作品番号 2021-91
新年
三朝和氣一天明 三朝 和気 一天明し
雪歇輕寒初詣行 雪歇(や)み 軽寒 初詣行く
露店栗香懷祖父 露店の栗香 祖父を懐ふ
門前慶賀賽人聲 門前 慶賀する賽人の声
作品番号 2021-92
元旦
年賀宴闌談笑聲 年賀の宴闌(たけなわ) 談笑の声
友朋交歡酒頻傾 友朋 交歓 酒頻りに傾く
早梅香氣醉郷誘 早梅の香気 酔郷に誘(いざな)ふ
窗外風和月影明 窓外 風和み 月影明らか
作品番号 2021-93
新春
迎春闇聽曉鷄聲 迎春 闇に聴く 暁鶏の声
遙望東天霜氣C 遥かに望む東天 霜気清し
獨坐書窗閑酌酒 独り書窓に坐して 閑(しず)かに酒を酌む
誰知切切故郷情 誰か知る 切切と郷を憶(おも)ふの情
作品番号 2021-94
新年
氷解曉天殘月C 氷解け 陽昇り 月影清し
春光慶瑞喜新晴 春声 光瑞 新晴を喜ぶ
親朋談笑佳肴宴 親朋 談笑 佳肴の宴
庭樹好音黄鳥聲 庭樹 好音 黄鳥の声
作品番号 2021-95
新春
三始春風鷄犬聲 三始 春風 鶏犬の声
雲晴氷解歩遊行 雲晴れ 氷解け 歩遊の行
早梅數樹花香路 早梅 数樹 花香る路
滿目昇平山色C 満目 昇平 山色清し
作品番号 2021-96
元日
早朝元日氣清晴 早朝 元日 気は清晴
閑寂郊村踏雪行 閑寂たる郊村 雪を踏みて行く
偶會良朋投合意 偶(たまた)ま良朋と会し 意を投合す
相攜郷社願昇平 相携へて 郷社 昇平を願ふ
作品番号 2021-97
喜春
歳旦初陽一望晴 歳旦 初陽 一望晴る
迎春微暖瑞祥生 春を迎へて 微かに暖かく 瑞祥生ず
萬年長樂皆籠願 万年 長楽 皆願ひを籠めて
古友欣然杯酒傾 古友 欣然 杯酒傾く
作品番号 2021-98
新年
歳鐘眷族喜迎春 歳鐘 眷族 春を迎ふるを喜ぶ
郷社寒風驟雪銀 郷社 寒風 驟雪銀たり
醴酒掌中祈願禮 醴酒 掌中 祈願の礼
炎炎燎火煖魂身 炎炎たる燎火 魂身を煖(あたた)む
作品番号 2021-99
寝覺
早朝初雪紙窗明 早朝 初雪 紙窓明(あか)し
一唱黄鶯春意聲 一唱 黄鶯 春意の声
日出紫雲山際泛 日出づれば 紫雲 山際に泛(うか)ぶ
新年三始此歡迎 新年 三始 此(ここ)に歓び迎ふ
作品番号 2021-100
新春
元日郊村黄鳥鳴 元日 郊村 黄鳥鳴く
朝陽雪解暖風輕 朝陽 雪解け 暖風軽し
慶安祈願社祠殿 慶安 祈願す 社祠の殿
家族新春談笑聲 家族 新春 談笑の声
作品番号 2021-101
新年遭舊友
新春村舍曙鷄聲 新春 村舎 曙の鶏の声
田圃風寒踏雪行 田圃 風寒く 雪を踏みて行く
相訪ク朋舊懷煖 相訪ぬる郷朋 旧懐煖(あたた)む
佳肴美酒喜心平 佳肴 美酒 心平らかなるを喜ぶ
作品番号 2021-102
祝百壽
敬祖慈人盡懇情 祖を敬ひ 人を慈しみ 懇情を尽くす
吟詩讀史樂人生 詩を吟じ 史を読み 人生を楽しむ
歡迎百壽氣軒昂 歓び百壽を迎へ 気は軒昂
足跡光輝如玉瑛 足跡光り輝き 玉瑛の如し
<解説>
今年百歳になる義母が、70〜80代の頃に書き溜めた漢詩240首ほどを、百寿の記念として詩集の形に纏めたいと思い、漢詩の勉強を始めました。
<感想>
まずはお義母様のご長寿をお祝いします。
七十代、八十代に240首もの漢詩を作られた熱意と感性、多方面でご活躍されつつも自分の時間を大切にされていたのだと分かります。
お祝いに漢詩を贈られるならば、何よりお喜びになると思います。しっかりした作品にして、叱られないようにしないといけませんね。
用語も愛情が感じられるもので、全体に温かい詩になっていると思いますが、直さなくてはいけない点が二つあります。
一つ目は、「同字重出の禁止」の規則で、同じ漢字を他の句で使うのは厳禁なのですが、「人」の字が起句と承句に出ていますね。
これは承句の方を「樂平生」「樂長生」とすれば解消します。
もう一つは、押韻です。
