慶祝國際漢詩人交流大會
古來騷客跨鳴鴻, 古來 騷客は鳴鴻を跨ぎ,
萬里交遊乘美風。 萬里交遊するに美風に乗る。
來到雅筵開網上, 来たり到る 雅筵の網上に開くに,
欣聽遠友詠時中。 欣び聽く 遠友の時中に詠ずるを。
春傾壺酒花間醉, 春には壺酒を傾けて花間に醉ひ,
秋放詩魂月下融。 秋には詩魂を放ちて月下に融(くつろ)ぐ。
張翼悠悠過滄海, 翼を張って悠悠と滄海を過(よぎ)り,
一衣帶水共西東。 一衣帶水 西東を共にす。
<解説>
我喜歡參加國際漢詩人交流大會。
慶祝國際漢詩人交流大會 1
日日漫吟滄海東 日日の漫吟 滄海の東
幸逢慶會寄詩筒 幸ひに慶会に逢うて 詩筒を寄す
七年斷絶情何薄 七年の断絶 情何ぞ薄からん
千載交流道不窮 千載の交流 道窮まらず
可看雁魚游網上 看るべし 雁魚 網上に游び
相欣瓊玉出胸中 瓊玉の胸中より出づるを相欣ぶを
波濤萬里山川異 波濤 万里 山川異なれど
世界一天風雅同 世界 一天 風雅同じ
<解説>
海の東で何となく 詩を書いている日々だけど
この有難き大会に わたしの作もお寄せしよう
七年ぽっちの中断で 薄情なんてことはなく
千歳に続く交流の 道が絶たれるわけがない
見たまえインターネット上 電子メールが行き来して
よろこびあうよ好詩詞の 胸のうちから出づるのを
万里の波に隔てられ 山川すがたは違っても
同じ一つの天が下 風雅のこころは変わらない
慶祝國際漢詩人交流大會 2
莫言絶海信難通 言ふ莫れ 絶海 信通じ難しと
雅韻清詞託旅鴻 雅韻 清詞 旅鴻に託す
請看扶桑晩秋興 請ふ看よ 扶桑 晩秋の興
村村錦綺帶金風 村村の錦綺 金風を帯ぶ
<解説>
大海原の果てだとて 便りがつかぬと言うなかれ
旅行く雁に託そうぞ 清雅の調と言の葉を
いざや見たまえ秋深き 扶桑のくにの趣を
津々浦々の村飾る 紅葉の錦を吹く風を
慶祝國際漢詩人交流大會
C溪淑景汨羅風 C渓の淑景 汨羅の風
藍海承流琴韻穹 藍海流れを承く 琴韻の穹
電網詩情維世界 電網の詩情 世界を惟ぎ
盟邦客祝架文虹 盟邦の客は祝ふ 文虹の架かるを
<解説>
世界漢詩人交流大会の再興、お目出度うございます。
慶國際交流復活
今集詩人詞彩豐 今集ふ 詩人 詞彩豊か
簡明表意字誠隆 簡明 表意の字は 誠に隆し
筆強於剣至言貴 筆は剣よりも強しの至言貴し
本性眞情各國同 本性 真情 各国同じ
「筆強於剣」: 英Edward Bulwer-Littonn言辞。
賀國際詩詞交流(漢俳)
東洋言辭豐
古謠永永詠歌充
今猶興不窮
謹慶祝國際漢詩人交流大會
鄰人咸集日 鄰人 咸な集ふの日
兄弟共蒼空 兄弟、蒼空を共にす
歴歴連辛苦 歴歴 辛苦を連ぬるも
緜緜念舊衷 緜緜 舊衷を念ふ
諸州思議異 諸州 思議 異なるも
天下所憂同 天下 憂ふる所は同じ
朋友金蘭契 朋友 金蘭の契
清平六合中 清平たり六合の中
<解説>
<大意>:
隣国のひとびとがみな集う日、はらからが青空をともにいただく。
