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『漢詩の歴史』  『漢詩の形式』  

『漢詩の音韻』  『四声』  『押韻のきまり』

『平仄のきまり』  『平仄の各例』






































漢詩の歴史

[詩の起源]

 漢詩のもっとも古い、そして世界最古の詩集は、孔子が編集したと言われる『詩経』です。その中で、「在心曰志、発言曰詩」(心に在るを志と曰ひ、言に発するを詩と曰ふ)と言われているように、詩とは人間の心の動きが言葉として表れたものと考えられています。『詩経』の中で、中高生がよく知っているのは、『桃夭』、でしょう。
 一般に、詩はもともと、庶民の間から自然に生まれた民謡がその起源だと言われます。中国でも、民間歌謡や宮廷の祭祀の時の歌から出発しました。だから、楽器の伴奏に合わせて歌うのが本来であったのですが、次第に歌われなくなり、朗読したり、吟詠するものに変わっていきました。この傾向が顕著になったのは、後漢の末(三世紀初頭)からですが、詩形は全て五言であり、六朝(呉・東晋・宋・斉・梁・陳)を通じて、詩と言えば五言詩を指すのが普通でした。梁の時代に昭明太子によって編集された『文選』は、春秋時代の末期から梁の時代までの作品を残しています。『詩経』『楚辞』と並んで、中国文学の「三大宝典」と言われています。著名な作品として、古詩の中の『行行重行行』があります。


[六朝時代]
 六朝時代に、音韻学が発達し、中国語の発音を子音と母音に分解したり、アクセントの種類を整理したりする研究が進歩しました。その成果を詩に応用して、漢字の配列をどのようにすれば調子が良くなり、どのようにすれば悪くなるかを整理して法則化しようとする動きが出ました。そうした詩における音韻上の規則を「声律」と言いますが、次第に精密化され、口調の良い詩が作られるようになりました。この時代の詩人として、陶潜(淵明)が居ます。作品はよく知られたものが多く、『飲酒』、『帰去来辞』が愛されています。


[唐時代]
 唐の時代に入ると、科挙の制が設けられ、その試験科目に詩を作らせることが入れられたため、詩を作る人、詩の上達を望む人が著しく増大しました。
 又、六朝以来の声律の進歩も初唐の時代に整理され、一定の規則に固まるようになりました。そうした中で、「律詩」という形式が生み出され、以前に存在していた「絶句」と併せて「近(今)体詩」が成立しました。
[盛唐の時代]
 「文は秦漢・詩は盛唐」と言われるように、漢詩の最も栄えたのが玄宗皇帝の治世である盛唐の時代です。王維、杜甫、李白、孟浩然など、日本人にも愛され続けている詩人が輩出しました。彼らは宮廷を中心に交遊も広げ、六朝の優雅な詩風と共に、自己の誠実な心情を歌い上げていきました。
 特に日本では、江戸時代に『唐詩選』が出版されて広く愛されため、盛唐崇拝傾向が強くなっています。というのは、『唐詩選』は盛唐の詩人の評価が高く、晩唐の詩人はほとんど無視されているという特徴があるからで、その結果、日本人が思い浮かべる中国の詩人は盛唐ばかりという状況が、現在まで続いています。
 王維の『竹里館』『鹿柴』
 李白の『静夜思』『秋浦歌』
 杜甫の『春望』『旅夜書懐』
 孟浩然の『春暁』などが愛誦されています。
 他に、王翰の『涼州詞』、王之渙の『涼州詞』、王昌齢の『芙蓉楼送辛漸』などもよく知られています。
[中唐の時代]
安禄山の乱を経て、天下太平の理想は崩れ、詩人たちの心には大きな衝撃が残りました。作風も盛唐詩が持っていた感情の激動・精神の昂揚には乏し詩が多くなりました。やがて、白居易を代表とする諷諭詩が生まれ、政治や社会の矛盾を鋭く批判することが中唐の詩の特長とも成りました。諷諭であるからには表現は出来るだけ素朴な、分かりやすいものでなければならず、白居易の伝説にもあるように、詩は平明を旨とするとされました。
この時期の代表的な詩には、白居易の『香炉峰下新卜草堂』、柳宗元の『江雪』があります。






























漢詩の形式

[古詩]

一句の字数

四言、五言、七言、雑言(字数不定)とありますが、唐詩の場合には、五言と七言が多くなります。
一首の句数
不定です。

押韻の仕方
古詩の場合には、一つの韻で最後まで通す場合(「一韻到底格」)と、途中で韻を換える場合(「換韻格」)とがあります。

[近体詩]

