2024年の投稿詩 第151作は『桐山堂詩會』参加詩から F・U さんの作品です。
 

作品番号 2024-151

  重陽看菊        

秋入衣襟涼氣嘉   秋は衣襟に入り 涼気嘉く

庭除澹澹夕陽斜   庭除 澹澹 夕陽斜めなり

重陽又看籬邊菊   重陽 又看る 離辺の菊

灑灑冷香幽趣賖   蕭灑 冷香 幽趣賖(なが)し

          (下平声「六麻」の押韻)


























 2024年の投稿詩 第152作は『桐山堂詩會』参加詩から 香裕 さんの作品です。
 

作品番号 2024-152

  菊        

陋村細徑發黃花   閑居の細径に黄花発く

芳艷C香懷故家   芳艶 清香 故家を懐ふ

孤雁暮雲千里遠   孤雁 暮雲 千里遠く

重陽佳節獨烹茶   重陽の佳節 独り茶を烹る

          (下平声「六麻」の押韻)


























 2024年の投稿詩 第153作は『桐山堂詩會』参加詩から 常春 さんの作品です。
 

作品番号 2024-153

  秋菊        

炎炎殘暑是寒露   炎炎たる残暑 是れ寒露

禾穂滿叢餘力誇   禾穂 叢に満ち 余力誇る

栗綻柿紅多彩色   栗綻び 柿紅く 多彩の色

重陽那處未黃花   重陽 那れの処 黄花未だし

          (下平声「六麻」の押韻)


























 2024年の投稿詩 第154作は『桐山堂詩會』参加詩から 柳村 さんの作品です。
 

作品番号 2024-154

  觀菊        

偶訪西郊故友家   偶ま訪ふ 西郊 故友の家

小庭C楚又豪奢   幽庭は清楚 又た豪奢

黃黃白白籬邊菊   黄黄 白白 籬辺の菊

脈脈芳香秋氣加   脈脈たる芳香 秋気加はる

          (下平声「六麻」の押韻)


























 2024年の投稿詩 第155作は『桐山堂詩會』参加詩から 柳村 さんの作品です。
 

作品番号 2024-155

  菊花展        

陳列菊盆佳興長   陳列の百株 佳興長し

傲霜浥露放幽香   霜に傲り 露に浥ひ 幽香を放つ

栽培半歳秀花展   栽培 半歳 秀花展

萬態千姿誇麗粧   万態 千姿 麗粧を誇る

          (下平声「七陽」の押韻)


























 2024年の投稿詩 第156作は『桐山堂詩會』参加詩から 擔雪 さんの作品です。
 

作品番号 2024-156

  重陽        

庭際東籬白菊花   庭際 東籬 白菊の花

C香馥郁野人家   清香 馥郁 野人の家

猶殘暑氣難忘苦   猶ほ残る 暑気 苦を忘れ難し

遠望高天秋色嘉   遠く望む 高天 秋色嘉し

          (下平声「六麻」の押韻)


























 2024年の投稿詩 第157作は『桐山堂詩會』参加詩から 擔雪 さんの作品です。
 

作品番号 2024-157

  觀菊        

九月山村野老家   九月 山村 野老の家

芳庭籬落白黃花   芳庭 籬落 白黄の花

重陽正是好時節   重陽 正に是れ 時節佳し

向晩朋僚酒當茶   向晩 朋僚 酒 茶に当つ

          (下平声「六麻」の押韻)


























 2024年の投稿詩 第158作は『桐山堂詩會』参加詩から 道佳 さんの作品です。
 

作品番号 2024-158

  萬物齊同之命     万物斉同の命   

異常四季變開花   異常な四季 変る開花

危険生靈猛暑牙   危険なる生霊 猛暑の牙

一將功多枯萬骨   一将功なりて多に 枯れん万骨

即今憲法知能遮   即今 憲法の知能で遮らん

          (下平声「六麻」の押韻)


 百日紅が七月からひと月早く咲き、彼岸花が一〇月に彩る。
 草花の開花の時期がまったく狂ってきています。
 「命の危険」と気象予報で、猛暑を警告。
 全てのものは、同じなのに。まさに一握りの人達による儲け第一主義、止まない戦争で、万物が危機が迫っています。
 いまこそ、こうした暴挙を止めさせなくては、憲法の知能で!


