悲しい歴史をへてきた者たちが、過去から途切れぬ真心をおもう。
諸国のなかではさまざまな議論があろうが、天下の憂は同じはず。
強くかんばしい友誼を結べば、四海は太平である。
<自註>:
「歴歴連辛苦」: 東亞嘗有慘禍焉。不可忘矣。
「緜緜念舊衷」: 古来東亞有友好。言其恩也。
「諸州思議異 天下所憂同」: 各國中議論百出、然誰好亂乎。此詩悉願清平也。
慶祝國際漢詩人交流大會(悼趙冕熙先生)
昔日成期首爾空 昔日 期を成す 首爾(ソウル)の空
雅兄聲穩笑顏充 雅兄 声穏やかに 笑顔充つ
倶嘉電網重交誼 倶に嘉す 電網 交誼を重ぬるを
久語詩文盡妙工 久しく語る 詩文 妙工を尽くすを
瓊句千年煌不朽 瓊句 千年 煌として不朽
高懷萬里凜無窮 高懐 万里 凜として無窮
C溪沾野幾流水 清渓 野を沾し 幾流の水
滾滾今天四海豐 滾滾として 今天 四海豊かなり
その時に帰国してからお礼の意味で蕪詩を差し上げたところ、C溪さんから次韻詩をいただけました。
「於漢城會面C溪先生書懷」と「次韻桐山堂書懷韻」の二首もご覧いただけると幸いです。
<解説>
2012年の秋、私は韓国旅行の途次、当時「世界漢詩同好會」の韓国幹事をされていた清渓さんとソウルでお会いすることができました。
穏やかなお人柄がにじみ出るご様子で、しばらく歓談をさせていただきました。
於漢城會面C溪先生書懷 桐山人
碧水東西漾漾旋 碧水東西 漾漾として旋り
危樓千尺屹中天 危樓千尺 中天に屹す
四正門上白雲遠 四正門上 白雲遠く
勤政殿前清砌連 勤政殿前 清砌連なる
三伏鶏湯除暑氣 三伏 鶏湯 暑気を除き
一宵驟雨滌詩筵 一宵 驟雨 詩筵を滌ふ
舊朋得会嘉同好 舊朋 会するを得て 同好を嘉す
幽趣高談風雅縁 幽趣 高談 風雅の縁
次桐山堂書懷韻 C溪
節序循環地亦旋 節序 循環し 地も亦旋る
參商各據一方天 參商各々據る 一方の天
伯牙鼓瑟歎鍾子 伯牙 鼓瑟 鍾子を歎き
靈運成章夢惠連 靈運 成章 惠連を夢む
世界佳詩蒐電網 世界佳詩 電網に蒐め
兩邦吟客會茶筵 兩邦吟客 茶筵に會す
續行舊契斯時約 舊契を續行す 斯の時の約
雅集同文是宿縁 雅集 同文 是れ宿縁
(読み下しは桐山人が添えました)
晩秋郊村
白雲去盡澹秋空 白雲 去り尽くして 秋空澹く
微聽夕鐘方散風 微かに聴く 夕鐘の方に風に散ずるを
停杖盤桓霜葉下 杖を停めて 盤桓 霜葉の下
滿村返照滿身紅 満村の返照 満身紅なり
<解説>
白雲の影はもう見えず 晩秋の空の色淡く
耳を澄ませは風のなか 入相の鐘消えていく
色づく紅葉の葉の下に 杖を停めて佇めば
村いっぱいの夕映えに わたしも全身まっ赤だな
晩秋郊村
晴日出門乘爽風 晴日 門を出でて 爽風に乗ず
行途信歩自西東 行途 歩に信せて 自ずから西東
水涵黄葉波光麗 水は黄葉を涵して波光麗しく
山帶紫煙氣勢雄 山は紫煙を帯びて気勢雄なり
野樹梢頭遊兩鳥 野樹の梢頭 両鳥遊び
田家籬外鬧群童 田家の籬外 群童鬧ぐ
晩秋無處不欣快 晩秋 処として欣快ならざる無く
