作品番号 2020-271
梅雨感懷 其一
南風五月又梅霖 南風 五月 又梅霖
雨氣經旬濕褐襟 雨気 経旬 褐襟を湿ほす
雲破暫時紅日覘 雲破れ 暫時(しばし) 紅日覘けば
忽聞處處亂蟬吟 忽ち聞く 処処 乱蝉の吟
<感想>
良い詩ですね。
転句は「紅日」ですと「朝日」というイメージになります。「白日」の方が昼の太陽になるでしょうね。
この感想を送りました後、例として出しました「白日」は「四字目の孤平」になるので「天日」でと醉竹さんからお返事がありました。
私の見落としでした。(_ _)
2020. 9.11 by 桐山人
作品番号 2020-272
梅雨感懷 其二
五月空濛野色侵 五月 空濛 野色を侵す
晝宵連日雨沈沈 昼宵連日 雨沈沈
過當天水襲生計 過当の天水 生計を襲ふ
造化無私嘆息深 造化 私無きも 嘆息深し
<解説>
今年の梅雨は異常な豪雨で各地に大変な被害をもたらしています。
自然の道理(神)はなんの意図も無いとはいえ、水害のニュースをテレビで見ますと、ため息が出ます。
<感想>
転句の「過当」は度を超えたわけですが、ここ数年連続での災害ですので、やや緩いか、というところです。
「激湍滂渤襲民庶」などの厳しい言い方にすると、深刻さがより伝わるかと思います。
2020. 9.11 by 桐山人
作品番号 2020-273
梅雨感懷 其三
繡球花發又梅霖 繡球花発き 又梅霖
雨洗小庭新告[ 雨は小庭を洗ひ 新緑深し
門外泥塗無剝啄 門外 泥塗 剥啄無し
優優繙譜獨枰臨 優優 譜を繙き 独り枰に臨む
「繡球花」: 紫陽花
<感想>
前半は梅雨の風景を描いていて良いですね。
後半は囲碁に持って行きたいところですが、「門外泥塗」だけで「無訪客」とするのは強引ですかね。
下三字に「無訪客」くらいを入れておき、せっかくの碁石の音は結句に置いてはどうでしょう。
「優優剝啄」として、畳字、重韻と対にしてリズムを出すと、下三字の語順の乱れも解消されるでしょう。
転句の「剝啄」を「碁石を置く音」と私は思いましたが、醉竹さんは「戸を敲く音」という意図だったとお返事いただきました。
2020. 9.11 by 桐山人
作品番号 2020-274
梅雨感懷(球磨川氾濫)
雨如車軸臥花陰 雨車軸の如く 花陰に臥す
道屋摧崩傷客心 道屋 摧崩 客心傷ましむ
泥水入庭家具奪 泥水 入庭 家具奪ふ
球磨氾濫涙沾襟 球磨の氾濫 涙襟を沾す
<感想>
起句の「雨如車軸」は激しい大雨のことですね。そこからすぐに「臥花陰」となるのは、やや繋がりにくいですね。
「久霖霖」としましょうか。
承句の「道屋」は「道路も家屋も」ということでしょうが、「堤堰摧崩村落侵」とするのが良いでしょう。
後半は問題無いと思います。
2020. 9.11 by 桐山人
作品番号 2020-275
梅雨感懷
梅夏風微盡日霖 梅夏 風微かにて 尽日霖たり
暮陰涼到雨聲侵 暮陰 涼到 雨声侵す
深更草屋虚窗燭 深更 草屋 虚窓の燭
老骨求詩滿盞斟 老骨 求詩す 満盞斟む
<解説>
今年の梅雨は異常気象で台風に近い場合もあり、期間も長い。
所謂「五月雨」(しとしと降り)「五月晴」等の言葉が懐かしい。
<感想>
梅雨の重苦しさを詩と酒で追い払おうという気合いが出ていますね。
起句は「盡日」となると、次の「暮陰」や「深更」という時間変化が出しにくくなりますね。
「日日」「連日」と広げておくと流れが良くなるかと思います。
承句は「涼」を先に出した方が良いでしょうから、「一涼薄暮」としてはどうでしょう。
転句の方は「深更」まで時間を引きずらないで「深閑」ではどうですか。
結句は良いですね。
2020. 9.11 by 桐山人
作品番号 2020-276
梅雨感懐
梅天宿雨碧苔深 梅天 宿雨 碧苔深し
燕子青田萬地金 燕子 青田 萬地金なり
窗外籬邊池鯉躍 窓外 籬邊 池鯉躍る
