作品番号 2018-211
終棲 終(つい)の棲みか
孤老閑居患健忘 孤老 閑居して 健忘を患(うれ)ふ
終焉棲宿索何郷 終焉の棲宿 いずれの郷(ところ)にか索(もと)む
百年佳境一場夢 百年 佳境 一場の夢
惟適之安壹草堂 惟だ 適にして 之(これ) 安んず 壹草堂
<感想>
老と病、人間が避けられないものを題材として描く場合、どうしても重たくなりがちで、哲山さんも最近は深刻な詩が多かったですが、今回はそこを少し抜け出したような印象ですね。
起句から分かりやすい表現で、さらりと老いの現状を語っておいてから、転句で「百年佳境一場夢」、これは決して否定的な感情ではなく、老境を肯定的に捉えているものだと私は読みましたが、穏やかな心境なのだと思います。
最後の結句は苦しんだのでしょうか、まず「壹」の数詞は、転句で「一」を使ったから異なる字を用いたということでしょうが、字が異なっても意味は同じですので、これは良くないですね。
上四字も「之」は字数合わせのような印象ですので、「惟適而安此草堂」と軽やかに持って行った方が、せっかくの詩境が生きてくると思います。
2018. 8. 7 by 桐山人
作品番号 2018-212
幕末志士
誰何身殺気 誰何され身は殺気立つ、
物影旦騒鶏 物影 旦に騒ぐ鶏。
有客勃投刺 客有り 勃に刺を投じ、
無心頑譲畦 頑なに畦を譲る心無し。
抜刀危捕縛 抜刀 危ふく捕縛、
橋下偽貧栖 橋下 偽り貧栖す。
志士従天命 志士 天命に従ふ、
一樽生死斉 一樽 生死斉うす。
<解説>
ココの処詩が書けません。寒い時に書いたものを手直ししておくります。
この詩ですが、気分は幕末の志士になったつもりで書いたものです。
「いずれの藩中かご姓名を」などと言われると、思わず殺気立つような思いをつい先達もしたので書くに及びました。
実生活でもひやひやものでした。人切包丁を腰に下げてない分、今は良い時代なのかな?
<感想>
解説を拝見しても何が凌雲さんに起きたのか、なかなかわからないのですが、何にしろ、所属とか名前を自分からではなく他人に尋ねられるというのは、あまり穏やかな場面ではないですね。
現代の私のような暢気な暮らしをしている者にはリアリティが少ない世界ですが、大河ドラマの一場面を観ているような感じで読みました。
何か大事件が起きそうな緊張感が伝わってきます。
これが幕末の世相なのかもしれませんね。
第四句目は「無心にして 頑なに畦を譲る」となりますので、ここは再考しましょう。
2018. 8. 7 by 桐山人
作品番号 2018-213
梅雨約会
綺窓転笑声 綺窓 笑声転ばせ、
雨滴叩遅蝸 雨滴 遅蝸を叩く。
携傘蔵顔葉 傘を携へ 顔を葉で蔵し
装紅挿髪釵 紅を装ひ 髪に釵を挿す。
晴児揺軒下 晴児 軒下に揺れ、
鼻唱合音階 鼻唱 音階に合す。
漫共紫陽語 漫共に紫陽と語れば、
虹橋出巷街 虹橋 巷街に出る。
<解説>
「晴児」はテルテル坊主、「鼻唱」は鼻唄くらいの気分です。
<感想>
題名は、梅雨の時期のデートというところでしょうか。
前半はそのデートに出かける場面でしょうか、第二句の「雨滴叩遅蝸」は面白い見方ですね。
第三句の「蔵顔葉」は「顔を蔵するの葉」、第四句の「挿髪釵」は「髪に挿する釵」と読んだ方が自然ですね。
第五句の「鼻唱」はテルテル坊主に対応させるなら「雨音」の方が良いし、「音階」に合するにもそちらの方がバランスが合うでしょう。
尾聯は結びにふさわしい聯になっていると思いました。
2018. 8. 7 by 桐山人
作品番号 2018-214
病臥賜果覺戀 病に臥し果を賜るに恋を覚ゆ
香気酸甘心忽開、 香気は酸甘 心たちまち開き
紅輝清婉興愈来。 紅輝は清婉 興愈いよ来る。
玄冬惟有如燈燭、 玄冬に惟だ有り 灯燭の如きは
莫触朱唇一顆莓。 触るる莫かれ 朱唇 一顆の苺
<解説>
