2021年の投稿詩 第361作は 石華 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-361

  冬夜        

雛孫臥側已甘眠   雛孫 側に臥して 已に甘眠

妻抱阿猫電視前   妻は阿猫を抱き 電視の前

濁酒瓜菹火籠上   濁酒 瓜菹 火籠の上

無宵不飲倣蓮   宵として飲まざるは無し 蓮に倣ふ

          (下平声「一先」の押韻)


  幼い孫は添い寝をしてもらって、すでにぐっすり、
  妻は猫ちゃんを抱いてテレビの前。
  安酒と瓜の漬物が、置炬燵の上に。
  どんな夜でも飲まないことはない。酒仙李白になった気分。


<解説>

 妻は孫を寝かしつけ、寝酒の用意をしてくれて、いつものとおりテレビに夢中。
 俺は毎日飲むんだと嘯きながらもニコニコ。孫娘がお泊りに来た夜は最高です。

<感想>

 可愛いお孫さんと優しい奥様を優しく眺めながら、チビリチビリと時を過ごす。
 現代の中国の詩人が書いたような、よく整った内容ですね。

 結句の「蓮」は言わずと知れた李白の号、これは暗に李白の「贈内」中の「三百六十日 日日醉如泥」を含ませている形。
 「無宵不飲」「無A不B」は意味としては「BしないAは無い」、つまり「どんなAでもBする」となります。
 この構文ですぐに思い浮かぶのは、陶潜の「飲酒二十首 序」です。

 「余闍初ヌ歡 兼比夜已長 偶有名酒 無夕不飮 顧影獨盡 忽焉復醉
  既醉之後 輒題數句自娯 紙墨遂多 辭無詮次 聊命故人書之 以爲歡笑爾」

読み下すと

 「余閑居して歓び寡なく 兼ねて此(このご)ろ夜已に長し 偶(たまた)ま名酒有り 夕べとして飲まざるは無し 影を顧みて独り尽くし 忽焉として復た酔ふ
  已に酔ふの後 輒ち数句を題して自ら娯む 紙墨遂に多く 辞に詮次無し 聊か故人に命じて之を書かしめ 以て歓笑を為す爾(のみ)」


 一点だけ、起句の「臥側」は逆にして「側臥」、ただこの言葉は要るかどうか、お孫さんの様子をもう一言、入れても良いかなとは思います。



2022. 1. 6                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第362作は 茜峰 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-362

  訪由良港戦跡        

釣客寛閑秋碧波   釣客は寛閑なり 秋の碧波

戦時軍港若修羅   戦時の軍港 修羅の若し

怨嗟霊魄深沈積   恨嗟の霊魄 深く沈積す

莫忘伝承惟偃戈   忘るる莫かれ 伝承 惟(おも)ひは偃戈

          (下平声「五歌」の押韻)


<解説>

 11月の好天の日 和歌山県日高郡由良町の戦跡を訪れた。
 太平洋戦争時、戦争状態が厳しくなるにつれ、この町は京阪神の防備をするところとして重要視されたようだ。

 戦跡はあちこちに残る。
 由良港では1944年7月に実戦があり、B29の直撃を何度も受け修羅場に化したという。
 米軍の写した写真も残る。

 そこでの想いを作詩した。

<感想>

 起句で現在ののどかな様子を描き、承句は対比として戦時中のことを出す形は理解できます。
 ただ、「軍港だった」というだけで「修羅のようだ」と述べるのは急ぎ過ぎですし、この承句の情報だけで転句の「怨嗟霊魄」を導くのは更に無理があります。
 私たちの世代はまだ、「戦争」や「軍港」という言葉から「空襲」を連想することはできますが、戦争自体がすでに七十年以上も前の出来事ですので、作者の思い通りにはなかなか進まないと思います。
 丁寧な説明がこれからはますます必要で、一言でも「空襲」「被害」という言葉を入れると違ってきます。

 結句の「偃戈」(えんか、かをふす)は「戈(武器)をふせる」ことから「平和」を表す言葉です。
 転句はやや感情に流れた印象、字数に余裕があれば問題は無いのですが、言いたいことが沢山有りますので、何を残して何を削るかを考えて、読者にしっかり思いを伝えることが第一です。
 結句の思いを大切にして、中二句の構成を再考されると良いと思います。




2022. 1. 6                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第363作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-363

