作品番号 2025-271
高千穂峽
泠泠絶澗碧森森 泠泠たる絶澗 碧森森
稀代斷崖千仞深 稀代の断崖 千仞の深さ
新霽香風山更靜 新霽 香風 山更に静かにして
精靈飛瀑滌塵心 精霊なる飛瀑 塵心を滌ぐ
<解説>
「泠泠」… 清らかで涼しいさま
「絶澗」… 山奥の谷川
「新霽」… 雨上がり
<感想>
転句は「山更靜」である理由は「香風」ですか、「靜」とは繋がりが無く、飛躍しています。
結句は高千穂の伝説を踏まえた句ですね。
あと、全体的に季節感が弱いので、起句を書き直すつもりで、訪れた季節が現れるようにするのが良いでしょうね。
起句の「絶澗」は険しい渓谷で分かりますが、「泠泠」というのはどこから来たのでしょうか。
その場で感じたにせよ、読者に伝わるようにしないといけません。
また、次にも「断(険しい崖)」が出てくるわけですから、ここは別のものを出しておくべきでしょうね。
この真名井の滝も「天孫降臨」に関わりがあるものですので、「精霊」で神話と結びつけたものですね。
そうした伝説や神話が作者の中では重要だということでしょう。
景観を表すだけならば、こちらに「泠泠」を持ってくることもできます。
by 桐山人(2025. 7月教室作品)
作品番号 2025-272
憶八月六日
朱夏城中炎若烘 朱夏の城中 炎烘くが若し
朝來蒸鬱絶無風 朝来 蒸鬱として絶えて風無し
俄然想起廣陵慘 俄然 想起す 広陵の惨
八月悲酸似此穹 八月の悲酸 此の穹に似たり
<解説>
昭和二十年八月六日、先生から「変わった爆弾が落とされた」と聞かされました。
終戦前後のことを色々思い出します。
「廣陵」… 広島
<感想>
今回の詩も、大切な思いが籠められた作品だと感じました。
今年は戦後八十年ということで、八月になると終戦に関連した番組が沢山放送されましたね。
戦争の記憶の「風化」ということが言われますが、理想論を言えば、「戦争という言葉自体が不要になる」ような平和な世界が生まれて欲しいです。
しかし、この八十年間が、平和だったのではなく、ただ戦争に直接巻き込まれなかったという幸運、偶然の中で過ごしてきたのだと思うと、戦争を直接体験した人、その体験を間近で見た人の記憶はまだまだ「風化」させてはいけないと強く思います。
内容は作者の姿も目に浮かぶようですが、表現の点で言うと、結句の「似」は比喩ですが、起句にも「若」で同じく比喩を使っていますので、どちらかの比喩を止めるのが良いです。
結句の方が主題ですので強く述べた方が良いかと思いますので「哭碧穹」、上も直すなら「哭臨蒼碧穹」(蒼碧の穹に哭臨す)としてはどうでしょう。
by 桐山人(2025. 9月教室作品)
作品番号 2025-273
立秋
僻巷深居隔市喧 僻巷に深居して 市喧を隔つ
庭前樹下国ロ痕 庭前の樹下は緑苔の痕
殘蟬啼罷西風爽 残蝉 啼き罷んで 西風爽やかに
閑樂茶香坐小軒 閑かに茶香を楽しんで 小軒に坐す
<解説>
「僻巷深居」… いなかの入り組んだ住まい
「市喧」… 市街の騒がしさ
<感想>
どの句も分かりやすい内容で、秋の到来を喜ぶ気持ちが感じられます。
少しだけ見直すと、承句の末字は「痕」ですか、「繁」と多くした方が良いかと思います。
転句では「爽」とここで気持ちを出してしまうと、結句の「閑樂」が生きて来ませんので、転句では「渡」くらいで叙景にしておくと良いですね。
by 桐山人(2025. 9月教室作品)
作品番号 2025-274
新秋卽事
新涼割暑入園皋 新涼 暑を割ひて 園皐に入る
紫珺微香甘味萄 紫珺 微香 甘味の萄
友月蛩中傾美酒 月を友とし 蛩中 美酒を傾ける
一炊回夢玉輪高 一炊 夢を回(めぐ)らせば 玉輪高し
<解説>
観光農園でのぶどう狩りは立秋には始まっています。
拙宅の畑での一詩で、美酒はワイン。老翁のささやかな楽しみなり。
<感想>
起句の「皋」は「水辺の沢や台地」ですので、「園と丘」に涼気が入るということですね。
