2009年の新年漢詩 第31作は サラリーマン金太郎 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-31

  (新年漢詩)送舊迎新        

滔滔不辺逝川遷   滔滔(とうとう)辺らず 逝川(せいせん)遷る

忽迓窮冬祭祖先   忽(たちま)ち窮冬(きゅうとう)を迓(むか)えて祖先を祭る

初老新春前路奈   初老の新春 前路は奈(いかん)ぞや

早梅放馥喜身全   早梅馥(ふく)を放ちて身の全(まった)きを喜ぶ

          (下平声「一先」の押韻)

























 2009年の投稿詩 第32作は 展陽 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-32

  (新年漢詩)送旧迎新        

己丑年初万事寧   己丑(きちゅう)の年初めは すべて安らかに

閑居白髪楽餘齢   閑居の白髪 余生を楽しみ

山頭仏寺鐘声緩   山のほとりの仏寺から ゆっくりと鳴る鐘の音

掃盡塵心静座聴   塵心を払い去り 静座して聞く

          (下平声「九青」の押韻)

この詩は、世界漢詩同好會での交流詩と同題同韻ですが、展陽さんのご希望で「新年漢詩」として掲載しました。























 2009年の新年漢詩 第33作は 博生 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-33

  (新年漢詩・交流詩)送舊迎新        

己丑元朝四海寧   己丑元朝 四海寧し

全家無恙幸充庭   全家恙なく 幸庭に充つ

顧思去歳心憂懼   顧みて去歳を思い 心憂懼す

不是春来吉夢醒   是れ春は来たらず 吉夢醒む

          (下平声「九青」の押韻)

<解説>

 世界規模の不況拡大、社会不安を抱えたこの年明け。
「祝」の字は消え、めでたさも三分、気を引き締めねば。























 2009年の投稿詩 第34作は 桐山人 からの作品です。
 

作品番号 2009-34

  (新年漢詩・交流詩)送舊迎新        

早梅一朶已清馨   早梅 一朶 已に清馨

池水解氷萌草青   池水 氷解け 萌草青し

歳旦春光催淑氣   歳旦 春光 淑気を催し

惠風萬里萬方寧   惠風萬里 萬方寧し

          (下平声「九青」の押韻)
























 2009年の投稿詩 第35作は 仲泉 からの作品です。
 

作品番号 2009-35

  (新年漢詩)新春偶成        

家眷迎春壽瑞祥   家眷春を迎えて瑞祥を寿ぐ

笑顔囲卓共重觴   笑顔卓を囲み共に觴を重ねる

人生一路恍如夢   人生一路恍として夢の如し

清淡虚無老故郷   清淡虚無故郷に老ゆ

          (下平声「七陽」の押韻)
























 2009年の新年漢詩 第36作は 風雷山人 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-36

  (新年漢詩)年賀        

三元瑞気寿齢春   三元の瑞気 寿齢の春

一陽來復感特新   一陽來復 感特に新なり

天惠地恩身未老   天惠地恩 身未だ老いず

全家無恙守清貧   全家恙が無く 清貧を守る

          (上平声「十一真」の押韻)


【大意】

 年明けて 齢重ねる慶びと
 循る陽気に 感も新たに
 天地の 恩惠受けて 未だ老いず
 家人息災 清貧に棲む
























 2009年の新年漢詩 第37作は 深渓 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-37

  (新年漢詩・交流詩)送旧迎新        

夙送乱麻旧   夙に乱麻の旧を送り

迎新清酒瓶   新を迎へ酒瓶清らかなり

風和波不駭   風和らぎ波おどろかず

偏冀万邦寧   偏に万邦の寧を冀わん

          (下平声「九青」の押韻)

〇麻の如くみだれたる旧年、巳丑の年は牛耕のごとくどっしりと世直しを冀うものです。























 2009年の投稿詩 第38作は 深渓 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-38

  孫来        

窮陰年始且應留   窮陰年始 且く應に留まるべし

万里鵬程來美州   万里の鵬程 美州より來る

三五末孫安堵夢   三五の末孫 安堵の夢か

時差疲憊睡齁齁   時差の疲憊か 睡り齁々たり

          (下平声「十一尤」の押韻)

