作品番号 2020-151
訪秋條寺
古邑小春山寺明 古邑小春 山寺明るし
林園苔拷f陽清 林園 苔緑に陽に映じて清らかなり
柔和伎藝天尊像 柔和伎芸天尊像
唯一千秋扶衆生 唯一千秋 衆生を扶く
作品番号 2020-152
小鳥飛來
春天温暖片雲流 春光温暖 片雲流る
雀去庭中風韻幽 雀去り庭中 風韻幽なり
白眼一雙來吸蜜 白眼一双 来りて蜜を吸う
黄翎端麗囀聲優 黄翎(こうれい)端麗 声優しく囀ずる
作品番号 2020-153
初日出
歳朝瑞氣旭光新 歳朝瑞気 旭光新なり
朋友同盟詩趣親 朋友同盟 詩酒親しむ
音吐琅琅雲海畔 音吐 琅々 雲海の畔
令和二歳幸天春 令和二歳 幸天の春
作品番号 2020-154
早春盡日
早春二月聽倉庚 早春二月 倉庚(そうこう)を聴く
訪友別莊吟屐輕 訪友別荘 吟履(ぎんげき)軽し
久濶披襟頻笑語 久濶 披襟 頻りに笑語
歡談一日忘歸程 歓談一日 帰程忘る
作品番号 2020-155
新春尋梅
新春雪解恵風吹 新春雪解け 恵風吹き
吟杖尋梅淺水涯 吟杖梅を尋ね 浅水の涯
舌渋鶯兒聲漸渡 舌渋(ぜつじゅう)の鴬児 声漸く渡り
耐寒素魄擅氷姿 寒に耐うる素魄(そはく) 氷姿を擅(ほしいまま)にす
作品番号 2020-156
春日山行
花燃山麓浴春光 花燃える山麓 春光に浴し
驕舌流鶯遷囀昌 驕舌の流鴬 遷囀(せんてん)昌(さか)んなり
石路斜通衣染彩 石路斜めに通じ 衣 彩に染まり
雪殘杳嶺鼓詩腸 雪残の杳嶺 詩腸を鼓す
作品番号 2020-157
冬夜偶成
一樽濁酒鷺鷗盟 一樽の濁酒 鷺鴎(ろおう)の盟
神韻談來到二更 神韻談じ来り 二更に到る
月挂中天吾伴月 月は中天に挂り 吾月に伴う
寒威凛烈忘歸程 寒威 凛烈 帰程を忘る
作品番号 2020-158
歳晩偶成
破壁青燈夜色寒 破壁(はへき) 青灯 夜色寒し
清貧守拙獨長歎 清貧 守拙 独り長歎す
年華將逝鐘聲響 年華 将に逝かんとす 鐘声の響
七十八齢空老殘 七十八齢 空しく老残
作品番号 2020-159
春日賽佛舎利塔
濃春漫歩弄風光 濃春漫歩して 風光を弄す
一路尋花陟小岡 一路 花を尋ね 小岡(しょうこう)を陟(のぼ)る
清境無人山寺靜 清境 人無く 山寺静かに
凌天佛塔燿斜陽 天を凌ぐ仏塔 斜陽に燿く
作品番号 2020-160
愛鷹連峯
從田子浦望威容 田子浦(たごのうら)より威容を望む
黛色長巒似臥龍 黛色 長巒 臥竜に似たり
吹起松風雲散盡 吹き起る松風 雲散じ尽き
晴空六嶽愛鷹峯 晴空六岳 愛鷹峯
愛鷹連峰の六岳、越前岳、呼子岳、大岳、鋸岳、位牌岳、愛鷹山。
南は富士市、沼津市、北は裾野市に位置す。
作品番号 2020-161
春日問蓑蟲
西空赤染夕陽傾 西空赤く染まり 夕陽傾き
東野黄昏月影清 東野黄昏(たそがれ)て 月影清し
急卒烈風何在意 急卒烈風 何ぞ意在るや
蓑蟲搖問有鑾鳴 蓑虫揺れて問う 鑾鳴有りかと
西には赤い霞が夕陽に照らされている。
それなのに、東の雲の上では薄く白い月が上がっている。
急に春一番に似た風が来た。この風は何かの前兆か。
蓑虫、「この音は天使の馬車が来たか」と問うている。
作品番号 2020-162
拗軀踊
野歌輪舞屈伸腰 野歌輪舞 腰を屈伸せる
簫笛鼓鐘東寺囂 簫笛鼓鐘 東寺の囂
滿笑温顔交老若 笑いに満ちる温顔 老若交える
躍心拗體踊連宵 躍心の拗体(ようたい) 連宵を踊る
盂蘭盆会(盆踊り)昼寝して英気を貯め、やがて出かける。
連夜何を思うか聴く。ただ破顔。
何か思うところがあるのだろう、今宵も終わるまで踊る。
作品番号 2020-163
戯與孫遊
孫兒招老稿圍中 孫児老を招いて 稿囲(こうい)の中
倣母諸諸辯舌窮 母に倣いて諸諸 弁舌窮まる
主客泥餐歡笑應 主客泥餐 歓笑して応う
桃源至福夕陽翁 桃源至福 夕陽の翁
子供のままごとに誘われ、楽しむ老人。
泥の団子も楽しく戴く。