 2024年の投稿詩 第159作は『桐山堂詩會』参加詩から 桐山人 さんの作品です。
 

作品番号 2024-159

  菊花        

幽庭一縷冷香加   幽庭 一縷の冷香加はる

破曉傲霜黃蕊花   破暁 霜に傲る 黄蕊の花

百草秋衰人亦老   百草 秋に衰へ 人も亦た老ゆ

C光獨占菊將誇   清光を獨り占めて 菊将に誇る

          (下平声「六麻」の押韻)


 冬菊のまとふはおのがひかりのみ   水原秋桜子























 2024年の投稿詩 第160作は 観水 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-160

  岩井懷古        

馬上兜鍪野髑髏   馬上の兜鍪 野の髑髏

承平一破戰雲流   承平 一たび破れて 戦雲流る

當年覇業今何處   当年の覇業 今何れの処ぞ

只見夕陽刀水浮   只見る 夕陽の刀水に浮かぶを

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

  下總國岩井傳是平將門公終焉之地也
  下総国岩井、伝ふ是れ平将門公終焉の地なりと

 カブト煌く騎馬の上 ドクロ転がる草の陰
 太平無事の世は終わり 戦乱の気が立ち籠める
 つわものどもが夢の跡 今はいったいどこにある
 坂東分つ利根川に 沈む夕陽が浮かぶだけ


<感想>

 平将門は随分昔の大河ドラマの主役、草原を馬で走り回る加藤剛さんの姿を覚えていますし、「平将門」という人物について詳しく知るきっかけを与えられました。
 愛知県に居ては、平将門の名前は普段目にすることはありませんから。

 起句の句中対、「兜鍪」「髑髏」の対が戦乱の時代を象徴し、次の「承平」「戰雲」の対比も話の明快さが出てますね。

 後半は歴史を語るオーソドックスな展開ですが、利根川の古名で使われた「刀」が、起句の「兜鍪」と照応して、全体がうまくまとまっていると思います。



2024.12. 8                 by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第161作は 観水 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-161

  縁起達磨        

一目瞭然千里明   一目瞭然 千里明らかにして

雖無手脚溢丹誠   手脚 無しと雖も 丹誠溢る

矮軀自在轉還起   矮躯 自在にして 転じて還た起き

日日偏期完點睛   日日 偏へに期す 点睛の完きを

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 「一目瞭然!」片目でも 千里の果てまで見通して
 手も足も出ぬと言いながら 真心いっぱいあふれそう
 小さなからだで何度でも 転んでもまた起き上がり
 両目に墨が入る日を 今日か明日かと待っている


<感想>

 こちらの詩はダルマですので、岩井から群馬県の高崎に旅行されたのかな。

 起句の「一目」は「一目瞭然」の「一目」、つまり「ちょっと見る」の意味とダルマの「片目」であることを掛けているのですね。
 というよりも、そこにこそ、まずは作詩のきっかけがあったのかな。
 「千里」もピッタリの対応していますので、これだけで画賛になりそうな一句です。

 となると、その後の話が難しいところですが、姿形、七転び八起きの動作、願いが成就して両目になる風習などと観点を変えてますね。
 そして、やや大げさな表現もユーモラスなダルマの姿を表すように、工夫されていると思いますよ。
 詩を楽しんでいるお気持ちが伝わって来るようですね。



2024.12. 8                 by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第162作は 擔雪 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-162

  祝平和賞受賞        

被爆眞情六八年   被爆 真情 六八年

爛焦地獄震驚然   爛焦 地獄 震驚然り

永懷更願三原則   永懐 更に願ふ 三原則

快報忽來稱贊連   快報 忽ち来たり 称賛連なる

          (下平声「一先」の押韻)


<感想>

 今年のノーベル平和賞が発表され、日本の被爆者の団体が受賞しました。
 そのことに対して、静岡の教室でお二人が作詩されていましたので、紹介しました。
 現代のタイムリーな出来事は、漢詩ではなかなか作りにくいところですが、しっかり取り組んでおられました。



2024.12. 8                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第163作は 常春 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-163

  讃諾貝爾平和賞        

結成被團協     結成 被団協

訴求非核萬邦聯   非核を訴え求め 万邦に聯なる

連綿七十年     連綿 七十年


廣島長崎血     広島長崎の血

屍死累累閃爍熱   屍死累々 閃爍の熱にて

黒雨滿身穴     黒雨 満身に穴(ウガ)つ


水爆環礁閃     水爆 環礁に閃き

操業漁船深刻冤   操業の漁船 深刻なる冤(うら)み

不撓敢心魂     撓まず心魂敢えてす

    (漢俳 「聯・年」「熱・穴」「冤・魂」… 下平声一先・入声九屑・上平声十三元の押韻)


