2020年の投稿詩 第361作は静岡の芙蓉漢詩会の Y ・ H さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-361

  猛暑日        

炎威連日奈驕陽   連日の炎威驕陽を奈(いか)んせん

流汗淋漓心欲狂   淋漓(りんり)流汗 心狂わんと欲す

補水嘗鹽屈伸體   水を補ひ塩を嘗め 屈伸の体

濱松夏暑不尋常   浜松の夏暑 尋常ならず

          (下平声「七陽」の押韻)

 今年の夏は猛暑が続きコロナと熱中症で高齢者は大変です。
 浜松市では今年の夏、全国で一番の四一・一度の暑さを記録しました。




























 2020年の投稿詩 第362作は静岡の芙蓉漢詩会の Y ・ H さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-362

  廣播體操(ラジオたいそう)        

早朝旋律八音昂   早朝の旋律 八音昂る

老幼怡顔聲發揚   老幼の怡(い)顔(がん) 声発揚す

屈曲伸長身爽快   屈曲伸長 身爽快なり

參加證印數囘慶   参加の証印 回を数へて慶ぶ

          (下平声「七陽」の押韻)

 毎朝のラジオ体操、子供から老人まで一緒になって行っております。
 健康増進と地域のつながりを大切に爽快な気持ちになります。




























 2020年の投稿詩 第363作は静岡の芙蓉漢詩会の 子 方 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-363

  竹裏之家        

新篁刷翠鎭吾心   新篁翠を刷き 吾が心を鎮め

經竹幽棲隠耀欽   経竹幽棲 隠耀を欽(うやま)ふ

煮茗草廬山遠近   茗を煮る草廬 山遠近

蛙聲杳杳雨霖霖   蛙声杳々 雨霖々

          (下平声「十二侵」の押韻)

 空襲を避けて庵原に小二で疎開した私。
 父と初めて柴田家に行った竹藪の中のお宅は「舌切り雀」のお宿の様だとびっくりした。
 後に陰徳のある家の話を父がしてくれた。




























 2020年の投稿詩 第364作は静岡の芙蓉漢詩会の 子 方 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-364

  虞美人草        

黄花舞踊玩芳辰   黄花舞ひ踊り 芳辰を玩ぶ

午節柔昭八十春   午節柔らかに昭らす 八十の春

追憶少年多感季   追憶す少年 多感の季

僝文漱石配佳人   文を僝(あらわ)す漱石 佳人を配す

          (上平声「十一真」の押韻)

ケシ科の花を三種詩にしてみました。

 この「虞美人草」は漱石
 次の「雛罌粟之花」はアグネスチャン
 「花菱草」は原野の野草




























 2020年の投稿詩 第365作は静岡の芙蓉漢詩会の 子 方 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-365

  雛罌粟之花        

薫風窃搖雛罌粟   薫風 窃に揺らす 雛罌粟(ひなげし)

燦燦陽光結夢時   燦燦たる陽光 夢を結ぶ時

澹艷頌歌聲敞唱   澹艶(たんえん) 頌歌(しょうか) 声敞(たか)く唱(うた)ひ

之花弔戦有誰知   之(こ)の花 戦ひ弔ふを誰知る有りや

          (上平声「四支」の押韻)





























 2020年の投稿詩 第366作は静岡の芙蓉漢詩会の 子 方 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-366

  花菱草        

翩翩雙蝶入朝園   翩翩(へんぺん)双蝶 朝園に入り

暖暖陽光隔世喧   暖暖陽光 世喧(せけん)を隔つ

忽到狂風花瓣散   忽ち到る狂風 花弁散らす

蕪荒獨往滿春原   蕪荒(ぶこう) 独(ひと)り往き春原に満つ

          (上平声「十三元」の押韻)





























 2020年の投稿詩 第367作は静岡の芙蓉漢詩会の 恕 庵 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-367

  詩仙堂丈山寺偶成 其一        

清閑紅葉寺   清閑 紅葉の寺

返照滿幽林   返照 幽林に満つ

鐘磬暝雲滲   鐘磬 暝(めい)雲(うん)滲み

芳香覺海深   芳香 覚海深し

          (下平声「十二侵」の押韻)

 季節ごとの庭園の変化、東山の静けさ、寺の調和は尋ねるたびに、驚きと発見があり、心が和らぎます。



























 2020年の投稿詩 第368作は静岡の芙蓉漢詩会の 恕 庵 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-368

  詩仙堂丈山寺偶成 其二        

掲詩方丈室   詩を掲(かか)ぐ 方丈の室

三徑老苔侵   三徑 老苔侵す

仙筆煙霞癖   仙筆 煙霞の癖

應知凹凸心   応(まさ)に知る 凹凸の心

          (下平声「十二侵」の押韻)

