2023年の投稿詩 第391作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-391

  奇异果        

千載雄雌同處栽   千載 雄雌 同処に栽う

八方延蔓拂條來   八方 蔓を延べ 條(こえだ)を払ひて来たる

奇异上柚作因果   奇异 柚に上り 因果と作す

競共容姿圓卵魁   共に競ふ 容姿 円卵を魁(おさ)める

          (上平声「十灰」の押韻)


<解説>

 農地転作でキウイを植えた結果、葉がどんどん延び、柚木にキウイと柚が同時に果とした感想です。

<感想>

 キウイの表記ですが、「异」は「異」の簡体字でもありますので、「奇異果」とも書くようです。
 そのまま読むと「不思議な果物」という感じで面白いですね。

 起句の「千載」は「千年」ですが、ここではどういうことでしょうか。

 承句は上四字はよく分かりますが、「拂條來」は「蔓が枝を払いのけて」ということでしょうか。

 転句は「上柚」が無理で、柚子との関わりが分かりません。書くなら承句で「柚枝抬(もた)ぐ」とした方が良いです。
 ここは下三字の「作因果」が分かりませんので、表現を検討すべきでしょう。

 結句は「共競」が語順としては正しい形です。「柚子」も「キウイ」も丸い卵の形で、両方が結実したという面白さです。
 「魁」で「おさめる」と読んでも下三字の意味は何のことか分かりませんので、「瑰(たま)」の方が韻字としては良いでしょう。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第392作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-392

  臺風寸暇        

仲秋臺風狙寸暇   仲秋の台風 寸暇を狙ふ

兒孫雨過盡還家   児孫 雨過(よぎ)り 尽く家に還る

門前雀網向餐食   門前 雀網 餐食に向かふ

忘時炎談數碗茶   時を忘れ 炎談 数碗の茶

          (下平声「六麻」の押韻)


<解説>

 台風七号の合間を狙った食事会開催(盆行事)

<感想>

 平仄の合わない所が幾つか。
 まず起句の「秋」は平声ですね。
 ただ、この句では「台風」が「寸暇を狙ふ」という形になります。
「陸續臺風」として「連続する台風」を主語とし、「生寸暇」とすれば通じますね。

 承句は「児孫」が家に還ってしまっては、食事会はできません。これは何の話なのでしょうか。

 転句は「門前雀羅」を平仄合わせしたのですかね。「門前に人が居なくて寂しい」となるのですが、それで「向餐食」とどういう関係なのでしょうね。

 結句は、この句だけはそのまま句意が理解できますが、二字目の平仄が逆です。
 ここは「時」を「刻」に替えれば落ち着きますね。
「炎談」という言葉はどういう意味ですか。あまり聞かない言葉ですし、ここは「盆行事」での集まりだと言うなら「歡談」で良いと思いますが。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第393作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-393

  晩秋郊村        

月照空庭楓錦中   月は空庭を照らし 楓錦の中

如鈴C韻聽秋虫   鈴の如く清韻 秋虫を聴く

讀書三到口心眼   読書の三到 口と心と眼

冊枕睡眠無始終   冊を枕に睡眠 始まりて終り無し

          (上平声「一東」の押韻)


<感想>

 まず結句ですが、語順の違うのが二カ所あります。
「冊枕」は「冊を枕にす」と読むならば「枕冊」の語順です。
「無始終」は「始まりも終わりも無い」という意味です。
 読み下しのようにするなら「始無終」ですが、平仄が合いませんのでこの言葉は無理ですね。

 全体で見ると、「晩秋」はかろうじて「楓錦」がありますので分かりますが、「郊村」は場面が出来ていませんね。
 これでしたら、「晩秋閑居」でしょうね。これを「郊村」に持って行こうとすると、後半を全部直さなくてはいけませんので、
 まあ、課題ではなく、「閑居」の題の詩としましょう。

 起句は「月が空庭を照らし」までは良いですが、「楓錦」の中に入っているのは何なのか。
「楓錦」は庭の中にありますし、「月」は「庭を照らして」いますから庭の上にあるし、ということで「月照」は「月影」としましょうか。

 承句は「如鈴」の比喩はありきたりと言うか、もう使い古した感がします。ここに木さんならではの言葉が入ると詩らしくなりますね。

 転句は「読書三到」で良いですが、順番は良いですか。
「目で読んで、声に出して、最後に心で感じる」という流れが自然かと思いますので、そうなると「心」を最後に置かないといけません。
 ここは別案の「方繙巻」で行きましょう。

 結句で、本を読んでいると寝てしまう、という俗っぽい落ちは内容を軽くして、せっかくの前半の風雅が単なる舞台道具になってしまいます。
 ここは別の展開を考えましょう。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第394作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-394

  定期健康診斷        

馬齡加一藉良醫   馬齢 一を加へ 良医に藉(たよ)る

基準指標更二危   基準の指標 更に二つ危ふし

測定身材驚數値   測定 身材 数値に驚く

心魂診斷不相知   心魂 診断 相知らず

          (上平声「四支」の押韻)