<解説>

 今年 第五福竜丸の水爆禍七十年になります。
 漢俳三聯は、漢俳提唱者、趙樸初に見られます。
 (作者注)

<感想>

 こちらは、五言・七言・五言の漢俳で書かれたもの。
 解説に書かれたように、換韻された三つの聯による連作です。



2024.12. 8                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第164作は長野県にお住まいの 凱拉 さん、20代の男性の方からの初めての投稿作品です。
 

作品番号 2024-164

  釋甲      甲(よろひ)を釈(と)く  

風馳戰陣幾春秋   戦陣を風馳すること 幾春秋

交有輸贏戚及休   交(こもごも)輸贏(しゆえい)有り 戚(うれ)ひ及び休(さいは)ひ

白水滌躬殷血落   白水に躬(み)を滌(あら)へば 殷血(あんけつ)落つ

訣軍過久忘恩讐   軍(いくさ)と訣(わか)れ久しきを過ぐれば 恩讐を忘れむ

          (下平声「十一尤」の押韻)


「輸贏」:勝ち負け。「輸」は負けること、「贏」は勝つこと。
「殷血」:赤黒い血。「いんけつ」と読んでいる辞典もあるが、熟語としての意味から考えると「あんけつ」の読みが適切と思われる。
<解説>

 戦場を風のように駆け抜けることは、もう何年にもなった。
 勝つことも負けることもあったし、悲しいことも喜ばしいこともあった。
 清らかな水で自分の体を洗うと、赤黒い血の汚れが落ちていく。
 戦争と決別してから長い時間が過ぎれば、かつての かたき も忘れてしまうだろう。
 長年にわたり戦場に身を置いてきた軍人が、区切りを付けて退役する情景をうたった詩です。

<感想>

 漢詩をお作りになって一年ほど、とのことですが、平仄などもよく調べてお作りになっていると思います。
 転句の「殷」は色々な意味を持ち、それに応じて韻が変わるという他韻字です。
 「盛んに」「大きい」の時は「上平声十二文」、雷の音などに使う時は「上声十二吻」、この詩の場合のように「赤(黒)い」という意味の時は「上平声十五刪」韻になります。その際の発音は「アン」ということですので、ご指摘の通り、「あん」と読むべきですね。

 前半は、戦場を駆け回っていたかつての場面、ここはきれいに仕上がっていると思います。「休」の字が「幸い」の意味というのも、なかなか難しいところですので、これも勉強の成果ですね。

 転句から「退役」の場面になれば、展開もすっきりしますが、ここは「殷血」が生々しく、まだ戦場に居るようですね。そうなると、結句が唐突になって浮いてしまいますので、転句は軍を退くことを出しておきたいところ。
 下三字を「除銹血」で引退という感じになりませんかね。



2024.12.21                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第165作は 令樹 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-165

  級友会雑詠        

新墾丘降過幾春   新墾(にいはり)の丘降りて幾春を過ぐ

叙舊懷乾坤忽巡   舊懷を叙すれば 乾坤忽ち巡りて

談論及未成夢想   談論は未だ成さざりし夢想に及び

猶斉欣求窮極眞   猶ほ斉(ひと)しく欣求(と)むるは窮極の眞

          (上平声「十一真」の押韻)


<解説>

「新墾丘」: 昔都心から移転した由来からの我が学窓の意。
「乾坤」: 会えば直ぐにあの頃の世界に戻ってしまうのつもりで使いました。
「窮極の」: 主任教授の著書「法の窮極に在るもの」を意識。

 全体の下地に、愛唱の寮歌があり、その歌詞に、「新墾の此の丘」「緑なす眞理欣求(と)めつつ」といった文言があり、それにこだわりました。

<感想>

 旧制一高の寮歌を下敷きにしての詩ですね。
 ただ、漢詩の場合には、七言句は基本的に「二字・二字・三字」の切れ目(リズム)で読むのが通例で、それが崩れている場合には違和感が残ります。
 今回の詩では、承句と転句のリズムが崩れていますが、出来れば整えたいところ、特に漢詩に普段触れていない人が読むような場合には配慮の意味でもリズムは整えたいですね。

 平仄の点では、前半は「二四不同」「二六対」は良いですが、「反法」の関係で承句の二字目は平声でないといけませんね。
 第三句は六字目を平字に、第四句は二字目を仄字にしないといけません。
 その辺りを修正して、語句を入れ替え、修正してみますと、

