悠悠   白雲 千載 空しく悠悠

晴川歴歴漢陽樹   晴川歴歴たり 漢陽の樹

芳草萋萋鸚鵡洲   芳草萋萋たり 鸚鵡洲

日暮郷関何処是   日暮郷関 何処にか是なる

煙波江上使人愁   煙波 江上 人をして愁へしむ



[口語訳]
 遠い昔現れたという仙人はすでに白雲に乗って去っていき、
 この地にはただ黄鶴楼が残っているだけだ。
 黄鶴はひとたび去って二度とは帰ることもなく、
 白雲だけが千年の間、はるかに浮かんでいる。
 晴れわたった長江には、くっきりと漢陽の木々が見え、
 芳しい草が鸚鵡洲に生い茂っている。
 夕暮れになると、故郷はどこであろうかと思う。
 もやのかかった水面は、私を悲しくさせることだ。

第一句は「昔人已乗黄鶴去」『唐詩選』ではしていますが、ここでは「白雲」とする説を採りました。


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  江村即事   司空曙(中唐)


罷釣歸來不繋船   釣りを罷め 帰り来って 船を繋がず

江村月落正堪眠   江村 月落ちて 正に眠るに堪えたり

縦然一夜風吹去   縦然(たとい) 一夜 風吹き去るとも

只在蘆花淺水邊   只だ 蘆花浅水の辺に在らん



[口語訳]
 釣りを終えて帰ってきたけれど 別に船をつなぐことなどしない
 川辺の村に月は落ち、丁度眠るによい頃だ。
 たとえ夜のうちに風が吹いて船を流してしまったとしても
 どうせ蘆の花の開いている、浅瀬の辺りに在るだろうから。


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  乙丑人日   司空図(晩唐)


自怪扶持七十身   自ら怪しむ 扶持七十の身

歸來又見故郷春   帰り来たりて 又た見る 故郷の春

今朝人日逢人喜   今朝 人日 逢ふ人喜び

不料偸生作老人   料らず 生を偸みて老人と作らんを

          (上平声「十一真」の押韻)



[口語訳]
 自分でも七十のこの年まで生きてきて不思議なくらい
 こうして故郷に帰ってきて春を迎えることもできた
 今朝は人日 逢う人誰もが嬉しそう
 私のことを無駄に生きて来た老人だなんて、考えもしないんだから


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  將東遊題壁   釈月性(日本)


男児立志出郷関   男児 志を立てて郷関を出づれば

学若無成死不還   学若(も)し成る無くんば死すとも還らず

埋骨豈惟墳墓地   骨を埋むる 豈(あに)惟(ただ)墳墓の地のみならんや

人間到処有青山   人間到る処 青山有り

          (上平声「十五刪」の押韻)



[口語訳]
男が志を立てて故郷を出るならば、
学問が成就しないうちは死んでも還らないぞ。
骨を埋めるのは故郷の墓地だけではない。
この人の世、どこにでも墓となる場所はある



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  四時読書楽   朱熹(南宋)


 [ 春 ]

  山光照檻水繞廊   山の輝きは欄干を照らして水は回廊を巡って流れ

  舞雩歸詠春風香   雨の晴れ間を思って詩を口ずさみながら歩けば、春の風は香しい。

  好鳥枝頭亦朋友   枝で鳴く美しい鳥は友であるし

  落花水面皆文章   水面の落花は皆、美しい文様を作っている。

  蹉跎莫遣韶光老   足踏みをして(ぐずぐずして)この美しい春の光景を老いさせてはいけない。

  人生惟有讀書好   人生はただ読書のすばらしさがあるだけだ。

  讀書之樂樂如何   読書の楽しみ、それはどのようなものか

  此゙窗前草不除   窓前に満ちた緑の草を取り除かないようなもの、自然に身を委ねることだ。

 [ 夏 ]

  新竹壓檐桑四圍   新しい竹の茎は檐をおおい、桑の葉は周りを囲む。

  小齋幽敞明朱曦   小さな部屋は人気もなく破れ、太陽の光が明るく射し込んでくる。

  晝長吟罷蝉鳴樹   長い昼、鳴き疲れた蝉は梢に憩い、

  夜深燼落螢入幃   夜更けには、燃え尽きた蛍が帳の中に入ってくる。

  北窗高臥羲皇侶   北の窓に横たわり書物をあれこれ眺めると

  只因素稔讀書趣   そこから読書の趣がはっきり理解できた。

  讀書之樂樂無窮   読書の楽しみ、それは窮まることはない。

  瑤琴一曲來桾   琴を弾いて一曲、薫風が訪れる。

 [ 秋 ]

  昨夜庭前葉有聲   昨夜庭先では秋風に吹かれて葉のざわめき

  籬豆花開蟋蟀鳴   垣根の豆の花は咲き、蟋蟀が鳴いている。

  不覺商意滿林薄   ふと気づけば秋の気配は林一面にうっすらと漂い

  蕭然萬籟涵虚清   林の風は寂しげで、泉の水は清らかだ。

  近床ョ有短檠在   ベッドの近くには好都合にも燭台の火が残り

  對此讀書功更倍   ここで読書の楽しみは更に倍する。

  讀書之樂樂陶陶   読書の楽しみは広大であり、

  起弄明月霜天高   起って明月を賞づれば霜の降りるような空は高い。

 [ 冬 ]

  木落水盡千崖枯   木は裸に水は途切れ、多くの山肌は冬枯れている。

  迥然吾亦見真吾   はるか遠くに心を遣れば私は真の自分を見つけることができる。

  坐韋對編燈動壁   書物に向かえば灯影は壁に揺れ

  商歌夜半霜壓廬   悲しげな歌は夜半に響いて、霜は家を押しつぶしそう。

  地爐茶鼎烹活火   地面に掘った爐では茶を沸かす火も盛んで

  四壁圖書中有我   壁を埋め尽くす書物の中、そこに私は坐す。

  讀書之樂何處尋   読書の楽しみはどこに尋ねればよかろうか。

  數點梅花天地心   わずかばかりの梅の花、ここに天地の真髄があるのだ。



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  偶成   朱熹(宋)


少年易老学難成   少年老い易く 学成り難し

一寸光陰不可軽   一寸の光陰 軽んずべからず

未覚池塘春草夢   未だ覚めず 池塘春草の夢

階前梧葉已秋声   階前 梧葉 已に秋声



[口語訳]
 年の若いことはあっという間に老いてしまうが、学問は完成しがたいものだ
 ほんのわずかの時間も大切にしなくてはいかんぞ
 池の土手の若草が夢をいつまでも貪っているうちに
 いつの間にか、階段の前の梧桐の葉には秋風が訪れているのじゃ


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  納涼   秦観(北宋)


携杖来追柳外涼   杖を携え 来たり追ふ 柳外の涼

画橋南畔倚胡牀   画橋南畔 胡牀に倚る

月明船笛参差起   月明らかにして 船笛参差として起こり

風定池蓮自在香   風定まりて 池蓮自在に香し
              (下平声「七陽」の押韻)



[口語訳]
 杖を携えて、柳の向こうの涼味を求めて来た。
 きれいな橋、川の南のほとりで、長椅子にもたれる。
 月は明るく、船の警笛が時折起こり、
 風はおさまり、池の蓮の香が四方に漂っていることよ。


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  新春   真山民(南宋)


余凍雪纔乾   余凍 雪纔(わず)かに乾き

初晴日驟暄   初晴 日驟(にわ)かに暄かなり

人心新歳月   人心 新歳月

春意旧乾坤   春意 旧乾坤

煙碧柳回色   煙は碧にして 柳は色を回し

焼青草返魂   焼(やけあと)は青くして 草 魂を返す

東風無厚薄   東風 厚薄無く

随例到衡門   例に随って 衡門に到る



[口語訳]
 余寒に残っていた雪もようやく乾き
 晴れたばかりのお日様の光はたちまち温かくなる。
 人の心は新しい年とともに生まれ変わり
 春の気配は大地をもとのように戻す。
 靄は青く、柳は緑の色に返り、
 野焼きの跡は青青と、草は生き返る。
 春の風はどこにでも同じように訪れ、
 いつものように、私の家の門にもやって来た。


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  磧中作   岑参(盛唐)


走馬西来欲到天   馬を走らせて西来 天に到らんと欲す

辞家見月両回円   家を辞して月の両回 円なるを見る

今夜不知何処宿   今夜は知らず 何れの処にか宿せん

平沙万里絶人煙   平沙 万里 人煙を絶つ



[口語訳]
 馬を走らせて西へ西へと進んで 天にまで届いてしまいそうだ。
 家を出てから もう月が二回 円くなるのを見た。
 今夜はいったいどこに泊まることになるのやら。
 万里の砂漠、見渡す限りに人家の煙も見えないのだ。


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  人日思帰   薛道衡(隋)


入春纔七日   春に入りて 纔かに七日

離家已二年   家を離れて 已に二年

人帰落雁後   人の帰るは雁の後に落ち

思発在花前   思ひの発するは花の前に在り

          (下平声「一先」の押韻)



[口語訳]
 年が新たになって やっと七日が過ぎ
 家を離れて もう二年になる
 私が帰れるのは 雁が帰った後だろう
 帰郷の思いは花が開く前からあったのに。


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  帰雁   銭起(中唐)


瀟湘何事等閑回   

水碧沙明両岸苔   

二十五弦弾夜月   

不勝清怨却飛来   




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  己亥歳   曹松(晩唐)


沢国江山入戦図   沢国 江山 戦図に入る

生民何計楽樵蘇   生民何の計ありて 樵蘇を楽しまん

憑君莫話封侯事   君に憑る 話る莫かれ 封侯の事

一将功成万骨枯   一将 功成りて 万骨枯る

    (上平声七虞の押韻)

[口語訳]
 (黄巣の乱の被害地である江淮地方の)低湿地帯の川も山も戦乱の地となり
 人民はどのように生活を楽しもうと言うのだろうか。
 君に頼みたい、どうか戦功のことなどを話題にしないでくれ
 一人の大将が功を成す裏で、万人の人々の犠牲があるのだ


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  七歩詩   曹植(魏)


煮豆燃豆箕   豆を煮るに 豆箕を燃やす

豆在釜中泣   豆は釜中に在りて泣く

本是同根生   本 是れ 同根より生ず

相煎何太急   相ひ煎る 何ぞ太だ急なる



[口語訳]
 豆を煮るのに豆がらを燃やす
 豆は釜の中で泣いている
 本は同じ根から生まれているのに
 煮ることがどうしてこんなに厳しいのか





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  七歩詩   曹植(魏)


 文帝嘗令東阿王七歩中作詩。
 不成者行大法。
 應聲便爲詩。
 曰、
   

煮豆持作羹   豆を煮て持つて羹と作し

漉豉以爲汁   豉を漉して以て汁と為す

萁在釜下然   萁は釜下に在りて然え

豆在釜中泣   豆は釜中に在りて泣く

本自同根生   本 同根より生ずるに

相煎何太急   相煎ること何ぞ太だ急なると


 帝深有慚色。




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  淮中晩泊犢頭   蘇舜欽(北宋)

春陰垂野草青青
時有幽花一樹明
晩泊孤舟古祠下
満川風雨看潮生



春陰 野に垂れて草青青たり
時に幽花の 一樹に明らかなる有り
晩に孤舟を泊す 古祠の下
満川の風雨 潮の生ずるを看る


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  逸題   蘇軾(北宋)


素紈不畫意高哉   素紈 画かず 意 高きかな

仍著丹青墮二來   丹青を著くるに仍りて 二に堕し来たる

無一物中無盡藏   無一物中 無尽蔵

有花有月有樓臺   花有り 月有り 楼台有り



[語注]
 「素紈」: 白い絹の布
 「丹青」: 絵の具
 「堕二来」: 二級品に落ちてしまう
 「無一物中無尽蔵」: 何も無い中にこそ無限のものがある 


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  飲湖上初晴後雨 一   蘇軾(北宋)


朝㬢迎客艶重岡   朝㬢客を迎へて 重岡に艶なり

晩雨留人入醉郷   晩雨人を留めて 醉郷に入らしむ

此意自佳君不會   此の意 自ら佳し 君は會せず

一杯當屬水仙王   一杯 當に屬せん 水仙王




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  飲湖上初晴後雨 二   蘇軾(北宋)


水光瀲灔晴方好   水光 瀲灔として 晴れ方に好し

山色空濛雨亦奇   山色 空濛として 雨も亦た奇なり

欲把西湖比西子   西湖を把りて西子に比せんと欲すれば

淡粧濃抹総相宜   淡粧 濃抹 総べて相宜し



[口語訳]
 水面の光はきらきらと輝き、晴れた時の景色はとても良い
 山の様子がぼんやりと曇り、雨の時の景色もやはり良い
 西湖のこの風景をかの西施に喩えてみるならば
 薄化粧の姿も濃く装った姿も、どちらも全く良いものだ


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  澄邁駅通潮閣 其二   蘇軾(北宋)


余生欲老海南村   余生 老いんと欲す 海南の村

帝遣巫陽招我魂   帝 巫陽をして我が魂を招かしむ

杳杳天低鶻没處   杳杳として天低れ 鶻 没する処

青山一髪是中原   青山一髪 是れ中原




[解説]
 一〇八五年に神宗が死去し、哲宗が即位して旧法派が復権すると、蘇軾も中央に復帰する事が出来ましたが、新法を全て廃止しようとする宰相・司馬光と、新法でも理に適った法律は存続させるべきだと主張して論争した事から、旧法派の内部でも孤立しました。
 やがて、再び新法派が力を持つと蘇軾はまた左遷され、一〇九四年に恵州(現在の広東省)に流され、さらに六十二歳の時には海南島にまで追放されました。
 これは、厳しい環境で高齢の蘇軾を弱らせようとしましたが、人生に前向きな蘇軾は弱ることが無かったため、時の政権が更に窮地に追い込んだと言われています。
 一一〇〇年、哲宗が死去し、徽宗が即位。新法・旧法両党の融和が図られると、ようやく許されました。次の詩は、帰途、海南島から大陸を眺めた詩です。
 この詩の翌年、蘇軾は江蘇省まで帰ったところで大病になり、そのまま帰らぬ人になりました。


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  中秋月   蘇軾(北宋)


暮雲収盡溢清寒   暮雲収まり尽きて 清寒溢れ

銀漢無聲轉玉盤   銀漢声無く 玉盤転ず

此生此夜不長好   此の生 此の夜 長(とこし)ヘには好からず

明年明月何處看   明年 明月 何れの処にか看ん




[解説]
「収尽」: すっかり消えてなくなる
「清寒」: すがすがしい涼気
「銀漢」: 天の川
「玉盤」: 丸い月


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  和秦太虚梅花   蘇軾(北宋)


西湖處士骨應槁   西湖 処士 骨応に槁るべし

只有此詩君壓倒   只だ此の詩有りて 君圧倒す

東坡先生心已灰   東坡先生 心已に灰す

爲愛君詩被花惱   君が詩を愛するが為に 花に悩まさる

多情立馬待黄昏   多情 馬を立てて 黄昏を待つ

殘雪消遲月出早   残雪 消ゆること遅く 月出づること早し

江頭千樹春欲闇   江頭 千樹 春闇(く)れんと欲す

竹外一枝斜更好   竹外 一枝 斜めなるは更に好し

孤山山下醉眠處   孤山 山下 酔ひて眠る処(とき)

點綴裙腰紛不掃   裙腰を点綴し 紛として掃はず

萬里春隨逐客來   万里 春は逐客に随いて來り

十年花送佳人老   十年 花送って 佳人老ゆ

去年花開我已病   去年 花開きて 我已に病めり

今年對花還草草   今年 花に対して 還た草草

不知風雨捲春歸   知らず 風雨の春を捲きて帰るを

収拾餘香還畀昊   余香を収拾して 還た昊に畀(あた)へん






[口語訳]
 西湖に隠棲したあの林逋も亡くなってすでに長いけれど
 君(秦太虚)はこの梅の詩を作って、彼の人を圧倒している。
 私、蘇東坡は心もすっかり灰となっているのだが、
 君の詩を好きになってしまって、花の美しさに悩まされることだ。
 胸をときめかせて花の前に馬を停めて夕暮れを待てば
 残雪は消えること遅く 月は上ること早い。
 川のほとりの樹々に春の夕闇が訪れるころ
 竹むらのむこう、梅のひと枝が斜めに伸びていて、それが更によい。
 孤山のふもとで酔って眠ってしまった時、
 登る路には花が乱れて掃うこともない。
 万里の彼方に追放された旅人をも追って春は来るけれど、
 それでも十年も花を見送っていては、美人でも年老いてしまうもの。
 去年は花が開いた時には私はもうすでに病気になっていた。
 今年は花に向かいながらも、またもや心落ち着かぬ。
 おっと、風雨が春を巻き上げて去っていく。
 残り香を拾い集めて、天に送り届けてもらおうか。

 


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  海棠   蘇軾(宋)


東風渺渺泛崇光   東風渺渺として 崇光泛ぶ

香霧空濛月転廊   香霧空濛として 月 廊に転ず

只恐夜深花睡去   只だ恐る 夜深くして花の睡り去らんことを

故焼高燭照紅粧   故(ことさら)に高燭を焼やして 紅粧を照らさん



[口語訳]
 春の風が遥か遠く吹き抜け、星の光は漂うようだ。
 花の香は霧にぼんやりかすみ、月は渡りに移っていく。
 夜が深まり花が眠ってしまわないかと心配だ。
 精一杯灯りを点して、海棠の紅い花を照らそうじゃないか。


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  和子由澠池懷舊  子由の澠池旧懐に和す   蘇軾(宋)


人生到處知何似   人生到る処 知らん 何にか似る

應似飛鴻踏雪泥   応に飛鴻の雪泥を踏むに似るべし

泥上偶然留指爪   泥上に偶然 指爪を留むるも

鴻飛那復計東西   鴻飛びて 那ぞ復た東西を計らん

老僧已死成新塔   老僧已に死して新塔と成り

壊壁無由見舊題   壊壁旧題を見るに由無し

往日崎嶇還記否   往日の崎嶇 還た記するや否や

路長人困蹇驢嘶   路長く人困しみ 蹇驢嘶く



[口語訳]
 人生であちらこちらをさまようのは何に似ていよう。
 飛鴻が雪どけの泥に足跡をつけるようなものだ。
 泥の上にたまたま指の爪痕を残したとしても
 鴻が飛び立てばその先の東か西かはどうして分かろうか。
 (あの時の)老僧はもう亡くなって新しい塔(墓)となり
 崩れた寺の壁は以前記した詩を見るすべもない。
 あの日の険しい道のりを覚えているかい。
 道は遠く私は疲れて 足の悪い驢馬がいなないていたね。



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  和孔密州五絶 東欄梨花   蘇軾(北宋)


梨花淡白柳深青   梨花は淡白 柳は深青

柳絮飛時花滿城   柳絮飛ぶ時 花 城に満つ

惆悵東欄一株雪   惆悵す 東欄 一株の雪

人生看得幾清明   人生看得るは 幾清明




[解説]
 この詩は蘇軾四十二歳の詩で、山東省密州知事から江蘇省徐州の知事へと赴任しました。
 後任の孔宗翰という人(孔子の第四十六代の孫だそうです)から五言絶句を贈られたので、和したという詩です。

 起句は句中対、「淡白」と「深青」の対比が色彩感豊かに描かれています。
 「柳絮」は、春の終わりに柳の枝から乱れ飛ぶ白い綿毛、晩春の風物詩とされています。
 「惆悵」は、胸を痛ませること、「東欄」は「東の欄干」。つまり、知事官舎の東欄の梨の花を思い出して、胸を痛ませていると述べることで、離れ難い気持ち、つまり密州は良い所だということを強調しています。
 それは後任の知事への配慮でもありますね。