 住いの壁の丈山(凹凸)筆の隷書で書かれた詩仙色紙が印象的です。



























 2020年の投稿詩 第369作は静岡の芙蓉漢詩会の 恕 庵 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-369

  詩仙堂丈山寺偶成 其三        

招提松籟靜   招提(しょうだい) 松籟静かに

篁竹叫山禽   篁竹 山禽叫ぶ

幽砌無人掃   幽(ゆう)砌(せい) 人の掃ふ無し

參禪世外心   参禅 世外の心

          (下平声「十二侵」の押韻)





























 2020年の投稿詩 第370作は静岡の芙蓉漢詩会の 恕 庵 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-370

  偶成        

金風吹鬢髪   金風 鬢髪を吹き

緩歩倚松吟   緩歩 松に倚(よ)りて吟ず

徑畔凝霜菊   径畔 霜を凝(こら)す菊

蓮峯夕日沈   蓮峰 夕日沈む

          (下平声「十二侵」の押韻)

 刻々と変化する夕方の霊峰富士は、秋が一番です。



























 2020年の投稿詩 第371作は静岡の芙蓉漢詩会の 洋 景 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-371

  太極拳        

首夏緑園朋集來   首夏緑園 朋集ひ来る

屈肢伸背鬱胸開   肢を屈し背を伸ばし鬱胸開く

胡琴仙客模柔軟   胡琴仙客 柔軟に模す

汗散薫風方快哉   汗散じ薫風方に快なる哉(かな)

          (上平声「十灰」の押韻)

 今年はコロナ禍で、太極拳もホールで出来ない為、急遽公園で行いました。
 満開の桜を見たり、桜吹雪を見たり、又美しい新緑を見て思わぬ良い気分で運動が出来ました。

「胡琴」: 琵琶 太極拳24式5番目の形
「仙客」: 鶴  太極拳24式3番目形




























 2020年の投稿詩 第372作は静岡の芙蓉漢詩会の 洋 景 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-372

  苦熱        

流汗淋漓午熱中   流汗淋漓(りんり) 午熱の中(うち)

乾坤炎魃正如烘   乾坤 炎魃(えんばつ) 正(まさ)に烘(や)くが如し

濱松大暑八州一   浜松大暑 八州一

奇異天時驚愕窮   奇異なる天時 驚愕の窮み

          (上平声「一東」の押韻)

 八月十七日浜松は日本一の高温になりました。
 其の温度なんと41.1度でした。過去最高です。
 異常気象はとどまる事がありません。

「炎魃」: 日照りをおこす神



























 2020年の投稿詩 第373作は静岡の芙蓉漢詩会の 洋 景 さんからの作品です。
 今回も新型コロナウイルス感染拡大の関係で、合評会は各自の感想を文書でやり取りする形をとりました。
 会員の感想を受けて推敲をしたものを、『芙蓉漢詩集 第27集』として詩集としました。

作品番号 2020-373

  四時之詞        

清明時節賞芳行   清明の時節芳を賞(め)でて行く

爛漫紅雲双屐輕   爛漫の紅雲 双屐(そうげき)軽(かろ)し

夏曉蓮花香玉立   夏暁蓮花 玉立し香り

午天梨樹競珠成   午天梨樹 珠成るを競ふ

西風嫋嫋郊墟渡   西風嫋嫋(じょうじょう) 郊墟(こうきょ)渡り

霜葉紛紛林徑盈   霜葉紛々 林径に盈(み)つ

愛日茶梅籬落染   愛日茶梅 籬落染む

復過一歳雪鋪瓊   復た過ぐ一歳 雪瓊(ゆきたま)を鋪(し)く

          (下平声「八庚」の押韻)

 歳のせいか一年が早く過ぎ去って行くような気がします。
 自然界も昔と変わって来ています。
 いつまで今までのような作詩が出来るのか心配になってきます。

「珠」: 果実




























 2020年の投稿詩 第374作は 緑風 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-374

  秋夜偶感        

氷輪皎皎露華清   氷輪 皎皎 露華清し

庭院籬邊促織吟   庭院の籬邊 促織の吟

獨坐南軒懷往事   独り南軒に坐し 往事を懐ふ

親朋消息愴心深   親朋の消息 愴心深し

          (下平声「十二侵」の押韻)