漢詩では押韻しない句の末字は韻字と平仄を逆にすることが大原則です。この場合には、転句の末字を仄声にしなくてはいけません。
「昂」は「下平声八庚」韻ではありませんが、「下平声七陽」韻で平字ですので、ここは直さないといけません。
「此迎百壽身康健」とすれば良いですね。
結句はそれまでに比べて抽象的で、もう少し具体的な表現でも良いとは思いますが、お祝いの気持ちの表れとして、明るい結びになっていると思います。
2021. 2.27 by 桐山人
作品番号 2021-103
春寒
二月春寒句未成 二月 春寒 句未だ成らず
幽居村巷寂無聲 幽居の村巷 寂として声無し
黄昏夜色南窗靜 黄昏 夜色 南窓静かに
寂寂微雲坐夜更 寂々たる微雲 夜更に坐す
<感想>
深渓さんの今回の詩は、同字重出が気になりますね。
承句の「寂」が結句で「寂寂」で出てきますし、「夜」が転句と結句に出てきますね。
ここは直さないといけません。
語句としては、承句は「幽居」と「村巷」はぶつかっていませんか。
転句から「黄昏」から「夜色」の流れは急ぎ過ぎですし、最後に「夜更」と来るのも夕方から夜中までずっと「坐」っていたわけで、長過ぎですね。
この辺りを直して行けば、まとまってくると思います。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2021-104
稱箱根駅傅創価大學健闘
勝敗神君是不知 勝敗は神君も是 知らず
最終走者痛心姿 最終走者 痛心の姿
覇權奪取非容易 覇権の奪取 容易に非ず
健闘稱嘆列島馳 健闘の称嘆 列島を馳せる
「神君」: 神の尊称
「痛心」: ひどく心を痛める
「覇権」: 優勝
<解説>
コロナ禍 開催された箱根駅伝、毎年テレビ観戦が恒例です。
勝者と敗者の明暗はありますが、新監督就任2年目での準優勝 チーム一丸となっての大健闘。
走り切ったアンカーに拍手を送りたい。
<感想>
コロナ禍の中での「恒例」の箱根駅伝、選手の人達もコンディションの調整など、大変だったと思います。
創価大学は往路優勝、九区まで首位を保っていた走りは素晴らしかったですね。
最後に逆転されてしまったのは残念でしょうが、粘り強く走り続けた姿には、岳城さんと同じく、拍手を贈りたいですね。
詩の構成も前半の二句で最後の逆転劇をうまく表しておき、転句でちょっと冷たく突き放しておいて、最後に「よく頑張った」とエールを贈るという流れで、温かい視線が感じられるもの、分かりやすく描かれていると思いました。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2021-105
再緊急事態宣言發出
感染不収驚怖時 感染 収まらず 驚怖の時
一都三縣苦悲姿 一都 三県 苦悲の姿
暗中模索光明失 暗中 模索 光明 失ふ
零細店舗生死陲 零細 店舗 生死の陲(さかい)
「苦悲」: 悲しみ苦しんで苦労する
<感想>
二度目の緊急事態宣言が出されたのは1月7日でしたね。「GOTOトラベル」ならぬ「GOTOトラブル」の影響での感染爆発、せっせと火をつけておいて今度は消すという話で、火力調節が出来るほど甘くは無い、ということでしょう。
これまでに経験したことの無い事態への対処、判断の最終的な是非は未来が決めるしか無いですからこそ、「今は、この人の言う通りにしよう」と思わせてくれるリーダーが欲しいですね。
苦しんでいる気持ちがよく出ていますが、各句の下三字を見ると、「驚怖時」「苦悲姿」「光明失」「生死陲」と同じイメージの語が並んでいます。
言葉を換えて「緊急事態」を表しているわけで、語彙の豊かさですね、やや間延び感はあります。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2021-106
春天的上海
春天上海霧朦朦 春天の上海 霧朦朦たり
五彩梅花跳鳥虫 五彩の梅花 鳥虫跳ぬ