 「清明」は二十四節気の一つ、春分と穀雨の間。陽暦では四月五日頃。


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  贈劉景文   蘇軾(北宋)


荷尽已無フ雨蓋   荷(はす)は尽きて 已に雨をフ(ささ)ぐる蓋(かさ)無く

菊残猶有傲霜枝   菊は残(そこな)はれて 猶ほ霜に傲(おご)る枝有り

一年好景君須記   一年の好景 君須(すべか)らく記すべし

正是橙黄橘緑時   正に是れ 橙(ゆず)は黄に橘(みかん)は緑なる時

         (上平声四「支」の押韻・起句踏み落とし)

[口語訳]
 蓮の花は散り果てて、雨を防ぐ傘のようなあの葉ももう無い。
 菊の花もしおれてしまったが、
        それでも霜に負けずに胸を張る枝はやはりある。
 一年の中で最も良い風景を、君、是非心に留めるべきだ。
 今は丁度、柚が黄色に熟れて、蜜柑がまだ緑の(素晴らしい)季節なのだ。


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  六月二十七日望湖楼酔書 五絶其一   蘇軾(北宋)


黒雲翻墨未遮山   黒雲 墨を翻して未だ山を遮らず

白雨跳珠乱入船   白雨 珠を跳らせ 乱れて船に入る

巻地風来忽吹散   地を巻き 風来りて 忽ち吹き散ず

望湖楼下水如天   望湖楼下 水 天の如し



[解説]
 蘇軾が杭州通判(副知事)として杭州に赴任していた時の詩で、蘇軾三十七歳、よく知られた詩です。

 「飲湖上初晴後雨」の詩よりも少し前、赴任して半年ほど経た頃に作られたものです。

 遠景から近景、そして全景という視線の移り、「黒雲」と「白雨」から青空への色彩変化、「翻」「跳」「乱入」「忽」「吹散」などの言葉が、詩に勢いのある動きとリズムを生み出し、ハイスピードの映像を見ているような気持ちになります。
 比喩としても「翻墨」「跳珠」の斬新さは蘇軾の特色でもあります。

[口語訳]
 雲は墨をひっくり返したように黒いが、まだ山を隠すとこまではいっていない。
 と、白い雨粒が真珠を床にこぼしたように、バラバラと船の中に飛び込んでくる。
 大地を巻き上げるようにして風が吹いて、忽ちに雨雲を吹き散らすと、
 やがて、望湖楼の下では、天のように広く静かな湖面が広がるのだよ。


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  六月二十七日望湖楼酔書 五絶其五   蘇軾(北宋)


未成小隠聊中陰   未だ小隠を成さず 聊か中陰

可得長閑勝暫閑   長閑の暫閑に勝るを得べけんや

我本無家更安往   我は本 家無く 更に安くにか往かん

故郷無此好湖山   故郷 此の好湖山無し



[解説]
「小隠」: 山林に隠棲すること 
「中隠」: 官職に就きながら隠棲すること

 六朝のはじめ、阮籍や嵆康に代表される竹林の七賢をひとつの理想形とし、隠逸そのものを理念とする思潮が生まれた。それは「小隠」と言われ、官位を捨て山林などに隠棲することであり、そもそも自らの生活のベースである特権階級をも維持できなくなることから実践することは非常に難しかった。
 これに替わって「朝隠」と呼ばれる隠逸スタイルが生まれた。官位に就きながら精神は隠逸するという方法なのだが、内部矛盾を孕んでいるかのようでもある。経世済民という官僚としての仕事よりも、哲学的・宗教的真理に重きを置く考えで、結果として官僚としての本来的な職務を疎んじなおざりすることになった。
 唐宋になり、「中隠」という隠逸スタイルが現れる。仕事では経世済民を実践し、私的生活では真理を探究し、文学や芸術に耽溺する。陶淵明の隠逸生活が最初の中隠とされるが、近世的文人の祖とされる白居易がはっきり中隠を自覚して実践した。蘇軾などの北宋の文人はこの中隠を理想とした。


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  春夜   蘇軾(宋)


春宵一刻直千金   春宵一刻 あたい千金

花有清香月有陰   花に清香有り 月に陰有り

歌管楼台声細細   歌管 楼台 声細細

鞦韆院落夜沈沈   鞦韆しゅうせん 院落 夜沈沈




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 予以事繋御史臺獄。獄吏稍見侵。自度不能堪、死獄中、不得一別子由。故作二詩、授獄卒梁成、以遺子由。
   其一        蘇軾(宋)


聖主如天萬物春   聖主は天の如く 万物春なり

小臣愚暗自亡身   小臣は愚暗にして 自ら身を亡ぼす

百年未滿先償債   百年未だ満たず 先ず債を償い

十口無歸更累人   十口帰する無く 更に人を累せん

是處青山可埋骨   是の処の青山 骨を埋むべし

他年夜雨獨傷神   他年夜雨 独り神を傷ましめん

與君世世爲兄弟   君と世世 兄弟と為り

又結來生未了因   又 来生 未了の因を結ばん



[口語訳]
 私はさる事で御史台の獄に繋がれることになった。獄吏はだんだん厳しくなる。自分で考えてみると、もう堪えられずに、獄中で死に、子由に別れを告げることもできないようだ。だから二詩を作り、獄吏の梁成に渡し、子由に贈ることにする。

 徳の高い天子は天の如く、万物に春を巡らすが、愚かな私は自分で身を滅ぼそうとしている。
 人生百年にも満たないのに罪を償うこととなり、十人の家族は拠り所無く、更に君に迷惑を掛けるだろう。
 ここの青い山に骨を埋めるのだろう、やがて君は夜の雨に独り心をいためるのだろう。
 君と何世でも兄弟となり、また、来世では終ることのないちぎりを結ぼう。


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  水調歌頭 丙辰中秋歡飲達旦大醉作此篇兼懷子由   蘇軾(宋)

   丙辰中秋、歓飲して旦に達し、大いに酔ひ、此の篇を作し、兼せて子由を懐ふ

明月幾時有      明月 幾時(いつ)よりか有る

把酒問青天      酒を把りて青天に問ふ

不知天上宮闕     知らず 天上の宮闕には

今夕是何年      今夕 是れ何の年なるかを

我欲乘風歸去     我は風に乗じて帰り去らんと欲するも

惟恐瓊樓玉宇     惟だ恐る 瓊楼 玉宇の

高處不勝寒      高き処は 寒に勝へざらんを

起舞弄清影      起ち舞ひ 清影を弄すれば

何似在人間      何ぞ似ん 人間に在るに


轉朱閣         朱閣に転じ

低綺戸         綺戸に低れ

照無眠         眠り無きを照らす

不應有恨        応に恨みは有るべからざるに

何事長向別時圓   何事ぞ 長へに別事に向(お)いて円かなる

人有悲歓離合     人には悲歓 離合有り

月有陰晴圓缼     月には陰晴 円欠有り

此事古難全      此の事 古より全うし難し

但願人長久      但だ願はくは 人の長久にして

千里共嬋娟      千里 嬋娟を共にせんことを



[口語訳]
この明るい月はいつの頃から有るのだろう
酒を手にして、澄んだ空に尋ねてみる
分からないなぁ 天上の宮殿では(一日が地上の一年になるそうだが)
今夜はいったい何年なのだろう(天上でも中秋だろうか)
私は風に乗って帰って行きたいが
ただ心配なのは (月の)美しい楼や建物は
高いところなので寒さに耐えられないかもしれない
立ち上がって舞い 月影と戯れていると
何と人間界に居ると思えようか

高楼に懸かり
飾り窓に低く
眠れない人を照らし
月に恨みがあるわけではないのだが
どうしていつも別れて孤独な時にまん丸なのだろうね
人には悲しみや歓び 別れや出会いがあり
月には陰ったり晴れたり 丸くなったり欠けたりがあり
この事は昔からぴったり合うのは難しいのだろう
ただ願うのは 君がいつまでも
千里遠く離れていても同じ月を眺めていてくれることだ


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  春夜   蘇軾(宋)


春宵一刻直千金   春宵一刻 あたい千金

花有清香月有陰   花に清香有り 月に陰有り

歌管楼台声細細   歌管 楼台 声細細

鞦韆院落夜沈沈   鞦韆しゅうせん 院落 夜沈沈




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  探春   戴益(北宋)


盡日尋春不見春   尽日 春を尋ねて春を見ず

杖藜踏破幾重雲   杖藜踏み破る 幾重の雲

歸來試把梅梢看   帰り来りて試みに 梅梢を把って見れば

春在枝頭已十分   春は枝頭に在りて 已に十分






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  感遇   張九齢(初唐)


孤鴻海上来   孤鴻 海上より来たり

池潢不敢顧   池潢 敢えて顧みず

側見双翠鳥   側らに見る 双翠鳥の

巣在三珠樹   巣くうて 三珠樹に在るを

矯矯珍木顛   矯矯たり 珍木の顛

得無金丸懼   金丸の懼れ無きを得んや

美服患人指   美服は人の指さんことを患れ

高明逼神悪   高明は神の悪みに逼る

今我遊冥冥   今 我 冥冥に遊ぶ

弋者何所慕   弋者 何の慕う所ぞ



[口語訳](二句ずつ、訳してあります)
 一羽の「おおとり」が海上から飛んできたが、彼は池や水たまりには目もくれない。
 側に、二羽の「かわせみ」が三珠樹に巣を作っているのを見た。
 高い高い珍しい木の頂にいたのでは、黄金の弾丸に打たれる心配をせずにおられようか。
 きれいな着物(羽根)は人からうしろ指さされる心配があるし、
     高く明るい家(巣)は神様に叱られてしまう。
 今、私ははるかな大空をゆったりと飛んでいるから、猟師だとて追うことができようか。


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  桃花谿   張旭(中唐)


    隠隠飛橋隔野煙    隠隠たる飛橋 野煙を隔て
    石磯西畔問漁船    石磯の西畔 漁船に問ふ
    桃花尽日随流水    桃花 尽日 流水に随ひ
    洞在清渓何処辺    洞は清渓の何れの処にか在らん




[口語訳]
 かすかに、空に高くかかる橋が、春のもやの向こうに
 石の多い河原の西の岸辺で漁船に問いかける。
 「桃の花は一日中流れる水のままに去るけれど
 桃源郷への入り口は、この清い谷川のどのあたりにあるのだろうか」と


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  楓橋夜泊   張継(中唐)


月落烏啼霜満天   月落ち烏啼いて 霜天に満つ

江楓漁火対愁眠   江楓 漁火 愁眠に対す

姑蘇城外寒山寺   姑蘇城外 寒山寺

夜半鐘声到客船   夜半の鐘声 客船に到る




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  重宿楓橋   張継(中唐)


白髪重来一夢中   白髪 重ねて来たる 一夢の中

青山不改旧時容   青山 改まらず 旧時の容

烏啼月落寒山寺   烏啼き 月落つる 寒山寺

欹枕猶聴半夜鍾   枕を欹てて猶ほ聴く 半夜の鐘




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  涼州歌  張子容

朔風吹葉雁門秋
万里烟塵昏戌楼
征馬長思青海上
胡笳夜聴隴山頭



朔風葉を吹く 雁門秋 
万里烟塵 戌楼昏し
征馬長(つね)に思ふ 青海の上(ほとり) 
胡笳夜聴く 隴山の頭(ほとり) 


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  涼州詞  張籍(中唐)

鳳林関裏水東流
白草黄楡六十秋
辺将皆承主恩沢
無人解道取涼州



鳳林関裏 水東に流る 
白草黄楡 六十秋 
辺将皆主の恩沢を承く 
人の涼州を取るを解道(し)るもの無し


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  幽州新歳作   張説(初唐)


去歳荊南梅似雪   去歳 荊南 梅は雪に似て

今年薊北雪如梅   今年 薊北 雪は梅の如し

共知人事何嘗定   共に知る 人事は何ぞ嘗て定まらん

且喜年華去復来   且つは喜ぶ 年華の去りて復た来たるを

辺鎮戍歌連夜動   辺鎮の戍歌 夜を連ねて動き

京城燎火徹明開   京城の燎火 明けに徹して開く

遥遥西向長安日   遥遥として西のかた長安の日に向かひ

願上南山寿一杯   願上す 南山の寿一杯



[口語訳]
 去年、荊南(岳州)では梅の花が雪のように咲き誇っていた
 今年、薊北(幽州)では、雪が梅の花のよう降り積もっている
 お互いに、世の中のことは定めないものと分かっているが、
 ともかく、新しい歳を迎えることができたのを喜ぼう
 この辺境の地では、兵士の歌が毎夜聞こえるが
 都では新年を祝うかがり火が夜を徹して燃えているだろう
 はるか遠く、西の方角、長安に向かって
 南山のような長寿を祈願し、乾杯しよう


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  寄孫山人   儲光羲(盛唐)


新林二月孤舟還   新林 二月 孤舟還る

水満清江花満山   水は清江に満ち 花は山に満つ

借問故園隠君子   借問す 故園の隠君子

時時来往住人間   時時 来往して 人間に住するかと



[口語訳]
 芽吹いたばかりの林に 二月 一人で船で帰ると
 水は清江に満ちて 花は山に満ちている。
 さて伺うが、故郷の隠君子である孫君よ
 時々は山を下って人間世界に居ることもあるのかい


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  暁看黄山   鄭震(宋)


奇峰三十六   奇峰 三十六

仙子結青鬟   仙子 青鬟を結ぶ

日際雲頭樹   日際 雲頭の樹

人間天上山   人間 天上の山

九州人共仰   九州 人共に仰ぎ

千載鶴来還   千載 鶴来たり還る

遥見樵蘇者   遥かに見る 樵蘇の者

披雲度石関   雲を披き 石関を度るを




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  贈陳仲醇徴君東余山居詩 三十首 其八   董其昌(明)


餐取峰霞坐翠嵐   峰霞を餐取して 翠嵐に坐す

雲根劖出小終南   雲根劖り出だす 小終南

窗懸?室常生白   窓は虚室に懸かりて 常に白を生じ

帖倣蕭齋欲過藍   帖は蕭齋に倣ひて藍を過ぎんと欲す

山長舊來鴻自一   山は長くして旧来鴻自ずから一

市喧還笑虎成三   市は喧にして還た笑ふ虎三を成す

應憐惠子能知我   応に憐れむべし 惠子能く我を知るを

雅道寥寥有荷擔   雅道寥寥として 荷担有らん


          (下平声「十三覃」の押韻)



【語注】

「陳仲醇」…董其昌の親友である陳継儒(書家・画家)。眉公とも。字が仲醇。
      二十九歳で隠棲、晩年上海の東余山に住んだ。
「徴君」…朝廷からの招聘を断って野に隠れ住む隠者のこと。尊敬の言葉。
「雲根」…高い山の谷。雲の生ずるところ。
「劖出」…尖ったものを刺す 削る 穴を空ける
「小終南」…不詳。長安の南にある終南山に譬えて東余山を呼んだか?
「虚室」…何も無いガランとした部屋。
    陶潜の「帰園田居 其一」の句「戸庭無塵雜 虚室有餘閑」を意識して「閑適・隠棲」の生活を表したものと思われる。
「蕭齋」…梁の武帝が蕭子雲に命じて飛白(かすれ文字)で大書させた寺があったが、やがて毀廃して「蕭」一字が残った。
     後、唐の李約が通りかかり、残っていた壁を持ち帰り、洛陽の一屋を建てて「蕭齋」と名付けた故事がある。
   「小さな部屋」ということから、「虚室」と同様「世俗を避けた」として、眉公の住まいを表していると読める。
「過藍」…この語は不詳。対句から考えると「白(明るい)」に対するので、夜の暗さを表すというところか?
「鴻自一」…これも故事があると思われるが、特定できない。
   「鴻」は通常「大人物」を象徴するので、やはり隠棲した眉公を表すだろう。
「虎成三」…「三人市虎を成す」という孟子の故事。
   「市中に虎が出た」という信じられない話も一人二人では信じないが、三人目になると信ずるようになるという『孟子』の故事。
「惠子能知我」…『荘子』の「徐無鬼」篇。
    荘子の好敵手であった惠子が亡くなった後、その墓を通り過ぎた荘子が
「君が死んだ後、私は議論をする相手がもう居なくなってしまった」と嘆いたとされる。
    ここは、作者が親友でありライバルでもあった眉公が隠棲して、語り合う友が居なくなったことを表したもの。
「寥寥」…空虚。うつろでひっそりしている。


【大意】 [大意]
 (仙人のように)霞を食べて青山に暮らしている
 高い山肌は削りだしたようで まるで長安の終南山のようだろう。
 陶潜が暮らしたような空っぽの部屋で窓はいつも明るく
 李約の蕭齋のような小さな部屋の帖(帳・カーテンか)は夜に暗さを増す。
 山は深く古くからの鴻が一羽いるだけ
 町では人がやかましく あきれるような噂話ばかり
 ああ哀しいことだ 荘子にとっての惠子の如く(私は君という知友を失った)
 書画に向かっても虚しいだけで重荷が有るだけだ



※この詩につきましては、注釈書がありませんので、桐山人が解釈しました。
 お気づきの点がありましたら、ご指摘ください。


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  飲酒(其五)  陶潜(東晋)


結廬有人境   廬を結びて人境に在り

而無車馬喧   而も車馬の喧(かしま)しき無し

問君何能爾   君に問ふ何ぞよく爾(しか)ると

心遠地自偏   心遠ければ地自ら偏なり

采菊東籬下   菊を采る東籬の下

悠然見南山   悠然として南山を見る

山気日夕佳   山気日夕に佳(よ)

飛鳥相與還   飛鳥 相与(とも)に還る

此中有真意   此の中に真意有り

欲弁已忘言   弁ぜんと欲して已(すで)に言を忘る




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  飲酒(其六)   陶潜(東晋)


行止千万端   行止は千万端

誰知非与是   誰か非と是とを知らんや

是非苟相形   是非 苟(みだ)りに相形

雷同共誉毀   雷同して共に誉め毀る

三季多此事   三季より此の事多し

達士似不爾   達士のみ爾(しか)らざるに似たり。

咄咄俗中愚   咄咄 俗中の愚

且当従黄綺   且く当に黄綺に従うべし



[口語訳]
 人の出処進退は千差万別
 その是非は誰にも分からないもの
 なのに是非をやたらと言いたがり
 それに乗っかって誉めたりけなしたり。
 夏・殷・周の末期からこのことは多くて
 まったく達士だけが違っているのだ。
 やれやれ、世間の馬鹿たれどもめ
 しばらく昔の隠者にならって暮らすとしようか。


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  飲酒(其十二)   陶潜(東晋)   


長公曾一仕   長公 曾て一たび仕えしも

壮節忽失時   壮節にして忽ち時を失う。

杜門不復出   門をとざして復た出でず。

終身与世辞   終身 世と辞す。

仲理帰大沢   仲理 大沢に帰りて

高風始在茲   高風 始めて茲に在り。

一往便当已   一往 便すなわち当に已むべし。

何為復狐疑   何為なんすれぞ復た狐疑する。

去去当奚道   去り去りて当になにをか道うべけん。

世俗久相欺   世俗は久しく相欺けり。

擺落悠悠談   悠悠の談をはらい落とし

請従余所之   請う 余がく所に従わん



[口語訳]
 前漢の張長公は一旦は官途に就いたけれど
 壮年の時にすぐに失脚してしまった。
 門を閉ざして二度とは出ず、
 終生 世の中に決別したままだった。
 後漢の楊仲理は大きな沢の地に帰ってから
 高尚な学風が始めて起こった。
 さっさとすぐに隠棲するのがよい。
 どうしてためらうことがあろうか。
 さっさと立ち去り、何を言う必要があろう。
 世の中は長い間、だまし合いばかりなのだ。
 荒唐無稽な話などは捨て去って、
 自分の道を進めばよいのだ。
 


