作品番号 2020-331
日本丸出港
殘雪富峰春日粧 富岳の残雪 春日の粧ひ
港灣波静白鷗翔 港湾波静かに 白鴎の翔ぶ
銅鑼高響登檣刻 銅鑼 高く響き 登檣の刻
一路滿帆千里洋 一路 滿帆 千里の洋
帆船の出航は何度見ても感激です。
作品番号 2020-332
疫鬼
寒暖錯行迷走穹 寒暖錯交する 迷走の穹
連纏有事渡來風 連纏事有りて 渡来の風
病原體禍懼然裏 病原体禍 懼然の裏
千萬英知必滅窮 千万の英知 必滅窮めん
「疫鬼」: 流行病を起す疫病神
「連纏」: 連なり続く、つきまとうさま。
「懼然」: 恐れるさま。驚き見るさま。
作品番号 2020-333
苦熱
途次解衣池水傍 途次 衣を解く 池水の傍
驚嘆苦熱汗如漿 驚嘆の苦熱 汗漿の如し
浮雲一片炎天下 浮雲一片 炎天下
向日葵開夏日長 向日葵開きて 夏日長し
作品番号 2020-334
無題
東天日上曉雲長 東天 日上り 曉雲長し
滿地寥寥弄淑光 滿地寥寥として淑光を弄す
楓葉隨風秋一路 楓葉 風に随ひ秋一路
陶然緩歩轉凄涼 陶然 緩歩すれば 転た凄涼
作品番号 2020-335
中秋觀月
朋友詩酒興 朋友 詩酒の興
把杯意氣投 杯を把れば 意気投ず
玲瓏三五月 玲瓏 三五の月
萬里一天秋 万里 一天の秋
喞喞蟲聲咽 喞喞 虫声咽(むせ)び
晶晶冷露稠 晶晶 冷露稠(しげ)し
寒光無限好 寒光 無限に好し
氣夜悠悠 気(こうき) 夜悠々
作品番号 2020-336
蘭花開
紙板防寒有用培 紙板の防寒 培ふに有用
朝修夕整一花開 朝に修し夕に整ふ 一花開く
拾株愛育眞慈母 株を拾ひて 愛育 眞の慈母
窓内蘭盆春色魁 窓内の蘭盆 春色の魁
知人が捨てた蘭を頂き、設備のない窓で段ボール立てて寒さをしのいでようやく咲いた蘭をいつくしむ妻の姿、私が育てたと自慢していた風景。
作品番号 2020-337
落基山脈
隆隆嶽嶽大連峰 隆隆 岳岳 大連峰
廻出晨光如恐龍 廻りて出づる晨光 恐竜の如し
遠近紅輪凝雙眼 遠近 紅輪 雙眼を凝らし
蕭蕭白黒聚山容 蕭蕭として白黒 聚山の容(かたち)
ロッキー山脈は雄大であるが大きさが分からない。端が目に入らないのは当たり前で日本列島が縦にしていくつ入るかという大きさ。
それよりも徐々に太陽が山を順番に照らしていく姿は、見たこともない恐竜が目を覚ましたような動きに見えたこと。
積雪のためか山肌が滑らかに見えたことも一層興を添えた。
作品番号 2020-338
挿秧
梅天郊外野煙沈 梅天の郊外 野煙沈み
禾役挿秧惜寸陰 禾役 挿秧 寸陰を惜しむ
時聽群蛙聲閣閣 時に聴く 群蛙 声閣閣(かくかく)
輕鍬歸路暮鐘音 軽鍬(けいしゅう)の帰路 暮鐘の音
田植えの時期になるといつも幼少年期の田舎の風景を思い出す。
非農家で手伝わされることはない。
いつもぼんやり眺めているだけであったが、お百姓さんは大変だなあ、という思いは沢山ある。
作品番号 2020-339
秋日遊行
秋日楓林紅染衣 秋日 楓林 紅衣を染む
郷山蕭索白雲飛 郷山 蕭索 白雲飛ぶ
老筇留歩小橋上 老筇 歩を留む 小橋の上