<解説>

 年末から正月にかけて滞在予定で遠く米国から十五歳の末孫が帰ってきました。
若竹のように伸びて爺をはるかに超えて ・・・・

<感想>

 十五歳と言えば、もう立派な青年でしょうが、おじいちゃんから見ればいつまでも子ども、眠る姿も可愛らしいという気持ちがよく出ていますね。
 深渓さんの嬉しそうなお顔が目に浮かぶようです。

 転句は読み下しで「安堵の夢と疑問にしていますが、本文で見てもそれは分かりませんので、「末孫」がどうして「安堵夢」なのか、つながりが出てこないと思います。
 結句の「睡」を「夢」の位置に置いた方が分かりやすいでしょう。

 「齁」は「いびきをクウクウとかく音」を表していますが、擬音語として、可愛らしさが直接感じられますね。

2009. 2.21                  by 桐山人






















 2009年の投稿詩 第39作は 知秀 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-39

  思無宿児曹越冬        

失職追寮世路難   失職し寮を追われ 世路難し

故郷目断尚酸寒   故郷を目断すれども 尚酸寒たり

因循俗吏厭多事   因循の俗吏 多事を厭ふ

借問丈夫何苟安   借問す丈夫 豈苟安せんや

          (上平声「十四寒」の押韻)

「目断」: (見渡す)
「尚酸寒」: (尚貧しい)
「因循」: (ぐずぐず)
「丈夫」: (一人前の男子)
「何苟安」: (なんで安きを偸もうか・・・反語)

<解説>

 鈴木先生
いつもご丁寧なご指導を頂きありがとうございます。
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 この度は、年末年始にかけて全国的に話題になりました派遣・契約労働者の首切りについて思うところがあり一篇を作りました。
 詩といえるものかどうかと自問しております。

<感想>

 世界的な不況ということで、年末には「派遣村」の話題がテレビでも流されていましたね。百年に一度の大恐慌だと言われ、つい半年前までは世界一を誇っていた自動車産業も、あっという間に赤字転落だとか。
 そのあおりを受けて、というか、波が波を増幅させて、「大企業」と言われていたところでも軒並み従業員の削減を発表。春闘でも「賃上げ」なんてとんでもないという論調が経済界のようです。
 でも、空前の好況と言われた時でも賃上げを抑制していたのは、こうした不況の時に備えての大局的な視野で考えたという話だったように思います。あの頃にため込んだ内部留保のお金をこういう時にこそ使って、「従業員を守る」という姿勢を見せる企業が一つくらいはあってほしいのですが、「会社を守る」という話ばかりですね。
 確かに、会社が無くなっては話にならないのですが、そのせりふ、水戸黄門の印籠が最初に出てきたようなもので、それを言っちゃあおしまいよ、という気がするのですが、どうでしょうね。

 知秀さんのこの詩も、何とかしてよ!という憤りが感じられますね。
 結句は「豈苟安」としていただきましたが、四字目の孤平になっていますので「何」と私の方で替えました。

2009. 2.21                  by 桐山人






















 2009年の投稿詩 第40作は中国の大連にお住まいの 馬薩涛まさと さん、五十代の男性の方からの作品です。
 

作品番号 2009-40

  興安嶺        

東風吹起麓騒騒   東風吹き起こり 麓騒騒、

林杪更伸森緑涛   林杪更に伸びて森緑の涛、

塞外興安千里嶺   塞外 興安 千里の嶺

蒼茫遼闊白雲高   蒼茫遼闊 白雲高し

          (下平声「四豪」の押韻)

