作品番号 2021-151
櫻花
玲瓏花影小樓隈 玲瓏たる花影 小楼の隈
枝上尋芳春鳥來 枝上 芳を尋ぬ 春鳥来る
俯瞰塵街惟一樹 塵街を俯瞰す 惟だ一樹
依然勝景爲誰開 依然の勝景 誰が為に開く
小塔が建つ小高い丘の上、一本の桜が満開でした。
こんなに美しく咲くのは誰の為でしょう。
作品番号 2021-152
遊長汀
暖日驅車駿海東 暖日車を駆(か)る 駿海の東
碧濤萬里渺茫中 碧涛(へきとう)万里 渺茫(びょうぼう)の中
微涼吹面意清爽 微涼面を吹いて 意清爽たり
汀渚追孫八十翁 汀渚 孫を追ふ 八十の翁
「駿海」: 駿河湾
「渺茫」: 広くて果てしないさま
「汀渚」: みぎわ。なぎさ
作品番号 2021-153
春遊
騒人緩歩意悠然 騒人緩歩して 意(こころ)悠然たり
日暖淡晴敷四邊 日暖かに淡晴 四辺に敷し
幽鳥啼林繁草路 幽鳥林に啼く 繁草の路
風吹輕袖野花姸 風は軽袖(けいしゅう)を吹いて 野花妍たり
梅香挾水横枝影 梅香水を挾(さしはさ)む 横枝の影
露滴氷肌樹色鮮 露は氷肌に滴りて樹色鮮やかなり
更好閑園蝴蝶舞 更に好し 閑園 蝴蝶舞ひ
吟行十里醉春煙 吟行十里 春煙に酔ふ
作品番号 2021-154
早春偶成
好節又來花木怡 好節又来り 花木怡(よろこ)ぶ
嫩芽成育興無涯 嫩芽の成育 興涯なし
鳥遊何事防禽網 鳥は遊ぶ 何事ぞ 防禽の網に
修繕無爲留暫時 修繕為す無し 暫時留めん
作品番号 2021-155
參古刹法多山
南陵古刹早春巓 南陵古刹 早春の巓
聯袂賽人祈願緣 袂を聯ねる賽人 祈願の縁
朗朗經聲香世界 朗々経声 香世界
瑞雲層塔醉陶然 瑞雲層塔 酔うて陶然
作品番号 2021-156
新春即事
旭旆春光迎歳時 旭旆(きょくはい)春光 歳を迎ふる時
頽齢白首尚堪爲 頽(たい)齢(れい)の白首 尚為すに堪えたり
南海緊迫非容易 南海緊迫 容易に非ざらん
大國美中哮闞に敢移 大国美中 哮闞(こうかん)に移る
作品番号 2021-157
孫新年初書
五雲靉靆麗初陽 五雲 靉靆(あいたい) 初陽(はつひ)麗し
禿筆揮來孫女昌 禿筆(とくひつ)揮ひ来たる 孫女昌ん
自誓前途年十二 自から誓う 前途 年十二
老翁只願好風光 老翁 只願ふ 好風の光
作品番号 2021-158
悼舅父
菁莪志操淨如泉 菁莪(せいが)の志操 浄きこと泉の如し
訓導兒童揮教鞭 児童を訓へ導き 教鞭を揮ふ
底事迎春忽諸去 底事(なにごと)ぞ春を迎へて 忽諸(こつしょ)として去る
悲風吹斷別離天 悲風吹断す 別離の天
「舅父」: おじ、母方の兄弟
「菁莪」: 多くの人材を育てること。
「忽諸」: にわかに。忽然。
作品番号 2021-159
恩師遺稿集到來
繚亂櫻花春又周 繚乱たる桜花 春又周(めぐ)り
去年此日絶蹤由 去年の此の日 蹤(しょう)由(ゆう)を絶す
尊容髣髴儼如在 尊容 髣髴(ほうふつ) 儼として在(いま)すが如し
再拜遺篇暗結愁 遺篇を再拝すれば 暗に愁を結ぶ
「蹤由」: あと。あとかた。
作品番号 2021-160
立春
逐節皇隨處臻 節を逐って皇 隨処に臻(いた)り
素梅點點綴珠新 素梅点点 珠を綴って新たなり
昨宵撒豆驅邪氣 昨宵 豆を撒き 邪気を駆し
今曉焚香迎立春 今暁 香を焚き 立春を迎ふ
「青皇」: 春をつかさどる神。
作品番号 2021-161
浴佛節
梵苑花馨春氣C 梵苑 花馨り 春気清く
釈迦降誕瑞光呈 釈迦の降誕 瑞光呈す
獨尊一句爲誰説 獨尊の一句 誰が為に説きし
灌沐如來謝賜生 如来を灌沐(かんもく)し 賜生を謝す
「浴佛節」: 花まつり。四月八日釈迦誕生日を祝し、誕生仏像に甘茶を注ぎかける行事。
「獨尊」: 「天上天下誰我独尊」の略釈迦誕生の時唱えた句。
掛け替えなき命、本来備えている姿に目覚める事こそが尊い。人間の尊厳を示した句。
「灌沐」: 甘茶を誕生仏に注ぎかけ、洗浴する。
