2023年の投稿詩 第211作は桐山堂半田の 酔竹 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-211

  梅雨感懐        

三春歸盡又梅霖   三春帰り尽くして 又梅霖

門巷蕭條午景深   門巷 蕭条 午景深し

無客徒然孤下子   客無く 徒然 孤り子を下せば

棋聲濕卻意逾沈   棋声 湿却 意逾沈

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 結句は懐いを直接表現ぜず「棋聲濕卻響陰陰」のほうがいいでしょうか?

<感想>

 ご質問の結句は、仰る通り、心情を他の物や事で表した方が余韻が生まれますね。
 という方向で、その前の転句に戻ると、ここで「石」を打ってしまうと、結句を導き過ぎる気がしますね。
 「響陰陰」を強く出すためにも、転句を「無客徒然坐茅屋」と抑えて、石そのものは結句まで待つのが良いかと思います。

 前半は梅雨の景、瑕疵があるわけではありませんが、具体的な素材が見当たらないので、どうも観念的な印象です。
 雨の音とか軒端の草木、庭の濡れた石や苔でも良いので、何か拾い上げて書くと具体性が出て来るかと思いますので、推敲の折りにご検討を。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第212作は桐山堂半田の 酔竹 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-212

  花菖蒲園散歩        

衆鳥弄晴清淺池   衆鳥 弄晴 清浅の池

菖蒲發彩競姸姿   菖蒲 發彩 妍姿を競ふ

紅黃紫白眞微妙   紅 黄 紫 白 真に微妙

百媚千嬌歩歩遲   百媚 千嬌 歩歩遅し

          (上平声「四支」の押韻)


<解説>

 花菖蒲は種・色非常に多く(二千種、五千色と言われている)、観比べると飽きない。

<感想>

 菖蒲はそんなに種類があるのですか、ビックリしました。  その美しさをどんな形で描くか、色として転句にどんと並べましたが、ここは大胆で良いですね。  更に形態を描こうということで、「競姸姿」「眞微妙」「百媚千嬌」と並べましたが、「姸姿」と「百媚千嬌」ははっきりとした美しさ、「微妙」は奥深い美しさ、ちょっと系統が違います。  色々な種類があるという意図かもしれませんが、「紅黃紫白」という艶やかさに対して「微妙」はそぐわないですね。花への感情形容語もちょっとしつこい感じがしますので、叙景的な表現で何か入りませんかね。  風とか波とか水とか、そうした物を入れる方向が良いかと思います。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第213作は桐山堂半田の 酔竹 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-213

  七夕        

玉鈎斜月夜迢迢   玉鈎斜月 夜迢迢

織女牽牛麗九霄   織女 牽牛 九霄に麗(なら)ぶ

翁媼談諧茅屋下   翁媼 談諧 茅屋下

天河何處架星橋   天河 何処に 星橋を架せるやと

          (下平声「二蕭」の押韻)


<感想>

 起句の「迢迢」は、七夕では有名な「古詩十九首 十」の冒頭ですね。
 後漢の時代に詠まれた作品ですが、インパクトの強い書き出しで、二千年を経ても色褪せません。

   迢迢牽牛星  迢(ちょう)迢(ちょう)たる牽牛星
   皎皎河漢女  皎(こう)皎(こう)たる河漢の女
   纖纖擢素手  繊繊として素手を擢(あ)げ
   札札弄機杼  札札として機(き)杼(ちょ)を弄す

 承句の「麗」は字義として「鹿の角が二本並んで整っている」ということから、端整な美しさを表す言葉になりました。
 ここは従って「並ぶ」というだけでなく、「二つ並んで美しく輝く」という意味まで含ませた措辞ですね。

 転句は「翁媼」が「仲の良い老夫婦」という感じで、下の「談諧」の「和やかに話す」とも良く呼応していると思います。
 そこで欲が出ますが、二人が居る場所も「茅屋」と家の中よりも、縁台で並んで空を眺めているような光景が睦まじく感じます。
 結句も、二人で話した内容となると七夕らしいロマンチックな雰囲気が出ると思いますよ。ご検討を。

 結句は「何處」が「天の河がどこにある」と読んでしまい、月で見えないのだろうか、と余分な心配をします。
「何處」は会話の雰囲気がありますので大事、冒韻になりますが、「今宵」として「今夜はどこに星橋を架けるのかしら」とするのはどうでしょうね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第214作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-214

  觀燕之巢        

空中亂舞燕巢檐   空中 乱舞 燕檐に巣をつくる

強化搬泥産卵潛   泥を搬び 強化し 産卵し潜(ひそ)む

求餌成長雛絶叫   餌を求め 成長した 雛は絶叫

老翁驚喜擧頭瞻   老翁 驚喜し 頭を挙て瞻る

          (下平声「十四塩」の押韻)


<感想>

 題名の「雀之巣」は「雀巣」で良いです。「虎穴」「我家」と同じです。

 起句の「乱舞」はちょっと派手過ぎませんか、「飛舞」くらいの方が良いでしょうね。

 承句は「強化」がやや荒いですね。順番を少し替えて「産卵搬泥」と句中対にして落ち着かせてから「強化添(そフ)」とするなら流れが良くなります。

 転句は「長」の平仄が違います。「育つ」の意味では仄声になります。
 また、雛の声について元気よくという気持ちでしょうが、「絶叫」では悲鳴を上げているように感じます。
「呢喃」「喃喃」などの定番では嫌ということでしたら、「求餌幼雛聲不斷」とか、新しい形容を探してみましょう。