悠然茶味獨閑吟 悠然 茶味 獨閑吟す
<解説>
長雨で外出もままならず、自宅の窓から景色を眺め、ゆったりと過ごしています。
心中は、畑の除草もできなく少しイラついています。
<感想>
今年は本当に梅雨が長く、激しく、滅入るような日が続きましたね。
そんな雨の日に楽しみを見つけることが大切なのでしょうね、ホッとする詩です。
作者の居場所がやや錯綜していますので、統一する必要があります。
具体的には、承句の表現です。他の句は基本的に家に居て、窓から眺めている景色と理解できます。ところが、承句だけは広い視野で眺めています。
起句の「碧苔深」は屋外で通用しますが、奥深い林の中ならともかく、「萬地」の広がりは無理です。
承句の上四字をこちらに持ってきて「窗外籬垣樹樹陰」として、転句に小動物をまとめると落ち着くかと思います。
「檐燕飛廻池鯉躍(檐燕は飛び廻り 池鯉は躍る)」という感じでしょうか。
結句で初めて作者が登場しますが、転句との繋がりがやや弱いので、「悠揚半日獨閑吟」とか、「半日」を「六月」「好景」などとしても良いでしょうね。
2020. 9.11 by 桐山人
作品番号 2020-277
梅雨感懐 一
群蛙閤閤雨聲侵 群蛙閤閤 雨聲侵す
陋屋籬邊克陰 陋屋の籬辺 緑樹の陰
農事孤村秧早挿 農事の孤村 秧早や挿しはさむ
青田細徑百花深 青田の細径 百花深し
<解説>
梅雨のころの農村の風景を詠んだつもりです。
<感想>
農村の風景とすると、前半が自宅での好景、後半は外に出かけたという設定ですね。
そうなると、承句の「陋屋籬邊」が邪魔ですね。
結句の「百花」は季節が合いませんので、承句に持ってきましょうか。
「陋屋幽花克陰」というところ。
転句は下三字が読みにくいので、「秧稲挿」とし、結句は「夏田畦圃杳然深」という感じでしょうか。
2020. 9.11 by 桐山人
作品番号 2020-278
梅雨感懐 二
繞屋雨絲風僅僅 雨絲屋を繞りて 風僅僅
小村細徑晝沈沈 小村細径 昼沈沈
茅檐籬角黄梅節 茅檐の籬角 黄梅の節
窗外茫茫花色深 窓外茫々として 花色深し
<解説>
梅雨の時節の田舎の近景と遠景です。対句にして作ったつもりです。全く駄目かもしれませんがよろしく
<感想>
起句の上四字の読み下しは「屋を繞る雨絲」となります。
前半は意図の通りで、田舎の景色が出ていますね。
対句にするならば、「繞屋」は「荒屋」に、「細徑」を「野徑」としましょう。
後半の近景は家の中に入ってしまっては動き過ぎですね。「檐」「籬角」はこの構成では削らざるをえません。
「傘行詩(農)老」として、作者を登場させる形で転換させましょう。
結句も同様で「窗外」では合いませんので、「數里茫茫樹色深」という形でしょうか。
2020. 9.11 by 桐山人
作品番号 2020-279
屋久島雨山行
山氣疊峰煙雨深 山気 畳峰 煙雨深し
石楠小徑臥花陰 石楠の小径 花陰に臥す
震驚歳歴縄文樹 震驚 歳歴 縄文樹
飛燕否知千古心 飛燕 知るや否や 千古の心
<解説>
世界遺産、屋久島宮の浦岳(1936m)に雨の五月に登山
山は峰々が雨に煙り、奥深く連なっている。
石楠花数千本が咲く小径で寝そべり、石楠花に癒やされる。
圧巻、数千年の歳月に刻まれた巨大な縄文杉(幹周り4m)。
飛ぶ燕よ おまえはこの数千年の風雪に耐えた縄文杉の気持ちを知っているか。
<感想>
実際の体験かと思いますが、雨に煙る山道で「花陰に臥す」のがよく分かりません。
石楠花が小径に臥している、のかと最初は思いましたが、「花陰」ですし、「臥」を「歩」くらいが妥当かと思います。
あるいは、起句を「碧碧畳峰雲氣深」と雨ではなくすれば、まあ、寝そべってもひとまずは通用するでしょう。
転句は「歴歳」が一般的です。
上四字は描写が熟していない感はあり、本来ならば「千(萬)古縄文樹」が詩的ではありますが、感動の気持ちが滲み出て、却って良いとも言えますね。