<感想>

 起句は韻が違いますが、何の字と間違われたのでしょうか?
 合いそうな「下平声十二侵」の字ですと、「沈」「侵」くらいですか。

 冷ややかな月の夜、庭からの虫の音、こんな夜はとりわけ寂しい気持ちになるものですが、ここでは「親朋消息」が来て、友人の訃報でしょうか、哀しみの気持ちが深まったということで詩を結んでいます。
 これはこれで分かるのですが、どうも順番を逆にした方が自然に感じます。
 つまり、転句に手紙のことを入れ、その結果、「獨坐」と流していく形で行けば、「懷往事」と余分な心情を入れることも無くなります。
 そういう方向で検討してはいかがでしょうか。



2020.12.30                  by 桐山人


 緑風さんから推敲作をいただきました。

    秋夜偶感(再敲作)
  氷輪皎皎露華冷   氷輪 露華 冷やか
  庭院籬邊促織吟   庭院の籬邊 促織 吟ず
  朋友音書風雅去   朋友の音書 風雅去る
  南軒歎坐愴心深   南軒に歎坐 愴心深し
                   〔平起・下平声十二侵韻〕


 起句は踏み落としですね。

 転句は「朋友音書」ですので、訃報ではなかったのですね。失礼しました。
 そのお手紙で「風雅去」というのは、どう解釈すれば良いでしょうか。
 結句の「愴心」がどのようなものか、読者に伝えるためにも、ここは具体的な描写が欲しいですね。


2021. 3.30                  by 桐山人

























 2020年の投稿詩 第375作は 石華 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-375

  寒夜読書        

冬雷殷殷冷雲天   冬雷殷殷 冷雲の天

風籟騒騒簷宇先   風籟騒騒 簷宇の先

半夜寒爐一灯細   半夜 寒炉 一灯細し

殘書更閲范公篇   残書更に閲する范公の篇

          (下平声「一先」の押韻)

<解説>

「冬雷」: 北陸では、雪起こし・鰤(ぶり)起こしと呼ぶ冬の始まりを告げる雷
「寒炉」: 火が燃え尽きた火鉢。
「残書」: 読みさしの書物。
「范公」: 南宋の詩人范成大。
「篇」: 書物を構成する一部分。


<感想>

 前対格でよくまとまっている詩だと思います。
 最後の結びも「殘書」が効果的で、まだまだ先があるぞ、という過去と未来を繋ぐ役割を果たして、希望を感じさせます。

 起句と承句の対句で、「殷殷」「騒騒」としたのは、どちらも自然現象の「音」、それも騒がしいものが並んでいるので、せっかくの対句ですがやや平板な印象です。
 冬の夜の厳しさを表すのに「音」だけで良いか、と考えて、もう一工夫検討しても面白いと思います。



2020.12.30                  by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第376作は 地球人 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-376

  寒夜読書        

俗塵困頓座虚堂   俗塵に困頓して 虚堂に座す

啜茶詩思百事忘   茶を啜り 詩を思ひ 百事を忘る

深夜讀書猶不倦   深夜の読書 猶ほ倦まず

氷輪幽意有希望   氷輪に幽意し 希望有り

          (下平声「七陽」の押韻)

<感想>

 本当に大変な一年でしたね。
 起句の「俗塵困頓」はその辺りを簡潔に表していますね。
 ただ、下三字との繋がりを考えると、「座」(本来は「坐」が良いですが)よりも「匿」とした方が良いですね。

 承句は平仄が違いますし、中二字は語順が逆でしょう。「鍛句敲詩」として平仄は合わせておきますが、下三字の「百事」が必要かどうか、起句と逆になるような気もしますし、ここは検討が必要でしょう。

 結句は美しい景色ですが、「希望」に繋がるためには「幽意」では弱いと思います。「C冷」「皎皎」など、もう少し強調しておくと収まりが良くなりますね。



2021. 1. 4                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第377作は 茜峰 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-377

  歩曽爾高原     曽爾(そに)高原を歩く   

廣野銀波茅穂暉   広野 銀波の茅の穂 暉(ひか)り

鱗雲漂蕩鳥聲微   鱗雲は漂蕩し 鳥声微かなり

芟除面衣味山氣   面衣を芟除(さんじょ)し 山気を味わふ

遠碧病根収束祈   遠碧に 病根の収束 祈る

          (上平声「五微」の押韻)

<解説>

 10月下旬に奈良・三重県境の曽爾高原を歩いた。
 ススキの穂は一面に白銀に光り、鰯雲は悠々と漂い、どこからか鳥の声が聞こえる。
 マスクを外して深呼吸し山の空気を味わう。
 遠い青い山なみを見ながら コロナの早い収束を祈る。