野水淙淙朋未歸 野水 淙淙(そうそう) 朋未だ帰らず
山迫る里で秋の日を楽しむ。
老環、学友は離村、里には帰らない。
川の水は雨上がりで勢いよく流れている。
水の音を聞きながら友達を懐かしむ。
作品番号 2020-340
祈新型疫病終息 二首之一
新冠病毒襲寰中 新冠の病毒 寰中を襲ひ
感染頻煩勢莫窮 感染 頻煩 勢ひ窮むる莫し
讀誦觀音普門品 読誦す 観音普門品
專祈菩薩大神通 専ら祈る 菩薩の大神通(だいじんつう)
天台宗寺院主催の「世界疫病終息祈祷会(新型コロナウイルス終息を願い、百日間で観音経・般若心経などの経典を千巻読誦する誓願行)」に参加しての漢詩。
「新冠病毒」: 新型コロナウイルス
「寰中」: 世界、天下
作品番号 2020-341
祈新型疫病終息 二首之二
疫病禍殃悲念深 疫病の禍殃(かおう) 悲念深し
新冠感染勢駸駸 新冠の感染 勢い駸駸(しんしん)
偏稱千巻普門品 偏(ひと)へに称(とな)ふ 千巻の普門品
願速消災觀世音 願はくは速に災を消し 世音を観じたまはんことを
「駸駸」: 馬が速く走る様、転じて物事の進行がきわめて早いこと。
「普門品」: 「法華経」のうちで観世音菩薩のことを説いた章、「観世音菩薩普門品」の略称。観音経。
「観世音」: 観世音菩薩が世の人々の音声を観じて、苦悩を救済すること。
作品番号 2020-342
悼龍田山主 二首之一
行雲流水本無依 行雲流水 本依る無し
孤錫隨縁一衲衣 孤錫(こしゃく) 縁に隨ふ 一衲(いちのう)衣(え)
惆悵老師何處去 惆悵す 老師 何(いず)れの処にか去る
龍田山嶺夕陽微 龍田(りゅうでん)山嶺 夕陽微かなり
龍田山主俊英師辞世之句: 「秋風傘壽 去来隨縁 機輪転処 月照龍田」
「行雲流水」: 空行く雲、流れる水。心に執着する所なく生きる心境。禅の修道者の在り方。
「錫」: 錫杖。修行者が行脚にあたって携える杖。
「衲衣」: 袈裟。転じて僧、特に禅僧をいう。
「惆悵」: なげき悲しむ
作品番号 2020-343
悼龍田山主 二首之二
機鋒英俊道心長 機鋒英俊 道心長し
来去隨縁八十霜 来去縁に随ふ 八十霜
一片白雲和涙去 一片の白雲 涙と和(とも)に去り
桂花郁郁送幽香 桂花郁郁 幽香を送る
「機鋒」: 鋭いほこ先、きっさき。修行で鍛えた心のはたらき。
「道心」: 仏道を求め、世の人を救おうとする心。
「幽香」: 奥ゆかしいかおり
作品番号 2020-344
詠佳人
明眸玉腕細腰裙 明眸玉腕細腰の裙(くん)
指踊鋼琴即興君 指は踊る鋼琴 即興の君
豐溢高才無自顕 高才豊溢たるも自ら顕す無し
名花一朶郁芬芬 名花一朶 郁芬芬たり
美人ピアニストのコンサート。音楽よりも、姿かたちに目を奪われた。
作品番号 2020-345
秋日遊行無釣果
自足耕田一布衣 自足して田を耕す一布衣(ふい)
閑居近日客來稀 閑居の近日 客の来ること稀なり
秋天海隱遊漁艇 秋天海穏に 漁艇と遊ぶ
只見魚群無果歸 只魚群を見て 無果にして帰る
作品番号 2020-346
無住寺