心願年年斯興同 心に願ふ 年年 斯の興の同じきことを
<解説>
お天気なので門を出て 風に吹かれて歩き出す
どっちにしようか道行きは 足の向くまま西東
川はもみじを浮かばせて 波のかがやき麗しく
山はかすみを漂わせ 勢い盛んにそびええ立つ
野原の木々の枝先に 遊んでいるのは小鳥たち
農家のかきねのあたりでは 村の子供が騒いでる
残んの秋の村ざとに 嬉しくないことなんてない
心のうちに願うのは 毎年こんなふうなこと
晩秋郊村
秋老遊行細細風 秋老いて 遊行すれば細々の風
林間深處一蹊通 林間深き処 一蹊通ず
田家庭上無人掃 田家の庭上 人の掃ふ無く
滿地紅於夕照中 満地の紅於 夕照の中
<解説>
郊外を散歩すると廃屋らしき家を見ることがあります。
庭一面に紅葉が敷きつめられていることから推察すると、家には誰も住んでいないかもしれません。
田舎の秋の情景を描きました。
晩秋求句
碧宇無雲影, 碧宇に雲影無く,
白首有吟瞳。 白首に吟瞳あり。
求句登高望, 句を求めて登高し望めば,
滿山霜葉紅。 滿山 霜葉 紅なり。
<解説>
我老難登高,但會臥遊玩賞景勝。
晩秋郊村
前望田園月已東, 前望せる田園 月はすでに東に,
雀兒鳴囀稻茬中。 雀兒(すずめ)鳴きて囀る 稻の茬(きりかぶ)の中。
吟懷老處將酬和, 吟懷 老ゆるところ將に酬和せんとす,
鳥語啾啾野趣豐。 鳥語 啾啾として野趣の豐かなるに。
<解説>
晩境無聊,但是我會吟詩酬和鳥語。
晩秋湖畔
客舎臨湖水, 客舎 湖水に臨み,
逍遙隔世風。 逍遙 世風を隔つ。
鱗鱗漣閃耀, 鱗鱗たる漣(さざなみ)閃き耀き,
歩歩句連通。 歩み歩めば句は連通す。
賞景聽秋韻, 景を賞して秋韻を聽き,
生情扮詩工。 情を生じて詩工に扮す。
聳肩閑徑仰, 肩を聳やかして閑徑に仰ぐ,
霜葉滿天紅。 霜葉 天に滿ちて紅なるを。
<解説>
我是菲才,但會行旅,寓情於景,吟句扮詩人。
霞洞晩秋
晩境無聊有醉翁, 晩境 無聊にして醉翁あり,
神遊免費跨西東。 神遊 免費(ただ)にして跨ぐ 西と東を。
詩魂張翼飛霞洞, 詩魂 翼を張って霞洞へ飛び,
羽客收田坐月中。 羽客 田を收めて月の中に坐す。
開宴悦欣迎遠友, 宴を開き悦欣して遠き友を迎え,
傾杯酣醉賀年豐。 杯を傾け酣に醉ひて年豊を賀す。
共乘吟興高歌好, 共に吟興に乗りて高歌するが好く,
相競蒼顏帶酒紅。 相ひ競いて蒼顔に酒紅を帯ぶ。
<解説>
我空想了秋收在仙境農村。
晩秋郊村
田家乍現曉烟中 田家 乍ち現はる 暁烟の中
村巷蕭條木葉空 村巷 蕭条 木葉空し
時訝枝頭春已到 時に訝る 枝頭 春已に到るかと
勝花野柿染霜紅 花に勝る野柿 霜紅に染まる
<解説>
日本之郊村多柿樹、秋至累累垂萬顆。其實經霜色愈深、紅於二月花。
晩秋郊村
夕陽半月片雲紅 夕陽半月 片雲紅し
接翅歸鴉翔北穹 翅を接す帰鴉 北穹に翔る
忽起条風投曲杖 忽ち起こる条風 曲杖を投い
滕畦喞喞送田翁 滕畦喞々 田翁を送る
晩秋郊村
