2023年の投稿詩 第181作は世界漢詩同好會の参加詩から、 聲希 さんの作品です。
 

作品番号 2023-181

  中秋月        

高樓酌酒對宵風   高楼 酒を酌んで 宵風に対す

下瞰熒熒街火雄   下瞰 熒熒として 街火雄たり

今夜月明盤鏡轉   今夜 月明らか 晩鏡転ず

蘇公名句自吟中   蘇公の名句 自ら吟中

          (上平声「一東」の押韻)


























 2023年の投稿詩 第182作は世界漢詩同好會の参加詩から、 香裕 の作品です。
 

作品番号 2023-182

  晩秋        

池亭切切暗叢虫   池亭 切切たる暗叢の虫

石榻坐看山壑雄   石榻 坐して看る 山壑雄たり

秋暮僻村楓葉亂   秋暮 僻村 楓葉乱る

離杯對月影玲瓏   離杯 月に対せば影は玲瓏

          (上平声「一東」の押韻)


























 2023年の投稿詩 第183作は世界漢詩同好會の参加詩から、 桐山人 の作品です。
 

作品番号 2023-183

  晩秋郊村        

衆鳥高飛霜冷空   衆鳥 高く飛ぶ 霜冷の空

圃田収稼一望風   圃田 稼を収む 一望の風

菊花陌上香C艷   菊花 陌上 香は清艶

何處水聲秋色窮   何処の水声 秋色窮まる

          (上平声「一東」の押韻)


























 2023年の投稿詩 第184作は 丹桂軒詩客 さん、仙台市にお住まいの二十代男性の方からの作品です。
 

作品番号 2023-184

  題大船渡        

玉樹雲爭峙   

奇岩海蘊流   

鷲歸窮岫盡   

帆起遠灣頭   

翠釜銀鱗膾   

金盤紫蟹游   

別有清輝玩   

還登鎮汐樓   

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 森の木が高くて雲まで届き、海の波は壮麗な岩海岸をまわり波濤が生む
 鷹が峰の奥くまで帰り、船が遠く海湾の彼方から抜錨せり
 絢爛なお鍋に細くまで切られた魚を陳列されたり、豪華なお皿に蟹料理だが蟹はまだ泳たるが如し
 以上の素晴らしい物事以外月明かりを楽しむこともでき、波を鎮ずるビルを上がったら良し


<感想>

 随分前にいただいておりながら、返事を書けずに大変失礼をしました。

 漢詩創作歴は三年ほど、とのことですが、大学院生として若い方が漢詩に取り組まれているのは嬉しいことですね。

 各句の意を添えてくださいましたので、伝えたい意味はよく分かります。

 首聯はどちらの句も下三字については「雲」「海」が主語になってしまいます。「爭雲峙(雲と争ひて峙え)」「蘊海流(海を蘊みて流る)」として、「樹」「岩」があくまでも主語であるようにした方が伝わるでしょう。

 頷聯は上句、「窮」「盡」と似た言葉が並び困惑します。「高岫奥」として下句との対応を良くしてはどうでしょうね。

 頸聯は「銀鱗膾」が気になります。「銀鱗」は確かに魚を形容していますが、意味合いとしては鱗が光っている状態、つまり魚としての形を保っている物を表します。「膾」として細く料理された段階で「鱗」を持ってくると、鱗の付いたままの刺身ということになり、違和感が出ます。
 また、「膾」は名詞ですが、下句の「游」は動詞と見るのが自然ですので、対応の点でもどうでしょう。

 尾聯は内容としては良いですが、平仄が逆ですね。
 上句は二字目を平字に、下句は二字目を仄字にして「二四不同」を合わせれば良いです。



2024. 1. 3                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第185作は 丹桂軒詩客 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-185

  採蓮曲        

謝園西上若耶東   謝園の西上 若耶の東

斜日空磯舉袂風   斜日 空磯 袂を挙ぐる風

玉蓋參差晴錯落   玉蓋 参差として 晴れて錯落

鶯喉宛轉醉玲瓏   鶯喉 宛転として 酔ひて玲瓏

棹影無情舟已並   棹影 情無く 舟已に並び

菱歌有意語難通   菱歌 意有れども 語通じ難し

金釵水底羞不見   金釵 水底 羞ぢて見えず

若個緗蕖向人紅   個くの若き緗蕖 人に向ひて紅たり

          (上平声「一東」の押韻)


<感想>

 こちらは詩だけでしたので、読み下しを私がつけてみましたが、尾聯はちょっと難解ですね。

 首聯から頸聯までは伝統的な「採蓮」の描写ですが、最後の「金釵」は何を象徴しているのか、「緗蕖」「紅」と色が続くので、どう読んでいけば良いのか悩みました。
 



2024. 1. 3                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第186作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-186

  迎喜壽有感        

壽席挙杯高座央   寿席 杯を挙ぐる 高座の央

伴妻宴坐正煌煌   妻を伴ひ 宴坐 正に煌煌たり

毎朝毎夕三千歩   毎朝 毎夕 三千歩

日日健康唯一望   日々の健康 唯一の望み

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 早いもので 喜寿を迎えました。
 妻と一緒に宴席の真ん中 久しぶりに光を当ててもらいました。
 犬の散歩を兼ねて朝夕のウォーキング
 今は健康第一の日々を送っています。

