作品番号 2020-361
猛暑日
炎威連日奈驕陽 連日の炎威驕陽を奈(いか)んせん
流汗淋漓心欲狂 淋漓(りんり)流汗 心狂わんと欲す
補水嘗鹽屈伸體 水を補ひ塩を嘗め 屈伸の体
濱松夏暑不尋常 浜松の夏暑 尋常ならず
今年の夏は猛暑が続きコロナと熱中症で高齢者は大変です。
浜松市では今年の夏、全国で一番の四一・一度の暑さを記録しました。
作品番号 2020-362
廣播體操(ラジオたいそう)
早朝旋律八音昂 早朝の旋律 八音昂る
老幼怡顔聲發揚 老幼の怡(い)顔(がん) 声発揚す
屈曲伸長身爽快 屈曲伸長 身爽快なり
參加證印數囘慶 参加の証印 回を数へて慶ぶ
毎朝のラジオ体操、子供から老人まで一緒になって行っております。
健康増進と地域のつながりを大切に爽快な気持ちになります。
作品番号 2020-363
竹裏之家
新篁刷翠鎭吾心 新篁翠を刷き 吾が心を鎮め
經竹幽棲隠耀欽 経竹幽棲 隠耀を欽(うやま)ふ
煮茗草廬山遠近 茗を煮る草廬 山遠近
蛙聲杳杳雨霖霖 蛙声杳々 雨霖々
空襲を避けて庵原に小二で疎開した私。
父と初めて柴田家に行った竹藪の中のお宅は「舌切り雀」のお宿の様だとびっくりした。
後に陰徳のある家の話を父がしてくれた。
作品番号 2020-364
虞美人草
黄花舞踊玩芳辰 黄花舞ひ踊り 芳辰を玩ぶ
午節柔昭八十春 午節柔らかに昭らす 八十の春
追憶少年多感季 追憶す少年 多感の季
僝文漱石配佳人 文を僝(あらわ)す漱石 佳人を配す
ケシ科の花を三種詩にしてみました。
この「虞美人草」は漱石
次の「雛罌粟之花」はアグネスチャン
「花菱草」は原野の野草
作品番号 2020-365
雛罌粟之花
薫風窃搖雛罌粟 薫風 窃に揺らす 雛罌粟(ひなげし)
燦燦陽光結夢時 燦燦たる陽光 夢を結ぶ時
澹艷頌歌聲敞唱 澹艶(たんえん) 頌歌(しょうか) 声敞(たか)く唱(うた)ひ
之花弔戦有誰知 之(こ)の花 戦ひ弔ふを誰知る有りや
作品番号 2020-366
花菱草
翩翩雙蝶入朝園 翩翩(へんぺん)双蝶 朝園に入り
暖暖陽光隔世喧 暖暖陽光 世喧(せけん)を隔つ
忽到狂風花瓣散 忽ち到る狂風 花弁散らす
蕪荒獨往滿春原 蕪荒(ぶこう) 独(ひと)り往き春原に満つ
作品番号 2020-367
詩仙堂丈山寺偶成 其一
清閑紅葉寺 清閑 紅葉の寺
返照滿幽林 返照 幽林に満つ
鐘磬暝雲滲 鐘磬 暝(めい)雲(うん)滲み
芳香覺海深 芳香 覚海深し
季節ごとの庭園の変化、東山の静けさ、寺の調和は尋ねるたびに、驚きと発見があり、心が和らぎます。
作品番号 2020-368
詩仙堂丈山寺偶成 其二
掲詩方丈室 詩を掲(かか)ぐ 方丈の室