「賜生」: 生を賜う。賜わりし生。いのち
作品番号 2021-162
偶成(一)
世擾人間疫鬼風 世擾(せじょう)の人間(じんかん) 疫鬼の風
老妻臥褥病身空 老妻 臥褥 病身空し
消寒三月樂窓景 消寒三月 窓景を楽しむ
小苑花開生氣充 小苑 花開き 生気充つ
作品番号 2021-163
偶成(二)
歳月轉遷孤客翁 歳月転遷す 孤客の翁
過來四季少年穹 過ぎ来たる 四季 少年の穹
閑庭風穩快心極 閑庭風穏やかに 快心の極み
蝶舞花香天理工 蝶舞ひ花香る 天理の工(たくみ)
作品番号 2021-164
難弾絃
兄論弟駁絡如綿 兄は論じ 弟は駁し 絡みて綿の如し
久闊親朋損好緣 久闊の親朋 好縁を損(そこな)ふ
當日春天佳節宴 当日 春天 佳節の宴
家家有棹異彈絃 家家に棹有り 弾絃を異にす
兄はまくしたて、弟は反駁し絡み合ってぐちゃぐちゃ
久しぶりに出会った家族だが、せっかくの機縁を損なっている。
今日は花見の楽しい宴のはずだが、惜しいこと。
どの家にも難しい問題があって、いやはや困ったことだ。
作品番号 2021-165
執理人
曲學賢材自認直 学を曲ぐる賢材 自ら直と認む
排他無聽避安危 他を排し聴くことなく安危を避く
臨機狡辯猿公笑 臨機の狡弁 猿公は笑ふ
執理爲人不可醫 執理の人 医(いや)すべからず
せっかく学んだ学問だが、いつも自分が正しいとする。
他人の言うことを受け入れない態度は、危ない崖のようだ。
臨機応変の屁理屈、猿でも笑う。
理屈に凝り固まった人は、治しようがない。
作品番号 2021-166
春日即興
梅開岩本阜 梅開く 岩本の阜(おか)
野色帯輕煙 野色 軽煙を帯び
富嶽靈峰仰 富岳 霊峰仰ぐ
尋春二月天 春尋ぬ 二月の天
「岩本」: 富士市岩本公園
作品番号 2021-167
看梅
古刹輕寒午日暄 古刹 軽寒 午日暄たり
山中香處野人園 山中香る処 野人の園
鶯聲赫赫東風滿 鶯声赫赫 東風に満つ
馥郁梅枝花壓軒 馥郁たる梅枝 花軒を圧す
作品番号 2021-168
漫歩(そぞろ歩き)
爺婆投合即蹌踉 爺婆(ジジババ) 投合して 即ち蹌踉
渉谷越丘嬉眺望 谷を渉(わた)り丘を越え 嬉(たのし)むは眺望
纔覺疲勞五千歩 疲労纔かに覚えて 五千歩
心情爽快潤茶香 心情 爽快 潤ひの茶香
「投合」: 意気投合
爺婆にわかにぶらりヨロヨロ
この読み下し、脚韻の字、踉、望、香が引き立つようにしてみた。
くだりにのぼり 眺めは楽し
疲れそこそこ五千歩だ
心爽やか 茶ゴクゴク
二人合せて百八十歳。声掛け合い休み休みの散歩となる。
作品番号 2021-169
氷上溜石(カーリング)
眼穿進路手繊策 眼は穿(うが)つ進路 手は繊(たおやか)な策
放把旋回滑氷石 把(にぎ)りを放てば 旋回 滑氷する石
揮掃朗聲唆絶奇 掃を揮ふ朗声 絶奇の唆(みちび)き
笑顔情好魅觀客 笑顔 情好 魅す観客を
「情好」: 仲良し
カーリング女子日本チーム、軽快な動き、掛け合う明るい声、笑顔。四人一心同体の動きに魅せられた。
この詩の読み下しも、脚韻で「策」「石」「脚」を引き立てた。
作品番号 2021-170
實感地球温暖化
今春豪雪烈風専 今春 豪雪 烈風 専らとす
障碍諸諸煩瑣纏 障碍諸々(もろもろ) 煩瑣纏(まつ)わる
蒸發温洋雲續續 温洋蒸発して雲続々
凝流寒氣濕連連 寒気凝(かたま)り 流れて湿連々
恰聞慷慨地球懣 恰(あたか)も聞くが如し 慷慨地球の懣(もだ)えを
猶滞除殘化石煙 猶ほ滞る除残 化石の煙の
不可躊躇基本策 躊躇すべからず 基本の策を
必須行動自揮鞭 必ず行動すべし自らに鞭を揮ひて
日本海沿岸は豪雪地帯である。対馬海流(黒潮)がシベリア高気圧に吸い上げられる。太平洋の暖流増大が豪雪増大となる。
ノーベル物理学賞真鍋淑郎氏の解明で、大気中のCO2濃度が0.03%から0.06%に増加した場合の地球温度上昇は2.36度Cと予測されている。
