2002年の新年漢詩 第1作は 禿羊 さんからの作品です。
 新年と共におめでたいことが重なったとのこと、第1作にふさわしい内容の詩ですね。

作品番号 2002-1

  新年慶事     新年の慶事   

朽才驕子伴佳人   朽才の驕子 佳人を伴い

懐妊明年請結姻   懐妊して 明年 姻を結ばんことを請う

何是可言非慶事   何ぞ是れ 慶事に非ずと言う可けんや

不図花果一時臻   図らざりき 花果の一時に臻(いた)らんとは

          (上平声「十一真」の押韻)

<解説>

 うちのドラ息子が突然可愛い女の子を連れてきて、出来ちゃったので来春結婚したいという。
 一応、これはめでたいことだと言わざるを得ない。
それにしても花と果実が一緒にやってくるとは!!!

<感想>

 新年漢詩は感想は書かないのですが、今回はお祝いの言葉を書かせていただきます。

おめでとうございます





















 2002年の新年漢詩 第2作は 桐山人  拙作です。
 

作品番号 2002-2

  新年近況        

案頭欲掃乱書堆   案頭 掃かんと欲して 乱書堆(うづたか)

閑坐南窗硯埃   南窓に閑坐して 硯埃を(あら)

侶病時能方外客   病を侶(とも)として 時に能く方外の客たり

春風本日候門来   春風 本日 門に候(ま)ちて来る

          (上平声「十灰」の押韻)

<語釈>

 「案 頭」:机の上
 「方外客」:世俗から離れた位置にいる人
 「候 門」:門から窺うように待つ。恥ずかしがって、という意味























 2002年の新年漢詩 第3作は 三耕 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-3

  若水         新年を迎えるの一篇

欅蔵已去歳   欅蔵る 已に去歳

梅発還新年   梅発く 還た新年

若水緑苔濯   若水は 緑苔に濯ぎおり

振衣行路前   衣を振って 行路を前む

          (下平声「一先」の押韻)

<語釈]>

   「蔵」:かくれる。
   「発」:ひらく。
   「還」:また。
   「前」:すすむ。

因みに「振衣」は"http://members.jcom.home.ne.jp/wa-ga-ya/kansi/siwa/23.html"より起しました。























 2002年の新年漢詩 第4作は 謝斧 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-4

  陽關詞 春 (詠物体)       

緒風吹老物皆春   緒風吹き老いて 物皆な春になり

四望山河景象新   山河を四望すれば 景象新し

雨温触処雑英動   雨温んで触れる処に 雑英は動き

行躡青蕪情可親   行き行きて青蕪を躡めば情親むべし

          (上平声「十一真」の押韻)

<解説>

 今回の御題は陽關詞で作りました。
 「陽關詞」は蘇東坡も作っております。いろんな人、特に故鈴木方川先生等から詞を作るように勧められましたが、有る理由により作りませんでした。
 然し、此の陽關詞は他の詞とは違った趣があると思っています。平仄は固定しています。四声の制約もありますので、作りにくい詩形でもあります。

 平仄は次のようになっています。

緒 風 吹 老 物 皆 春
● ○ ○ ● ● ○ ◎

四 望 山 河 景 象 新
● ● ○ ○ 上 ● ◎

雨 温 触 処 雑 英 動
● ○ ● ● 入 ○ 上

行 躡 青 蕪 情 可 親
○ 入 ○ ○ ○ ● ◎


 [語釈]
 「緒風」:冬の終わりに吹く風
 「景象」:景色、有り様
 「雑英」:いろんなはなびら
 「青蕪」:青く繁った草むら
 [訳]
 冬の終わりを告げるかのごとく、北風も力が弱くなり、万物は春を感じさせています。
 四方を眺めても、あの山もこの河も春景色にかわっています。
 雨も暖かく、目に触れる処にはなびらが咲き誇っています。
 散歩して、青く繁った草むらを歩けば、何かしら、うきうきした気分になります























 2002年の新年漢詩 第5作は 徐庶 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-5

  元旦(新年漢詩)        

狼星晃晃暗光円   狼星晃晃として光円を暗くし

北斗徐徐轉北天   北斗徐徐として北天に転ず

不聴夜鐘徒欲睡   夜鐘を聴かずして徒に睡らんと欲するも

寒風使我覚疲眠   寒風我をして疲眠を覚まさしむ

          (下平声「一先」の押韻)



 [語釈]
 「光円」:月






















 2002年の新年漢詩 第6作は 木筆 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-6

  新年書懐        

洪鈞一轉又春風   洪鈞 一轉 又 春風

六度支還白髪翁   六度 支は還る 白髪の翁

椒酒三杯先慶賀   椒酒 三拝 先ず 慶賀

攻詩齷齪去年同   攻詩 齷齪 去年と同じ

          (上平声「一東」の押韻)