<感想>

 起句は視界が流れるように拡がって行きますね。
 分かりやすい句だと思います。

 承句の「鱗雲」は和語でしょうから、「高雲」「巻雲」として、あまり色を出さないようにしておくと起句の「銀波」とぶつからなくて良いでしょうね。

 転句は「マスクを外して」ということですが、「摘口罩」がよく使われますね。
 コロナ禍の中ではマスクのことは是非書いておきたいところだったのでしょうが、「衣」は名詞用法では平声ですので、何か爽やかな秋の気配を出しても良いでしょうね。

 結句は「遠碧」「病根」に掛かっていく、つまり「遠碧の病根」と読んでしまいます。
 上四字を「収束病根」として、下三字は「祈」を修飾する言葉を考える形でしょうか。
 私としては、転句で「マスク」が入ればもう十分で、それほど引きずらずに、結句はもう高原の景色に戻っても良いと思います。



2021. 1. 4                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第378作は 茜峰 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-378

  想森友文書改竄問題        

命令上司文改刪   命令する上司 文の改刪を

抵排下吏抗強頑   抵排する下吏 強頑に抗ふ

士辛屈服自経果   士(おとこ)は辛し 屈服 自経で果て

妻欲熟知深奥艱   妻は欲する 熟知 深奥の艱(なや)み

婦訴死因誠解析   婦は訴ふ 死因 誠の解析を

国呈混濁晩通関   国は呈す 混濁 晩(おそ)き通関

莫容隠蔽逋逃僚   容(ゆる)す莫かれ 隠蔽逋逃(ほとう)の僚

真相究明寧晏寰   真相の究明 寧晏の寰(せかい)を

          (上平声「十五刪」の押韻)

<解説>

 悩みに悩んだ末、迷いに迷った挙句、上司や国を相手に裁判に訴えた奥様の勇気ある行動に敬意を表し、また文書改竄問題の究明を強く願って創りました。

<感想>

 義憤のお気持ちが強く出ている詩ですね。
 ただ、言葉として重なっているものが多く感じます。
 例えば、「深奥」「死因」「真相」とか、「熟知」「誠解析」「通関」「究明」、細かいところでは「妻」「婦」「混濁」「隠蔽」も近いですね。
 その分、怒りの気持ちが出てくるとも言えますが、主題を示す点ではもう少し詩を短くできるかとも思いますし、その方がインパクトが強くなると思います。



2021. 1. 4                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第379作は 観水 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-379

  書懷        

志如翔鳥又游魚   志は翔鳥の如く 又た游魚の如く

不敢從人出草廬   敢へて人に従って草廬を出でず

獨倚清風閑適客   独り清風に倚る閑適の客

行爲中隱意聊書   行ゆく中隠為(た)らんと意聊か書す

          (上平声「六魚」の押韻)

<解説>

 気持ちは空を行く鳥や 水に戯る魚なので
 立身出世のことなんて わざわざ考えたりしない
 ひとり清らの風のなか 自適のくらしとうそぶいて
 目指しているのは中ほどの 隠者だからと書きつける


<感想>

 承句の「不敢」は難しい言葉で、語順が変わると意味が逆になってしまいます。
 この「不敢○○」「進んで○○しない」「決して○○しない」となり、「敢不○○」ですと反語で「○○するだろうか、いや、○○しない」となります。
 観水さんのこの詩の場合も「自分から草廬を出ることはしない」ということです。

 観水さんの作詩の充実振りを見ていると、「いやいや、隠れてないで出て来てよ」とつい表に引っ張り出したくなりますが、気持ちの強さ・意志の堅さが感じられる承句ですね。

 「小隠は山野に隠れ、大隠は街衢に隠れ」るわけで、「中隠」を目指した白居易のように、千年に名を残す詩人を目指して欲しいですね。



2021. 2. 3                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第380作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-380

  壇ノ浦        

平家追彦島   平家 彦島に追はれ、

反撃試無謀   反撃 試みるも無謀なり。

奪戻三神器   奪ひ戻さん 三神器、

飛移御帝舟   飛び移る 御帝舟。

朝来乗海走   朝来て 海走に乗じ、

午去逆潮流   午去り 潮流に逆らふ。

泡洗龍宮夢   泡は洗ふ 竜宮の夢、

怨残蟹甲溝   恨みは 蟹甲の溝に残りたり。

          (下平声「十一尤」の押韻)

<解説>

 ヘイケガニの甲羅には苦悶にゆがむ平家の武者の顔が浮かんでいると言い伝えがあります。
 しかし是は人為淘汰という現象で科学的にも証明されていると言われています。そう言ってしまうと身も蓋もありません。
 詩人のくせにロマンの無いことを言うと言われてしまいそうです。
 別に平家の怨念では無いと言うことだそうで、進化と言うことを考えると科学的にも面白い話です。


