作品番号 2023-121
三月桃節
桃宴女兒笑語中 桃宴にて女児 笑語の中
金銀袖舞美雛瞳 金銀の袖で舞ふ 美しい雛の瞳
林亭琴和明窗下 林亭 琴を和す 明窓の下
移席紅花度惠風 席を移し 紅い花に恵風渡る
<解説>
桃の節句を楽しむ女児を見て、また、琴の音を聞いて窓の外を見ると紅い桃の花に恵風を感じました。
<感想>
起句は「女」が仄字ですので「四字目の孤平」になってしまいましたね。
語を入れ替えて「笑語女兒桃宴中」で行きましょう。
承句は「袖舞」でなく「舞袖」と名詞で終った方が、下との対応が良いですね。
下三字は「雛」で「雛人形」とするのは和習ですね。
「美」も直接すぎます。「人形」を表す「偶」を使って、「偶雛瞳」とすれば説明はできます。「繍雛」でも良いですね。
転句は上の「林の中のあずまや」、そこに「明窗」があったのですかね。
お雛様と言えば、大抵は自宅の部屋に飾ってある考えますので、わざわざ「林亭」とあると、何か特別な展示でもしているのかと思います。
琴を主語に持ってきて、「琴聲柔瑟明窗下」。
結句の「恵風」は晩春に吹く風。「上巳」の節句には合うのですが、現代(陽暦)の三月三日ですと逆に違和感が出てきます。
そうなると、題名の「三月」が陰暦か陽暦か悩ましくなりますので、「上巳桃節」とした方が良いかと思います。
上の「移席」は「庭際」くらいが落ち着くと思います。
by 桐山人
作品番号 2023-122
御不動様參拝
不動明王溪谷鎭 不動明王 渓谷に鎮(しず)かに
燈香參拝心情愼 灯香 参拝 心情慎なり
猿聲石逕無人語 猿声 石逕 人語無く
老若平安謝幸僅 老若 平安 幸僅かなるを謝す
<解説>
不動明王は酉年の守り本尊と言われ、お参りさせていただいております。
初めて猿三匹に会い、息子夫婦と三人で、すぐ車に乗り、中からお参りを致しました時を思い出して作りました。
<感想>
承句の「參拝」は日本語用法ですので、「再拝」(二度頭を下げる、丁寧なお辞儀)で。
転句ですが、仄韻の詩ですので、転句の末字は平声にするのが約束です。
ここはお書きになった「猿との遭遇」の場面ですね。
「無人語」は「(恐くて)人を黙らせた」という気持ちがあるのでしょう。
「候」は「のぞき見る。待ち構える」の意味がありますから、「猿聲石逕候行人」で雰囲気は伝わるでしょうか。
結句の「老若」は「息子さん夫婦と作者」というお積もりでしょうが、詩だけで読めば、「老いも若きも」ということで、つまり「誰もが」という解釈になります。
下三字は、「少しの幸でも有り難く感謝した」という趣旨ですが、何となく嫌み言ってるように感じる人も居るでしょうから、難しいですね。
「祈願平安幸何僅」と挟み平にして、「平安を祈願すれば、それだけでもいっぱいの幸せだ」という形ではどうでしょうか。
by 桐山人
作品番号 2023-123
友睦
迎友圍棋興不窮 友を迎へ 棋を囲み 興窮まらず
時愉茶菓共從容 時に茶菓を愉しみ 共に従容
嫩晴日午開窗牖 嫩晴 日午 窓牖を開けば
雙燕歸來嬉戲濃 双燕 帰り来て 嬉戯濃やかなり
<感想>
前半は友人との愉しい時間、画面も作者の気持ちもよく伝わって来ます。
後半は叙景へと移りますね。