三徑老苔侵 三徑 老苔侵す
仙筆煙霞癖 仙筆 煙霞の癖
應知凹凸心 応(まさ)に知る 凹凸の心
住いの壁の丈山(凹凸)筆の隷書で書かれた詩仙色紙が印象的です。
作品番号 2020-369
詩仙堂丈山寺偶成 其三
招提松籟靜 招提(しょうだい) 松籟静かに
篁竹叫山禽 篁竹 山禽叫ぶ
幽砌無人掃 幽(ゆう)砌(せい) 人の掃ふ無し
參禪世外心 参禅 世外の心
作品番号 2020-370
偶成
金風吹鬢髪 金風 鬢髪を吹き
緩歩倚松吟 緩歩 松に倚(よ)りて吟ず
徑畔凝霜菊 径畔 霜を凝(こら)す菊
蓮峯夕日沈 蓮峰 夕日沈む
刻々と変化する夕方の霊峰富士は、秋が一番です。
作品番号 2020-371
太極拳
首夏緑園朋集來 首夏緑園 朋集ひ来る
屈肢伸背鬱胸開 肢を屈し背を伸ばし鬱胸開く
胡琴仙客模柔軟 胡琴仙客 柔軟に模す
汗散薫風方快哉 汗散じ薫風方に快なる哉(かな)
今年はコロナ禍で、太極拳もホールで出来ない為、急遽公園で行いました。
「胡琴」: 琵琶 太極拳24式5番目の形
満開の桜を見たり、桜吹雪を見たり、又美しい新緑を見て思わぬ良い気分で運動が出来ました。
「仙客」: 鶴 太極拳24式3番目形
作品番号 2020-372
苦熱
流汗淋漓午熱中 流汗淋漓(りんり) 午熱の中(うち)
乾坤炎魃正如烘 乾坤 炎魃(えんばつ) 正(まさ)に烘(や)くが如し
濱松大暑八州一 浜松大暑 八州一
奇異天時驚愕窮 奇異なる天時 驚愕の窮み
八月十七日浜松は日本一の高温になりました。
「炎魃」: 日照りをおこす神
其の温度なんと41.1度でした。過去最高です。
異常気象はとどまる事がありません。
作品番号 2020-373
四時之詞
清明時節賞芳行 清明の時節芳を賞(め)でて行く
爛漫紅雲双屐輕 爛漫の紅雲 双屐(そうげき)軽(かろ)し
夏曉蓮花香玉立 夏暁蓮花 玉立し香り
午天梨樹競珠成 午天梨樹 珠成るを競ふ
西風嫋嫋郊墟渡 西風嫋嫋(じょうじょう) 郊墟(こうきょ)渡り
霜葉紛紛林徑盈 霜葉紛々 林径に盈(み)つ
愛日茶梅籬落染 愛日茶梅 籬落染む
復過一歳雪鋪瓊 復た過ぐ一歳 雪瓊(ゆきたま)を鋪(し)く
歳のせいか一年が早く過ぎ去って行くような気がします。
「珠」: 果実
自然界も昔と変わって来ています。
いつまで今までのような作詩が出来るのか心配になってきます。
作品番号 2020-374
秋夜偶感
氷輪皎皎露華清 氷輪 皎皎 露華清し
庭院籬邊促織吟 庭院の籬邊 促織の吟
獨坐南軒懷往事 独り南軒に坐し 往事を懐ふ
親朋消息愴心深 親朋の消息 愴心深し
<感想>
起句は韻が違いますが、何の字と間違われたのでしょうか?