  新墾丘降過幾春  新墾の丘降りて幾春を過ぐ
  往時共語舊懷巡  往時 共に語れば 旧懐巡る
  談論忽及未成夢  談論は忽ち未だ成さざる夢に及び
  猶唱欣求窮極眞  猶ほ唱ふ 欣求めし窮極の真

 冒頭の「新」は本来は「上平声十一真」に属する字ですので、冒韻と言って漢詩では禁忌とされますが、今回の場合は固有名詞ということで許してもらいましょう。

 級友会の詩ですので、仲間にしか分からない言葉でも、それが思い出を深めるものですから、どんどん入れても構いませんね。



2024.12.21                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第166作は 茜峰 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-166

  信愛弟無辜挑権力讃姉     愛弟の無辜を信じ権力に挑んだ姉   

噴悶悲傷秘破顔   噴悶 悲傷 破顔に秘め

精強心骨挑辛艱   精強の心骨 辛艱に挑む

病魔愛弟信無垢   病魔の愛弟の無垢を信じ

再現自由歓喜寰   再現す 自由 歓喜の寰(せかい)

          (上平声「十五刪」の押韻)


<解説>

 58年間の辛酸をなめさせられた袴田事件。
 袴田巌さんのお姉さんの行動に感動して創りました。
 弟さんの無辜を信じて、心身ともに強い姿で立ち向かわれ やっと自由と手に入れられました。
 残りの人生を、存分に楽しんでほしいと思います。

<感想>

 袴田事件の解決は本当に大きな出来事でした。
 無罪を確認するのに58年の歳月はあまりにも長く、過酷だったと思います。
 ご本人もお姉さんも、これからは自由になった生活、時計がようやく動き始めたという思いでしょうね。

 題名については、「讃」が一番前に来るようにしましょう。
  (詩題索引の方は直させていただきました)

 転句も語順がやや気になります。
 「病魔愛弟」までは良いですが、そうなると句としてはこれが主語になりますね。
 袴田さんが自分の「無垢を信じた」というのはおかしいので、「病魔愛弟正無垢」とか「病魔愛弟得無罪」として、お姉さんの視点から少し離れますがいかがでしょう。



2024.12.21                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第167作は 国士 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-167

  佛法講習會        

今夜沈沈訪梵宮   今夜 沈沈として梵宮を訪ぬ

院閑粛粛暗香中   院は閑かに粛粛と暗香の中

寺僧説法才情賦   寺僧 法を説き 才情を賦し

座客随縁興味同   座客 縁に随ひ 興味同じくす

各自新生作習慣   各自 新生の習慣と作し

住持旧態繋遺風   住持 旧態の遺風を繋ぐ

門人偏愛琳空館   門人 偏に愛す琳空館

佛祖由来聽不窮   仏祖の由来 聴けども窮まらず

          (上平声「一東」の押韻)


<解説>

 今晩、夜がゆっくり沈みゆき、お寺を訪れる
 寺院は静かで厳かな雰囲気があり、堂内にはほのかな香りがある
 住職から仏の教えを受け、やさしい心を養っている
 座席の客人たちは、今日のご縁に従って打ち解け、仏の面白味を同じくする
 おのおので、仏教を学び始めた者のならわしをつくりあげていて
 住職は先祖代々の遺風も受けつないでおられる
 門下生は慶集寺琳空館にひたすら親しみ
 釈迦のいわれを住職から聴いても尽きるところがない


<感想>

 お返事が遅くなり、済みません。

 七言律詩ですので、まずは対句の構成ですね。
 頷聯は問題無く整っていると思います。下三字はどちらも倒置になっていますが、これは読み取れる範囲です。

 頸聯は、句自体にまず無理がありますね。
 上句(第五句)では「新生」「習慣」に対する連体修飾語には読めないです。  これは「作」の位置が違うからで、本来は「各自作新生習慣」となるところ。
 現行では読むとすれば「各自新生し習慣を作す」という形になります。
 下句(第六句)も同様で、これも「住持旧態にして遺風を繋ぐ」という形です。

 対句の対応で見ても、「各自」「住持」が悪いです。
 ひとまず合わせるなら「各自求新作習慣 萬事依舊繋遺風」など。

 この聯は、「新生の習慣」「旧態遺風」など、言葉自体が何を表そうとしているのか意味がすっきりしませんし、「座客」「各自」「寺僧」「住持」は同じ主語を言い換えているだけですので、頸聯と頷聯の違いが感じられません。
 頷聯とは違う視点から頸聯を組み立てたいところ、夜の講習会ですので周りの景色なども出しにくく、観念的な内容になりがちです。
 それでも具体的に見える物を描くようにして行くと臨場感も増すと思います。