「嫩晴」は雨が上がって久方の晴れ、窓を開けると燕が飛んでいる。
季節を表す言葉はありませんが、燕の関係で晩春から初夏にかけての頃だとわかります。
この辺りは工夫して表現しているところですね。
一点、「雙」が勿体ないです。
「双燕」は基本的には夫婦、前半と繋がらせるならば、ここは「友情」であって、「夫婦の愛情」とは異なるわけです。
友だちと一緒に居ながら、奥さんのことを考えているとなると、まあ、そのこと自体は悪くはありませんが、前半の友情の所が薄くなりますね。
ここは「燕子」としておけば何も問題は無いわけで、一文字加えたために好詩が霞んでしまいます。
by 桐山人
作品番号 2023-124
尋起川渡船場碑
新春二日見隄回 新春 二日 隄を見て回る
八尺舊碑江上財 八尺の旧碑 江上の財(たから)
過渡蘇川美濃路 蘇川を過渡す 美濃の路(みち)
航行安泰石燈臺 航行の安泰 石灯台
<解説>
令和五年正月二日の昼下がり、木曽川右岸の石灯台を再訪。
美濃路の中間で木曽川を渡るのが起の渡しである。
<感想>
お正月の二日、事始めとして游山さんは「碑巡り」ですね。
起句は下三字、「見」と「回」が離れていますが、本来は「見回隄」の語順。
分解した分だけ動詞が重なって煩わしいです。「古隄」ではいけませんか。
転句は読みにくいので語順を動かして「蘇水津頭美濃路」ではどうですか。
結句は「航行」では話が大きくないですか、ここは「渡船」としておくと「石磴臺」と合うと思います。
by 桐山人
作品番号 2023-125
友與歩舊國鐵廃線愛岐隧道群
霜辰驛路共朋遊 霜辰の駅路 朋と共に遊ぶ
溪谷紅黄風景幽 渓谷 紅黄 風景幽なり
水滴煤煙臨隧道 水滴る煤煙の隧道に臨めば
火車汽笛惹ク愁 火車の汽笛 郷愁を惹く
<解説>
昨秋、友人と愛岐トンネル群を歩した時の景です。
庄内川渓谷と紅葉、鉄路跡とすすけた四号トンネル内では水が垂れている。
汽笛を鳴らして走り抜ける音響を聞けば、はるか昔に離れた故郷が懐かしく思い惹かれる。
<感想>
題名の「友與」は起句に内容が出て来ますので、不要ですね。
入れるなら「晩秋」くらいの情報が良いでしょう。
起句二字目の「辰(とき)」は「晨(あさ)」の方ではないですか。
転句は「水が滴る煤煙」と繋がってしまいますので名詞で終るようにしたいです。
「水」と「火」を並べたいところですが我慢して、「漏水煤煙頻隧道(漏水 煤煙 隧道に頻り)」が句意としては落ち着くかと思います。
by 桐山人
作品番号 2023-126
如龍
彼者如龍也 彼(か)の者 龍が如く也
誅無頼万余 無頼 誅(う)つこと万余
其眼惨傷汎 其の眼 惨傷が汎(あふ)れ
鬼神而愛居 鬼神にして愛居(お)る
<解説>
その男はまさしく龍のようであり、悪党を数え切れないほど制裁してきた。
しかしその目には悲しみや憂いが溢れていて、鬼神のようで愛がある。
ゲーム「龍が如く」にハマっているのでそれを題材に詠んでみました。
前作の「怪獣」の時は本もなくネットで平仄や詩語を検索したり手探りの状態でしたが、今回は漢和辞典と紙の詩語集を取り揃えて挑みました。
<感想>