聳立明珠姿凛凛 聳立つ明珠 姿は凛凛
自然社会好豊融 自然と社会 好く豊融す
<解説>
春の上海はいつも霧が立ち込め、朦朧としている。
色とりどりの美しい梅の花が満開で、沢山の小鳥が嬉しそうに飛んだり跳ねたりしている。
大空に聳え立つ明珠大楼は見る者を圧倒する。
上海はビジネスの街と言うイメージがあるが、意外にも自然と経済の発展が上手く融合している素晴らしい所だ。
<感想>
こういう詩を読むと、上海に早く行けるようになってほしいと思いますね。
上海に限らず、中国の都会は歴史のあるものと現代建築が混合していて、最初は「表の看板と裏の実態」のような見方をしていましたが、どちらも共存しているのだということに気付きました。
懐の広さという感じでしょうか。
起句はすっきりした句ですね。
承句は上四字と下三字の繋がりが無く、「霧朦朦」の中で、「鳥虫」は小さ過ぎますね。
梅の話でまとめる形で、「香馥充(通)」などを考えてみましょう。
転句は「明珠」だけでは「宝玉」になりそう、「姿」を「樓」とした方が良いですね。
結句の「社会」は「人世」「人境」でしょうか。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2021-107
大寒即事
盛冬日午問鄰家 盛冬の日午 隣家を問ふ
取暖爐邊共煮茶 暖を取る炉辺 共に茶を煮る
窗外凍風吹落葉 窓外の凍風 落葉を吹く
凌寒馥郁臘梅花 寒を凌いで馥郁 臘梅の花
<感想>
「大寒」は、春の一歩手前ですが、寒さは最後の粘り時、雪や風が厳しいこともありますね。
そうした季節変化の狭間をどう描くかが狙い所になります。
前半はそうした季節感は抑えめにして、後半で冬と春を対比させるという構成ですね。
分かりやすく仕上がっていると思います。
細かい所になりますが、承句は、隣の家にお邪魔していますので、「煮茶」のは隣人だと思います。
通常は共同作業ではないと思いますので、「閑煮茶」としてはどうでしょうね。
結句は直前の冬の厳しさに対して、「馥郁」がやや急ぎ過ぎな感がありますね。「凍風」から「凌寒」も同様です。
少し柔らかにして「一枝香氣」「清香數朶」くらいが穏当かと思います。
2021. 3. 8 by 桐山人
作品番号 2021-108
立春偶作
拂曉寒威迫 払暁 寒威迫る
曳筇流水邊 筇を曳く 流水の辺
小庭梅破蕾 小庭 梅は蕾を破り
坡岸柳含煙 坡岸 柳は煙を含む
雲靜韶光滿 雲静かに 韶光満ち
風C物色姸 風清く 物色妍たり
誰言春尚淺 誰か言ふ 春尚ほ浅しと
富嶽雪花鮮 富岳 雪花鮮かなり
<感想>
首聯は冬の寒さ、頷聯から春の気配を漂わせて行く構成ですね。
作者の居る場所が「小庭」のせいで分かりにくくなっています。「流水」は「池水」、「小庭」は「堰庭」で落ち着きますかね。
頸聯は「韶光」と「物色」では対として物足りないですね。
「物色」の部分に「韶」に対応するような形容詞が入ると対応が生き生きとしてくるでしょう。
尾聯の上句は反語だと思うのですが、そうなると結論は「春はもう浅くない」ですね。
それに対して「富嶽雪花鮮」となると、逆接で「富士はまだ冬の景色のままだ」ということでしょうか。
それならわざわざ反語で言うのも妙ですね。
流れとしては、結句で「ほら、春が来てるだろう」となるようなものを置くのが、全体の流れからは自然だと思います。
2021. 3. 8 by 桐山人
作品番号 2021-109
節分
呼聲招福追儺夕 福を招く呼び声 追儺の夕べ
嚼豆幾回懐往時 豆を嚼むは幾回ぞ 往時を懐かしむ
青壯矜持還血氣 青壮の矜持 還た血気
昂揚失意総無遺 昂揚 失意 総て遺る無し
<感想>
節分の豆の数から年齢を感じ、若かった頃の事(「往時」)へと思いが流れる展開は、共感できるものです。
「矜恃」と「血気」、「昂揚」と「失意」の対比も自然だと思います。