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  飲酒(其二十)   陶潜(東晋)


羲皇去我久   羲皇 我を去りて久しく

挙世少復真   世を挙げて真に復すこと少なし

汲汲魯中叟   汲汲たり 魯中の叟

弥縫使其淳   弥縫びほうして其れを淳ならしむ

鳳鳥雖不至   鳳鳥至らずと雖も

礼楽暫得新   礼楽暫らくは新しきを得たり

洙泗微響輟   洙泗しゅし 微響を

漂流逮狂秦   漂流して狂秦におよ

詩書復何罪   詩書復た何の罪あらん

一朝成灰塵   一朝 灰塵と成る

区区諸老翁   区区たる諸老翁

為事誠殷勤   事を為して誠に殷勤

如何絶世下   如何ぞ 絶世の下

六籍無一親   六籍 一の親しむ無きを

終日馳車走   終日 車を馳せて走るも

不見所問津   津を問ふ所を見ず

若復不快飲   若し復たすみやかに飲まずんば

空負頭上巾   空しく頭上の巾に負かん

但恨多謬誤   但だ恨む 謬誤の多きを

君当恕酔人   君 当に酔人を恕すべし




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  歸園田居 其六   陶潜(東晋)


少無適俗韻   少(わか)くして俗に適する韻無く

性本愛邱山   性 本 邱山を愛す

誤落塵網中   誤りて塵網の中に落ち

一去三十年   一去 三十年

羈鳥戀舊林   羈鳥 旧林を恋ひ

池魚思故淵   池魚 故淵を思ふ

開荒南野際   荒を開く 南野の際

守拙歸園田   拙を守りて園田に帰る

方宅十餘畝   方宅 十余畝

草屋八九間   草屋 八九間

楡柳蔭後簷   楡柳 後簷を蔭ひ

桃李羅堂前   桃李 堂前に羅なる

曖曖遠人村   曖曖たり 遠人の村

依依墟里煙   依依たり 墟里の煙

狗吠深巷中   狗は吠ゆ 深巷の中

鷄鳴桑樹巓   鶏は鳴く 桑樹の巓

戸庭無塵雜   戸庭 塵雑無く

虚室有餘   虚室 余閑有り

久在樊籠裡   久しく樊籠の裡に在りしも

復得返自然   復た自然に返るを得たり

          「山・間・閑(閨j」で「上平声十五刪」と「年・淵・田・前・煙・巓・然」で「下平声一先」の通韻



[口語訳]
若い頃から俗世間に合わせる気が無く
本性は自然が好きだった
間違えて役人生活に縛られて
あれからもう三十年だ
旅の鳥は昔の林を恋しがるもの
池の魚は以前の水辺を慕うもの
荒れた土地を開拓しよう 南の野原で
世渡りの下手なままに田舎に帰ってきた
四角い土地は十余畝
ぼろ家は八つか九つ程の部屋
ニレとヤナギは家の後ろを覆って
桃と李が座敷の前に並んでいる
ぼんやりと霞む 遠くの人里
ゆらゆらと上る荒れた里の炊煙
犬が吠える 奥深い小路の奥
鶏が鳴く 桑の木のてっぺん
庭には塵やゴミは無く
こざっぱりした部屋にはゆとりがある
長らく鳥かごのような生活の中に居たが
もう一度 本来の姿に戻ることができた


 「適俗韻」…俗世間に適応する気質が無い。
 「性本」…本来の性格。
 「邱山」…岡や山。大自然。
 「塵網」…汚れた世の中。作者が役人として過ごした時期を指す。
 「一去」…いったん去ってみれば、あれから。
 「三十年」…太元十八年(393年)〜義煕元年(405年)で実際は十三年間。「三」は数の多さを言ったという説もある。
 「羈鳥」…旅先の鳥、渡り鳥。
 「旧林」…昔住んでいた林 次の「故」も同じ
 「守拙」…世渡りの下手なままに。
 「方宅」…四角な宅地 
 「十余畝」…約二十アール、七百坪くらい。
 「草屋」…茅屋と同じ、粗末な家。
 「八九間」…八つか九つの部屋。
 「楡柳」…ニレとヤナギ
 「簷」…のき
 「堂」…表座敷
 「曖曖」…おぼろに霞み
 「依依」…細々として
 「狗吠と鶏鳴」…『老子』に「小国寡民、(中略)使民復結縄而用之、甘其食、美其服、安其居、樂其俗、鄰國相望、鷄犬之聲相聞、民至老死、不相往來。」とあり、人智の行き過ぎない理想郷を表す。
 「虚室」…何も無い部屋 
 「余閑」…ゆとり。
 「樊籠」…とりかご、役人生活の比喩。
 「自然」…ものの本性。本来の自分の姿。人為を加えない姿。


 伝わる話では、陶潜が彭沢県の県令となって八十余日、郡の長官が視察に来ることになったのですが、「正装して出迎えるように」と言われて、「我 五斗米の為に腰を折りて 郷里の小人に向かふ能はず」と言って職を去ったとされています。
 真偽のほどはわかりませんが、陶潜の人柄を表す伝説となっています。


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  雜詩 其一   陶潜(東晋)


人生無根蔕   人生 根蔕(こんてい)無く

飄如陌上塵   飄として陌上の塵の如し

分散逐風轉   分散し 風を逐(お)って転じ

此已非常身   此 已に常の身に非ず

落地為兄弟   地に落ちて兄弟と為る

何必骨肉親   何ぞ必ずしも骨肉の親のみならんや

得歡當作樂   歓を得て 当に楽しみを作すべし

斗酒聚比隣   斗酒 比隣を聚(あつ)めよ

盛年不重來   盛年 重ねては来たらず

一日難再晨   一日(いちじつ) 再び晨(あした)なり難し

及時當勉勵   時に及んで当に勉励すべし

歳月不待人   歳月は人を待たず

          (「塵・身・親・隣・晨・人」・・・・上平声「十一真」の押韻)




 「根蔕」…木の根や果実のヘタ
 「逐」…異本「随」
 「常身」…変わらぬ姿
 「比隣」…隣近所
 「盛年」…若い盛んな時
 「及時」…その時その時を逃さず
 「勉励」…つとめはげむ。ここは楽しみに精を出す



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  雜詩 其四   陶潜(東晋)


丈夫志四海   丈夫は四海を志すも

我願不知老   我は願ふ 老いを知らず

親戚共一處   親戚 共に処を一にし

子孫還相保   子孫還た相保つ

觴絃肆朝日   觴と絃とを朝日に肆(なら)べ

樽中酒不燥   樽中 酒 燥(かわ)かず

緩帶盡歡娯   帯を緩めて歓娯を尽くし

起晩眠常早   起くるは晩く眠るは常に早し

孰若當世士   孰若ぞ 当世の士の

氷炭滿懷抱   氷炭 懐包に満ち

百年歸丘壟   百年 丘壟に帰し

用此空名道   此の空名を用って道びかん

          (上声「十九晧」の押韻)



「丈夫」…一人前の男子
「孰若」…どちら
「氷炭」…利と名を求める矛盾した心
「百年」…人の一生
「丘壟」…土盛りをした墓
「空名」…むなしい名声




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  雜詩 其五   陶潜(東晋)


   

憶我少壯時   憶ふ 我少壮の時

無樂自欣豫   楽しみ無きも自ら欣余す

猛志逸四海   猛志 四海に逸(は)せ

騫翮思遠翥   翮(つばさ)を騫(あ)げて遠く翥(と)ばんと思ふ

荏苒歳月穨   荏苒として歳月穨(くず)れ

此心稍已去   此の心 稍(ようや)く已に去る

値歡無復娯   歓に値(あ)ふも復た娯しみ無く

毎毎多憂慮   毎毎(つねづね) 憂慮多し

氣力漸衰損   気力 漸く衰損し

轉覺日不如   転(うた)た覚ゆ 日びに如かざるを

壑舟無須臾   壑舟 須臾無く

引我不得住   我を引きて住(とどま)るを得ざらしむ

前途當幾許   前途 当に幾許(いくばく)ぞ

未知止泊處   未だ知らず 止泊の処

古人惜寸陰   古人は寸陰を惜しむ

念此使人懼   此を念(おも)へば人をして懼れしむ

          (「豫・翥・去・慮・如・處」は去声「六御」、「住・懼」は去声「七遇」の通韻)



「少壮」…若く盛んな時
「欣余」…喜び楽しむ
「荏苒」…いつの間にか、だんだんと
「不如」…及ばない
「壑舟」…月日が過ぎ去る喩え
「寸陰」…わずかの時間





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  雜詩 其六   陶潜(東晋)


昔聞長者言   昔 長者の言を聞けば

掩耳毎不喜   耳を掩ひて 毎(つね)に喜ばず

奈何五十年   奈何(いかん)ぞ 五十年

忽已親此事   忽ち已に此の事を親(みずか)らせんとは

求我盛年歡   我が盛年の歓を求むること

一毫無復意   一毫も復た意無し

去去轉欲遠   去り去りて転た遠くならんと欲す

此生豈再値   此の生 豈(あ)に再び値(あ)はんや

傾家持作樂   家を傾けて持つて楽しみを作(な)し

竟此歳月駛   此の歳月の駛するを竟(お)えん

有子不留金   子有るも金を留めず

何用身後置   何ぞ用いん 身後の置を

          (去声「四ゥ」の押韻)



 「長者」…年長者
 「奈何」…どうしたものか
 「一毫」…ほんの少しも
 「豈」…反語、「豈に…や」と訓じる
 「傾家」…財産を使って
 「持」…異本「時」
 「身後置」…死んだ後の準備






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  飲中八仙歌   杜甫(盛唐)


知章騎馬似乗船   知章が馬に騎るは船に乗るに似たり
眼花落井水底眠   眼花 井に落ちて水底に眠る

汝陽三斗始朝天   汝陽の三斗 始めて天に朝し
道逢麹車口流涎   道に麹車に逢ひて 口 涎を流す
恨不移封向酒泉   恨むらくは 封を移して 酒泉に向かはざるを

左相日興費万銭   左相の日興 万銭を費やす
飲如長鯨吸百川   飲むこと長鯨の百川を吸ふが如し

銜杯楽聖称避賢   杯を銜みて 聖を楽しみ 賢を避くと称す

宗之瀟灑美少年   宗之は瀟灑たる美少年
挙觴白眼望青天   觴を挙げ 白眼 青天を望む
皎如玉樹臨風前   皎として 玉樹の風前に臨むが如し

蘇晋長斎繍仏前   蘇晋 長斎す 繍仏の前
酔中往往愛逃禅   酔中 往往 逃禅を愛す

李白一斗詩百篇   李白 一斗 詩百篇
長安市上酒家眠   長安 市上 酒家に眠る
天子呼来不上船   天子 呼び来れども 船に上らず
自称臣是酒中仙   自ら称す 臣は是れ酒中の仙と

張旭三杯草聖伝   張旭 三杯 草聖伝ふ
脱帽露頂王公前   帽を脱して 頂を露はにす 王公の前
揮毫落紙如雲烟   毫を揮ひ 紙に落とせば雲烟の如し

焦遂五斗方卓然   焦遂 五斗 方に卓然
高談雄弁驚四筵   高談 雄弁 四筵を驚かす



[口語訳]
 賀知章が馬に乗る姿は船に揺られているようだ
 酔って眼はちらちらし、井戸に落ちても気づかずに水底で眠っている

 汝陽王は三斗の朝酒を飲んでから朝廷に出仕する
 途中で酒車に出会えば、口からよだれを流すほど
 残念がったのは、酒泉郡の長官に転出できなかったことだ

 左丞相(李適之)は、一日の酒盛りに万銭を使い
 飲むことと言ったら、大きな鯨が百川の水を吸い上げるようなもの
 杯を口にして清酒(聖)を楽しみ、濁り酒(賢)は嫌だと言っている

 宋之はすっきりした美少年
 酒を飲んでは白眼で青空をにらみつけ
 いさぎよさは美しい木が風の前に立っているようだ

 蘇晋は長く物忌みをしてしるが、刺繍をした弥勒菩薩の前で
 酒に酔っては、しょっちゅう仏戒を破ってしまう

 李白は一斗酒を飲むうちに詩を百篇作ってしまう
 どこでも構わずに 長安の町中の酒屋で眠ってしまう
 天子からお呼びがあっても船に乗ろうともせず
 自分で「私は酒飲みの中の仙人だ」と言っている

 張旭は三杯飲んでは草書の筆をふるい
 王公の前でも帽子を脱ぎ頭のてっぺんをむき出しにする
 ところが筆をふるって紙の上に落とせば その書は雲煙が飛ぶようである

 焦遂は口べただったが五斗も飲むと意気は卓然
 声高く雄弁で 満座の人を驚かせる




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  石壕吏   杜甫(盛唐)


暮投石壕村   暮に石壕村に投ずれば

有吏夜捉人   吏有り 夜に人を捉ふ

老翁踰墻走   老翁 墻を踰えて走り

老婦出門看   老婦 門を出でて看る


吏呼一何怒   吏の呼ぶこと 一に何ぞ怒れる

婦啼一何苦   婦の啼くこと 一に何ぞ苦しめる

聴婦前致詞   婦の前みて詞を致すを聴くに

三男鄴城戍   三男は鄴城の戍り

一男附書至   一男は書を附して至るも

二男新戦死   二男は新たに戦死すと

存者且偸生   存する者は且く生を偸むも

死者長已矣   死せる者は長えに已みぬ


室中更無人   室中 更に人無く

惟有乳下孫   惟だ乳下の孫のみ有り

孫有母未去   孫には母の未だ去らざる有るも

出入無完裙   出入するに完裙無し


老嫗力雖衰   老嫗 力は衰ふと雖も

請従吏夜帰   請う 吏に従って夜帰せんことを

急応河陽役   急に河陽の役に応ぜば

猶得備晨炊   猶ほ晨炊の備ふるを得んと

夜久語声絶   夜久しくして語声絶え

如聞泣幽咽   泣いて幽咽するを聞くが如し

天明登前途   天明 前途に昇る時

独与老翁別   独り老翁と別れしのみ






「投」: 投宿する
「無完裙」: 満足なスカートも無い貧窮の様
「晨炊」: 「朝ご飯」


[口語訳]
暮れに石壕の村に投宿すると
役人が夜、人を捕らえにやって来た。
じいさんは垣根を飛び越えて逃げてしまい、
ばあさんは門の外で応対している。

役人の呼ぶ声は全く、何と怒っていることか、
ばあさんの泣き声は全く、何と苦しそうなことか。
ばあさんは役人の前に進み、自分から言葉を発するのを聞くと、
「三人の息子は鄴城の守りについとります。

一人の息子が手紙を託して届けてきたことには、
二人の息子は戦死したばかりだそうです。
生きている者もしばらくの間、無意味な命を生きているだけ
死んだ者は永遠に終ってしまったのです。

家の中にはこれ以上誰もいません。
ただ乳離れのしていない孫がいるだけです。
孫には母親が(夫に戦死されても)まだ家を去らずに残ってくれていますが、
家の出入りをするのに満足なスカートもないのです。

年老いた私は力は衰えてはいますが、
お役人に従って今夜にも行くことにしましょう。
急いで河陽で労役につくことができれば、
まだ朝の炊事の支度くらいはできましょう」

夜も随分更けて、話し声も途絶えた。
泣いて微かに咽ぶのが聞こえてくるようだ。
明け方私は旅路につき、
ただ一人で、じいさんと別れてきたのだ。




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  春望  杜甫(盛唐)


国破山河在    城春草木深
感時花注涙    恨別鳥驚心
烽火連三月    家書抵萬金
白頭掻更短    渾欲不勝簪


国破れて山河在り       城春にして草木深し
時に感じては花にも涙を注ぎ  別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火三月に連なり       家書萬金に抵たる
白頭掻くに更に短く      渾(すべ)て簪に勝へざらんと欲す



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  貧交行   杜甫(唐)


飜手作雲覆手雨   手を飜せば雲と作(な)り 手を覆(おほ)へば雨となる

紛紛輕薄何須數   紛紛たる軽薄 何ぞ数ふるを須(もち)ひん

君不見管鮑貧時交   君見ずや 管鮑 貧時の交はり

此道今人棄如土   此の道 今人 棄てて土の如し



[口語訳]
 手のひらを上に向ければ雲になり、下に向ければ雨になる(ように人の心は変わりやすいもの)
 ウジャウジャといる軽薄の輩は、いちいち数える必要はない。
 君は知らないのか、管仲や鮑叔牙の貧しい時の深い交際を
 こうした生き方を、今の時代の人は棄ててしまい、土のように扱っているのだ


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  旅夜書懐  杜甫(盛唐)


細草微風岸  危檣獨夜舟
星垂平野闊  月湧大江流
名豈文章著  官応老病休
飄飄何所似  天地一沙鴎


細草微風の岸         危檣獨夜の舟
星垂れて平野闊く       月湧きて大江流る
名は豈に文章もて著はれんや  官は応(まさ)に老病にて休むべし
飄飄として何の似る所ぞ    天地の一沙鴎



[語釈]
 「危牆」: 高い帆柱(の舟) 
 「豈」: 反語形。「豈ニ〜ヤ」と読み、「どうして…だろうか(いや、ちがう)」と訳す。
 「官」:この段階では杜甫は工部員外郎(建設関係の定員外の役人)であった。
 「飄飄」:木の葉などが風で翻る様子。

[現代語訳]
 細かな草の上をそよ風が吹く岸、ただ一人で高い帆柱の舟を泊める夜
 星は平野に垂れるようで、平野は広く 月は大江からわき出るようで、川は流れる
 歴史に名を残すようなことは文学でできようか、(かと言って)官としての役も老いと病いでやめねばならない。
 風に翻る木の葉のようなこの身は何に似ていようか、広い天地の間をさすらう一羽の鴎だ。



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  絶句   杜甫(盛唐)


江碧鳥逾白   江碧にして 鳥逾いよ白く

山青花欲然   山青くして 花然えんと欲す

今春看又過   今春 看(みすみす)又過ぐ

何日是帰年   何れの日か 是れ帰年ならん



[口語訳]
 江は碧色に光り 鳥はますます白く見える
 山は青青として 花は今にも真っ赤に開こうとしている
 今年の春もこうして見ている間に過ぎていく
 いつになったら故郷に帰れることだろうか


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  壮遊   杜甫(盛唐)


往者十四五   往者 十四五

出遊翰墨場   出でて翰墨の場に遊ぶ

斯文崔魏徒   斯文 崔魏の徒

以我似班揚   我を以て班揚に似たりとす

七齢思即壮   七齢 思ひは即ち壮んにして

開口詠鳳皇   口を開きて 鳳皇を詠ず

九齢書大字   九齢 大字を書し

有作成一嚢   作有りて 一嚢を成す

性豪業嗜酒   性は豪にして すでに酒を嗜み

嫉悪懷剛腸   悪を嫉みて 剛腸をいだ

脱落小時輩   脱落す 小時の輩

結交皆老蒼   交はりを結ぶは皆老蒼たり

飲酣視八極   飲むこと酣にして八極を視れば

俗物多茫茫   俗物 多く 茫茫たり

          (下平声「七陽」の押韻)



※杜甫が若い頃の自分の生活を振り返った詩で、彼の人生を探る意味で貴重な内容です。


「往者」: むかし
「翰墨場」: 文学の場
「斯文」: 文学・儒学
「崔魏」: どちらも人名
「班揚」: どちらもかつての文学者
「成一嚢」: 袋にいっぱいになった
「剛腸」: 強い心
「小時」: 幼い年齢
「老蒼」: 蒼は色あせた状態。年老い髪が衰えた人
「八極」: 四方八方。世の中
「茫茫」: 広くただようこと




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  贈李白   杜甫(盛唐)