「龍が如く」というゲームを知らない私は、正しく詩を理解することはできないでしょうが、ブルースリーの映画とか北斗の拳を見ている感覚で(これ自体が古いですが)読みました。
詩中の措辞もよく勉強されていることが伝わって来ます。作者の伝えたいことははっきりしてますので、それがきちんと表現できているかがポイントですね。
まず、起句ですが、句意としてはわかりますし、「彼者」と主語をややぼかして表すのも工夫していると思います。
ただ、この主人公(だと思いますが)のどういう点が「龍が如く」なのかを書くのが、詩として大切な部分です。
題材となるゲームが「龍が如く」で、詩題が「如龍」、そして「彼者」を表すのに「如龍」では、全て比喩のままで、実体が出て来ません。
次の承句で「無頼」をやっつけるとありますので、起句の下三字も連動させて、強さを表す描写を入れると良いですね。
例えば、「誅無頼」と起句に持ってきて、承句はその数が多いことを言う形で「連連撃万余」が良いですかね。
転句は通常ですと「粘法」で、二字目を平字にしないといけませんが、「反法」を繰り返す形(拗体)もありますので、この形で行きましょうか。
「其眼」については、「其」とわざわざ言わなくても分かりますから、五言絶句という字数の少ない詩ですので別の言葉を入れるように考えましょう。
「眼上惨傷色」で作者の気持ちと合いますか。
正格で「粘法」にするなら、「慘傷」を頭に持ってきて、下は「浮眼上」という感じでしょう。
どちらの場合も、「慘傷」を「哀傷」「悲傷」とすると「彼者」の心情に迫る感じが出ますね。
結句の「而」という接続詞は文章では出て来ますが、詩ではあまり使いません。
また、最後の「愛居」を「愛居(お)る」とするのは無理矢理に押韻合わせした形で、意味が伝わりません。
韻字で良いのが見つけにくいですが、「鬼神慈愛舒(鬼神 慈愛舒ぶ)」でどうですか。
2023. 9.30 by 桐山人
作品番号 2023-127
柏崎花火
遊客満浜炎暑呼 遊客浜に満ち炎暑呼ぶ
一昴爆裂若開図 一たび昴がりて爆裂し図を開く若し
光華二万覆銀漢 光華二万銀漢を覆う
能賞水辺煙火娯 能く賞す水辺の煙火娯しむ
<解説>
花火を見る行楽客が柏崎の浜一杯にあふれてきびしい暑さを呼んでいる
チラッと一発上がり、爆裂し空に絵図を広げたようだ
美しい光の輝きが二万発打ち上げられて星空をおおった
おかげさまで、海辺の花火大会を観賞し楽しむことができた
<感想>
コロナのせいで中止していた行事も、今年はあちらこちらで復活したようで、ようやく日常が戻ってきているというところでしょう。
柏崎の花火大会も2年振りとのこと、豪華絢爛、盛大な花火を堪能されたようですね。
起句は面白い表現で、大勢の人が暑さを呼んだというのは実感でしょうね。ただ、作者自身も加担者ではありますが・・・・。
花火の前の景色ということなら、「呼」を「夕」と踏み落としにするか、韻字では「晡」という言葉があります。
承句は、花火が空に拡がる様子を「若開図」と例えたのは良いですね。
「一」とここで数字を使うのが、転句の「二万」との関連でどうか、引き立て合えば良いですが印象を消し合うこともあります。
転句はスケールの大きな景が表現できていると思います。
