作品番号 | 作 者 | 題 名 | 詩 形 | |
[01] | 觀水 | 「秋山風光 (一)」 | 七言律詩 | |
[02] | 觀水 | 「秋山風光 (二)」 | 七言律詩 | |
[03] | 謝斧 | 「秋山風光」 | 七言律詩 | |
[04] | 芳原 | 「秋山風光 其一」 | 七言絶句 | |
[05] | 芳原 | 「秋山風光 其二」 | 七言絶句 | |
[06] | 玄齋 | 「秋山風光」 | 七言律詩 | |
[07] | 岳城 | 「秋山風光 (一)」 | 七言絶句 | |
[08] | 岳城 | 「秋山風光 (二)」 | 五言絶句 | |
[09] | 井草 | 「秋山風光 屋島」 | 七言絶句 | |
[10] | 明鳳 | 「秋山風光 其一(於:粟田山荘)」 | 七言絶句 | |
[11] | 明鳳 | 「秋山風光 其二(訪大原三千院)」 | 七言絶句 | |
[12] | 押原 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[13] | 道佳 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[14] | 凌雲 | 「秋山風光 其一」 | 五言律詩 | |
[15] | 凌雲 | 「秋山風光 其二」 | 五言律詩 | |
[16] | 地球人 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[17] | 黒 | 「秋山風光 (古都晩秋)」 | 七言絶句 | |
[18] | 點水 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[19] | 劉建 | 「秋山風光 其一」 | 六言絶句 | |
[20] | 劉建 | 「秋山風光 其二」 | 七言絶句 | |
[21] | Y.T | 「秋山風光」 | 五言絶句 | |
[22] | Y.T | 「登秋山」 | 七言絶句 | |
[23] | 青陽 | 「踏秋」 | 五言律詩 | |
[24] | 青陽 | 「秋水」 | 五言律詩 | |
[25] | 茜峰 | 「秋山風光 (挪威山行)」 | 七言絶句 | |
[26] | 陳興(在上海) | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[27] | 劉白楊(在西安) | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[28] | 胡曉(在広州) | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[29] | 醉竹 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[30] | 兼山 | 「秋山風光 (一)」 | 七言絶句 | |
[31] | 兼山 | 「秋山風光 (二)」 | 七言絶句 | |
[32] | 杜正 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[33] | 東山 | 「秋山風光 (一)」 | 五言絶句 | |
[34] | 東山 | 「秋山風光 (二)」 | 七言絶句 | |
[35] | ニャース(在上海) | 「芝加哥秋天」 | 七言絶句 | |
[36] | 輪中人 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[37] | 忍夫 | 「秋山風光於京都 一」 | 七言絶句 | |
[38] | 忍夫 | 「秋山風光於京都 二」 | 七言絶句 | |
[39] | 鮟鱇 | 「秋山風光 其一」 | 五言絶句 | |
[40] | 鮟鱇 | 「秋山風光 其二」 | 五言絶句 | |
[41] | 鮟鱇 | 「秋山風光 其三」 | 六言絶句 | |
[42] | 鮟鱇 | 「秋山風光 其四」 | 七言絶句 | |
[43] | 鮟鱇 | 「秋山風光 其五」 | 七言絶句 | |
[44] | 鮟鱇 | 「秋山風光 其六(隔句對格)」 | 五言律詩 | |