<解説>

 内蒙古、呼倫貝尓(フルンベイアル)盟、扎蘭屯(ザラントン)というところに旅をした時に作りました。
 非常に空気の澄んだきれいなところです。

<感想>

  馬薩涛さんのお手紙には、「中国に住む日本人です。お仲間に入れて下さい」とのことでした。お仕事の関係でしょうか。大連でもこのホームページは支障なく見られると教えていただきました。
 国外でもインターネットで漢詩仲間と交流できるのは、本当にありがたいことです。今後もよろしくお願いします。

 漢詩を作られたのは初めてとのご回答でしたが、とてもそうは思えない作品ですね(入力間違いかな?)。広々とした内蒙古の大地や青空を髣髴とさせる後半は、現地に行かれた実感が表れているのでしょう。
 対して前半は、起句が「東風吹起」だから「麓騒騒」、また承句は「林杪更伸」だから「森緑涛」という展開が続き、理屈っぽい気がします。
 承句の上四字にもスケールの大きさを感じさせる表現を用いると、全体の統一感が生まれるように思います。

2009. 2.21                  by 桐山人






















 2009年の投稿詩 第41作は 井古綆 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-41

  祝福美國新大統領就任        

皮膚色底及心神、   皮膚の色は底(なん)ぞ 心神に及ばん、

思想自由推此人。   思想の自由は 此の人を推す。

建國皕年排守舊、   建国 皕年(にひゃくねん) 守旧を排し、

投票一瞬繋維新。   投票 一瞬 維新に繋ぐ。

曾將偏見辛酸苦、   曾て偏見を将(うけ)し 辛酸の苦は、

今示同權歡喜春。   今 同権を示す 歓喜の春。

奴隷報怨垂以徳、   奴隷の報怨は 以徳に垂れ、

須衝世界注慈仁。   須(すべから)く世界に衝(むか)って 慈仁を注ぐべし。

          (上平声「十一真」の押韻)


「一瞬」: 詩的表現。実際は幾日も掛かった。

<解説> <解説>

 一月二十四日、NHKの子供ニュースの番組で、かつて奴隷が物として扱われていたことを、父親役のアナウンサーが子供達に説明していました。

 前作の絶句では詩意が不足でしたので、律詩にまとめました。

<感想>

 前作の絶句というのは、2008年の投稿詩257作、青眼居士さんの「寄新大統領」に対しての感想に添えられた絶句ですね。

 私は、前作の絶句もよくまとめられた作品だと思いましたし、特に前作の承句「美國良風選此人」は内容の深い秀句だと感じましたが、作者としては、まだ足りないものを感じられたのでしょうね。

 「一瞬」は、「皕年」との対で見れば、まさに「一瞬」だと思います。ただ、「建国」に対するのに、「投票」が最適かどうか、もっと「一瞬」を生かす言葉が何か無いでしょうか。

2009. 2.21                  by 桐山人



井古綆さんからお返事をいただきました。

 鈴木先生今日は。
 感想文を拝読いたしました。まことに鋭いところを衝かれました。有難うございます。かの部分は大統領選挙の経過が脳裏に焼きついていましたので、「一瞬」に繋がる語としては「投票」しか浮かびませんでした。
今でも前後左右の句を勘案して熟考しても、良い詩語が見つかりません。

 そこで別の角度で考えて第四句を以下のようにしました。先生のご指摘が無かったならば、なおざりになっていました。
有難うございました。

    前聯
  建國皕年排守舊、  建国 皕年 守旧を排し、
  迷津岐路賭維新。  迷津 岐路 維新に賭(と)す。

「迷津」: ここではよるべき道に迷う。
「岐路」: (民主党か共和党か)二また路。前句「皕年」にたいする数字対。
「賭」:  (未知数の維新に)賭ける。

2009. 2.29                  by 井古綆





















 2009年の投稿詩 第42作は 雨晴 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-42

  茗水寒風        

朔風凛冽幣衣侵   朔風凛冽 幣衣を侵す

日没茗渓瞑色深   日は没し 茗渓 瞑色深し

聖堂遥望孤倚杖   聖堂遥かに望み 孤り杖に倚る

飛簷楷樹夜森森   飛簷の楷樹 夜森森

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 先日、所用で御茶ノ水駅から聖橋を渡りました。
寒い日で 一陣の風が吹き抜けていきました。

