作品番号 2004-1
(新年漢詩)迎甲申歳
生長五穀収蔵中、 五穀を生長して中に収蔵すれば
後得黄裳祭赤松。 後に黄裳を得て赤松を祭らむ
大道一朝一夕不、 大道は一朝一夕になるや不や
積雲雷電化青龍。 積雲雷電して青龍と化さむ
本年も宜しくお願いいたします。
作品番号 2004-2
(新年漢詩)有迎春感 春を迎えて感有り
未去申來御柱年 未去り申来たりて 御柱の年
馬齢数傘有詩縁 馬齢 傘を数えて 詩縁有り
北鮮伊洛抱難問 北鮮 イラク 難問を抱えるも
万里風和正月天 万里 風は和らぐ 正月の天
作品番号 2004-3
(新年漢詩)迎甲申
除夜鐘声迎甲申 除夜の鐘声 甲申を迎え
旭光燦燦又逢春 旭光 燦々として 又 春に逢う
紛紛今世冗憂念 紛々たる 今世 憂念を冗すも
少味屠蘇一老人 少らく 屠蘇を味わう 一老人
作品番号 2004-4
(新年漢詩)元日善通寺
無人行遍路 人の遍路を行く無く
白日滞寒山 白日 寒山に滞る
疑是時停止 疑うらくは 時の停止せるかと
悠悠天地間 悠々たり 天地の間
<解説>
昨年初め、高野山金剛峯寺で、四国遍路の結願をお伝えに参りました。
途中の善通寺元日納経の際の途中の印象の一句です。
作品番号 2004-5
(新年漢詩)与友賀新春 友と新春を賀す
東風解凍時 東風 凍(こご)りを解くの時
佳日歳華改 佳日 歳華 改まる
客到酒三觴 客到りて 酒三觴
共嘉知己在 共に 知己在るを嘉す
<解説>
Junji 先生 明けましておめでとう御座います。
新春漢詩を送らせて戴きます。
呂蒙は三日で足りましたが、私奴は三年経っても阿蒙のままで誠に申し訳ありませんが、どうか今年も宜しくご指導の程、お願い申し上げます。
作品番号 2004-6
(新年漢詩)新年祝願
節過純陰起一陽
聊知殘臘日初長
逢新君遂功名業
送舊吾尋嘯詠方
貧富無常何可道
死生有數不如忘
雲山積雪春猶遠
惟願迎禧又自強
作品番号 2004-7
(新年漢詩)歳旦述懐
離郷半百在都塵 郷を離れ 半百 都塵に在り
七十六齢迎歳新 七十六齢の 歳を迎えて新たなり
処世無功身尚健 処世功無きも 身尚お健なり
先慶欲詠泰平春 先ずは慶びて 詠ぜんと欲す 泰平の春
<解説>
東京に来てから五十年が過ぎ、七十六才の正月を迎える事が出来ました。
世渡りに功績なきも健康に過ごして居ます。
先ずは慶び、天下泰平の春を詩に詠じようというものです。
作品番号 2004-8
(新年漢詩)歳朝偶成
無功耆俗世 功無く 俗世に耆ゆ
白屋歳還新 白屋 歳還た新たなり
詩興生涯業 詩興 生涯の業
先慶一部春 先は慶す 一蔀の春
<解説>
「蔀」は、昔の暦法で七十六年を言う。転じてここでは年齢をいう。
人生駒隙の如し、何の取り柄もなく、この齢になりました。
作品番号 2004-9
(新年漢詩)迎新春
蓬蓬旭日曙光新 蓬々たる旭日曙光新たなり
卿雲呈祥画景真 卿雲祥を呈し画景真なり
食餅吟詩吾酌酒 餅を食し詩を吟じ吾は酒を酌む
風和淑気入佳辰 風は和らぎ淑気佳辰に入る
<解説>
新春を迎えて朝日も雲もまるで一幅の画をおもわせる。
餅を食べ お酒を飲みながら詩を吟じて春を寿ぐ。
風は和らぎて気分も最高の良き日である。
作品番号 2004-10
(新年漢詩)新年
年華倏忽夢時同 年華倏忽夢みる時に同じ
殷殷鐘聲報歳終 殷殷たる鐘聲歳終を報ず
落落宿心何日遂 落落たる宿心何れの日か遂げん
蕭然待望白頭翁 蕭然として待望す白頭の翁
<解説>
月日はたちまち逃げる如く夢を見ているときと同じだ、
鐘の音が鳴り響き年の終わりを告げている。
かねてからの望みの志を得ずして何れの日に遂げることが出来ようか、
忙しく目標を目指す白髪の老人である。
作品番号 2004-11
(新年漢詩)元朝憶派兵自衛官 元朝に派兵自衛官を憶う
応酬柏酒別朋親 柏酒を応酬して朋親と別る
任務元来守四隣 任務は元来、四隣を守るべきに
想起沙場兵卒苦 想起す、沙場、兵卒の苦
吾邦用武甲申春 吾邦、武を用う 甲申の春
<解説>
元日の朝、派兵自衛官のことを思う趣の詩です。