「覆」が銀河を隠すというのは分かりますが、直前の「若開図」の比喩と重なる印象。
「満銀漢」と素直な描写がすっきりして良いかもしれません。
結句はちょっと息切れしましたか。
「賞」と「娯」がどう違うか、間延びしている感じがあります。
また、起句の「浜」と「水辺」、転句の「光華」と「煙火」の重なりもあり、
全体のまとめをしようという意図は分かりますので、何か花火大会の新しい描写が出ると良いですね。
2023. 9.30 by 桐山人
作品番号 2023-128
慶祝國際漢詩人交流大會
古來騷客跨鳴鴻, 古來 騷客は鳴鴻を跨ぎ,
萬里交遊乘美風。 萬里交遊するに美風に乗る。
來到雅筵開網上, 来たり到る 雅筵の網上に開くに,
欣聽遠友詠時中。 欣び聽く 遠友の時中に詠ずるを。
春傾壺酒花間醉, 春には壺酒を傾けて花間に醉ひ,
秋放詩魂月下融。 秋には詩魂を放ちて月下に融(くつろ)ぐ。
張翼悠悠過滄海, 翼を張って悠悠と滄海を過(よぎ)り,
一衣帶水共西東。 一衣帶水 西東を共にす。
<解説>
我喜歡參加國際漢詩人交流大會。
作品番号 2023-129
慶祝國際漢詩人交流大會 1
日日漫吟滄海東 日日の漫吟 滄海の東
幸逢慶會寄詩筒 幸ひに慶会に逢うて 詩筒を寄す
七年斷絶情何薄 七年の断絶 情何ぞ薄からん
千載交流道不窮 千載の交流 道窮まらず
可看雁魚游網上 看るべし 雁魚 網上に游び
相欣瓊玉出胸中 瓊玉の胸中より出づるを相欣ぶを
波濤萬里山川異 波濤 万里 山川異なれど
世界一天風雅同 世界 一天 風雅同じ
<解説>
海の東で何となく 詩を書いている日々だけど
この有難き大会に わたしの作もお寄せしよう
七年ぽっちの中断で 薄情なんてことはなく
千歳に続く交流の 道が絶たれるわけがない
見たまえインターネット上 電子メールが行き来して
よろこびあうよ好詩詞の 胸のうちから出づるのを
万里の波に隔てられ 山川すがたは違っても
同じ一つの天が下 風雅のこころは変わらない
作品番号 2023-130
慶祝國際漢詩人交流大會 2
莫言絶海信難通 言ふ莫れ 絶海 信通じ難しと
雅韻清詞託旅鴻 雅韻 清詞 旅鴻に託す
請看扶桑晩秋興 請ふ看よ 扶桑 晩秋の興
村村錦綺帶金風 村村の錦綺 金風を帯ぶ
<解説>
大海原の果てだとて 便りがつかぬと言うなかれ
旅行く雁に託そうぞ 清雅の調と言の葉を
いざや見たまえ秋深き 扶桑のくにの趣を
津々浦々の村飾る 紅葉の錦を吹く風を
作品番号 2023-131
慶祝國際漢詩人交流大會
C溪淑景汨羅風 C渓の淑景 汨羅の風
藍海承流琴韻穹 藍海流れを承く 琴韻の穹
電網詩情維世界 電網の詩情 世界を惟ぎ
盟邦客祝架文虹 盟邦の客は祝ふ 文虹の架かるを
<解説>
世界漢詩人交流大会の再興、お目出度うございます。
作品番号 2023-132
慶國際交流復活
今集詩人詞彩豐 今集ふ 詩人 詞彩豊か
簡明表意字誠隆 簡明 表意の字は 誠に隆し
筆強於剣至言貴 筆は剣よりも強しの至言貴し
本性眞情各國同 本性 真情 各国同じ
「筆強於剣」: 英Edward Bulwer-Littonn言辞。
作品番号 2023-133
賀國際詩詞交流(漢俳)
東洋言辭豐
古謠永永詠歌充
今猶興不窮