 その時の情景を詩にしてみました。

 今回も転句から結句への流れがスム−ズにいっていない様に思えてなりません。

<感想>

 「茗」は「お茶」の意味ですので、「茗水」「茗渓」どちらも、「御茶ノ水」の地名を表した言葉ですね。
 しかし、「茗渓」と書いたことにより、この詩を詠んだ場所が、「お茶の木が谷に茂っている山の中」という趣を出して、だから転句の「遥望」という言葉を自然に導いたのだと思います。
 聖橋から湯島聖堂を眺めても「遥かに」とは言い難い近さですが、あまり違和感がないのは、こうした理由でしょう。

 しかし、雨晴さんが「転句から結句への流れがスムーズにいっていない」と感じるのは、実はそこの「遥かに」に原因があるのだと思います。
 聖堂の「楷樹」は、孔木とも呼ばれ、孔子の墓所に子貢が植えた木だと言われています。湯島聖堂の楷樹は曲阜から移植されたものだそうで儒学の府の象徴ですので聖堂の木は「楷樹」だと遠くからでも分かるということかもしれませんが、それでも「飛簷楷樹」となると、やはり近くまで行って眺める形になります。
 「遥かに望」んでいたはずが、いつの間にか聖堂の前に立っている、その展開に「スムーズに行っていない」という言葉が出るのだと思います。
 「遥」をやめて、「仰」の字を使って「見る」なり「歩く」なりすれば、聖堂への敬意も表れるでしょう。平仄を合わせるために、「聖堂」は三、四字目に置きましょう。

2009. 2.21                 by 桐山人






















 2009年の投稿詩 第43作からは、一月三十一日に名古屋で開きました「サイト開設十周年の懇親会」関係の詩を、祝詩、参加者の感想の詩など、併せて掲載させていただきます。
 「懇親会報告のページ」で既にご紹介した作品もありますが、改めて、私の感謝の気持ちをこめて掲載いたします。

 スタートは 井古綆 さんからの祝詩です。
 

作品番号 2009-43

  (十周年懇親会)祝サイト開設十周年        

網上提撕啓大基、   網上の提撕 大基を啓き、

耕耘荒土注深慈。   荒土を耕耘して 深慈を注ぐ。

多年種殖都桃李、   多年種殖するは 都て桃李、

今日成蹊萬果垂。   今日 成蹊 万果垂れたり。

          (上平声「四支」の押韻)


「提撕」: 我々を教導すること。
「種殖」: 植えて増やすこと。


この詩は、当日の懇親会にてご紹介させていただきました。         桐山人





















 2009年の投稿詩 第44作は懇親会に参加された サラリーマン金太郎 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-44

  (十周年懇親会)賀桐山宗師漢詩電脳地基開設十周年        

創始地基過十秋   地基を創始して 十秋を過ぎ

門人盍簪聚參州   門人盍簪 参州に集まる

茲迎泰斗仰西席   茲に泰斗を迎へて 西席を仰げば

必向将来散萬憂   必ずや将来に向かって 万憂を散ず

          (下平声「十一尤」の押韻)



「桐山宗師」: サイト開設者、鈴木淳次先生。
「盍簪」: 友達が速く集まる。転じて友人の会合。
「参州」: 三河国
「泰斗」: 漢詩界の第一人者、ご来駕の石川忠久先生。
「西席」: 講師先生の席。























 2009年の投稿詩 第45作も サラリーマン金太郎 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-45

  (十周年懇親会)電脳漢詩開設十周年記念行事書感        

先生コ澤誘人心   先生の徳沢は 人心を誘ひ

西鷺東鷗共正襟   西鷺 東鴎 共に正襟(せいきん)

笑語歡談過一刻   笑語 歓談 一刻を過ぐれば

奇縁邂逅若知音   奇縁 邂逅 知音の若(ごと)し

          (下平声「十二侵」の押韻)