2021. 3. 8 by 桐山人
作品番号 2021-110
立春
庭梅膨蕾立春時 庭梅 蕾み膨らむ立春の時
今日開花明日弥 今日開花 明日弥ます
又識薫香風向妙 又識る 薫香の風向に妙なるを
閑居逸楽自然移 閑居逸楽するは自然の移ろい
<感想>
起句は「蕾を膨らます」と目的語の文として読んだ方が良いですね。
立春で、次の句では「開花」ですので、「破蕾」でも良いかと思いますが、どうでしょうか。
結句の「向」は「まことに」でしょうか、「一」「色」などが分かりやすいですが。
2021. 3. 8 by 桐山人
作品番号 2021-111
早春偶成
北嶺白雲離麓由 北嶺の白雲 麓を離れて由
園中枝蕾向濠優 園中の枝蕾 濠に向かって優なり
輕寒散策無言衆 軽寒 散策 無言の衆
刻石語唯城郭陬 語るは唯 石を刻んだ城郭の陬
<解説>
北の山はようやく白雲が離れて春が近いようだ。
城の桜は濠に向かって斜めに垂れる。
しかし、まだ寒くてみんな無言で通り過ぎる。
ただ語ってくれるのは石垣の藩籍だけ、想像を掻き立ててくれる。
<感想>
起句の「由」は原因や方法を表す字で、日本語の「…とのこと」という「よし」とは少し違います。
この句は視線をどこに合わせるのか、「北嶺」「白雲」と「麓」では位置が違いすぎますし、白雲が「麓を離れる」ということ自体が疑問ですね。高さを合わせて「北嶺春天白雲流」としておくと画面が整います。
承句では「園中」と来ますが、起句と合わせると作者はどこに居るのか、出来れば具体的な地名を題名に入れておくと、読者も入りやすいでしょう。
ここは転句と上四字を交換すると良いですね。「優」では話が合いませんので、「輕寒散策對濠頭」。
転句は場所はもう出ましたのですぐに花に持って行って、「堰櫻蕾下無言衆」。花と人と二つのものを並べると、作者の狙いが明瞭になります。
「無言衆」との対比を強くするなら、「櫻」を「梅」に替えて「花」が開いているようにして、「早梅花下」とする方法もあります。
結句の「語唯」は、転句の「無言衆」からの流れ、読み下しのようにしたかったのでしょうが、強引でしたね。
「刻石藩名」(石に刻む藩の名)とし、下三字で作者の感慨を入れたいところ。
そうですね、「千歳悠」のような感じでしょうかね。
2021. 3. 8 by 桐山人
作品番号 2021-112
閑人笑語集
月陽冬至入雙瞳 月陽 冬至 双瞳に入る
歸鳥陰風寂寞中 帰鳥 陰風 寂寞の中
川上靜登臺狹小 川上静かに登れば 台 狭小
閑人笑語磊前紅 閑人 笑語 磊として紅前む
<解説>
冬至の日、日の短きを承知で夕暮れを見送った暇人。いつも元気を貰っている同輩。
<感想>
題名の「集」は「集まった」ということですか。「笑い話を集めた詩」ということかと思いました。
この字は要りません。詩の内容から言えば「冬至與友登臺」が適していますね。
起句は「陰陽」としたかったところでしょうか。「月」が分かりにくいですね。
また、後半の内容からは「冬至」である理由はありませんので、「嚴冬夕日入雙瞳」で良いと思います。
結句のためにも、ここで夕陽を見ていたことをしっかり出しておきましょう。
結句は友人と一緒に居ることが分かるようにしないと、「閑人」では話が通じませんね。
「友朋」で良いでしょうが、転句の「臺狭小」を受けるなら「磊」を上にもって来て「磊然朋友笑顔融」でどうでしょう。
2021. 3. 8 by 桐山人
作品番号 2021-113
早春即事
閑庭風暖立C晨 閑庭 風暖かく 清晨に立つ
和喜于今梅一輪 和喜 今に 梅一輪
花只待望黄鳥語 花は只待ち望む 黄鳥の語
吾ク氷解又迎春 吾郷 氷は解け 又 春を迎ふ
<解説>
転句の「花只」は「野興」か「野性」も考えました。
<感想>
承句の「于今」は「今になるまで」と訳されることが多いので、「只今」「方今」辺りが良いでしょうね。