いつしか老人は心から桃源郷の世界にいるようで、寒い冬でも心も温かくなり、夕日はおりしも楽しそうな老人を照らしている。
作品番号 2020-164
対峙寒鴉
霜曉寒鴉集芥存 霜暁の寒鴉 集芥(しゅうかい)に存り
破包撒散道汚痕 包を破り撒き散らして 道に汚痕
欲追逞鳥詰間隔 逞鳥(ていちょう)追わんと欲し間隔を詰むも
逐斥仇怨止雜言 逐斥すれば仇怨 雑言に止む
散歩に出るとごみ捨て場に鴉が来た。
周りに気にする訳でもなくすぐゴミをつつき出した。
「傍若無人」の態度が許せない。
追い払おうとしたが相手も強か。
問合いを詰めて更に追おうとしたが「鴉を虐めると仕返しされる」と流言を思い出し、深追いを止めた。
作品番号 2020-165
觀月聽二胡演奏
郁郁桂花棍随 郁郁(いくいく)として桂花 梵城に(かお)り
二絃妙韻動幽情 二絃の妙韻 幽情を動かす
風和彈曲渡秋夜 風 彈曲に和して 秋夜を渡り
月照禪庭影轉清 月 禪庭を照らして 影転た清し
作品番号 2020-166
歳晩書懐
皇位繼承新令和 皇位継承し 令和に新まり
平成昭代夢中過 平成の昭代 夢中に過ぐ
空齋靜坐窮陰夜 空斎静かに坐す 窮陰の夜
燈燼殘生欲奈何 灯燼き 残生 奈何せんと欲す
「昭代」: おだやかに治まっている世。
「窮陰」: 晩冬、歳末の年まさに尽きようとする時期
「燈燼」: ろうそくの燃え滓、燃え残り。
「残生」: 残り少ない命、残命。
作品番号 2020-167
庚子元旦
曈曈初日照鴟尾 曈曈(とうとう)たる初日 鴟尾を照らし
習習春風颭旆旌 習々たる春風 旆旌を颭(そよが)す
先獻佛前新歳水 先ず佛前に献ず 新歳の水
令和御宇願f平 令和の御宇 昇平ならんことを願う
「鴟尾」: 仏殿・宮殿などの大棟の両端に取り付けた装飾。鳥または魚の尾をからどったもの。
「旆旌」: 旗、旌旗の総称。
「御宇」: 御世、御代。天皇の治世。
作品番号 2020-168
節分
梅花綴玉發清芬 梅花 玉を綴って 清芬を発し
習習東風拂凍雲 習々たる東風 凍雲を払う
此日驅儺春正到 此の日 儺を駆し 春正に到り
潔齋撒豆破魔軍 潔斎し豆を撒き 魔軍を破す
「駆儺」: おにやらい、疫鬼をはらう。
作品番号 2020-169
新春暖風
君容我弊氣澄明 君 我が弊を容れ 気澄明
我許君瑕意穏平 我 君の瑕を許し 意穏平
五十親交無別事 五十 親交 別事無し
光頭對酌恵風行 光頭対酌すれば 恵風は行く
人は皆欠点を持っているが、お互いに受容してやれば対立はない。
五十余年にわたる付き合いも、何も特別なことは無かった。
新年に遠来の友を迎えて、禿げ頭同士が飲めば、何とも心地よい風が、そっと抜けて行く。
お互いの 癖欠点を 受け流し 五十余年を 飲みきたる哉
作品番号 2020-170
土佐鰹魚
鰹魚秋日満多脂 秋天の鰹魚 多く脂に満つ
藁火包身燒半皮 藁火身を包み 半皮を焼く
麥酒泡音輕又好 麦酒の泡音 軽又好し
醤油大蒜點山葵 醤油 大蒜 山葵を点ず
秋のカツオは土佐作りに限る。
藁で盛大に焼いて、皮をこがす。
ビールを注ぐ音のシュワーとくるのがたまらない。
醤油とニンニクに山葵を足せば、完璧だ。
作品番号 2020-171
錦秋
高雲不動近雲流 高雲は動かず 近雲は流る
隘路行人止歩休 隘路の行人 歩を止め休む
回首一望登過徑 首を回らし登り来る路を一望すれば
千林萬彩正金秋 千林万彩 正に金秋
上層の雲は動かないが、近い雲は流れている。
狭く険しい道では、歩を止めて休むしかない。
振り返って登ってきた路を一望すれば、千林ことごとく彩られて、まさしく錦秋の美を誇っている。
作品番号 2020-172
悔恨詩
昔日驕浮自恃英 昔日の驕浮 自ら英を恃む
反師侮世陥罠阬 師に反し世を侮り 罠阬(びんこう)に陥る
人生難復青春季 人生復(もど)し難し 青春の季
後輩諸君須避盲 後輩の諸君 須く盲を避くべし
昔は生意気で自尊心ばかり高く、