結句は、縄文杉の長い歳月を「知るや否や」と聞くのではなく、「飛燕悠悠萬古心」として、長い歳月を象徴させる形が良いでしょうね。
「否知」も語順が逆ですので、丁度良いと思います。
2020. 9.12 by 桐山人
作品番号 2020-280
梅雨感懷
梅雨晴間月影臨 梅雨 晴間 月影臨む
前庭樹下聽虫吟 前庭 樹下 虫吟を聴く
一花白白香千斛 一花 白白 香千斛
滿地良宵物外心 満地 良宵 物外の心
<解説>
長雨が続いていましたが、数日前の夜、雨の合間に月下美人の花が咲きました。芳香に包まれ和む宵を過ごしました。
<感想>
月下美人は育てるのが難しいそうですね。我が家は育てたことはありませんが、何年か前に義母が知人から貰いまして、ある晩、「花が開いたからおいで」と言われて見に行った記憶があります。
起句は「はれま」と読んでいると和語になります。「六月新晴」としてはどうでしょう。
転句は「白白」と重ねるよりも、もう少し花を形容する言葉にした方が良いですね。
「C白」「皓白」「鮮白」など、花の情報を増やす積もりで探してみましょう。
2020. 9.12 by 桐山人
作品番号 2020-281
梅雨感懷 一
坂^蛙吹野情深 緑秧 蛙吹 野情深し
散歩小村愉微吟 散歩 小村 微吟愉しむ
滿目梅天雲幕幕 満目 梅天 雲幕幕
晴耕雨讀坐C陰 晴耕雨読 清陰に坐す
<解説>
長雨で空もどんよりとしてすっきりしない。「雲幕幕」の言葉を見つけ使ってみました。
世の中、はやくすっきりしてほしいと思います。
<感想>
前半はこの時期の風景をよく描けていますね。
承句の六字目だけ平仄が違いますので、「散歩ク村愉小吟」のように合わせましょうか。
結句は、前三句を見ると「晴耕」もしていないし、「雨読」でもなく、どうも分離しているようです。
悠々自適な気持ちを表す他の言葉を探してはどうでしょうね。「閑」「安」などの字を使うと良いでしょうか。
「身閑意適」「平安寧日」など。
2020. 9.12 by 桐山人
作品番号 2020-282
梅雨感懷 二
檐溜空庭国瑞[ 檐溜 空庭 緑草深し
荷香滿溢古池尋 荷香 満溢 古池の尋
桑田碧海無由撲 桑田 碧海 撲に由無し
獨酌幽思世外心 独酌 幽思 世外の心
<解説>
「桑」の字にひかれて作りました。
昔はこの辺りでも桑の木が沢山あったらしいです。
<感想>
こちらの詩も前半は梅雨の景がしっかり描けていると思います。
承句の「尋」は「潯」にしておきましょう。
転句の上四字は「桑田変成海」でしょうが、どこからそういう気持ちが浮かんだのか。
その理由を前半に多少は暗示していないと、突然の話に驚くばかりです。
また、「撲」はこれはどういう積もりの言葉なのか、難解ですね。
結句は良いですが、前半の庭の様子から「獨酌」に行くためにも、転句で作者の様子を少し入れておく必要があるでしょう。
2020. 9.12 by 桐山人
作品番号 2020-283
梅雨感懐 一
池上紅雲日欲沈 池上紅雲 日沈まんと欲す
突如遥起迅雷音 突如遥かに起こる 迅雷の音
轟轟梅雨乾坤白 轟轟たる梅雨 乾坤白し
忽霽薫風散暮禽 忽ち霽れて薫風 暮禽散ず
<解説>
夕方、近くの池に行った時に急に猛烈な夕立にあった。
雨はすぐに止んで、爽やかな夕暮れになった。
<感想>
四句の流れを見るとどれも天候の話で、「夕焼け雲が紅い」〜「雷の音がした」〜「辺りが真っ白な雨」〜「晴れて風爽やか」と一句毎に変化するのは慌ただしく、「突如」「忽」で展開するのも忙しいです。読んでいても落ち着きません。
起句に少しでも雷の予感が出ていると良いでしょう。
鳥が飛び噪ぐのが大抵は予兆になりますので、結句の「散暮禽」を起句に持ってくる形で「池上陰風散暮禽」として、承句に「轟轟盆雨響雷音」を置きましょうか。