<感想>

 喜寿、おめでとうございます。
 健康のために一日六千歩以上歩くと良いと言われていますから、「毎朝毎夕三千歩」は良い習慣ですね。
 私も見倣わなくてはと思います。

 承句の「宴坐」は起句と重なりますし、「良妻偕老」と素直に感謝も言うのが良いでしょうね。



2024. 1.24                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第187作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-187

  頌藤井聡太九段八冠     藤井聡太九段 八冠を頌(たた)ふ   

獨立自尊稀有雄   独立自尊 稀有の雄

傳聞術智探求虫   伝へ聞く術智 探求の虫

前人未踏超凡士   前人未踏 超凡の士

不傲励精高志窮   傲(おご)らず 励精 高志を窮めん

          (上平声「一東」の押韻)


「独立自尊」: 独力で研鑽し自分の人格と尊厳を保つ
「術智」: 技術と知恵

<感想>

 承句の「探」は平声で用いますので「下三平」、ここだけは直す必要がありますね。

 藤井聡太とつい呼んでしまいますが、最近は風格も感じられるようになってきました。
 などと、愛知県人としてはついつい鼻息荒くなり、藤井八冠の話になると声のトーンが上がります。

 地元のテレビ局では夕方のローカルニュースで、藤井君の勝負飯、何をお昼とかお八つで食べたか、ということがトップニュースで流れています。
 頑張って!とついつい応援したくなる何かを持ってますよね。

 



2024. 1.24                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第188作は 地球人 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-188

  新秋即事        

黄昏搖扇汗珠収   黄昏 扇を揺らし 汗珠収まる

落日歸鴉月一鉤   落日 帰鴉 月一鉤

散策村園虫語急   散策する村園 虫語急なり

金風颯颯早驚秋   金風颯颯として 早秋に驚く

          (下平声「十一尤」の押韻)


<感想>

 起句は何となくモタモタしている感じですね。
 結句の「金風颯颯」を持ってきた方が画面としては収まりが良いですね。

 承句は、夕日とカラスと三日月が一つの画面に見えた、というのが主眼なのでしょうが、ちょっと欲張ったかな、「落日西天月一鉤」「數影飛鴉月一鉤」と抑えてはどうでしょう。

 転句はよく分かりますね。

 結句は削った「黄昏」とか「落日」「歸鴉」などを持って来れば収まると思います。



2024. 1.24                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第189作は 観水 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-189

  弘前城下作日暮望岩木山        

風吹落日鳥飛斜   風は落日を吹いて 鳥飛ぶこと斜めなり

前後相連入晩霞   前後 相連なって 晩霞に入る

獨立拔雲岩木嶺   独立 雲を抜く 岩木の嶺

雄姿不用帶繁花   雄姿 用いず 繁花を帯ぶるを

          (下平声「六麻」の押韻)


<解説>

  沈む夕日を吹く風に 飛び去る鳥も斜め向き
  前に後に相連れて 茜の空に消えていく
  雲抜くばかりに独り立つ 岩木の山の雄々しさよ
  ふもとを飾る花々も 何の必要あるものか

一昨夏、弘前へ旅行した際の作。
季節によっては、サクラやリンゴの花の咲き誇るさまを楽しむことができたのでしょうが、
津軽富士こと岩木山の雄姿は、ただそれだけで心に迫るものがありました。


<感想>

 観水さんは、昨年は全国の漢詩大会で大活躍でした。
 私も石川の国民文化祭で文部科学大臣賞を受賞された際にお会いし、お祝いを申し上げましたが、受賞の挨拶もご立派でした。

 この詩は、岩木山の雄々しい姿を直接描かずに、「何も無くても素晴らしい」とした所が、多少やせ我慢的な気分はあるにせよ面白いところですね。



2024. 1.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第190作は 観水 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-190

  途上偶成        

人御舟車鳥御風   人は舟車に御して 鳥風に御す

往來天地水雲中   往来す 天地水雲の中

此生如寄歸何處   此の生 寄するが如し 帰するは何れの処ぞ

獨望前途落日紅   独り前途を望めば 落日紅なり

          (上平声「一東」の押韻)


<解説>

  人は車や船に乗り 鳥は翼に風受けて
  行ったり来たり天と地と 雲行き水去るそのあいだ
  人生だってあてどなく さまよう旅路のようなもの
  ひとり先々眺めれば 入り日の何と赤いこと

去年あたりから、また少しずつ遠出もするようになりました。
前詩の旅行とは別の機会ですが、電車の窓から平行して飛ぶ鳥を見て得たのが起句。


<感想>

 こちらの詩は、まさに「偶成」というところで、飛ぶ鳥を見て人と重ねたという点が発想ということですね。
 大事なのは電車に乗っている自分と「平行(並行かな)」しているという点で、地面に立っていたら「空を飛ぶ鳥」は人とは異なる自由な姿ととらえたかもしれない。
 同じ方向に行く仲間、という点が作者に響いたのかな、と思いました。



