第1回 世界漢詩同好会総会(二〇〇四年三月十四日)

 『世界漢詩同好会』の第一回総会は、三月十四日に開かれました。
 詩題(今回は『春分』)と押韻(今回は「上平声一東」)として、その日までに各国の幹事サイトに投稿された詩を交流し合うものです。

 日本では、この『漢詩を創ろう』のサイトが幹事となり、皆さんの交流詩を集約、掲載します。



 日本からの参加詩十六首、作者の年齢順に紹介します。
*は追加二首です。



[1]
投稿者 藤原崎陽 

苔蘚禪宮訪遠公   苔蘚の禪宮に遠公を訪ね

幽庭晝寂気融融   幽庭晝寂として 気融融たり

冑山秀色青嵐裡   冑山の秀色 青嵐の裡

仁水晴光淡霞中   仁水の晴光 淡霞の中

谷暖春分鶯語滑   谷暖かく春分 鶯語滑かなり

花明麗日醉容紅   花明かに麗日 醉容紅し

傾瓢遊客高吟去   瓢を傾けし遊客 高吟して去り

散策怡顔曳履風   散策顔を怡ばす 履を曳せし風







[2]
投稿者 岡田嘉崇 

漸動春陽萌草叢   漸く春陽は動いて 草叢萌し

雪消雲散麗蒼穹   雪消え雲散じて 蒼穹麗かなり

恵風野水催新緑   恵風野水 新緑を催す

櫻蕾梅花舒嫩紅   櫻蕾梅花 嫩紅を舒ぶ

送属黄泉懷不尽   属を黄泉に送りて 懷尽きず

弔霊青冢憾何窮   霊を青冢に弔いて 憾何んぞ窮まらん

時尋祖廟呑涕涙   時に祖廟を尋ては 涕涙を呑み

念仏焚香今尚同   仏を念じ香を焚いて 今も尚ほ同じ







[3]
投稿者 緑風 

  春日遊行

娟紅紫白座春風   娟紅紫白 春風に座す

鳥語喈喈楽未終   鳥語喈喈 楽未だ終わらず

物我相忘只漫歩   物我相忘れ 只漫歩

朝倉公苑暮鐘中   朝倉公苑 暮鐘の中

<解説>

 昨年の桜花爛漫の日、近くの南宮大社、朝倉寺付近を散策した時に作詩したものを少し手直ししたものです。
 春うららかな静かな日で、ひとりのんびりと自然の中を散歩しながら桜を眺めたり、小鳥の鳴き声を聞いたり、本当に楽しい一日でした。







[4]
投稿者 謝斧 

火炉炙手怯寒翁   火炉手を炙りし 寒に怯し翁

病骨偏怡春洩融   病骨偏えに怡ぶ 春洩融すを

氷解雪消逢彼岸   氷解け雪は消えて 彼岸に逢い

花開草動洽東風   花開き草は動いて 東風洽し

慕親陟岵児心悼   親を慕い岵に陟て 児心悼み

展墓焼香往事空   墓を展べ香を焼いて往事空しい

此日無端懐旧切   此日端無くも 旧を懐うこと切に

獨添微醉欷歔中   獨り微醉を添える 欷歔の中







[5]
投稿者 佐竹丹鳳 

花発鳥鳴春正融   花発き鳥は鳴いて 春正に融く

閑行陟岵遍東風   閑行し岵に陟れば東風遍し

年年華髪如先妣   年年 華髪先妣の如し

慮澹猶留此岸中   慮澹 猶留む此岸中







[6]
投稿者 鮟鱇 

梅散櫻雲涌,   梅散って櫻雲涌き,

春酣鳥語工。   春 酣(たけなわ)にして鳥語工なり。

賣花青眼嫗,   花を売る青眼の嫗,

掃墓白頭翁。   墓を掃く白頭の翁。

亡父留遺誡,   亡父は遺誡を留めたり,

醉生無盛功。   醉生に盛功なしと。

門前敲酒戸,   門前 酒戸を敲き,

笑語墨江東。   笑語す 墨江の東。


 「掃墓」:在日本春分是掃墓的時令。
 「墨江東」:墨江是“墨田川”,穿日本東京南流下的河川。我家的墓地在“墨田川”的東方。

<解説>

 お彼岸に亡き父の墓参りをして帰りに一杯、という詩です。

「掃墓」:墓参りのこと
「青眼」:歓迎の目つき
「醉生」:酔ったように生きること。「酔生夢死」という成語がある。
「門前」:寺の門前。
「酒戸」:酒店、酒肆に同じ。