歴史の中のこの新年を記し留めようと思って。
自衛隊のイラク派兵は本格的な武力行使を伴いそうで危惧されます。
自衛隊の使う銃はいわば工芸品で、アメリカのM16ライフルのように、暗闇でも分解掃除のできるものとは違う。砂漠戦でグリースに砂が混ざったら使い物にならない、などという話を防衛庁取材記者から聞いているので、威勢のいい政治家の言動をみると、いつの時代も苦労するのは兵士なのだなあとの感慨もあります。
「宰相の談論に憤怒新たなり」などの句も浮かびましたが、全体の構成を優先。
イラクへ行く自衛官は家族、友人と屠蘇を酌み交わしたろうという具体的なイメージから入って、専守防衛の自衛隊が砂漠で苦労することへつなげました。
これでもし犠牲者がでたら、感傷的な追悼の詩ではなく、政治家を論難する詩をつくるつもりです。
<感想>
新年漢詩には感想を載せないことを原則としておりますが、この逸爾散士さんの詩につきましては、賛同なさる方が多かったようですので、紹介させていただきます。
正月の詩ですので感想はさしひかえたいのですが、逸爾散士先生の作品を見て他人事ながら、うれしくなって投稿しました。(内容が社会を風刺だからではありません。)
本当に分かりやすく、時事に適った詩だと感心して読ませていただきました。
恐らくは逸爾散士先生最高傑作ではないでしょうか。社会を風刺していても、罵も、怒もすこしも感じられません。温柔敦厚には背いていません。
不謹慎ですが、国家の不幸は詩人の幸せとよく云いますが、まさにそのとおりの作品だと感じました。
2004. 1. 4 by 謝斧
謝斧先生
過分なお褒めの言葉を頂戴し光栄です。
拙作、初案は、今年の干支を入れ込み、「家国出帥甲申春」を結句に据えようと思いました。
しかし、平仄が合わず、今の形に変えました。
それから転句を工夫しましたが、前半がわかりません。結句を初句に持ってきて、廟堂の議論に怒りが新たであるなど、論難を続けようかと思いましたが、ともかく韻字を定めようと韻目表に戻りました。
「親」の字を得て、「自衛官が家族と別れることを言おう」と思い、新年漢詩らしい単語を入れて、初句を作りました。
続けて『詩韻含英異同弁』をみて「四隣」を見つけました。
これは一般の人に言うとあきれられるかもしれず、しかし漢詩の実作者には納得されると思いますが、当初はそれほど、自衛官の身の上に思いを寄せてイラクを考えていたわけではありません。
韻目表で「親」の字を見つけ、初句を作ってから、「派兵自衛官は家族と屠蘇の献酬をしたろうか。家族は強いて明るく振舞ったかしら」と、いささか小説的な想像もわきました。
詩語を工夫するうちに、そして漢詩のフォルムに従った思考の流れを構築する作業で、新たな感情が呼び覚まされ、他者にも通じる感慨を自覚するようになったといえると思います。
何らかの感情があって、それを表出するというより、漢詩を作ることで、感情が呼び覚まされるといったところです。
もし拙作の表現が何らか人を動かし非戦の思いを抱かせるとすれば、「沙場」「用武」といった言葉によって連想される厭戦・非戦の漢詩の伝統の力だと思います。
2004. 1. 5 by 逸爾散士
漢詩を始めて一年足らずの私には、本と首っ引きで"言葉"をさがすだけですが
今最も関心のある自衛隊派遣について、このように創れればよいのにと 何度も読みました。
"詩吟”(歴六年)の参考になればと思ってし始めた事ですが、もう少し熱を入れたいと思います。
これからも宜しくお願いいたします。
2004. 1. 7 by 遊風
作品番号 2004-12
(新年漢詩)甲申御題 幸
故知魯叟浴乎沂 故に知る 魯叟沂に浴し
春日遨怡好詠帰 春日遨怡して 好く詠じて帰る
然納人間塞翁馬 然納す 人間塞翁が馬を
平生多幸感心微 平生 幸多くとも 心に感ずること微なり
<解説>
●故 まことに 然と同じ ●然納 其の説を是なりとして受け入れる ●魯叟 孔子
●浴乎沂 暮春者春服既製得冠者五六人童子六七人浴乎沂風乎舞(樗ー木)詠而帰 人生の目的は幸福をもとめることである 論先進