そうなると起句も対句の形で「烈烈池風散暮禽」としても良いでしょう。
転句は作者とか人のことにして展開させると良いでしょうかね。 例えば、「乾坤濛曖匿人影」「行人留足水亭畔」などとして、最後の結句で一気に晴れて夕日が見えるような構成にしてはどうでしょう。
***** 健洲さんからは再敲作もいただきました。 *****
梅雨感懷 一(再敲作)
烈烈池風散暮禽 烈烈たる池風、暮禽散ず
轟轟盆雨響雷音 轟轟たる盆雨、雷音響く
行人留足水亭畔 行人足を留む、水亭の畔
忽霽涼來日欲沈 忽ち霽れて涼来たり、日沈まんと欲す
詩は完成で良いと思いますが、題名と合わないので「夏日遭雨」「驟雨」の方が良いでしょうね。
2020. 9.12 by 桐山人
作品番号 2020-284
梅雨感懷(二)
湿暑梅天夏未深 湿暑梅天 夏未だ深からず
暮蚊底事隱居侵 暮蚊底事ぞ 隠居を侵す
涼風九月君不見 涼風九月 君を見ず
黙許無聲刺口針 黙許す 声無く口針を刺すを
<解説>
蚊について書きたいと思い、韓愈や黄中堅を参考に作ってみたが、「針」が蚊の口先に使えるか判断できなかった。
蒸し蒸しする夕方、蚊が部屋に入ってきて鬱陶しい。
しかし蚊も涼しくなるまでの短い命。黙って血を吸うのを許そう。
<感想>
参考にされた韓愈も黄中堅も、蚊に対しておおらかな気持ちを持っていて、私は何と心優しいのだろうと思っていましたが、井上さんも同じ優しさをお持ちなのですね。
面白く読ませていただきました。
転句は「二六対」が崩れていますね。
また、「涼風九月」だけでは「九月になれば」とはならず、韓愈の詩のように「到」が無いと「現在は九月」となってしまいます。
下三字を「到君去」とすれば話は通じますが、ただ、現在は梅雨の時節、「九月」は晩秋ですので、少し間が空き過ぎるように思います。まだこれから数ヶ月、蚊に刺され続けるのはどうでしょうね。
「涼風來到忽君去」くらいが適当だと思います。
結句は「黙」があると「無声」が蚊のことと分かりにくくなります。「黙」を取れば良いですので、「忍許」「許諾」など上二字を替えれば良いでしょう。
「針」は比喩として良いですが、「刺」が単調なので、「揮」「弄」「恣」などとすると面白みが出るでしょう。
なお、健洲さんが参考にされた韓愈の詩は「雜詩 四首之一」、黄中堅の詩は「蚊」です。
その他にも漢詩で蚊が登場する詩を幾つか拾い出しましたので、興味のある方は以下をクリックしてみてください。
孟郊(中唐)「蚊」、楊鸞(中唐)「即事」、皮日休(晩唐)「蚊子」、華岳(南宋)「夏夜苦蚊」、その他にも白居易や元稹、韋応物や欧陽脩など、名だたる詩人も蚊に悩まされたようですよ。
2020. 9.12 by 桐山人
作品番号 2020-285
梅雨感懷
小齋鬱鬱午寒侵 小斎 鬱鬱 午寒侵す
忽起風雷雨色深 忽ち起こる風雷 雨色深し
排悶閑人空對酒 排悶の閑人 空しく酒に対す
梅天未霽奈愁心 梅天 未だ霽れず 愁心を奈んせん
<感想>
起句の「午寒」ですが、「午熱」からの連想でしょうか。
あまり聞かない言葉ですが、これは梅雨に合いますか。「鬱鬱」「排悶」「愁心」と重ねるには、「寒」くらいが欲しかったんでしょうか。
「午涼」ですとよく出てくる言葉ですし、夏という感じがします。
うーん、悩ましいですが、ここは「竹窗陰」としてはどうでしょうね。
転句の「排悶」は「愁心」がありますので、ちょっとくどいようにも思います。
ここは再敲されてはいかがでしょう。
***** 後日、柳村さんから再敲作をいただきました。 *****
梅雨感懷(再敲作)
小齋盡日竹窗陰
忽起風雷雨色深
獨慰無聊空對酒
梅天未霽奈愁心
再敲作に差し上げた私の感想は以下の形でした。
転句の「獨慰」などは、直していくとどうしても説明的になってしまう例ですね。
「盡日」をこちらに持ってきて、「盡日無聊空對酒」とした方が、スリムになって良いですね。