 結句ですが、「老翁」は起句から、つまり営巣の時から見続けているわけで、「驚喜」は大げさですね。

 今回は「乱舞」「絶叫」「驚喜」と表現が極端なものが多かったですね。
 一つの言葉に執着せずに、もっと他の表現は無いか、と探るようにしていくと良いと思います。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第215作は桐山堂半田の  さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-215

  孟夏之散歩        

樟木青青大路纖   樟木 青青 大路繊(うつく)しい

薔薇倩倩小園霑   薔薇 倩倩(せんせん) 小園霑(うるお)ふ

老翁半袖觀風景   老翁 半袖 風景を観る

芳馥佳花鼻目淹   芳馥 佳花 鼻と目を淹(おお)ふ

          (下平声「十四塩」の押韻)


<感想>

 起句の「纖」は細い糸の意味です。
 そこから派生して「しなやか、たおやか」という意味もありますが、仮に「うつくし」と読んだとしても、その美しさは「か細い物」に対してですので、「大路」に使っては話が合いません。
 「淹」で「おおフ」も良いですが結句に使いますので、「僌」で「しずカ」としましょう。

 承句の「倩」は今で言う「イケメン」を表します。対句もまとまっています。

 転句は「半袖」はどうでしょう、「短袖」と中国では使うようです。
 この「観」は「見」よりも注意深く眺めるというニュアンスで悪くはありませんが、それでも説明的で面白みが無いですね。
 どんな気持ちで観ているのか、を表すように考えると「楽」「喜」「親」「賞」など、色々ありそうですから、選択をしてみるのも良いですね。

 結句は、また「薔薇」に戻ったのでしょうか、前半を対句にしましたので「樟木」と「薔薇」は同等の扱いの筈ですので、結句に再登場なら両方が必要です。
 ここは「初夏涼風」くらいが妥当です。
 その場合には、転句の「風景」を「佳景」「流景」にします。

 逆に、この結句の「鼻目淹」という表現、バラは香りも見た目も素晴らしい、ということを言いたいということでしたら、前半の対句はやめて、例えば承句と転句を入れ替えるような展開が考えられます。
「老翁短袖午晴添 薔薇滿架夏初苑」とすれば「薔薇」が主題の詩になります。





2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第216作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-216

  憂鬱        

連連鬱鬱嘆梅霖   連連 鬱鬱 梅霖を嘆く

腰痛發生精氣湛   腰痛 発生 精気は湛(しず)む

不燥浣衣紜室内   浣衣 不燥 室内紜る

暑中雨濕耐方今   暑中 雨湿 方今耐ふ

          (下平声「十二侵」の押韻)


<感想>

 起句は梅雨の鬱陶しさが畳語の連続でよく表れていますね。

 承句は起句からの流れがちょっと甘く、梅雨との関係性がすっきりしません。
「発生」が不適当ですかね、腰痛が突如として出て来たような感じですが、雨が近づいて気圧が下がると神経に痛みを感じる、というのはよく聞きます。
「時節痛腰」でしょうか。

 転句は読み下しを「燥かず 浣衣は室内を紜す」としておくと良いです。

 結句は「暑中」が今さらという感じ、「雨濕」も転句の繰り返し、下三字も意図が伝わりません。
「詩」に関係する内容にして、「憂鬱な中でも少しは頑張っているぞ(行くぞ)」という表現が欲しいですね。
「梅雨はいやだ」と連呼しているうちに詩が終ってしまっては、読者の方は共感し辛いですね。
「詩嚢猶潤耐方今」ならば句としては通じる内容になったと思いますが、下三字をもう一度検討しても良いでしょう。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第217作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-217

  農家        

美田滿水聒蛙音   美田 満水 聒しい蛙音

秧稲米食任   秧稲 青青 米食任(にな)ふ

旱魃害蟲無禍毒   旱魃 害蟲 禍毒無く

秋成農業値千金   秋成の 農業 値千金

          (下平声「十二侵」の押韻)


<感想>

 起句の下三字読み下しは「聒しき蛙音」、あるいは「蛙音聒し」です。

 承句は「米食文化」まで意識を拡げて心強いですね。

 転句は「無」は「旱魃」も「害蟲」も含んでのことですかね。
「無」の位置をそのまま直せば「無旱魃害蟲禍毒」ですが、これは「二二三」の句のリズムも崩れますね。
「旱魃害蟲災禍去」としましょうか。
 現実には難しいにしろ、こうした災禍が無いように願うのもよく分かります。

 結句は「農業」が「値千金」というのはよく分かりません。
「農家秋到富千金」というところですが、承句の「米食任」から見ると結論が俗っぽくなりましたね。
 もう少し別の感覚で結句を検討する方が良いかと思います。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第218作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-218

  七夕(一)        

軒廡風鈴紙片跳   軒廡 風鈴の紙片が跳る

人形短冊竹枝彫   人形 短冊を 竹枝に彫(かざ)る

白菖靈藥除邪氣   白菖 霊薬 邪気を除ふ

天宇銀河福壽聊   天宇の 銀河に 福寿を聊(ねが)ふ

          (下平声「二蕭」の押韻)