先生を小馬鹿にしたり友人を侮ったりして、人生の罠阬に陥った。
と言って、青春のやり直しはできない。
後輩諸君、須くこの世間知らずを避けよ
作品番号 2020-173
讃樹上園
障者育成甘夏柑 障者育成す 甘夏柑
施肥除草四時涵 施肥 除草 四時の涵(みずやり)
薄酸美味宜餐後 酸薄く美味 餐後に宜し
樹上笑顔唐瀬南 樹上(きのぼり)の笑顔 唐瀬の南
知人より贈られた甘夏柑
静岡市唐瀬にある障碍者就労支援事業所「きのぼり」の一文
「下草刈り・肥料散布を繰り返し収穫を迎えることが出来ました」
とあった。
作品番号 2020-174
深良用水有感
寛容住昔箱根水 寛容 住昔 箱根の水
狹量今時大井川 狹量 今時 大井川
縣政徒唆渇流域 県政徒らに流域渇すと唆(そそのか)し
磁懸工事自遷延 磁懸(リニア)の工事 自ら遷延せんとす
今年は深良用水開鑿三百五十年。
リニア新幹線の南アルプストンネルは全長10q余、標高1100m、深度350〜1,400m。
外輪山を刳り貫いて箱根芦ノ湖の水を富士山麓深良川へ導水、全長1.2q、標高700m。最大深度150m、湖尻峠標高850mの下を通る。
大井川の水、環境。JRの実直な文書に対して、県の装いはアカデミズム。空想縦横、実態を欠く。
作品番号 2020-175
讚橄欖球日本隊
擧應一呼龍虎英 一呼 挙(こぞ)り応ず 龍虎の英
闘魂一迫賭輸嬴 闘魂一に迫り輸嬴(ゆえい)を賭す
循環一位登淘汰 循環(リーグ)一位 淘汰(トーナメント)へ登る
面目一新櫻勇名 面目一新 桜の勇名
読み下しに代えて、このような戯れ歌が判りよいかな。
「呼べば応える選手の気魂
闘魂ただただ勝負に賭けて
リーグ一位でトーナメントへ
やったぞ桜のワンチーム」
リーグ戦は「循環賽」、トーナメントは「淘汰賽」です。
作品番号 2020-176
悼中村哲醫師
施醫貧巷問根源 医を貧巷に施し 根源を問い
自汗導渠甦轟エ 自ら汗し渠を導き 轟エ甦る
久照一隅誠一貫 一隅久しく照らさん誠一貫
不撓不屈住心魂 不撓不屈の心魂住まらん
2008年、中村医師の許で活躍された伊藤和也さんが誘拐殺害された。
その後も「照於一隅」を貫かれた中村医師の事績は、アフガン和平の一里塚となろう。
お二方の霊魂彼の地にとどまる。
ただただご冥福を祈る
作品番号 2020-177
原發是怪物
怪物讎牙暴虐威 怪物の讎牙 暴虐の威たり
辟倪異體素心違 辟倪の異体 素心違う
文明進歩伴瑕疵 文明の進歩 瑕疵を伴うを
科學倫常問是非 科学倫常 是非を問へ
作品番号 2020-178
斷密集密着密閉
感染蔓延醫伯忙 感染 蔓延 医伯 忙たり
危機逼迫引愁長 危機逼迫して 愁長を引く
奈何病毒好三密 奈何せん 病毒(ウイルス)三密を好む
老若停停自肅強 老若停々たり 自粛強いる
作品番号 2020-179
津和野城址
羊腸登壘嶝 羊腸 塁嶝を登り
枯杖至巒岡 枯杖 巒岡に至る
基址對元寇 基址 元寇に対り
精兵事覇王 精兵 覇王に事う
榊f稜角櫓 緑蘿 稜角の櫓
紫塞曲輪墻 紫塞 曲輪の墻たり
旗影都如夢 旗影 都て夢の如し
荒墟立夕陽 荒墟 夕陽に立つ
元寇の翌年、西岩見の地頭として赴任した吉見頼之が築城、海防から始まった。
戦国末期、吉見氏は毛利氏の傘下にあり、関ケ原の戦い後、吉見氏に代わって大阪落城の折千姫を救出した坂崎直盛が入城。
更に亀井政則に引き継がれ、維新廃藩まで十一代続いた。
亀井政則は家康、秀忠の近習を勤め、徳川氏の外戚に当たる。
作品番号 2020-180
初優勝 徳勝龍
孜孜奮励正相宜 孜孜(しし)奮励 正に相宜し
連戰殊勲力士姿 連戦の殊勲 力士の姿
平幕賜杯多感動 平幕の賜杯 感動多し
十年苦節報恩時 苦節十年 報恩の時
令和二年一月場所の優勝力士は、幕尻の徳勝龍でした。
「自分なんかが優勝して良いんでしょうか」「もう三十三歳ではなく、まだ三十三です。」のインタビューが印象的でした。