2024. 1.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第191作は 観水 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-191

  機場偶作        

今日豈言行路難   今日 豈に言はんや 行路難

飛機容易越波瀾   飛機 容易に 波瀾を越ゆ

傍聽漢語後英語   傍らに漢語を聴いて 後に英語

各話旅游多喜歡   各おの話す 旅游 喜歓の多きを

          (上平声「十四寒」の押韻)


<解説>

  艱難辛苦の道のりを きょうび言い出す訳はない
  飛行機乗って簡単に 大波小波越えられる
  背中に英語を聞きながら となりに聞くのは中国語
  みんな旅行の楽しさを 口々話しているようだ

羽田空港国際線到着ロビーにて。
長男の修学旅行先が米国。空港解散のため、荷物も多いだろうことで迎えにいきました。
海外からの訪日客で活気にあふれていました。

<感想>

 羽田国際線到着ロビーとなれば、コロナ明けのインバウンドの迎え口ですね。
 「漢語」が多いか「韓語」かは汚染水排出以来、微妙なところかもしれませんね。
 転句の「後」は「うしろ」ということですね、最初は「あとで」と順番を言っているかと思いました。
「背」「又」とか、他の言葉で沢山の言語が飛び交った感じが出せないですかね。



2024. 1.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第192作は 高雙月 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-192

  假日於圖書館偶成        

倦閲古今籍   古今の籍を閲するに倦み

南窗覺鳥啼   南窗 鳥啼を覺ゆ

靜房陽氣暖   静房 陽気暖かく

搖樹北風凄   搖樹 北風凄(さむ)し

城市休機械   城市 機械休み

壑山響石溪   壑山 石渓響く

古書當適枕   古書当に枕すに適ふべし

蝴蝶那邊迷   蝴蝶 那辺に迷ふか

          (上平声「八斉」の押韻)


「靜房陽氣暖」: 図書館の室内の空調の暖かいこと。
「城市休機械」: 機械は現代的な機械であり、荘子に「有機械者必有機事,有機事者必有機心」とあるように人間の巧智でもある。
「古書當適枕」: 書物は枕にして居眠りするのにちょうどいい。
「蝴蝶那邊迷」: 荘子の胡蝶の夢をうける。

<感想>

 五言律詩で、リズム感が良く出ていますね。

 室内と室外という観点で見ると、第二句で「南の窓の外で鳥が鳴く」と来たので話は室外へ行くのかと思いきや、第三句はまだ室内の様子。
 第四句で外へ、となりますので、この第二句と第三句は入れ替えた方が流れは良いでしょうね。
 「靜房陽気齎」とか、第三句は「凍窗飢鳥噪」だと寒さが厳し過ぎるでしょうか。

 頸聯は「古書」ですと「古」が第一句と重複しますので、「幾書」くらい。
 最後の「蝴蝶」はやや強引な付託ではありますが、五言ですのでこれくらいでも行けるように思います。
 或いは荘子を連想させるような「栩栩」「蝶夢」を使うのも一つの手ですね。



2024. 1.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第193作は 高雙月 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-193

  秋思        

夜來秋雨上天蒼   夜来の秋雨 上天蒼く

颯颯風聲正屬涼   颯颯 風声 正に涼に屬す

天末萬山猶碧   天末の萬山 猶ほ碧高スるも

眼前眾樹已紅黃   眼前の衆樹 已に紅黄たり

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 季節の移り変わりに感あって作った。

<感想>

 秋の山を眺めて、遠くはまだ緑だが、近くはもう紅葉しているという対比を描くのが狙いですね。
 「天末」は「遥か遠く」を言いますが、ちょっと遠すぎるかな。ここまでだと、色もぼやけてしまうかなと思いますよ。
 次の「眼前」との差が大き過ぎて、ちょっと疲れます。
 「遙望連山」「遠嶺遙山」で手頃かなと思います。

 あとは、細かいことですが、起句の「蒼」、後半に「碧香v「紅黃」と色が続きますので、ここは「雨洒上天章」のように色を使わない形で考えると良いでしょう。



2024. 1.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第194作は 道佳 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-194

  由異常酷暑秋     異常な酷暑より秋へ   

鈴虫楽歌涼夜鳴   鈴虫 楽しく歌ひ 涼夜鳴く

堅持百日紫薇菁   堅持す 百日 紫薇 菁(さかん)なり

狂花四季人災極   狂花の四季 人災極れり

緑麗地球方死生   緑麗し 地球 方に死生

          (下平声「八庚」の押韻)


「堅持」: 頑張る
「紫薇」: さるすべり
「菁」: さかんにしげる
「狂花」: 季節外れの花

<解説>

    異常な酷暑から秋へ
  ようやく鈴虫が楽しく夜鳴きはじめ
  いつもよりひと月早く咲きはじめ百日間頑張った百日紅も 季節の移ろいの中、いま盛んなり
  狂う四季 まさに人災によるもの
  緑麗しい地球が いま生か死の狭間にある


<感想>

 起句の「虫」は平声で、仄声もありますが「マムシ」の意味限定です。
 また、承句の「菁」は「さかん」と読んでも、「(草が青青を)茂る」という意味ですので、サルスベリには合わないですね。