合いそうな「下平声十二侵」の字ですと、「沈」「侵」くらいですか。
冷ややかな月の夜、庭からの虫の音、こんな夜はとりわけ寂しい気持ちになるものですが、ここでは「親朋消息」が来て、友人の訃報でしょうか、哀しみの気持ちが深まったということで詩を結んでいます。
これはこれで分かるのですが、どうも順番を逆にした方が自然に感じます。
つまり、転句に手紙のことを入れ、その結果、「獨坐」と流していく形で行けば、「懷往事」と余分な心情を入れることも無くなります。
そういう方向で検討してはいかがでしょうか。
2020.12.30 by 桐山人
転句は「朋友音書」ですので、訃報ではなかったのですね。失礼しました。
そのお手紙で「風雅去」というのは、どう解釈すれば良いでしょうか。
結句の「愴心」がどのようなものか、読者に伝えるためにも、ここは具体的な描写が欲しいですね。
作品番号 2020-375
寒夜読書
冬雷殷殷冷雲天 冬雷殷殷 冷雲の天
風籟騒騒簷宇先 風籟騒騒 簷宇の先
半夜寒爐一灯細 半夜 寒炉 一灯細し
殘書更閲范公篇 残書更に閲する范公の篇
<解説>
「冬雷」: 北陸では、雪起こし・鰤(ぶり)起こしと呼ぶ冬の始まりを告げる雷
「寒炉」: 火が燃え尽きた火鉢。
「残書」: 読みさしの書物。
「范公」: 南宋の詩人范成大。
「篇」: 書物を構成する一部分。
<感想>
前対格でよくまとまっている詩だと思います。
最後の結びも「殘書」が効果的で、まだまだ先があるぞ、という過去と未来を繋ぐ役割を果たして、希望を感じさせます。
起句と承句の対句で、「殷殷」と「騒騒」としたのは、どちらも自然現象の「音」、それも騒がしいものが並んでいるので、せっかくの対句ですがやや平板な印象です。
冬の夜の厳しさを表すのに「音」だけで良いか、と考えて、もう一工夫検討しても面白いと思います。
2020.12.30 by 桐山人
作品番号 2020-376
寒夜読書
俗塵困頓座虚堂 俗塵に困頓して 虚堂に座す
啜茶詩思百事忘 茶を啜り 詩を思ひ 百事を忘る
深夜讀書猶不倦 深夜の読書 猶ほ倦まず
氷輪幽意有希望 氷輪に幽意し 希望有り
<感想>
本当に大変な一年でしたね。
起句の「俗塵困頓」はその辺りを簡潔に表していますね。
ただ、下三字との繋がりを考えると、「座」(本来は「坐」が良いですが)よりも「匿」とした方が良いですね。
承句は平仄が違いますし、中二字は語順が逆でしょう。「鍛句敲詩」として平仄は合わせておきますが、下三字の「百事」が必要かどうか、起句と逆になるような気もしますし、ここは検討が必要でしょう。
結句は美しい景色ですが、「希望」に繋がるためには「幽意」では弱いと思います。「C冷」「皎皎」など、もう少し強調しておくと収まりが良くなりますね。
2021. 1. 4 by 桐山人
作品番号 2020-377
歩曽爾高原 曽爾(そに)高原を歩く
廣野銀波茅穂暉 広野 銀波の茅の穂 暉(ひか)り
鱗雲漂蕩鳥聲微 鱗雲は漂蕩し 鳥声微かなり
芟除面衣味山氣 面衣を芟除(さんじょ)し 山気を味わふ
遠碧病根収束祈 遠碧に 病根の収束 祈る
<解説>
10月下旬に奈良・三重県境の曽爾高原を歩いた。
ススキの穂は一面に白銀に光り、鰯雲は悠々と漂い、どこからか鳥の声が聞こえる。
マスクを外して深呼吸し山の空気を味わう。
遠い青い山なみを見ながら コロナの早い収束を祈る。
<感想>
起句は視界が流れるように拡がって行きますね。
分かりやすい句だと思います。
承句の「鱗雲」は和語でしょうから、「高雲」「巻雲」として、あまり色を出さないようにしておくと起句の「銀波」とぶつからなくて良いでしょうね。
転句は「マスクを外して」ということですが、「摘口罩」がよく使われますね。