  親孝行        

経年将白髪   経年 将に白髪、

感謝母慈仁   感謝する 母の慈・仁。

老骨求休養   老骨 休養を求め、

温泉癒倦身   温泉 倦身を癒す。

気烝香苺里   気は烝す 香苺の里、

陽暖菜花春   陽は暖かなり 菜花の春。

好日催湯治   好日 湯治に催ひ、

聊償不孝親   聊か親への不孝を償わん。

          (上平声「十一真」の押韻)


<解説>

 毎年、年に一度だけ一泊の旅行に行きます。母と嫁と三人で行くのです。
 距離的に近いので伊豆へは何度も行きました。
 時間が余ったのでいちご狩りを楽しんでからチェクインしました。
 その思い出を詩にしてみました。
 また来年も行くつもりです。

<感想>

 家族の大切な行事もコロナのせいで出来なくなることが続いていますが、旅行に行けて良かったですね。
 感染も少し落ち着いた春の頃でしょうか、丁度良いタイミングだったのでしょう。

 第一句は「将」と強調する必要があるか疑問ですね。
 年を取って母を思う気持ちが強くなってきた、ということなら、第二句の方に「正謝」「更謝」「愈謝」などの言葉を入れた方が良いでしょう。

 第三句の「老骨」は、また年を取った話です。もう少し後に持ってくるなら良いですが、ここではしつこく感じます。
 流れとして「温泉」から「香苺」、そして「菜花」が来ると、温泉に入った後に苺や菜花を見たとなります。更にその後に「湯治」でまた温泉に戻るという、バタバタした旅行になりますので、頷聯と頸聯の内容を入れ替えてはどうでしょう。





2022. 1. 7                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第364作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-364

  官憂        

一痛遷朝命   一痛 遷さるの朝命

追都隠潤巾   都を追はれ 巾を潤ほすを隠す。

官憂盈紙筆   官憂 紙筆に盈り、

青衿問忠純   青衿 忠純を問ふ。

応挙通温故   応挙 温故に通じ、

今来慰旅人   今来 旅人を慰む。

作詩非独楽   詩を作るは独り楽しむに非ず、

伝播飾誰唇   伝播して誰かの唇を飾らん。

          (上平声「十一真」の押韻)


「官憂」: 官僚の憂い。
「応挙」: 科挙を受ける事。私が作った造語。 <解説>

 こう言っては妙な言い回しになってしまいそうですが、私もこれでも官僚の端くれのつもりです。
 官僚自体、戦国時代からいたわけだし、近世になってからはそれこそ、科挙が始まりそれ以後律詩や絶句の担い手だったわけです。
 漢詩理解するには官僚を官吏を理解しなければならない気がします。
 あとお酒もですが、辞令一つでどこにでも飛ばされ、時には赤木ファイルのように詰め腹を切らされるわけです。
 保身までするなとは言えませんが、国民全体の奉仕者たる矜持を持たなければなりませんね。

<感想>

 官憂、私なりの解釈で言えば、「役人のしんどさ」ということですね。
 前半はその内容で通してありますが、頸聯からは少しずつ詩の話へと変わって行きますね。
 前半の「官憂」「作詩」がどこで繋がるのか、これもなかなか難しいところです。

 頸聯の「応挙」は「(科)挙に応ず」ということで、造語と断らなくても意味は通じると思います。
 「役人ってのは本来温故に通じているものだ」という気概、「矜恃」を示したものでしょう。

 第六句以降は前半と話が合うように、何を用いて「矜恃」とするか、を検討されると良いでしょう。



2022. 1. 7                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第365作は 深渓 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-365

  憶令和        

劫後奈何体力衰   劫後 奈何せん 体力の衰ふを

九三叟昔揚征旗   九三の叟は昔 征旗を揚げ

往兵歳若憶昔日   兵に往く 歳若き 昔日を憶ふ

今者令和平世時   今者 令和 平世の時

          (上平声「四支」の押韻)


<解説>

 弱冠十五才で海軍に入隊日夜猛訓練米軍と交戦せり。
 年若き日々を思い出す

<感想>

 このサイトでの最長老ですね、深渓さんも九十三歳ということです。
 九月の石川県小松市での全日本漢詩大会でお目にかかった時も、矍鑠とされて、お髭もますます仙人のごと長〜くなっておられました。
 昨年も宮崎国文祭にお出かけになられ、毎年新潟の諸橋轍次記念の曲水宴にも行かれるそうですから、巣ごもりの私よりずっと活動的です。
 コロナが落ち着いていれば来月末、2年振りに調布にお伺いする予定ですので、またお会い出来るのが楽しみです。
 ただ、ここ数日で随分状況が変化していますので、どうなるか心配ではありますが。