承句の「珺」は「美しい玉」、葡萄の実を紫の宝石に例えたもの、確かに瑞々しいブドウの実はキラキラと輝くようです。
転句の「友月」は李白に倣いましたか。
結句は「一炊」は「黄梁一炊」で「夢」を導く枕詞のような用法ですね。
葡萄の美味しい季節で、我が家では巨峰は「種無し」が良いか「種有り」が良いかで論争が起きます。
結局、毎年結論が出る前にシーズンが終わってしまいますが。
李白は更に自分の影を仲間に入れましたが、こちらの詩では「蛩」が加わってますね。
「友月」と「蛩中」ですと句の対応がしっくり来ませんね。「秋月蛩聲催美酒(秋月 蛩声 美酒を催(うなが)し)」とか。
ほんの少し眠ったと思ったら、もう月が高く上っていた、というだけでも至福の時が分かります。
ただ、転句でも「月」があり、又ここで「玉輪」が来ると、単に時間経過のためだけの役割になってしまいます。
そうなると、先ほどの転句ですが、「好夕叢蛩」「瑟瑟晩風」などで「月」を出さない方が良いかもしれませんね。
その場合には、結句は「月輪高」と「月」の字を入れておく方が分かりやすいかなと思います。
by 桐山人(2025. 9月教室作品)
作品番号 2025-275
新蝶
南園新蝶到春歸 南園の新蝶 春に到りて帰る
閑倚黃華獨自飛 閑かに黄花に倚(そ)ひて 独自(ひとり)飛ぶ
相近相親鶯語囀 相近づき 相親しみ 鴬語囀り
低空燕愕慌廋稀 低空の燕に愕(おどろ)かされ 慌てて廋(かく)るること稀なり
<解説>
畑仕事の時に遭遇し、楽しみましたので詠みました。
<感想>
転句で新しい登場人物(?)の鴬が登場しますが、「鶯語」が「囀」はおかしいですね。「鶯語久」「鶯囀囀」など。
結句は、「燕」がまた新しく登場ですが、。詩の主題が「鶯と蝶のコラボ」ということでしたら、同じ鳥である「燕」は「鶯」の存在を弱めてしまうだけです。
全体に見ると、どの句も平字で始まるという「平頭」になっていますので、これは直さなくてはいけませんので、そこも考慮して再敲してください。
こちらの詩は前半はよく分かりますね。
最後の「稀」ですが、「慌廋」が「稀」となると、結局、蝶は隠れることが無いということで、のどかに飛んでいるという結末ですかね。
その割に結句の六文字も使っているのはおかしく、何のための「燕」か分かりません。
この句は素材を含めて、検討する必要がありますね。
by 桐山人(2025. 9月教室作品)
作品番号 2025-276
春盡日聞鶯
水淺似雪魚爭躍 水浅く雪に似たり 魚争ひて躍り
密樹枝梢鶯競啼 密樹 枝梢 鴬競ひて啼く
春去那知對何處 春去り那(なん)ぞ知らん 何れの処にか対(むか)ふ
還存冬軼唱天雞 還りて冬軼(おいこ)し 天雞を唱ふ存り
<解説>
毎日鴬と川の響きを聞き、当初より大変囀りが上手くなりました。
<感想>
この前半は下三字が対応していますので、上を合わせて対句に持って行く方向で考えましょう。踏み落としもその方が納得できます。
転句は「春が終わって何処に行くのか分からない」ということですっきりしていますが、結句はどういうことか、難しいです。
起句の「似雪」は「水」でしょうか、「魚」でしょうか。
分かりにくいのは、どちらも「雪」という比喩が見慣れないからです。
無理して「浅い水」が白く光っているのか、と思いますが、季節も晩春ですのでこれも不自然ですね。
どちらを形容したにしろ、「雪」以外のものを使った方が良いでしょうね。
「還存」は良いですが、何が存るかと言うと「冬が追い越して天雞を唱う(朝を告げる)」ことになりますが、「冬が春を追い越す?、逆ですかね。そもそも前の「春が何処に行ったか」と話が合いません。
「唱天雞」は「朝を告げる」以外に何か意味(故事)がありましたか。
この結句は説明をいただかないと分からないですね。
by 桐山人(2025. 9月教室作品)