秋來相顧尚飄蓬   秋来 相顧みれば 尚ほ飄蓬

未就丹砂愧葛洪   未だ丹砂を就さずして葛洪に愧づ(葛洪:晋の道士)

痛飲狂歌空度日   痛飲 狂歌 空しく日を度る

飛揚跋扈爲誰雄   飛揚 跋扈 誰が為にか雄なる(跋扈:わがままに振る舞うこと)

          (上平声「一東」の押韻)




※この詩は、若い時に李白と旅をしていた折、李白に向けて作った詩だと思われます。


[口語訳]
  秋になってお互いに顏を見合わせてみると、相変わらずの放浪生活
  まだ仙人修行もままならず、あの葛洪にはずかしいほど。
  酒を浴び歌にほうけて、虚しく日々を過ごして
  勝手気ままに飛び跳ねているあなたは、誰のために頑張ってるのか。




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  不見   杜甫(盛唐)


不見李生久   李生を見ざること久し

佯狂眞可哀   佯狂 真に哀れむべし

世人皆欲殺   世人 皆殺さんと欲す

吾意獨憐才   吾が意 独り才を憐れむ

敏捷詩千首   敏捷 詩千首

飄零酒一杯   飄零 酒一杯

匡山読書處   匡山 読書の処

頭白好帰來   頭白くして 好し 帰り来たれ

          (上平声「十灰」の押韻)



[口語訳]
李白さんに合えなくて長い、狂人の振りをしたという噂は痛々しい
世の人は皆殺そうとするが、私一人はあの人の才能を惜しんでいる
あっという間に詩を千首 ふらふらと一杯の酒を求める
昔勉強をした故郷の匡山に白髪頭の李白さん、さあ、帰って来なさいよ



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  絶句   杜甫(唐)


両箇黄鸝鳴翠柳   両箇の黄鸝 翠柳に鳴き

一行白鷺上青天   一行の白鷺 青天に上る

窓含西嶺千秋雪   窓には含む 西嶺千秋の雪

門泊東呉万里船   門には泊す 東呉万里の船



[口語訳]
 二羽の鶯が緑の柳で鳴いている
 一列の白鷺が青空へと昇っていく
 部屋の窓には西嶺の万年雪が眺められ
 門には東の呉に向け万里行こうとする船が泊まっている


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  春日憶李白   杜甫(盛唐)


白也詩無敵   白也 詩 敵無し

飄然思不群   飄然として 思ひ群せず

清新庾開府   清新は庾開府  (※北周の詩人 庾信)

俊逸鮑参軍   俊逸は鮑参軍  (※宋の詩人 鮑照)

渭北春天樹   渭北 春天の樹 (※渭水の北 長安のこと)

江東日暮雲   江東 日暮の雲 (※長江の東 江蘇省のあたり)

何時一樽酒   何れの時か 一樽の酒

重与細論文   重ねて与に細やかに文を論ぜん

          (上平声「十二文」の押韻)




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  天末憶李白   杜甫(盛唐)


涼風起天末   涼風 天末より起こり (※天末は空の果て、ここは西域)

君子意如何   君子の意 如何(※君子は李白を指す)

鴻雁幾時到   鴻雁 幾時か至る

江湖秋水多   江湖 秋水多し

文章憎命達   文章は 命の達するを憎み

魑魅喜人過   魑魅(ちみ)は 人の過ぐるを喜ぶ

応共冤魂語   応に冤魂と共に語らんとして

投詩贈汨羅   詩を投じて汨羅に贈るべし

          (下平声「五歌」の押韻)




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  月夜   杜甫(盛唐)


今夜鄜州月   今夜 鄜州(ふしゆう)の月

閨中只獨看   閨中 只だ独り看るらん

遙憐小児女   遙かに憐れむ 小児女の

未解憶長安   未だ長安を憶(おも)ふを解せざるを

香霧雲鬟濕   香霧 雲鬟(うんかん) 湿ほひ

清輝玉臂寒   清輝 ぎょく 寒からん

何時倚虚幌   何れの時か 虚幌に倚り

雙照涙痕乾   双び照らされて 涙痕乾かん

          (上平声「十四寒」の押韻)




※安禄山の乱を受け、長安に幽閉されていた時に作られた詩です。
 妻への切々たる愛情を詠った詩は漢詩では少ないのですが、この詩は杜甫の家族への誠実な人柄が感じられる、美しい詩です。



[口語訳]
今夜あなたは、鄜州の部屋でたった一人で月を眺めているのだろう。
遠くいとおしいのは、幼子たちが長安にいる私を思い出して慕うことさえまだ分からないこと。
香しい夜霧にあなたの豊かな髪は湿り、澄んだ月光に袖から出た美しい肘は寒々としていよう。
いったい何時になれば、薄いとばりに寄り添い、二人並んで涙の痕を乾かすことができるだろうか。



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  羌村 三首其一   杜甫(盛唐)


崢エ赤雲西   崢エそうこうたる赤雲の西

日脚下平地   日脚 平地に下る

柴門鳥雀噪   柴門 鳥雀噪ぎ

帰客千里至   帰客 千里より至る

妻孥怪我在   さいは我の在るを怪しみ

驚定還拭涙   驚き定まりて 涙を拭ふ

世亂遭飄蕩   世乱れて 飄蕩に遭ひ

生還偶然遂   生還 偶然に遂ぐ

鄰人滿牆頭   隣人 牆頭に満ち

感歎亦歔欷   感歎して 亦たきょ

夜闌更秉燭   夜 たけなわにして 更に燭を

相對如夢寐   相対すれば 夢寐むびの如し




 杜甫四十七歳、諫言で粛宗の怒りをかい華州へ左遷となり、別居していた家族の元に戻った折の詩です。
 再会に驚き、喜ぶ家族の姿、久しぶりの団欒を喜ぶ杜甫の姿、「月夜」の離別の悲しみの詩を思うと、感無量です。
 また、村人の様子など、丁寧な描写が臨場感を高めている詩です。


「崢エ」: 山などが高くそびえる様子
「妻孥」: 妻と子



[口語訳]
 高くそびえる赤い夕焼けの雲の西、日の光が平らな地に差している。
 粗末な門には巣に帰る雀たちが鳴き噪ぎ、旅人の私は千里の遠くから帰ってきた。
 妻や子は私がそこに居ることを信じられず、驚き、やがて涙を流した。
 世の中が乱れてしまって放浪することになり、生きて帰れたのは偶然のおかげだ。
 隣近所の人が塀のところに集まって、びっくりしてはもらい泣きをしてくれる。
 夜ふけても眠るのが惜しく更に灯火をつけ、向かい合えばまるで夢のようだ。



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  夢李白 二首之一(『全唐詩』版)   杜甫(盛唐)


死別已呑声   死別は已に声を呑み

生別常惻惻   生別は常に惻惻たり

江南瘴癘地   江南 瘴癘の地

逐客無消息   逐客 消息無し

故人入我夢   故人 我が夢に入り

明我長相憶   我が長き相憶ひを明らかにす

恐非平生魂   恐らくは平生の魂に非ざらん

路遠不可測   路遠く 測るべからず

魂来楓林青   魂来たれば楓林青く

魂返関塞黒   魂返れば関塞黒し

君今在羅網   君は今 羅網に在るに

何以有羽翼   何を以て 羽翼有らん

落月満屋梁   落月 屋梁に満ち

猶疑照顔色   猶疑ふ 顔色を照らすを

水深波浪闊   水深くして 波浪闊し

無使蛟龍得   蛟龍をして得しむること無かれ




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  夢李白 二首之二   杜甫(盛唐)


浮雲終日行   浮雲 終日行くも

遊子久不至   遊子 久しく至らず

三夜頻夢君   三夜 頻りに君を夢む

情親見君意   情親 君が意を見る

告帰常局促   帰るを告げて 常に局促とし

苦道来不易   苦ろに道ふ 来ること易からず

江湖多風波   江湖 風波多く

舟楫恐失墜   舟楫 失墜を恐ると

出門掻白首   門を出づるに 白首を掻く

若負平生志   平生の志に背くが若し

冠蓋満京華   冠蓋 京華に満つるに

斯人独憔悴   斯の人 独り憔悴

孰云網恢恢   孰か云ふ 網恢恢たりと

将老身反累   将に老いんとして 身は反つて累せらる

千秋万歳名   千秋 万歳の名

寂寞身後事   寂寞たり 身後の事




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  春宿左省   杜甫(盛唐)


花隱掖垣暮   花は隠る 掖垣えきたんの暮

啾啾棲鳥過   啾啾しゅうしゅうとして棲鳥過ぐ

星臨萬戸動   星は万戸に臨みて動き

月傍九霄多   月は九霄きゅうしょうに傍うて多し

不寝聽金鑰   寝ねずして金鑰きんやくを聴き

因風想玉珂   風に因(よ)りて ぎょくを想ふ

明朝有封事   明朝 封事有り

數問夜如何   数々しばしば問ふ 夜如何いかん

          (下平声「五歌」の押韻)



※杜甫が粛宗の下で、役人生活をしていた時の詩です。
 念願の役人生活への意気込みが感じられる内容です。


「掖垣」: 宮殿のそばの垣根
「啾啾」: 悲しげに鳴く声
「九霄」: 大空、ここでは天子のご座所
「金鑰」: 金色のかぎ
「玉珂」: 馬のくつわの飾り
「封事」: 密封の意見書


[口語訳]
 花も見えなくなる脇門の夕暮れ、悲しげに鳴くねぐらへ帰る鳥。
 星は宮中の万余の建物に覆いかぶさるように動き、月は宮殿に寄りそうよう輝きを増す。
 眠らないままに朝の城門を開ける鍵の音を耳にし、風の音にももう朝臣の出仕かと思う。
 明朝は封事を奉らねばならない、何度も「夜は何時ころか」と尋ねてしまう。




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  曲江   杜甫(盛唐)


朝囘日日典春衣   朝よりかえりて 日日 春衣を典し

毎日江頭盡醉歸   毎日 江頭に酔ひを尽くして帰る

酒債尋常行處有   酒債は尋常行く処に有り

人生七十古來稀   人生七十 古来まれなり

穿花蛺蝶深深見   花を穿うがつの蛺蝶 深深として見え

點水蜻蜓款款飛   水に点ずるの蜻蜓せいてい 款款かんかんとして飛ぶ

傳語風光共流轉   伝語す 風光共に流転して

暫時相賞莫相違   暫時 相賞して相違ふこと莫かれ

          (上平声「五微」の押韻)




※粛宗の下で役人生活に取り組みましたが、なかなか思うように行かないもどかしさが表れています。
 杜甫には珍しく、「今を楽しめば良い」という雰囲気が漂う詩ですが、この後に杜甫は官吏を罷めることになります。
 この詩は、「古稀」という言葉を生んだ出典としても有名ですね。



[口語訳]
 朝廷から退出しては、いつも春服を質に入れ、毎日曲江のほとりで酔いつぶれて帰る。
 酒屋の借金はいつもで、行く店行く店にあるが、人生七十才まで生きるのは昔から稀だから(今を楽しめば)良いのだ。
 花をのぞくアゲハチョウが奥深く見え、水に尾をつけるトンボは緩やかに飛んでいる。
 お伝えしよう、自然も私と共に移り変わり、今この時、しばらくでも景色を賞でて、背くことの無いようにしようと。



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  春夜喜雨   杜甫(盛唐)


好雨知時節   好雨 時節を知り

当春及發生   春に当たって乃ち発生す

隨風潜入夜   風に随って潜かに夜に入り

潤物細無聲   物を潤して細やかに声無し

野徑雲倶K   野径 雲は倶に黒く

江船火獨明   江船 火は独り明らかなり

曉看紅濕處   暁に紅の湿ほふ処を看れば

花重錦官城   花は錦官城に重からん

          (下平声「八庚」の押韻)





 「好雨」:春雨。春雨は万物を蘇らせる雨だから。
 「錦官城」:成都のこと。成都には錦織物を扱う役所(官)があった。

[口語訳]
 良い春の雨は降るべき時節を心得て、ちょうど春になれば、必ずやってくる。
 風につれて、そっと夜まで降り、万物を潤し、細やかな雨で音もしない。
 野の小道も空の雲も、どちらも黒々とし、川の船の燈火だけが明るい。
 明け方に赤く湿った花を見るならば、雨を含んだ花は成都の町いっぱいに重く垂れて開いているだろう。



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  登岳陽楼   杜甫(杜甫)


昔聞洞庭水   昔聞く 洞庭の水

今上岳陽樓   今上る 岳陽楼

呉楚東南坼   呉楚東南に坼け

乾坤日夜浮   乾坤 日夜浮かぶ

親朋無一字   親朋 一字無く

老病有孤舟   老病 孤舟有り

戎馬関山北   戎馬 関山の北

憑軒涕泗流   軒に憑りて涕泗流る

          (下平声「十一尤」の押韻)



[語釈]
 「洞庭水」: 「水」は「川」の意味で用いることが多いが、ここは「湖」のこと。
 「岳陽楼」: 洞庭湖を前にした風景絶佳の建物。 
 「呉楚」: 春秋時代の国名。呉は洞庭湖の東、楚は西に位置する。
 「戎馬」:軍馬 
 「関山」:故郷の境にある山。ここは長安のこと。
 「涕泗」:涙と鼻水

[現代語訳]
 昔から洞庭湖の絶景は耳にしていたが、ようやく今日、岳陽楼に上ることができた。
 かつての呉と楚の国が洞庭湖によって東南に分けられ、天地間の万物が日夜湖に浮かんでいる。
 親戚や朋友からの手紙は一通も届かず、老いと病の身には小舟が一艘あるだけだ。
 軍馬が故郷の長安の北方で走り回っているとのこと、軒に寄りかかって涙が流れ続ける。


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  秋興 一   杜甫(盛唐)


玉露凋傷楓樹林   玉露凋傷す 楓樹の林

巫山巫峡氣蕭森   巫山 巫峡 気は蕭森

江間波浪兼天湧   江間の波浪 天を兼ねて湧き

塞上風雲接地陰   塞上の風雲 地に接して陰る

叢菊兩開他日涙   叢菊両び開く 他日の涙

孤舟一繋故園心   孤舟一へに繋ぐ 故園の心

寒衣處處催刀尺   寒衣処処 刀尺を催し

白帝城高急暮砧   白帝城高くして ちん急なり

          (下平声「十二侵」の押韻)



[語釈]
 「蕭森」: 物寂しげな様子 
 「刀尺」: はさみと物差し 
 「暮砧」: 夕暮れの砧の音  

[現代語訳]
 美しい白露が楓の林をしぼませ、巫山や巫峡には秋の気がもの寂しげである。
 江上の波は天に届く程に湧き上がり、とりでの辺りの風雲は大地に接するほどに低く垂れ込めている。
 草むらの菊は二度目の花を開いて、また昨年の涙を誘い、舟をひたすら繋げば故郷へと心も流れていく。
 冬着の支度に裁縫をそこここでうながし、白帝城の高いところから夕暮れの砧の音が忙しげに聞こえてくる。



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  秋興 二   杜甫(盛唐)


千家山郭靜朝暉   

日日江樓坐翠微   

信宿漁人還泛泛   

清秋燕子故飛飛   

匡衡抗疏功名薄   

劉向傳経心事違   

同学少年多不賤   

五陵衣馬自軽肥   

          (上平声「五微」の押韻)




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  秋興 三   杜甫(盛唐)


蓬莱宮闕對南山   

承露金茎霄漢間   

西望瑤池降王母   

東来紫氣滿函関   

雲移雉尾開宮扇   

日繞龍鱗識聖顔   

一臥滄江驚歳晩   

幾回青瑣点朝班   

          (上平声「十五刪」の押韻)




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  秋興 四   杜甫(盛唐)


昆明池水漢時功   

武帝旌旗在眼中   

織女機絲虚夜月   

石鯨鱗甲動秋風   

波漂菰米沈雲黒   

露冷蓮房墜粉紅   

関塞極天惟鳥道   

江湖滿地一漁翁   

          (上平声「一東」の押韻)




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  登高   杜甫(盛唐)


風急天高猿嘯哀   風急にして 天高く 猿嘯哀し

渚清沙白鳥飛廻   渚清くして 沙白く 鳥飛廻る

無邉落木蕭蕭下   無辺の落木は蕭蕭として下り

不盡長江滾滾来   不尽の長江は滾滾として来たる

萬里悲秋常作客   万里悲秋 常に客と作り

百年多病獨登臺   百年多病 独り台に登る

艱難苦恨繁霜鬢   艱難苦だ恨む 繁霜の鬢

潦倒新停濁酒杯   潦倒新たに停む 濁酒の杯

          (上平声「十灰」の押韻)



[語釈]
 「猿嘯」: 猿の長く伸ばした声 
 「滾滾」: 水が盛んに流れる様 
 「百年」: 具体的な年数ではなく、長年という意味 
 「艱難」: つらい困難
 「繁霜鬢」: 真っ白になったびんの毛 
 「潦倒」: 「潦」は大雨が続くこと。「潦倒」で年老いて弱ること

[現代語訳]
 風が強く 天は高く澄んで猿の鳴き声が悲しげだ。長江の渚は汚れなく、砂は白く鳥が飛び回る。
 果てのない一面の落葉樹はハラハラと葉を落とし、尽きることのない長江は盛んに流れ続ける。
 遠く離れたこの地で悲しい秋を迎えても変わらぬ旅の身、長年の多病を抱えて一人で高台に登る。
 重ねた苦労のため真っ白になった髪が本当に恨めしく、老い衰えた身では濁り酒を飲むことさえやめねばならない。


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  登樓   杜甫(盛唐)


花近高樓傷客心   花は高楼に近くして 客心を傷ましむ

萬方多難此登臨   万方多難 此に登臨す

錦江春色來天地   錦江の春色 天地に来り

玉塁浮雲変古今   玉塁の浮雲 古今に変ず

北極朝廷終不改   北極の朝廷 終に改らず

西山寇盗莫相侵   西山の寇盗 相ひ侵すこと莫かれ/FONT>

可憐後主還祠廟   憐れむべし 後主も還た廟に祠らる

日暮聊爲梁甫吟   日暮 聊さか為す 梁甫の吟

          (下平声「十二侵」の押韻)




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  贈衛八処士   杜甫(盛唐)


人生不相見   

動如参与商   

今夕復何夕   

共此灯燭光   

少壯能幾時   

鬢髮各已蒼   

訪旧半為鬼   

驚呼熱中腸   

焉知二十載   

重上君子堂   

昔別君未婚   

兒女忽成行   

怡然敬父執   

問我来何方   

問答乃未已   

駆兒羅酒漿   

夜雨剪春韭   

新炊間黄粱   

主稱会面難   

一挙累十觴   

十觴亦不酔   

感子故意長   

明日隔山岳   

世事両茫茫   

          (下平声「七陽」の押韻)




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  兵車行   杜甫(盛唐)