過疎山峡冷秋風 過疎の山峡 秋風 冷ややかなり
落葉羊腸古木中 落葉の羊腸 古木の中
蘿薛伸行方陋巷 蘿薛(らへい) 行(みち)に伸び 方に陋巷
多多獣害咄嗟翁 多多の獣害 咄嗟の翁
「蘿薛」: つたかずら
「咄嗟」: 嘆きの声
<解説>
暇に任せ散歩がてら山道を登りました
もう日影は風が冷たく曲がりくねった登り坂は 古木の落葉が敷き詰めたようでした
つたかずらが道に伸びて尚一層狭くなっていました
出合った農夫が猪や猿の被害が多く作物が取れないと嘆いている
晩秋遊行
秋風嫋嫋訪禪宮 金風 嫋嫋(じょうじょう) 禅宮を訪ふ
山麓楓林落照紅 山麓の楓林 落照紅なり
院内無人塵外境 院内人無く 塵外の境
鐘聲一杵幻夢中 鐘聲 一杵 幻夢の中
<解説>
秋の好日 山麓を散策し、古寺を訪ねました。
静かな境内に聞こえる鐘声に心を打たれ、しばし瞑想に耽りました。
小春散策
西郊信歩樂秋叢 西郊歩に信(ま)かせ 秋叢を楽しむ
黄穂田疇歡笑翁 黄穂(きほ)の田疇 歓笑の翁
寂坐草庵風日美 寂かに草庵に坐すれば 風日美し
疎鐘幽韻斜照中 疎鐘の幽韻 斜照の中
<解説>
晩秋の好日 近くの山麓を散策しました。
豊作の稲田を前に談笑する老人を眺めながら、暫時草庵で静かな晩秋を眺めていました。
晩秋郊村
秋杪行遊落葉中 秋杪 行遊 落葉の中
經過山郭梵王宮 山郭を経過すれば梵王宮
黄金古仏豪華盡 黄金の古仏 豪華尽し
千歳明粧絶代功 千歳の明粧 絶代の功
<解説>
晩秋に 落ち葉の積もった郊外を歩き回った
山あいの村を通り過ぎると古いお寺があった
そこには黄金の古仏があり、豪華極まるものであった
千年の間、その美しさを保存してきたのは、先人達の絶代な手柄だ
晩秋郊村
小村秋欲暮 小村 秋暮れんと欲す
窗外起清風 窓外 清風起く
籬菊霜添白 籬菊 霜 白を添へ
山園柿綴紅 山園 柿 紅を綴る
出門逢客至 門を出でて客の至るに逢へば
得意説年豐 意を得て年豊を説く
誰識人間樂 誰か識らん 人間の楽しみ
真成在此中 真成(まこと)に 此の中に在るを
獨佇邨徑
隱逸黄花不得通 隱逸の黄花は通づるを得ず
經綸壯士意何同 經綸壯士は意何ぞ同じからん
澄心一朶無離地 澄心の一朶 地を離れる無く
一朶澄心和秋風 一朶の澄心 秋風と和す
<解説>
隠者のような黄色い花と通じ合うことはできない。
かといって、世のために奮闘する丈夫になることもできない。
ああ、それでもあの花は心澄み切って地べたから離れることはない。
そして澄み切った心で寒い秋の風とも調和しているではないか。
我逍遥得之。言不可爲隱者、不可爲壯士。然斯花不離地而與風親者也。
此黄花非菊大波斯菊也。
晩秋郊村
出城處處晩花紅 城を出づれば処々に 晩花紅なり
柿熟凌霜到菊叢 柿は熟し 霜を凌ぎて 菊叢に到る
錦繡映輝欺二月 錦繍 映輝して 二月に欺き
留人詩入畫圖中 人を留め詩入るは 画図の中(うち)
<解説>
街外れの到るところに晩秋の紅い花が咲き、柿は熟し霜を凌いで菊は今盛りと咲き叢っている。