かおりは甘酸っぱく心をすぐさま開放させ、
紅い輝きは清らかでなまめかしく興がいやます。
暗い冬、ただひとつ明るく灯っているようなのは、
触ってはいけない、血潮の若々しい唇のような、苺のひとつぶであることよ。
お久しぶりです、タイトルどおり病気がちでありましてなかなかご連絡もさしあげず失礼いたしておりました。
今回は、入院中のお見舞いのお返事に書いた次のような文言をもとに漢詩に仕立て直しました。
喩えるならば
それはイチゴであるかしれぬ
見る者の目をうばい
かぐわしく引き寄せられる
想像してみるに
あの甘ずっぱさがあるだろう
口にふくめば
たちどころに分かろうけれど
この触れば潰れそうな
それでいて完璧な宝玉は
陰鬱な冬闇を払う
かすかな灯りのようなのだ
漢詩にしたときに、圧倒的に描写がおぼつかず、虚字ばかりで誤魔化したようになりましたところ、友人たちのいうことには、イチジクでもザクロでも大差は生じない(イチゴでなくてはいけない描写が弱い)と一蹴されたり、山村暮鳥の「りんご」や梶井基次郎の「秘かな楽しみ(檸檬)」が想起されるとか評されたり、散々なものでございました。
紅と朱と重なるのも少しもどかしく、もっと景物描写の力が欲しいところであります。
病臥賜果の詩ですが、どうも承句2字目の「輝」がいまいち生きておらず(即読すると夕日の形容のようにも見え)、「珠」に代えるほうが無難なようにも感じています。
<感想>
酪釜さんから久しぶりのお手紙をいただきましたら、大病をなさったとのこと。
お若いですから、快復してご活躍なさることを祈念しています。
起句でイチゴの香りや味わい、承句でその姿を描こうというところですが、ここの「紅輝(珠)」は次の「如燈燭」で赤い色が出され、さらにイチゴではありませんが「朱唇」とまた赤色になりますので、どうでしょうね。
承句を生かしてせめて転句の比喩は宝石のようなものにしておくと、全体に落ち着くと思います。
その色彩のことを除けば、軟らかな描写で、イチゴへのいたわりが感じられる詩だと思いますよ。
また、作詩に取り組めるお元気を取り戻してください。
お待ちしています。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-215
看梅
東皇送暖醉春烟 東皇 暖を送り 春烟に酔ひ
朋友招呼詩酒筵 朋友 招呼して 詩酒の筵
爛漫紅梅粧大地 爛漫たる紅梅 大地を粧ひ
清香馥郁漾池邊 清香馥郁として 池辺に漾ふ
<解説>
暖かい春の日に友を誘って佐布里池の梅を見に行き、紅梅が見事に咲き誇っているのを見て、感激しました。
<感想>
「東皇」は春の神様、春そのものを表すこともありますが、ここは神様で良いでしょう。
承句は「招呼」となると「私が呼んだ」となりますが、主語は「朋友」ですのでやや不自然。「朋友」を主語のままにするならば「招來」として、「私が招いて友人が来てくれた」という形が良いでしょう。
転句と結句は上四字は良いですね。「粧」は「爛漫」と重なり、「漾」は「馥郁」と重なります。
それを重なりと見るか、より詳しく描いたと見るかが評価の分かれ目になります。
結句の方はこのままで良いでしょうが、転句の「粧」は比喩になり、表現としてはくどいでしょうね。
ここは「包」として描写に留めておくのが適当です。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-216
春日雜興
鶯語梅溪風自香 鶯語 梅溪 風自ら香し
故山會友鼓詩腸 故山の友と会して 詩腸を鼓す
春秋幾度此身老 春秋 幾度か 此の身は老ゆ
酒榼求歡入醉郷 酒榼 歓を求めて 酔郷に入る
<感想>
起句は、「鶯語梅溪」は良く、また、「梅溪風自香」も良いのですが、一つの句になるとつながりが弱くなります。
「暖日」として、句としての収まりを出しましょう。