車轔轔  馬蕭蕭   車 轔轔 馬 蕭蕭

行人弓箭各在腰   行人の弓箭は各々腰に在り

耶孃妻子走相送   耶孃 妻子 走りて相送り

塵埃不見咸陽橋   塵埃に見えず 咸陽の橋

牽衣頓足攔道哭   衣を牽き 足を頓して 道を攔(さえぎ)りて哭し

哭聲直上干雲霄   哭声 直ちに上りて雲霄を干(おか)す

道旁過者問行人   道旁の過る者 行人に問ふに

行人但云點行頻   行人但だ云ふ 点行頻りなりと

或從十五北防河   或は十五より北のかた 河に防ぎ

便至四十西営田   便ち四十に至るも西のかた田を営む

去時里正与裹頭   去きし時は里正 与(ため)に頭(こうべ)を裹(つつ)みしを

歸來頭白還戍邉   帰り来たりて頭白く 還(ま)た辺を戍(まも)る

邉亭流血成海水   辺亭の流血は海水を成すも

武皇開邉意未已   武皇 辺を開く 意未だ已まず

君不聞          君聞かずや

漢家山東二百州   漢家山東の二百州

千村萬落生荊杞   千村万落 荊杞を生ずるを

縱有健婦把鋤犁   縦(たと)ひ健婦の鋤(じよ)犁(り)を把る有るも

禾生隴畝無東西   禾は隴畝に生じて東西無し

況復秦兵耐苦戦   況んや復た秦兵は苦戦に耐うるとて

被駆不異犬與鶏   駆らるること犬と鶏に異ならず

長者雖有問      長者 問ふ有りと雖も

役夫敢申恨      役夫 敢へて恨みを伸べんや

且如今年冬      且つ今年の冬の如き

未休関西卒      未だ関西の卒を休めず

縣官急索租      県官急に租を索(もと)む

租税從何出      租税 何くより出でん

信知生男悪      信に知る 男を生むは悪しく

反是生女好      反つて是れ 女を生むは好しと

生女猶得嫁比鄰   女を生めば猶ほ比鄰に嫁するを得ん

生男埋没随百草   男を生めば埋没して百草に随ふり

君不見  青海頭   君見ずや 青海の頭

古来白骨無人收   古来 白骨 人の收むる無きを

新鬼煩冤旧鬼哭   新鬼は煩冤(はんえん)し 旧鬼は哭し

天陰雨湿声啾啾   天陰り雨湿るとき 声啾啾たり





「轔轔」: 車輪の音、ガラガラ
「点行」: 徴兵
「荊杞」: 雑草のこと 荒れ果てた象徴
「鋤犁」: どちらもスキ
「関西」: 函谷関の西


 「行」は歌の意味で、楽府題につけられます。楽府は漢の武帝(BC140〜BC88)が創設した役所。各地の民謡に合わせて歌われる詩を整理保存する役所で、そこで扱われた詩の題を「楽府題」と呼びます。

 この「兵車行」の題は楽府題には無いので、杜甫が創作したと思われます。
 作られたのは天宝九年か十年頃、安禄山の乱が起きる数年前です。当時は唐の国が領地を最大に広げた頃ですが、同時に周辺諸国との軋轢も増えていました。とりわけ、吐蕃(チベット)はしばしば唐の領内を侵略していました。そのチベット征伐のために多くの兵が徴集され、西域へと送り込まれました。

 また、若い頃は英明君主と言われた玄宗皇帝も、楊貴妃との愛におぼれ、政治の実権は楊国忠に委ねてしまっていたため、内政面での信頼感が失われていました。莫大な戦費を調達するために税が厳しく徴収され、長期化した戦を維持するために多くの農民が兵として徴集される中で、政治への批判は強いものだったと思われます。



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  哀江頭   杜甫(盛唐)


少陵野老呑生哭   

春日潛行曲江曲   

江頭宮殿鎖千門   

細柳新蒲為誰緑   

憶昔霓旌下南苑   

苑中景物生顔色   

昭陽殿裡第一人   

同輦随君侍君側   

輦前才人帯弓箭   

白馬嚼齧黄金勒   

翻身向天仰射雲   

一箭正墜双飛翼   

明眸皓齒今何在   

血汚遊魂帰不得   

清渭東流剣閣深   

去住彼此無消息   

人生有情涙沾臆   

江水江花豈終極   

黄昏胡騎塵満城   

欲往城南望城北   

          




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  客至   杜甫(盛唐)


舍南舍北皆春水   舍南舍北 皆春水

但見群鷗日日来   但だ見る 群鴎の日日に来たるを

花径不曾縁客掃   花径 曾つて客に縁りて掃はず

蓬門今始爲君開   蓬門 今始めて君が為に開く

盤飧市遠無兼味   盤飧 市遠くして兼味無く

樽酒家貧只舊醅   樽酒 家貧にして只だ旧醅有り

肯与鄰翁相對飲   肯(あえ)て鄰翁と相対して飲まんや

隔籬呼取盡餘杯   籬を隔てて呼び取りて 餘杯を尽くさしめん

          (上平声「十灰」の押韻)




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  蜀相   杜甫(盛唐)


丞相祠堂何処尋   丞相の祠堂 何処にか尋ねん

錦官城外柏森森   錦官城外 柏森森たり

映階碧草自春色   階に映ずる碧草 自ら春色

隔葉黄鸝空好音   葉を隔つる黄鸝 空しく好音

三顧頻煩天下計   三顧頻煩なり 天下の計

両朝開濟老臣心   両朝開濟なり 老臣の心

出師未捷身先死   出師未だ捷たざりに身は先づ死し

長使英雄涙満襟   長へに英雄をして涙襟に満たしむ

          (下平声「十二侵」の押韻)




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  野望   杜甫(盛唐)


西山白雪三城戍   

南浦清江万里橋   

海内風塵諸弟隔   

天涯涕涙一身遥   

惟将遅暮供多病   

未有涓埃答聖朝   

跨馬出郊時極目   

不堪人事日蕭條   

          (下平声「二蕭」の押韻)




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  夏夜歎   杜甫(盛唐)


  永日不可暮  炎蒸毒我腸
  安得萬里風  飄颻吹我裳
  昊天出華月  茂林延疏光
  仲夏苦夜短  開軒納微涼
  虚明見纖毫  羽蟲亦飛揚
  物情無巨細  自適固其常
  念彼荷戈士  窮年守邊疆
  何由一洗濯  執熱互相望
  竟夕撃刁斗  喧聲連萬方
  青紫雖被體  不如早還郷
  北城悲笳發  鸛鶴號且翔
  況復煩促倦  激烈思時康

          (下平声「七陽」の押韻)






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  遣懐   杜牧(晩唐)


落魄江湖載酒行   江湖に落魄して 酒を載せて行く

楚腰腸斷掌中輕   楚腰腸断 掌中軽し

十年一覺揚州夢   十年一覚 揚州の夢

贏得青樓薄倖名   贏ち得たり 青楼 薄倖の名




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  題斉安城楼   杜牧(晩唐)


鳴軋江楼角一声   鳴軋たり 江楼の角一声

微陽瀲灔落寒汀   微陽瀲灔として 寒汀に落つ

不用憑欄苦回首   用ひず 欄に憑りて 苦ろに首を回らすを

故郷七十五長亭   故郷は七十五長亭

          (下平声「八庚」・「九青」の通韻)




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  清明   杜牧(晩唐)


清明時節雨紛紛   清明の時節 雨紛紛

路上行人欲断魂   路上の行人 魂を断たんと欲す

借問酒家何処有   借問す 酒家 何れの処にか有りや

牧童遥指杏花村   牧童遥かに指す 杏花の村



[口語訳]
 清明の季節 雨がしきりに降っている
 道行く旅人である私も心が滅入ってしまう
 「ちょっと尋ねるが、酒屋はどこにあるかね」
 牛飼いの童は遠くを指さした、杏花の咲く村を


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  正初奉酬歙州刺史邢群   杜牧(晩唐)


翠巖千尺倚溪斜   

曾得嚴光作釣家   

越嶂遠分丁字水   

臘梅遲見二年花   

明時刀尺君須用   

幽處田園我有涯   

一壑風煙陽羨里   

解龜休去路非賒   

          (下平声「六麻」の押韻)




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  江南春   杜牧(晩唐)


千里鶯啼緑映紅   千里 鶯啼いて 緑 紅に映ず

水村山郭酒旗風   水村 山郭 酒旗の風

南朝四百八十寺   南朝 四百八十寺

多少楼台烟雨中   多少の楼台 烟雨の中



[口語訳]
 千里遠くまで鶯の声が鳴り響き、山々の緑は紅の花と照り映えている。
 水辺の村 山沿いの村 酒屋の旗が風にはためいている。
 この江南に栄えた南朝には四百八十もの寺院があったそうだ。
 今でも多くの堂塔が春雨の中に見える。


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  題烏江亭   杜牧(晩唐)


勝敗兵家事不期   勝敗は兵家 事期せず

包羞忍恥是男児   羞を包み恥を忍ぶは是れ男児

江東子弟多才俊   江東の子弟 才俊多し

巻土重来未可知   巻土重来せば未だ知るべからず



[口語訳]
 勝敗は時の運、兵法家でも予期できるものではないのだから
 一時の恥は堪え忍ぶのが、これは男児というものだ。
 江東の若者はそもそもすぐれた者達ばかりなのだから、
 風が土を巻き上げるように再挙すれば、結果はどうなったかは分からないのに


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  山行   杜牧(晩唐)


遠上寒山石径斜   遠く寒山に上れば石径斜めなり

白雲生処有人家   白雲生ずる処 人家有り

停車坐愛楓林晩   車を停めて坐(そぞ)ろに愛す 楓林の晩

霜葉紅於二月花   霜葉は二月の花よりも紅なり



[口語訳]
 はるばると晩秋のもの寂しい山に登ると、
        石混じりの小道が斜めにずっと続いている。
 白い雲が湧き出るような、こんな奥深い山に
        ひっそりと人の住む家が見える。
 私は、この楓の林の夕暮れを静かに眺めようと車を停める。
 霜に打たれて色づいた葉は、何と二月の桃の花よりも紅いのだよ。


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  爾霊山   乃木希典(明治)


爾靈山嶮豈難攀   爾霊山 嶮なれど 豈に攀ぢ難からんや

男子功名期克艱   男子の功名 克艱を期す

銕血覆山山形改   鉄血 山を覆ひて 山形改む

萬人齊仰爾靈山   万人 斉しく仰ぐ 爾霊山



[口語訳]
 爾霊山は険しいけれど どうして登ることが難しかろう
 男子としての功名があり、困難を克服することを心に期している
 武器(鉄)と(兵士の)血が山を覆い、山の形は変わってしまう(ほどの激戦だった)
 誰もが皆、爾霊山を仰ぎ見ている


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  詩癖   梅堯臣(北宋)


人間詩癖勝錢癖   人間 詩癖は銭癖に勝る

捜索肝脾過幾春   肝脾を捜索して 幾春か過ぎし

嚢槖無嫌貧似舊   嚢槖 貧しきこと旧に似たるを嫌ふ無く

風騒有喜句多新   風騒 句に新たなるもの多きを喜ぶ有り

但將苦意摩層宙   但 苦意を将って 層宙を摩さんとし

莫計終窮渉暮津   計る莫し 終に窮まりて 暮津を渉るを

試看一生銅臭者   試みに看よ 一生 銅臭の者

羨他登第亦何頻   他の登第を羨むこと 亦 何ぞ頻りなる



[口語訳]

 この人間世界で詩に対する執着は、金に対するものよりも強いのだ。
 腹の中を奥の奥まで句を探し回って、幾度の春を過ごしたことか。
 財布の中が昔のように貧しいのも気にかけず
 詩歌の句に新しいものが多いことを喜んでいる。
 ただ、心を苦しめてまではるか大空に届こうとして
 思いもしない、最後は行き詰まって(人生の)夕暮れの渡し場を渉るなどとは。
 でも、試しに見てごらん、一生金の臭いがしみついた者が
 他人の出世を羨むことのなんと多いことだろうか。


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  魯山山行   梅堯臣(北宋)


適與野情愜   適(まさ)しく 野情と愜(かな)ふ

千山高復低   千山 高く復た低し

好峰随處改   好峰 随処に改まり

幽径獨行迷   幽径 独り行きて迷ふ

霜落熊升樹   霜落ちて 熊は樹に升(のぼ)り

林空鹿飲溪   林空しく 鹿は渓に飲む

人家在何許   人家 何許(いづこ)にか在る

雲外一聲鷄   雲外 一声の鶏



[口語訳]

 野に埋もれたいという私の気持ちとぴったり、
 山また山は高く低く
 良い形の峰はあちこちで形を変え
 道は細く奥深く 一人で行くと道に迷うほど。
 霜の降りた頃合い、熊は樹に上り
 林には誰も居なくて 鹿が谷川の水を飲んでいる。
 人家はどこにあるのだろう、と思っていたら
 雲の向こうから鶏の鳴き声が一声聞こえてきたよ




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  送崔九   裴迪(盛唐)


    帰山深浅去     山に帰りて 深浅に去(ゆ)
    須尽丘壑美     須らく丘壑の美を尽くすべし
    莫学武陵人     学ぶ莫かれ 武陵の人の
    暫遊桃源裏     暫く桃源の裏(うち)に遊びしを



[口語訳]
 君は故郷の山に帰って、高いところや低いところに出掛けては、
 ぜひとも丘や谷の美しさを見尽くしてくれ。
 武陵の漁師が、桃源郷でほんの暫く遊んだだけで
 二度と訪ねられなかったことを真似しないでくれたまえ


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  孟城〓   裴迪(中唐)


結廬古城下   

時登古城上   

古城非疇昔   

今人自来往   




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  燕詩示劉叟   白居易(中唐)


梁上有雙燕   

翩翩雄與雌   

銜泥兩椽間   

一巣生四兒   

四兒日夜長   

索食聲孜孜   

青蟲不易捕   

黄口無飽期   

觜爪雖欲敝   

心力不知疲   

須臾十來往   

猶恐巣中飢   

辛勤三十日   

母痩雛漸肥   

喃喃教言語   

一一刷毛衣   

一旦羽翼成   

引上庭樹枝   

舉翅不回顧   

隨風四散飛   

雌雄空中鳴   

聲盡呼不歸   

卻入空巣裏   

啁啾終夜悲   

燕燕爾勿悲   

爾當返自思   

思爾為雛日   

高飛背母時   

當時父母念   

今日爾應知   

          (上平声「四支」・「五微」の通韻)




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  三月三十日題慈恩寺   白居易(中唐)


慈恩春色今朝盡   

尽日徘徊倚寺門   

惆悵春帰留不得   

紫藤花下漸黄昏   

          (上平声「十三元」の押韻)




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  中隠   白居易(中唐)


大隱住朝市   

小隱入丘樊   

丘樊太冷落   

朝市太囂諠   

不如作中隱   

隱在留司官   

似出復似處   

非忙亦非閑   

不勞心與力   

又免飢與寒   

終歳無公事   

隨月有俸錢   

君若好登臨   

城南有秋山   

君若愛遊蕩   

城東有春園   

君若欲一醉   

時出赴賓筵   

洛中好君子   

可以恣歡言   

君若欲高臥   

但自深掩關   

亦無車馬客   

造次到門前   

人生處一世   

其道難兩全   

賤即苦凍餒   

貴則多憂患   

唯此中隱士   

致身吉且安   

窮通與豐約   

正在四者間   




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  香炉峰下、新卜山居、
   草堂初成、偶題東壁  白居易(中唐)


日高睡足猶慵起     小閣重衾不怕寒
遺愛寺鐘欹枕聴     香炉峰雪撥簾看
匡廬便是逃名地     司馬仍為送老官
心泰身寧是帰処     故郷何独在長安


日高く睡り足りて猶ほ起くるに慵(ものう)
小閣に衾を重ねて寒を怕れず
遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き
香炉峰の雪は簾を撥げて看る
匡廬はすなはちこれ名を逃るるの地
司馬はなほ老を送るの官たり
心泰く身寧きはこれ帰する処
故郷何ぞ独り長安に在るのみならんや



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  酔中対紅葉   白居易(中唐)


臨風杪秋樹   風に臨む 杪秋の樹

対酒長年人   酒に対す 長年の人

酔貌如霜葉   酔貌 霜葉の如く

雖紅不是春   紅なりと雖も 是れ春ならず



[口語訳]
 北風に立ち向かう 晩秋の樹木
 酒についむかう 年のたけたこの私
 酔った顔は霜枯れの紅葉のようだ
 真っ赤になっているけれど、春だというわけじゃない


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  紫陽花   白居易(中唐)


何年植向仙壇上   何れの年に植えて仙壇上に向かう

早晩移栽到梵家   早晩移し栽えて梵家に到る

雖在人間人不識   人間に在りと雖も人識らず

与君名作紫陽花   君に名を与えて紫陽花と作す



[口語訳]
 いつの頃に仙人のもとに植えたのだろうか
 いつ移植をしてこの寺にまでたどり着いたのだろうか
 人間世界に在るというのに人は誰もその名を知らない
 あなたに「紫陽花」という名をあげましょう


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  別種東坡花樹両絶   白居易(中唐)


花林好住莫顦顇   花林 好住して 顦顇すること莫れ

春至但知依旧春   春至らば但だ知れ 旧に依りて春なるを

楼上明年新太守   楼上 明年 新太守

不妨還是愛花人   妨げず 還た是れ花を愛する人



[口語訳]
 花の林よ この地で健やかに やつれることのないように
 春が来たら昔と同じ春だと思うようにしておくれ
 楼上に来年来る新しい太守も
 私と同じように花を愛する人かもしれないよ


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  池上 一   白居易(中唐)


山僧対棊坐   山僧 棊に対して坐す

局上竹陰清   局上 竹陰清し

映竹無人見   竹に映じて 人の見る無く

時聞下子声   時に聞く 子を下す声




[口語訳]
 山寺の僧が対局して坐り
 碁盤の上に映る竹の葉かげは清らかだ。
 竹に包まれて見る人もなく、
 時折、石を打つ音が聞こえてくる。




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  池上 二   白居易(中唐)


小娃撑小艇   小娃 小艇を撑(あやつ)り

偸採白蓮廻   偸かに白蓮を採りて廻る

不解蔵蹤跡   蹤跡を蔵すを解さず

浮萍一道開   浮萍 一道 開く




[口語訳]
 村の娘が小舟を漕いで
 こっそりと白蓮の花を採って帰ってくる。
 舟の跡をかくす方法を知らないようで
 浮き草が一筋の道を開いている。





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  慈烏夜啼   白居易(中唐)


慈烏失其母   慈烏(じう) 其の母を失い

唖唖吐哀音   唖唖 哀音を吐く

昼夜不飛去   昼夜 飛び去らず

経年守故林   経年 故林を守る

夜夜夜半啼   夜夜 夜半に啼き

聞者為霑襟   聞く者 為に襟を霑(うるお)

声中如告訴   声中 告訴するが如し

未尽反哺心   未だ反哺の心を尽さずと

百鳥豈無母   百鳥 豈に母無からんや

爾独哀怨深   爾(なんじ)独り 哀怨深し

応是母慈重   応に是れ 母の慈しみ重くして

使爾悲不任   爾をして悲しみ任(た)えざらしむるべし

昔有呉起者   昔呉起という者有り

母没喪不臨   母没すれど 喪に臨まず

嗟哉斯徒輩   嗟哉(ああ) 斯の徒輩

其心不如禽   其の心 禽にも如かず

慈烏復慈烏   慈烏 復た慈烏

鳥中之曽参   鳥中の曽参たり


[語釈]
 「慈烏」はからすの一種で、慈鴉(じあ)とも言う。この鳥は、母が産まれた子を六十日間養育すると、子は生長した後、母烏に六十日間餌を運んで恩返しをすると言い伝えられている。
 「反哺心」は、子が母に口移しに餌を与えて養うことから、孝行の心のこと。
 「呉起」は、戦国時代の衛の国の人。兵法軍事の大家として有名。まだ世に出る前に、「卿相にならなかったら、故国へは帰らない」との母への約束を守り、母の死に際しても帰国しなかったという。
 「曽参」は、孔子の弟子で、親孝行で有名。呉起の師であるが、母の死に帰国しない呉起を見て絶交したと言われる。
           (「漢詩鑑賞辞典」東京堂出版より)