 起句は「四字目の孤平」ですので、「奈」「如」に。

 承句は「下三平」になってしまいましたね、「揚」「掲」の間違いでしょうね。

 転句は平仄も合わせて「往兵弱冠年日」でしょうか、「冠」は名詞では平声ですが、「弱冠」の場合は仄声になります。

 なお、題名は「憶」だと「思い出す」というイメージが強くなりますので、「寄令和」「題令和」が良いと思います。



2022. 1. 7                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第366作は茨城県水戸市にお住まいの 瑞雲 さん、二十代の男性の方からの作品です。
 お手紙をいただきました。

   この様なサイトがあることは、周りに漢詩好きが少ない私にとって大変有り難いことだと思っています。

作品番号 2021-366

  作於都        

千里悠々到洛城   千里悠々 洛城に到る

今古残碑動吟情   今古の残碑 吟情を動かす

昔人奮剣北面死   昔人 剣を奮ひ 北面して死す

吾亦七生励忠精   吾も亦 七生忠精に励まん

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 昨年末に京都に観光に行きました。
 そこで古今の史跡を見て、大いに感動して作りました。

<感想>

 漢詩を楽しむ仲間にお若い方を迎えることができ、とても嬉しく思います。
 今後ともよろしくお願いします。

 作詩経験は半年ほどとのことですが、お手紙を拝見すると独学のようですね。
 押韻も整って、漢詩の体裁が出来ていますね。

 順に見ていきますと、起句はよく内容の伝わる句です。
 「千里」というのは常套句のような印象もありますが、お住まいの茨城県から京都までは大雑把に見積もれば「千里」(約500キロ)くらいですので、実感のある句と言えます。
 「悠々」「々」は漢字ではなく記号ですので、漢詩本文には使わないようにしましょう。

 承句は平仄が「○●○○●○◎」で、本来は二字目が平字(「○」)にならないといけないところが仄字(「●」)になっています。
 入れ替えて「残碑今古」にすれば合いますが、意味がぼやけますので「残碑旧跡」でどうでしょうね。

 転句は今度は六字目が平字にならないといけない句、語を入れ替えて「古人北面奮刀死」「●○●●●○●」でも内容は同じで平仄も整います。

 結句の「七生」は「七生報国」、観光に来て、史跡を見て、その結果として「吾亦」と勤王を掲げるのはどうでしょうね。
 幕末や明治の詩ならば納得できますが、令和の現代では大げさ過ぎるというか、違和感の方が大きく、共感を得るのは難しいでしょう。
 結句は詩のまとめ、大事なところです。京都観光での詩ですので、思想ではなく、もう少し、京都の景色や季節感などを出すのが良いと思います。

 なお、題名は「作」「於」も不要で、単に「京落感懷」「歳末京都」くらいでも良いですよ。



2022. 1.22                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第367作は 国士 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-367

  越中古志松原        

海浜松樹受陰風   海浜 松樹 陰風を受け

並木青青径続東   並木 青青として 径東に続く

廃道寒光多勝事   廃道 寒光 勝事多し

潮声今古恰相同   潮声 今古 恰も相同じ

          (上平声「一東」の押韻)


<解説>

 浜辺の松の木が冬の嵐を受けている
 並んで立っている木々は、冬でも一面に青々とし小径が東に続いている
 人馬の通らなくなった古道は寒々とした景色だが、よい眺めの風物が多く
 潮の音は今も昔もまるで同じである


<感想>

 起句だけを見ると問題はありませんが、冬の風(「陰風」)を受けてどうなったのかと思うと、「青青」と来ますので、拍子抜けします。
 寒い冬でも松は青いと逆接で繋ぐつもりでしょうが、それなら風を出す必要は無いですね。ここはもっと言えば、「松樹」自体も要らないわけで、まずは冬の海浜をしっかり描写する方が良いでしょう。
 全体に寒々とした冬の日本海を描いておけば、青青とした松の配置も効果が出てくる筈です。

 転句は説明不足、「廃道」のどこに「勝事」を見つけているのか、そこが実は一番大切なところです。
 景色を描いて、読者に「ああ、良い景色なんだろうな」と共感してもらえるように持って行くためには、作者の見つけたものをもう少し書かなくてはいけないですね。
 そうなると、「廃道」などとマイナス要素の言葉を入れる余裕は無いと思います。