作品番号 2023-134
謹慶祝國際漢詩人交流大會
鄰人咸集日 鄰人 咸な集ふの日
兄弟共蒼空 兄弟、蒼空を共にす
歴歴連辛苦 歴歴 辛苦を連ぬるも
緜緜念舊衷 緜緜 舊衷を念ふ
諸州思議異 諸州 思議 異なるも
天下所憂同 天下 憂ふる所は同じ
朋友金蘭契 朋友 金蘭の契
清平六合中 清平たり六合の中
<解説>
<大意>:
隣国のひとびとがみな集う日、はらからが青空をともにいただく。
悲しい歴史をへてきた者たちが、過去から途切れぬ真心をおもう。
諸国のなかではさまざまな議論があろうが、天下の憂は同じはず。
強くかんばしい友誼を結べば、四海は太平である。
<自註>:
「歴歴連辛苦」: 東亞嘗有慘禍焉。不可忘矣。
「緜緜念舊衷」: 古来東亞有友好。言其恩也。
「諸州思議異 天下所憂同」: 各國中議論百出、然誰好亂乎。此詩悉願清平也。
作品番号 2023-135
慶祝國際漢詩人交流大會(悼趙冕熙先生)
昔日成期首爾空 昔日 期を成す 首爾(ソウル)の空
雅兄聲穩笑顏充 雅兄 声穏やかに 笑顔充つ
倶嘉電網重交誼 倶に嘉す 電網 交誼を重ぬるを
久語詩文盡妙工 久しく語る 詩文 妙工を尽くすを
瓊句千年煌不朽 瓊句 千年 煌として不朽
高懷萬里凜無窮 高懐 万里 凜として無窮
C溪沾野幾流水 清渓 野を沾し 幾流の水
滾滾今天四海豐 滾滾として 今天 四海豊かなり
その時に帰国してからお礼の意味で蕪詩を差し上げたところ、C溪さんから次韻詩をいただけました。
「於漢城會面C溪先生書懷」と「次韻桐山堂書懷韻」の二首もご覧いただけると幸いです。
<解説>
2012年の夏、私は韓国旅行の途次、当時「世界漢詩同好會」の韓国幹事をされていた清渓さんとソウルでお会いすることができました。
穏やかなお人柄がにじみ出るご様子で、しばらく歓談をさせていただきました。
於漢城會面C溪先生書懷 桐山人
碧水東西漾漾旋 碧水東西 漾漾として旋り
危樓千尺屹中天 危樓千尺 中天に屹す
四正門上白雲遠 四正門上 白雲遠く
勤政殿前清砌連 勤政殿前 清砌連なる
三伏鶏湯除暑氣 三伏 鶏湯 暑気を除き
一宵驟雨滌詩筵 一宵 驟雨 詩筵を滌ふ
舊朋得会嘉同好 舊朋 会するを得て 同好を嘉す
幽趣高談風雅縁 幽趣 高談 風雅の縁
次桐山堂書懷韻 C溪
節序循環地亦旋 節序 循環し 地も亦旋る
參商各據一方天 參商各々據る 一方の天
伯牙鼓瑟歎鍾子 伯牙 鼓瑟 鍾子を歎き
靈運成章夢惠連 靈運 成章 惠連を夢む
世界佳詩蒐電網 世界佳詩 電網に蒐め
兩邦吟客會茶筵 兩邦吟客 茶筵に會す
續行舊契斯時約 舊契を續行す 斯の時の約
雅集同文是宿縁 雅集 同文 是れ宿縁
(読み下しは桐山人が添えました)
作品番号 2023-136
晩秋郊村
白雲去盡澹秋空 白雲 去り尽くして 秋空澹く
微聽夕鐘方散風 微かに聴く 夕鐘の方に風に散ずるを
停杖盤桓霜葉下 杖を停めて 盤桓 霜葉の下
滿村返照滿身紅 満村の返照 満身紅なり
<解説>
白雲の影はもう見えず 晩秋の空の色淡く
耳を澄ませは風のなか 入相の鐘消えていく
色づく紅葉の葉の下に 杖を停めて佇めば
村いっぱいの夕映えに わたしも全身まっ赤だな
作品番号 2023-137
晩秋郊村