[7]
投稿者 真瑞庵 
  春日即事

江村山野淡煙籠   江村ノ山野 淡煙籠メ

翠麦黄花禽語充   翠麦 黄花 禽語充ツ

春日遅遅無一事   春日遅遅トシテ 一事無ク

喫茶時憩白頭翁   茶ヲ喫シテ 時ニ憩ウ 白頭翁







[8]
投稿者 真瑞庵 

[春遊書懐]

冬去曾江古度東   冬は去る 曾江古度の東

委閑独杖鬢霜翁   閑に委せて 独り杖する 鬢霜の翁

返光門柳垂枝翠   光を返す 門柳 垂枝の翠

映水堤桜蓓蕾紅   水に映ず 堤桜 蓓蕾の紅

天角遙聞雲鳥囀   天角 遙に聞く雲鳥の囀

圃畦嬉看麦芒豊   圃畦 嬉び看る麦芒の豊

四方物候蘇生季   四方の物候 蘇生の季

老邁奈何胸裡空   老邁 奈何せん 胸裡の空

<解説>

 春と言う季節は歳を取ると共に物憂きを感じます。気力、体力の衰えは知らず知らずの内に春の芽生えの力強さ、美しさを拒み、それ以上に恐れさえ感じてしまいます。
 あぁ…… 歳は取りたくない物です。







*[9]
投稿者   揚田苔菴 

[春分偶成]

郷園新柳靡輕風   郷園の新柳 軽風になび

細草平田淡靄中   細草の平田 淡靄の中

春水盈盈彌四澤   春水 盈盈として 四沢にあまね

施肥耕耨學家翁   施肥と耕耨 家翁に学ばん







*[10] 投稿者   長岡瀬風 

[春分 江頭探春]

三月朝朝和気熏   三月朝朝 和気熏じ

閑人乘興到江濆   閑人興に乘じて 江濆に到る

潮來春水此連海   潮來って春水 此に海に連なり

雨霽長天已散雲   雨霽れて長天 已に雲は散ず

鴎泛波心常晒日   鴎は波心に泛んで 常に日を晒し

魚跳芦岸忽生紋   魚は芦岸に跳ねて 忽ち紋を生じ

何須曝背南軒下   何ぞ須ん背を曝す 南軒の下

漸覚東風洗俗氛   漸く覚ゆ東風 俗氛を洗うを






[11]
投稿者 桐山 

嫩柳柔条習習風   嫩柳 柔条 習習の風

桃花未発草香空   桃花未だ発かず 草香空し

徐行堤堰詩心動   徐ろに堤堰を行けば 詩心は動き

古渡春光水欲窮   古渡の春光 水窮まらんと欲す







[12]
投稿者 海山人 

日月能凌昼夜通   日月能く凌いで 昼夜通じ

誰論黒白渡船中   誰か黒白を論ぜむ 渡船の中

山河万里桃花尽   山河万里 桃花尽き[る処]