2024.12.25                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第168作は中国浙江省の 域培 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-168

  他鄕遇舊事品飲所懷        

寂寂北城幽,   

瀟瀟海國秋。   

故人沾客雨,   

歸路向他樓。   

幾夜空追記,   

一杯舊同遊。   

連朝爭品飲,   

茶乳近杭州。   

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 猶記浣紗河前,巷口街左,小鋪在焉。
 凡夜遊經處,毎毎必見。游畢飲後,夜興方盡。凡見此鋪,則家路近矣。
 此後去杭漸遠,不復常見,今已不知尤在否。
 是日業興邁洋,傳聞所之,計須叩問糴飲,以憶鄕情。
 觀單目,問品類,告諸鋪前者,已十年矣,而景猶在目。
 是以今仍求同杯,其味無改。

<感想>

 掲載が遅くなり、すみません。

 「茶乳」、ミルクティーに象徴されるかつての思い出、というところでしょうか。

 首聯はせっかくですので、「幽」「陬」「頭」などの場所を表す言葉にすると、対句が確実なものになりますね。
 この聯は書き出しとして印象的ですね。

 頷聯は友人との別れの場面、「客雨」の語が寂寥感を出していると思います。

 頸聯からは、思い出しているところ、第六句は下三字の平仄が合いませんので、「同舊遊」の語順でしょう。

 最後の句は「このミルクティーは杭州で飲んだものに近い味だ」ということでしょうね。



2024.12.28                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第169作は 域培 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-169

  見友天燈所懷隨筆        

明滅天燈夜,   

浮沈河漢深。   

燭幽吹月上,   

爐暖照仙箴。   

丹火人將唱,   

流光意始斟。   

暖星紫天遍,   

此處不蕭森。   

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 舊友帖文記放孔明燈事,紫夜氊下,暖燈如星,可憐甚矣。
 親朋班側,暖燈行空;篝火歌盡,喜樂極矣。
 其記文曰:『吾其灼灼,俟之在明。焔其躍躍,亘古兮同』
 嗚呼,燧人氏之薪,帝武丁之祭,火其載之;白樂天之宴,李茶陵之會,焔其樂之。同古今者,非火其誰?
 哲奧如此,豈不成詩和之?此詩遂成。

<感想>

 天燈祭に私は参加したことはありませんが、ニュースなどで見ると、鮮やかな行灯が空に舞い上がる様子は幻想的で、その場に居たら感動でしょうね。

 こちらの詩は対句も分かりやすくなっていますが、「暖」の字が第四句と第七句に重複しています。
 どちらかが書き間違いでしょうかね。



2024.12.28                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第170作は 東山 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-170

  國花閑谷學校        

備前聞道國華存   備前 聞くならく国華存りと

遺制遺風是至恩   遺制遺風 是れ至恩

秋祭獻詩酬聖哲   秋祭 詩を献じて聖哲に酬ひ

村醪留客足鶏豚   村醪 客を留めて鶏豚足る

九皐仙鶴一聲貴   九皐の仙鶴 一声貴く

萬世倫常五典尊   万世の倫常 五典尊し

美哉泮宮~彩景   美なるかな 泮宮神彩の景

丕承丕績繼昆孫   丕承丕績 昆孫に継がむ

          (上平声「十三元」の押韻)


<解説>

 ネットで閑谷学校HPを見て作る

<感想>

 閑谷学校の釋菜に際して、お作りになった詩とのこと。

 よく調べておられるし、お気持ちも籠もっていると思いました。
 七言律詩の詩型を選ばれたことで、情報量と表現がよくマッチしていますね。



2024.12.28                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第171作は 東山 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-171

  訪引揚港有感        

昔聞征戦艨艟譽   昔聞く艨艟 征戦の誉れ

今見平和畫舫輝   今見る平和 画舫の輝き

憐愍嘗斯敗亡港   憐愍たり 嘗て斯れ 敗亡の港

永傷萬骨不能歸   永に傷む 万骨の帰る能はざるを

          (上平声「五微」の押韻)