 さて、前半の叙景は、起句が夜、承句は昼の景色ですので、順番としては逆の方が良いです。
 また、「異常気象」とするにはサルスベリが長く開いていたというだけではやや弱いように思います。
「百日」を強調するようにして、起句は「百日紫薇花更晶」として、承句は「鈴虫切切待涼鳴」でしょうかね。

 転句は「狂花」ですが、四季が合わないということで「花」を持ってくるのはサルスベリのことかと繋げてしまいます。
「四時不順」でどうでしょうね。

 結句は最後の「方死生」、もう少し強めて「瀕死生」くらいでも良いかと思います。

 あと、題名ですが、「由異常酷暑到秋」と一文字添えると意味が通じるでしょうね。

2024. 1.26                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第195作は 茜峰 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-195

  宮古島変貌        

弾丸倉庫急増州   弾丸の倉庫 急増の洲(しま)

武具運搬公道稠   武具の運搬 公道に稠(しげ)し

抵抗庶民居座態   抵抗せる庶民 居座の態(さま)

黙然丁役路傍収   黙然と丁役 路傍に収む

衆人無視政綱酷   衆人の無視 政綱酷し

同族背違難解由   同族の背違 難解の由(よし)

接近軍声憂苦意   接近する軍声 憂苦の意(おもい)

久安後世且深謀   久安の後世 且(まさ)に深謀せん

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 先日 三上智恵氏(ジャーナリスト・映画監督)監督で2024年完成予定の「沖縄再び戦場へ」(仮題)のスピンオフ作品(45分)を見る機会があった。
 まだ製作途上だが 現段階での発表である。あまりの生々しさに衝撃を受けた。

 宮古島には自衛隊基地が出来、弾薬庫がどんどん建てられ 公道を弾薬を運ぶ車が次々と通る。
 抵抗する人は体を張って道路に寝転び、役人は黙って彼らを路傍に運ぶ。

 島の人たちの想いをくんでくれない政府、同じ民族同士が反対の行動をしなければいけない難題。
 軍事化の声は大きくなりつつあり心が重い。
 戦争のない平和な世界を後の世代につなぐため深く考えなければならないとつくづく思う。


<感想>

 主題はよく伝わって来ますが、律詩ということで見ると、本来対句になるべき頷聯、頸聯の対応がしっくりきませんね。
 ただ、頷聯は勢いのある言葉で実体を表していますので、対句でなくても思いは出ていると思います。
 その分、頸聯の方はきちんとした対句にしておかないと行けません。

 表現のことで言うと、「衆人無視」は語順としては「衆人が無視した」となりますが、本来は「衆人を無視する政治」でないといけませんよね。
 第三句の「庶民」と意味的にも重複します。
 「何爲同族背違酷」「更見人心壓殺遒」で主意とそれほどズレずに行けると思います。





2024. 1.26                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第196作は 東山 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-196

  冬夜宿函館五稜郭        

道南金革五稜營   道南の金革 五稜の営

朔北銀峰伴月淸   朔北の銀峰 月を伴って清し

遊客睡餘殘夢帶   遊客睡余 残夢を帯び

暗聞風烈虎臣聲   暗に聞く 風烈 虎臣の声

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 北海道勤務時代に函館の五稜郭を見学した時を事を思い返して作ったものです。
 「虎臣」は、「土方歳三、榎本武揚」を念頭において作りましたが、名前か何か入れた方が良いでしょうか。
 又、「残夢帯」は読み下しのように読めるでしょうか。

<感想>

 承句の「金革」は「武具」「戦争」、ということは、前半は函館五稜郭の戦の場面なのでしょうか。
 転句は自分のことですので現代となりますが、何かしっくりと腹に落ちませんね。
 「道南金革」「朔北銀峰」と対比させるためですかね、「金革」がどうも邪魔な感じです。
「投宿」「函館」とかで、下も「五稜郭」と踏み落として、承句も「朔北」を「北望」とすれば、作者目線になり、時代は現代になります。

 転句の読み下しはこれでも読めます。

 結句の「虎臣」は「土方歳三」「榎本武揚」を指しているのだろうとは思いますが、ただ、何故彼等の声が聞こえたように思ったのか、その理由が出ていないので、これは悩みますね。
 彼等に対して作者がどんな思いなのか、戦の様子はどんなだったのか、そうした情報が欲しいわけですが、七言絶句で詳しく述べるのは難しいところ。
 そうなると転句の作者の姿をもう少し工夫する形で、「眠れない」とか「歴史を感じる」とか、そうした話にした方が、過去への連想が生まれやすいでしょうかね。



2024. 1.27                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第197作は 観水 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-197

  月下示妻        

相愛相思我與君   相愛し 相思ふ 我と君と

廿年苦樂總勝欣   廿年の苦楽 総て欣ぶに勝へたり

今宵私語月明裏   今宵 私語す 月明の裏

笑殺兩頭華髮分   笑殺す 両頭 華髪の分るを

          (上平声「十二文」の押韻)