 結句は「恰」が要らない言葉で、この言葉が入ると、「今古」「潮声」を聞き比べたような印象になります。
 それはさすがに無理な話でしょうから、「潮声」がどうであるのか、今作者はどのように聞いているのか、そういう具体的な情報を書いて欲しいですね。
 転句にも結句にも具体例が不足していて、後半は実景がよく見えないと感じます。



2022. 1.23                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第368作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-368

  懐昭和広告     昭和広告を懐かしむ   

昭和南雲夏   昭和 南雲の夏、

追風裸足湾   風を追ふ 裸足の湾(いりえ)。

出浜騒灼熱   浜を出でて 灼熱に騒ぎ、

巡目覚疎閑   目を巡らせて 疎閑なるを覚ゆ。

燦燦円零彩   燦燦と円く彩を零とし、

嬌嬌稍赤顔   嬌嬌と稍(やや)顔を赤らむ。

難忘瞳照準   忘れ難し 瞳の照準を合わせ、

望遠浴衣嫻   望遠 浴衣嫻なり。

          (上平声「十五刪」の押韻)


「疎閑」: 人がいないの意味
「望遠」: カメラの望遠レンズ

<解説>

 今の君は ピカピカに光って〜のコマーシャルソングと共にブラウン管で一世を風靡したコマーシャルメッセイジを懐かしく思いながら、書きました。
 宮○○美○○さんが初々しくかわいかったですね。もう還暦だそうですよ。僕がまだ中学生だったと思います。
 YouTubeで検索するとそういった動画もタダで見れますね。
 なんでも詩に歌い込められるものは詩にするをモットーにしている私としては五言律詩に無理やりしました。
 「浴衣」も水着、しかもビキニと呼んでいただければ幸いです。

<感想>

 クイズ女王の宮崎さんですが、最近も写真集を出されたとか。
 可愛らしさと知性、どちらも備えた素晴らしい人ですね。

 私よりも随分若い凌雲さんが「懐かしく思う」ということにビックリですが、昭和の空気を共に吸って育った仲だったんですね。

 宮崎さんの水着のコマーシャル一本でこれだけの詩を書き上げるのは凄いですが、その分、素材が堂々巡りしていて、「ああ、そうだね」という既視感はありますが、共感までいけるかどうか、微妙です。
 詩を通して「昭和広告」にどんな思いを作者が持っているのか、そこを伝えてくれると、読み応えが出てくるでしょうね。



2022. 1.25                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第369作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-369

  出師表        

成都収穫細   成都 収穫細り、

頼嶮益州危   嶮を頼るも 益州危ふし。

匡義英雄道   義を匡すは英雄の道、

震心決起詞   心を震わす決起の詞。

将憂安楽末   将に憂ふるべし 安楽の末、

莫比魏王資   比する莫れ 魏王の資。

無不流忠涙   忠の涙を流さざるはなし、

武侯奉出師   武侯 出師を奉る。

          (上平声「四支」の押韻)


<解説>

 大陸にも判官びいきがあるのでしょうか?

 諸葛亮だから魏に対峙できたような気がします。
 8対1とも20対1とも言われる国力差をはねのけることはできませんでした。

 巨星落ちた後、大人物の後は余程継いだ人の器量がなければ難しいです。諸葛亮亡き後、蜀には人材が乏しかったみたいです。
 乱世にあってあくまで忠義を貫き献身的に執務にまい進した名宰相は後世に語り継がれていきました。

 中国が再び統一されたのは魏によるものでなく晋によるものでした。

<感想>

 蜀は、豊かな天府の地として諸葛亮本人が本拠地に薦めた経緯もありますから、本来はそれなりに地力のある土地だったわけで、頷聯の「匡義」こそが北伐の目的と言えます。
 そうなると、首聯の「蜀は国力も無く、地形に頼っても危うい」という記述とは相容れないでしょうね。

 頸聯はそれぞれの句意はわかりますが、詩全体での構成として、どういう意図なのか、よく分かりません。
 内容的には冒頭の二句の後に置いた方がまだ通じるかと思います。つまり、頷聯と頸聯の内容をひっくり返すということですね。

 尾聯は問題無いと思います。



2022. 1.25                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第370作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-370