一句の字数

近体詩は、五言、六言、七言がありますが、多くは五言と七言です。
一首の句数
四句のものを「絶句」、八句のものを「律詩」、それ以上を「排律」と呼びます。
従って近体詩の形式は、字数と句数の組み合わせで、「五言絶句」「七言絶句」「五言律詩」「七言律詩」「五言排律」「七言排律」の六種類となりますが、一般には初めの四種類が多く見られます。


























漢詩の音韻

[漢字の発音]

漢字の一字一字は全て一音節の発音を持っています。最初の子音(「声」と言います)を除いた残りの部分を「韻」と言います。詩を聞いて快いものとするために、各句の最後の字には、同じ韻を持った字を揃えようという決まりが、古体詩の頃から自然に生まれてきました。これを「韻を踏む」「押韻させる」と言い、韻を踏んでいる字を、「韻字」と呼びます。




漢詩の四声

[四声]

 漢字の一字一字には、声韻の他に、声調と呼ばれるものがあります。発音は同じでも、声調が違うと意味が全く異なることもあるため、特に重要になります。 声調を分類すると次の四つになるため、合わせて「四声」と呼ばれています。
 平声(ひょうしょう)・・・・高い音で平らに発音する。
 上声(じょうしょう)・・・・あがる調子。
 去声(きょしょう) ・・・・下がる調子。
 入声(にっしょう) ・・・・短く詰まった発音。(日本語の漢字音読みで末尾が「フツクチキ」になる字だと一般に覚えられています。ただし、旧仮名遣いです)

 それぞれの漢字が「四声」のどこに属するか、また、どのような「韻目」に属するかを知るためには、「韻目表」で調べるしかありません。日本語での漢字の発音はそもそも中国語とは異なりますし、漢詩での「四声」や「韻目」の分類は基本的には唐代の詩を基準にしています。
 中国では「宋」の時代に、『広韻』と言われる、漢字を二百六の発音に分類した韻書が出されました。しかし、二百六分類では多すぎるとの声を受け、「元」の時代に『平水韻』という、漢字を百六の発音に分類をした韻書が出ました。「明」「清」の時代の詩は、全てこの百六韻が基準として作られるようになりました。
 日本でも江戸時代以後はこの『平水韻』を基準にして漢詩が作られています。
 唐の時代の詩や、それ以前の古詩の韻を知るには『広韻』の方が理論的には正しいのですが、実用上は『平水韻』で破綻もないため、現在でも漢和辞典の多くは『平水韻』百六分類で表記してあります。
 漢和辞典で韻目を調べるには、まず知りたい漢字を引きますと、見出しの下に大体、次のような表記がある筈です。
 四角で囲まれた中の漢字が百六の韻の分類を表します。この場合は、「東」という韻目に属する字だと分かります。また、周りの四角の一隅に斜線が入っていますが、これは「四声」を表しています。この辞典の場合は、左下から左上、次に右上、そして右下という順で、それぞれ「平声」「上声」「去声」「入声」を示すことになります。左記の例ですと、「平声」だと分かります。
 漢和辞典によって表記は異なりますが、概ね今述べたような形で調べることが出来るようになっています。
 このホームページは、簡単な検索で漢字の平仄や韻目が分かるようにしてありますので、試して下さい。
[平仄]

四声の内、平板な発声の「平声」を「平」、上がり下がりの多い上声・去声・入声をあわせて「仄」と呼び、「平仄」と言います。近体詩は、この平字と仄字の組み合わせによって詩のリズムを生み出していますが、その規則は細かく、緊密なものとなっています。


























押韻のきまり

[一般的な押韻法]

漢詩は脚韻を必ず踏みますが、どの句で韻を踏むかは一句の字数によって異なります。一般的に、五言詩の場合には偶数句の末に、また、七言詩の場合には初句の末と偶数句末に同じ韻の字を持ってくることになっています。
[具体例]

次にそれぞれの詩の形式で押韻の場所を示します。(◎が韻字)

五言絶句    七言絶句
○○○○○    ○○○○○○◎
○○○○◎    ○○○○○○◎
○○○○○    ○○○○○○○
○○○○◎    ○○○○○○◎

五言律詩    七言律詩
○○○○○    ○○○○○○◎
○○○○◎    ○○○○○○◎
○○○○○    ○○○○○○○
○○○○◎    ○○○○○○◎
○○○○○    ○○○○○○○
○○○○◎    ○○○○○○◎
○○○○○    ○○○○○○○
○○○○◎    ○○○○○○◎


























平仄のきまり

[平仄の鉄則]