コロナ禍の中ではマスクのことは是非書いておきたいところだったのでしょうが、「衣」は名詞用法では平声ですので、何か爽やかな秋の気配を出しても良いでしょうね。
結句は「遠碧」が「病根」に掛かっていく、つまり「遠碧の病根」と読んでしまいます。
上四字を「収束病根」として、下三字は「祈」を修飾する言葉を考える形でしょうか。
私としては、転句で「マスク」が入ればもう十分で、それほど引きずらずに、結句はもう高原の景色に戻っても良いと思います。
2021. 1. 4 by 桐山人
作品番号 2020-378
想森友文書改竄問題
命令上司文改刪 命令する上司 文の改刪を
抵排下吏抗強頑 抵排する下吏 強頑に抗ふ
士辛屈服自経果 士(おとこ)は辛し 屈服 自経で果て
妻欲熟知深奥艱 妻は欲する 熟知 深奥の艱(なや)み
婦訴死因誠解析 婦は訴ふ 死因 誠の解析を
国呈混濁晩通関 国は呈す 混濁 晩(おそ)き通関
莫容隠蔽逋逃僚 容(ゆる)す莫かれ 隠蔽逋逃(ほとう)の僚
真相究明寧晏寰 真相の究明 寧晏の寰(せかい)を
<解説>
悩みに悩んだ末、迷いに迷った挙句、上司や国を相手に裁判に訴えた奥様の勇気ある行動に敬意を表し、また文書改竄問題の究明を強く願って創りました。
<感想>
義憤のお気持ちが強く出ている詩ですね。
ただ、言葉として重なっているものが多く感じます。
例えば、「深奥」「死因」「真相」とか、「熟知」「誠解析」「通関」「究明」、細かいところでは「妻」と「婦」、「混濁」と「隠蔽」も近いですね。
その分、怒りの気持ちが出てくるとも言えますが、主題を示す点ではもう少し詩を短くできるかとも思いますし、その方がインパクトが強くなると思います。
2021. 1. 4 by 桐山人
作品番号 2020-379
書懷
志如翔鳥又游魚 志は翔鳥の如く 又た游魚の如く
不敢從人出草廬 敢へて人に従って草廬を出でず
獨倚清風閑適客 独り清風に倚る閑適の客
行爲中隱意聊書 行ゆく中隠為(た)らんと意聊か書す
<解説>
気持ちは空を行く鳥や 水に戯る魚なので
立身出世のことなんて わざわざ考えたりしない
ひとり清らの風のなか 自適のくらしとうそぶいて
目指しているのは中ほどの 隠者だからと書きつける
<感想>
承句の「不敢」は難しい言葉で、語順が変わると意味が逆になってしまいます。
この「不敢○○」は「進んで○○しない」「決して○○しない」となり、「敢不○○」ですと反語で「○○するだろうか、いや、○○しない」となります。
観水さんのこの詩の場合も「自分から草廬を出ることはしない」ということです。
観水さんの作詩の充実振りを見ていると、「いやいや、隠れてないで出て来てよ」とつい表に引っ張り出したくなりますが、気持ちの強さ・意志の堅さが感じられる承句ですね。
「小隠は山野に隠れ、大隠は街衢に隠れ」るわけで、「中隠」を目指した白居易のように、千年に名を残す詩人を目指して欲しいですね。
2021. 2. 3 by 桐山人
作品番号 2020-380
壇ノ浦
平家追彦島 平家 彦島に追はれ、
反撃試無謀 反撃 試みるも無謀なり。
奪戻三神器 奪ひ戻さん 三神器、
飛移御帝舟 飛び移る 御帝舟。
朝来乗海走 朝来て 海走に乗じ、
午去逆潮流 午去り 潮流に逆らふ。
泡洗龍宮夢 泡は洗ふ 竜宮の夢、
怨残蟹甲溝 恨みは 蟹甲の溝に残りたり。
<解説>
ヘイケガニの甲羅には苦悶にゆがむ平家の武者の顔が浮かんでいると言い伝えがあります。
しかし是は人為淘汰という現象で科学的にも証明されていると言われています。そう言ってしまうと身も蓋もありません。
詩人のくせにロマンの無いことを言うと言われてしまいそうです。
別に平家の怨念では無いと言うことだそうで、進化と言うことを考えると科学的にも面白い話です。
<感想>
源平の合戦の最大の山場、壇ノ浦の戦いですね。