  念奴嬌・二〇二一年祭詩       

詩中可以,        詩の中では可なり,

跨禿毫玄化,       禿毫の玄化して,

靈鶴神遊。        霊鶴となるを跨いで神遊するも。

避疫關門求好句,     疫を避けて門を関(と)じ好句を求むるに,

吟魂張翼悠悠。      吟魂 翼を張りて悠悠たり。

今歳裁詩,        今歳(ことし)裁きし詩,

三千餘首,        三千余首,

年暮暫停休。       年暮は暫く停まりて休む。

爐邊傾酒,        炉辺に酒を傾け,

獨祭拙作盟鷗。      独り祭る 拙作の鴎と盟せるを。

   ○             ○

擁膝面壁馳思,      膝を擁(だ)き壁に面して思ひを馳せ,

頻尋蓬島,        頻りに蓬島を尋ね,

充然上雲樓。       充然として雲楼に上る。

喜對嬌娥含笑賣,     喜び対せる嬌娥 笑みを含んで売るは,

丹液盈滿瓊舟。      丹液の瓊舟に盈ち滿つるなり。

共賞欄干,        共に欄干にて賞(め)づれば,

銀河恰似,        銀河は恰も似たり,

飛瀑撒星流。       飛瀑の星を撒きて流るるに。

詠懷如此,        詠懐 此くの如く,

自由交際仙儔。      自由に交際す 仙の儔(たぐい)と。

          (中華新韻七尤平声の押韻)

<解説>

「禿毫」: 使い古して毛の減った筆。
「玄化」: 玄妙に変化すること。ここでは変身。
「靈鶴」: 鶴のこと。
「神遊」: 神は心。空想の旅。
「避疫」: 疫はここでは新型コロナ。
「停休」: 止まること。ここでは筆を休めると。
「盟鷗」: 鷗とともに過ごすこと。退隠を喩える。

「蓬島」: 仙人の住む島。蓬莱。
「充然」: 満足せる様子。また、浩然たること。
「雲樓」: 雲に届く高楼。
「嬌娥」: 美人。
「丹液」: 仙人の飲みもの。
「瓊舟」: 玉でできた酒杯。
「飛瀑」: 滝。
「仙儔」: 仙人に属する者。

 今年も昨年同様、コロナ禍で外出がままならない一年でしたが、私は詩詞さえ詠めればそれで満足な老後を過ごしており、轉禍為福、外出できない分、作詩に割く時間が増えました。
 今年の作詩数は3155首。年を取った割には沢山詠め、おかげで拙作の数、6万首を超えることができました。

 詩は、五絶66首,七絶193首,五律64首,七律73首、計396首。
 詞曲は、2095首。残りは、漢語俳句関連の十七字詩や漢俳などの短詩。

 この数を見れば今年は私にとっては「詞曲」の年でしたが、詩体別にみればやはり七言絶句が圧倒的に多いです。
 七言絶句が詩詞の基本として説かれる理由が体感でわかるように思えます。

 以下、「念奴嬌」の詞譜。ご参考まで。

 念奴嬌 詞譜・雙調100字,前後段各十句,四平韻 陳允平   ▲○▲●,●○○○●(一四),△▲○平。▲●○○○●●,▲△○●○平。▲●○○,△○▲●,△●●○平。△○○●,△▲△●○平。   ○▲▲●○○,○○▲●,△○●○平。▲●○○○●●,△●○●○平。▲●○○,△○△●,△●●○平。▲○○●,●○△●○平。    ○:平声。△:平声が望ましいが仄声でもよい。
   ●:仄声。▲:仄声が望ましいが平声でもよい。
   平:平声の押韻
  (一四):前の五字句は,上二下三ではなく,上一下四に作る。





<感想>

 秋に「作詩数が六万首」を超えたということで「裁詩六萬首開懷」の詞をいただきました。
 今回は一年の締めくくりである「祭詩」です。

 今回の詞を拝見してもそうですが、鮟鱇さんの心が自由に羽ばたくのは、真に精神の仙化に因るわけです。
 コロナで外出が出来ないなどということは、鮟鱇さんにはあまり悩ましいことではないのですね。
 詩作には逆に好都合だと発想を変えて、その通りに実践できるところが、ただただ凄いの言葉しか出ません。
 旅行に出られない、美しい景色が見られないから詩が書けないと言い訳している私などは、恥ずかしい限りです。

 作品の方は、前段の「一年のまとめ」の内容と、後段の「羽化登仙の楽しさ」を語った内容の二段構成が分かりやすく、練達の作品を眺めて満足満足の心境です。



2022. 1.26                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第371作は静岡芙蓉漢詩会の 柳村 さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-371

  秋日遊行        

伴友吟行冷氣微   友を伴ひ 吟行すれば 冷気微かなり

江風颯颯白雲飛   江風 颯々 白雲飛ぶ

秋櫻競美風花路   秋桜 美を競ふ 風花の路

十里長堤不忍歸   十里の長堤 帰るに忍びず

          (上平声「五微」の押韻)


