「獨」は全体の色調を作りますので、起句で表す形で「竹裏孤窗陰」。
また、「盡日」を入れると承句の「忽起」が合いませんので、「遠聽風雷」のような形でしょうか。
2020. 9.13 by 桐山人
作品番号 2020-286
梅雨感懷 一
幽窓連日苦梅霖 幽窓 連日 梅霖に苦しむ
懶慢無堪靜擁衾 懶慢 堪ふる無く 静かに衾を擁す
睡覚涼風長雨輟 睡り覚めて 涼風 長雨輟む
庭園返景暮蝉吟 庭園 返景 暮蝉吟ず
<解説>
梅雨の長雨で外に出かけられない鬱々とした日が続くと、昼寝でもするしかありません。
夕方、雨が上がると蝉が鳴き始めて、もう 梅雨が終わったかなと期待させられます。
<感想>
平仄、押韻ともに整っていますので、初めての詩作とは思えないくらいですね。
解説にお書きになった通りの景がきちんと描かれていますので、このままでも処女作としては十分の作品だと思います。
承句は杜甫の詩で知られる四字ですが、「静擁」ですとちょっとお行儀が良過ぎですね。「グダグダとやる気が出ない」という感じで行くならば、「午睡衾」として「昼寝」をはっきり出した方が良いですね。
転句の「睡覚」は時間経過を表すためですが、「長雨輟」は変化が大きいので、「知雨輟(歇)」として、頭は「覚起」くらいに軽くしておきましょう。
結句は「小庭」とした方が自宅の趣が強くなります。
2020. 9.13 by 桐山人
作品番号 2020-287
梅雨感懷 二
烏雀無声古木林 烏雀 声無し 古木の林
雨中荒径国ロ侵 雨中の荒径 緑苔侵す
青山路遠人蹤滅 青山 路遠く 人蹤滅す
涼意霏霏細滴音 涼意 霏霏たり 細滴の音
<解説>
先日、秋葉神社に参詣しました。
荒れた山道が長く続き心細くはありましたが、道端の苔は雨にぬれて生き生きとして、雨音は涼しげでした。
<感想>
起句は「烏雀」と具体的に出すと「古木林」という靄った場所ですのでどうでしょうか。
「棲鳥無声古木林」ならばしっくり来ます。
「烏雀」とするなら、こちらに雨を持ってきて「烏雀無声長雨林」とした方が良いですね。
承句はこのままか、「雨」を起句に持って行ったら「古祠荒径」も良いですね。
転句は雨の中ですので、「青山」が良いかどうか、逆に「窃冥」と暗い様子を出した方が良いかなと思います。
結句は良いですね。
「霏霏」以外にも色々考えられそうですので、今後の推敲の楽しみにしてはどうでしょうね。
2020. 9.13 by 桐山人
作品番号 2020-288
竹裏之家
新篁三尺洗吾心 新篁 三尺 吾が心を洗ひ
經竹幽棲隱耀欽 経竹 幽棲 隠燿を欽(うやま)ふ
煮茗草廬聽暮鐘 茗を煮る 草廬に暮鐘を聴き
蛙聲窗外雨霖霖 蛙声の窓外は雨霖霖
<感想>
落ち着いた趣があって、まとまりのある詩ですね。
このままでも良いですが、若干、手直しをすると良い所もあります。
起句の「洗吾心」は結論を述べるのには早過ぎる気がします。
また、結句の「蛙声」も素材としては良いですが、直前に「暮鐘」と「音」を出していますので、やや重複します。
起句と結句を入れ替えるような形はどうでしょうかね。
ただ、結句の「雨霖霖」も余韻の残る結びですので、このまま残したい気もしますので、悩ましいですね。
2020. 9.14 by 桐山人
作品番号 2020-289
梅雨感懐 一
九州東北何豪雨 九州東北 何たる豪雨ぞ
氾濫河川絶古今 河川の氾濫 古今絶す
猖獗病魔妨復舊 猖獗(しょうけつ)の病魔 復旧妨ぐも
相扶互勵愛郷心 相扶け 互ひに励ます 愛郷の心
<感想>
前半の雨の話から、コロナへの展開が効果的ですね。
「猖獗」は「獣が暴れ回って制御できないこと」ですが、「病魔」の形容として納得できますね。
2020. 9.14 by 桐山人
作品番号 2020-290
梅雨感懐 二
雨天書計晴除草 雨天は書計 晴るれば除草