「先生」: サイト開設者、鈴木淳次先生 
「西鷺東鴎」: 全国に蟠踞する桐山門下の雅人たち。
「正襟」: 襟を正して記念行事会場に着座す。
「邂逅」: 思いがけなく出会うこと。めぐり合い。
「知音」: よく心を知っている親友。























 2009年の投稿詩 第46作も サラリーマン金太郎 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-46

  (十周年懇親会)愛知県立刈谷東高校漢詩創作講座発表会並記念講演会席上作        

長年薫染古城湄   長年薫染 古城の湄

多少青衿作好詩   多少の青衿 好詩を作す

帝里鴻儒迎鳳閣   帝里の鴻儒 鳳閣に迎へ

將來展望啓愁眉   将来の展望に 愁眉を啓く

          (上平声「四支」の押韻)



「薫染」=薫陶と同意義。
「古城」=参州刈谷城
「多少」=多くの
「青衿」=刈谷東高校漢詩講座受講の学生諸君。
「帝里」=帝都東京
「鴻儒」=漢詩界の第一人者、記念講演会講師としてご来駕の石川忠久先生を指す。
「啓愁眉」=その様に感激した。

<感想>

 こちらの詩は、懇親会の当日に開きました「愛知県立刈谷東高等学校 通信制 『漢詩創作の講座』 受講生作品発表会」という長い名前の催しに対しての、サラリーマン金太郎さんからいただいた詩です。
 懇親会に参加された方は、遠路はるばるおいでいただき、更に刈谷での発表会と講演会にも皆さんご参加くださり、ありがとうございました。
 多くの方達の前で発表することができ、受講生たちは皆、大変喜んでいました。

 なお、講座の受講生は一般の高校生よりも年齢は上の方ばかりでしたが、心は「青襟」、サラリーマン金太郎さんのこの詩は励みになります。ありがとうございました。              桐山人






















 2009年の投稿詩 第47作も サラリーマン金太郎 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-47

  (十周年懇親会)桐山堂漢詩道創流十周年記念祝賀会席上作        

鷺約鷗盟負笈來   鷺約 鴎盟 笈を負うて来る

梅花已發柳城隈   梅花は已に発く 柳城の隈

清香馥郁盛筵裡   清香 馥郁 盛筵の裡

門弟慇懃獻壽杯   門弟 慇懃 寿杯を献ず

          (上平声「十灰」の押韻)



「鷺約鴎盟」: 全国に蟠踞する桐山門下の騒客たち。
「負笈」: 「笈」とは本箱の意味で勉強する意。
    廣瀬淡窓の「桂林荘雑詠諸生に示す 三」の起句に「幾人負笈自西東・幾人か笈を負うて西東よりす」とある。
「梅花已發」: 名古屋城本丸御殿跡には紅白の見事な梅園がある。
    百花にさきがけて咲く梅花は、古来より雅人に愛し称されてきた。
    ゆえにそれになぞらえ、全国に先駆けて漢詩サイトを開設した鈴木先生を頌えるのくだり。
    転句の祝宴のめでたく和やかな雰囲気「清香馥郁」に呼応するもの。
    また懇親会会場名『涵梅舫』の梅にも奇遇の感有り。
「柳城隈」: 尾州名古屋城の別名。または金城、鯱城、亀尾城、蓬左城とも称す。























 2009年の投稿詩 第48作も サラリーマン金太郎 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-48

  (十周年懇親会)賀己丑新春桐山堂漢詩道創流十周年        

偏追李杜十星霜   偏へに李杜を追うて 十星霜

此集玉樓陪擧觴   此に玉楼に集ひて 挙觴に陪す

今日酣筵陶醉好   今日の酣筵 陶酔好し

何時再見會高堂   何れの時にか再び見みえて 高堂に会せん

          (下平声「七陽」の押韻)



「李杜」: 李白と杜甫。
「酣筵」: 盛んな宴会。























 2009年の投稿詩 第49作も サラリーマン金太郎 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-49