 2021年の投稿詩 第372作は静岡芙蓉漢詩会の 柳村 さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-372

  追悼        

君逝周年愁轉長   君逝きて周年 愁ひ転た長し

深情厚誼幾星霜   深情の厚誼 幾星霜

祭壇遺影呼無答   祭壇の遺影 呼べども答へ無し

老涙潸潸立夕陽   老涙 潸々 夕陽に立つ

          (下平声「七陽」の押韻)


























 2021年の投稿詩 第373作は静岡芙蓉漢詩会の 柳村 さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-373

  賽富士山本宮淺間大社        

芙蓉山下大宮秋   芙蓉山下 大宮の秋

十里尋來爽氣浮   十里 尋ね来れば 爽気浮かぶ

寒水湯湯成湧玉   寒水 湯々(しょうしょう) 湧玉と成り

間禽點點泛清流   間禽 点々 清流に泛かぶ

幽庭寂寞垂櫻樹   幽庭 寂寞 垂桜の樹

高閣凛然靈廟樓   高閣 凜然 霊廟の楼

古媛神魂恩澤洽   古媛の神魂 恩沢洽(あまね)し

虚心賽去暮雲悠   虚心 賽し去れば 暮雲悠かなり

          (下平声「十一尤」の押韻)


「大宮」: 富士宮市の旧町名
「湧玉」: 富士山の伏流水が湧く湧玉池
「古媛」: 大社の祭神木花咲耶姫命























 2021年の投稿詩 第374作は静岡芙蓉漢詩会の 甫途 さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-374

  蟄伏春        

疲倦臨書小檻巡   臨書に疲れ倦み 小檻巡れば

往來寡少鳥聲頻   往来 寡少にして 鳥聲頻り

長期鬱屈吐嘆息   長期の鬱屈 嘆息を吐けば

黙考沈思蟄伏春   黙考沈思 蟄伏の春

          (上平声「十一真」の押韻)


 二年に及ぶ我慢はとてもつらい。まして若者には同情する。働き手はもっと辛かろう。
 戦後を生きた人たちの辛さと又違うつらさだろうが、こと「感染」については自由も経済もない。
 日本人は医療民度が高い、というより他人に配慮する文化というべきか。























 2021年の投稿詩 第375作は静岡芙蓉漢詩会の 甫途 さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-375

  祝世界遺産北海道北東北縄文遺跡群登録        

木構聳然三段樓   木構 聳然として 三段の楼

幽深巨眼像奇遒   幽深 巨眼 像 奇にして遒(しゅう)なり

縄文開曙喫驚智   縄文 曙開く 喫驚(きつきょう)の智

一道北陲餘慶稠   一道 北陲 余慶稠(しげ)し

          (下平声「十一尤」の押韻)


 北海道・北東北縄文遺跡群世界遺産一覧表への記載が決定したとある。(七月二十七日)
 地元や関係者の喜びは天にも昇る気持ちではないかと思う。
 早速その気持ちを詩にした。
























 2021年の投稿詩 第376作は静岡芙蓉漢詩会の 甫途 さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-376

  懐古加拿大秋        

銀杏黄装映碧空   銀杏(いちょう) 黄装 碧空に映ず

市街路樹扮鮮紅   市街の路樹 鮮紅を扮(よそお)ふ

登高眼下毛氈彩   高きに登れば眼下毛氈の彩

周章加州心奈豊   周章の加州 心奈(なん)ぞ豊なる

          (上平声「一東」の押韻)


「周章」: めぐりあって遊ぶ  旅程も少なくなり物寂しいカナダの秋。
 本当に極彩色で鮮やかで忘れられない。
























 2021年の投稿詩 第377作は静岡芙蓉漢詩会の 甫途 さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-377

  東京二千二十年五輪        

豫防感染五輪闌   感染を予防 五輪闌(たけなわ)

龍虎純眞決戰汗   竜虎 純眞 決戦の汗

滿面金章歡喜色   満面の金章 歓喜の色

我盈氣力又身寛   我 気力に盈(み)ちて 又 身寛(くつろ)ぐ

          (上平声「十四寒」の押韻)


 自国開催はこうも選手の気力が違うのか感心した。
 今回はそれ以上に、内外問わず選手の懸命さに沢山感動できたのはよかった。
 後半のパラリンピックは猶の事、車いすラクビーやボッチャは新発見だった。
 楽しかった。涙も出た。
