交互適時疲不侵 交互 適時に疲れ侵さず
衰老貪婪追萬事 衰老 貪婪(どんらん) 万事追はんとするも
幸哉抑制據梅霖 幸ひなるかな 抑制するは梅霖による
<解説>
今夏の梅雨、しとしと雨ではなく、短時間の驟雨の繰り返しだった。
そのリズムのお蔭でコロナ蟄居の退屈も紛れ、適度の運動にもなった。
<感想>
後半にやや諧謔的な趣はありますが、梅雨にも「ありがたみ」があるという発想が、案外説得力があって面白いですね。
2020. 9.14 by 桐山人
作品番号 2020-291
梅雨感懐
駿州七月雨霖霖 駿州七月 雨霖霖
悲報自朋来告惨 悲報朋より来たり 惨を告ぐ
夫将失明婦又倒 夫将に失明せんとして 婦も又倒る
孤灯遥想涙滲滲 孤灯遥かに思へば 涙滲滲たり
<感想>
承句の「惨」は仄字ですので、押韻が合いませんね。
また、「自朋來」はこの位置ですと読みにくいですね。
「悲報時來告惨音」としましょうか。
転句は下三字が全て仄字です。「婦」を「妻」としておけば問題ないと思います。
結句に承句で削った「朋(友)」を戻して、「孤灯想友」とするのが良いでしょう。
2020. 9.16 by 桐山人
作品番号 2020-292
梅雨閑居
沈雲宿雨落花侵 沈雲 宿雨 落花を侵す
閉戸空庭午景深 戸を閉め 空庭 午景の深
簷滴惟聽無一事 簷滴 惟だ聴く 無一事
寥寥隱几鬱陶心 寥寥 几に隠る 鬱陶の心
<感想>
起句の「落花」は梅雨の時節で何を指すのでしょうか。
勿論、無いわけではないでしょうが、「草花」とか「紫花」とした方が季節感が出るでしょう。
承句の「空庭」は「閉戸」がありますので、「誰も居ない」ことを言う必要は無く、「閑庭」、結句の「寥寥」とぶつかるようでしたら「階庭」あたりが良いでしょう。
転句は落ち着いた趣で良い句ですね。
対して、結句は暗い心情になるのですが、梅雨の雨で「鬱陶しい」のは定番、せっかくの転句が死んでしまいます。ここは「梅雨もまあ良いか」という方向が適していると思います。
そうなると、結びは「詩心」くらいでしょうか、中二字はこのままで「繞」「弄」を上に置くと良いですね。
「寥寥」は逆にノンビリしたという方が良いので、私は「悠悠」くらいが良いと思います。
2020. 9.16 by 桐山人
作品番号 2020-293
雨滴(梅雨感懐)
山影西郊連日霖 山影西郊 連日霖たり
荒村籬落竹風侵 荒村 籬落 竹風 侵す
眼前雨滴紛菱角 眼前の雨滴 菱角に紛ふ
流木大河傷客心 流木大河 客心傷ましむ
<解説>
垣根の戸が飛んできて飛んで行った。
雨滴は菱の実が躍り出しているようだ。
今年の梅雨は台風もどき。案の定警報の連続。
安倍川は氾濫しないでくれと本気の思い。
<感想>
結句の「傷客心」が詩を分かりにくくしています。「客」では旅先で災害に遭遇した詩になってしまいます。解説から判断すると、ご自宅での様子、そうやって見ていけば、結句の「客」だけが急に飛び抜けた感じが分かると思います。
取りあえず、自宅での詩、として考えて行きます。
起句は、「山影」と「西郊」のバランスが悪いでしょうね。
「山影冥茫連日霖」とか、「梅雨四山連日霖」として「西郊」は削る形が良いでしょう。
あるいは、承句の「荒村」が「籬落」「竹風」と視野にずれが大きいので、これを起句に持ってきて、承句からは近くの者に揃える方が良いですかね。
起句を「六月荒村連日霖」として、承句は「茅居籬落竹風侵」とすれば句としてまとまります。
ただ、激しい雨での水害の心配という後半に進むには、「竹風」ではあまりにか弱いですね。
風をやめると「侵」の主語が必要になりますので「雨」を持ってきて、「冥濛積雨陋居侵」と大きく替えた方が良いかと思います。
転句からは具体的な目の前の景で良いですが、「眼前」では雨の中に出ていきますので「窗前」。
「雨滴」は「檐滴」でしょうか。