[45] | 鮟鱇 | 「秋山風光 其七」 | 五言律詩 | |
[46] | 鮟鱇 | 「秋山風光 其八」 | 七言律詩 | |
[47] | 鮟鱇 | 「秋山風光 其九」 | 七言律詩 | |
[48] | 常春 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[49] | (桐山堂刈谷)遊山 | 「秋山風光 一」 | 七言絶句 | |
[50] | (桐山堂刈谷)遊山 | 「秋山風光 二」 | 七言絶句 | |
[51] | (桐山堂刈谷)M.O | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[52] | (桐山堂刈谷)老遊 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[53] | (桐山堂刈谷)勝江 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[54] | (桐山堂刈谷)眞海 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[55] | (桐山堂刈谷)聖峰 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[56] | (桐山堂刈谷)松閣 | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[57] | (桐山堂刈谷)松閣 | 「中秋無月」 | 七言絶句 | |
[58] | (桐山堂刈谷)N.M | 「秋山風光」 | 七言絶句 | |
[59] | 桐山人 | 「秋山風光 一」 | 七言絶句 | |
[60] | 桐山人 | 「秋山風光 二」 | 七言絶句 | |
[61] | 桐山人 | 「秋山風光 (十三夜月)」 | 七言絶句 | |
[62] | 桐山人 | 「秋山風光 (秋雨愁懷)」 | 七言絶句 |
[秋山風光(一)]
漸知涼氣四山旋 漸く知る 涼気の四山を旋るを
又覺爽風千里傳 又た覚ゆ 爽風の千里を伝ふを
紺碧晴空雲一片 紺碧の晴空 雲一片
紅黄落木興無邊 紅黄の落木 興無辺
登樂磈磊奇岩嶺 登っては磈磊たるを楽しむ奇岩の嶺
下聽潺湲玉露泉 下っては潺湲たるを聴く玉露の泉
踏破良秋閑適路 踏破す 良秋 閑適の路
俗間塵事故應捐 俗間の塵事は故(ことさら)に応に捐つべし
(下平声「一先」の押韻)
涼しい空気四もの山 めぐりだしたと気が付けば
爽やかな風遠くから 吹いてくるのもよくわかる
空は青々晴れわたり ぽっつりと雲ただ一つ
赤や黄色の紅葉葉に 尽きることない面白味
登って楽しむごろごろと 奇妙な岩のころがるを
下って聴くのはさらさらと 玉露の水のあふれるを
閑かな秋のすばらしさ 満喫しつつ道を行く
世間の面倒事なんて そんなの捨ててしまおうか
[秋山風光(二)]
俗事紛紛意暗然 俗事 紛紛として 意 暗然たるも
滿山秋氣隔塵緣 満山の秋気 塵縁を隔つ
開香素菊爽風路 香を開く素菊 爽風の路
吐血丹楓斜日巓 血を吐く丹楓 斜日の巓
幾刻回頭雲散野 幾刻か 頭を回らせば 雲 野に散じ
數聲敧耳雁連天 数声 耳を敧つれば 雁 天に連なる
胸懷欲寫裁詩處 胸懐 写さんと欲して 詩を裁する処
不覺夕空新月懸 覚えず 夕空 新月懸る
(下平声「一先」の押韻)
世間いろいろあるもので 気分もしずみがちだけど
山いっぱいの秋の気に そんな事など無関係
風に吹かれてさわやかに 香りを開く白菊に
傾いた日に照らされて 血を吐くような赤もみじ
ふと見回せばどれほどか 雲は野はらに散り消えて
耳をすませば幾声か 雁がね空に続いてる
この胸のうち写そうと 詩でも作ってみるところ
いつの間にやら夕空に 新たに月が懸かってる
[秋山風光]
餐霞換酒楽天全 餐霞酒に換て天の全ったきを楽しみ
吾是人間老散仙 吾は是れ人間(じんかん)の老散仙なり
排草浩歌忘世味 草を排し浩歌しては 世味忘れ
臨風微酔坐山巓 風に臨み微酔して 山巓に坐す
寒雲忽散星河落 寒雲忽ち散じて 星河落ち
嵐気初消楓葉燃 嵐気初めて消て 楓葉燃える
遊目秋光心豁爾 目を遊ばせし秋光に 心豁爾たり