紅葉は輝き映じて二月花よりも紅い、この光景は人を留めて詩と絵画の世界に誘う。
晩秋郊村
農郊散策晩霞明 農郊 散策すれば 晩霞明らかなり
村北村南簫鼓聲 村北 村南 簫鼓の声
阡陌千畦禾黍熟 阡陌 千畦 禾黍熟し
邑人少長喜秋成 邑人 少長 秋の成りを喜ぶ
<解説>
田園地帯を散策していると 美しい夕焼け空
村の南でも北でも笛と太鼓の音が響いている
広い田畑に麦とキビが沢山実って
村人は老いも若きも秋の実りを喜こんでいる
晩秋郊村
超山渡野訪吟翁 山を超え野を渡り 吟翁を訪ぬ
君已消亡柿葉紅 君已に消亡す 柿葉紅なり
破屋崩摧叢竹茂 破屋は崩摧し 叢竹茂し
只今惟有去來風 只今惟 去来の風有るのみ
<解説>
山を超え野を渡り詩吟を愛する翁を訪ねた
君はすでに亡くなり 柿の葉が紅に染まっていた
壊れた家屋は崩れて倒れ竹藪が茂っていた
今はただ風が去来しているだけであった
晩秋郊村
香柑縹緲動秋風 香柑縹渺たり秋風に動く
四望林衣深淺紅 四望の林衣深浅の紅
衆鳥歡言而雅宴 衆鳥歓言して雅宴
須臾暮色樂無窮 須臾にして暮色楽しみ窮まり無し
「縹緲」: 香りがたゆたう 「林衣」: 林の葉 「深浅紅」: 深い赤色や淡い赤色のこと
「歓言」: 楽しく語り合う 「而」: 接続の置き字〜、シテ 「雅宴」: 風雅な宴
「須臾」: しばらくすると 「楽無窮」: 楽しみはいつまでも続く
<解説>
柑橘の香りが秋風に動きたゆたう
四方の林の葉は深い赤や淡い赤色だ
鳥達が集まって楽しく語り合い、素敵な宴を開いている
しばらくして夕暮れの気配が迫るが楽しみは続いている
晩秋郊村
遙岑黄葉滿山楓 遥岑 黄葉 満山の楓
野徑無人叢裏虫 野径 人無く 叢裏の虫
衰老増愁秋瑟瑟 衰老 愁を増さしむ 秋瑟瑟
朔吹既繞暮村中 朔吹 既に繞る 暮村の中
晩秋郊外
木蘭銀杏更梧桐 木蘭 銀杏 更に梧桐
落葉保身生命雄 葉を落とし 身を保つ 生命雄なり
播種無青觀景色 種を播く 青無しの景色を観る
新生脈脈待望翁 新生 脈脈 待望する翁
晩秋郊村
郊野飄揚金桂風 郊野を飄揚す 金桂の風
稲雲萬頃去年同 稲雲 万頃 去年に同じ
悠悠淺酒閑居夕 悠悠 浅酒 閑居の夕
舊友交歓矍鑠翁 旧友と交歓す 矍鑠たる翁
<解説>
実りの秋を迎え、訪ねてきた友人と歓談した様子。
晩秋郊村
十里平疇漠漠空 十里 平疇 漠漠として空し
影寒蝴蝶舞秋風 影寒く 蝴蝶 秋風に舞ふ
菊花猶在疎籬内 菊花 猶ほ在る 疎籬の内
村老傾壺勞歳功 村老 壺を傾け 歳功を労ふ
晩秋郊村
蕭蕭微雨野橋東 蕭蕭たる微雨 野橋の東
行客影稀山麓蒙 行客 影稀にして 山麓蒙たり
秋水秋郊畫圖裏 秋水 秋郊 画図の裏
河邊好景錦楓紅 河辺の好景 錦楓紅たり
<解説>
晩秋に郊村を歩いていると、山、川、紅葉を併せた景色が霧雨で映えて絵画のようである。
晩秋郊村
秋暮ク村渡景風 秋暮 ク村 景風渡る
夕陽影淡彩雲中 夕陽 影淡く 彩雲の中