<感想>

 起句は良いですが、承句は「四字目の孤平」ですね。

 また、承句の「指標」と転句の「数値」、「測定」と「診斷」は似た内容ですので、もう少し違うことを出して欲しいです。
 直すならば二つ重なる転句でしょうね。

 結句の「心魂」は何の診断のことでしょう。
「不相知」はどんなことが言いたいのか、分からないですね。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第395作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-395

  栗収拾        

山紅黃穀g寒分   山紅黄緑 暖寒分かつ

黃熟栗梢音響聞   黄熟 栗梢 音響を聞く

不瀑開毬三二一   瀑ぜず 毬(いが)を開きて三二一

加餐常膳炭爐熏   加餐 常膳 炭爐熏(いぶ)す

          (上平声「十二文」の押韻)


<解説>

 庭前の栗拾いを朝夕、猪対策です。「音響」は栗の落花音です。

<感想>

 起句と承句に「黃」が重なっていますね。
 起句の方は色の配置上必要でしょうから、直すとしたら承句の方です。
「落果」としておくと、下の「音響」が何のことか、分かりやすくなるでしょうね。

 転句は「三二一」の効果ですね。
 この順番は何を意味するのか、栗を拾っている様子ならば「一二三」と順に増えていく方が自然だと思います。
「三二一」だとだんだん減っていって無くなる感じ。
「満籃樂(籃に満つる楽しみ)」というところですかね。

 結句は収穫後の調理ですね。分かりやすくなっていると思います。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第396作は桐山堂刈谷の 美豊 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-396

  麥秋筍亭        

桾嵐h欒雨灑簷   薫風 檀欒 雨簷に灑(そそ)ぐ

碧苔草樹C香簾   碧苔 草樹 清香の簾

洛陽隱棲龍孫食   洛陽 隠棲 竜孫食す

雅客融融喜色添   雅客 融融 喜色添ふ

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 そぞろ雨の中、京たけのこを食べに行った。庭園等風情があり満足。

<感想>

 「檀欒」は竹が茂る姿を表した言葉、平仄でやや問題がありますね。
 起句は二字目を仄字に、承句は「下三平」を直す、転句は四字目の「棲」が平字ですの「二四不同」が壊れています。
 起句の「薫風」は「風爽」で良いでしょう。

 承句はどんな香りにすると良いかですね。
 濃い香りなら「鬱香」、弱い香りなら「淡香」でしょうね。
「碧苔」と来ましたので「草樹」は「蒼樹」などが良いですね。

 転句の「洛陽」は京都も表しますが、行かれた庭園の場所をもう少しはっきりさせるつもりで、「落南」とか「落東」、多少甘くして「洛中」などが良いでしょう。

 「隠棲」は誰が隠棲したのでしょう。
 ここは庭園と分かるように、「幽院」などとしておくと、結句の「雅客」への流れが良くなるでしょうね。
 その「雅客」ですが、自分達のことですので「雅」と言うのはどうか。「行客」「遊客」などが無難だと思います。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第397作は桐山堂刈谷の 美豊 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-397

  龍神彩雲        

嫋嫋郊畛野趣愁   嫋嫋 郊畛(こうしん) 野趣の愁ひ

霽氛芳菊繞村流   霽氛 芳菊 村を繞りて流る

彩雲欣矚龍神使   彩雲 欣矚 龍神の使ひ

良運來迎散積憂   良運 来迎 積憂を散らす

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 いつか見た彩雲を思い出して。承句と転句の読みが似すぎているのは一考有りでしょうか。

<感想>

 「嫋嫋」は風にそよぐ様、そうなると「嫋嫋郊畛」はそんなに「愁」のような気持ちになるとは思えませんね。
 「幽」くらいが良いですね。他にも「周」「留」「浮」など、色々考えられそうですよ。

 承句は下の「繞村流」の主体が何か、はっきりしません。
「菊」ではなく、「水」を流した方が繋がりは良いですので、どんな「水」が良いかを考えましょう。

 転句ですが、雲が「龍神」に見えたのだと思いますが、「使」が必要ですか。
 中二字は「欣」がどんな気持ちなのか、よく分かりません。「宛」でどうでしょう。

 結句は「積憂」はちょっと重すぎるように思います。
 何か別の「憂」を表す言葉とか、起句で使った「愁」くらいの方が軽いでしょうね。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第398作は桐山堂刈谷の 岑芳 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-398

  雲        

嶽色高風旭影新   岳色 高風 旭影新なり

輕陰日落桂花陰   軽陰 日落ち 桂花陰る

青山秀嶺白雲裏   青山 秀麗にして 白雲の裏

岝嵀天心絶点塵   岝嵀(さくがく)にして 天心 絶点塵

          (上平声「十一真」の押韻)


<感想>

 平仄は良いですが、押韻で「陰」は「下平声十二侵」ですので、韻が合いません。

 起句で朝陽が登ったかと思うと、もう承句で「日落」となるのは気ぜわしいです。
 また、起句の「岳色」は、転句で「山」「嶺」と来ますので、別の物にした方が転句が生きるでしょう。