野霜露宿石牀眠 野霜露宿して 石牀に眠らん
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其一]
秋山重彩轉凄然 秋山 彩を重ねて転凄然
日昃物華明暗鮮 日昃いて物華 明暗鮮やかなり
扶杖更昇溪澗上 杖をたよりに更に昇る渓澗のほとり
蹣跚行盡酒家筵 蹣跚として行き尽くせば酒家の筵
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其二]
秋山斜景雨餘天 秋山の斜景 雨余の天
屐履同袍急競先 屐履の同袍先を競って急(はや)し
昨夜推敲詩草大 昨夜の推敲 詩草大いなり
今宵兩定酒仙筵 今宵 両(ふた)りながら定めて酒仙の筵ならむ
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
秋山已變例年天 秋山 已に変ず例年の天
昨日暴風過忽然 昨日の暴風 忽然と過ぐ
樹倒家崩橋落處 樹 倒れ家 崩れて橋 落つる処
泥流花散路危邊 泥 流れ花 散じて路 危ふきの辺
替靴常備涉深澗 靴を替へ常に備へて深澗を渉り
用杖尚難登峻巓 杖を用ゐて尚 難しとして峻巓を登る
眺望長留慘狀迹 眺望 長く留む惨状の跡を
求安國土祈靈前 国土を安らかならんと求めて霊前に祈る
(下平声「一先」の押韻)
秋の山の景色は、すでに例年とは変わっていて、
昨日の災害をもたらす強い風は、突然に過ぎていきました。
樹木が倒れ、家が崩れて、橋が落ちた所があり、
泥が流れ、花が散って、道の危なくなった辺りを歩いていました。
靴を替えて、常に備えをして二つの山の中間にあるとても深い水の所を渡っていき、
杖を使っても猶も難しいというようにして、険しい山の頂上へと登っていきました。
遠く眺めると、痛ましい有様の痕跡を長く留めているのが見えて、
国土が安らかであるようにと求めて、霊前(れいぜん:死者の霊を祀った場所の前)に祈っていました。
[秋山風光(一)]
羊腸十里立山巓 羊腸 十里 山巓に立つ
染出楓林在眼前 染め出す楓林 眼前に在り
萬仭群峰天下勝 万仭の群峰 天下の勝
秋雲靉靆意悠悠 秋雲 靉靆 意 悠悠たり
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光(二)]
迢遙人跡少 迢遙 人跡 少なく
山上舞風鳶 山上 風鳶 舞ふ
澄景別天地 澄景 別天地
紅黄値萬銭 紅黄 値 万銭
(下平声「一先」の押韻)
「迢遙」: 道のはるかなるさま
「澄景」: 秋景色
[秋山風光 屋島]
詩囊攜去上旻天 詩嚢(しのう)を携へて旻天を上るは
孰與騒人波底仙 孰(いず)与(れぞ)や 騒人 波底の仙
染盡行宮楓樹色 染め尽くす行宮(あんぐう) 楓樹の色
配將雁陣屋山眠 雁陣を配し将(も)って屋山(おくざん)眠る
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其一(於:粟田山荘)]
洛東秋邃絶塵烟 洛東の秋は邃(ふか)くして 塵烟を絶ち
美食京餐熟粟田 美食の京餐は 粟田に熟す
會席山荘追約到 山荘に会席して 約を追って到るに
堪能季節午時天 季節を堪能する 午時の天(そら)
(下平声「一先」の押韻)
「粟田山荘」: 京料理・京都ホテルオークラ別邸
[秋山風光 其二(訪大原三千院)]
洛北大原秋欲然 洛北の大原は 秋然(も)へんと欲し
巡三千院去來縁 三千院を巡るは 去来の縁
求朱印判山光靜 朱印の判を求むるに 山光は静かにして
禮拝無心合掌專 礼拝は無心に 合掌すること専らなり
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
錦繡陶然落照前 錦繍陶然 落照の前
群山茜色遠相連 群山茜色 遠く相連なる
山荘靜寂疎鍾度 山荘静寂 疎鍾度り
心氣風懷忘俗緣 心気風懐 俗縁を忘る
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
稲雲一面穫良田 稲雲 一面 良田を穫る
彼岸花開紅紫鮮 彼岸花 開き 紅紫鮮やか
三國颱風思被害 三国へ台風 被害を思はん
秋山晴昊彩虹旋 秋山 晴昊 彩虹 旋す
(下平声「一先」の押韻)