雨垂れでは「菱角」に合わないようでしたら、比喩を替えるか、「斜雨」として、承句を再検討するかですね。
結句はそのまま「氾濫」と表した方がよく分かります。「大河」は特に大きな川を心配しているならこのままでも良いですが、「山川」が良いかと思います。「警報」などを入れても臨場感が出るかもしれません。
下三字は検討課題でしょうが、「苦老心(老心を苦しむ)」などの方向でしょう。
2020. 9.16 by 桐山人
作品番号 2020-294
蛙雨調(梅雨感懐)
西郊山影野煙沈 西郊山影 野煙沈む
梅雨挿秧惜寸陰 梅雨挿秧 寸陰を惜む
黙坐群蛙哀調混 黙して坐せば 群蛙 哀調して混じる
空庭帰鳥暮鐘音 空庭 帰鳥 暮鐘の音
<解説>
農夫は雨の中でもかまわず田植えをしている。
黙って坐れば眠くなるほどの雨と蛙の調べ
庭や帰鳥を見ていれば鐘の音
70年前の田舎の風景を思い出して作った。
<感想>
前半は郊外に出ているはずですね。
それが後半になると、「黙坐」「空庭」と自宅に居るわけですが、いつの間に戻ったのでしょうね。
その矛盾を出してまで家に居る理由は無い、と言うか、「惜寸陰」の様子を傍観者のように眺めている姿も気になりますね。
取りあえず「黙坐」「空庭」の二つの語を外の景色に合うようにしましょう。
起句を「梅天郊外野煙沈」、承句を「禾役」(植えた苗の列)で始めておくと田植えに一生懸命な様子が浮かぶでしょう。
「黙坐」は「時聴」くらい、「空庭」は田植えを終えた後、帰る農夫の姿につながるような表現が見つかると良いですね。
2020. 9.16 by 桐山人
作品番号 2020-295
梅雨感懷 一
連綿雨涙瀝幽林 連綿たる雨涙 幽林に瀝(したた)る
不聽鳥聲聆水音 鳥声を聴かず 水音を聆(き)く
兀兀敲詩忘夕日 兀兀 詩を敲けば 夕日を忘る
梅天虹架故郷岑 梅天 虹の架かるは 故郷の岑
<感想>
承句の「聆」は「耳が良い」ことで「しっかり聴く」「耳を澄まして聴く」という意味の字、味わいがありますね。
句中対で工夫され悪くはないですが、「鳥聲」と「水音」の組み合わせは面白くない、と言うか、やや勿体ない気がします。
まず、「幽林」から「鳥」かと思いますが、雨の中で鳥の声を期待するかどうか、「人の声」の方が合うかと思います。
また、「水音」はすでに「瀝」の字が使われていますので、繰り返しという印象。「水」でもどんな水か、変化が欲しいところです。
転句の「兀兀」は「一心不乱に」ということですので、下三字は「雨が上がって夕日が射していることに気がつかなかった」ということでしょう。
すっと読者に通じるか、どうか。
時が流れたことを表すか、ちょっと古くさくなりますが「蓑笠叟」「傘中老」としておき、結句の上二字で虹に気がついたという形が良いと思います。
「忽知虹架」「仰看虹架」というところで、転句で最上の表現をご検討ください。
2020. 9.21 by 桐山人
作品番号 2020-296
梅雨感懷 二
雨脚連綿園圃淋 雨脚連綿として 園圃に淋(そそ)ぎ
西紅柿落意沈沈 西紅柿(トマト)落ちて 意(こころ)沈沈
敢然決水休簷下 敢然 水を決し 簷下に休めば
仰看虹梁架翠岑 仰ぎ看る 虹梁 翠岑に架かる
<解説>
トマトは長雨に弱く日光を好む。胡瓜は水を好み日照りに弱い。
<感想>
前半は丁寧にお書きになっていて、佳句だと思います。
転句の「決水」は「堤防が切れる」という災害場面と、「水を流して田を潤す」という潅漑・農耕の場面と、二つの使い方があります。
ここは長雨で水が溢れそうになった園圃を守るために、ということですね。
前半からの流れで、降りしきる雨の中、合羽を着て堤を切ろうとしている姿が目に浮かびます。
ただ、この後の展開が急で、「簷下で休んでいる間に、雨は上がって、虹が架かって、遠くの青い峰まで見える」となると、「敢然」の言葉が自虐的になり、「少し待てば雨も上がったのに、無駄なことをしたね」と笑われているように感じてしまいます。