<解説>

  相思相愛キミとボク 結婚してから二十年
  苦しいこともあったけど まるごと楽しい思い出さ
  月のひかりに照らされて ふたり今夜も語り合う
  くっきり見える白いもの 互いに笑い飛ばしつつ

 今年11月で結婚20周年となりました。

<感想>

 結婚二十周年、そうですね、観水さんがご結婚された時の詩をいただいていましたので、振り返って見たら2003年でしたね。
 その時の詩二首、「結婚有感」を懐かしく読み返しました。

 起句の「相愛相思僕と君」という書き出しのリズム感が、いかにも幸せそうなラブラブ感を一気に出してくれます。
 東山さんが先日お手紙で「最近、観水さんは各漢詩大会で多数受賞され、一境地を拓かれているものと感心しております。観水さんような瑞々しく斬新な発想、参考にしていきたいと思っています。」と書かれていましたが、この辺りの感覚も指しておられるのでしょう。

 「私語」は『長恨歌』で玄宗皇帝と楊貴妃の愛情の深さを象徴する言葉でしたね。



2024. 1.27                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第198作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 

作品番号 2023-198

  萬年歡・二〇二三年祭詩       

不顧非才,        非才を顧みず,

過二十七載,       過ごせり 二十七載,

欣揮柔翰。        柔翰(ふで)を欣び揮ひて。

相對雲箋,        相ひ対せる雲箋,

常似雪原無限。      常に雪原の無限なるに似る。

清耀皚皚渺渺,      清らかに耀いて皚皚たり 渺渺たり,

探筆路、凝神閉眼。    筆路を探るに、凝神し眼を閉ず。

曙光來、妙想天開,    曙光来たれば、妙想 天に開き,

喜張吟翼輝煥。      喜び張らん 吟翼の輝煥(かがや)けるを。

   ○             ○

頻尋羽郷仙媛,      頻りに尋ぬ 羽郷の仙媛,

請精讀指正,       請ふ 精読して指正し,

點明詩眼。        明るき詩眼を点ぜるを。

佳作難成,        佳作は成り難く,

廢紙寒齏散亂。      廃紙(ほご) 寒斎に散亂す。

六萬五千餘首,      六万五千余首,

只堪誇、凡人剋勉。    ただに誇るに堪ふるは、凡人の克勉。

爐邊坐、年底將傾,    炉辺に坐り、年底に将に傾けんとす,

緑酒滿盈金盞。      緑酒の金盞に満ち盈つるを。

          (中華新韻八寒仄声の押韻)

<解説>

 非才:才能がないこと。二十七載:二十七年。柔翰:筆。凝神:精神を集中すること。吟翼:「吟」は中華新韻では「銀」と同音。
 羽郷:仙境。仙媛:仙女。廢紙:反故、書き損じ。寒齏:貧寒たる書斎。剋勉:刻苦努力すること。

 拙作の漢詩、今年の10月に6万5000首に達しました。五十歳で漢詩を始めて以来26年と6か月での達成です。
 中国語も漢文もまともに学んだことのない日本人であっても、漢詩は詠める、ということが楽しく、私は、毎日漢詩を詠んでいます。
 中国語も漢文もまともに学んではいない私の作詩数は、漢詩の優れた特徴、すなわち漢詩の基本である「韻律すなわち押韻と平仄に関する規律」には、数学や音楽のように言語の壁を超える普遍性がある、ということを証明していると思います。
 また、それを証明したい、というのが、私が多作に励む理由のひとつです。

 なお、拙作6万5000首の内訳は、
 詩はおよそ16000首(絶句は12100首、律詩・排律は2700首、古詩が若干、宋代に始まり俳諧を旨とする十七字詩が1300首)です。
 詞曲がおよそ22000首。私が詠んだことのある詞曲の詩体数はおよそ2400詩体(私が考案した詞体も数十)です。
 残りのおよそ27000首は、現代短詩。主に日本の俳句に刺激されて前世紀に生まれた「漢俳」や「曄歌」など。私が考案した短詩もあります。これらの現代短詩も、私は平仄を遵守し押韻する詠み方をしていますが、
 「韻律すなわち押韻と平仄に関する規律」には、多くの詩体を生み出し、それを楽しませてくれる力があります。そのことが私にとっては、漢詩の大きな魅力となっています。

 以下、「萬年歡」の詞譜。ご参考まで。

 萬年歡 詞譜・雙調100字,前段九句四仄韻,後段九句五仄韻 晁補之
  ▲●○○,●△○▲△(一四),△▲△仄。▲●○○,△●▲○△仄。▲●△○▲●,▲△△、△○△仄。△△▲、△●○○,▲△○▲○仄。
  △○●△▲仄,●△○●△(一四),△▲△仄。▲●○○,△●▲○▲仄。△●△○▲●,●▲▲、△○△仄。▲▲●、△●○○,▲△△▲○仄。
   ○:平声。△:平声が望ましいが仄声でもよい。
   ●:仄声。▲:仄声が望ましいが平声でもよい。
   仄:仄声の押韻
  (一四):前の五字句は,上二下三ではなく,上一下四に作る。




























 2023年の投稿詩 第199作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-199

  春愁(一)        