秋で稲も実り、曼珠沙華が咲き誇る中
台風がなんどとなく、三国へ襲いかかってくる。
早く晴れ渡り、虹が三国の秋山を旋らせんことを願います。
[秋山風光 其一]
梵鐘舊石段 梵鐘の旧い石段、
不識寺門前 識らず 寺門の前。
冷冷中秋夕 冷冷たる 中秋の夕、
温温秀穂田 温温たる 秀穂の田。
看山雲縹縹 山を看れば 雲 縹縹たり、
惜夏雨延延 夏を惜しんで 雨 延延たり。
処処蜻蜓影 処処 蜻蜓の影、
知風季節遷 風に知る 季節の遷るを。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其二]
夕靄殘陽近 夕靄 残陽近く、
中秋冷冷天 中秋 冷冷たる天。
山蒼望照月 山蒼く照月を望み、
雲白想昇仙 雲白く昇仙を想ふ。
揺曳遊長夜 揺曳と長夜に遊び、
逍遙拂細弦 逍遥と細弦を払ふ。
輕寒催落莫 軽寒 落莫を催し、
結露自詩編 露を結んで自ずと詩編なせり。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
野田麦秀兆豊年 野田 麦秀で 豊年を兆ず
気爽高天北雁翩 気爽にして 高天 北雁翩る
四面山腰霜染葉 四面 山腰 霜葉を染む
紅黄晩艶共争妍 紅黄 晩艶 共に妍を争ふ
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光(古都晩秋)]
霜楓樹下禪堂前 霜楓 樹下 禅堂の前
幽韻鐘聲屋並傳 幽韻の鐘声 屋並みに伝わる
夜半突風紅葉盡 夜半の突風に 紅葉尽き
使吾最悵晩秋天 我をして最も悵らむ 晩秋の天
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
白雲一片素秋天 白雲 一片 素秋の天
山上登來風颯然 山上に登り来れば 風 颯然
青女染成濃淡色 青女は染成す 濃淡の色
欺花錦繡有餘姸 花を欺く 錦繍 餘妍あり
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
臨風蒼鷺立湖邊 風に臨み 蒼(そう)鷺(ろ) 湖辺に立ち
一鏡鸕鶿幾度旋 一鏡 鸕(ろ)鶿(し) 幾度か旋る
潛水餘音却淸靜 潜水の余音 却って 清静
如書姿勢墨痕鮮 姿勢を書く如く 墨痕鮮やか
(下平声「一先」の押韻)
「蒼鷺」: 鳥類、アオサギを指す。
「鸕鶿」:鳥類、ここではカワウを指す。
[秋山風光]
一行斜鴨向江邊 一行の斜鴨 江辺へ向かひ
倦旅沙温布翅眠 旅に倦み 沙温かく 翅を布いて眠る
霜滿山寒覆歸夢 霜満ちて 山寒く 帰夢を覆ひ
水柔鳧藻奏雙絃 水柔かく 鳧藻 双絃を奏す
(下平声「一先」の押韻)
「鳧藻」:所を得て、喜び和らぐ。
「奏雙絃」:番いの鴨が互いに鳴き合う様子。
[秋山風光]
晴峯錦繡連 晴峯 錦繍を連ね
楓樹弄秋姸 楓樹 秋妍を弄ぶ
潭水映霜葉 潭水 霜葉に映じて
一山將欲然 一山 将に然んと欲す
(下平声「一先」の押韻)
[登秋山]
獨上秀峰霜葉鮮 独り秀峰に上れば 霜葉 鮮かなり
重陽山色弄秋妍 重陽の山色 秋妍を弄す
憂來閑坐殘照裡 憂来 閑坐す 残照の裡
落日逡巡墜暮天 落日 逡巡として 暮天に墜つ
(下平声「一先」の押韻)
[踏秋]
向野尋秋意,
雲梯傍嶺旋。
充耳鳴蟲趣,
滿目錦楓嫣。
澗下清泉香C
枝頭野果鮮。
情迷幽徑遠,
但忘日西偏。
(下平声「一先」の押韻)
[秋水]
蕩漾平川水,
雲天一手牽。
朝迎霞迸湧,
暮送雁徙遷。
碎浪托禽羽,
浮萍杫釣絃。
安知秋水意,
淡淡自為仙。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光(挪威山行)]
九月挪威紅葉鮮 九月 挪威(ノルウエー) 紅葉鮮やかなり
樺林蹟路至山巓 樺林 蹟路 山巓に至る
瞰臨絶壁断崖彼 瞰臨す 断崖絶壁の彼(かなた)
鋸牙群峰江峡漣 鋸牙の群峰 江峡の漣
(下平声「一先」の押韻)
9月にノルウエー北部(北極圏内)のフィヨルド地帯の山行をする。
はや紅葉の時期であった。白樺、ダケカンバの林を抜け礫の多い道を行き頂上に至る。
フィヨルド地帯の山は 極端で 片側は緩やかな斜面でハイキング可能だが、もう一方は 氷河によって削られた断崖絶壁が 海からそそり立っている。
