作品番号 2022-301
重陽
客裏殘燈古岸邊 客裏 残灯 古岸の辺
菊香凝霧倍凄然 菊香 霧に凝りて倍して凄然たり
秋衣耐冷想明月 秋衣冷たさに耐へ 明月に想ふ
親故奈何重九天 親故は奈何ぞ 重九の天
旅で灯りも消えそうな古岸で
菊香が深い霧となって寂しさを増す
秋衣は寒さに耐えて 明月に想う
親や友達はこの重陽の日にどうしているかなぁ
作品番号 2022-302
散策
爺婆意投合 爺婆(じじばば) 意投合し
出立勿蹌踉 出立 勿ち蹌踉(そうろう)
眼樂八方景 眼は楽しむ 八方の景
蹣西跚北望 西に蹣し北に跚して望む
胸期五千歩 胸は期す 五千歩
休石憩叢常 石に休み 叢に憩ふを常とす
足重喘牛緩 足重くして喘牛の緩か
心輕雀躍昂 心軽やか 雀躍の昂(たかぶ)り
得帰茶一二 帰り得て 茶一二
三碗潤枯腸 三碗 枯腸を潤す
第三四句と第五六句とを対とする、隔句対とした。
夫婦合わせて百八十歳、お互いの行動は日々縮小されていく。
さあ散歩だよと
出れば よよよろ
よろめきながらも
眺めは楽し
休み休みに
歩数確かめ
歩み遅るも
もうあと何歩
帰った喜び先ずお茶だ
三杯ごくごく あー美味しい
作品番号 2022-303
夏椿(沙羅)
朝開夕散華 朝(あした)に開き 夕(ゆうべ)に散華
在地白無邪 地に在りて白くして 無邪
清楚始終美 清楚 始終の美
沙羅五辨花 沙羅 五弁の花
沙羅樹は、インド原産の常緑高木、フタバガキ科、ラワン材の一種である。
釈尊涅槃の際、臥床の四方にあった沙羅樹が合して双樹となったという。
我が国では夏椿を沙羅と呼ぶ。
作品番号 2022-304
麥秋
國家象徴麥秋旙 国家の象徴 麦秋の旙
鼓舞傳來義勇魂 鼓舞す 伝へ来たる義勇の魂
今年収穫硝煙下 今年の収穫 硝煙の下
來夏此時歌頌喧 来夏 此の時 歌頌喧ならんか
それにしてもウクライナの抵抗、反撃に瞠目。
空の青麥穂波の黄、ウクライナ国旗には麦秋という言葉が好く合う。
国連、トルコの仲介により、小麦等穀物輸出は再開されたが、穀物畑の現状は無残。
来期の作付けから収穫まで平和でありますよう切に祈りたい。
我が国が侵攻された場合果たして国を挙げての防衛あり得ようか。
作品番号 2022-305
光陰一隅
光陰一過寸心違 光陰一過 寸心違ふ
奉職專修汗欲揮 奉職 專修 汗揮はんと欲す
幼少昌昌携小鬼 幼少昌々として 小鬼を携ふ
壯年兀兀向晴暉 壮年 兀々として 晴暉に向かふ
誰知晩學燈淡 誰か知らん 晩学 青灯淡く
自覺精勤星夜歸 自ら覚ゆ 精勤 星夜に帰る
荏苒霜鬚身已老 荏苒(じんぜん) 霜鬚 身已に老い
餘生幾許巻舒微 余生 幾許(いくばく) 巻舒微(かす)かなり
工業高校卒業まで勉強は余り好きではなかったが、会社に入ってからは、生産技術部門という勉学せざるを得ない職場となり、今、振り返れば 誠にラッキーな会社生活であったと思われる。
「晶晶」: すみきって輝くさま
「蟲蟲」: 熱気のこもるさま
「荏苒」: 時がゆるゆる進む
「巻舒」: 才能をかくしたり現わしたりする
作品番号 2022-306
有感八十歳
無端齢八秩 端無(はしな)くも 齢八秩