 承句の「軽陰」は「薄曇り」、「高風」と矛盾します。朝と夕方を描こうという意図かもしれませんが、食い違いの印象が強くなります。
 そういう狙いなら、はっきり、「朝は・・・・、夕方は・・・・」と書き出した方がすっきりします。
 と言うことで、前半は「晴色高風旭影新 郊村芳郁桂香頻」という感じでしょうか。

 転句は「青山」よりも「遠山」と遠景にした方が視点が変わって良いです。
 その「嶺」が「白雲裏」にあるのでは雲で見えませんので、ポツンと浮かぶ雲ということで「一雲影」でしょう。

 結句の「岝嵀」は「岝峉」とも書きますが、「山が高く険しい」という意味ですね。
 ただ、「秀嶺」ともう険しさは説明していますので、更に繰り返すのはくどい感じ。転句に戻って、「秀嶺」を「嶺」にしましょうか。

 「天心」は「空の中心」ですが、これはどういうことか、峰がそびえ立って空の中心に向かっているという感じでしょうか。
 画面が分かりにくいので、「岝嵀」に続ける形で「崚嶒(りょうそう)」「巉巉(ざんざん)」などが同じく険しさを表す「○○」の熟語です。
 あるいは「天心」を生かして、「きよらかで澄んだ」という意味を表す言葉で「C朗天心」「C徹天心」など。
 「絶点塵」は「わずかな塵も無い」ということですので、こちらの方が作者の気持ちには合うかなと思います。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第399作は桐山堂刈谷の 梗艸 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-399

  晩秋郊村        

靈光萬里夕陽空   霊光 万里 夕陽空し

芒浪暉銀曠野叢   芒浪 銀に暉く 曠野の叢

憶母涙流秋色日   母を憶ひ 涙流す 秋色の日

胸懷慰撫桂花風   胸懐 慰撫す 桂花の風

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 十月に突然、実母を亡くしました。葬儀が終り、帰宅する時の詩です。

<感想>

 お母様を悼む気持ちが後半にしっかり出ていますので、完成させましょう。
 その後半から見て行きましょう。

 転句は「涙流」でしたら「涙流る」と「涙」を主語にします。それならば「流」は「零」が適してます。
 下は「秋色」というのがちょっと変なので、「秋欲暮(秋暮れんと欲す)」「秋暮日(秋暮るる日)」ですね。

 結句は「胸懷」を「悲懷」とすると気持ちが深まります。
 どちらが良いかは作者の気持ちで決めれば良いと思います。

 前半に行くと、起句の「靈光」は何か厳かな光に感じたのでしょうね。
 ただ、「靈光」は「(天子の)恵みの光」という比喩的に使われますので、どうかなあ? 「茜光千里」「高雲千里」で。

 承句は「暉」が「光」とぶつかりますので、「茫穂銀波」ですかね。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第400作は桐山堂刈谷の 游山 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-400

  晩秋故園子等與憩        

殘秋急囀伯勞讙   残秋 急囀(きゅうてん) 伯労讙(かまびす)し

郷里荒園覺暮寒   郷里の荒園 暮寒を覚ゆ

野老拾薪燒甘藷   野老 薪を拾いて 甘藷(かんしょ)を焼く

村童繋手做團欒   村童 手を繋(つな)いで団欒を做(な)す

          (上平声「十四寒」の押韻)


<解説>

 晩秋の故郷に着いたとたん、頭上でモズが激しく鳴き出した。
 荒れた田畑で農作業をしていると夕暮れ時の寒さを感じる。
 枯れ木をあつめて、掘ったサツマイモを焼けば、
 村の子供たちが手を繋いで集り、芋の焼けるのを楽しみながら待っている。

「殘秋」… 秋の末。 「急囀」… 鳥が急に声を続けて鳴く。 「伯勞讙」… モズの声がやかましい。 
「郷里」… ふるさと。 「荒園」… 荒れた田園。 「暮寒」… 夕暮れの寒さを知る。
「燒甘藷」… さつま芋を焼く。 「団欒」… 集まって楽しむ。


<感想>

 まず題名ですが、子供たちと一緒に、ということでしたら、「與子等」の語順になります。
 詩では、この「子等」は村の子供達のようで、芋を焼いていたら集まってきたということですね。

 前半の寒々とした晩秋の景色から、暖かみのある出来事へと展開する意図は、分かりやすくて良いと思います。
 ただ、これが「故園」とか「ク里」、つまり故郷に帰った詩とすると、この「野老」は作者ではなく、
 見知らぬ田舎の爺さんとした方が、故郷はまだこんな長閑さが残っているのだ、という久し振りに帰った感動を詠んだ詩になります。
 帰郷した作者が芋を焼くとなると、ちょっとイメージがちがいますね。
 となると、ここは作者かもと思わせる「野老」ではなく「一老」、題名も「子等」は削って「晩秋故園」「晩秋帰郷」だけで十分だと思います。



2024. 2.25                  by 桐山人