<感想>

 七夕の景色ということですが、「福寿」を願うというのは、和習でしょうね。
 また、「人形短冊」も同様ですね。つまり、日本の現代の風習で考えると、これは当然日本独自で発展してきたものですから、和習なのは避けられないわけです。
 そこを割り切っていくか、古代の(中国の)風習に近づけるか、ですね。
 取りあえず、起句の「跳」は「風鈴の下の紙が風に揺れている」ということでしょうから、「跳」ではおかしく、「搖」とどうしてしなかったのか、疑問です。

 承句は「人形」はやめて、「願糸短符」とすればひとまず落ち着くでしょう。
 韻字の「彫」は字義から言えば「削って細かくする」です。この場合に「かざる」と読めと言われても無理で、竹の枝を削ったとなります。
「調」「挑(かかげ)る」などが良いでしょう。

 転句の「白菖」は「菖蒲」、これは七夕とどういう関係があるのか。
 普通に考えると端午の節句を思ってしまいますが、それは五月五日ですから、七夕とは二ヶ月以上違いますので、ここに置いた意味が不明です。

 結句の韻字は「ねがう」とも読みますが、あまり使われない用法です。
 と言うことは、他の人にはルビが無いと読めないことになりますので、他の韻字を探してみましょう。
 ぴったりの字が無い時は、無理矢理探すのでは無く、語順を替えてみたりすると収まることがあります。
 例えば、「祈壽望天銀漢遼」などはどうですか。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第219作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-219

  七夕(二)        

蛙黽水田號召囂   蛙黽 水田で 号召囂(やかま)し

野螢岸上發光跳   野蛍は 岸上で 発光跳る

雨餘七夕懷ク昔   雨余 七夕 昔を懐郷し

坐見Y然銀漢霄   Y然(ようぜん)の銀漢の霄(そら)を 坐に見る

          (下平声「二蕭」の押韻)


<感想>

 起句の「號召」は「大勢を呼び集める」ということで、蛙の大きな声を表していますね。

 この承句も「螢」が「跳」のはおかしいので、「撩(みだ)る」が良いでしょう。
 この前半は聴覚と視覚を揃えて、工夫されていると思います。

 転句は下三字、「昔を懐郷する」というのは変な表現で、「懷昔」「懐郷」のどちらかでしょう。
「誘懷昔」ですかね。

 結句の「Y然」は「日が輝く、火が盛んに燃える」の意味ですので、「銀漢霄」を形容する言葉としては不釣り合いです。
 天の川の光に相応しい語を探せば、平仄的には問題無いでしょうから、整うと思います。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第220作は桐山堂半田の 輪中人 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-220

  初夏水村        

四月清和竹映檐   四月 清和 竹は檐に映ず

薫風颯颯燕窺簷   薫風 颯颯 燕は簷を窺ふ

農家穀雨植苗急   農家は穀雨 植苗急なり

烏兎怱怱麹リ沾   烏兎 怱怱 緑菜を沾す

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 植物の勢いがすごい初夏、あっという間に野菜類は成長します。

<感想>

 全体的に、素材の選択も良く、季節感が出ていると思います。

 起句の「檐」と承句の「簷」は、扁が違うだけでほぼ同じものを指しますので、これは感心しません。
 起句の「檐」を「簾」にした方が落ち着くでしょうね。
 もう一つの問題は、「水村」の景が無いことです。内容としては次の「田家」とした方が良い形です。
 題名を変えてしまうのも考えられますが、課題でもありますので、何か入れたいところです。

 パッと目につくのは、結句の「烏兎怱怱」が「急」を言うのには大げさですので、ここを「野水潺潺」と一つ入れることはできそうです。

 転句の「穀雨」は節季を表す言葉ですが、もう「四月」「清和」と入っていますので、ここは実際の雨だと分かるようにしたいところです。
「喜雨」「期雨」などが臨場感が出て良いと思いますよ。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第221作は桐山堂半田の 輪中人 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-221

  麥秋田家        

村居午景歳時占   村居 午景 歳時占ふ

花後C陰草樹沾   花後の清陰 草樹沾ふ

萬鵠@潮春已去   万緑 潮の如く 春已に去り

南風晴日夏來瞻   南風 晴日 夏来るを瞻る

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 麥秋から夏への風景の変化を詩にしました。

<感想>

 起句の「歳時占」は「良い年、良い季節を占う」ということですが、「村居午景」の下に在る意図がよく分かりません。
 ここは別の韻脚で考えた方が良いでしょう。「村居」とありますので、「靜閑添」など村での生活が感じられる言葉がよいでしょうね。

 転句の「萬緑如潮」は先例もあるようですが、季節の変化をこの比喩でゆったりと広がりのある様子にして、感覚的な描写、対して結句は「風」「晴日」と具体的な物を出して行く、効果としては良く仕上がっていると思います。
 欲を言えば、具体性を意識するなら方向や季節という抽象的な「南」は避けて「薫風」のような具体性を持った言葉にした方が良いですね。
 さて、そうなると、承句の「花後」という季節を表す言葉が邪魔になってきます。
 せっかくの後半を生かすためには、別の表現を考えた方が良いです。
 作者の姿を出して「時愛(時に愛す)」、「田水」「野水」も合うと思いますよ。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第222作は桐山堂半田の 輪中人 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-222