近体詩を作る場合には、平字と仄字をどのような順番に並べるか、また、前後の平仄の関係などから、守るべき決まりがいくつかあります。簡単に列記しますと、
@「二四不同」
それぞれの句の二字目と四字目は平と仄を変えなければいけません。
例えば、二字目に平字を置いたら、四字目は必ず仄字にします。逆の場合も同じです。
A「二六対」
七言詩の場合、それぞれの句の二字目と六字目は同じ平・仄にしなければなりません。
B「一三五論ぜず」
それぞれの句の一字目、三字目、五字目については、それぞれ平・仄いずれでもかまいません。
C韻を踏まない句の末尾の字は、韻字と逆の平仄にします。

D孤平を忌む。「四字目の孤平」の禁
●○●のように、平声が仄声に挟まれるのを避けます。
特に、七言句の四字目、五言句の二字目の孤平は厳禁です。
孤仄はそれほど厳しくは禁止しません。
E下三連(「下三平」「下三仄」)を忌む。
最後の三字を平字ばかりにするのも避けられます。
F同韻を禁ず 「冒韻の禁止」
押韻と同じ韻目に属する字を、脚韻以外の場所に使うこと(冒韻と言います)も禁じられています。
G反法・粘法
仮に、初句二字目を平字とすると、四字目は仄字になります。その場合、次の二句目は逆の順序となり、二字目は仄字、四字目は平字となります。このように、二四六字目の平仄が前の句と逆転する場合を「反法」と言います。
又、仮に二句目二字目が仄字、四字目が平字の時、三句目は二字目が仄字、四字目が平字となります。このように、二四六字目の平仄が前の句と同じになることを、「粘法」と言います。
絶句の場合は、初句と第二句は反法、第二句と第三句は粘法、第三句と第四句は反法の関係になります。
律詩の場合は、絶句の関係が繰り返されると思って下さい。
H対句
律詩の場合には、頷聯(三句目と四句目)、頸聯(五句目と六句目)が原則として対句となります。その他が対句となる場合もあります。
I挟み平
 五言でも七言でも、韻を踏まない句の下の三字の平仄を〇●●とする場合、●○●としてもよいことになっていて、これを「挟み平」或いは「挟平格」と言います。
 例えば、杜甫の『登岳陽楼』の冒頭、「昔聞洞庭水   今登岳陽楼」の一句目の平仄は●○●○●となっていて、@の「二四不同」の原則からは外れているように見えますが、下の三字●○●は○●●と見なしますので、原則から外れていないことになります。
































[平仄の各例]

 ここでは、具体的な例を示しますので、参考にして下さい。
 ただし、.「3-c 平仄のきまり」を見てからの方が理解しやすいと思いますので、まだの方は先にご覧下さい。



「二四不同・二六対」「反法・粘法」「孤平・下三平の禁」などの鉄則を守っていくと、平と仄の並び方が大体決まってきます。初句の二字目が平の場合を「平起(ひょうおこり)式」、初句二字目が仄の場合を「仄起(そくおこり)式」と言います。
又、初句と二句目は原則として二四六字目が逆になります。
それぞれについて、次のパターンがあります。

 ○は平字。●は仄字。◎は韻字。△は平・仄どちらでも構わない字。

 パターン例は全て韻字を平字(平韻)としていますが、仄韻の場合もあります。

[五言絶句平起式]          [五言絶句仄起式]

  (平韻)                  (平韻)

△○○●●              △●○○●
△●●○◎              △○△●◎
△●○○●              △○○●●
△○△●◎              △●●○◎

[七言絶句平起式」          [七言絶句仄起式]

  (平韻)                  (平韻)

△○△●●○◎           △●△○△●◎
△●△○△●◎           △○△●●○◎
△●△○○●●           △○△●○○●
△○△●●○◎           △●△○△●◎

[五言律詩平起式]          [五言律詩仄起式]

  (平韻)                  (平韻)

△○○●●              △●○○●
△●●○◎              △○△●◎
△●○○●              △○○●●
△○△●◎              △●●○◎
△○○●●              △●○○●
△●●○◎              △○△●◎
△●○○●              △○○●●
△○△●◎              △●●○◎

[七言律詩平起式]          [七言律詩仄起式]

  (平韻)                  (平韻)

△○△●●○◎           △●△○△●◎
△●△○△●◎           △○△●●○◎
△●△○○●●           △○△●○○●
△○△●●○◎           △●△○△●◎
△○△●○○●           △●△○○●●
△●△○△●◎           △○△●●○◎
△●△○○●●           △○△●○○●
△○△●●○◎           △●△○△●◎