苔階堆葉往來稀 苔階(たいかい) 堆葉(ついよう) 往来稀なり
石砌荒林要暖衣 石砌(せきさい)の荒林 暖衣を要す
止歩凝然窺破寺 歩を止め凝然 破寺(はじ)を窺へば
妖風分樹一燈微 妖風樹を分かち 一灯微なり
作品番号 2020-347
雷光斬暑
天邊爆裂震山扉 天辺の爆裂 山扉を震がす
斬暑雷光射眼威 斬暑の雷光 眼を射るの威
見雨農人放鎌走 雨を見て農人 鎌を投げて走れば
如追敗葉帯風飛 追ふが如く敗葉 風を帯びて飛ぶ
作品番号 2020-348
秋夜聽蟲
夕照漸消残暑收 夕照漸く消え残暑収まる
天空如水月光幽 天空水の如く 月光幽なり
新蛩喞喞叢中咽 新蛩喞喞 叢中に咽ぶ
妙韻連綿坐惹愁 妙韻連綿 坐(そぞろ)に愁ひを惹く
作品番号 2020-349
歳晩書懐
白駒過隙業成遲 白駒隙を過ぎ 業成る遅し
歳晩寒風月影移 歳晩 寒風 月影移る
百八鐘聲聴胸臆 百八鐘声 胸臆に聴く
人生無奈此時宜 人生奈(いかん)する無し 此の時宜(じぎ)を
「白駒過隙」: ひまゆく駒の足早し
作品番号 2020-350
看櫻
山寺一櫻誇物華 山寺の一桜 物華を誇り
鐘聲幽響獨看花 鐘声幽に響き 獨(ひとり)花を看る
風連片片昌辰短 風に連なる片片 昌(しょう)辰(しん)短く
多少殘紅生有涯 多少の残紅 生に涯(かぎり)有り
作品番号 2020-351
訪三蔵法師古道
新疆古道似登仙 新疆(しんきょう)の古道 登仙するに似て
幽壑石梯風颯然 幽壑 石梯 風颯然たり
聳漢霊峰映湖面 漢に聳ゆ霊峰 湖面に映じ
遙遠絶徑白雲聯 遥遠なる絶径 白雲聯なる
「新疆古道新疆維吾爾自治区絲綢路」: 新疆ウイグル自治区シルクロード
作品番号 2020-352
梅雨感懐
雨天書計晴除草 雨天は書計 晴れれば除草
交互適時疲不侵 交互 適時に疲れ侵さず
衰老貧婪追萬事 衰老 貧婪(どんらん) 万事追はんとするも
幸哉抑制是梅霖 幸なるかな抑制するは是れ梅霖
今年の梅雨、しとしとと降る梅雨特有の長雨ではなかった。
強い雨が襲来、しばらくすると去って行き、また強い雨がとくり返す。
南方に多いスコール急風驟雨であった。
お陰で私は読書に飽きる頃の晴れ間は除草、疲れ一休み欲しいときに驟雨、書斎に戻る楽しみが出来た。
作品番号 2020-353
秋日家居
白露猶餘炎暑威 白露 猶余す炎暑の威
家居雜亂納涼衣 家居雑乱 納涼の衣
庭垣景致日殊異 庭垣の景致 日に殊異(しゅい)
朝夕枯榮秋色肥 朝夕の枯栄 秋色肥ゆ
「白露」は立秋から三十日目、仲秋の始まりである。
今年は九月七日。しかし真夏の気温で、暑かった。
外出もままならず、家で肌着一枚で過ごす。
作品番号 2020-354
野猫
朱櫻樹下一猫横 朱桜樹下 一猫横たはる
半眼宛然觀世情 半眼 宛(さなが)ら世情を観るがごとし
外滿憂惶内沈靜 外憂惶に満つるも 内沈静ならん
人爲訓禦突如獰 人は為(な)せし訓禦(くんぎょ) 突如の獰(どう)を
例年花見客の一等席、満開の桜の下で寝そべる横着猫を見て。
作品番号 2020-355
蝙蝠考
漫畫名聲蝙蝠男 漫画の名声 蝙蝠男(バットマン)