  梅雨感懷 一        

柴門梅子国ロ侵   柴門の梅子 緑苔侵す

滿地冥冥千畝林   満地 冥冥 千畝林

連日霏霏無客訪   連日 霏霏 客の訪るる無く

模糊雨氣晝陰陰   模糊として雨気 昼陰陰

          (下平声「十二侵」の押韻)


<感想>

 「冥冥」「霏霏」「陰陰」と畳語があり、更に「模糊」は重韻ですので、ちょっとしつこい感じはしますね。
また、意味的にも「暗い」「暗い」「暗い」という感じで似通った言葉ばかりですので、整理した方が良いでしょうね。

 起句は「梅子」がどうしたのか、「柴門」と「緑苔」は繋がりますので、「柴門五月国ロ侵」と入れてはどうですか。

 承句は「冥冥」なのに「千畝林」は合いませんので、この句で「梅子」のことを語るのが良いでしょう。

 転句は分かりますが、このまま行くならば、結句の「模糊」「陰陰」は同じことの繰り返しですので、何か別の素材を探しましょう。
 通り相場としては、燕とか紫陽花や蓮といったところでしょうね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第223作は桐山堂半田の 輪中人 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-223

  梅雨感懷 二        

竹徑幽齋十日霖   竹径の幽斎 十日の霖

閑人黙坐獨空斟   閑人 黙坐して 独り空しく斟む

疎籬簷溜藏書濕   疎籬の簷溜 蔵書湿ふ

雨氣窗前迸水音   雨気の窓前 迸水の音

          (下平声「十二侵」の押韻)


<感想>

 こちらは場所が「幽齋」とはっきりして、わかりやすくなっていますね。
 そうなると転句の「疎籬」はせっかくの室内から急に画面が飛びますし、次の「簷溜」の邪魔になります。
 同じく場所を表す「窗」が結句にもありますので、持ってきて「小窗雨氣藏書濕」とすると流れが良くなります。

 結句は「簷溜」で始まるようにしますが、「迸水」と「簷溜」では音が合いませんね。
 中二字に「滴聲」を入れ、下三字をお考えになるのが良いと思います。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第224作は桐山堂半田の 輪中人 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-224

  七夕季節        

天子芒芒接俊僚   天子 芒芒 俊僚接ねる

牽牛織女御衣調   牽牛 織女 御衣調ふ

昔年七夕巧奠乞   昔年 七夕 巧奠乞(ねが)ふ

儀式傳來持統朝   儀式 伝来 持統朝

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 七夕が伝来したのは持統天皇の頃だそうです。織女の技術向上を願っての乞巧奠(きっこうてん)の行事も伝わりました。
 転句の下三字は平仄の関係で分解しましたが、大丈夫ですか?

<感想>

 起句の「芒芒」はどういう意味で使われたのでしょうか。
 句全体で考えると、「天の神様は芒芒としていて立派な役人と交わった」ですので、これはちょっと意図を説明していただかないと私には分かりません。

 承句は、牽牛と織女が天帝の衣を拵えたようになりますが、牽牛は牛飼いですので、衣には関係ないですね。
 無理に牽牛を出す必要はなく、上二字は織女を描写する言葉にした方が良いですね。

 転句は「昔年」では期間が短いですし、下三字の「乞巧奠」は「巧みを乞う祭事」ですので、この語順を替えることはできません。
 「古今七夕願糸祭」とすれば、狙いと合うでしょうね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第225作は桐山堂半田の 輪中人 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-225

  七月七日        

窗前連日轉蕭蕭   窓前 連日 転た蕭蕭

七夕時分雨露饒   七夕の時分 雨露饒(あまね)し

三更最良空闊裡   三更 最良 空闊の裡

牽牛織女好天要   牽牛 織女 好天要(もと)む

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 七夕の時節は梅雨時で雨がちの日が多いが、牽牛織女の祈りによって好天が生じ、天の川の見頃は十時頃が最も良いと思われます。

<感想>

 こちらは、七夕が梅雨時というのが困りました。
 こうした古来からの行事は陰暦ですので、「七月七日」は現在の暦では「八月中旬」の頃、もう秋の行事になりますので、この辺りが難しいところです。
 題名をわざわざ「七月七日」としたのは新暦だと強調したのでしょうね。
 そうすると、承句で「七夕」と出すのは違和感を強めるだけですので、逆にぼかすような方向で「時節梅霖雨露饒」ですかね。

 転句は「更」の平仄が違い、「かわる」とか時刻の場合には平声になります。
「應待三更銀漢裡」とすれば、結句との食い違いは無いですね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第226作は桐山堂半田の 声希 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-226

  初夏除草        

晴雨交巡濕氣沾   晴雨交巡し 湿気沾(うるお)ひ

得時莽莽拙庭纖   時を得し莽莽(もうもう) 拙庭に繊(こまや)かなり

草除勞苦老爺惱   草除に労苦す 老爺の悩み

蝶舞虫葡少息鎌   蝶舞い虫葡す 少(しばら)く鎌を息む

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

  晴れの日と雨の日が順繰りに来て、湿気が潤っている。
  時を得たりとばかり雑草は我が家の庭に密生している。
  このままほっておくことはできずいやいやながら除草をしているが
  そこに蝶が舞い来ったり、虫が這っているのを見るとほほえましくなり、つい手を休めてしまう。