世事忘帰入大空   世事帰するを忘れて大空に入る






[13]
投稿者 ニャース 

城里来春信   城里春信来たりて、

花馨混夜風   花馨夜風に混じる。

回頭尋發処   頭を回らし發する処を尋ねれば、

楼上月朧朧   楼上の月は朧朧たり。

<解説>

 鎌倉から都会に引っ越して、春を迎えました。
 鳥の鳴き声、花の香り、鎌倉に比べれば、春の便りは、物足りませんが、それでも風の温かさで春を感じることはできます。







[14]
投稿者 ニャース 

北国春難解   北国の春解し難く、

花開尚冷風   花開けども尚風は冷たし。

寒雲如不散   寒雲もし散じざれば、

降雪落梅中   雪は落梅の中に降る。

<解説>

 先週 三陸に出張で行きました。花は咲いてても、まだ寒く、雪がかなり降っていました。
その風景をどうしても詠みたく、背伸びして作詩しました。







[15]
投稿者 観水 

帝將來積水東   青帝 将に来らんとす 積水の東

千山帶翠百花紅   千山 翠を帯びて 百花紅

西方騷客君知否   西方の騒客 君知るや否や

欲寄詩心萬里風   詩心 寄せんと欲す 万里の風








[16]
投稿者 舜隱 

  春假歸ク

兩歳衿在客中 하니   

餘寒乘假及東風 이라   

倉庚遷向岐山麓 이요   

玄鳥歸與曲阜宮 이라   

信歩未由衣錦路 나   

攜書竊想絶韋功 이라   

拂塵故案窗邊坐 하니   

牆角C香他日同 이라   


両歳青衿客中に在り
余寒に仮と東風とに乗ず
倉庚は遷る 岐山の麓
玄鳥は帰らん 曲阜の宮
歩みに信せて未だ衣錦の路に由らざるも
書を携へて窃かに絶韋の功を想ふ
故案に塵を払つて 窓辺に坐せば
牆角の清香 他日に同じ

<解説>

 舜隱、岐阜人也。
 岐阜是美濃州キ、嘗稱井口。明嘉時、有齋藤道三者、鬻油爲生計、善槍能以穿錢孔、爲美濃州刺史土岐氏所寵用、乃逐之、遂主美濃、自語曰、「制美濃者制天下。」
 後、道三爲其子義龍所弑、及義龍子龍興襲封、道三婿尾張州(愛知縣西部)主織田信長攻之拔井口、欲以定霸業礎、以其名鄙、因由岐山曲阜取其半、命稱岐阜。故曰、「此地、王道之本、與聖人之美、キ具焉!!!」 f^-^;;


<詩의 韓國語譯>

학생으로 객지에서 생활을 시작한 2 년이 지났는데,
겨울 추위가 남는 봄날 방학과 바람을 타고 돌아 왔다.
꾀꼬리는 岐山 가슭으로 옮겨지고,
제비는 曲阜 집으로 돌아오리라고 한다.
이번에는 훌쩍 돌아왔을 뿐이니 '금의환향'이라 수는 없지만,
공부하려고 책을 가지고 왔으니 은근히 '韋編三絶' 생각한다.
이전에 쓰던 책상 위에 쌓인 먼지를 털고 창가에 앉으면,
구석의 매화 향기는 그대로이다.

(한국 여러분께,
 
한국에서 출판된 한시 책을 참고로 懸吐 보았습니다만, 틀린 부분이 있으면 고쳐 주시면 고맙겠습니다.)

 鈴木先生、
 今年も高校入試の時期となりましたが、ご多忙な中の投稿、失礼致します。
 私も大学生活を始めてから、何時の間にやら二度目の春休を迎え、いよいよ後半戦へと差掛ることとなってしまいました。

 扨、この度は「世界漢詩同好會」の第一回交流詩として投稿させていただきましたが、其の関係で今回の詩には韓国語訳も附けてみました。又、詩の各句の最後にもハングルで一・二文字附いておりますが、これは「吐(ト)」又は「口訣」と云う、日本語の送り仮名に当るものです。

 ところで、「世界漢詩同好會」には私も是非とも参加させて頂きたく存じますが、入会に際しては何か特別な手続きが必要なのでしょうか?


 同好会への参加では、特別な手続きは必要ありません。この「漢詩を創ろう」のサイトに投稿経験のある方が交流詩を送って下されば、自動的に会員となります。
 交流詩で初めて投稿される方も、その段階で会員となります。 (桐山堂)