[口語訳]
 慈烏がその母烏を失い、カアカアと悲しげに啼いている
 昼も夜も古巣の林を離れず、いつまでも、母烏を慕っている
 毎夜 夜中過ぎに鳴き、聞く者はその哀しげな声につい涙で襟を濡らしてしまう
 その声はまるで訴えているようだ、まだ自分は孝行を尽くしていないのだと
 多くの鳥達にどうして母のいないことがあろうか、だが、お前だけが悲しみが深い
 きっと母の愛情が深かったから、お前をこんなに悲しませているのだろう
 昔、呉起というひとがいたが、母親が亡くなっても葬式に行かなかったと言う
 ああ、こんな輩は、その心と言ったら禽にも劣ることだ
 慈烏よ、ああ、慈烏よ、お前は鳥の中でも曽参というべきものだよ。


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  楊柳枝詞   白居易(中唐)


一樹春風千万枝   

嫩於金色軟於糸   

永豊西角荒園裏   

尽日無人属阿誰   

          (上平声「四支」の押韻)




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  對酒   白居易(中唐)


蝸牛角上争何事   蝸牛角上 何事をか争ふ

石火光中寄此身   石火光中 此の身を寄す

随富随貧且歓楽   富に随ひ 貧に随ひ 且く歓楽せよ

不開口笑是痴人   口を開いて笑はざるは是れ痴人

          (上平声「十一真」の押韻)




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  過元家履信宅   白居易(中唐)


雞犬喪家分散後   雞犬 家を喪ふ 分散の後

林園失主寂寥時   林園 主を失ふ 寂寥の時

落花不語空辭樹   落花語はず 空しく樹を辞す

流水無情自入池   流水情無く 自ら池に入る

風蕩醼船初破漏   風 醼船(えんせん)を蕩して 初めて破漏し

雨淋歌閣欲傾敧   雨 歌閣に淋いで 傾敧せんと欲す

前庭後院傷心事   前庭後院 心を傷ましむる事

唯是春風秋月知   唯だ是れ 春風秋月の知るのみ

          (上平声「四支」の押韻)



[略解]
 かつて共に花を愛で、詩を和した友はもういない。
 花は何も言わず、主人の後を追うように散り急ぎ、流れる水は無心。
 かつて酒宴を催した船、歌舞を楽しんだ建物、前の庭も後ろの庭も、全てが私の心を悲しませることを、ただ、春風と秋月だけが知っている。
 
 
 

 「元家」は白居易の無二の親友であった「元稹」の家、長安の履信という里に三年前に新築したばかりでしたが、八三一年七月に死んでしまいました。
 この詩は春の詩ですので、元稹が亡くなって半年ほどのことです。
 友の家を訪れ、悲しみに沈む気持ちが頷聯の描写に象徴的に描かれています。


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  江樓宴別   白居易(中唐)


樓中別曲催離酌   楼中の別曲 離酌を催し

燈下紅裙間緑袍   燈下の紅裙 緑袍に間(まじ)はる

縹緲楚風羅綺薄   縹緲たる楚風 羅綺(らき)薄く

錚鏦越調管弦高   錚鏦(そうそう)たる越調 管弦高し

寒流帶月澄如鏡   寒流月を帯びて 澄めること鏡の如く

夕吹和霜利似刀   夕吹霜に和して 利きこと刀の似し

尊酒未空歡未盡   尊酒未だ空しからず 歓未だ尽きず

舞腰歌袖莫辭労   舞腰 歌袖 労を辞すること莫かれ

          (上平声「四豪」の押韻)



「離酌」: 別れの杯 
「緑袍」: 身分の低い役人の服
「羅綺」: 薄絹の窓幕
「錚鏦」: 鐘や琴がちんちんと鳴る音


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  冬日田園雑興 其八   范成大(南宋)


榾柮無煙雪夜長   榾柮そだに煙無く 雪の夜は長し

地炉煨酒煖如湯   地炉に酒をけば あたたかきこと湯の如し

莫嗔老婦無盤飣   いかる莫かれ 老婦の盤飣ばんてい無きを

笑指灰中芋栗香   笑ひて 灰中の芋と栗の香ばしきを指す



[口語訳]
 端木は勢いよく燃えて煙もなく、雪の夜は長いよ
 地面の爐では酒を温めているが、湯のようにあたたかい。
 ばあさんを怒らないでくれよ、皿につまみが無いからと言って、
 ほら、笑って指さしているよ、灰の中に芋と栗が香ばしく焼けているのをね。


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  江上漁者   范仲淹(北宋)


江上往来人   江上 往来の人

但愛鱸魚美   但だ鱸魚の美を愛するのみ

君看一葉舟   君看よ 一葉の舟の

出没風波裏   風波の裏に出没するを

          (上声「四紙」の押韻)



[口語訳]
 川のほとりを行き交う人は
 ただ鱸魚のうまさを愛するだけだ
 君 見てごらん 一葉の小舟が
 風吹く波間に出ては消えるのを


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  牡丹   皮日休(晩唐)


落尽残紅始吐芳   

佳名喚作百花王   

競誇天下無双艶   

独占人間第一香   




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  過零丁洋   文天祥(南宋)


辛苦遭逢起一經   辛苦に遭逢するは一經より起こり

干戈落落四周星   干戈落落たり 四周星

山河破碎風飄絮   山河は破碎し 風は絮を飄し

身世浮沈雨打萍   身世は浮沈し 雨は萍を打ち

惶恐灘頭説惶恐   惶恐灘頭 惶恐を説き

零丁洋裏歎零丁   零丁洋裏 零丁を歎く

人生自古誰無死   人生 古自り 誰か死無からん

留取丹心照汗青   丹心を留取して汗青を照らさん



[口語訳]
苦難に出会うのは進士に合格した時から
戦乱は途切れることなく四年が過ぎた
山河は破壊され、風は柳絮を翻らせる。
この身は浮き沈みして、雨は萍を打っている。
惶恐灘のほとりで惶恐(おそれおののき)を話し
零丁洋では零丁(わびしさ)を嘆く。
人生は昔から誰が死を無くせようか。
赤き忠誠心を留めて、歴史に名を残そう。


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  雪梅   方岳(南宋)


有梅無雪不精神   梅有りて雪無ければ 精神ならず

有雪無詩俗了人   雪有りて詩無ければ 人を俗了す

薄暮詩成天又雪   薄暮詩成りて 天又雪ふる

與梅併作十分春   梅と併せ作す 十分の春



[口語訳]
梅が咲いても雪が降らないと生き生きした風景にならない
雪が降っても詩が出来なければ 人を俗なものにしてしまう
夕暮れに詩が出来上がり 空からはまた雪が降ってきた
梅と併せて(三つが揃い)申し分のない春になったことだ


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  登科後   孟郊(中唐)


昔日齷齪不足誇   昔日の齷齪 誇るに足らず

今朝放蕩思無涯   今朝 放蕩 思い涯(はて)無し

春風得意馬蹄疾   春風 意を得て 馬蹄疾し

一日看尽長安花   一日 看尽くす 長安の花

             (下平声六麻の押韻)

[口語訳]
 合格前の、あの齷齪(あくせく)していた時のことは自慢にもならないが、
 合格の今朝は のびやかな気持ちは果てしがない。
 春風の中、得意満面、馬を風の如く走らせ、
 一日で、長安の花の名所を全て見てしまおう。


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  再下第   孟郊(中唐)


一夕九起嗟   一夕 九たび起ちてなげ

夢短不到家   夢は短くして 家に到らず

両度長安陌   ふたたわたる 長安のみち

空将涙見花   空しく涙をって 花を見る



[口語訳]
 一晩に九度も起き上がってはため息ばかり
 帰郷の夢は途中で切れて 家にも辿り着けない。
 また今年も長安の通りを歩きながら
 空しい涙を伴って花を見ることになってしまった。


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  臨洞庭上張丞相  孟浩然(盛唐)


八月湖水平   八月 湖水平らかにして

涵虚混太清   虚を涵して太清に混ず

気蒸雲夢沢   気は蒸す 雲夢の沢

波撼岳陽城   波は撼がす 岳陽城

欲済無舟楫   済らんと欲するも 舟楫無く

端居恥聖明   端居して 聖明に恥づ

坐観垂釣者   坐ろに釣りを垂るる者を観れば

徒有羨魚情   徒らに魚を羨むの情有り



[口語訳]
 八月 洞庭湖の水は平らに広がり
 大空をひたし、遥かに混ざり合っている
 立ち上る雲や霧はこの雲夢うんぼうの沢にたちこめ
 寄せる波は岳陽の町を揺るがせるほどだ。
 湖を渡ろうとしても舟が無い
 じっとしているだけでは、天子に申し訳ないのに
 ふと、釣り糸を垂らしている人を眺めては
 魚を欲しがる気持ちが湧いてくるだけ(網=才能が無いのはどうしようもない)


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  春暁  孟浩然(盛唐)


春眠不覚暁
処処聞啼鳥
夜来風雨声
花落知多少


春眠暁を覚えず
処処に啼鳥を聞く
夜来風雨の声
花落つること知る多少ぞ



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  小池   楊万里(南宋)


泉眼無聲惜細流   

樹陰照水愛晴(情)柔   

小荷纔露尖尖角   

早有蜻蜓立上頭   

          (下平声「十一尤」の押韻)



「泉眼」: 泉水的出水口。


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  憫農   楊万里(南宋)


稲雲不雨不多黄   

蕎麦空花早著霜   

已分忍饑度残歳   

更堪歳裏閏添長   

          (下平声「七陽」の押韻)




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  自遣   羅隠(晩唐)


得即高歌失即休   得れば即ち高歌し 失すれば即ち休む

多愁多恨亦悠悠   多愁 多恨 亦た悠悠

今朝有酒今朝酔   今朝酒有れば 今朝酔ひ

明日愁来明日愁   明日愁ひ来たれば 明日愁ふ




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  京中正月七日立春   羅隠(晩唐)


一二三四五六七   一二三四五六七

萬木生芽是今日   万木芽を生ずるは是れ今日

遠天帰雁払雲飛   遠天の帰雁雲を払って飛び

近水遊魚迸氷出   近水の遊魚氷をほとばしって出づ



[口語訳]
 正月も一日、二日、三四五六日と過ぎて、七日になる
 全ての木々が新しく芽ぶくのが今日の立春
 遠い空の北へ帰る雁は雲を払うように飛んで行き、
 近くの川を泳ぐ魚は氷をうち砕くようにして水面を飛び跳ねている


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  夢天   李賀(中唐)


老兔寒蟾泣天色   老兔と寒蟾と天色に泣き

雲楼半開壁斜白   雲楼は半ば開きて 壁は斜めに白し

玉輪軋露湿団光   玉輪は露にきしりて団光湿うるお

鸞珮相逢桂香陌   鸞珮は相逢う 桂香のみち

黄塵清水三山下   黄塵と清水と三山の下

更変千年如走馬   更まり変わることは千年も走馬の如し

遥望斉州九点煙   遥かに望めば斉州は九点の煙

一泓海水杯中瀉   一泓の海水 杯中にそそ



[口語訳]
 月に棲むという老いた兔と寒そうなヒキガエルが空に向かって泣けば
 雲の高楼は半ば開いて、その雲の壁は斜めに白く輝いている。
 月の輪は露にきしんで光はにじみ
 鸞珮を身につけた仙女達は木犀の香る道に行き交う
 下界では黄色い砂塵が神山(蓬莱・方丈・瀛州)の下、既に清水となり
 世の中の変化は千年の時間も白駒が走り去るように過ぎていく
 遥かに月から中国を望めば、もやの中の九つの点
 ひとたまりの海原は杯に注がれた水のようなものだ


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  秋来   李賀(中唐)


桐風驚心壮士苦   桐風心を驚かし 壮士苦しむ

衰灯絡緯啼寒素   衰灯 絡緯 寒素を啼く

誰看青簡一編書   誰か青簡一編の書を看て

不遣花蟲粉空蠹   花蟲をして粉として空しくむしばましめざる

思牽今夜腸応直   思い牽きて 今夜 腸 応に直なるべし

雨冷香魂弔書客   雨は冷やかにして 香魂 弔客をあわれむ

秋墳鬼唱鮑家詩   秋墳 鬼は唱う 鮑家の詩

恨血千年土中碧   恨血 千年 土中の碧



[口語訳]
 桐の葉を吹き抜ける風に秋を知り、壮士である私は心を苦しめるのだ
 消えそうな灯りの下、こおろぎがはたを織るように寂しく啼いている
 いったい誰がこの私の書を
 紙魚のために粉だらけにされることなく読んでくれることだろう
 この強い胸の思いのために腸も真っ直ぐ伸びるだろう
 雨は冷たく降り、香しい美女の魂が筆をとる私を慰めに来てくれる
 秋の寂しい墓場では幽霊が鮑照の(死者の嘆きの)詩を歌っている
 恨みを籠めた死者の血が固まり、千年たった今も土の中で碧玉となって残っているのだ


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  遊山西村   陸游(南宋)


莫笑農家臘酒渾   笑ふ莫かれ 農家の臘酒渾れるを

豊年留客足鶏豚   豊年 客を留むるに 鶏豚足れり

山重水複疑無路   山重水複 路無きを疑ふ

柳暗花明又一村   柳暗花明 又た一村

簫鼓追随春社近   簫鼓追随して 春社近く

衣冠簡朴古風存   衣冠簡朴にして古風存す

従今若許閑乗月   今従り若し 閑かに月の乗ずるを許さば

挂杖無時夜叩門   杖に挂り 時無く 夜門を叩かん



[口語訳]
 笑わないでおくれ 農家が師走に仕込んだ酒が濁っているからと言って
 豊作だから客をもてなすのに鶏も豚もたっぷりあるよ
 山は重なり川も入り組み 道は行き止まりかと思ったに
 柳の茂る暗い所を抜けると パッと明るく花が咲き そこには又一村があった
 簫と鼓の音はどこまでも耳から離れないのは 春の祭りが近いから
 簡素な衣服を着けて 昔の風俗を大切にしている
 これからももし月明かりに出かけるのを許して下さるのなら
 杖を頼りに好きな時に 夜中に門を叩かせてもらいましょうかね



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  沈 園   陸游(南宋)


城上斜陽画角哀   城上の斜陽 画角哀し

沈園非復旧池台   沈園 復た旧池台に非ず

傷心橋下春波緑   傷心 橋下 春波緑なるに

曽是驚鴻照影来   曽て是れ 驚鴻の影を照らし来る



[口語訳]
 城壁にかかる夕陽 美しい角笛は哀しい
 沈園では池の建物も昔のままではない。
 心がいたむのは、橋の下の春の川波の緑色
 かつては飛び立つ雁の姿を映していたのに


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  小園 其一  陸游(南宋)


小園煙草接鄰家   小園の煙草 隣家に接し

桑柘陰陰一徑斜   桑柘 陰陰 一径斜めなり

臥讀陶詩未終巻   臥して陶詩を読みて 未だ巻を終えざるに

又乘微雨去鋤瓜   又微雨に乗じて去きて瓜を鋤く



[口語訳]
 小さな畑は、雨にけぶる草が隣の家に接している
 桑やまぐわの枝がこんもり繁り、小さな道が斜めに続く。
 寝転がって陶淵明の詩をまだ読み終わっていないのに
 小雨になったからまた瓜を鋤きに行くのだよ


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  示児   陸游(南宋)

死去元知万事空
但悲不見九州同
王師北定中原日
家祭無忘告乃翁



死し去れば 元より知る 万事は空しと、
但だ悲しむ 九州の同じきを見ざるを
王師 北のかた中原を定めん日
家祭 忘るる無かれ 乃翁に告ぐるを

[口語訳]
 死んでしまえば全ては空しいことだと、かねて知ってはいたが、
 ただ、天下が統一されるのをこの目で見られぬのが悲しいことだ。
 やがて我が(宋の)軍隊が(金を破って)中原を平定した時には
 先祖の祭りに、この親爺に報告することを忘れるではないぞ。


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  剣門道中遇微雨   陸游(南宋)


衣上征塵雑酒痕   衣上の征塵 酒痕に雑り

遠遊無処不消魂   遠遊 処として魂を消さざるは無し

此身合是詩人未   此身はまさに是れ 詩人たるべきやいな

細雨騎驢入剣門   細雨 驢に騎りて 剣門に入る



[口語訳]
 服に付いた旅の汚れには 酒の染みまでが混じっている
 遠くまでの旅では どこに行っても魂が消えたような空しい気持ちだ
 この私は詩人であるべきなのか どうなのか
 細かな雨に打たれつつ ロバに乗って 剣門に入っていく


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  對酒   陸游(南宋)


扇邉生怕庾公塵   扇辺 庾公の塵を生怕す

索笑來遊錦水M   索笑し 来遊す 錦水の濱

四野雲齊初釀雪   四野 雲霽れて 初めて雪を醸し

一枝梅動已催春   一枝 梅動きて 已に春を催す

国ク有味能消日   緑尊 味有りて 能く日を消す

白髮無情不貸人   白髪 無情 人に貸さず

商略此生何所恨   商略す 此の生 何の恨む所ぞ

太平時得自由身   太平 時に自由の身を得たり

          (上平声「十一真」の押韻)



【語注】
「扇邉」…門の扉のあたり、或いは手に持つ扇か。
「生怕」…恐れる、心配する
「庾公塵」…世俗の権勢を誇ること
「索笑」…楽しみを求める
「錦水濱」…成都を流れる錦江のほとり
「国ク」…おいしい酒のこと。「酒樽」とも。
「消日」…一日を過ごす
「不貸人」…人に姿を見せない
「商略」…考えをめぐらす

[大意]
 世俗の塵に紛れるのは嫌だから
 楽しみを求めて錦江までやって来た
 辺り一面 雲は晴れて 雪の気配が漂い
 梅の一枝は花を着けて もう春の趣だ
 酒杯は美味 これで今日も乗り切れる
 老いた我が身は心も枯れて 人前に出ることもない
 考えてみると、私の人生 何を恨むところがあろうか
 平穏なこの時 自由の身を居られることだ

※この詩につきましては、注釈書がありません。
 桐山人が解釈をしましたので、お気づきの点がありましたらご指摘ください。


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  楽遊原   李商隠(晩唐)

向晩意不適
駆車登古原
夕陽無限好
只是近黄昏



晩に向(なんな)んとして意(こころ)適はず
車を駆って古原に登る
夕陽 限り無く好し
只だ是れ 黄昏に近し


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  夜雨寄北   李商隠(晩唐)

君問帰期未有期
巴山夜雨漲秋池
何当更翦西窓燭
却話巴山夜雨時



君は帰期を問ふも 未だ期有らず
巴山の夜雨 秋池に漲る
何当(いつ)か更に 西窓の燭を翦り
却りて話らん 巴山夜雨の時


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  錦瑟   李商隠(晩唐)


錦瑟無端五十絃   錦瑟 端無くも 五十絃

一絃一柱思華年   一絃 一柱 華年を思う

荘生暁夢迷蝴蝶   荘生の暁夢 蝴蝶 迷い

望帝春心託杜鵑   望帝の春心 杜鵑に託す

滄海月明珠有涙   滄海 月明らかにして 珠 涙有り

藍田日暖玉生烟   藍田 日暖かにして 玉 烟を生ず

此情可待成追憶   此の情 追憶を成すを待つべけんや

只是当時已惘然   只だ是れ 当時 已に惘然たり



[口語訳]
 錦もようの瑟は はからずも五十弦
 弦一本 琴柱ひとつにもかつての日々が思い出される
 荘子が明け方の夢で蝶になったように心はまどい
 望帝が春の心を杜鵑に託したように哀しい
 青い海で月明かりの下 人魚が涙を流すように
 藍田のあたたかな日の下 玉がはかなく消えるように
 この気持ちは思い出すことから来るのだろうか
 ただ、この時にはすでに魂は夢の世界をさまよっているのだ


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  哭晁卿衡   李白(盛唐)


