2002年の投稿漢詩 第211作は 茶墨 さんからの作品です。
 前作を書き改めたものですね。

作品番号 2002-211

  歳晩(改)        

歳暮人忙世態遷   歳暮 人は忙し 世態遷る

小斎閉戸坐灯前   小斎 戸を閉ぢて 灯前に坐す

忘我案句歓無限   我を忘れ句を案じて 歓び限りなし

残夜煎茶独不眠   残夜茶を煎て 独り眠らず

          (下平声「一先」の押韻)

<解説>

 世の中の喧騒から離れて、始めたばかりの 漢詩の世界にのめりこんでいます。

<感想>

 転句の「忘我」は熟語ですが、「我」が仄字ですので、ここは平仄が狂います。「我」「吾」に替えるか、同じ意味の言葉に替える必要があるでしょう。
 結句の「残夜」「夜明け方」のことですので「独不眠」とやや重複感がありますね。特に「歳晩」の詩ですので、ここでは「明け方になって気がついたら新年だった」というようにすると、展開が面白くなると思います。

2002.12.31                 by junji





















 2002年の投稿漢詩 第212作は神奈川県小田原市の 音之 さん、二十代の男性の方からの初めての投稿作品です。
 お手紙をご紹介しましょう。

 漢詩に興味をもっても平仄の壁があり、なかなか調べる時間もなく、今まで敬遠気味でした。
でもこちらのHPを見つけてから挑戦する気になりました。平仄の検索やそれぞれの平仄の配置があらかじめ設定されていて、親切ですね。
 最近流行の中国茶から、漢詩に興味をもったという動機不純?な私ですが、いつか、人にあげても恥ずかしくないような詩が詠めればというのが夢です(笑)
 末永く漢詩世界の紹介、がんばってください。では。

作品番号 2002-212

  冬夜     冬の夜   

悄悄澄冬夜   悄悄、冬夜を澄ませ

星星燻満天   星星、満天を燻す

一時忘俗世   一時、俗世を忘れ

心往閃塵煙   心往く、閃塵煙へ

          (下平声「一先」の押韻)

<解説>

 こちらのHPをみつけ漢詩作りに初挑戦、コンテンツで確かめながらです。書き下しも正しいかどうか自信がありませんが、よろしくお願いします。

 冬の夜は、空気が澄んで星が綺麗に見えると思いますが、その情景を詠んでみました。
 「燻す」は夜空を夜幕、天幕にみたてて星が燻し銀のようにと言いたくて。
私の所は田舎でわりあい高台に住んでいますので、夜は星がよく見えます。
先頃、ふたご座流星群で流れ星を見た経験も多少…。
それにしても星空を見るときの感動は複雑で難しいですね、本能的なものでしょうか。

 今回作ってみて自分のボキャブラリーの無さを改めて痛感しました。

<感想>

 冬の夜の雰囲気が良く表れていると思います。二十代の方の初挑戦、という点ではこれからの作品に非常に期待を持たせていただけるものと思います。
 私が初めて作った時の詩なんて、とてもとても人に見せられるような代物ではありませんでした。

解説に書かれているように、「星がいぶし銀のように」空に輝くという感じは、承句の「星星燻満天」によく表されていますね。
 前後しますが、起句の「悄悄」「しょんぼり・物寂しい・静か」という言葉です。
 これで悪いわけではありませんが、きれいな冬の星空に感動して、茫然として時を忘れるという詩のテーマとのつながりから行くと、もう少し適した言葉がありそうな気がします。推敲するとすれば、まずこの言葉でしょう。

 結句の「閃塵煙」は解説を読みましたので「流星の光」だと分かりましたが、一般に分かるのでしょうか。私は「流星」とそのまま使う方が理解しやすく思います。
 賈島「暮過山寺」の詩には、

   衆岫聳寒色    衆岫 寒色聳え
   精廬向此分    精廬 此に向いて分かる
   流星透疎木    流星 疎木を透り
   走月逆行雲    走月 行雲に逆らう
     ・    
     ・    
 と、流星の落ちる姿を描いています。

2002.12.31                 by junji





















 2002年の投稿漢詩 第213作は 深渓 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-213

  歳暮        

作詩壬午僅成篇   壬午に詩を作ること 僅かに篇を成し、

鶏肋誰言未忍捐   鶏肋 誰か言う 未だ捐つるに忍びずと。

燈下傾杯全嘯詠   燈下に杯を傾け 全て嘯詠し、

龕頭欲祭歳除天   龕頭 祭らんと欲す 歳除の天

          (下平声「一先」の押韻)

<解説>

 古希を過ぎ漢詩を始めてやっと二年、今年の作詩は僅か数編、鶏の肋のようで肉はないが捨てるには惜しい

<感想>

 「鶏肋」は、にわとりのあばら骨のことですが、 「後漢書」の記事では「夫れ鶏肋は、之を食へば則ち得る所無く、之を棄つれば則ち惜しむべきが如し」となっています。
 仰るとおりで、価値は少ないが捨てがたいものとして使われる言葉ですが、これは自分の作品についてはまさにそう思うことが多いですよね。
 年末に詩を祭ろうとすると、一層そんな気持ちが強くなるのでしょうね。

2002.12.31                 by junji





















 2002年の投稿漢詩 第214作は 田中聴石 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-214

  歳晩所懷        

宰相荷負革成遲   宰相 荷負セルモ 革 成ルコト遅ク

一億蒼氓何處之   一億ノ蒼氓 何処ニカ之ク。

國運沈迷爲固疾   国運 沈迷シテ 固疾ト為リ

民生窮蹙及長期   民生ノ窮蹙 長期ニ及ブ。

直言奏効實難結   直言 効ヲ奏スモ 実 結ビ難ク

剛語懸望勢易萎   剛語 望ヲ懸クルモ 勢 萎エ易シ。

老卒傷時徒愍悴   老卒 時ヲ傷ンデ 徒ダ 愍悴

昇平藏亂奈憂思   昇平 乱ヲ蔵ス 憂思ヲ 奈セン。

          (上平声「四支」の押韻)

<解説>

 小泉首相はやると言った。その言葉を信じている。…しかし危うい。
 痛みに耐えることは皆覚悟しているが、いつまで耐えればよいのか、どこへ向かうのか。
 戦争で余分な税金を払う羽目になるより、同胞の、より辛い人達への義捐金(失業保険や奨学金・社会福祉等)なら、湾岸戦争の時と同じく、応分の負担は避けるものではない。
 今は危機状況なのだ。指導者の呼びかけ・やり方次第だ。

 [語釈]
 「荷負」:事をひきうける。
 「革」:旧をあらためるさま。
 「蒼氓」:もろもろの民、すべての人民。
 「沈迷」:深くおぼれる、迷い込む。
 「固疾」:長く治らない病気。
 「民生」:人民の生計。
 「窮蹙」:苦しみ縮まる、 困りきる。
 「老卒」:老いた兵士。
 「愍悴」:うれい悩みくるしむ。

<感想>

 こうして年の瀬を迎えながら今年一年を振り返ってみると、本当に色々な面で不信感が増幅した年だったように思います。
 政治(家)への不信、企業への不信、個々の人情への不信、悲しい事件が多かったように思います。聴石さんの仰るように、現代の日本社会を眺めていれば相応の「痛み」への覚悟は無いわけではありません。しかし、先の読めない中でその「痛み」がどこまで続くのかが全く見えないのが実感ではないでしょうか。
 ともあれ、来年は様々な方面で少しでも信頼感を持つことができるように祈りたいと思います。

2002.12.31                 by junji