「今」にこだわらなければ、「時開」「只看」で、時間の言葉を入れることで「やっと」というニュアンスは出るかと思います。
転句は「花」と「黄鳥」の関係で面白いですが、承句で「ようやく梅が一輪開いた」と喜び、また「黄鳥」を「只待望」は欲張り過ぎな感じがしますね。
代案の「野興」「野性」は、「閑庭」とは不釣り合いな印象ですので、せっかくの梅一輪の「香」を出してみるなど、検討してはどうでしょう。
結句は問題無いと思います。
2021. 3. 9 by 桐山人
作品番号 2021-114
山中僻村
日暖柔光喜氣屯 日暖かに 光柔らか 喜気の屯
朝陽粲粲物光暄 朝陽 粲粲 物光暄(あたた)か
時吹風冷揚砂石 時に吹く 風冷やか 砂石を揚ぐるも
蕪野春郊夕照村 蕪野 春郊 夕照の村
<解説>
山に囲まれた僻村、静かで穏やか、温かい生活がある。
<感想>
お書きになったように、穏やかな山村の様子が前半に出ていると思います。
ただ、「日」と「光」(「光」は承句と重複しています)、「陽」と同じ意味の語が繰り返されています。
細かく見ると更に、「暖」と「暄」、「屯」と「村」も重複感があります。
また、承句で「朝陽粲粲」と言って、結句で「夕照村」となると時間変化が大きいですね。
その辺りを整理する方向で見ていきましょう。
韻字である「暄」を生かす事を考えて、起句の「暖」を削りましょう。
「滿地」「滿目」と拡がりを出して行きましょう。
承句は時刻を限定せずに「春陽」としておきましょう。
転句は変化を出したところですね。あまり大き過ぎると、この句だけ浮いてしまいます。「午風剪剪撫砂石」くらいで抑えておきましょうか。
結句は「村」を使うのは良いですので、起句の「屯」は動詞として「喜気屯す」と読みましょう。
時刻を合わせる形で下三字を「歩午村」として、上は「蕪野」では寂しすぎますので「舊里融然歩午村」などでどうでしょう。
2021. 3. 9 by 桐山人
作品番号 2021-115
冠菌與醫者
跳梁巢窟晝眞昏 跳梁 巣窟 昼真た昏し
匍匐雰埃蠢動存 匍匐 雰埃 蠢動存す
救世妙玄探窈眇 救世の妙玄 窈眇を探る
良醫至徳萬人援 良医 至徳 万人を援けよ
<解説>
蝙蝠やセンザンコウなどウヰルスの源と戦って悪疫を退治する医者を詠む。
<感想>
起句の「眞」は無理に入れた感じで意味が分かりにくくなっています。「常」としておけば良いでしょう。
前半は注が無いと意味がつかめないですね。起句はまだ蝙蝠かな、と考えられますが、承句はセンザンコウ、これ自体が馴染みが無い生き物ですし、急に詩中に出てきても混乱します。
作者にしか分からない詩ですので、前半をもう少しウイルスそのものに向かうようにすべきですね。
でないと、後半の医者の活動も動物に対して立ち向かうような感じになってしまいます。
最後の「援」も辞書によって韻違いとしているものもありますので、別の韻字にした方が良いですね。
2021. 3. 9 by 桐山人
作品番号 2021-116
節分會
春光照耀滿香臺 春光 照り耀き 香台に満つ
一脈惠風動冷灰 一脈の恵風 冷灰を動かす
此日高聲轉般若 此の日 高声に 般若を転じ
驅儺疫鬼願消災 疫鬼を駆儺し 消災を願ふ
<感想>
承句の「春光」、承句の「惠風」「動冷灰」は、春を感じさせる画面配置ですね。
ただ、「滿香堂」ですと、もう香堂には風も入って来られないので、「滿」を「照」「入」くらいで、少しゆとりを持たせた方が良いでしょうね。
結句の「驅儺」は「追儺」と同じ、後半は、節分会で経を読み、疫病神を追い払い、災いが消えることを願うという流れですが、良く分かります。
「願消災」はイメージとしては地味ですが、これだけ長いコロナ禍の中ですので、まずは「消」を願うのは良い表現だと思いました。
2021. 3. 9 by 桐山人
作品番号 2021-117
立春
逐節皇隨處臻 節を逐って 青皇 随処に臻り