日本晁卿辭帝都   日本の晁卿 帝都を辞し

征帆一片遶蓬壺   征帆一片 蓬壺を遶る

明月不歸沈碧海   明月帰らず 碧海に沈み

白雲愁色滿蒼梧   白雲 愁色 蒼梧に満つ



[口語訳]
 日本の晁卿さんは都長安を去り
 船の帆 一片 蓬壺の日本を遶った。
 明るい月(のような晁卿さん)は青々とした海に沈み
 白雲は愁いを帯びて 蒼梧の海に広がっている。


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  贈内   李白(盛唐)


三百六十日   三百六十日

日日酔如泥   日日酔うて泥の如し

雖為李白婦   李白の婦と為ると雖も

何異太常妻   何ぞ太常の妻と異ならんや



[口語訳]
 一年三百六十日
 毎日毎日酔っぱらっては泥虫のようだ
 お前さんは李白の妻になったと言っても
 全くあの年中身を清めていなくてはならない太常の妻と違いがどこにあろうかね。


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  送温処子帰黄山白鵝峰旧居   李白(盛唐)


黄山四千仞   黄山 四千仞

三十二蓮峰   三十二蓮峰

丹崖夾石柱   丹崖 石柱を夾み

菡萏金芙蓉   菡萏 金芙蓉

伊昔昇絶頂   伊れ 昔 絶頂に昇り

下窺天目松   下に窺ふ 天目の松

仙人煉玉処   仙人 玉を煉る処

羽化留余蹤   羽化 余蹤を留む

亦聞温伯雪   亦た聞く 温伯雪

独往今相逢   独往 今 相逢ふ

採秀辞五岳   秀を採りて五岳を辞し

攀巌歴万重   巌に攀じりて歴ること万重

帰休白鵝嶺   帰休す 白鵝嶺

渇飲丹砂井   渇して飲む 丹砂の井

鳳吹我時来   鳳吹 我 時に来たる

雲車爾当整   雲車 爾 当に整ふべし

去去陵陽東   去り去る 陵陽の東

行行芳桂叢   行き行く 芳桂の叢

迴渓十六度   迴渓 十六度

碧嶂尽晴空   碧嶂 晴空に尽く

他日還相訪   他日還た相訪ね

乗橋躡綵虹   橋に乗りて綵虹を躡まん




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  黄鶴楼送孟浩然之広陵   李白(盛唐)


故人西辞黄鶴楼   故人 西のかた 黄鶴楼を辞し

烟花三月下揚州   烟花 三月 揚州に下る

孤帆遠影碧空尽   孤帆の遠影 碧空に尽き

唯見長江天際流   唯だ見る 長江の天際に流るるを



[口語訳]
 昔からの友人は 西のかた この黄鶴楼に別れを告げ、
 霞たなびき花咲き誇る三月、揚州に下る
 君を乗せた一隻の舟の帆は、遠く小さく、はるかな空間に溶け込み
 ただ見えるのは、長江の水が天の果てまで流れていくばかりだ


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  早発白帝城   李白(盛唐)


朝辞白帝彩雲間   朝に辞す 白帝彩雲の間

千里江陵一日還   千里の江陵 一日に還る

両岸猿声啼不住   両岸の猿声 啼き住まざるに

軽舟已過万重山   軽舟已に過ぐ 万重の山



[口語訳]
 朝早くに朝焼け雲の間にある白帝城に別れを告げて
 千里遠く離れた江陵へと一日で帰って行く
 両岸の悲しげな猿の鳴き声はまだ残っているうちに
 軽い舟はもう已に三峡の万重の山を通り抜けていく


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  峨眉山月歌   李白(盛唐)


峨眉山月半輪秋   峨眉山月 半輪の秋

影入平羌江水流   影は平羌に入りて 江水流る

夜発清渓向三峡   夜清渓を発して 三峡に向かふ

思君不見下渝州   君を思へども見えず 渝州に下る



[口語訳]
 峨眉山にかかる月は半円 秋の月
 その光は平羌江に映じ 江水は光を乗せて流れていく
 夜に清渓を出発して三峡へと向かう
 君を思うけれども会えないまま 渝州へと下っていく


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  子夜呉歌(秋)   李白(盛唐)


長安一片月   長安 一片の月

万戸擣衣声   万戸 衣を擣つの声

秋風吹不尽   秋風 吹きて尽きず

総是玉関情   総て是れ 玉関の情

何日平胡虜   何れの日か 胡虜を平らげて

良人罷遠征   良人 遠征を罷めん




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  送友人   李白(盛唐)


青山横北郭   青山 北郭に横たはり

白水遶東城   白水 東城を遶る

此地一為別   此地 一たび別れを為し

孤蓬万里征   孤蓬 万里に征く

浮雲遊子意   浮雲 遊子の意

落日故人情   落日 故人の情

揮手自茲去   手を揮ひて茲より去れば

蕭蕭班馬鳴   蕭蕭として 班馬鳴く




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  把酒問月   李白(盛唐)


天有月來幾時   

我今停杯一問之   

人攀明月不可得   

月行卻與人相隨   

皎如飛鏡臨丹闕   

拷喧ナ盡C輝發   

但見宵從海上來   

寧知曉向雲陝   

白兔搗藥秋復春   

姮娥孤棲與誰鄰   

今人不見古時月   

今月曾經照古人   

古人今人若流水   

共看明月皆如此   

唯願當歌對酒時   

月光長照金樽裏   




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  長干行   李白(盛唐)


妾髮初覆額   妾が髮 初めて額を覆ひ

折花門前劇   花を折りて 門前にたわむ

郎騎竹馬来   郎 竹馬に騎りて来たり

遶牀弄青梅   牀を遶りて 青梅を弄べり

同居長干里   同じく長干の里に居り

両小無嫌猜   両つながら小さく 嫌猜無し

十四為君婦   十四 君が婦と為り

羞顔未嘗開   羞顔 未だ嘗て開かず

低頭向暗壁   頭を低れて 暗壁に向かひ

千喚不一回   千たび喚ばるるも 一たびも回らさず

十五始展眉   十五 始めて眉を展べ

願同塵与灰   塵と灰とに同じからんことを願ふ

常存抱柱信   常に存る 抱柱の信

豈上望夫台   豈に上らんや 望夫の台

十六君遠行   十六 君遠行す

瞿塘灔澦堆   瞿塘 灔澦堆

五月不可觸   

猿鳴天上哀   

門前遅行跡   

一一生緑苔   

苔深不能掃   

落葉秋風早   

八月蝴蝶来   

双飛西園草   

感此傷妾心   

坐愁紅顔老   

早晩下三巴   

預将書報家   

相迎不道遠   

直至長風沙   




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  登金陵鳳凰台    李白


鳳凰台上鳳凰遊     鳳去台空江自流
呉宮花草埋幽径     晋代衣冠成古邱
三山半落青天外     二水中分白鷺洲
総為浮雲能蔽日     長安不見使人愁


鳳凰台上 鳳凰遊ぶ
鳳去り台空しくして 江自ずから流る
呉宮の花草 幽径を埋め
晋代の衣冠 古邱と成れり
三山半ば落つ 青天の外
二水中分す 白鷺洲
総べて浮雲の能く日を蔽うが為に
長安は見えず 人をして愁えしむ



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  静夜思  李白(盛唐)


牀前看月光
疑是地上霜
挙頭望山月
低頭思故郷



牀前月光を看る
疑ふらくはこれ地上の霜かと
頭を挙げて山月を望み
頭を低れて故郷を思ふ




[口語訳]
 ベッドに横たわっていると、月の光が差し込んでいる。

 疑ってしまったのは、これは地面に降りた霜かと。

 頭を持ち上げて山にかかる月を眺め

 頭を降ろしては故郷を思い出す。





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  秋浦歌  李白(盛唐)


白髪三千丈
縁愁似箇長
不知明鏡裏
何処得秋霜



白髪三千丈
愁いに縁(よ)りて箇(か)くの似(ごと)く長し
知らず明鏡の裏(うち)
何れの処にか秋霜を得たるを



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  贈孟浩然   李白(盛唐)


吾愛孟夫子   吾は愛す 孟夫子

風流天下聞   風流 天下に聞こゆ

紅顔棄軒冕   紅顔 軒冕を棄て

白首臥松雲   白首 松雲に臥す

酔月頻中聖   月に酔うて 頻りに聖に中り

迷花不事君   花に迷うて 君に事へず

高山安可仰   高山 安んぞ仰ぐべけんや

徒此揖清芬   徒らに此に清芬に揖す



[口語訳]
 私は孟浩然先生が好きだ。
 その風雅な人柄は国中に評判だ。
 若い頃に官位の望みを捨て、
 白髪の現在まで高い松の木陰に臥している。
 月を肴にしきりに清酒に酔い、
 花に心奪われて天子に仕えようともしない。
 高い山のような人柄はどうして仰ぎ見ることができよう。
 ただ、ここで清らかな姿に敬意を表すだけだ。


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  山中對酌  山中與幽人對酌(山中にて幽人と対酌す)   李白(盛唐)


両人對酌山花開   両人対酌すれば 山花開く

一杯一杯復一杯   一杯 一杯 復た一杯

我酔欲眠卿且去   我酔いて眠らんと欲す 卿且(しばら)く去れ

明朝有意抱琴来   明朝 意有らば 琴を抱きて来たれ

              (上平声「十灰」の押韻)


[口語訳]
 二人差し向かいで酒を飲んでいると、丁度、山の花が開いていく。
 一杯、まあ一杯、またまた一杯
 私はどうやら酔って眠くなったようだ。君はまた、好きにしてくれ。
 明日の朝、その気になったら琴を持って来てくれよ。





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  清平調詞 一   李白(盛唐)


雲想衣裳花想容   雲には衣裳を想ひ 花にはかんばせを想ふ

春風払檻露華濃   春風檻を払ふて 露華濃かなり

若非群玉山頭見   若し群玉山頭に見るに非ざれば

会向瑤台月下逢   かならず瑤台月下にいて逢はん



[口語訳]
 雲を見れば(妃子)の衣装を思うし、(牡丹の)花を見れば容顔を思う
 春風は欄干を吹き抜け 玉のような露は濃やかに降りている。
 もし群玉山の頂で会うのでなかったら
 瑤台の月の下でなくては逢えないであろう。

  (西王母か有娀氏の美女のように、この世の人とは思えない美しさだ)


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  清平調詞 二   李白(盛唐)


一枝濃艶露凝香   一枝濃艶 露 香を凝らす

雲雨巫山枉断腸   雲雨 巫山 むなしく断腸

借問漢宮誰得似   借問す 漢宮 誰か似たるを得ん

可憐飛燕倚新粧   可憐の飛燕 新粧に倚る



[口語訳]
 一枝の濃艶な牡丹 露は香を凝縮させている(ような楊貴妃のお姿)
 かつて巫山の雲雨を眺めて断腸の思いをした楚の襄王(などはお気の毒)
 ちょっとお伺いしましょう、漢の宮殿の中で誰がこの方に匹敵するでしょうか
 愛らしい趙飛燕が化粧をしたばかりの姿を誇っているところでしょう。


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  清平調詞 三   李白(盛唐)


名花傾国両相歓   名花 傾国 両つながら相歓ぶ

常得君王帯笑看   常に君王の笑ひを帯びて看るを得たり

解釈春風無限恨   解釈す 春風無限の恨み

沈香亭北倚欄干   沈香亭北 欄干に倚る



[口語訳]
 美しい牡丹と美しい美人 どちらも寵愛を受けて
 いつでも君王が笑みを含んで見ていらっしゃることだ
 (花も美女も)春風のもたらす限りない愁いを吹き払い
 沈香亭の北、欄干にもたれている


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  宣城見杜鵑花   李白(盛唐)


蜀国曾聞子規鳥   蜀国にて曾て聞く 子規の鳥

宣城還見杜鵑花   宣城にて還た見る 杜鵑の花

一叫一廻膓一断   一叫 一廻 膓一断

三春三月憶三巴   三春 三月 三巴を憶ふ



[口語訳]
 蜀の国でかつて子規の鳴くのを聞いた。
 宣城で今また 杜鵑の花が咲くのを見た。
 杜鵑が一叫び 一廻りすると、私の哀しみもひときわ深まる。
 春の三月 故郷の三巴(蜀)が懐かしく思い出されることだ。


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  望廬山瀑布   李白(盛唐)


日照香爐生紫烟   日は香炉を照らして 紫烟生ず

遙看瀑布挂長川   遥かに看る 瀑布の長川を挂くるを

飛流直下三千尺   飛流 直下 三千尺

疑是銀河落九天   疑ふらくは是 銀河の九天より落つるかと



[口語訳]
 日の光は香炉峰を照らして、紫の煙が立ち上っている
 遥か遠く 滝が長い川を掛けたように流れ落ちているのが見える。
 飛び下る流れは まっすぐに三千尺
 銀河の水が空高くから落ちてきているのではないかと思ってしまう。


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  太原早秋   李白(盛唐)


歳落衆芳歇   歳落ちて衆芳

時当大火流   時は大火の流るるに当たる

霜威出塞早   霜威 塞を出て早く

雲色渡河秋   雲色 河を渡りて秋なり

夢繞辺城月   夢は繞る 辺城の月

心飛故国楼   心は飛ぶ 故国の楼

思帰若汾水   帰らんと思ふこと 汾水の若し

無日不悠悠   日として悠悠ならざるは無し

          (下平声「十一尤」の押韻)




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  将進酒   李白(盛唐)


君不見 黄河之水天上来 君見ずや 黄河の水 天上より来るを

奔流到海不復回      奔流海に到りて復た回らず

君不見 高堂明鏡悲白髮 君見ずや 高堂の明鏡 白髮を悲しむを

朝如青絲暮成雪      朝には青絲の如く 暮には雪と成る

人生得意須尽歓      人生の得意 須らく歓を尽くすべし

莫使金樽空対月      金樽をして空しく月に対せしむること莫れ

天生我材必有用      天の生我が材を生ずる 必ず用有り

千金散尽還復来      千金散じ尽くさば 還た復た来らん

烹羊宰牛且為楽      羊を烹て 牛を宰して且く楽しみを為さん

会須一飲三百杯      かならず須く一飲三百杯なるべし

岑夫子 丹丘生       岑夫子 丹丘生

将進酒 君莫停      将に酒を進めんとす 君停むること莫れ

与君歌一曲         君が与に歌一曲

請君為我側耳聴      請ふ君 我が為に耳を側けて聴け

鐘鼓饌玉不足貴      鐘鼓 饌玉 貴ぶに足らず

但願長酔不願醒      但だ長酔を願って醒むるを願はず

古来聖賢皆寂寞      古来 聖賢 皆 寂寞

惟有飲者留其名      惟だ飲む者のみ其の名を留むる有り

陳王昔時宴平楽      陳王 昔時 平楽に宴し

斗酒十千恣讙謔      斗酒十千 讙謔をほしいままにす

主人何為言少銭      主人何為れぞ銭少なしと言はん

径須沽取対君酌      ただちに須らく沽ひ取りて君に対して酌まん

五花馬 千金裘       五花の馬 千金の裘

呼兒将出換美酒      呼兒将出換美酒

与爾同消万古愁      与爾同消万古愁

          (換韻)




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  山中問答   李白(盛唐)


問余何意棲碧山   余に問ふ 何の意ありてか碧山に棲むと

笑而不答心自閑   笑って答へず 心自ずから閑なり

桃花流水窅然去   桃花 流水 窅然として去る

別有天地非人間   別に天地の人間に非ざる有り

          (上平声「十五刪」の押韻)




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  別内赴徴(内に別れて徴に赴く)   李白(盛唐)


出門妻子強牽衣   門を出づれば 妻子は強く衣を牽き

問我西行幾日帰   我に問ふ 西行して幾日か帰ると

来時儻佩黄金印   来たる時 儻(も)し黄金の印を佩ぶれば

莫見蘇秦不下機   蘇秦が機(はた)を下りざるを見る莫(な)からん

          (上平声「五微」の押韻)



[口語訳]
  家の門を出ようとすると妻や子供が強く着物を引っ張り
  西に出かけたらいつ帰ってくるのかと私に尋ねる。
  帰って来る時にもし黄金の印を佩びていたら、
  あの蘇秦が機織機から妻が下りようともしないような目にあうことはないだろうよ。

 「西行」:都である長安に行くこと。李白は長江の南に住んでいた。
 「黄金印」:黄金でできた印。宰相や将軍など高位の象徴。
 「蘇秦」:戦国時代の遊説家。強国秦に対抗するために、六国の連盟を組ませた。
     「鶏口牛後(寧ろ鶏口と為るも牛後と為るなかれ)」の言葉で有名。
      世に認められる前は、遊説に失敗して帰ると妻は機織機から下りようともしなかった。


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  宮中行楽詞 十首之二   李白(盛唐)


柳色黄金嫩   柳色は黄金にして嫩(やわら)かに

梨花白雪香   梨花は白雪にして香(かんば)し

玉楼巣翡翠   玉楼には 翡翠巣くひ

金殿鎖鴛鴦   金殿には 鴛鴦を鎖(とざ)す

選妓随雕輦   妓を選びて 雕輦に随(したが)はしめ

徴歌出洞房   歌を徴して 洞房を出でしむ

宮中誰第一   宮中 誰か第一なる

飛燕在昭陽   飛燕は昭陽に在り

          (下平声「七陽」の押韻)



[口語訳]
  柳は黄金色に芽吹き、梨の花は雪のように白く芳しい。
  美しい御殿には雌雄のカワセミが巣を作り、宮殿にはおしどりの夫婦が奥深く暮らす。
  美女を選りすぐって飾り立てた車に乗せ従わせ、歌の巧みな者を召して部屋から出させる。
  宮中で誰が一番でしょう、飛燕のような楊貴妃様は寵愛を受けて昭陽殿にいらっしゃる。


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  蘇台覧古   李白(盛唐)


旧苑荒台楊柳新   旧苑 荒台 楊柳新た

菱歌清唱不勝春   菱歌清唱 春に勝へず

只今惟有西江月   只だ今惟だ有り 西江の月

曾照呉王宮裏人   曾て照らす 呉王宮裏の人

          (上平声「十一真」の押韻)




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  魯郡東石門送杜二甫   李白(盛唐)


酔別復幾日   酔別 復た幾日ぞ

登臨徧池台   登臨 池台に%#24487;し

何言石門路   何ぞ言はん 石門の路

重有金樽開   重ねて金樽の開く有らんと

秋波落泗水   秋波 泗水に落ち

海色明徂徠   海色 徂徠に明らかなり

飛蓬各自遠   飛蓬 各自遠し

且尽林中盃   且く林中の盃を尽くさん

          (上平声「十灰」の押韻)



[口語訳]
  別れを惜しんで酒に酔うこともう幾日、山に登り川に臨み、池のほとりの高台を巡り尽くした。
  この石門の地で再び酒を飲むことがあるなどと、どうして言えるだろうか。
  秋風に立つ波は泗水に広がり、海の様子は徂徠山の向こうに明るく映える。
  飛ぶ蓬のような私達はそれぞれ遠く離れるのだから、しばらくの間でも林の中で酒を飲み尽くそう。


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  沙邱城下寄杜甫   李白(盛唐)


我来竟何事   我の来たるは 竟(つい)に何事ぞ

高臥沙邱城   高臥す 沙(さ)邱(きゆう)城

城辺有古樹   城辺に古樹有り

日夕連秋声   日夕 秋声を連ぬ

魯酒不可酔   魯酒 酔ふべからず

斉歌空復情   斉歌 空しく復た情あり

思君若汶水   君を思へば 汶水の若く

浩蕩寄南征   浩蕩として南征に寄す

          (下平声「八庚」の押韻)



[口語訳]
[口語訳] 私は結局何をしようとしていたのだろうか。この沙邱の町で隠者の如く暮らしている。
町の近くには古い木があり、朝晩秋風に吹かれて音を立てている。
魯の酒は酔えないし、斉の歌はむなしく心を傷めるだけ。
君を思うと心は汶水の流れの如くひろびろと果てなく、この思いを水に託して南の君に送ろう。