啾啾促織寥寥氣 啾啾たる促織 寥寥の氣
茅屋空庭柿葉紅 茅屋 空庭 柿葉紅し
晩秋郊村(身延山)
靈山遙望晩晴中 霊山 遥かに望めば 晩晴の中
冷氣下峯懸梵宮 冷気 峯を下れば 梵宮に懸かる
錦繡ク村周洽飾 錦繍の郷村 周洽の飾り
季秋暮色盡天工 季秋 暮色 天工を盡くす
「身延山」: 在日本靜岡縣古刹
晩秋郊村(上高地)
晩秋橋上一村中 晩秋 橋上 一村の中
流水漫漫千里通 流水 漫漫 千里通ず
紅葉穂高誇五彩 紅葉の穂高 五彩を誇る
遙然山上片雲風 遥然 山嶺 片雲の風
「上高地」:長野縣避暑行樂地
晩秋郊村(柿田川小徑)
秋杪C川蘋末風 秋杪の清川 蘋末の風
小蹊決決水聲中 小蹊 決決たる 水声の中
午天遊歩旅愁散 午天の遊歩 辺愁散じ
左右楓林葉半紅 楓樹 顔前 葉半ば紅
「柿田川」:靜岡県富士山湧水之地
晩秋郊村
信歩悠揚西又東 歩に信せ 悠揚 西又東
郊村散策夕陽中 郊村 策を散ず 夕陽の中
鐘聲瑟瑟秋將暮 鐘声 瑟瑟 秋将に暮れんとす
目送歸鴉立晩風 帰鴉を目送し 晩風に立つ
晩秋郊村(富士)
靈峰屹立映蒼穹 霊峰屹立し 蒼穹に映ず
十里羊腸石路通 十里 羊腸たる 石路通ず
舊友迎吾情暖處 旧友吾を迎へ 情暖むる処
微醺倶聽晩秋風 微醺 倶に聴く 晩秋の風
仲秋郊村
圓影玲玲映昊穹 円影 玲玲たり 昊穹を映ず
兔蟾皎皎起C風 蟾兔 皎皎 秋風起こり
炎干霖雨禍災甚 炎干と霖雨 天の神怒る
惟看今宵秋色充 惟だ看る 今宵 秋色の充つるを
晩秋郊村(燒落葉)
風穩掃庭焚落葉 風穏やかに 庭を掃き 落葉を焚く
香煙流廣地滋豐 香煙 流広 地は滋豊
炭酸同化結晶 炭酸同化 結晶の緑
干草剪枝今古同 草を干し 枝を剪るは 今古同じ
<解説>
憂穀n減少、不管地球温暖化。
晩秋郊村
菊散秋林葉落中 菊散じ 秋林 葉落つる中
涼天蕭瑟碧玲瓏 涼天 蕭瑟 碧玲瓏
今宵宴樂邀明月 今宵 宴楽 明月を邀ふ
村邑風烟西又東 村邑 風烟 西又東
晩秋郊村
女未來愁殺楓 青女 未だ来たらず 愁殺の楓
可憐數柿帶深紅 憐れむべし 数柿 深紅を帯ぶるを
汽車喧絶晩霞鎖 汽車の喧(かまびす)きは絶え 晩霞鎖ざされば
細細蛬聲聽路叢 細細たる蛬声 路叢に聴く
<解説>
地球沸騰で、秋は一ヶ月遅れています。
一因である自動車を挙げて、環境の悪化を風刺しました。
晩秋郊村
茅簷箕踞曉霜中 茅簷 箕踞す 暁霜の中
黄菊欄開芳艷叢 黄菊 欄開 芳艶の叢
遠嶽雪稜雲靉靆 遠岳の雪稜 雲靉靆たり
商飆氣滿秋空 商飆気 秋空に満つ
「丹葉」…紅葉
「商飆」…秋の風
「靉靆」…たなびく
「気」…清らかで汚れのない秋の元になる気
<解説>
晩秋と言うと、菊が思い浮かびます。
父が若い頃は菊作りが趣味で、十一月になると、庭に、一本立・三本立・懸崖などが所狭しと並びました。
父の一年の成果がまさに花開く、華やかな季節でした。
晩秋郊村
孤村黄落路纔通 孤村 黄落 路纔かに通ず
露菊幽香夕照風 露菊 幽香 夕照の風