<感想>

 起句の「交巡」は「こもごもめぐり」と読むと意味が分かってきますね。
 ここの下三字は「濕氣」は「沾」があれば要らない言葉、場所を表して「大地」「天地」とかでスケールを大きくした方が良いでしょう。

 承句の「莽莽」は「雑草が茂る様子」、ここはしかし、主語がありませんので「草莽」とし、そうなると「纖」の韻字では合いませんので、「淹」とすると良いですね。

 転句は「草除」では語順が逆ですので、「苦勞除草」です。

 結句の「葡」は「匍」、そこだけ直せば良いですね。





2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第227作は桐山堂半田の 声希 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-227

  初夏水村        

郊邑景光新阪   郊邑の景光 新緑繊(こまやか)なり

蛙聲鳥語野風添   蛙声 鳥語 野風に添ふ

稲田耕作漸多少   稲田の耕作 漸く多少

獨振老夫農具尖   独り振ふ 老夫 農具の尖

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

  村の景色は新緑にあふれている
  蛙や鳥の声が風に載ってよく聞こえてくる
  畑は稲作作業が段々と多くなってきていて
  年老いた農夫が農具を使って一人だけで一所懸命に農作業をしている姿を見て印象的だった。


<感想>

 起句の「景光」は「めでたい光」「歳月」の意味が多いのと、わざわざ「景色は」と言う必要性も疑問です。
「四月郊村」と書き出した方がインパクトが強いと思います。

 承句は良いですね。

 転句の「耕作」は「農事」とした方が内容が広くなって、慌ただしさが出てくると思います。
「漸」の意味も、「多少」が「多い」という意味なのも正しく使われていますが、やはり「多少」が弱い印象です。
「煩多季」でしょうか。

 結句は「老父獨揮耕具尖」で収まるかと思います。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第228作は桐山堂半田の 声希 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-228

  梅雨感懐        

雨中漫歩野池潯   雨中漫歩す 野池の潯(しん)

二月紅梅既列琳   二月の紅梅 既に琳(りん)を列(つら)ねる

華紫陽花獨生彩   華やかなるは紫陽花 独り生彩

散人興感暫愉涔   散人 興感し 暫し涔(しん)を愉しむ

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

  雨の中近郊の池のあたりを散歩した
  二月に奇麗に咲いていた紅梅は既に青い実を連ねていた
  華やかなのは紫陽花で一際生彩を放っていた
  私は興味が湧いてきて雨の風情を一人楽しんだ。



<感想>

 起句は良いですね。

 承句は「二月」が余分で、今が二月なのかと思います。「梅樹枝枝碧果琳」としましょうか。

 転句は「華」が、「生彩」と重なります。「獨」を上にして、「獨紫陽花放生彩」でも同じことが言えるでしょう。

 結句は中二字を逆にすれば良いと思います。
 最後の「涔」は「水たまり」と考えると、穏やかな気持ちになりますね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第229作は桐山堂半田の 声希 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-229

  題大學同期會        

雲低雨滴尾州寰   雲低れて雨滴たる 尾州の寰(かん)

半壽翁人集破顔   半寿の翁人 破顔で集ふ

友到遠方何不樂   友遠方より到る 何で楽しからずや

歡談酌酒往時還   歓談し酒を酌すれば 往時に還る

          (上平声「十五刪」の押韻)


<解説>

  尾州(名古屋)は雲が低く垂れて雨が降っていた
  そこへ半寿(八十一歳)の老翁たちが笑顔で集まってきた
  遠い所から友がやってきて何で楽しくなかろうか
  宴会で酒を酌み歓談するとたちまち学生時代にかえってしまう



 大学クラス会を名古屋在住組が主催し、名古屋城本丸御殿と岡崎「どうする家康展」に行ってきた。

<感想>

 楽しそうな雰囲気が伝わってきます。

 承句からは会の場面ですので、起句で季節を出しておこうという狙いですね。
 それでしたら、単に雨降りだったというよりも梅雨の時季だと伝わるようにしたいですね。
 ただ、あまり画面を暗くしてもいけませんので、「梅天煙雨尾州寰」。

 承句は「翁人」という言葉がありますかね。
「學朋」「老朋」として、「四字目の孤平」を避けるために「集」は「鳩」で良いでしょう。

 転句は何となく言葉足らずですね。「友が遠方に到る」と逆方向に行ってしまいそうです。
「千里遠來」とすれば下の「何不樂」も分かりやすくなると思います。

 結句は分かりやすいですね。「酌酒」は「交盞」「重酒」と酌み交わす感じを出したいですね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第230作は桐山堂半田の 靖芳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-230

  麥秋田家        

閑庭克碧苔沾   閑庭 緑樹 碧苔沾(うるお)ふ

書室薫風捲一簾   書室 薫風 一簾を捲く

靜坐白頭耽讀好   静かに坐す 白頭 耽読好し

村居暮色燕歸檐   村居 暮色 燕檐に帰る

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 さわやかな季節となり、ひとり静かに読書する情景を詠んでみました。