承句は「故山で友と会った」ということになり、読み下しは「故山 友と会して」となります。
それでは違うということでしたら、「會同故友」としておきましょう。
転句は「此身老」ですと、故郷の友人と一緒に居て(多分同年代でしょう)、自分だけが年老いたということになります。
「身相老」で。
また、失礼にはなりますが「幾度」ではなく「幾十」の方が、眞海さんの年齢では合うかと思います。
結句は「求歡」が無駄で、「入醉郷」で十分です。
逆に、転句の老境から逃れて気持ち良く酔うための素材が必要になりますので、起句で削った「鶯語」をこの辺りに入れてみてはどうでしょう。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-217
春日懷友
芳辰千里百花萌 芳辰 千里 百花萌す
展墓踏青相伴征 展墓 踏青 相伴って征く
春樹暮雲懷幾許 春樹 暮雲 懐ひ幾許ぞ
何時重與語人生 何時か重ねて与に人生を語らん
<感想>
起句は「千里」が「展墓(墓参り)」に対して広過ぎですね。
また逆に、「百花」では少な過ぎですから、「千里萬花」か「十里百花」くらいでしょうが、次の「展墓」が作者の身近な行為ですので、ここは後者が適当でしょうね。。
承句は「相伴」が誰を伴うのか、誰のお墓に行くのか、ここだけでは答が出ませんので、保留になります。
転句は、「春樹」と「暮雲」の組み合わせでどうして「懐幾許」となるのかがよく分かりません。
「春樹」ならば生き生きとした生命感、「暮雲」ならば一日の終わりに対する寂しさ、どちらかにした方が良いでしょう。
さて、承句の保留に戻り、全体をまとめようとすると、作者の家族の墓参りに行って友人を思い出しても変な話になりますので、このお墓は友人のお墓、そうすると一緒に行ったのも友人、その友人と語るのが自然ですね。
そうなると結句の「何時」が邪魔でしょうから、「殘年」とすれば辻褄は合います。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-218
春宵野色
遲遲春日菜畦邊 遅遅たる春日 菜畦の辺
新月朦朧獨在巓 新月 朦朧 独り巓に在り
歸雁蛙聲郷邑暮 帰雁 蛙声 郷邑の暮
南畫佳景正悠然 南画の佳景 正に悠然たり
<解説>
里山の春宵…少年時代の追憶です
<感想>
郊村の春の宵、前半はまとまっていると思います。
童謡の「菜の花畑に入り日薄れ 見渡す山の端霞深し 春風そよ吹く空を見れば 夕月かかりて匂い甘し」の世界ですね。
承句の「獨」は次に空を飛ぶ雁が出て来ますので不釣り合い。「在遠巓」でしょうか。
転句は「蛙聲」と音を出しては、結句の「南画」がおかしくなります。ここは目で見た景色に留めておくべきで、「歸雁兩三」など、あるいは「雁」以外のものを出しても良いでしょう。
「畫」は仄声ですので、ここは「畫圖」と収めておきましょう。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-219
思友
春曉彩雲山翠鮮 春暁 彩雲 山翠鮮やか
小院朝鷄古寺前 小院 朝鶏 古寺の前
垂柳雀遊緑相連 垂柳 雀遊 緑相連なる
孤村朋友故郷天 孤村 朋友 故郷の天
<感想>
三句目はこのままでは「二六対」が崩れていますので、ひとまず「雀遊垂柳緑相連」としておき、全体を見ましょう。
「反法・粘法」の関係がありますので、句の並びを最初に検討しましょう。
「平起式」「仄起式」かは、どの句をメインにするかと関わります。この場合には詩題が「思友」ですので、そのことが書かれた第四句をやはり結句に置くのが良いですが、そうなると「平起式」となります。
次に、描かれた景色を見ていくと、第一句は雲と山で遠景、第二句は近景、第三句は雀は近景、緑が続くのは遠景です。第四句は遠くの友を思うので遠景と考えると、バランスとして、前半は近景、後半は遠景とするのが良いでしょう。