<感想>

 源平の合戦の最大の山場、壇ノ浦の戦いですね。

 歴史の結末は誰もが知っていることですので「反撃試無謀」も分かりますが、ここでまとめてしまうと、後は尾聯に行くしか無く、間の二聯は時間が逆走してしまいます。
 「平家追彦島 反撃試無謀 泡洗龍宮夢 怨残蟹甲溝」と絶句にすると収まりが良いので、頷聯と頸聯は後から加えたというところでしょうか。

 頷聯はこれは源氏の側の話になるでしょうが、首聯の主語が平家ですので、こちらも平家が主語かと混乱します。少なくとも、前半は同一でまとめた方が良いです。

 頸聯は、まさに潮目が変わった場面で、この辺りの表現は巧みですね。



2021. 2. 4                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第381作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-381

  帰図書館 其二     図書館からの帰り  其の二   

女払枯霊散   女(むすめ)が払ふと 枯霊散り、

携書颯颯通   書を携へ 颯颯と通ふ。

魂生寝室夢   魂は寝室の夢に生じ、

精宿古文中   精は古文の中に宿る。

館影街灯点   館影 街灯点じ、

鱗雲日暮紅   鱗雲 日暮紅なり。

有情揺額髪   情ありげに額の髪を揺らす、

懇謝北西風   懇ろに北西の風に謝せん。

          (上平声「一東」の押韻)

     <解説>

 嘗てこの題で書いて投稿したので其の続編と言うことで書きました。
 二三伝わりにくいところも有るかと思い、注を付けたいかと思います。

「枯霊」: 紅葉の木の葉を敢えてこの言葉にしてみました。
「館影」: 図書館のたたずまい。
「鱗雲」: 鰯雲と行った方が一般的でしょうか?
「北西風」: 関東地方に晩秋から冬にかけて吹く乾いた季節風。



<感想>

 図書館がどうとかの難しいテーマではなく、ほわっとしたイメージを描いたものですね。
 ただ、第一句は「女」である必要があるかどうか、「女」でも悪いわけではありませんが、何となく古い昭和を感じさせます。
 「図書館」・「女学生」というイメージは凌雲さんのノスタルジーでしょうか。
 ここを「足下」などとして、自分が歩いている形にすると、ほんのりとした甘さは消えますが、作者の自画像が浮かんできて、趣の新しい詩になると思います。



2021. 2. 5                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第382作は 哲山 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-382

  冬月        

獒亡家鴨戮於貓   獒(いぬ)亡(し)んで 家鴨(あひる)貓に戮せらる

余病難癒灯且消   余病 癒し難く 灯は且(まさ)に消えなんとす

生死輪廻幾度匝   生死輪廻 幾度か匝(めぐ)る

中天冬月坐深宵   中天の冬月 深宵に坐す

          (下平声「二蕭」の押韻)

<感想>

 昨年の三月でしたか、十五年もの間、生活を共にした愛犬が亡くなられたと伺いましたね。
 家族も同様のお気持ちでいらっしゃったのでしょう、落胆も深いことと思います。
 「家鴨」「貓」に害されてしまったとのこと、ショックは重なりますね。

 ご自身のお身体への不安も含め、結句の「中天冬月」が凜然と輝き、寂寥の思いを強めていますね。



2021. 2. 5                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第383作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2020-383

  歳暮偶感        

百年奇遇痛心年   百年の奇遇 痛心の年

克服国難遊敖虔   国難を克服せんと 遊敖虔(つつし)む

病毒疫苗人類望   病毒の疫苗 人類の望み

憂心歳暮月如弦   憂心の歳暮 月 弦の如し

          (下平声「一先」の押韻)

「遊敖」: 気ままに遊び楽しむ
「国難」: 新型コロナウイルスの蔓延
「病毒疫苗」: 新型コロナウイルスのワクチン

<感想>

 この一年を象徴する作品ですね。
 コロナウイルスに加えて、災害も繰り返し日本各地を襲い、色々な形で「自粛」と「我慢」を重ねて、ようやくワクチン接種が始まりました。
 落ち着いた日常の有り難さを痛感した一年、岳城さんの最後の「月如弦」の心細さが象徴的ですね。



2021. 2.28                  by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第384作は桐山堂半田の 睟州 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-384

  秋日遊行        

白雲天際遠山微   白雲 天際 遠山微かなり

秋杪遊行客至稀   秋杪 遊行 客の至れる稀なり

旅愀宿宵迎月酌   旅愀 宿宵 月を迎へて酌む

憑軒望宙雁南歸   軒に憑りて 宙を望めば 雁南に帰る

          (上平声「五微」の押韻)