<感想>

 起句は「庭の緑樹と碧苔が沾っている」でしょうか、それとも「庭には緑樹があり、碧苔は沾っている」のか、つまり「沾」の主語が分明ではないですね。
 逆に言うと、ここで「克」が要るかどうか、「初夏」と季節を表す言葉を入れた方が句としてはすっきりします。

 承句は、ここだけ読むと「書室」でも良いのですが、転句で「耽讀好」と来ると余分な言葉になります。
「丈屋」「陋室」など別の言葉が良いですね。

 転句は「靜」が起句の「閑」と重なりますので、「獨坐」ですね。

 結句は「村居」で「田舎暮らし」ですが、転句との繋がりで言うと、ここは「閑居」として、のんびりとした生活を述べた方が良いです。
 となると、起句の「閑庭」は「空庭」として、全体のバランスも落ち着くと思います。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第231作は桐山堂半田の 靖芳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-231

  梅雨感懐        

郊居卉木告ャ陰   郊居の 卉(き)木 緑陰を成す

連雨天昏鬱鬱心   連雨 天昏くして 鬱鬱の心

燕子低回檐溜下   燕子 低回す 檐溜の下

無聊獨坐只孤斟   無聊 獨坐す 只孤斟す

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 連日の雨で何もすることがなく、鬱々とする日々です。

<感想>

 承句に「鬱鬱心」と心情を表す言葉があります。
 通常ですとこうした言葉は結びに持って行くもの、その方が読者の心に残りますし、意味も強くなります。
 ただし、それはこの「鬱鬱心」が主題だとした場合です。
 逆に言うと、ここで「鬱鬱心」と来たのは、これが作者の中心となる気持ちではないということになります。
「雨が続いて鬱陶しい気持ちにはなる、けれど・・・・」という形で繋ぐ場合ですね。
 この詩では、最後の「まあ、酒でも飲むか」という感じが、梅雨に動じない姿で良いと思います。

 ただ、結句は「獨」「孤」と同じ意味の字が重なり、更に「只」で強調しますので、煩わしいですね。
「無聊午下」とする形で収まると思います。
 あるいは、「無聊獨聽溜簷音」と余韻を持たせて、転句の下三字は燕の姿とか、別のものを出す方法もありますね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第232作は桐山堂半田の 靖芳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-232

  七夕懷古        

菜畦風渡雨休朝   菜畦に 風渡る 雨休の朝

成熟酸漿野趣饒   成熟したる 酸漿 野趣饒なり

往往老夫思舊事   往往にして 老夫 旧事を思ふ

雙星心願故ク遙   双星に 心願 故郷遙なり

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 子供のころに、短冊に願い事を書き、笹竹につるしたことを思い浮かべ、往事を懐かしんでいるこの頃です。

<感想>

 書き出しで、場所、天候、時刻などの情報をすっきりと入れることができましたね。
「風」もどんな風かを述べて情報を増やすならば「涼風菜圃雨休朝」も良いですね。
 ただ、全体を考えると、ここで朝という設定にすると、転句以降の「七夕の思い出」に直接繋がらないのが微妙なところ。
「二つの星」→「今日は七夕だ」→「子どもの頃の思い出」となると自然ですね。
 そうなると起句の場面設定が重要になりますので、「暮風菜圃雨休霄」「雨休菜圃爽風宵」とかで、夕方に持って行ってはどうですかね。

 結句は思い出の内容になりますが、「心願」だけでは具体性が無いので、「願糸」「願箋」。
 平仄を考えると「願符」「願奠」でしょうかね。
 下三字では「故郷」まで考えるのは広がり過ぎです。
「雙星願符昔時遙」、あるいは「願箋七夕往時遙」として、転句に「雙星」を眺めている姿を持ってくるのも良いと思いますよ。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第233作は桐山堂半田の 健洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-233

  初夏水村        

水邊黃麥既纖纖   水辺の黄麦 既に繊繊たり

雙燕喧喧廻竹簷   双燕 喧喧として竹簷を廻る

日月迅移春已夏   日月迅く移り 春已に夏なり

薫風一抹撫銀髯   薫風一抹 銀髯を撫でる

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 初夏の田舎の景色に季節の移り変わりの早さを感じ、老いの進む早さに寂しい気持ちになった。
 課題の十四塩韻で語彙を探すのに苦労した 

<感想>

 まず題名の「水村」ですが、詩の中でそれが描かれているのは冒頭の二文字だけです。もう一カ所くらいは入れて欲しいです。
 また、麦畑と水辺もあまりピンと来ないし、実った麦(「黃麥」)が「纎纎」と細いのは疑問です。
「水邊新柳葉纎纎」ということならばしっくり来ます。

 承句は、燕が「喧喧」というのは巣の周りで雛を育てている場面、それがよく伝わるように下三字は「漁屋簷」「古屋簷」としましょうか。

 転句は、「春已夏」という下三字、「已」は起句の「既」と意味的に重複します。
 また、「春」と「夏」を並べるのは私にはちょっとストレート過ぎる気もしますので、「初夏午」。
 二つの季節の対比が面白いと考えられれば「春又夏」でも。

 結句は「一抹」が効いていて、老いの寂しさが象徴的に出ていますね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第234作は桐山堂半田の 健洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-234