ということで並べ替えてみますと、
(近遠景)垂柳雀遊緑相連 ○●●○●○◎
(近景) 小院朝鷄古寺前 ●●○○●●◎
(遠景) 春曉彩雲山翠鮮 ○●●○○●◎
(遠景) 孤村朋友故郷天 ○○○●●○◎
第一句を平句にしなくてはいけませんが、その他に、「曉」と「朝」の重複、「鶏」と「雀」と鳥が続くのも変化が乏しく感じますので、その辺も考えて行きましょう。
一例を出しておきますので、ご参考に。
思友 (桐山参考例)
垂枝柳樹鳥聲連 枝を垂るる柳樹 鳥声連なる
閑歩孤村古寺前 閑歩す 孤村 古寺の前
春曉彩雲山翠 春曉 彩雲 山翠緑
遙懷朋友故郷天 遥かに懷ふ 朋友 故郷の天
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-220
春日感懷
春色滿庭山翠鮮 春色 庭に満ち 山翠鮮やか
閑人寧日坐窗前 閑人 寧日 窓前に坐す
苦吟時節雀聲到 苦吟の時節 雀声到る
風軟村居薄暮天 風軟らかに 村居 薄暮の天
<感想>
起句の「満庭」は「庭一杯に」ということですので、「山翠」では視点の変化が急過ぎるように思います。
どちらを生かすかになりますが、「庭」ということなら「春色満庭苔草鮮」、「山」を生かすなら「満庭」を「満地」とする形が考えられますね。
承句は良いですね。
転句は「苦吟」と「時節」はかみ合わないのと、「雀声」が聞こえたことが何を表すのかが悩ましいですね。
雀の声と言うと、朝が来たのかと思いますし、静かな状態、時間が経ったこと、とも考えられます。
作者が感じたことを伝えるためにはもう少しガイドというか、ヒントが欲しいところ。
取りあえず「苦吟幾刻」と時間経過にして、「雀声遠」と静かさを出しますか。
結句は落ち着いています。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-221
春日吟行
櫻花自咲人歡喜 桜花 自ら咲き 人は歓喜す
泉水雀遊起水煙 泉水 雀遊び 水煙起く
雁宿園庭開酒宴 雁宿園庭 酒宴を開く
吟友歡談拷A前 吟友 歓談す 緑陰の前
<感想>
花見の光景が目に浮かぶような詩になっていますね。
起句の「咲」は漢文では「笑う」の意味になりますので、「發」が良いでしょう。
下の「人歓喜」となるには満開の桜が良いでしょうから、「盡發」とか「滿地」「萬朶」と強調しましょう。
承句は句頭の「泉」が下平声一先の韻字ですから、「池」に変更しておきましょう。
「水煙」は「もや」ですので、ここは噴水を想定したものでしょうか。
「雀」があまり働いていませんので、
「盈満春池起水煙」「池水盈盈起細漣」でしょうか。
転句は良いですね。
結句は二字目を平字にしないといけません。また、「歓」の字は起句でもう使っていますので、「笑顔吟友」として、あと「緑陰」は初夏の趣が出てしまいますので「柳陰」。
風を持ってきて、「暖風前」なども良いでしょうね。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-222
春日
庭院花開碧水邊 庭院 花開く 碧水の辺
鶯聲樹陰破晝眠 鶯声 樹陰 昼眠を破る
遠山草色白雲連 遠山 草色 白雲連なる
春宵廣野晩鐘傳 春宵 広野 晩鐘伝ふ
<感想>
起句は「碧水」ですと大きな深い川になりますので、「浅水」とした方が良いでしょう。
承句は「陰」が平字なので合いませんから「樹下」に、逆に「昼」は仄字なので「昼眠」を「閑眠」として、意味としては似通った句になると思います。
転句から、視野を広げる形になりますが、この句は韻を踏まないようにしますので、「春山遠望白雲嶺」としましょうか。
結句は「宵」と「晩」が重なりますね。