<解説>

 引揚げ港を訪ねて感有り

 出身地の佐世保港の奥、西海橋の近くに引揚港がありました。

<感想>

 起句の「譽」は平仄両用、この場合には仄用、つまり「踏み落とし」ですね。
 この句は、いただいた読み下しのような「征戦の誉れ」はちょっと苦しいです。
 「昔聞く 征戦 艨艟の誉れ」と読んで、意味は通じると思いますよ。



2024.12.28                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第172作は 神無月 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-172

  越中海        

雨晴海岸釣舟環   雨晴(あまはらし)海岸に釣舟が還る

遥見連峰天地間   遥かに見る連峰は天地の間

日盛忽然雲涌現   日盛りに忽然として雲涌現し

美猶白雪太刀山   美しきこと猶ほ白雪の太刀山(立山)のごとし

          (上平声「十五刪」の押韻)


<解説>

 今年の夏に高岡の雨晴海岸に行った時の印象を漢詩にしてみました。
 日盛りに湧出した積乱雲を白雪の立山に見立ててみたのですが・・・


<感想>

 起句の末字は読み下しのような「還」(かえる)が正しいでしょうね。

 この起句と承句の関係では、海を見ていると同じ視野に「連峰」が見えたように感じます。
 身体の向きを換えるということならば、承句は「回首遙峰天地間」とするのが良いでしょうね。

 転句は「日盛」で「太陽が盛んに輝く」ということで、季節的に夏(の午後)に限定はしません。
 前半に季節を伝える言葉がありませんので、入れるなら「夏午」が適当でしょう。
 最後は「現」よりも「起」が自然かな?

 結句は、「雲を白雪の立山に見立て」たとのこと、確かに雪の立山は美しいですが、承句にすでに「連峰」が出て来ています。
 現実の立山は夏で雪も無いのでしょうが、その目の前で「白雪の立山は美しい」と言っては、相手を否定するようなニュアンスになります。
 仮に、初夏でまだ雪が残っているのだとすると、二つ同じような物が並んだということで、美しさよりも面白さを表す形になります。

 雲と立山の見立てを重んじるなら承句の「連峰」を削った方が良いし、海岸から見える連峰ということを生かしたいなら結句の比喩が要るかどうか、その辺りを再敲の方向にすると良いと思います。

 題名ですが、「越中海」の割には「海」について書かれていないので、「遊越中(海岸)」「夏天越中行」など、すこし広げる形が良いでしょうね。



2024.12.29                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第173作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-173

  弔弟        

三回彼岸莫添茶   三回の彼岸に茶を添ふるなかれ、

伴母乗妻走汽車   母を伴ひ妻を乗せ 汽車を走らす。

老後大呑先早折   老後 大いに呑んで早折に先んじ、

小時競共食西瓜   小時 競ひ共に西瓜を食らふ。

芒揺短日温陽気   芒は揺れる 短日 温陽の気、

鳥哭高秋墓石花   鳥は哭す 高秋 墓石の花。

夢裏今宵浮月夜   夢裏に今宵 月夜に浮かれ、

猶巡近処正還家   猶近処を巡り 正に家に還らん。

          (下平声「六麻」の押韻)


<解説>

 去年の夏の終わりに急に僕よりもさきにいってしまいました。
 大酒飲みがたたったようです。

<感想>

 順番を違えて先に弟に逝かれるのは辛いことですし、そもそも凌雲さんの弟さんということは、まだまだ年齢もお若いですよね。
 お母様も悲しまれたことと思い、お悔やみ申し上げます。

 一句目の下三字、「莫添茶」というのは「酒にしよう」ということですかね。

 第四句は「共競」の語順が対句には合いますね。

 頸聯は情景が伝わって来る描写になっていると思います。

 尾聯は、弟さんの生前のお姿を思い出しての表現でしょうね。



2024.12.29                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第174作は 河山 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-174

  重陽賞菊        

隠士庭中佳節回   隠士の庭中 佳節回り

秋香漂處擧吟杯   秋香 漂ふ処 吟杯を挙げる

陶公C興黃花酒   陶公の清興 黄花の酒

方是忘憂一醉媒   方に是れ 忘憂の一酔の媒

          (上平声「十灰」の押韻)


<解説>

 隠士の庭は重陽になり、菊の香りが漂う処で、酒杯を挙げる。
 陶淵明の故事に習い、菊を酒に浮かべて飲めば、酔って憂いを忘れさせてくれる。

<感想>

 菊の詩となると、どうしても陶潜の詩を意識しますし、偉大な詩人への敬意を表す意味で、詩語を借りるのも楽しいものです。

 ただ、起句で「隠士」と来ると、それだけでもう陶潜を想定しますので、転句の「陶公」があまり生きてきません。
 「貧士」「窮老」「茅屋」などで作者を出す形でしょうね。