  梅雨感懐        

園徑濛濛烟雨深   園径 濛濛として烟雨深し

碧珠梅子路頭侵   碧珠の梅子 路頭を侵す

炎涼無定人皆懶   炎涼定まるなく 人皆懶し

此季莫休閑詠吟   此の季 閑かに吟を詠ずるを休む莫かれ

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 梅の実が路上に落ちると梅雨が始まり、気温の変化と併せて何となく気が滅入るが、詩吟の声出しは休まずやって行こう。
 転句に対応する結句が上手く思いつかなかった。

<感想>

 起句は梅雨の景色、これは重苦しくて雰囲気がよく出ています。

 承句は梅の青い実で、これは梅雨らしい景ですが、「路頭」は場所としてしっくりきません。
 何故なら、起句で「園徑」と作者の居る場所は書かれていますので、「樹頭侵」「覆枝陰」とかでどうでしょうね。

 転句の「炎涼」は白居易の「春江」の詩にも使われていましたが、「暑さと寒さ」で季節の変化を表す言葉です。
 この時季は衣更えで、まだ肌寒い日もあるし真夏のような暑い日もある、その辺りを「無定」と書かれたのでしょう。
 詩想として面白いと思います。ただ、「炎」の字が強く、前半の梅雨から急に夏空へと転換したような印象です。
「暑涼」と少し柔らかくするか、「日涼日暑」など、眼目の処ですので工夫してみてください。

 結句はこのままでも良いですし、「勉励莫休」ともう少し強調しても良いですね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第235作は桐山堂半田の 健洲 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-235

  七夕感懷        

七夕風光倍覺饒   七夕の風光倍ます饒しきを覚ゆ

牽牛織女見今宵   牽牛織女今宵見る

願星聞道望成就   星に願えば聞道くならく望み成就すると

立盡高吟眺九霄   立ち尽くし高吟して九霄を眺む

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 七夕の夜は手習い事の上達を願うという習慣があると聞く。
 詩吟の上達を空に向かって祈ってみた。
 二蕭韻で七夕関連の語句を探すのに苦労した。

<感想>

 起句の「饒」は「にぎわしき」と読むのでしょうが、「倍」も「覺」も実体の無い言葉ですので、結局「風光」がどうなのかははっきりしないですね。
「雅趣饒」(この場合には「ゆたか」と読んだ方が良いですね)とか「古色」など、「風光」は「風情」が良いですかね。

 承句は「見」で「まみゆ」と読みます。ただ、ちょっと堅苦しいので「會す」でも良いですね。

 転句は「聞道」の位置がおかしく、まあ、無くても良いでしょうから、ここに「乞巧」を入れて、「仰星乞巧願成就」でしょうか。

 結句は「立盡」が大げさですね。
 転句を子供のことにして、「子供は手習いの上達を願う、私は詩吟を頑張ろう」という展開にすると収まると思います。
 転句は上二字を「小兒」として、結句も「田老」「野叟」とすると対比になって良いでしょうね。
 この場合には「高吟」よりも「靜吟望」が良いですかね。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第236作は桐山堂半田の 福江 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-236

  春愁        

落花滿地柳依依   落花 地に満ちて 柳依依たり

惠雨輕風長蕨薇   恵雨 軽風 蕨薇長ず

天象變移人易感   天象の変移 人感に易し

聞香瞑想在知機   香を聞いて瞑想 機を知る在り

          (上平声「五微」の押韻)


<解説>

 桜等の花が今年は早いように思われました。
 花びらも道や堀にいっぱい散って、また風に舞い、花ふぶきも楽しみました。
 少しずつ季節が早く動いている気がしますが、咲く時期をほとんど間違えないで生命を維持して楽しませてくれる自然に感謝です。

<感想>

 起句は、花が落ちている時を言うならば「落花繚亂」と描きます。
 しかし、作者の目は散り敷かれた風景のようですので「滿地」、時季が少し遅くなり、気持ちがよく分かる表現ですね。

 承句の「長」は「ながい」では平声、「生長する」では仄声となる両韻異義字ですので、この場合には「育つ」という意味で使われています。
 この詩では、「春愁」という詩題本来の「春が往ってしまうことの愁い」ではなく、晩春の好景に心が動かされるという形で行くなら、転句の「天象変移」は「節季推移」。
 あるいは気象の変異への不安感をテーマとするなら、句はこのままで題名を「春憂」とした方が良いでしょうね。
 「愁」は心の中の漠然とした寂しさや悲しさ、「憂」は心配事や悩み・不安を表す、という違いが辞書には書かれています。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第237作は桐山堂半田の 福江 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-237

  懷遲春        

四時遍歴樂朋僚   四時の遍歴 楽しみは朋僚

閉會通知意寂寥   閉会の通知 意寂寥

遲暮別離遊人涙   遅暮の別離 客人の涙

獨吟閑醉座深宵   独吟して閑酔 深宵に座す

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 三十年近く続けられた趣味の会が高齢化に伴って解散となりました。
 会としては半世紀以上の歴史があり、人生の色々を教えて頂いた場所でした。