 2021年の投稿詩 第378作は静岡芙蓉漢詩会の F ・ U さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-378

  熱海伊豆山泥石流横死者追悼        

雨搖塡土襲山ク   雨は填土(てんど)を揺るがし 山郷を襲ひ

風吼天空令斷腸   風は天空に吼え 腸を断たしむ

多少尊靈埋泥裏   多少の尊霊 泥裏に埋み

悽悽惻惻惹愁長   悽悽惻惻 愁ひを惹くこと長し

          (下平声「七陽」の押韻)


「泥石流」: 土石流
「横死」: 災害などで天命を全うしないで死ぬ。不慮非業死
「填土」: 盛り土
「多少」: 多いこと。たくさん。「少」は助字
「悽惻」: 悲しみいたむ。
























 2021年の投稿詩 第379作は静岡芙蓉漢詩会の F ・ U さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-379

  寄熱海市泥石流朋友偕偶横死卒哭忌        

颶風大雨潰山崖   颶風 大雨 山崖を潰し

泥石湍流埋巷街   泥石湍流し 巷街を埋む

百日居諸哭無涙   百日の居諸 哭すれど涙無し

至心供養寄愁懐   至心に供養し 愁懐を寄す

          (上平声「九佳」の押韻)


「偕偶」: 配偶、連れ添い。
「卒哭忌」: 百日法要。
「颶風」: つむじ風。春から夏にかけて南方から襲来する暴風雨
「湍流」: 水の勢いが激しく早く流れる。
「居諸」: つきひ。年月
























 2021年の投稿詩 第380作は静岡芙蓉漢詩会の F ・ U さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-380

  秋夜偶成        

夜半披衣出靜齋   夜半 衣を披(つ)け 静斎を出づ

一輪皓月照庭階   一輪の皓月 庭階を照らす

芬芬金桂宜秋氣   芬芬たる金桂 秋気宜(よ)く

颯颯西風拂老懷   颯颯たる西風 老懐を払ふ

          (上平声「九佳」の押韻)


























 2021年の投稿詩 第381作は静岡芙蓉漢詩会の F ・ U さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-381

  朴花        

山中靜邃翠C妍   山中静邃 翠(みどり)C妍たり

溪水淙淙韻冷然   溪水淙々 韻(ひび)き冷然

九辨朴花純白發   九弁の朴(ほお)の花 純白に発き

香風影裏別成天   香風影裏 別に天を成す

          (下平声「一先」の押韻)


「朴」: ほおのき。五、六月ごろ、枝先におおきな葉と香り良い黄白色の花をつける。モクレン科の落葉高木。
「淙淙」: サラサラと水の流れるさま。また、その音の形容。
























 2021年の投稿詩 第382作は静岡芙蓉漢詩会の T ・ E さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-382

  聽明珍風鈴        

世情騒擾思無窮   世情 騒擾 思ひ窮まり無し

三伏已過秋韻穹   三伏 已に過ぎて 秋韻の穹(そら)

異色造形纎細響   異色の造形 纎細な響き

靜聽庭裏好風中   静かに聴く 庭裏 好風の中

          (上平声「一東」の押韻)


「明珍風鈴」は、鉄の火箸を四本四隅に吊るして中心に分銅がある構造で分銅が風に振られて火箸に触れて音が出る。
 播磨地方で造られた様である。刀鍛冶の関係もある様です。
























 2021年の投稿詩 第383作は静岡芙蓉漢詩会の T ・ E さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-383

  自日本平望富士        

南面遙看昏暮洋   南面遥かに看る 昏暮の洋(うみ)

平安船影助風光   平安 船影 風光を助く

回頭富嶽絶佳景   頭を回らせば 富岳 絶佳の景

冠雪染紅鮮夕陽   冠雪 紅に染めて 夕陽に鮮やか

          (下平声「七陽」の押韻)


























 2021年の投稿詩 第384作は静岡芙蓉漢詩会の H ・ S さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-384

  消夏偶成        

傾日西山帯夕陽   日は西山に傾き 夕陽を帯ぶ

殘蟬啼罷度微涼   残蝉 啼き罷んで 微涼度る

昨今世相無人訪   昨今の世相 人の訪ぬる無し

庭院蕭蕭坐草堂   庭院は蕭蕭として 草堂に坐す

          (下平声「七陽」の押韻)


























 2021年の投稿詩 第385作は静岡芙蓉漢詩会の H ・ S さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-385