<解説>

 平成二十四年十一月上旬、南アルプス(赤石山脈)南麓、大井川上流(静岡県寸又峡他)に旧友等と旅行した。

<感想>

 転句の「愀」「愁」の代字でしょうか。「旅次」ですっきりすると思いますがどうでしょう。

 結句は直前の「迎月酌」で画面は十分伝わっていますので、「憑軒望宙」がもう要らないでしょう。
 風とか涼意とかを持ってきてはどうでしょうか。

 結句の「雁南歸」は中国北方の地域での言葉で、日本ではこの時期に渡ってきますので本来は言葉としては「北來」になるわけですが、詩の雰囲気としては秋の寂寥感が出て、良い言葉になりますね。



2021. 2.28                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第385作は桐山堂半田の 睟州 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)での秋・冬の作詩課題での提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-385

  秋蟬即事        

竹窗澄景遠峰青   竹窓 澄景 遠峰青し

殘暑秋蜩聲滿亭   残暑 秋蜩 声は亭に満つ

刻急無休鳴切切   刻は急なり 休む無かれ 鳴切切たり

噫乎非理惜蟬齡   噫乎 非理なり 蝉齢を惜す

          (下平声「九青」の押韻)

<解説>

 蝉の一生…地上で孵化して(約一年)幼虫となり地中へ、ここで四回位脱皮する(三〜四年)。  地上に出て羽化し成虫となり、約半月の寿命で終る。

<感想>

 軽快な筆の運びが感じられますね。
 この詩の場合、遠景は要らないように思いますので、起句の「遠峰青」はどうでしょう。
「柳枝青」など、庭の物を出した方がよいでしょうね。

 転句からのテンポアップで「切切」の畳語が効果を出していますね。

 結句は「噫乎」「非理」「惜」、どれも嘆きの言葉ですので、秋の深まりを感じさせるような言葉を入れると緊張感が増すように思います。



2021. 2.28                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第386作は桐山堂半田の 睟州 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-386

  涼月漫興        

涼意初秋過野塘   涼意の初秋 野塘を過ぐ

碧天雲外四山蒼   碧天 雲外 四山蒼し

一条十里行人少   一条十里 行人少(まれ)なり

傾日途央客思傷   日傾きて 途央(なか)ばなり 客思傷む

          (下平声「七陽」の押韻)

<解説>

 「涼月」…八月の別称  「漫興」…気儘に記す   「野塘」…愛知用水路

<感想>

 こちらは良く仕上がった詩になっていますね。

 起句の「野塘」が全体の画面をうまく切り取っていて、その後の広がり感を導いています。

 また、後半の「行人少」から、勢いが凋んでいく流れと言葉が合致して、秋の寂寥感を感じさせる結びになっていると思います。



2021. 2.28                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第387作は桐山堂半田の 靖芳 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-387

  秋日遊行        

野邊遊行午風C   野辺を遊行す 午風清し

小徑虫啼秋色生   小径に虫啼いて 秋色生ず

黄稻如花詩味好   黄稲は花の如く 詩味好し

蜻蛉頭上唱歌聲   蜻蛉は頭上に唱歌の声

          (下平声「八庚」の押韻)

※   <解説>

 外出もままならないこの頃、自宅近くのあぜ道を散歩し、初秋を満喫しました。

<感想>

 読んでいくと楽しくなってくるような詩になりましたね。佳詩だと思います。

 場面をもう少し濃く描く形で部分的に見ていくと、承句は「草徑虫聲」としましょうか。

 転句はこのままでも良いですが、「如花」と比喩にしないで具体的に稻の様子を描いても良いでしょうかね。

 結句は「頭上」で、頭(心)の中に唱歌が浮かんだという関連でしょうか。
 飛躍はありますが、日本独自の連想で面白いと思います。
 「竿上」とすると、童謡の歌詞とリンクしますので、どこかから歌が流れてくるような印象が出るでしょう。



2021. 2.28                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第388作は桐山堂半田の 芳親 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-388

  秋日山行        

風冷秋晴石徑微   風冷やかに 秋晴 石径微かなり

溪橋碧水萬山圍   渓橋 碧水 万山囲む

摩崖碑誌聳天半   摩崖 碑誌 天半に聳ゆ

紅葉絶景映夕暉   紅葉 絶景 夕暉に映ず

          (上平声「五微」の押韻)