空庭茅屋拷A圍   空庭 茅屋 緑陰囲む

夕暮遙岑北雁歸   夕暮 遥岑 北雁帰る

一朶梨花春帶雨   一朶の梨花 春雨を帯ぶ

爲三月盡對斜暉   三月の尽を為し 斜暉に対さん

          (上平声「五微」の押韻)


<解説>

「梨花一枝春帶雨」(白居易「長恨歌」)  
「三月尽」: 陰暦三月晦日 春への惜別の情をこめて詠う催し

<感想>

 起句は「空庭茅屋」で二つの場所設定ですね。
 「茅屋」は「粗末な家」ですので通常は「自宅」を表します。次作を見てもそのようですね。
さて、そうなると自分の家の庭を「誰も居ない」という「空庭」と表すのはちょっと不適切ですね。
「閑庭茅屋」ならば通じるでしょう。

 転句は白居易の句、「長恨歌」は古体詩ですので、そのままでは「梨花一枝春帶雨」は平仄が合っていませんので工夫しましたね。
 ただ、「雨」は駄目です。「遙岑」を眺め、「歸雁」を眺め、「斜暉」を眺めているわけで、梨の花だけが雨に濡れているのはあり得ません。
 「香淡艷」とか「爽風裡」で矛盾を解消しておきましょう。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第200作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-200

  春愁(二)        

茅屋庭除雙蝶飛   茅屋 庭除 双蝶飛び

日長微雨麥苗肥   日長く 微雨 麦苗肥ゆ

落花柳絮春歸去   落花 柳絮 春帰り去る

挑簾横牀眺杳巍   簾を挑げ 牀に横たはり 杳巍を眺む

          (上平声「五微」の押韻)


  <解説>

「巻簾欹枕臥看山」: 三月二十九日 蘇軾

<感想>

 こちらは結句から考えると、作者は自宅の部屋で横になっている状態。「微雨」が降っていても、矛盾する語句は無いですね。
 ただ、結句の横になった状態から承句の「麥苗肥」を眺めるのは可能でしょうかね。
 ここは「草苔肥」として庭から離れないようにしましょう。
 最後の蘇軾の句を生かした、と言うよりも同じ行動で、部屋から遠くの山を眺めるわけです。

 承句は「微」が韻字ですので「冒韻」、「時雨」とすればよいですね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第201作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-201

  泊初夏木曾駒山莊        

閑林溪水覺山莊   閑林 渓水 山荘に覚(めざ)む

克陰濃鳥語慌   緑樹 陰濃やかに 鳥語慌ただし

欹枕撥簾覗北牖   枕を欹(そばだ)て 簾を撥(かか)げて 北牖を覗(み)る

白蓮御岳泰遙望   白蓮の御岳 泰として遥望す

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 初夏、保養所木曽駒山荘に泊し、同期入社のゴルフコンペに参加す(回想記)

<感想>

 起句は「覺」を「目が覚める」とはなかなか読み切れないです。
「静かな森、聞こえてくる谷川の音」と来ますので、どうしても「山荘で(音に)気がついた」となります。
「聞」が良いですが「下三平」になりますので、両韻字の「聽」としてはどうでしょう。
 水の音で目が覚めたということでしたら、「閑林」を「曉林」とすると理解出来ると思います。
 ここを「聽」で良ければ、音を揃える形で承句の「鳥語」も起句に持ってくるようにして、結局「曉溪鳥語聽山荘」ということになります。

 承句は季節をはっきり出して、「林樹鵠Z初夏装」でしょうか。
 転句を見るとまだ布団の中のようですので、あまり外の景色をあれこれとは出せません。
 かと言って、「欹枕撥簾」を承句に持ってきては結句が生きて来ませんので、仕方ないでしょう。

 転句は下三字、「覗」は要らないし「牖」も要らない言葉、「北」に「御岳」が見えたということを導くためですので、ここはもう少し検討できるかと思います。

 結句は下三字で「泰」と「遙」と二つを入れようとしたので読みにくいですね。
 「白蓮御岳泰然望」か「白蓮御岳正遙望」など、どちらかはあきらめましょう。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第202作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-202

  初夏水村        

溪流濺到抱村霑   渓流 濺到し 村を抱いて霑(うるお)す

柳絮跳風国舌   柳絮 風に跳(おど)り 緑草纎(たおや)かなり

遙嶺蒼茫野塘上   遥嶺 蒼茫たり 野塘の上

鯉幟遊泳浩然瞻   鯉幟 遊泳す 浩然と瞻(み)る

          (下平声「一先」の押韻)


<感想>

 句の流れが「遠・近・遠・近」という感じで、詩全体がやや散漫に感じます。
 入れ替えて、承句と転句の上四字を交換してみると、互いに助け合って、まとまりのある詩になると思います。

 結句の「遊泳」、「鯉幟」には「泳」の字がよく合いますね。
「幟」は仄字ですので「幡」で。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第203作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-203

  初夏山村        

嫩国u風遠近村   嫩緑 爽風 遠近の村

噪蟬蛙鼓燕雛翻   騒蝉 蛙鼓 燕雛翻る

晴好雨奇江山助   晴好 雨奇 江山助く

雙鯉悠遊端午幡   双鯉 悠遊す 端午の幡

          (上平声「十三元」の押韻)