歴史の結末は誰もが知っていることですので「反撃試無謀」も分かりますが、ここでまとめてしまうと、後は尾聯に行くしか無く、間の二聯は時間が逆走してしまいます。
「平家追彦島 反撃試無謀 泡洗龍宮夢 怨残蟹甲溝」と絶句にすると収まりが良いので、頷聯と頸聯は後から加えたというところでしょうか。
頷聯はこれは源氏の側の話になるでしょうが、首聯の主語が平家ですので、こちらも平家が主語かと混乱します。少なくとも、前半は同一でまとめた方が良いです。
頸聯は、まさに潮目が変わった場面で、この辺りの表現は巧みですね。
2021. 2. 4 by 桐山人
作品番号 2020-381
帰図書館 其二 図書館からの帰り 其の二
女払枯霊散 女(むすめ)が払ふと 枯霊散り、
携書颯颯通 書を携へ 颯颯と通ふ。
魂生寝室夢 魂は寝室の夢に生じ、
精宿古文中 精は古文の中に宿る。
館影街灯点 館影 街灯点じ、
鱗雲日暮紅 鱗雲 日暮紅なり。
有情揺額髪 情ありげに額の髪を揺らす、
懇謝北西風 懇ろに北西の風に謝せん。
<解説>
嘗てこの題で書いて投稿したので其の続編と言うことで書きました。
二三伝わりにくいところも有るかと思い、注を付けたいかと思います。
「枯霊」: 紅葉の木の葉を敢えてこの言葉にしてみました。
「館影」: 図書館のたたずまい。
「鱗雲」: 鰯雲と行った方が一般的でしょうか?
「北西風」: 関東地方に晩秋から冬にかけて吹く乾いた季節風。
<感想>
図書館がどうとかの難しいテーマではなく、ほわっとしたイメージを描いたものですね。
ただ、第一句は「女」である必要があるかどうか、「女」でも悪いわけではありませんが、何となく古い昭和を感じさせます。
「図書館」・「女学生」というイメージは凌雲さんのノスタルジーでしょうか。
ここを「足下」などとして、自分が歩いている形にすると、ほんのりとした甘さは消えますが、作者の自画像が浮かんできて、趣の新しい詩になると思います。
2021. 2. 5 by 桐山人
作品番号 2020-382
冬月
獒亡家鴨戮於貓 獒(いぬ)亡(し)んで 家鴨(あひる)貓に戮せらる
余病難癒灯且消 余病 癒し難く 灯は且(まさ)に消えなんとす
生死輪廻幾度匝 生死輪廻 幾度か匝(めぐ)る
中天冬月坐深宵 中天の冬月 深宵に坐す
<感想>
昨年の三月でしたか、十五年もの間、生活を共にした愛犬が亡くなられたと伺いましたね。
家族も同様のお気持ちでいらっしゃったのでしょう、落胆も深いことと思います。
「家鴨」も「貓」に害されてしまったとのこと、ショックは重なりますね。
ご自身のお身体への不安も含め、結句の「中天冬月」が凜然と輝き、寂寥の思いを強めていますね。
2021. 2. 5 by 桐山人
作品番号 2020-383
歳暮偶感
百年奇遇痛心年 百年の奇遇 痛心の年
克服国難遊敖虔 国難を克服せんと 遊敖虔(つつし)む
病毒疫苗人類望 病毒の疫苗 人類の望み
憂心歳暮月如弦 憂心の歳暮 月 弦の如し
「遊敖」: 気ままに遊び楽しむ
「国難」: 新型コロナウイルスの蔓延
「病毒疫苗」: 新型コロナウイルスのワクチン
<感想>
この一年を象徴する作品ですね。
コロナウイルスに加えて、災害も繰り返し日本各地を襲い、色々な形で「自粛」と「我慢」を重ねて、ようやくワクチン接種が始まりました。
落ち着いた日常の有り難さを痛感した一年、岳城さんの最後の「月如弦」の心細さが象徴的ですね。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-384
秋日遊行
白雲天際遠山微 白雲 天際 遠山微かなり
秋杪遊行客至稀 秋杪 遊行 客の至れる稀なり
旅愀宿宵迎月酌 旅愀 宿宵 月を迎へて酌む
憑軒望宙雁南歸 軒に憑りて 宙を望めば 雁南に帰る
<解説>