  (十周年懇親会)発豫州松山訪參州刈谷城        

濠水泓泓城堞連   濠水泓泓 城堞連なり

松濤謖謖往時傳   松涛謖謖 往時伝はる

久松藩祖発祥地   久松 藩祖 発祥の地

共戴名君有昔縁   共に名君を戴ひて昔縁有り

          (下平声「一先」の押韻)



「泓泓」: 水が深く清い様。
「城堞連」: 低い垣や土塁
「松涛」: 松風、松籟。
「謖謖」: 松風の音。
「久松藩祖発祥地」: 久松氏は尾張発祥の武家。

 徳川家康の母・於大の方の再嫁先(久松俊勝)で、康元、勝俊、末子の定勝など三人の子(家康の異父弟)があった。
 このうち三男定勝の六人の子息のうち、長男が早世したため次男の定行が久松松平宗家を継承し、初代伊豫松山十五万石藩主となり、末子の定政が三州刈谷城主二万石の開祖となった。
 もともと刈谷城は於大の方の所縁の城で兄水野信元の居城でもあった。ちなみに戦後長らく愛媛県知事を務めた伯爵家・久松定武氏はその直系、NHKの松平定知アナウンサーは松山藩主の親戚筋の家系である。
 過年、全国漢詩大会開催に合わせ鈴木先生には御来松を戴き、今回機会を得、こうして私は初めて刈谷の城を訪れたが、何あろう昔年両地は久松家のご縁で結ばれていたのである。
 なんとも感慨深いことだ。
<





















 2009年の投稿詩 第50作は 謝斧 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-50

  (十周年懇親会)奉寄石川岳堂先生        

夙読長安好日篇   

廻腸蘯気詠懷全   

驚人好句屠龍技   

日本詩壇誰比肩   

          (下平声「一先」の押韻)



 この詩も、当日の懇親会にてご紹介させていただきました。         桐山人






















 2009年の投稿詩 第51作は懇親会に出席された 風雷山人 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-51

  (十周年懇親会)桐山堂サイト十周年懇親会出席        

桐師教導続連綿   桐師教導 連綿と続き

情熱薫陶無比肩   情熱の薫陶 比肩無し

祝十周年詩友聚   祝十周年 詩友聚まり

歓談不尽会盟堅   歓談尽きず 会盟堅し

          (下平声「一先」の押韻)



【大意】
 桐師教導 歴史あり
 情熱溢れる 教え受け
 育つ門人 集まりて
 祝十周年の 卓囲む

  集い来る 詩人の宴 冬の街
  (つどいくる しじんのうたげ ふゆのまち)



<解説>

  いつもお世話になります。東京の風雷山人です。
 このたびは、サイト10周年おめでとうございます。
また、懇親会に出席させていただきありがとうございました。
日頃作品を通じてしか存じ上げなかった漢詩を愛する方々と、直接お会い出来て、とても楽しい時を過ごす事が出来ました。
 懇親会の前に拝聴させていただいた、漢詩講座の皆様の発表会も素晴らしいものでした。
石川先生のご講義も直接拝聴出来たことは、私にとっても貴重な経験となりました。

 素直に懇親会出席の感想を作詩しました。
これからもよろしくお願い致します。























 2009年の投稿詩 第52作は懇親会に出席された 観水 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-52

  (十周年懇親会)詩友雅宴        

涵梅舫上集知音   涵梅舫上 知音集ふ

酌酒論詩興自深   酒を酌み 詩を論じて 興自ら深し

歡笑不休宵不盡   歓笑 休まず 宵尽きず

少年何用恥狂吟   少年 何ぞ用ひん 狂吟を恥づを

          (下平声「十二侵」の押韻)


   梅の香れる舟の上 漢詩仲間が集まって
   酒酌み交し語らえば 自然と楽しくなってくる
   笑い歓び其処彼処 夜の更けるのも忘れそう
   へっぽこ詩人の若造も 恥ずかしがるに及ばない