<解説>

 三年前の秋、友人と天龍峽を訪れました。
 紅葉の山に囲まれ、吊り橋を渡ったり、名勝の摩崖の碑文を見ました。

<感想>

 思い出がしっかり胸に刻まれていたのですね、画面が明瞭です。

 転句は「誌」「聳天半」ではおかしくなりますので、こちらを「碑石」として、起句は「幽徑」が良いでしょう。

 戻りますが、「碧水」ですと「深い緑色」ですので広い川になります。
 天竜川ですので広いとは言えますが、「萬山圍」となりますと、「緑水」とする方が通じやすいでしょう。



2021. 2.28                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第389作は桐山堂半田の 芳親 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-389

  初秋吟        

連日殘炎夜熱収   連日の残炎 夜熱収まる

涼風檐馬月光幽   涼風 檐馬 月光幽かなり

書齋倚几親燈火   書斎 几に倚り 灯火親しむ

絡緯聲中先入秋   絡緯 声中 先づ秋に入る

          (下平声「十一尤」の押韻)

<解説>

 夜、少し凌ぎやすくなり、草むらの虫の声を楽しめるようになりました。
 風鈴の音を聞きながら、読みかけの本を繙き、初秋を感じました。

<感想>

 起句は上四字と下三字が矛盾しています。「一颯涼風夜熱収」ならばすっきりします。

 承句は風鈴の音を出しましょうか。
「玲玲」が「リンリン」と澄んだ音を表します。「清清」なども良いでしょう。

 結句は「聲」を出すと風鈴の音とぶつかりますので、「叢中」と場所を表すだけにしておくと良いでしょうね。



2021. 2.28                 by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第390作は桐山堂半田の 輪中人 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-390

  秋日遊行        

西風秋興白雲飛   西風 秋を興し 白雲飛ぶ

陋屋閑居透弊衣   陋屋に閑居して 弊衣を透かす

山色寥寥田舎趣   山色 寥寥として 田舎の趣

小徑孤村人跡稀   小径 孤村 人跡稀なり

          (上平声「五微」の押韻)

<感想>

 それぞれの句を遠近で分類すると、順に「遠・近・遠・遠」という形で、承句だけが浮いています。
 この句を結句に持って行くと「遠・遠・遠・近」となって、最後に自分のことを述べるという形で終れます。
 ということで結句を「陋屋西風透弊衣」として、句を一度入れ替えてみると良いでしょう。

 起句の「秋興」「興」は、「おもしろみ、趣」の時は仄字、今回の「おきる、おこす」の時は平声になります。



2021. 2.28                  by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第391作は桐山堂半田の 醉竹 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-391

  秋日遊行葡萄園        

甘香誘我叩園扉   甘香 我を誘ひて 園扉を叩く

滿架葡萄顆顆肥   満架の葡萄 顆顆肥ゆ

逸樂暫時秋美味   逸楽す 暫時 秋の美味を

出棚天闊被風歸   棚を出づれば 天闊し 風を被(う)けて帰る

          (上平声「五微」の押韻)

<感想>

 場面が目に浮かぶような詩になっていると思います。

 転句は「逸楽」なのに「暫時」では短くないですか。
 実は「逸楽」「秋美味」が遠いので、この中二字で繋ぐような気持ちで「滿腔」と入れてはどうでしょうね。



2021. 2.28                  by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第392作は桐山堂半田の 醉竹 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-392

  秋日遊行矢勝川        

長提漫歩淡斜暉   長提 漫歩 斜暉 淡し

石蒜花然江水圍   石蒜花 然え 江水囲む

無數紅蜻風裏戲   無数の紅蜻 風裏に戯れ

路傍幽草蛩聲微   路傍の幽草 蛩声微かなり

          (上平声「五微」の押韻)

 <解説>

 「矢勝川」(やかちがわ): 半田市と阿久比町境を流れ、堤に300万本の彼岸花を植栽
 「石蒜花」: 彼岸花


<感想>

 結句の「蛩」は「上平声二冬」の平声、「蛬」は「漢語林」では平声ですが、「詩韻含英」などの韻書では大抵「平仄両用」とされています。
 ここは「蛬」で仄字用法としておかないと下三平になってしまいます。

 色として、「斜暉」「石蒜花」「紅蜻」と赤が続く点、「紅蜻」「蛩聲」と虫が続く点、その辺りの重複感をどう感じるかですね。
 起句の「淡斜暉」は結句に持ってきて、風を吹かせてはどうでしょう。

 承句は「江」では広い印象です。もう少し狭くして「瀬水」と流れを出すと良いでしょう。

 転句は「無数」でも良いのですが、もう少し何か言えないでしょうかね。「乱舞」「隊伍」など、赤トンボの様子が出てほしいところですね。



2021. 2.28                  by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第393作は桐山堂半田の 向岳 さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-393