平成二十四年十一月上旬、南アルプス(赤石山脈)南麓、大井川上流(静岡県寸又峡他)に旧友等と旅行した。
<感想>
転句の「愀」は「愁」の代字でしょうか。「旅次」ですっきりすると思いますがどうでしょう。
結句は直前の「迎月酌」で画面は十分伝わっていますので、「憑軒望宙」がもう要らないでしょう。
風とか涼意とかを持ってきてはどうでしょうか。
結句の「雁南歸」は中国北方の地域での言葉で、日本ではこの時期に渡ってきますので本来は言葉としては「北來」になるわけですが、詩の雰囲気としては秋の寂寥感が出て、良い言葉になりますね。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-385
秋蟬即事
竹窗澄景遠峰青 竹窓 澄景 遠峰青し
殘暑秋蜩聲滿亭 残暑 秋蜩 声は亭に満つ
刻急無休鳴切切 刻は急なり 休む無かれ 鳴切切たり
噫乎非理惜蟬齡 噫乎 非理なり 蝉齢を惜す
<解説>
蝉の一生…地上で孵化して(約一年)幼虫となり地中へ、ここで四回位脱皮する(三〜四年)。
地上に出て羽化し成虫となり、約半月の寿命で終る。
<感想>
軽快な筆の運びが感じられますね。
この詩の場合、遠景は要らないように思いますので、起句の「遠峰青」はどうでしょう。
「柳枝青」など、庭の物を出した方がよいでしょうね。
転句からのテンポアップで「切切」の畳語が効果を出していますね。
結句は「噫乎」「非理」「惜」、どれも嘆きの言葉ですので、秋の深まりを感じさせるような言葉を入れると緊張感が増すように思います。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-386
涼月漫興
涼意初秋過野塘 涼意の初秋 野塘を過ぐ
碧天雲外四山蒼 碧天 雲外 四山蒼し
一条十里行人少 一条十里 行人少(まれ)なり
傾日途央客思傷 日傾きて 途央(なか)ばなり 客思傷む
<解説>
「涼月」…八月の別称 「漫興」…気儘に記す 「野塘」…愛知用水路
<感想>
こちらは良く仕上がった詩になっていますね。
起句の「野塘」が全体の画面をうまく切り取っていて、その後の広がり感を導いています。
また、後半の「行人少」から、勢いが凋んでいく流れと言葉が合致して、秋の寂寥感を感じさせる結びになっていると思います。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-387
秋日遊行
野邊遊行午風C 野辺を遊行す 午風清し
小徑虫啼秋色生 小径に虫啼いて 秋色生ず
黄稻如花詩味好 黄稲は花の如く 詩味好し
蜻蛉頭上唱歌聲 蜻蛉は頭上に唱歌の声
※
<解説>
外出もままならないこの頃、自宅近くのあぜ道を散歩し、初秋を満喫しました。
<感想>
読んでいくと楽しくなってくるような詩になりましたね。佳詩だと思います。
場面をもう少し濃く描く形で部分的に見ていくと、承句は「草徑虫聲」としましょうか。
転句はこのままでも良いですが、「如花」と比喩にしないで具体的に稻の様子を描いても良いでしょうかね。
結句は「頭上」で、頭(心)の中に唱歌が浮かんだという関連でしょうか。
飛躍はありますが、日本独自の連想で面白いと思います。
「竿上」とすると、童謡の歌詞とリンクしますので、どこかから歌が流れてくるような印象が出るでしょう。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-388
秋日山行
風冷秋晴石徑微 風冷やかに 秋晴 石径微かなり
溪橋碧水萬山圍 渓橋 碧水 万山囲む
摩崖碑誌聳天半 摩崖 碑誌 天半に聳ゆ
紅葉絶景映夕暉 紅葉 絶景 夕暉に映ず
<解説>
三年前の秋、友人と天龍峽を訪れました。
紅葉の山に囲まれ、吊り橋を渡ったり、名勝の摩崖の碑文を見ました。
<感想>