 流れとしては、承句から「吟杯」「黃花酒」「一醉媒」と酒の話が続いて、肝心の「賞菊」は消えてしまってます。
 できれば、菊の花について、もう一言欲しいところですね。



2024.12.30                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第175作は 河山 さんからの作品です。
 

作品番号 2024-175

  山寺観楓        

探楓一路訪禪扉   探楓 一路 禅扉を訪う

満目溪山帶夕暉   満目の渓山 夕暉を帯ぶ

女染出紅萬朶   青女 染め出す紅万朶

錦雲深處醉秋歸   錦雲 深き処 秋に酔って帰る

          (上平声「五微」の押韻)


<解説>

 紅葉を探り山寺を訪れた。
 あたり一面、夕陽に照らされている。
 秋の女神は、木々の枝を赤く染め出し、恰も錦の雲のようだ。
 その中を、紅葉に酔ったかのように帰ってきた。


<感想>

 こちらの詩では、内容を見て行くと、題名の「山寺」、あるいは一句目の「禪扉」の必要性が疑問です。
 ここのお寺のことがもう少し描かれているなら問題無く読めますので、お寺の描写を増やすか、それともこの「禪扉」を削るか、ですね。

 転句の「青女」は「霜を降らせる神」で「霜」そのものを指す言葉、「霜が万朶の木の葉を紅く染める」というのはロマンチックで良いです。
 ただ、この句は四字目が平字でなくてはいけませんので、そこは直してください。



2024.12.30                  by 桐山人
























 2024年の投稿詩 第176作は桐山堂半田の 睟洲 さんの作品です。
 6月までの作詩教室での作品です。
 その折の私の感想も添えます。

作品番号 2024-176

  寒梅(一)        

新春茅屋寂無聲   新春 茅屋 寂として声無し

庭角老梅單朶萠   庭角の老梅 単朶萌(きざ)す

不競毋驕香滿域   競はず 驕らず 香域に満ち

朔風笑咲百花英   朔風 笑咲す 百花の英

          (下平声「八庚」の押韻)


<感想>

 春を迎えたけれど静かな家、そこにひっそりと梅が一枝花を開く。華やいだ場面ではありませんが、存在感のある画面がしっかりと見えます。

「新春」という書き出しが、その後の「寂」を強める効果が出ていますし、「老梅」も永年一緒に生きて来た同志という趣で「老」の字が生き生きとしています。

 転句の「毋」は「不」よりも「無」の意味が近いので、読みとしては「驕る毋く」が本来の形でしょう。
「香滿域」となると、じわじわと梅の香が拡がっていくのは、音楽がだんだんとクライマックスに向かって盛り上がっていくような感じ、結句の「笑咲」は「笑笑」と同じで「花を開く(かせる)」という意味ですので、「百花英」と爛漫の春に向けて一気に高まっていく感覚ですね。
 その場合には「朔風」で良いのかどうか、「東風」の方が「百花英」には合いそうです。

 また、転句までの落ち着いた閑かな趣が一変してしまうのは、ある意味、爆発するような展開で、それもまた良し、という感じですね。静かなままで行くなら「朔風笑殺發紅英」



 by 桐山人(2024.2月教室作品)
























 2024年の投稿詩 第177作は桐山堂半田の 睟洲 さんの作品です。
 6月までの作詩教室での作品です。
 その折の私の感想も添えます。

作品番号 2024-177

  寒梅(二)        

寒光慄烈竹林隈   寒光 慄烈 竹林の隈

早曉南枝清楚開   早暁 南枝 清楚に開く

芳信未臻春尚淺   芳信 未だ臻(いた)らず 春尚ほ浅し

不爭告淑百花魁   争はず 淑(はる)を告ぐ 百花の魁

          (上平声「十灰」の押韻)


<感想>

 こちらは「竹林隈」と来ていますので、次の「南枝」が梅だとすぐに分かるかどうか、「竹林」は場所を表す役割ですので、「小庭」「古園」でどうでしょう。

 承句は「南枝」とまた場所を表す言葉を使うか、「一枝」とするか、もっとはっきりと「梅枝」とするか、選択肢は三つですね。

 結句を見ると、こちらの詩は「百花魁」、梅を表しています。
 となると、「梅枝」は良くないので、全体のバランスを考えると「一枝」が良いですかね。



 by 桐山人(2024.2月教室作品)

