  秋來        

挙頭臨宙白雲威   頭を挙げて 宙を臨めば 白雲威

閉目懷ク稲穂輝   目を閉ぢ 郷を懐へば 稲穂が輝く

散歩涼風金気感   散歩で涼風 金気を感ず

蜩聲高樹視聴稀   蜩声 高樹 視聴稀なり

          (上平声「五微」の押韻)

<解説>

 毎日の散歩で感じる一コマです。

<感想>

 起句の「臨」「望」でないといけません。「臨」なら「○○を」ではなく「○○に」となります。

 承句は対句を考えてのものですね。ただ対句にすると下三字は「名詞+動詞」になりますので、「威」も動詞で「おどす」となってしまいます。
 「白雲は威厳がある」という表現は面白いですが、ここは「飛」としておくべきです。

 転句は「金気感」の語順が違います。「感」「起」「立」としておきましょう。

 結句は上四字は良いですが、「視」は何を見るのか、また「稀」となると「蜩声」は聞こえないわけで、ならば「高樹」と場所を示すと却って妙なことになります。
 「蜩声」をポイントにするなら韻字は「微」でしょうね。



2021. 2.28                  by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第394作は桐山堂半田の F ・ F さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-394

  秋日遊行        

細徑小橋人跡稀   細径 小橋 人跡稀なり

秋光楓葉遠山微   秋光 楓葉 遠山微かなり

閑居淨几C幽極   閑居 浄几 清幽極まる

落下松毬敲竹扉   落下の松毬 竹扉を敲く

          (上平声「五微」の押韻)

<解説>

 散歩に行った神社でベンチに坐っていたら、頭の上にドングリが落ちてきました。その時の思いを詩にしてみました。

<感想>

 起句は「人跡」ですと、そこまで見に行く必要があります。
 ここは遠くから見ている感じで、「人影稀」が良いですね。

 承句は鮮やかさで行くなら「遠山緋」、句としては素材がバラバラとしていますので、まとめる方向で考えると「秋光映水錦楓緋」としても良いですね。

 転句から場面が室内に移りますが、前半の景色から見てもここは室内よりは「山居」「閑庭」が良いでしょう。
 そうすると中二字も「獨佇」「一日」などとしていきましょうか。

 結句は「落下」では詩情がなく、ビックリ動画みたいになります。
 「松子」と上に持ってきた方が中二字に幅ができますね。
「両三」と数を出すとか、「転毬」「丁丁」「丁当」など状態を表す言葉が良いですね。



2021. 2.28                  by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第395作は桐山堂半田の F ・ F さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-395

  秋日即事        

黄稻小村蓑笠歸   黄稲 小村 蓑笠帰る

秋花陋屋著芳菲   秋花 陋屋 芳菲著く

虫吟切切幽窗下   虫吟 切切 幽窓の下

明月素風人跡稀   明月 素風 人跡稀なり

          (上平声「五微」の押韻)

<感想>

 起句の「蓑笠」は通りがかりの人ですかね。
「黄稻」が鮮明なのでこの「蓑笠」が目に残ります。
 書き出しを「日暮」としておくと、夕暮れの風景で流すことができます。

 承句はこのままでも良いですが、花を明確にして「黄花陋屋菊香圍(幃)」なども考えられます。

 転句は良いですね。

 結句は「人語」の方が「幽窓下」には合うでしょう。



2021. 2.28                  by 桐山人
























 2020年の投稿詩 第396作は桐山堂半田の F ・ F さんからの作品です。
 私が講師の漢詩教室(半田・静岡・刈谷)の秋・冬の作詩課題の提出作品と、その折の私の感想を添えてご紹介します。

作品番号 2020-396

  秋日閑居        

秋天爽氣四山圍   秋天 爽気 四山囲む

茅屋空庭虫語微   茅屋 空庭 虫語微なり

只有佳朋酬唱樂   只だ有り 佳朋 酬唱の楽しみ

月明小徑送君歸   月明 小径 君を送って帰る

          (上平声「五微」の押韻)

<感想>

 こちらは起句と結句で時刻にずれがあります。
 朋との楽しい時間が長くなり、いつの間にか月を見る時刻にとなってしまったともとれますが、起句が爽やかな秋晴れ過ぎるので、どうしても違和感が出ます。
 全体的には夕暮れから夜というのが自然でしょうから、起句を直すのが良さそうですね。
「涼秋暮色四山圍」としておけば、他はこのままで齟齬は無いと思います。



2021. 1.                  by 桐山人