思い出がしっかり胸に刻まれていたのですね、画面が明瞭です。
転句は「誌」が「聳天半」ではおかしくなりますので、こちらを「碑石」として、起句は「幽徑」が良いでしょう。
戻りますが、「碧水」ですと「深い緑色」ですので広い川になります。
天竜川ですので広いとは言えますが、「萬山圍」となりますと、「緑水」とする方が通じやすいでしょう。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-389
初秋吟
連日殘炎夜熱収 連日の残炎 夜熱収まる
涼風檐馬月光幽 涼風 檐馬 月光幽かなり
書齋倚几親燈火 書斎 几に倚り 灯火親しむ
絡緯聲中先入秋 絡緯 声中 先づ秋に入る
<解説>
夜、少し凌ぎやすくなり、草むらの虫の声を楽しめるようになりました。
風鈴の音を聞きながら、読みかけの本を繙き、初秋を感じました。
<感想>
起句は上四字と下三字が矛盾しています。「一颯涼風夜熱収」ならばすっきりします。
承句は風鈴の音を出しましょうか。
「玲玲」が「リンリン」と澄んだ音を表します。「清清」なども良いでしょう。
結句は「聲」を出すと風鈴の音とぶつかりますので、「叢中」と場所を表すだけにしておくと良いでしょうね。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-390
秋日遊行
西風秋興白雲飛 西風 秋を興し 白雲飛ぶ
陋屋閑居透弊衣 陋屋に閑居して 弊衣を透かす
山色寥寥田舎趣 山色 寥寥として 田舎の趣
小徑孤村人跡稀 小径 孤村 人跡稀なり
<感想>
それぞれの句を遠近で分類すると、順に「遠・近・遠・遠」という形で、承句だけが浮いています。
この句を結句に持って行くと「遠・遠・遠・近」となって、最後に自分のことを述べるという形で終れます。
ということで結句を「陋屋西風透弊衣」として、句を一度入れ替えてみると良いでしょう。
起句の「秋興」の「興」は、「おもしろみ、趣」の時は仄字、今回の「おきる、おこす」の時は平声になります。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-391
秋日遊行葡萄園
甘香誘我叩園扉 甘香 我を誘ひて 園扉を叩く
滿架葡萄顆顆肥 満架の葡萄 顆顆肥ゆ
逸樂暫時秋美味 逸楽す 暫時 秋の美味を
出棚天闊被風歸 棚を出づれば 天闊し 風を被(う)けて帰る
<感想>
場面が目に浮かぶような詩になっていると思います。
転句は「逸楽」なのに「暫時」では短くないですか。
実は「逸楽」と「秋美味」が遠いので、この中二字で繋ぐような気持ちで「滿腔」と入れてはどうでしょうね。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-392
秋日遊行矢勝川
長提漫歩淡斜暉 長提 漫歩 斜暉 淡し
石蒜花然江水圍 石蒜花 然え 江水囲む
無數紅蜻風裏戲 無数の紅蜻 風裏に戯れ
路傍幽草蛩聲微 路傍の幽草 蛩声微かなり
<解説>
「矢勝川」(やかちがわ): 半田市と阿久比町境を流れ、堤に300万本の彼岸花を植栽
「石蒜花」: 彼岸花
<感想>
結句の「蛩」は「上平声二冬」の平声、「蛬」は「漢語林」では平声ですが、「詩韻含英」などの韻書では大抵「平仄両用」とされています。
ここは「蛬」で仄字用法としておかないと下三平になってしまいます。
色として、「斜暉」「石蒜花」「紅蜻」と赤が続く点、「紅蜻」と「蛩聲」と虫が続く点、その辺りの重複感をどう感じるかですね。
起句の「淡斜暉」は結句に持ってきて、風を吹かせてはどうでしょう。
承句は「江」では広い印象です。もう少し狭くして「瀬水」と流れを出すと良いでしょう。