二字目を仄字にしなくてはいけませんので、「日暮郊村鐘韻傳」でしょうか。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-223
春日感懐
遠山大寺映斜陽 遠山大寺 斜陽映ず
庭宇花開自放香 庭宇花開いて 自ら香を放つ
樹下旧朋催小宴 樹下 旧朋 小宴を催す
春宵酔後憶家郷 春宵 酔後 家郷を憶ふ
<感想>
起句は写真を見ているようなすっきりとした景です。
ただ、起承のまとまりで詩は考えますので、承句の「庭宇」はこのお寺の庭かと思いますが、そうではなくて今居る場所のようですね。
そうすると、遠近の動きが急過ぎますので、もう少し遠景を残して「満目花開庭宇香」とクローズアップのようにすると良いと思います。
後半は「昔からの友達」と宴をしつつ「故郷を思っている」となると、作者は今他郷に居て、なおかつ昔ながらの友も居るということになります。
「春宵酣醉是家郷」としてはどうでしょうね。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-224
雨中訪明月院
青雨纖纖濕幼芽 青雨 繊繊 幼芽を湿らす
盈庭陰映繡球花 庭に盈つ 陰映 繍球花
聞鵑忽爾詩魂動 鵑を聞き 忽爾 詩魂動く
一句偶成休喫茶 一句 偶成 休みて茶を喫す
※
<解説>
『あじさい寺』と呼ばれる紫陽花の名所寺はあちこちにあるようですが、とりあえず最も有名で昔訪ねた『鎌倉 明月院』を詩題にしました。
「明月院」: 鎌倉の禅寺 通称あじさい寺
「繡球花」: 紫陽花
<感想>
あじさいを「紫陽花」と名付けたのは白居易だと言われます。
ただ、白居易は「紫陽花」について「色は紫で香りがよい」と言っていますので、実際にはライラックだったのではないかとも言われます。
「繍毬(てまり)花」として詠んだのは中唐の元稹、白居易との友情の深さでも知られますが、次の詩です。
六年春遣懷八首之六 元稹
童稚癡狂撩亂走 童稚 痴狂して 撩乱に走る
繡毬花仗滿堂前 繍毬花仗 堂前に満つ
病身一到繸帷下 病身 一到 繸帷の下
還向臨階背日眠 還向 階に臨み 日に背きて眠る
詩は前半はお寺の趣を出していて、良い出来だと思います。
「青雨」は新緑の葉に降る雨ですが、「翠雨」か「青雨」かどちらが良いかというと「翠」の方が合うように思いますが、どうでしょうね。
転句からが説明調になってます。「忽爾」などは全く不要の言葉です。
「一聲杜宇詩魂動」とこちらに「一」を持ってきて、リズムも歯切れ良くしたいところです。
結句ももやもやとしたまま終ってしまう感じで、せっかくの紫陽花の花もどこかに消えてしまいました。
句が出来たことは転句で十分わかりますので、ここはもう一度寺に戻るべきでしょうね。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-225
拝圓空佛 善女龍王
圓師刻迹寔夭夭 円師の刻迹 寔(まこと)に 夭夭
自在造形奔放彫 自在の造形 奔放の彫
笑臉龍王征旱魃 笑臉の龍王 旱魃を征し
千村百代授豐饒 千村 百代 豊饒を授かる
<解説>
二、三年前、南知多町片名の願成寺に円空仏の『善女龍王』を拝しました。
その感想を詩にしてみました。
「円空」: 江戸時代前期の遊行僧。
仏像は儀軌と呼ばれる厳密な姿かたちが定められているが、円空の彫る像は
そうした約束事にとらわれず『円空仏』と呼ばれる独特のスタイルである。
「善女龍王」: 雨乞いの対象の仏
「旱魃」: ひでりの神
<感想>
こちらの詩はとても良く仕上がっていると思います。
一点だけ、結句の「千村」は「百代」との対だと思いますが、「千」は数が多すぎると思います。
円空仏のご加護は広いとしても、「千村」もの面倒を見なくてはいけないとなると、ご利益も当然「広く浅く」なります。