植物は炭酸ガスを吸収し生長する。
山林を伐採しての太陽光発電は如何なものか。都市にも道路にも太陽光は満ち溢れている。
家庭の樹木も大切に。そして落ち葉枯木など焚火はもっとあってよいのでは。
作品番号 2021-171
詠 浮世功名
浮世功名多厭爭 浮世(ふせい)功名 多(まさ)に争ふを厭(いと)ふ
陶然盡日氣縦横 陶然尽日 気縦横たり
壯夫磊落精華感 壮夫は磊落にして 精華の感
老漢微茫隱逸情 老漢は微茫にして隱逸の情たり
作品番号 2021-172
詠 懊惱
懊惱虚空無悟聲 懊悩の虚空 悟声無く
心中實相不分明 心中の実相 分明ならず
尋思仙境長昏惑 仙境 尋ね思はば 長(とこしな)えに昏惑し
偶到幽冥皎潔萌 偶(たまた)ま幽冥に到らば 皎潔(こうけつ)萌す
作品番号 2021-173
詠 剣山麓一宇峽(徳島)
深山佳境萬尋 深山 佳境 万尋高し
勢聳青岩險阻豪 勢聳(せいしょう)の青岩 険阻にして豪
瀲灔清川奔石瀬 瀲灔(れんえん) 清川 石瀬に奔る
溪流白浪覺風騒 溪流の白浪 風騒覚ます
老鶯囀囀隱幽草 老鶯は囀々 幽草に隠れ
輕燕飛飛掠此キ 軽燕は飛々 緑濤を掠(かす)む
行客ク愁情不盡 行客の郷愁 情尽きず
南薫爽快自忘勞 南薫 爽快 自づから労を忘る
作品番号 2021-174
初春即事
散策長堤草色繁 長堤散策 草色繁し
遠山靄靄覺春溫 遠山靄々 春温を覚ゆ
掲簾休憩啜煎茗 掲簾 休憩 煎茗を啜る
香柔芳芬梅滿盆 香柔らか 芳芬 梅は盆に満つ
作品番号 2021-175
孫合格喜
福音忽至喜津津 福音忽(たちま)ち至り 喜び津津(しんしん)たり
共越苦難孫二人 苦難共に越え 孫二人
螢雪積功成宿志 蛍雪功を積み 宿志成る
若人前路想無垠 若人の前路 想ひ垠(はて)無し
今年孫二人が、大学と高校にめでたく合格した。
作品番号 2021-176
鳥克蘭(ウクライナ)情勢危惧
俄國侵攻殘酷堝 俄国の侵攻 残酷の堝(るつぼ)
砲弾戰火難民多 砲弾の戦火 難民多し
獨裁元首制裁唱 独裁の元首 制裁唱ふも
奈聞彌増聲楚歌 奈(なん)ぞ聞えざる 彌(いや)増す楚歌声するを
ウクライナ情勢どうなることか?
避難民をテレビで見るたびに悲しくなる。
いつの時代になっても戦争は無くならないのか。
作品番号 2021-177
想新冠疫
護身無怠蹈危機 護身怠り無くも 危機を踏む
接種疫苗終不違 疫苗接種 終に違(たが)わず
可識豫防須繼續 識るべし 予防須(すべから)く 継続を
平常生活萬民祈 平常の生活 万民の祈り
コロナの終息がなかなか見えない。
今や警戒感も無くなりつつある。
高齢者は予防接種三回目を実施し、安心感もあるが、接種していない人にも広く呼びかけたい。
作品番号 2021-178
春日花下
風溫櫻蕾萬枝先 風温かく 桜蕾 万枝の先
疫疾流行幾變還 疫疾の流行 幾変還
露國屈強庸佞猾 露国 屈強 佞猾(ねいかつ)を庸(もち)ふ
隣邦恐悚待明天 隣邦 恐悚(きょうしょう) 明天を待つ
一斉に桜花が咲いた。
コロナも満開。
プーチンは戦いを始めた。
遠い戦いが近くまで来なければ良いが。
作品番号 2021-179
春庭
柔風穏往暖春朝 柔風穏かに往く 暖春の朝
齊放杜鵑庭上姚 斉放の杜鵑(さつき) 庭上に姚(みめ)よし
匍匐鮮黄花菱草 匍匐(ほふく) 鮮黄の花菱(はなびし)草
越垣紫辨仄搖妖 垣を越え 紫弁仄(ほの)かに妖しく搖れる
我家の庭は色々花が咲いている。
「杜鵑」: 杜鵑花、さつき。
さつき、花菱草、アグロステンマ、十字科野菜等。
作品番号 2021-180
追憶少年之夏 一
遊泳戯魚流水潺 遊泳 魚に戯れ 流水潺たり
蜻蛉黄蝶又鳴蟬 蜻蛉 黄蝶 又鳴蝉
少年朝夕驅山野 少年 朝夕山野を駆けし
昔日追懐七十年 昔日 追懐す 七十年
八月は毎年母の実家に行った。
四・五時間汽車に乗り、朝出発して夕方着いた。
毎日魚取りをした。