<解説>

 鈴木先生、昨晩はどうもありがとうございました。
 先生をはじめ、皆様に直にお会いすることができ、嬉しかったです。
今後の詩作の励みにもなります。

 なかなか打ち解けてお話したりということは、恥ずかしながら、どちらかというと不得手なもので、その辺は甚だ申し訳ないところですが。
 御礼とあわせ、ひとまず一首お送りいたしますので、よろしくお願いいたします。






















 2009年の投稿詩 第53作は懇親会に出席された 常春 さんからの作品です。
 当日懇親会上にていただいた石川忠久先生の玉作「涵梅舫清集」に次韻されたものです。

作品番号 2009-53

  (十周年懇親会)和岳堂参州佳會詩次韻        

密須電網普天涯   電網天涯に普きを密に須ひ

撫育詩盟應接多   詩盟を撫育して応接多し

相集見師蓬左地   相集ひ師に見ゆ 蓬左の地

和親碸感廣新歌   和親感を碸み新歌広がる

          (下平声「六麻」「五歌」の通韻)



<解説>

 素晴しい十四名の新詩人発表会、また10周年懇親会 お喜び申上げます。
 初対面の懇親会 サイトのでは知り合った間柄、即刻和気藹々、いや楽しかった。
また、日曜日には真瑞庵さんらにご案内いただき、徳川園、徳川美術館に遊びました。
天候に恵まれ、寒桜 寒牡丹 庭園すべて良く、美術館にそろう調度に目を瞠り、七言絶句歌留多もおもしろく、鳳圖にある「瑞應名寄鳥 鐘霊丹穴前・・・」十四句の排律も興味深いものでした。
 また、喫茶で、昼食で、懇親時間の尽きるを知らず・・・。
厚くお礼申し上げます。























 2009年の投稿詩 第54作も懇親会に参加された 禿羊 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-54

  (十周年懇親会)徳川園寒牡丹        

冬天蓬左訪花園   冬天 蓬左 花園を訪へば

曲径無人午影暄   曲径 人無く 午影暄かなり

傾国嬌姿誘騒客   傾国の嬌姿 騒客を誘ひ

密披黄蕊玉香魂   密かに披く 黄蕊玉香の魂

          (上平声「十三元」の押韻)

<解説>

  作品発表会から参加させていただき、先生のご苦労を厭わぬ漢詩普及への献身に感動いたしました。
 私自身は、最初、漢和辞典と首っ引きで作詩を始めたものですから、初心者にどのようにして作詩を教えるか疑問に思っていましたが、今回の発表を聞いてよく解りました。

 懇親会では、初対面の皆さんでしたが、話が尽きずあっという間の時間でした。

 翌日は真瑞庵先生のご案内で徳川園の寒牡丹を愛で、美術館を走り抜け、なまず屋で昼食となりましたが、同好の士ばかりですので作詩の話が尽きず、まことに名残惜しい名古屋でした。

 次回、関西方面で開催されるとのことでしたら、喜んでお手伝いさせて頂きます。何でもご用命下さい。
出来たら、泊まり込みでやりたいですね。


























 2009年の投稿詩 第55作は懇親会に参加された 明鳳 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-55

  (十周年懇親会)漢詩作品發表會        

習作漢詩文墨隨   習作の漢詩に 文墨随ひ

初心一念學能披   初心の 一念 学びて 能(よ)く 披(ひら)く

吟魂詠句兩相好   吟魂と 詠句 両相(ふたつながら)に 好(よ)く

教導奏功稱讚辭   教導は 功を 奏して 称讚の 辞(ことば)

          (上平声「四支」の押韻)



「蓬左」= 尾張・名古屋のこと(蓬莱(熱田)の左に位置する故)
「文墨隨」= 漢詩作品の軸書も 展示す
「初心一念」= 講座開講して一年
「披」= 漢詩に篭めた気持ち感想共に発表
「教導」= 桐山堂(鈴木淳次先生)に依る
























 2009年の投稿詩 第56作も 明鳳 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-56

  (十周年懇親会)石川忠久先生之講演        

斯界權威絶妙譚   斯界(しかい)の 権威は 絶妙の 譚(はなし)