「近村」としておくのが地元の詩として収まります。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-226
春季囲碁会
衆人遊宴萬櫻間 衆人 遊宴 萬櫻の間
同好萃然知己顔 同好 萃然 知己の顔
坐局口談歡笑罷 局に坐せば 口談 歡笑罷み
忘憂清楽石聲閑 忘憂 清楽 石聲閑か
<解説>
毎年、四月に地元の町が主催で囲碁大会が開催されます。
多くの人は行楽に出かける時期、この陽気の中で終日屋内に籠もりきりです。
碁好きでないと此の楽しさは解らないだろうなという気分です。
「萃然」: ものが集まること
「口談」: 囲碁の別称を手談という。
「忘憂清楽」: 北宋徽宗帝の『忘憂清楽在 枰平棊』を借りました。
<感想>
こちらの詩は、前半は俳諧味も出て、よく整っています。
転句は「口談」の狙いが働くかどうかですね。
「口談」は「口での話」、次の「歓笑」と同じく「罷」の主語として、無言の真剣勝負に入ったということでしょう。
ただ、「口談」と言ってしまいましたので、「手談」が裏に控えていて、石を通しての会話は続くわけですから、逆効果のようにも思えます。
はっきりと「歓談歓笑」と並べてはどうでしょうね。
結句は良いですので、この結句を導くのでしたら、転句もあまり勝負ではなく、「手談」で心のつながりを感じているというように持って行った方が良いかと思います。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-227
春愁
春風駘蕩滿庭香 春風 駘蕩 満庭香し
茅舎青青維漉k 茅舎 青青 緑楊を維ぐ
暮色流雲懷故邑 暮色 流雲 小邑を懐しみ
煙霞遠嶺映斜陽 煙霞 遠嶺 斜陽に映ず
<解説>
今回集まった聯句は次のものです(他の講座の句も合わせました)。
漫舞櫻花一路香
春宵同好落花觴
盛花短命萬恨長
舊友荒院空断腸
春朝花發野花香
花發鳥啼茅舎傍
櫻花滿山憶故郷
先人芳院待春光
春風駘蕩吐清香
破顔笑語入醉郷
桃花終日滿園香
彩雲遠山映斜陽
庭院花開放清香
樹下親朋入醉郷
落花狼藉晩春塘
遠山大寺映斜陽
春晩広野梵声長
古寺窓外月色涼
滿地庭院明月光
早朝郊外叩禪堂
郊外雨雲野景荒
朧月遠山野梅香
春宵小院竹籬傍
春夜弧月照禪房
垂枝花發放清香
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-228
惜春
落花流水轉移遑 落花 流水 転移は遑たり
日暮同遊樹下觴 日暮 同遊 樹下の觴
柳絮亂飛朧月淡 柳絮乱れ飛び 朧月淡し
惜春多恨引愁長 惜春 多恨 引愁長し
<解説>
今回集まった聯句は次のものです(他の講座の句も合わせました)。
漫舞櫻花一路香
春宵同好落花觴
盛花短命萬恨長
舊友荒院空断腸
春朝花發野花香
花發鳥啼茅舎傍
櫻花滿山憶故郷
先人芳院待春光
春風駘蕩吐清香
破顔笑語入醉郷
桃花終日滿園香
彩雲遠山映斜陽
庭院花開放清香
樹下親朋入醉郷
落花狼藉晩春塘
遠山大寺映斜陽
春晩広野梵声長
古寺窓外月色涼
滿地庭院明月光
早朝郊外叩禪堂
郊外雨雲野景荒
朧月遠山野梅香
春宵小院竹籬傍
春夜弧月照禪房
垂枝花發放清香
作品番号 2018-229
春日話友人
春昼親朋會草堂 春昼 親朋 草堂に会す
破顔笑語氣揚揚 破顔 笑語 気は揚揚
桾鈴l蕩疎籬外 薫風 駘蕩 疎籬の外
滿院櫻花萬頃香 満院の櫻花 万頃香し
<解説>
今回集まった聯句は次のものです(他の講座の句も合わせました)。
漫舞櫻花一路香
春宵同好落花觴
盛花短命萬恨長
舊友荒院空断腸
春朝花發野花香
花發鳥啼茅舎傍
櫻花滿山憶故郷
先人芳院待春光
春風駘蕩吐清香
破顔笑語入醉郷
桃花終日滿園香
彩雲遠山映斜陽
庭院花開放清香
樹下親朋入醉郷
落花狼藉晩春塘
遠山大寺映斜陽
春晩広野梵声長
古寺窓外月色涼
滿地庭院明月光