<解説>

 五月晴れと今は少なくなった鯉幡。
 子供の頃、各種の幟を出庫し、母の手作りの柏餅を食した事を思い出す。

<感想>

 起句は四字目の孤平ですね。「C風」でどうですか。

 承句は「蛙鼓」と対応させて「蟬聲蛙鼓」。

 転句は平仄が合いませんので、上を入れ替えて「雨奇晴好」で整います。
 ここは最後の「江山助」が難しいですね。「江山が力添えをする」ということですかね。

 結句は分かりやすい句になっていると思います。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第204作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-204

  初夏農村        

北窗爽籟坐茅廬   北窓 爽籟 茅廬に坐す

新酷ァ簾心自舒   新香@透簾 心自ら舒なり

茶圃稲苗農務急   茶圃 稲苗 農務急がし

到來黃浪麥秋初   到来す 黄浪 麥秋の初め

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 昭和初期五月の一週間、中学の学業を休み、農家の勤労動員に行ったことを思い出す。

<感想>

 起句の「爽籟」は「爽」を下にして「風爽」とした方が、名詞が並ぶよりも句意がしっかりします。

 承句も同様で、「透簾」より「簾を透かし」としたいですね。
 この下三字の心情語は主題にも繋がりますので、あまり使いたくないところです。
「四月拷A新葉舒」と叙景が良いと思います。

 転句は、茶摘み、田植えと忙しいことがよく分かります。

 結句は何が「到來」したのか、「農務急」であるのに加えて更に麦が実ったという気持ちでしょうか。
 語順を替えて「麥秋黃穗覆田閭」ですかね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第205作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-205

  梅雨感懷        

草庵午下雨聲侵   草庵の午下 雨声侵す

來格梅成熟霖   来格す 青梅 成熟の霖

敲句汗流心地爽   敲句 汗流 心地爽やかなり

老翁刻尠獨沈吟   老翁 刻(とき)尠(すくな)し 独り沈吟す

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

「沈吟収撥挿絃中」: 白居易『琵琶行』

<感想>

 承句は「成熟霖」は「梅の実を熟させる長雨」ということで面白い表現だと思います。
「霖」は、起句で「雨」の字がありますので、重複感がありますので、起句の方を「滴聲」としておけば良いでしょう。

 転句は、梅雨の季節で身体を動かしているわけでもありませんので「汗流」は不自然ですね。
「敲句凭窗」くらいで何とかなりますかね。

 結句の「刻尠」は「年をとったから時間が少ない」ということでしょうが、直前の「心地爽」から見ると、唐突感はありますね。
 転句の下三字の方を「看節序」として、季節の変化から時の流れ、自分の残った時間という連想径路を設ける形が良いと思います。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第206作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-206

  溽暑        

翠陰酷暑坐茅軒   翠陰 酷暑 茅軒に坐す

蟬噪蛙鳴輕燕翻   蝉噪 蛙鳴 軽燕翻る

九夏炎蒸三伏熱   九夏 炎蒸す 三伏の熱

旋風雷閃雨狂奔   旋風 雷閃 雨狂奔す

          (上平声「十三元」の押韻)


<感想>

 こちらの詩は一気に夏の暑さに突入ですね。

 起句の「翠陰」や「坐茅軒」などは爽やかなイメージで、「酷暑」の語が浮いて感じます。「晴空」「霄」で。

 承句は分かりやすい句ですね。

 転句はやや風呂敷を拡げすぎたような印象、「九夏」で夏の間中ずっと暑いとも言えませんので、「夏日」と控えておく手でしょう。

 結句は、ここでにわか雨を持ってくるのは、夏の象徴とは言え、疑問です。
「溽暑」という題で、具体的な景色としては「翠陰」「坐茅軒」「蝉」「蛙」「飛燕」はどれも暑さには直結しないものばかり、
そこに夕立まで来たら、暑さはどこかに行ってしまいます。
 雨が降って暑さが消えたということが主であるならば、夕立は転句に持っていき、涼しくなった様子を結句で描くようにしてはどうでしょうね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第207作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-207

  七夕        

天高秋氣洒窗櫺   天高く 秋気 窓櫺に洒(そそ)ぎ

七夕佳辰銀漢   七夕の佳辰 銀漢青し

月白風C樂良夜   月白く 風清し 良夜を楽しまん

先人浪漫把杯銘   先人の浪漫 杯を把りて銘す

          (下平声「九青」の押韻)


<解説>

 太陽も双星と同じ銀河系流星群に属する恒星である。
 有人月探査ロケットを計画している現在、中国古代の民話は、単なるロマンに過ぎないが、月と共に人の心を豊かにしてくれる。

<感想>

 まず、承句と転句の上四字は入れ替えた方が、前半叙景となり、まとまりが良いでしょうね。
 そうやって並べて見ると分かりますが、起句がどうも昼の景色っぽいですね。
「秋氣」を「涼氣」として、上は「初秋」「秋宵」などでどうでしょうか。