素梅點點綴珠新 素梅 点点 珠を綴って新たなり
昨宵撒豆伏邪鬼 昨宵 豆を撒き 邪鬼を伏し
今曉慇懃迎立春 今暁 慇懃に 立春を迎ふ
<感想>
起句で「青皇が随処に臻る」という割に、梅が点点では少ないですね。
承句は梅に加えてもう一つくらいは素材が欲しいところ、あるいは起句の「随処」を「陋屋」「此處」と近くに持ってくるか、どちらかが良いと思います。
2021. 3. 9 by 桐山人
作品番号 2021-118
春日感懷
牆梅漫綻又迎春 牆梅 漫綻 又春を迎へ
下校兒童笑語頻 下校の児童 笑語頻り
往時追懷紅頰頃 往時 追懐す 紅頬の頃
喜怨哀樂獨怡身 喜怨哀楽 独り身を怡ばす
<解説>
小学生下校時の見守りを奉仕して既に十五年が過ぎた。
今も週一回路傍に立哨しているが、八十余年前の風景を懷古して自然と怡顔となる。
<感想>
登下校の見守り、奉仕して下さる方々で成り立っていますね。
大変ですが、ご自身の子供の頃を思い出して、楽しく続けていただければ、子供たちも明るい気持ちになれるでしょうね。
前半は良い流れですね。
転句は「時」の平仄が違いますね。「往昔」としましょう。
結句の「怨」は「五情」の一つですので、「喜哀楽」と組んでも良いわけですが、通常は「喜怒哀楽」ですので何となく収まりは悪いですね。
また、子どもの頃を思い出して顔が綻んだとするのに、「怨」や「哀」は要らないですね。
「舊情萬感」としてはどうですかね。
2021. 3. 9 by 桐山人
作品番号 2021-119
早春賦
野塘遊歩渡頭淵 野塘 遊歩す 渡頭の淵
遙眺三江濃尾邊 遥眺す 三江 濃尾の辺(ほと)り
伊養翠巒斑雪跡 伊養の翠巒 斑雪の跡
藍蘇豐潤早春先 藍蘇の豊潤 早春の先(はじ)め
蒼穹凛烈寒威迫 蒼穹 凛烈 寒威迫り
麥隴毿毿淑氣鮮 麦隴 毿毿(さんさん)と 淑気鮮なり
悵望旅愁遊子意 悵望す 旅愁 遊子の意(こころ)
唯孤靜晏坐萌氈 唯孤り 静晏 萌氈に坐す
<解説>
以前、吟社の総会が終った後、木曽三川流域を遊歩した。
伊吹、養老両嶺の残雪、三川流域の若草など忘れ難い風景である。
<感想>
七言律詩になると、描写が濃やかになり、情景も心情も深みが感じられます。
二月上旬、立春の頃の季節の変化を拾いながら、パノラマを観ているような趣ですね。
「遊」の字が重複しています。
第一句の方を「閑歩」「歩歩」としましょうか。
対句は「伊(伊吹)養(養老)」「藍(長良川)蘇(木曽川)」の固有名詞の対、「凛烈」(双声)と「毿毿」(畳語)の語対も良いですね。
やや甘いとすると頷聯で、「翠巒」の(名詞)に「豊潤」の(形容詞)、ここは「豐水」ですかね。
中二字の形容詞は、頸聯にも同じ位置にありますので、良くないですね。
尾聯は「悵望」「唯孤」と暗くなりますが、「坐萌氈」と結ぶので、あまり重くしない方向が良いですね。
「時得旅愁」「暫時靜晏」のようにして収めてはどうでしょうね。
2021. 3. 9 by 桐山人
作品番号 2021-120
春日閑居
庭梅枝上鳥聲頻 庭梅の 枝上 鳥声頻り
窗外春光画景眞 窓外の 春光 画景眞なり
野客凡才詩道遠 野客 凡才 詩道遠し
無聊寂寂一閑人 無聊 寂寂 一閑人
<解説>
屋外は春の気配が満ちてきたが、外出もならないこの頃、
家にいて詩を詠もうとしてもなかなかうまくいかない。
楽しみもなくさみしくくらしている心境です。
<感想>
前半は叙景、後半は自身の現在の姿を描き、無理の無い展開になっていますね。
起句を読むと作者は庭に出ているのかと思いましたら、承句では室内から眺めているようですね。
起句は鮮明な描写で、そのまま行きたいので、「窗外」を「滿目」「滿地」などで、屋外に居る様子にしましょう。
後半は大きな齟齬はありませんが、「野老菲才」くらいが結句との照合が良いでしょうね。
2021. 3. 9 by 桐山人