早朝郊外叩禪堂
郊外雨雲野景荒
朧月遠山野梅香
春宵小院竹籬傍
春夜弧月照禪房
垂枝花發放清香
作品番号 2018-230
春日偶成
清明時節坐草堂 清明の時節 草堂に坐す
萬朶紅桃天地香 万朶 紅桃 天地に香る
滿院櫻花春若畫 満院の櫻花 春は画の若し
小庭窗外轉清涼 小庭の窓外 転た清涼
<解説>
今回集まった聯句は次のものです(他の講座の句も合わせました)。
漫舞櫻花一路香
春宵同好落花觴
盛花短命萬恨長
舊友荒院空断腸
春朝花發野花香
花發鳥啼茅舎傍
櫻花滿山憶故郷
先人芳院待春光
春風駘蕩吐清香
破顔笑語入醉郷
桃花終日滿園香
彩雲遠山映斜陽
庭院花開放清香
樹下親朋入醉郷
落花狼藉晩春塘
遠山大寺映斜陽
春晩広野梵声長
古寺窓外月色涼
滿地庭院明月光
早朝郊外叩禪堂
郊外雨雲野景荒
朧月遠山野梅香
春宵小院竹籬傍
春夜弧月照禪房
垂枝花發放清香
作品番号 2018-231
春別
漫舞櫻花一路香 漫舞の桜花 一路香る
樹下旧友入酔郷 樹下の旧友 酔うて郷に入る
早暁柳枝吟興起 早暁 柳枝 吟興起く
遠山荒院叩禅堂 遠山 荒院 禅堂を叩く
<解説「>
今回集まった聯句は次のものです(他の講座の句も合わせました)。
漫舞櫻花一路香
春宵同好落花觴
盛花短命萬恨長
舊友荒院空断腸
春朝花發野花香
花發鳥啼茅舎傍
櫻花滿山憶故郷
先人芳院待春光
春風駘蕩吐清香
破顔笑語入醉郷
桃花終日滿園香
彩雲遠山映斜陽
庭院花開放清香
樹下親朋入醉郷
落花狼藉晩春塘
遠山大寺映斜陽
春晩広野梵声長
古寺窓外月色涼
滿地庭院明月光
早朝郊外叩禪堂
郊外雨雲野景荒
朧月遠山野梅香
春宵小院竹籬傍
春夜弧月照禪房
垂枝花發放清香
作品番号 2018-232
花時宵
春宵同好落櫻觴 春宵 同好 落桜の觴
笑語朱顔入醉郷 笑語 朱顔 酔郷に入る
駘蕩風搬幽馥氣 駘蕩 風は搬ぶ 幽かな馥気
滿池庭院月華光 池に満つ 庭院 月華の光
<解説>
今回集まった聯句は次のものです(他の講座の句も合わせました)。
漫舞櫻花一路香
春宵同好落花觴
盛花短命萬恨長
舊友荒院空断腸
春朝花發野花香
花發鳥啼茅舎傍
櫻花滿山憶故郷
先人芳院待春光
春風駘蕩吐清香
破顔笑語入醉郷
桃花終日滿園香
彩雲遠山映斜陽
庭院花開放清香
樹下親朋入醉郷
落花狼藉晩春塘
遠山大寺映斜陽
春晩広野梵声長
古寺窓外月色涼
滿地庭院明月光
早朝郊外叩禪堂
郊外雨雲野景荒
朧月遠山野梅香
春宵小院竹籬傍
春夜弧月照禪房
垂枝花發放清香
作品番号 2018-233
春日
春風駘蕩吐清香 春風 駘蕩 清香を吐く
啼鳥青苔茅舍傍 啼鳥 青苔 茅舎の傍ら
麗日親朋閑話久 麗日 親朋 閑話久し
櫻花滿山憶仙郷 桜花 山に満ち 仙郷を憶ふ
<解説>
今回集まった聯句は次のものです(他の講座の句も合わせました)。
漫舞櫻花一路香
春宵同好落花觴
盛花短命萬恨長
舊友荒院空断腸
春朝花發野花香
花發鳥啼茅舎傍
櫻花滿山憶故郷
先人芳院待春光
春風駘蕩吐清香
破顔笑語入醉郷
桃花終日滿園香
彩雲遠山映斜陽
庭院花開放清香
樹下親朋入醉郷
落花狼藉晩春塘
遠山大寺映斜陽
春晩広野梵声長
古寺窓外月色涼
滿地庭院明月光
早朝郊外叩禪堂
郊外雨雲野景荒
朧月遠山野梅香
春宵小院竹籬傍
春夜弧月照禪房
垂枝花發放清香
作品番号 2018-234
春日感懷
一朝獨歩野原香 一朝 独り歩せば 野原香し
花發鳥啼林徑傍 花発き 鳥啼く 林径の傍ら
絳朶満山懷故里 絳朶 山に満ち 故里を懐しむ
行人ト悌喜春光 行人 ト悌 春光を喜ぶ
<解説>
今回集まった聯句は次のものです(他の講座の句も合わせました)。
漫舞櫻花一路香
春宵同好落花觴
盛花短命萬恨長
舊友荒院空断腸
春朝花發野花香
花發鳥啼茅舎傍
櫻花滿山憶故郷
先人芳院待春光
春風駘蕩吐清香
破顔笑語入醉郷
桃花終日滿園香
彩雲遠山映斜陽