頂上から眺めると 鋸の歯のような峰々が続き わずか1000m未満の山なのに、アルプスに負けない威容がある。
紺碧の海が静かな波を湛えていた。
[秋山風光]
秋風昨夜萬山傳
谷底流光石縫泉
紅葉溪中逐波去
寄情千里到君前
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
新楓一葉識当年,
徑引心情到嶺前。
霧影雲波忽吹散,
浮沈上下是湖天。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
好友邀詩韻為先,
佳句難覓倦成眠,
何曾見的秋風起,
散墨成楓稜窗前。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
追懷六甲立山巓 追懐し 六甲 山巓に立つ
不變秋容五十年 変わらず 秋容 五十年
廣路刓潭山濠 広路 潭を刓(けず)り 山緑 割つ
少時無徑野營邉 少時 径無き 野営の辺り
(下平声「一先」の押韻)
「六甲」: 在日本、神戸六甲山
[秋山風光(一)]
山上白雲如薄綿 山上の白雲 薄綿の如し
秋風惆悵草菴邊 秋風 惆悵たり 草菴の辺
殘生寂寞詩人老 残生 寂寞として 詩人老ゆ
既往榮譽何妬賢 既往の栄誉 何ぞ賢なるを妬まんや
(下平声「一先」の押韻)
「殘生寂寞」: 杜甫詩「奉済駅に重ねて厳公を送る詩」より「江村獨歸處、寂寞養殘生」
颯々と何を語るか秋の風
[秋山風光(二)]
秋山未霽雨綿綿 秋山未だ霽れず 雨綿綿
幽景静觀詩酒仙 幽景静観す 詩酒の仙
雁帛飛來期再會 雁帛飛来して 再会を期す
早凋晩翠各衰年 早凋 晩翆 各衰年
(下平声「一先」の押韻)
「早凋晩翠」: 『千字文』より「枇杷晩翠、梧桐早凋」
秋彼岸過ぎて雨霽れ朋と会ふ
[秋山風光]
攀山秋色眼前連 山に攀じれば 秋色 眼前に連なり
峡谷如燃紅葉鮮 峡谷 燃えるが如く 紅葉 鮮かなり
同學交歡泉館夜 同学 交歓して 泉館の夜
今宵憶昔醉陶然 今宵 昔を憶って 陶然と酔ふ
(下平声「一先」の押韻)
山に攀じれば 秋色が眼前に連なっている
峡谷は燃えるように 紅葉が鮮かだ
いっしょに勉強している仲間が交歓して 温泉宿で夜を過ごす
今宵は 昔を憶って 陶然と酔おう
[秋山風光(一)]
爽氣高天碧 爽気 高天碧に
秋山錦繠衣 秋山 錦繍の衣
誰言春色好 誰か言ふ 春色好しと
當樂一時奇 当に楽しむべし 一時の奇
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光(二)]
九月锈明天地 九月清明 天地の間
遠辿幽徑隔人寰 遠く幽径を辿れば 人寰を隔つ
溪聲紅葉緑苔景 渓声紅葉緑苔の景
漫愛涼風光彩山 漫ろに愛す 涼風 光彩の山
(下平声「一先」の押韻)
[芝加哥秋天(シカゴの秋天)]
幾條雲片掃蒼天
湖色渺茫一影船
冷氣淸澄黄葉落
備冬人始厚衣穿
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
新寒伴友上漁船 新寒(晩秋)友を伴いて漁船にのぼる
黄色荻蘆雙岸連 黄色の荻蘆 双岸に連なり
斐水遙遙流大海 斐水(揖斐川)遥遥として大海に流る
遠山秀嶺淡秋煙 遠山の秀嶺 秋煙淡し
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光於京都 一]
四方山影是蒼然 四方の山影 是蒼然
露店賑軒東寺前 露店 軒を賑はす 東寺の前
京都千歳凌多禍 京都 千歳 多禍を凌ぎ
新舊色交秋夕鮮 新旧の色交はり 秋夕は鮮かなり
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光於京都 二]
秋山装錦對青天 秋山が錦を装い 青天に対し
又可日昏蒼影鮮 また可し 日昏(く)れて 蒼影鮮かなり
皓皓月明遍照地 皓皓と月明りが遍く地を照らせば
四囲稜線似龍眠 四囲の稜線は龍の眠るに似たり
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其一 五絶]
金秋堪探勝, 金秋 探勝するに堪へ,
紅葉碧山鮮。 紅葉 碧山に鮮やかなり。
押韻馳詩筆, 押韻して詩筆を馳せれば,