作品番号 2004-13
(新年漢詩)詠猿
枉説朝三喩苦愚 枉て朝三を説くも 喩苦だ愚なり
漆園敖吏勿揶揄 漆園の敖吏揶揄する勿れ
君知猿母哀児切 君知るや猿母 児を哀むこと切なり
叫聒断腸無奈拘 叫聒腸を断つも 拘するを奈ともする無し
<解説>
●朝三 朝三暮四 荘子 斉物論●漆園敖吏 荘子のこと●叫聒 やかましく叫ぶ 驚猿相叫聒 李白江上詩
●断腸 晋の桓温が三峡を過ぎたとき、其の従者が猿の子を捕らえた。母猿が此れを慕って哀号し、追行すること百余支里、遂に悶死した。其の腹を割いてみるに、腸寸寸に断ち切れていた 世説新語 黜免
作品番号 2004-14
(新年漢詩)新春夢
和光燦燦普乾坤 和光燦々 乾坤に普く
祥気盈盈溢草門 祥気盈々 草門に
西域戦塵全去尽 西域の戦塵 全て去り尽くし
万民歓喜浴春温 万民歓喜して 春温に浴す
<解説>
現実は誠に暗く、心から新年を慶賀する気分になれません。吉字を並べて新年祝賀の詩も気恥ずかしい。切実な希望を夢に託しました。
七十の手習い、皆様の優れた詩に啓発されます。今後とも宜しくお願いします。
作品番号 2004-15
(新年漢詩)新年偶感
先露枝頭一点春 先ずは露わす 枝頭一点の春
千門萬戸是迎新 千門万戸 是 新を迎う
庭隅嫩草年年発 庭隅の嫩草 年々発くも
歳月旦昏不待人 歳月 旦昏 人を待たず
<解説>
今年6度目の年男となり、「光陰矢の如し」という言葉が、若い時には頭で判ったつもりでいたのですが、最近はひしひしと身に迫ってまいります。
[訳]
春に先駆けて,梅の枝先にポツンと花が咲いた。
新しい年はどの家にも等しくやってくる。
庭の片隅の若草は,毎年新しい芽を出すけれど,
歳月はいっときとして人を待っては呉れない。
いつも皆さんの作品を拝見して、大変勉強になります。
これからも大いに参考にさせていただきます。又、鈴木先生のコメントが非常に勉強になっています。
今年もよろしくお願い申し上げます。
作品番号 2004-16
(新年漢詩)歳除食河豚 歳除 河豚を食す
治鍋禿叟下河豚 鍋を治めて 禿叟 河豚を下せば
羮美無双競箸喧 羮の美なること無双 箸を競いて喧びすし
家例今宵歓別様 家例 今宵 別様に歓なり
歳除宴裏混慈孫 歳除の宴裏 慈孫を混う
<解説>
大阪黒門町の市場で河豚を買ってきて一家で忘年会をやるのがここ数年の恒例となりました。
鍋奉行は禿羊がやるのですが、今年は初めて孫も食卓に並んで一人前に騒がしいことでした。
昨年一年間、このホームページで楽しませていただき、本当にありがとうございました。本年もよろしくお願い申し上げます。
作品番号 2004-17
(新年漢詩)口號
世累塵煩昨日殫
椒杯緩酌養吟肝
見有早梅堪砌上
今朝却快敝衣寒
作品番号 2004-18
(新年漢詩)新春
鐘声相送旧 鐘の声は相旧を送り、
城里接新年 城里新年に接する、
春陽何未見 春陽何ぞ未だ見えざる、
瑞雲因占天 瑞雲 天を占むるによる。
<解説>
鈴木先生 ニャースです。
本年もよろしくお願いします。都心に引越しはじめてのお正月です。
お日様は見え隠れする元日ですが、なんでもいい方向で今年は考えようと思います。
そんな決意?をこめて作りました。
作品番号 2004-19
(新年漢詩)新春有感
晨鶏告暁世猶昏 晨鶏(朝早くなく鶏) 暁ヲ告グルモ、世 猶 昏ク、
欲泰蒼氓未受恩
進暢明夷初日上
専希嘉歳俟春暄 専ラ
作品番号 2004-20
(新年漢詩)甲申書懐
春風山色麗初陽 春風 山色 初陽麗らかなり
一詠一觴椒酒香 一詠 一觴 椒酒香し
寄信佳朋存宿志 信を寄す 佳朋 宿志を存す
無梗憐我鬢有霜 功無き 我を憐れみて 鬢に霜あり
<解説>
穏やかな暖かい新春を恙無く迎えることが出来た。
毎年の事だが、児孫の帰ることもなく、愚妻と二人でしずかな正月だ。
屠蘇を酌みながら、我が吟に興じる外ない。
友人からの年賀状で、新しい年への抱負や想い読むと、自分の未熟さに羞じつつ、新年を迎える毎に、白鬢が増していくのみである。