<解説>

 何の変哲もなく、又刺激も少ない小隠の身、ただただ時は流れて、ふと気が付いて見ると12回目の午歳。
 取り敢えずは無恙を祝い杯を干すが、闘句攻詩、苦難のの一年が、またまた始まったのだ。























 2002年の新年漢詩 第7作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-7

  平成十四年祭馬        

駑駘十駕馮驕驥,   駑駘 十駕して 驕驥を馮(しの)ぎ

駿馬四騰驚駐驢。   駿馬 四たび騰して 駐驢を驚かす。

騙駁驗驫馴駻駛,   駁に騙(ヘン)し驫を驗(ため)し駻を馴らして駛(は)せ

駸駸馳驟馭驪駒。   駸駸と馳驟して驪駒を馭(ギョ)す。

<解説>

 午どしにちなみ、馬偏の字だけで詩を作ろうと思いましたが、JIS第二水準の範囲内では、小生には無理でした。そこで、平成十四年にちなみ「十」「四」をいれて誤魔化しています。

 小生、昨年の作詩顛詞は1500首を越えました。1首200字を越える宋詞、600字を越える古詩も書きました。これで3年連続1000詩達成、おそらく小生は駑駘ではありません。そこで、今年は駑馬十駕に挑戦しようかと思っています。
 なお、驢(魚韻:現代韻lu2)と駒(虞韻ju1)は百六韻では通韻。通韻は起句押韻に限って許されることとされていますが、「驢」「駒」は詞韻、曲韻、現代韻ともに同部です。
 詞韻、曲韻、現代韻で韻部を異にするのであればともかく、通韻を起句に限るとする教えは、いまどきなんともつまらぬ規律だと思っています。

 [語釈]
 「駑駘十駕」 :駑馬十駕(のろまな馬も十日間馬車をひけば、一日千里の驥に追いつけるという故事)の平仄を整えた。
 「驕 驥」   :驕る驥のつもりです。
 「駿馬四騰」 :「騰」は馬がはねる、はねあがるの意。
 「駐 驢」   :身動きしないロバのつもりです。
 「騙 駁」   :「駁」はまだらの馬。「騙」は馬にひらりと飛び乗るの意。
 「驗 驫」   :「驫」は多くの馬。「驗(ケン:ためす)」の本来の意味は馬を乗り比べて、よしあしをためすこと。
 「 駻 」    :荒馬
 「 駛 」    :馬をあやつって高速で走る。
 「駸 駸」   :馬がどんどん進むさま。
 「馳 驟」   :馬に乗ってかけまわる。
 「驪 駒」   :黒い馬。






















 2002年の新年漢詩 第8作は Y.T さんからの作品です。
 

作品番号 2002-8

  祝新春      新春を祝う  

昨夜年更物候新   昨夜 年更まって 物候新た

今朝淑気入佳辰   今朝 淑気 佳辰に入る

清晨独酌椒花酒   清晨 独り椒花の酒を酌み

四海与嘉天地春   四海 与に天地の春を嘉す

          (上平声「十一真」の押韻)























 2002年の新年漢詩 第9作は 柳緑 さんからの作品です。
 お手紙もいただいています。
 淳次先生大変ご無沙汰いたしました。
 昨年より有志の人を集めて、平仄不用・押韻模通韻可能の古詩を主体に、自分の表現したい字句をそのまま作詩することと、辞書を使わなくても読んでもらえる詩を作る努力をしています。
 詩作になれた時点で絶句・律詩のルールを勉強させたいと思っております。

 今回の新年を迎えるの詩は古紙詩十二句で作詩したものを絶句に直したもので多少無理があります。自分の表現したい字句がいくつか訂正され、起句・結句は二・六対のルールに違反しています。


作品番号 2002-9

  憶新年        

狂信暴徒征飛翼   狂信の暴徒 飛翼を征し

百層大廈滅紅蓮   百層の大廈 紅蓮に滅す

蔓延諸国貧富隔   蔓延す諸国 貧富の隔たり

世紀今応計交歓   世紀今まさに 交歓を計るべし























 2002年の新年漢詩 第10作は 逸爾散士 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-10

  不作年賀詩      年賀の詩を作らず  

壬午元朝試作詩   壬午の元朝に作詩を試む

不能連用賀正辞   あたわず、賀正の辞を連ね用うるを

旧歳地球満兵禍   旧歳、地球に兵禍は満つ

只今孩子餓天涯   只今も孩子の天涯に餓えるならん

          (上平声「四支」の押韻)