庭院花開放清香
樹下親朋入醉郷
落花狼藉晩春塘
遠山大寺映斜陽
春晩広野梵声長
古寺窓外月色涼
滿地庭院明月光
早朝郊外叩禪堂
郊外雨雲野景荒
朧月遠山野梅香
春宵小院竹籬傍
春夜弧月照禪房
垂枝花發放清香
作品番号 2018-235
春日
南庭窗下白紅梅 南庭の窗下 白紅の梅
小雀頻鳴躍草苔 小雀頻りに鳴いて 草苔に躍る
苾苾條風蟄蟲蠢 苾苾の条風 蟄虫の蠢く
融融淑氣四天來 融融たる淑氣 四天に来たる
<解説>
投稿記録を見ていましたら、私自身の掲載が昨年ほとんどありませんでした。
皆さんにお願いばかりしていて申し訳ないので、遅ればせながら何首か出させていただきます。
2018. 8.14 by 桐山人
作品番号 2018-236
立春 二
幽香一脈索梅花 幽香 一脈 梅花を索す
今夕立春微暖加 今夕 立春 微暖加ふ
月上東山蒼影嶺 月は上る 東山 蒼影の嶺
風過古渡淡煙涯 風は過る 古渡 淡煙の涯(ほとり)
行人留歩水亭寂 行人 歩を留む 水亭寂たり
宿鳥倦啼松樹斜 宿鳥 啼くに倦む 松樹斜め
片雪忽看天巧舞 片雪 忽ち看る 天巧の舞ひ
宜遵節序此辰嘉 宜しく節序に遵ひて此の辰(とき)を嘉せん
<感想>
<解説>
桐山堂詩會に出しました「立春」詩を、どうも言い足りない感じがしたので律詩にしたものです。
2018. 8.17 by 桐山人
2018年の投稿詩 第237作は 桐山人 の作品です。
作品番号 2018-237
中國東北行一 哈爾濱(ハルビン)
鵬翼排雲飛北天 鵬翼雲を排して北天に飛び
忽踰萬里K龍邊 忽ち踰(こ)ゆ 万里 黒竜の辺り
松花江畔柳枝翳 松花江畔 柳枝翳り
古色聖堂懷百年 古色の聖堂 百年を懐ふ
<解説>
昨夏に中国東北部を旅行しました。
ハルビン・長春・瀋陽・青島を飛行機と新幹線で移動しながら、遥かに拡がる平原、近代の建築が残る古都を眺め、歴史の傷跡を見ました。
「K龍」: 黒竜江省。
「松花江」: ハルピン北部を流れる川
「聖堂」: ハルピンに残る旧ロシアのソフィア聖堂
2018. 8.17 by 桐山人
作品番号 2018-238
中國東北行二 長春
朝來細雨氣蕭然 朝来 細雨 気は蕭然
楡柳庭園告F鮮 楡柳の庭園 告F鮮やか
舊府宮居人影少 旧府 宮居 人影少れに
殘魂轉冷古池前 残魂 転た冷ややか 古池の前
<解説>
「舊府」…長春はかつて満州国の首都(新京)とされました。
「宮居」…ラストエンペラーの愛新覚羅溥儀が満州帝国皇帝の時に住んだ館。
日本による即位署名がここで行われました。
※現在の中国政府は満州国を認めないため、「偽宮」と呼ばれ、あるいは溥儀も「偽皇帝」と呼ばれています。
2018. 8.17 by 桐山人
作品番号 2018-239
中國東北行三 瀋陽
高鐵貫郊千里程 高鉄 郊を貫く千里の程(みち)
秋光瀝瀝瀋陽城 秋光瀝瀝たり 瀋陽の城
故宮朱壁告ツ瓦 故宮 朱壁 告ツの瓦
東北王都山水明 東北の王都は山水明らか
<解説>
瀋陽は清朝が最初首都とした都市です。
後に北京に移りましたが、宮殿は瀋陽故宮として残されています。
「高鐵」: 高速鉄道、中国の新幹線
2018. 8.17 by 桐山人
作品番号 2018-240
中國東北行四 青島
租界海浜秋暮中 租界の海浜 秋暮の中
景溶昏闇赤甍朦 景は昏闇に溶けて 赤甍朦たり
舊街鬨鬨酒都賑 旧街は鬨鬨(こうこう)として 酒都の賑ひ
青島古今羇恨窮 青島は古今 羇恨を窮む
<解説>
青島は日清戦争後、三国干渉によりドイツが支配していた関係で、「青島ビール」工場や西洋風建築が立ち並んでいます。
街は昼よりも夜の方が、紅灯が華やかに賑わいを見せます。
「赤甍」: 市内の高台から望むと、赤い屋根瓦の家が並び、ヨーロッパのような風景が見えます。
「鬨鬨」: 大声で騒ぐこと
2018. 8.17 by 桐山人