解頤講話伴C談   頤(い)を 解(と)く 講話に 清談 伴ふ

漢詩朗讀音明瞭   漢詩の 朗読 音(こえ)は 明瞭にして

聽衆歡娯拍手酣   聴衆は 歓娯し 拍手 酣(さかん)なり

          (下平声「十三覃」の押韻)



「頤」= 顎(あご)、おとがい
「解頤」= 感服の余り開いた口が塞がらぬ
「朗讀」= 中国語と共に 判り易い朗読
「歡娯」= 楽しく聞き惚れて
























 2009年の投稿詩 第57作も 明鳳 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-57

  (十周年懇親会)於涵梅舫     涵(han) 梅(mei) 舫(fang)(かんめいほう) にて   

圓卓囲餐對面初   円卓に 餐(さん)を 囲むは 対面の 初め

懇親會合舊知如   懇親の 会合は 旧知の 如し

袖珍詩韻任人愕   袖(しゅう) 珍(ちん) 詩韻は 人の愕(おどろ)くに 任(まか)せ

賓客笑談娯有餘   賓客(ひんかく) 笑談して 娯(たのしみ)は 余り 有り

          (上平声「六魚」の押韻)



「餐」= 北京宮廷料理
「對面初」= 一同皆初対面なり
「袖珍詩韻」= ミニミニ詩韻字典(折り畳み式で 五万字有ると謂う)
























 2009年の投稿詩 第58作も 明鳳 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-58

  (十周年懇親会)徳川園散策        

蓬左徳川鳴鳳溪   蓬左の徳川(とくせん)に 鳴鳳(めいほう)の渓

瑞龍庭苑自成蹊   瑞龍の 庭苑は 自づと 蹊を成す

虎仙橋架跨名瀑   虎仙の 橋架は 名瀑を 跨(また)ぎ

茶室團欒撮影題   茶室に 団欒し 撮影して 題(しる)す

          (上平声「八斉」の押韻)



「鳴鳳溪」= 江戸下屋敷(戸山)の「龍門の瀧」の渓谷に由来。
「名瀑」= 龍門の瀧
「茶室」= 瑞龍亭の和室喫茶
























 2009年の投稿詩 第59作も 明鳳 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-59

  (十周年懇親会)參觀徳川美術館        

吉祥意匠有行藏   吉祥の 意匠に 行蔵(こうぞう) 有り

招m符嘉瑞彰   招福に 符を 合わせ 嘉瑞 彰(あきら)かなり

寳物豪奢凡盡贅   宝物は 豪奢にして 凡て 贅を 尽くし

參觀順路遶成章   参観の 順路は 遶(めぐ)りて 章を 成す

          (下平声「七陽」の押韻)



「吉祥」= 当日の特別展示は「 福を招く - 吉祥のデザイン - 」であった。
「意匠」= デザイン
「有行藏」= 出処(進退)が正しい
「成章」= 第一〜第五展示室と「蓬左文庫」共に、テーマ別に巡る

























 2009年の投稿詩 第60作も 明鳳 さんからの作品です。
 

作品番号 2009-60

  (十周年懇親会)於名古屋鯰屋鰻午餐     名古屋「なまずや」にて鰻の午餐   

櫃塗鰻膳食通餐   櫃(ひつ)塗(まぶ)しの鰻の膳は 食通の餐

初箸素抔芳具殘   初箸(しょちょ)は 素抔(そほう)して 芳具は 残し

次椀佳肴添葯味   次椀の 佳肴は 葯味(やくみ)を 添え

終盤茶漬更團欒   終盤は 茶漬けで 更に 団欒す

          (上平声「十四寒」の押韻)



「櫃塗」= 三通りの食し方が楽しめる
「初箸」= 一杯目は、その侭の味を
「素抔」= 素の侭 掬う
「次椀」= 二杯目は、薬味を添えて
「終盤」= 三杯目は、出汁(だし)でお茶漬けに