清遊不用錢。 清遊 錢を用ひず。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其二 五絶]
白頭揮夢筆, 白頭 夢筆を揮へば,
黄葉舞詩箋。 黄葉 詩箋に舞ふ。
山路通霞洞, 山路は霞洞に通じ,
金秋逢羽仙。 金秋 羽仙に逢ふ。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其三 六絶]
青女飛霜起舞, 青女 霜を飛ばして起ちて舞へば,
紅楓飜葉明鮮。 葉を飜して明るく鮮やかなり。
秋山堪探詩路, 秋山 詩路を探るに堪へ,
風漢將尋洞仙。 風漢 將に洞仙を尋ねんとす。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其四 七絶]
日照紅楓帶淡煙, 日は紅楓の淡煙を帶びたるを照らし,
余傾緑酒涌詩泉。 余は緑酒の詩泉に涌くを傾く。
忽成口占堪高唱, 忽として成りたる口占 高唱するに堪へ,
醉扮風人吟聳肩。 醉って風人に扮し吟じ肩を聳やかす。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其五 七絶]
秋湖碧水泛樓船, 秋湖の碧水 樓船を泛べ,
山岫金烏照暮煙。 山岫の金烏 暮煙を照らす。
賞盡紅黄旅亭晩, 紅黄を賞し盡せる旅亭の晩,
少傾村酒下温泉。 少しく村酒を傾けて温泉へ下る。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其六 五律(隔句對格)]
山遊休憩坐, 山に遊んで休憩して坐すは,
野店碧湖邊。 野店 碧湖の邊。
黄葉如金貨, 黄葉 金貨のごとく,
有誰惜酒錢。 誰れかありて酒錢を惜しまんや。
白頭借紅臉, 白頭 紅臉を借り,
無奈扮詩仙。 奈(いかん)ともする無く詩仙に扮す。
醉筆含雲液, 醉筆 雲液(酒)を含めば,
將飛馳鳳箋。 將に飛ばんとして鳳箋を馳す。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其七 五律]
探勝辭山寺, 勝を探りて山寺を辭し,
楓林下磴延。 楓林に磴の延びたるを下る。
隨風到茅店, 風に隨ひて茅店(茶店)に到り,
買酒醉湖邊。 酒を買って湖邊に醉ふ。
紅葉浮金盞, 紅葉 金盞に浮かび,
白頭隣碧漣。 白頭 碧漣に隣る。
秋光易裁賦, 秋光 賦を裁しやすく,
諷詠喜遊仙。 諷詠して仙に遊ぶを喜ぶ。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其八 七律]
日照秋湖皺碧漣, 日は秋湖の碧漣を皺とするを照らし,
紅黄織錦上山巓。 紅黄 錦を織りて山巓に上る。
悦目風光催韻事, 目を悦ばせる風光 韻事を催(うなが)し,
傾杯村酒涌詩泉。 杯を傾けたる村酒 詩泉に涌く。
旗亭夕暮隣霞彩, 旗亭の夕暮 霞彩に隣り,
老叟筆頭馳尾聯。 老叟の筆頭 尾聯へ馳す。
更啜醇醪簽字處, 更に醇醪を啜りて簽字(サイン)する處,
笛聲驚氣見遊船。 笛聲 氣を驚かし 遊船見ゆ。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 其九 七律]
秋啜山杯仰月圓, 秋に山杯を啜って月の圓かなるを仰ぎ,
醉登筆路扮詩仙。 醉って筆路を登り詩仙に扮す。
風餐賞景硯池畔, 風に餐(くら)って景を賞(め)づる硯池の畔(ほとり),
露宿馳思星漢邊。 露に宿して思ひを馳する星漢の邊(あたり)。
夢醒朝光照紅葉, 夢醒めれば朝光 紅葉を照らし,
身輕鵬翼上蒼天。 身は輕く鵬翼 蒼天に上る。
行空裁賦無聲病, 空を行きて賦を裁さば聲病なく,
韻事從來不用錢。 韻事は從來より錢を用ひず。
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
通過隧道絶佳天 隧道 通過すれば 絶佳の天
紅葉雪巓湖水前 紅葉 雪巓 湖水の前
遊歩壩堤雄壯氣 壩堤 遊歩すれば雄壮の気
媼翁挺背欲忘年 媼翁 背を挺ばして 年忘れんとす
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 一]
羊腸細徑至旻天 羊腸たる細径 旻天に至り
騒客停笻汲石泉 半ば上り笻を停めて 石泉を汲む