  羅漢會偶成        

交誼連綿六十年   交誼 連綿 六十年

栴檀豪健話常圓   栴檀の豪健 話常に円(まど)か

椿齡傘壽呈祥瑞   椿齢は傘寿にして祥瑞を呈す

羅漢親朋志更堅   羅漢の親朋 志更に堅

          (下平声「一先」の押韻)


「栴檀」: 卒業した大学の旧称
「羅漢」: 同期生の名称























 2021年の投稿詩 第386作は静岡芙蓉漢詩会の K ・ K さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-386

  平安古道        

平安古道険蕭条   平安の古道 険にして蕭条たり

渓水轟轟阻架橋   渓水轟轟として 架橋を阻む

盡瘁行人当徑絶   尽瘁の行人 径絶に当たれば

涼風分篠見苔標   涼風 篠を分け 苔標を見る

          (下平声「二蕭」の押韻)


 静岡北部山間地、秋葉街道という古い道がある。
 細流を何度も渡るまでは良いが、次第に険しくなると獣でも越せない渓流に出くわす。
 水音も高く岩が行く手を阻み、これ以上進めないと諦めた時、谷底から吹きあがってきた風が、クマザサを分け、苔むした石仏が現われた。
























 2021年の投稿詩 第387作は静岡芙蓉漢詩会の K ・ K さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-387

  憶重陽        

年來宿病薬嚢叨   年来の宿病 薬嚢叨りにするも

無効杏林開術刀   効無く 杏林 術刀を開く

六日幽明呻吟過   六日の幽明 呻吟に過ぐれば

重陽節句只殘糕   重陽の節句は 只だ糕を残す

          (下平声「四豪」の押韻)


 とうとう心臓の手術となった。
 今までも、いろんな薬で凌いできたが、根治には至らなかった。
 術後の日は集中治療室と個室で、朝なのか夜なのかも分からない時間を過ごして、一般病棟に戻ってみると、
 九月九日の節句は既に過ぎていて月餅の差し入れがあるだろう。
























 2021年の投稿詩 第388作は静岡芙蓉漢詩会の K ・ K さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-388

  重陽作(二)        

割骨開心除病妖   骨を割り 心を開き 病妖を除く

三旬憂悶此時消   三旬の憂悶 此の時に消ゆ

医生絶技人知積   医生の絶技 人知の積

有命揚頭白雲高   命有りて頭を揚げれば 白雲遼(はる)かなり

          (下平声「二蕭」の押韻)


 胸骨を裂き、心臓を開いて病根を除く手術で、30年来の悩みの種も、ここに消えるだろう。
 名医の神業に加え、医療の知見の集積と医療機器の発達は実に素晴らしい。
 幸いに運命はまだ生きることを許してくれた。
 高層の病院から空を仰げば、うろこ雲が高みにある。

    生きて仰ぐ 
      空の高さや
        赤とんぼ
   (夏目漱石、修善寺の作)
























 2021年の投稿詩 第389作は静岡芙蓉漢詩会の K ・ K さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-389

  照病夢        

曉闇雷鳴震大空   暁闇の雷鳴 大空を震がす

微燈只照病牀中   微灯 只だ照らす 病牀の中

術創發熱全身焼   術創熱を発して 全身焼け

枕下氷嚢起冷風   枕下の氷嚢 冷風を起こす

          (上平声「一東」の押韻)


 手術を終えて一般病棟へ戻ると、うつらうつらして熟睡はできない。
 もう夜明けかな?と思う時分に大きな雷が鳴って大気が震えるほどだった。
 しかし、ビルの中はびくともせず常夜灯は変わらず淡い光を投げかけている。
 メスが入った患部は術後熱を発して、全身が熱く、氷枕を取り換えて貰うと、枕の下からはたちまち涼しさが立ち登る。
























 2021年の投稿詩 第390作は静岡芙蓉漢詩会の 常春 さんからの作品です。
 11月22日に静岡市の教育会館を会場として、二年振りの合評会を開きました。
 完成作を『芙蓉漢詩集 第29集』としてまとめました。

作品番号 2021-390

  鶯聲        

纍日鶯聲此還彼   累日 鴬声 此(ここ)また彼(かしこ)

回頭追影佇忘時   頭回らせ影追ひ佇みて 時を忘る

突然消散悲閑寂   突然消散す 閑寂悲し

小滿無違何處移   小満違いなく 何処に移りしか

          (上平声「四支」の押韻)


 梅花の時節を外して清明から小満まで我が家の鶯声の時節である。
 日中絶え間なくどこかで鳴いているが姿を捉えるのは至難。