飛雁影過聲斷續 飛雁 群過ぎ 声断続す
ク愁一片客途中 郷愁 一片 客途の中
<解説>
旅の途中、晩秋の田舎の風景にしみじみとしたことを思い出し、創りました。
晩秋郊村
催寒脈脈入窗風 寒を催し 脈脈 窓に入る風
絡緯微聽白屋中 絡緯 微かに聴く 白屋の中
秋末郊村轉蕭寂 秋末 郊村 転た蕭寂
憂懷欲遣酒無功 憂懐 遣らんと欲す 酒功無からん
晩秋郊村(秋祭)
熟柿影高秋社空 熟柿 鳥銜む 秋杪の空
門前旗幟靡西風 門前の旗幟 西風に靡く
神輿鼓譟行邨巷 神輿 鼓譟 村巷を行く
露店數多屯幼童 露店 数多 幼童屯す
<解説>
晩秋の天満社祭り
晩秋郊村
滿山落葉季秋空 満山 落葉す 季秋の空
霜氣飄飄渡壑風 霜気 飄飄 壑を渡る風
遙望故園千里遠 遥かに故園を望めば 千里遠く
一聲飛雁夕陽紅 一声 飛雁 夕陽紅たり
<解説>
素直な気持ちで晩秋の寂しさと四国八十八箇所参りを思い、作詩しました。
晩秋郊村
郊墟散策仰長空 郊墟 散策 長空を仰ぐ
樹樹深秋葉半紅 樹樹 深秋 葉半ば紅なり
道邊石蒜千株簇 道の辺の石蒜 千株簇がり
雙蝶偸來舞晩風 双蝶 偸かに来たりて 晩風に舞ふ
<解説>
町外れの街を散歩すれば、桜の木々の葉が色づき、三日程前まで凄まじい暑さが無くなっていた。
道端には千株を越える赤い彼岸花に二匹の揚羽蝶がこっそりと飛び来たり、夕方の風に舞っていた。
晩秋郊村
天高雲散季秋風 天高く 雲散ず 季秋の風
閑歩郊村霜後空 閑歩 郊村 霜後の空
寂寂祇林紅葉寺 寂寂たる祇林 紅葉寺
荒田枯稿夕陽中 荒田 枯稿にして 夕陽の中
晩秋郊村
橋頭望嶺滿山紅 橋頭 嶺を望めば 満山紅たり
丹桂C香舞野風 丹桂 清香 野風に舞ふ
秋祭詰晨催鼓吹 秋祭 詰晨 鼓吹を催し
村家稔歳喜聲中 村家 稔歳 喜声の中
<解説>
コロナ自肅もほぼ無くなり、秋祭りも賑やかに開催された。
秋月
胡枝花白映秋空 胡枝の花白く 秋空に映ず
樹下深陰喞喞虫 樹下 草深し 喞喞の虫
檐座斟杯對明月 檐座 杯を斟み 明月に対す
無情遊樂二更風 無情の遊楽 二更の風
郊村思秋(新美南吉記念館)
ク川行客歩秋空 郷川の行客 秋空に歩す
赤卒翩翩爽快風 赤卒 翩翩 爽快の風
時節不違村落至 時節は違はず 村落に至る
暮鐘石蒜滿堤紅 暮鐘 石蒜 満堤紅なり
晩秋海邊
今朝秋霽望蒼穹
雲海銀瀾千里通
熊野遊行鬼岩列
水天浩浩颯C風
中秋月
高樓酌酒對宵風 高楼 酒を酌んで 宵風に対す
下瞰熒熒街火雄 下瞰 熒熒として 街火雄たり
今夜月明盤鏡轉 今夜 月明らか 晩鏡転ず
蘇公名句自吟中 蘇公の名句 自ら吟中
晩秋
池亭切切暗叢虫 池亭 切切たる暗叢の虫
石榻坐看山壑雄 石榻 坐して看る 山壑雄たり
秋暮僻村楓葉亂 秋暮 僻村 楓葉乱る
離杯對月影玲瓏 離杯 月に対せば影は玲瓏
晩秋郊村
衆鳥高飛霜冷空 衆鳥 高く飛ぶ 霜冷の空
圃田収稼一望風 圃田 稼を収む 一望の風
菊花陌上香C艷 菊花 陌上 香は清艶
何處水聲秋色窮 何処の水声 秋色窮まる