そういう面白みを狙った詩だということならば仕方ないですが、転句でもう少し時間経過を丁寧に描けば、結句のせっかくの「虹」が生き生きとしたものになるので、勿体ない気がします。
「茅簷閑坐偶天霽」のような形で考えてはどうでしょう。
2020. 9.21 by 桐山人
作品番号 2020-297
梅雨感懷
憂鬱梅天連日霖 憂鬱 梅天 連日霖たり
碧苔庭院雨聲深 碧苔の庭院 雨声深し
山家徑遠無人訪 山家 径遠く 人訪ふ無し
黙坐思詩惜寸陰 黙坐し 詩を思ひ 寸陰を惜しむ
<感想>
よくまとまっていると思います。
承句の「庭院」ですが、これはどこの庭でしょうか。
転句で「山家」と謙遜して自分の家が山にあると言っていますので、どこか別のお庭に出かけたのかと思います。
前半は出かけた時の風景、後半は戻ってきたでも良いのですが、家での落ち着いた生活を描いた結句を生かすには、前半も自宅から眺めた景色としておいた方が良いですね。
引っかかるのは「院」ですので、「徑」をこちらに置いて、転句の方は上四字で、家や作者の居場所を表す言葉で、「山家幽寂」とか「破窗茅屋」などを考えてはいかがでしょう。
2020. 9.21 by 桐山人
作品番号 2020-298
梅雨感懷
雨情山寺碧苔深 雨情 山寺 碧苔深く
池面芙蓉芳香侵 池面 芙蓉 芳香侵す
宿潤洗塵鮮寶樹 宿潤 塵を洗ひ 宝樹鮮なり
鐘聲棄俗古今心 鐘声 俗棄つ 古今心
<解説>
春の終わり、石山寺を訪れた時の詩です。
<感想>
素材も良く、実際に出かけて行くと、場面構成も整いますね。
承句の六字目が平声なのが惜しいです。ここは仄声にしなくてはいけないところ、「香馥侵」としましょうか。
転句は「宿潤」がよく分かりませんが、「潤」が「雨」の代用でしょうかね。
すっきりと「宿雨(昨夜からの雨)」とか、「暮雨」「霖雨」なども良いでしょう。
私のお勧めでしたら、「山雨」かな。この場合には重出を避けるために、起句を「夏初古寺」とか「近江古寺」などとしますね。
結句は「古今心」は良いですが、「棄俗」がわざとらしいですね。
鐘の音の重々しい感じを出しておけば「古今心」に繋がりますので「陰鬱」、地形を入れて「滿谷」「萬壑」ではどうでしょう。
2020. 9.21 by 桐山人
作品番号 2020-299
梅雨感懷 一
瀟瀟梅雨濕衣襟 瀟瀟たる梅雨 衣襟湿る
風動天晴歩歩吟 風動き 天晴れ 歩歩吟ず
亂吠蛙聲池水 乱吠 蛙声 池水緑
萬荷颭颭慰吾心 万荷 颭颭 吾心慰む
<感想>
承句以降は良くまとまっているのですが、起句からの変化が大きいですね。
起句の雨降りをもう少し抑えるような形で考えるのが早いかもしれませんが、起句自体も良い句ですので、勿体ないですね。
うーん、いっそのこと雨の中を歩いたという形に持って行ってはどうでしょう。
「一日出門閑歩吟」「傘下訪朋遊歩吟」のような方向でしょうかね。
転句の「亂吠」も面白いのですが、その前が「吟」ですので、ぶつかり合う気がします。
最後の「慰吾心」に繋げるには落ち着いた雰囲気が良いでしょうから、「遠聽」と音を小さくしておくと良いでしょう。
2020. 9.21 by 桐山人
作品番号 2020-300
梅雨感懷 二
梅天雨後坐閑居 梅天 雨後 閑居に坐す
簾外日回意晏如 簾の外 日回り 意晏の如
一啜新茶喉吻潤 一啜の新茶 喉吻を潤す
風蟬斷續夏時初 風蝉 断続 夏時の初め
<感想>
承句は「意は晏如」と読みましょう。
この句は「四字目の孤平」です。「日回」は梅雨の晴れ間ですので、日射しのことよりも、風を吹かせてはどうでしょう。
「輕風」「清風」が良いかと思います。
ここで「風」を使うと結句でぶつかりますが、こちらは「蟬鳴」「蟬聲」が良いでしょう。
2020. 9.21 by 桐山人