幼童偏愛福音譚 幼童 偏(ひとえ)に愛す福音の譚(はなし)を
蝙蝠不知人感染 蝙蝠(こうもり)は知らず 人に感染せしを
逼蚊蠅遍夕眈眈 蚊蠅(ぶんよう)に逼(せま)ること遍く夕に眈眈(たんたん)たるに
コロナウイルスはこうもり由来、大変な悪者であるが、蝙蝠の漢字、つくりは、遍、偏。また福副逼と力強い文字である。
猶、虫偏の字であるが、蝙蝠は哺乳類中唯一の飛行動物。
この詩、敢えて蝙蝠の字重出とした。
古代、蚊蛾縄除去に珍重されたのであろう。
作品番号 2020-356
夢幻泡影
秋波口罩繞牀頭 秋波 口罩(こうとう) 牀頭繞る
遽見西施象潟遊 遽(にわ)かに見る 西施 象潟に遊ぶ
妙舞明眸孤枕去 妙舞の明眸 孤枕去るを
摧頽被上再來不 摧頽(さいたい) 被上 再び来るや不(いな)や
コロナ禍でマスクをした美人を多く見ますので、夢の中に西施が現われました。
「西施」: 春秋時代、中国の美人の代表者
「摧頽」: こわれくずれる
「被上」: ふとんの上
作品番号 2020-357
全米庭球選手権二度目女王稱大坂なおみ選手
口罩人名義氣尤 口罩(こうとう)の人名 義気尤(とが)む
異才發信毅相求 異才の発信 毅(つよ)く相求む
正論跼蹐非無頼 正論跼蹐(きょくせき) 頼む無きに非ずも
勝報勇姿令解憂 勝報勇姿 憂を解かしむ
大坂なおみが人種差別への抗議の意を示すため、名前がプリントされたマスクを着けて、試合ごと着け替え入場、七つめのマスクまで見せて優勝。
「口罩」: マスク
「跼蹐」: 跼天蹐地恐れびくびくするさま
作品番号 2020-358
寄高野山宿坊「福智院」
深山翠澗既斜陽 深山翆澗 既に斜陽
境寂靈臺至宿坊 境(きょう)寂(じゃく)霊(れい)台(だい) 宿坊に至る
佛殿如來成浄界 仏殿の如来 浄界を成し
高僧妙偈發C香 高僧の妙偈 清香を発す
偃松黛影龍鱗勢 偃(えん)松(しょう)黛(たい)影(えい) 竜鱗の勢ひ
磐石碧晶明月光 磐石 碧晶 明月の光
靜見前庭宜刮目 静かに見前庭 刮目し宜し
相歓儔侶繞回廊 相歓ぶ儔侶(ちゅうらりょ) 回廊を繞る
福智院は庭師(故)重森三(しげもりみ)玲(れい)氏による磐石の石組みとモダンな地割りで構成された庭園を有する。
「儔侶」: 遠州庭園同好のメンバー
昭和の傑作として世界的に高い評価を受けている。
作品番号 2020-359
空屋
閉門古壁擁城隅 古壁門を閉ざして城隅を擁す
累代舊家空屋蕪 累代の旧家 空屋蕪れる
後繼兒孫歸有否 後継の児孫帰ること有りや否や
高齢少子課題倶 少子高齢 課題を倶(とも)にす
我が地域でも年々空家が増えております。
後継者が定まらず老夫婦は施設に入居し、難しい問題です。
作品番号 2020-360
氣候變動
地球温暖極危機 地球温暖 危機の極み
豪雨炎陽眞脅威 豪雨炎陽 真の脅威
大國思惟崩結束 大国の思惟 結束崩る
巴黎協定逹成微 巴黎(パリ)協定 逹成微かなり
地球温暖化は深刻な問題です。
パリ協定、アメリカ離脱表明で、その実効性に大きな影響を与えることは否定できません。