雲表峯頭絶佳景 雲表の峯頭 絶佳の景
黄紅楓樹競秋姸 黄紅の楓樹 秋に妍を競ふ
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 二]
幽徑無人山寂然 幽径人無く 山寂然たり
老笻求句白雲邉 老笻 句を求めて 白雲の辺り
一條瀑布半霄漢 一条の瀑布 霄漢を半ばす
危岸紅黄映日鮮 危岸の紅黄 日に映じて鮮やかなり
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
草裡鳴蟲霜降傳 草裡の鳴虫 霜降を伝ふ
桂花馥郁漾窗邉 桂花 馥郁 窓辺に漾(ただよ)ふ
淸淸灒氣月愈白 清清たる灒氣 月愈(いよい)よ白く
秋夜寥寥醉欲眠 秋夜 寥寥 酔ひて眠らんと欲す
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
溪間流水燕脂影 渓間の流水 燕脂の影
青女吹霜紅葉鮮 青女 霜を吹き 紅葉鮮やかなり
月剪風裁景千段 月が剪り風が裁ちて 景千段
錦波山色勝春姸 錦波の山色 春妍より勝る
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
山村散策故郷天 山村散策 故郷の天
爽快桂香盈徑辺 爽快たる桂香 径辺に盈つ
似畫斜陽紅葉寺 画に似たり 斜陽 紅葉の寺
西風弄盡自蒼然 西風 弄し尽くし 自ら蒼然たり
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
蕎花楓葉應霜鮮 蕎花 楓葉 霜に応えて鮮やかなり
白褥繍衾山較然 白褥 繍衾 山較然
故國磐梯秋景好 故国磐梯 秋景好し
爲詩孤客會津天 詩を為す孤客 会津の天
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
一鳴歸鳥故郷天 一鳴の帰鳥 故郷の天
漉t紅楓幾変遷 緑葉 紅楓 幾たび変遷す
遠嶺雲懸畫中景 遠嶺雲懸かり 画中の景
孤眠蟲韻靜如禪 孤り眠れば 虫韻 静かなること禅の如し
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
萬物已隨風露遷 万物已に風露に随ひて遷る
頂紅裾翠滿山姸 頂は紅 裾は翠 満山妍なり
冬庭叢草無人掃 冬庭 叢草 人掃ふ無く
喞喞寒蛬蕭索纏 喞喞(そくそく)たる寒蛬 蕭索纏ふ
(下平声「一先」の押韻)
[中秋無月]
孤村山色彩紅姸 孤村の山色 彩紅妍なり
秋穀垂頭滿目田 秋穀 頭を垂る 満目の田
雲蔽東空月暉僾 雲蔽ひて 東空 月暉僾かなり
蕭蕭風起一涼傳 蕭蕭 風起こりて 一涼伝ふ
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光]
斷雲孤雁夕陽天 断雲 孤雁 夕陽の天
閑歩西郊古寺邉 閑歩す 西郊 古寺の辺
滿地無音紅葉散 満地 音無く 紅葉の散る
鬱蒼苔徑獨蕭然 鬱蒼たる苔径 独り蕭然
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 一]
馥郁桂香山寺前 馥郁たる桂香 山寺の前
幽溪水響隔林傳 幽溪の水響 林を隔てて伝ふ
午風飄逸誘孤客 午風は飄逸 孤客を誘ひ
滿地深秋紅葉鮮 満地 深秋 紅葉鮮たり
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 二]
一日曳筇郊野邉 一日筇を曳く 郊野の辺り
遠山紅葉映晴天 遠山の紅葉 晴天に映ず
風時饒舌秋穣報 風は時に饒舌 秋穣の報
百雀千吟舞甫田 百雀 千吟 甫田に舞ふ
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 (十三夜月)]
秋氣滂沱凝水邉 秋気 滂沱として 水邉に凝り
十三夜月影陶然 十三夜の月 影は陶然
晩風高閣樓臺上 晩風 高閣 楼台の上
孤客望郷歸雁連 孤客 望郷 帰雁連なる
(下平声「一先」の押韻)
[秋山風光 (秋雨愁懷)]
風雨縦横暮色玄 風雨縦横 暮色玄し
萬枝揺落葉翩翩 万枝揺落 葉は翩翩
枯苔古徑絶人跡 枯苔の古径 人跡を絶ち
裂帛猿聲山寂然 裂帛の猿声 山寂然
(下平声「一先」の押韻)