<解説>

 新年漢詩の仲間に加わりたいと思うのですが、容易に出来ないので、詩が作れないということを詠もうと横着なことを考えました。

 不粘格、挟み平も無理した感じですが「只今」という字を動かしたくなかった。
 初句の干支は内容と関係ないけど、歴史の中の1年という感じで置いたもの。

 ギャラントな吉祥、祝賀の辞を使った詩が出来ないので、世界情勢に思いをはせた風にしましたが、2001年を終わり新年にあたっての感慨でもあります。(ところでテロリズムというのは漢語ではどういうのかしらん。BSで中国のニュースを見ると「恐怖主義」みたいな字幕がついていますが)

 結句の初案、「閑文字を列ねて忸怩の思い」というのは平仄、韻字の都合で無理でした。漢詩はついに消閑の具なのかもしれませんが、自ずと社会意識を持たせるところもあるようです。
 2002年が平和な年でありますように。



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 私の手元の日中辞典で調べますと、「テロリズム」「恐怖主義」「恐怖手段」「テロリスト」「恐怖主義者」「恐怖分子」と載っています。






















 2002年の新年漢詩 第11作は 桐山人 、拙作です。
 

作品番号 2002-11

  新年有感      新年感有り  

世上層雲重   世上 層雲重くして

陰風内外腥   陰風 内外に腥(なまぐさ)

軍烟横雪澗   軍烟 雪澗に横たはり

戦火幎霜   戦火 霜を幎(おほ)

国政逾難改   国政 逾(いよいよ)改まり難く

生民久不寧   生民 久しく寧んぜず

前頭何怯所   前頭(ゆくて)に何の怯ゆる所ぞ

淑氣欲来   淑気 に来らんと欲す

          (下平声「九青」の押韻)

<解説>

 この詩は、新年に組合の機関誌の巻頭詩として依頼されて、作ったものです。厳しい状況、暗い世相ではあるけれど、希望は忘れないようにしたい、という気持ちで作りました。

 [語釈]
 「陰風」:戦争の気配のする風
 「雪澗・霜:冬の山河
 「生民」:人民
 「欲来:門にやって来ようとしている
 [訳]
 昨今の世の中はどうにも暗く、内も外も吹く風は生臭い。
 戦乱の炎は雪や霜の降りた冬の山河を覆い尽くし、
 政治はますます混乱を深め、民は久しく苦しんでいる。
 しかし、それでも怯えてしり込みしていてはいけないのだ。
    年の新たなる気はもうすぐそこに来ているのだから。























 2002年の新年漢詩 第12作は 佐竹丹鳳 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-12

  御題 春        

東君可愛不知名   東君愛す可きも 名を知らず

過野渡江香気呈   野を過ぎ 江を渡りて 香気呈す

花発草萌蜂蝶舞   花は発き 草は萌えて 蜂蝶舞い

五雲車上載春行   五雲車上 春を載せて行く

          (下平声「八庚」の押韻)























 2002年の新年漢詩 第13作は 長岡瀬風 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-13

  壬午新年        

初日満窓春動時   初日窓に満ちて 春の動く時

已看梅蕾点南枝   已に看る 梅蕾 南枝に点ずるを

酒醒落筆芳牋上   酒醒て 筆を落とす 芳牋の上

衰老猶成巴調詩   衰老 猶を成す 巴調の詩

          (上平声「四支」の押韻)























 2002年の新年漢詩 第14作は 禿羊 さんからの新年漢詩2作目です。
 

作品番号 2002-14

  平成壬午新春述懐        

歳月如河水   歳月 河水の如し

滔滔逝不留   滔滔として 逝きて留まらず

元辰江上識   元辰 江上の識なるも

寧得繋吾舟   寧んぞ吾が舟を繋ぐを得んや

          (下平声「十一尤」の押韻)

<解説>

 新年おめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
 さて、昨年は一身上においても、社会的にも大変な年でございました。この閉塞的な状況が新年になってもそう変わるとも思えませんが、せめて大きな禍だけは無いように祈りたいものです。

「去年今年貫く棒の如きもの 虚子」の二番煎じにすぎませんが、






















 2002年の新年漢詩 第15作は 偸生 さんからの作品です。
 

作品番号 2002-15

  新春        

孤灯照雨草茅居   孤灯 雨を照らす 草茅の居

寂暦籬邊林景疎   寂暦たる籬辺 林景疎なり

地僻十年些忍病   地は僻にして十年 些か病を忍ぶ

心閑半夜獨看書   心閑に半夜 独り書を看る

          (上平声「六魚」の押韻)