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  月下独酌   李白(盛唐)


花間一壺酒   花間 一壺の酒

独酌無相親   独り酌んで 相親しむ無し

挙杯邀明月   杯を挙げて 名月を邀(むか)へ

対影成三人   影に対して 三人と成る

月既不解飲   月 既に飲むを解せず

影徒随我身   影 徒らに我が身に随ふ

暫伴月将影   暫く月と影とを伴ひ

行楽須及春   行楽 須く春に及ぶべし

我歌月徘徊   我歌へば 月 徘徊し

我舞影零乱   我舞へば 影 零乱(りょうらん)す

醒時同交歓   醒時は同に交歓し

酔後各分散   酔後は各々分散す

永結無情遊   永く無情の遊を結び

相期邈雲漢   邈(はる)かなる雲漢に相期さん

          (古詩 換韻)



「行楽」: 楽しみをなすこと
「零乱」: 乱れ動く。「凌乱」とも書く。 「無情遊」:清らかな交遊
「邈雲漢」:はるか遠くの天の川



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  客中行   李白(盛唐)


蘭陵美酒鬱金香   蘭陵の美酒 鬱金の香

玉椀盛来琥珀光   玉椀盛り来る 琥珀の光

但使主人能酔客   但だ主人をして能く客を酔はしむれば

不知何処是他郷   知らず 何れの処か 是れ他郷

          (下平声「七陽」の押韻)



「蘭陵」:美酒の産地  
「鬱金香」:酒をかもす時に使う鬱金草から取った香
「琥珀」:樹脂が凝固した化石  
「但」:限定の意味。〜しさえすれば



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  秋 思   劉禹錫(中唐)

自古逢秋悲寂寥
我言秋日勝春朝
晴空一鶴排雲上
便引詩情到碧霄



古より秋に逢うて 寂寥を悲しむ
我は言う 秋日は春朝に勝ると
晴空一鶴 雲を排して上れば
便(すなわ)ち詩情を引いて碧霄に到る

[口語訳]
 昔から、秋になると寂しい気持ちになるものだが、
 私は言いたい、秋の昼は春の朝よりいいものだと。
 晴れた空に一羽の鶴が、雲を押しのけるように高く上ると
 それにつれて、詩情は青空に舞い上がっていくのだ


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  秋風引   劉禹錫(中唐)


何処秋風至   何れの処よりか秋風至る

蕭蕭送雁群   蕭蕭として雁群を送る

朝来入庭樹   朝来庭樹に入る

孤客最先聞   孤客最も先に聞く



[口語訳]
 どこからなのだろうか、秋風が訪れ
 ひゅうひゅうと吹いて雁の群を送ってきた。
 朝方 庭の木々の間を吹き抜けたが、
 独りぽっちの旅人である私が 誰よりも先に聞いたのさ


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  闕題   劉眘虚(盛唐)


道由白雲盡   道は白雲に由りて尽き

春與青溪長   春は青溪と与に長し

時有落花至   時に落花の至る有りて

遠隨流水香   遠く流水に随ひて香し

阮蛹山路   閑門 山路に向かひ

深柳讀書堂   深柳 読書の堂

幽映毎白日   幽映 毎(つね)に白日

清輝照衣裳   清輝 衣裳を照らす



[口語訳]
 道は白雲に沿って尽き
 春景色は青々とした溪とともに続いている
 時折 落花が流れてきて
 遠く川の水に乗って香りを漂わせる
 静かな山荘の門は山道に向かって開き
 中には深緑の柳に囲まれた書堂がある
 葉を通す微かな光はいつも晴れた空の証
 清らかな日差しは衣服の上を照らしている



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  江雪  柳宗元

千山鳥飛絶
万径人蹤滅
孤舟蓑笠翁
独釣寒江雪



千山 鳥飛ぶこと絶え
万径 人蹤滅す
孤舟 蓑笠の翁
独り釣る 寒江の雪


<口語訳>  遥かに山々の嶺を見れば鳥の飛ぶ姿も見えず
 幾条もの小道では人の足跡も雪に消えた
 舟を出しているのは蓑笠じじいのこの私だけ
 雪の降りしきる川で独り釣り糸を垂れることよ


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  夏昼偶作   柳宗元(中唐)


南州溽暑酔如酒   南州の溽暑 酔うて酒の如し

隠几熟眠開北牖   几に隠りて 熟眠 北ゆうを開く

日午独覚無余声   日午 独り覚めて 余声無し

山童隔竹敲茶臼   山童 竹を隔てて 茶臼を敲く



[口語訳]
 南の国の暑さと来たら、まるで酒に酔ったようなもの
 机にもたれかかってぐっすり、北向きの窓は開けたまま。
 太陽が南に来て、ふと目覚めると、物音も聞こえない。
 召使いが竹林の向こうで茶臼をたたく音が聞こえるだけだ。


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 この詩は七言古詩で長いのですが、古来、日本でも中国でも多くの人に愛唱されてきたものですので、全編紹介しましょう。


  代悲白頭翁  劉庭芝(初唐)

洛陽城東桃李花     飛来飛去落誰家
洛陽女児惜顔色     行逢落花長歎息
今年花落顔色改     明年花開復誰在
已見松柏摧為薪     更聞桑田変成海
古人無復洛城東     今人還対落花風
年年歳歳花相似     歳歳年年人不同
寄言全盛紅顔子     応憐半死白頭翁
此翁白頭真可憐     伊昔紅顔美少年
公子王孫芳樹下     清歌妙舞落花前
光禄池台開錦繍     将軍楼閣画神仙
一朝臥病無相識     三春行楽在誰辺
宛転娥眉能幾時     須臾鶴髪乱如糸
但看古来歌舞地     惟有黄昏鳥雀悲



洛陽城東 桃李の花 飛び来り飛び去りて誰が家にか落つ
洛陽の女児 顔色を惜しみ 行くゆく落花に逢いて長歎息す
今年花落ちて顔色改まり 明年花開いて復た誰か在る
已に見る 松柏の摧かれて薪となるを 更に聞く桑田の変じて海と成るを
古人復洛城の東に無く 今人還って対す 落花の風
年年歳歳花相似たり 歳歳年年人同じからず
言を寄す 全盛の紅顔の子 応に憐れむべし 半死の白頭翁
此の翁白頭 真に憐れむべし 伊れ昔 紅顔の美少年
公子王孫 芳樹の下 清歌妙舞す 落花の前
光禄の池台 錦繍を開き 将軍の楼閣 神仙を画く
一朝 病に臥して相識無く 三春の行楽 誰が辺(ほと)りにか在る
宛転たる娥眉 能く幾時ぞ 須臾にして鶴髪 乱れて糸の如し
但だ看る 古来歌舞の地 惟だ黄昏鳥雀の悲しむ有るのみ


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  山園小梅   林逋(北宋)


衆芳揺落独暄妍       衆芳 揺落して 独り暄妍たり
占尽風情向小園       風情を占め尽くして 小園に向かふ
疎影横斜水清浅       疎影は横斜 水は清浅
暗香浮動月黄昏       暗香 浮動し 月 黄昏
霜禽欲下先偸眼       霜禽 下らんと欲して 先づ眼を偸み
粉蝶如知合断魂       粉蝶 如し知らば 合に魂を断つべし
幸有微吟可相狎       幸ひに微吟の相狎(したし)むべき有り
不須檀板共金尊       (もち)ひず 檀板と金尊とを




[口語訳]
 多くの花が散りしぼんだ時に、ただひとりで咲き誇り
 小さな庭の風情を独占している。
 まばらな枝は斜めにのびて、水は浅く清く
 かすかな香りは漂い来て 月はたそがれの中
 霜のような白い鳥は、舞い降りようとして、(梅の白さに)まず周りをこっそり見回すし、
 白い蝶は、もし白い梅花が咲いているのを知ったなら、きっと驚くことだろう。
 さいわい、小さな声で吟ずるにふさわしい私の好きな詩がある。
 にぎやかな拍子木も酒樽もここには要らないのさ。
 


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  九月十三夜、陣中作   上杉謙信(日本)


霜満軍営秋気清   霜は軍営に満ちて秋気清し

数行過雁月三更   数行の過雁 月三更

越山併得能州景   越山併せ得たり 能州の景

遮莫家郷憶遠征   遮莫(さもあらばあれ) 家郷 遠征を憶ふを

          (下平声「八庚」の押韻)




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  金沢   鱸松塘(日本)


小人謀利率皆然   小人利を謀ること 率(おほむ)ね皆然り

潟鹵能開幾頃田   潟鹵能く開く 幾頃の田

奪却漁村蝦菜業   漁村蝦菜の業を奪却す

湖山無復旧風烟   湖山復た旧風烟無し



[口語訳]
 小人が利を謀ることは何処でも同じ様なもので、
 干潟の塩地さえ開拓すれば幾頃かの稲田は得られる。
 しかし、漁村では魚蝦を捕ったり菜蔬を植える仕事を奪われてしまい、
 湖や山には以前のような風景はすっかり無くなってしまった。


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  春日偶成 其二   夏目 漱石(日本・明治)


竹密能通水   竹密にして能く水を通じ

花高不隠春   花高くして春を隠さず

風光誰是主   風光 誰か是れあるじなる

好日属詩人   好日 詩人に属す



[口語訳]
 竹は密生し 巧みに水を流し
 花は高くにあって春が来たのを隠さない
 自然の風景は、誰が持ち主だと思うかもしれないが
 こんなすばらしい日は詩人の持ち物なのだ




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  春日偶成 其六   夏目 漱石(日本・明治)


渡口春潮静   渡口 春潮静かに

扁舟半柳陰   扁舟 柳陰に半ばす

漁翁眠未覚   漁翁 眠り未だ覚めず

山色入江深   山色 江に入りて深し



[口語訳]
 渡し場では春水が静かに流れ
 小舟は柳の木陰に半分かくれている。
 年老いた漁夫は眠りからまだ覚めず
 山の色合いは川に溶け込んで深くなっていく


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  春日偶成 其七   夏目 漱石(日本・明治)


流鶯呼夢去   流鶯 夢を呼びて去り

微雨湿花来   微雨 花を湿して来たる

昨夜春愁色   昨夜 春愁の色

依稀上緑苔   依稀として緑苔に上る



[口語訳]
 飛び交う鶯は夢から醒めさせて去り
 こぬか雨は花をしっとりとさせて来る
 昨夜の春愁の気配は
 ほのかに緑に苔むす庭に現れている


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  泊天草洋   頼 山陽(日本・江戸)


雲耶山耶呉耶越   雲か山か 呉か越か

水天髣髴青一髪   水天 髣髴 青一髪

万里泊舟天草洋   万里舟を泊す 天草の洋

煙横篷窓日漸没   煙は篷窓に横たわりて 日漸く没す

瞥見大魚跳波間   瞥見す 大魚の波間に跳ねるを

太白当船明似月   太白 舟に当たって 明 月に似たり




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  阿嵎嶺   頼 山陽(日本・江戸)


危礁亂立大濤間   危礁乱立す 大濤の間

決眥西南不見山   眥(まなじり)を西南に決すれば 山を見ず

鶻影低迷帆影没   鶻影 低迷 帆影没す

天連水処是台湾   天 水に連なる処 是れ台湾



「鶻」: ハヤブサ・クマタカなどの鳥



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  春雨到筆庵   廣瀬 旭荘(江戸)


菘圃葱畦取路斜   菘圃葱畦 路を取る斜めなり

桃花多処是君家   桃のもっとも花多き処 是れ君が家

晩来何者敲門至   晩来何者か門を敲きて至る

雨与詩人与落花   雨と詩人と落花と



[口語訳]
 唐菜の畑や葱のあぜ道を斜めに進むと
 桃の花が最も咲いている所、それが君の家だ。
 夕暮れに門を叩いて訪れる人は誰だろうか、
 雨と私と落花だけだ


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  芳野   僧 五岳(日本)


旅人懐古立斜曛   旅人 古を懐ひ 斜曛に立つ

草没荒陵路不分   草は荒陵を没して 路分たず

杜宇一声春似夢   杜宇一声 春 夢に似たり

南朝恨在夏山雲   南朝の恨みは夏山の雲に在り



[口語訳]
 旅人(である私)は夕日の岡に立ち、昔を思い出している。
 草は荒れた御陵の辺りを埋もれさすほどに伸び、路も分からない。
 すると、ホトトギスの声がして、春は夢のごとくに過ぎ
 南朝の恨みは夏山の雲に今でもかかっているようだ


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  賦櫻花   平城天皇(日本・中古)


昔在幽岩下   昔在り 幽岩の下

光華照四方   光華 四方を照らす

忽逢攀折客   忽ちに攀折の客に逢ひ

含笑亘三陽   笑を含みて 三陽を亘る

送気時多少   気を送る 時に多少

垂陰復短長   陰を垂る 復た短長

如何此一物   如何なるぞ 此の一物の

擅美九春場   美を九春の場に擅にすることは

          (下平声「七陽」の押韻)



[語釈]
「光華」: 美しい姿
「攀折」: 山に攀って折ってきた
「三陽」: 春三ヶ月
「九春」: 九旬の春
「気」: 香気
「多少」: 多い少ない 
 
 
 


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  神無月   鈴木豹軒(昭和)


明誓致身生死郷   明誓身を致す生死の郷

談何容易事勤皇   談 何ぞ容易なる 勤皇を事とす

金天粛殺神無月   金天 粛殺 神無月

雲裏三台復匿光   雲裏 三台 復た光を匿す




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  原爆行   土屋 竹雨(日本・昭和)


怪光一綫下蒼旻   怪光一綫 蒼旻より下る

忽然地震天日昏   忽然地震うて天日昏し

一刹那間陵谷変   一刹那の間 陵谷変じ

城市台榭帰灰塵   城市台榭 灰塵に帰す

此日死者三十万   此の日死する者三十万

生者被創悲且呻   生ける者は創を被むり 悲しみ且つ呻く

死生茫茫不可識   死生茫茫として識るべからず

妻求其夫児覓親   妻は其の夫を求め 児は親を覓む

阿鼻叫喚動天地   阿鼻叫喚 天地を動かす

陌頭血流屍横陳   陌頭血流れて 屍横陳す

殉難殞命非戦士   難に殉じて命を殞とすは戦士に非ず

被害総是無辜民   害を被るは総て是れ無辜の民

広陵惨禍未曾有   広陵の惨禍 未だ曾て有らず

胡軍更襲崎陽津   胡軍更に襲ふ 崎陽の津

二都荒涼雞犬尽   二都荒涼 雞犬尽き

壊牆墜瓦不見人   壊牆墜瓦 人を見ず

如是残虐天所怒   是のごとき残虐は天の怒る所

驕暴更過狼虎秦   驕暴更に過ぐ 狼虎の秦

君不聞啾啾鬼哭夜達旦   君聞かずや 啾啾として鬼哭し 夜は旦に達し

残郭雨暗飛青燐      残郭雨暗くして 青燐飛ぶを




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  桂林荘雑詠示諸生   広瀬 淡窓(江戸)


休道他郷多苦辛   ふを休めよ 他郷 苦辛多しと

同袍有友自相親   同袍 友有り 自ら相ひ親しむ

柴扉暁出霜如雪   柴扉 暁に出づれば 霜雪の如し

君汲川流我拾薪   君は川流を汲め 我は薪を拾はん



[口語訳]
 言うのはやめなさい、異郷での勉学が辛いなどとは
 一枚の綿入れを着合う友は必ず居るし 自然に親しみあうものだ。
 粗末な扉を明け方に開けて出ると、霜が雪のように降りている。
 君は川の水を汲みに行きなさい、僕は薪を拾ってこよう。


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  海南行   細川頼之(南北朝)


人生五十愧無功   人生五十 功無きを愧づ

花木春過夏已中   花木春過ぎて 夏已に中ばなり

満室蒼蠅掃難去   満室の蒼蠅 掃へども去り難し

起尋禅榻臥清風   起ちて禅榻を尋ね 清風に臥せん



[口語訳]
 人として生きて五十年を過ごしたが、何の功績も挙げていないことが恥ずかしい
 木に花が満ちる春も過ぎて もう夏も半ばになった
 部屋にやたらと青蠅が飛び、追い払おうとしてもなかなか去らない
 仕方ないから起き上がって腰掛けを見つけ、清らかな風の中で寝転がろうか。

※当時の政治状況を述べた詩で、権力に群がる小人を青蠅、そうした政治の喧噪を避けたいというのが詩意とされています。


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  芳野   藤井竹外(日本)


古陵松柏吼天飆   

山寺尋春春寂寥   

眉雪老僧時輟帚   

落花深処説南朝   




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  不出門   菅原道真(日本・平安)


一從謫落就柴荊   一たび謫落せられて 柴荊に就きし従り

萬死兢兢跼蹐情   万死 兢兢たり 跼蹐きょくせきの情

都府樓纔看瓦色   都府楼は纔かに瓦の色を看

觀音寺只聽鐘聲   観音寺は只だ鐘の声を聴くのみ

中懷好逐孤雲去   中懐は好し逐はん 孤雲の去るを

外物相逢滿月迎   外物は相逢ふ 満月の迎ふるに。

此地雖身無檢繋   此の地 身に検繋けんけい無しと雖も

何爲寸歩出門行   何為れぞ 寸歩も門を出でて行かん

          (下平声「八庚」の押韻)



[口語訳]
 ひとたび左遷されて配所の門に入ってからは
 罪は万死にあたると兢兢として謹慎の気持ちでいっぱいだ。
 都府楼は瓦の色をわずかに望み見るだけで
 観音寺も鐘の音も聞くだけだ。
 胸の中の思いはしきりに孤雲の行方(都)を追うが
 外からは私に逢いに満月が迎えてくれるだけだ。
 この地では身体は束縛されることはないけれど
 どうしてたとえ寸歩であっても、この門を出たりしようか


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  九月十日   菅原道真(日本・平安)


去年今夜侍清涼   

秋思詩篇獨断腸   

恩賜御衣今在此   

捧持毎日拝餘香   




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  看花到田面菴 花を看て田面菴(たのもあん)に到る  良寛(日本・江戸)


桃花如霞夾岸発   桃花 霞の如く 岸を夾(はさ)んで発き

春江若藍接天流   春江 藍の若く 天に接して流る

行看桃花随流去   行く行く桃花を看て 流れに随ひて去る

故人家在水東頭   故人の家は水の東頭に在り




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  再到田面菴   良寛(日本・江戸)


去年三月江上路   去年三月 江上の路

行看桃花到君家   行く行く桃花を看て 君が家に到る

今日再来君不見   今日再び来るも 君見えず

桃花依旧正如霞   桃花旧に依りて 正に霞の如し




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  二月五日携家観梅於月瀬村   梁川星巖(日本 江戸時代)


衝破春寒曉出城   春寒を衝破して 暁に城を出づ

東風剪剪弄衣輕   東風 剪剪として 衣を弄して軽し

漫山匝水二十里   漫山 匝水 二十里

盡日梅花香裏行   尽日 梅花の香裏を行く

          (下平声「八庚」の押韻)



「剪剪」:風がさっと吹く様
「匝水(そうすい)」:川をめぐる


[口語訳]
  春先の寒さをものともせず 暁に町を出た。
  東風はさっと吹いて 衣を翻して軽そうだ。
  山いっぱいに咲き 川をめぐって二十里
  一日 梅花の香りの中を歩いた


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  歳寒図   惲格(清)


寒花還与歳寒期   寒花 還つて歳寒と期す

夜起移燈看雪時   夜起きて燈を移し雪を看る時

未許東風到桃柳   未だ東風の桃柳に到るを許さず

山茶先発近窓枝   山茶先づ窓に近き枝に発く

          (上平声「四支」の押韻)




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