 2024年の投稿詩 第178作は桐山堂半田の 酔竹 さんの作品です。
 6月までの作詩教室での作品です。
 その折の私の感想も添えます。

作品番号 2024-178

  冬日閑居        

茶梅紅豔溢枝枝   茶梅の紅艶 枝枝に溢れ

嬌囀花間繡眼兒   嬌囀 花間 繍眼児

風日晴和茅廡下   風日 晴和 茅廡の下

白頭炙背意舒遲   白頭 炙背 意 舒遅たり

          (上平声「四支」の押韻)


<解説>

 今日此の頃の我が狭庭でののんびりした状況を描いてみました。
 毎年、庭のサザンカが咲くと、多くのメジロが,花密を吸いにやってきます。
 以前から詩にしたかったのですが、メジロは「繍眼鳥」●●●で諦めていましたが、「繍眼児」という言い方があるのが判りやっと詩にしてみました

<感想>

 メジロはあの「チーチヨチーチヨ」(長兵衛忠兵衛長忠兵衛とも)という鳴き声と花の蜜を吸う可愛らしさで、古くから愛されてきた鳥、サザンカ、ウメ、サクラの「はなすい」ですので、結構長い期間目に入るわけです。

 起句で花の様子がしっかり出ていますので、承句で更に「花間」が必要かどうか。
 メジロの描写が「嬌」だけで、ちょっと寂しいですので、上四字分くらいは使ってあげると画面の中心になれるかと思います。

 結句の「舒遲」は「ゆったりと落ち着いた様子」で、のんびりとした姿、上の「炙背」とも組み合わせが良いと思います。



 by 桐山人(2024.2月教室作品)

























 2024年の投稿詩 第179作は桐山堂半田の 酔竹 さんの作品です。
 6月までの作詩教室での作品です。
 その折の私の感想も添えます。

作品番号 2024-179

  繡眼鳥        

茶梅紅豔盛開時   茶梅の紅艶 盛開の時

小集朝餐繡眼兒   朝餐に小集す 繍眼児

移樹歌聲劣黃鳥   移樹の歌声 黄鳥に劣るも

穿花容色似名姫   穿花の容色 名姫の似し

          (上平声「四支」の押韻)


<感想>

 こちらは「繡眼鳥」をメインに置いたものですね。私はこちらの方が好きですね。

 メジロの姿については結句にくるわけですが、「穿花容色」だけでは「似名姫」が今一ピンときません。
 起句の「艷」を持ってきて、見た目の可愛らしさを言葉で描くように「艷衣輕翅」とか、色を使うなら「黃香vなどが入ると良いかと思います。

 戻って、転句の「黃鳥」は「歌聲」だけでなく姿も負けそうな感じがしますので、「鶯鳥」として視覚は加えないようにした方が良いでしょうね。




 by 桐山人(2024.2月教室作品)

























 2024年の投稿詩 第180作は桐山堂半田の 靖芳 さんの作品です。
 6月までの作詩教室での作品です。
 その折の私の感想も添えます。

作品番号 2024-180

  舟行感懐        

截浪單船潮氣香   浪を截る 単船 潮気香し

行人挈室世塵忘   行人 室を挈(たずさ)へ 世塵を忘る

碧波千里到孤島   碧波 千里 孤島に到る

喜色清遊萬壽觴   喜色 清遊 万壽の觴

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 かつて小笠原島へ船旅をしたことを思い出し詠んでみました。

<感想>

 「舟」は古代中国では「船」と同意で、関東(函谷関の東)と関西での表現の違いだったようです。
 しかし、現代の感覚では「舟」は小ぶりの印象を持っていますので、小笠原という外洋まで出かけたとなると「舟行」では小さく感じます。
 題名は「小笠原客行」でどうでしょう。

 起句は船旅の勢いが良く出ています。

 承句の「挈室」は奥様とご一緒に行かれたということですね。

 転句は広がりのある句ですが、「波」が起句の「浪」と同意の言葉ですので、重複感があります。広がりを残したいところでもありますから、「海風千里」でどうでしょうね。

 結句は上四字は分かりますが、最後にどうして「萬壽」になるのか、「萬感」の方がまだ良いですが、「絶景」「絶勝」とか、前の句の修正が必要になりますが「絶世」「絶海」なども考えられます。



 by 桐山人(2024.2月教室作品)