<感想>

 高齢化もそうでしょうが、この三年、コロナ禍で日常生活が変化し、特に人と繋がる機会が減りましたね。
 個人との繋がりも、メールや携帯電話で便利にはなりましたが、その分限定化され、自分の中でも選別化が進んでいるように思います。
 そういう社会が本当に良いのか、まだ答が出るには時間が掛かるでしょうね。
 長年続いてきた会の解散ということで、起句は思い出、承句は閉会のこと、ここに「寂寥」と心情語が入りましたので、後はその心情を行為で表していくことになります。
 構成としては問題無いと思います。

 起句は「楽しみは朋僚」となると上の四字が浮いてしまいますので、「朋僚と楽しむ」とした方が良いです。

 承句はこのままでも良いですが、転句との関わりがありますので、そちらを先に決めましょう。

 転句の「遲暮別離」は年老いての別れ、下三字は「遊人」では平仄が合いませんので、読み下しのように「客人」として挟平格にする必要があります。
 ただ、「客人」が来ていると書いて、直後に結句で「獨吟」となるのはどうでしょうね。
 こちらに「意寂寥」の感情語を持ってきた方が良いですね。
「寂寥」では韻字になりますので、「幽寂意」とし、承句はそうですね、「閉會通知歳月遙」くらいでしょうか。

 結句は「獨」の字が効果を出しています。
「座」は「すわる」という行為の場合には「坐」で。



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第238作は桐山堂半田の 福江 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-238

  寄節句        

竹林五色委風搖   竹林の五色 風に委ねて揺らぐ

雙星宿願烏鵲橋   双星の宿願 烏鵲橋

憂樂交情多感慨   憂樂の交情 感慨多し

臥看巧夕愛C宵   臥して看る 巧夕 清宵を愛す

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 子どもの頃の行事、自身の子供への伝承、孫への節句の行事を細々と伝えている今日この頃です。

<感想>

 起句は「竹林」が「五色」では妙ですので、「願糸五色竹頭搖」でしょう。

 承句は平仄が違いましたので、上二字と中二字を入れ替えれば良いですね。
「願」を起句に使った場合には、「天上」とか「仰望」でしょうね。

 転句は良いです。

 結句の「看」は何を「看」るのか、また、「臥」して「看」て「愛」して、と動詞が続くのも煩わしく感じます。
 注にお書きになったような気持ちを出すなら、ここで「兒孫巧夕喜C宵」として、家族で七夕を楽しむ形にするのが良いでしょう。 



2024. 1.28                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第239作は桐山堂刈谷の 芳親 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-239

  麥秋田家        

夏初村巷拷A圍   夏初 村巷 緑陰囲む

黃穗離離燕子飛   黄穂 離離 燕子飛ぶ

午下田夫秧早挿   午下 田夫 秧早挿む

桾酪K習遠山微   薫風 習習 遠山微かなり

          (上平声「五微」の押韻)


<解説>

 刈谷市依佐美の鯉のぼりの様子を転句に入れるか、迷いました。

<感想>

 承句で「黃穂」と麦を出して、その麦畑の横では、もう田植えが始まっているという対照的な姿を描こうとしたわけですが、
広い田地の部分部分で麦を育てている光景は、刈谷ではよく見かけます。
 しかし、その同時進行はなかなか伝わらないですね。
 通常は一つの田を思い浮かべ、麦の収穫が終わったら次は稲を植える、と考えます。
 ところが、本詩では「穂が黄色く熟しているうちにもう秧を挿す」となりますから、その穂はどこへ行ったのか、という感じです。

 まずは「黃穂」を「麥穂」として「麦」だとよく分かるようにしましょう。
「黃」の色を残したいならば中二字に「黃雲」と入れれば良いです。

 そうしておいて、転句の「午下」をやめて「隣圃」とすると、説明臭さはありますが、画面はしっかりすると思います。
 あるいは、鯉のぼり(「鯉幟」「鯉幡」)を、麦か稲の代わりに入れるのも考えられますので、別バージョンとしてチャレンジをしても良いと思います。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第240作は桐山堂刈谷の 芳親 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-240

  初夏水村        

夕陰江上釣舟泛   夕陰 江上 釣舟泛ぶ

鵜匠腰蓑霜雪髯   鵜匠 腰蓑 霜雪の髯

瀲灔篝搖魚忽躍   瀲灔 篝(かがり)揺れ 魚忽ち躍る

涼風山際月鉤纖   涼風 山際 月鉤繊たり

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 水村の風景の中に以前見た老鵜匠の見事な手縄捌きを表現したかったです。
 十四塩の韻脚例が難しかったので、踏み落としも使いました。
 題は「水村夏夜」かもしれません。

<感想>

 そうですね、韻字が少ないと言うか、使える場面が限定されるという感じでしょうか。

 起句の「釣舟」ですが、鵜飼いの舟ですので、「釣」が良いか疑問、「夕陰江上一舟添」という形が良いでしょう。

 承句は問題無いですね。

 転句は、映じた光とか波が「瀲灔」、つまり揺れるわけですので、また「搖」というのは要りませんね。
「篝火煌煌波瀲灔」という流れが良いでしょう。

 結句は視点がちょっと遠くなりますね。

 長良川の鵜飼いということですと、起句の「江上」を「藍水」、「山」も「金華山」と入れると、
もう少し地域を具体的に表した詩にすることができます。



2024. 1.30                  by 桐山人