 結句はまさに壮大なロマンですね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第208作は桐山堂半田の 睟 洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-208

  七夕 二        

氣澄風洌養鈴遙   気澄みて 風洌(すず)し 養鈴遥かなり

暉映雙星七夕宵   暉映の双星 七夕の宵

世相遷移人界常   世相は遷移す 人界の常

銀河迎月擧杯聊   銀河 月を迎ふ 杯を挙げて聊(たのし)む

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 再会を期し逆境に耐える双星を応援したい

<感想>

 結句の「聊」は「耳に残る」ということから「たのしむ」の意味が出ているそうです。
 となると、「音」を感じさせる物を結句に置いた方が良いでしょうね。中二字の「風洌」を結句に持って行くように考えましょう。

 起句の「養鈴」は「養老」と「鈴鹿」でしょうが、遠くの山を眺めるとなると、やはり昼間のイメージですね。
その感覚で行くと、承句ですぐに「双星」が「暉映」となってはびっくりします。
 起句は夕方に持って行く形で、「氣澄秋暮」とし、承句は「仰待雙星」と星が上がるのを待つとすれば時間軸は整うでしょう。

 転句は末字の「常」が平声ですので直さなくてはいけません。「世相人情常變轉」とすれば同じ意味になるでしょう。
 ただ、「人間世界は変化がつき物」ということは、逆の「二つの星は変わらない(愛)」ということが出てこないと、何のために書かれたのかがはっきりしません。
 そうなると「世相轉遷天上久」「人界遷移天不変」でしょうか。

 結句については、「迎月」がおかしく、七夕の日、つまり陰暦で「七日」ですともう月は上っている筈です。
「茅檐風洌擧杯聊」としておきましょう。
 全体の流れとしては、転句での「世相」を受けて、結句で「雙星」の変わらぬ姿を描くと話がよく分かるし、作者の意図にも沿うかと思います。
 この詩は更に検討されると良いでしょう。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第209作は桐山堂半田の 酔竹 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-209

  麥秋田家 其一        

平林告猿}枝秀   平林 緑翠 枝枝に秀で

麥浪金黃日日添   麦浪 金黄 日日に添ふ

乳燕軒間要食餌   乳燕 軒間 食餌を要め

農夫庭角砥鉤鐮   農夫 庭角 鉤鎌を砥ぐ

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 麦秋の郊村を余り見たことがなく、頭の中に描いた情景を表現してみました。
 全対格で創ってみましたが、うまくいっているでしょうか?

 承句、結句は「乳燕喃喃要食餌 農夫勉勉砥鈎鎌」のほうが面白いかと思いましたが、
 詩題の田家をはっきりさせる為に、このようにしました。
 又、畳語の使いすぎはいけないのでしょうか?

<感想>

 対句について見ると、「平林(形容詞+名詞)」と「麥浪(名詞+名詞)」は今一、また「浪」は比喩なので「林」とは対し難いと思います。
 「漉ム」「黃麥」、あるいは「樹林」「麥穂」という組み合わせが良いでしょうから、それで中二字を考えてはどうですか。

 後半は確かに別案の方が面白いですね。
 畳語の使用制限が決まっているわけではありませんが、七絶の四句全てに畳語が入るというのは感心しません。
 内容としては、「枝枝」「日日」の方が必要性が薄いので、前半の畳語を修正する方向が良いですね。
 「軒(檐)」とか「庭」をうまく入れれば、詩題の「田家」との関わりなどもうまく行くと思いますので、ご検討を。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第210作は桐山堂半田の 酔竹 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-210

  麥秋田家 其二        

黃雲十里麥蔪蔪   黄雲 十里 麦蔪蔪(せんせん)

辛苦田家喜色添   辛苦の田家 喜色添ふ

農事未馴新嫁女   農事 未馴な 新嫁の女

汗顔刈熟手纖纖   汗顔 刈熟 手繊繊

          (下平声「十四塩」の押韻)


<感想>

 起句の「蔪蔪」は「麦の穂が伸びる様子」を表しますので、ぴったりですね。
「黃雲」も「麦浪」と同じく、麦が一面に育ったことの比喩ですので、そうなると「麥」の字はもう要らないかもしれませんね。
「麥」に替えて何か入れられるという感じで考えてはどうでしょう。
「正」「地」「遍」とか、まあ、無理に入れなくても「麥」でも問題はありませんので、良い字が思い浮かんだら、ということで。

 承句の「辛苦」は李紳(晩唐)の『憫農』に出てきますね、「粒粒辛苦」という四字熟語の元になった詩、農民の苦労を詠った名作ですね。

 転句からは、懐かしい時代の画面、「新嫁女」も王建の『新嫁娘』という詩がありましたから、よく勉強していらっしゃるのが分かります。

 結句の「刈熟(がいじゅく)」は「実った穀物を収穫する」という意味でしょうが、難しい言葉ですね。
 よく使う言葉では「刈穫」の方が分かりやすいかなとも思います。
 最後は畳語で終りますが、起句の末も畳語でしたので、狙ったものですね。
 ただ、効果はどうか、句末ですので下が重くなるような印象が私にはあります。



2024. 1.28                  by 桐山人