転句は「無数」でも良いのですが、もう少し何か言えないでしょうかね。「乱舞」「隊伍」など、赤トンボの様子が出てほしいところですね。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-393
秋來
挙頭臨宙白雲威 頭を挙げて 宙を臨めば 白雲威
閉目懷ク稲穂輝 目を閉ぢ 郷を懐へば 稲穂が輝く
散歩涼風金気感 散歩で涼風 金気を感ず
蜩聲高樹視聴稀 蜩声 高樹 視聴稀なり
<解説>
毎日の散歩で感じる一コマです。
<感想>
起句の「臨」は「望」でないといけません。「臨」なら「○○を」ではなく「○○に」となります。
承句は対句を考えてのものですね。ただ対句にすると下三字は「名詞+動詞」になりますので、「威」も動詞で「おどす」となってしまいます。
「白雲は威厳がある」という表現は面白いですが、ここは「飛」としておくべきです。
転句は「金気感」の語順が違います。「感」を「起」「立」としておきましょう。
結句は上四字は良いですが、「視」は何を見るのか、また「稀」となると「蜩声」は聞こえないわけで、ならば「高樹」と場所を示すと却って妙なことになります。
「蜩声」をポイントにするなら韻字は「微」でしょうね。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-394
秋日遊行
細徑小橋人跡稀 細径 小橋 人跡稀なり
秋光楓葉遠山微 秋光 楓葉 遠山微かなり
閑居淨几C幽極 閑居 浄几 清幽極まる
落下松毬敲竹扉 落下の松毬 竹扉を敲く
<解説>
散歩に行った神社でベンチに坐っていたら、頭の上にドングリが落ちてきました。その時の思いを詩にしてみました。
<感想>
起句は「人跡」ですと、そこまで見に行く必要があります。
ここは遠くから見ている感じで、「人影稀」が良いですね。
承句は鮮やかさで行くなら「遠山緋」、句としては素材がバラバラとしていますので、まとめる方向で考えると「秋光映水錦楓緋」としても良いですね。
転句から場面が室内に移りますが、前半の景色から見てもここは室内よりは「山居」「閑庭」が良いでしょう。
そうすると中二字も「獨佇」「一日」などとしていきましょうか。
結句は「落下」では詩情がなく、ビックリ動画みたいになります。
「松子」と上に持ってきた方が中二字に幅ができますね。
「両三」と数を出すとか、「転毬」「丁丁」「丁当」など状態を表す言葉が良いですね。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-395
秋日即事
黄稻小村蓑笠歸 黄稲 小村 蓑笠帰る
秋花陋屋著芳菲 秋花 陋屋 芳菲著く
虫吟切切幽窗下 虫吟 切切 幽窓の下
明月素風人跡稀 明月 素風 人跡稀なり
<感想>
起句の「蓑笠」は通りがかりの人ですかね。
「黄稻」が鮮明なのでこの「蓑笠」が目に残ります。
書き出しを「日暮」としておくと、夕暮れの風景で流すことができます。
承句はこのままでも良いですが、花を明確にして「黄花陋屋菊香圍(幃)」なども考えられます。
転句は良いですね。
結句は「人語」の方が「幽窓下」には合うでしょう。
2021. 2.28 by 桐山人
作品番号 2020-396
秋日閑居
秋天爽氣四山圍 秋天 爽気 四山囲む
茅屋空庭虫語微 茅屋 空庭 虫語微なり
只有佳朋酬唱樂 只だ有り 佳朋 酬唱の楽しみ
月明小徑送君歸 月明 小径 君を送って帰る
<感想>
こちらは起句と結句で時刻にずれがあります。
朋との楽しい時間が長くなり、いつの間にか月を見る時刻にとなってしまったともとれますが、起句が爽やかな秋晴れ過ぎるので、どうしても違和感が出ます。
全体的には夕暮れから夜というのが自然でしょうから、起句を直すのが良さそうですね。
「涼秋暮色四山圍」としておけば、他はこのままで齟齬は無いと思います。
2021. 1. by 桐山人