贏得自由身 贏(か)ち得たり 自由の身
鶴髪呈祥瑞 鶴髪 祥瑞を呈し
皺顔離俗塵 皺顔 俗塵離る
欽欽開壽域 欽々 寿域を開き
緩緩樂清貧 緩々 清貧を楽しむ
永契鴛鴦夢 永契 鴛鴦の夢
奇緣尺蠖伸 奇縁 尺蠖(せきかく)伸ぶ
子どもらが育ち大学生になった時から、永く妻と二人で暮らしている。
子育ては勿論、炊事、洗濯、掃除等妻が殆んどこなしてくれ、感謝の限りである。
最近朝食の洗い上げ、トイレの清掃、買物、それに昼の食事創作等少しではあるが、実行している現況である。
「欽欽」: つつしむさま
「兀兀」: 努力するさま
作品番号 2022-307
盛夏
炎塵難耐火雲張 炎塵耐へ難く 火雲張る
朗月開窓無晩涼 朗月窓を開くも 晩涼無し
麥酒杯重催睡氣 麦酒 杯重なりて 睡気催す
曉蟬覺醒自家牀 暁蝉に覚醒 自家の床
作品番号 2022-308
猛暑
無風三伏汗濡襟 風無し 三伏 汗襟を濡らす
連日炎塵老不禁 連日の炎塵 老禁(おさえ)えず
節電遂行身限界 節電 遂行するも 身限界
地球異變積憂深 地球の異変 憂ひ積ること深し
異常気象、何が原因か考えさせられます。
作品番号 2022-309
悼安倍前首相
應援魁偉演臺沈 応援の魁偉 演台に沈む
不測非常銃彈音 不測 非常の銃弾音
國葬表明分贊否 国葬 表明するも 賛否分る
奈何追悼問題深 奈何(いかん)ぞ 追悼 問題深し
作品番号 2022-310
新秋即事
暑退凉宵灝氣流 暑退(しりぞ)き 涼宵 灝気(こうき)流る
始聴蟲語意悠悠 始めて聴く 蟲語 意悠悠
追陪簷馬西風奏 追陪する簷馬 西風に奏で
獨坐把杯思故邱 独坐し 杯を把り 故邱を思ふ
「簷馬」: 風鈴の一種
作品番号 2022-311
柴田家之庭
少時借地種蔬園 少時 地を借りて蔬園を種(う)う
壹畝畦庭傍短垣 壱畝の畦庭 短垣の傍
返路薔薇馨夕照 返路の薔薇 夕照に薫り
胸懐慈訓憶遺恩 胸懐の慈訓 遺恩を憶ふ
高一から三年迄、柴田桃圃先生の庭三十坪を借りて、農高のホームプロジェクトで野菜を作った。
今になって人生の役に立っていると実感する。
作品番号 2022-312
紫陽華
百看不厭爛開花 百看厭はず 爛として開花
行路千紅紫白誇 行路は千紅紫白を誇る
挿穗成長英婉婉 挿穂の成長 英(はな)婉々
復遭野老惜年華 復た遭ふ野老 年華を惜しむ
十数年前から穗を挿して畑の周囲へあじさいを植えた。大きな株になって毎年梅雨の時はあざやか。
作品番号 2022-313
駿河湾深夜景
一望金波駿海隅 一望 金波 駿海の隅
泰然富嶽架空殊 泰然 富岳 空に架かりて殊にす
人稀釣叟徹宵渚 人稀にして 釣叟 渚にて徹宵
月落流星如雨于 月落ち 流星 雨の如く于(ゆ)く
若い頃稲刈りを終え毎晩羽衣の松近くへ釣りに行った。深夜之海は美しかった。
作品番号 2022-314
訪長樂寺
昔時長樂煮茶香 昔時 長楽 茶を煮て香(かぐわ)し
誕日先生在故郷 誕日 先生 故郷に在り
展墓傍存上人像 展墓 傍に存す 上人の像
ョ家歸路醉餘芳 ョ家の帰路 余芳に酔ふ
昔、思い立ってョ新先生の誕生日に父と魚を持って出かけた。長楽寺のョ家の墓に案内していただいた。