晴日出門乘爽風 晴日 門を出でて 爽風に乗ず
行途信歩自西東 行途 歩に信せて 自ずから西東
水涵黄葉波光麗 水は黄葉を涵して波光麗しく
山帶紫煙氣勢雄 山は紫煙を帯びて気勢雄なり
野樹梢頭遊兩鳥 野樹の梢頭 両鳥遊び
田家籬外鬧群童 田家の籬外 群童鬧ぐ
晩秋無處不欣快 晩秋 処として欣快ならざる無く
心願年年斯興同 心に願ふ 年年 斯の興の同じきことを
<解説>
お天気なので門を出て 風に吹かれて歩き出す
どっちにしようか道行きは 足の向くまま西東
川はもみじを浮かばせて 波のかがやき麗しく
山はかすみを漂わせ 勢い盛んにそびええ立つ
野原の木々の枝先に 遊んでいるのは小鳥たち
農家のかきねのあたりでは 村の子供が騒いでる
残んの秋の村ざとに 嬉しくないことなんてない
心のうちに願うのは 毎年こんなふうなこと
作品番号 2023-138
晩秋郊村
秋老遊行細細風 秋老いて 遊行すれば細々の風
林間深處一蹊通 林間深き処 一蹊通ず
田家庭上無人掃 田家の庭上 人の掃ふ無く
滿地紅於夕照中 満地の紅於 夕照の中
<解説>
郊外を散歩すると廃屋らしき家を見ることがあります。
庭一面に紅葉が敷きつめられていることから推察すると、家には誰も住んでいないかもしれません。
田舎の秋の情景を描きました。
作品番号 2023-139
晩秋求句
碧宇無雲影, 碧宇に雲影無く,
白首有吟瞳。 白首に吟瞳あり。
求句登高望, 句を求めて登高し望めば,
滿山霜葉紅。 滿山 霜葉 紅なり。
<解説>
我老難登高,但會臥遊玩賞景勝。
作品番号 2023-140
晩秋郊村
前望田園月已東, 前望せる田園 月はすでに東に,
雀兒鳴囀稻茬中。 雀兒(すずめ)鳴きて囀る 稻の茬(きりかぶ)の中。
吟懷老處將酬和, 吟懷 老ゆるところ將に酬和せんとす,
鳥語啾啾野趣豐。 鳥語 啾啾として野趣の豐かなるに。
<解説>
晩境無聊,但是我會吟詩酬和鳥語。
作品番号 2023-141
晩秋湖畔
客舎臨湖水, 客舎 湖水に臨み,
逍遙隔世風。 逍遙 世風を隔つ。
鱗鱗漣閃耀, 鱗鱗たる漣(さざなみ)閃き耀き,
歩歩句連通。 歩み歩めば句は連通す。
賞景聽秋韻, 景を賞して秋韻を聽き,
生情扮詩工。 情を生じて詩工に扮す。
聳肩閑徑仰, 肩を聳やかして閑徑に仰ぐ,
霜葉滿天紅。 霜葉 天に滿ちて紅なるを。
<解説>
我是菲才,但會行旅,寓情於景,吟句扮詩人。
作品番号 2023-142
霞洞晩秋
晩境無聊有醉翁, 晩境 無聊にして醉翁あり,
神遊免費跨西東。 神遊 免費(ただ)にして跨ぐ 西と東を。
詩魂張翼飛霞洞, 詩魂 翼を張って霞洞へ飛び,
羽客收田坐月中。 羽客 田を收めて月の中に坐す。
開宴悦欣迎遠友, 宴を開き悦欣して遠き友を迎え,
傾杯酣醉賀年豐。 杯を傾け酣に醉ひて年豊を賀す。
共乘吟興高歌好, 共に吟興に乗りて高歌するが好く,
相競蒼顏帶酒紅。 相ひ競いて蒼顔に酒紅を帯ぶ。
<解説>
我空想了秋收在仙境農村。
作品番号 2023-143
晩秋郊村
田家乍現曉烟中 田家 乍ち現はる 暁烟の中
村巷蕭條木葉空 村巷 蕭条 木葉空し
時訝枝頭春已到 時に訝る 枝頭 春已に到るかと
勝花野柿染霜紅 花に勝る野柿 霜紅に染まる
<解説>
日本之郊村多柿樹、秋至累累垂萬顆。其實經霜色愈深、紅於二月花。
作品番号 2023-144
晩秋郊村
夕陽半月片雲紅 夕陽半月 片雲紅し
接翅歸鴉翔北穹 翅を接す帰鴉 北穹に翔る
忽起条風投曲杖 忽ち起こる条風 曲杖を投い
滕畦喞喞送田翁 滕畦喞々 田翁を送る
作品番号 2023-145
晩秋郊村
過疎山峡冷秋風 過疎の山峡 秋風 冷ややかなり
落葉羊腸古木中 落葉の羊腸 古木の中
蘿薛伸行方陋巷 蘿薛(らへい) 行(みち)に伸び 方に陋巷
多多獣害咄嗟翁 多多の獣害 咄嗟の翁
「蘿薛」: つたかずら
「咄嗟」: 嘆きの声
<解説>
暇に任せ散歩がてら山道を登りました
もう日影は風が冷たく曲がりくねった登り坂は 古木の落葉が敷き詰めたようでした
つたかずらが道に伸びて尚一層狭くなっていました
出合った農夫が猪や猿の被害が多く作物が取れないと嘆いている
作品番号 2023-146
晩秋遊行
秋風嫋嫋訪禪宮 金風 嫋嫋(じょうじょう) 禅宮を訪ふ
山麓楓林落照紅 山麓の楓林 落照紅なり
院内無人塵外境 院内人無く 塵外の境
鐘聲一杵幻夢中 鐘聲 一杵 幻夢の中
<解説>
秋の好日 山麓を散策し、古寺を訪ねました。
静かな境内に聞こえる鐘声に心を打たれ、しばし瞑想に耽りました。
作品番号 2023-147
小春散策
西郊信歩樂秋叢 西郊歩に信(ま)かせ 秋叢を楽しむ
黄穂田疇歡笑翁 黄穂(きほ)の田疇 歓笑の翁
寂坐草庵風日美 寂かに草庵に坐すれば 風日美し
疎鐘幽韻斜照中 疎鐘の幽韻 斜照の中
<解説>
晩秋の好日 近くの山麓を散策しました。
豊作の稲田を前に談笑する老人を眺めながら、暫時草庵で静かな晩秋を眺めていました。
作品番号 2023-148
晩秋郊村
秋杪行遊落葉中 秋杪 行遊 落葉の中
經過山郭梵王宮 山郭を経過すれば梵王宮
黄金古仏豪華盡 黄金の古仏 豪華尽し
千歳明粧絶代功 千歳の明粧 絶代の功
<解説>
晩秋に 落ち葉の積もった郊外を歩き回った
山あいの村を通り過ぎると古いお寺があった
そこには黄金の古仏があり、豪華極まるものであった
千年の間、その美しさを保存してきたのは、先人達の絶代な手柄だ
作品番号 2023-149
晩秋郊村
小村秋欲暮 小村 秋暮れんと欲す
窗外起清風 窓外 清風起く
籬菊霜添白 籬菊 霜 白を添へ
山園柿綴紅 山園 柿 紅を綴る
出門逢客至 門を出でて客の至るに逢へば
得意説年豐 意を得て年豊を説く
誰識人間樂 誰か識らん 人間の楽しみ
真成在此中 真成(まこと)に 此の中に在るを
作品番号 2023-150
獨佇邨徑
隱逸黄花不得通 隱逸の黄花は通づるを得ず
經綸壯士意何同 經綸壯士は意何ぞ同じからん
澄心一朶無離地 澄心の一朶 地を離れる無く
一朶澄心和秋風 一朶の澄心 秋風と和す
<解説>
隠者のような黄色い花と通じ合うことはできない。
かといって、世のために奮闘する丈夫になることもできない。
ああ、それでもあの花は心澄み切って地べたから離れることはない。
そして澄み切った心で寒い秋の風とも調和しているではないか。
我逍遥得之。言不可爲隱者、不可爲壯士。然斯花不離地而與風親者也。
此黄花非菊大波斯菊也。