作品番号 2019-361
梅雨書懐
聽盡羣蛙十日霖 聴き尽す群蛙 十日の霖
天空漠漠雨聲深 天空 漠漠 雨声深し
紫陽花發書窓下 紫陽花発く 書窓の下
破屋閑人得一吟 破屋の閑人 一吟を得たり
作品番号 2019-362
避暑偶作
逃避炎威孤館中 炎威を逃避す 孤館の中
溪聲洗耳引涼風 溪声耳を洗ひ 涼風を引く
拷A日午華胥夢 拷A 日午 華胥の夢
微動窓前百日紅 微動す窓前の百日紅
作品番号 2019-363
消夏雜詩
蟬吟滿地暑如烘 蝉吟 地に満ち 暑烘(た)くが如し
水浴泠然小院中 水浴 泠然たり 小院の中
消夏三杯斟麥酒 消夏 三杯 麦酒を斟む
午陰一脈引清風 午陰 一脈 清風を引く
作品番号 2019-364
松林散策
夕照寥寥歩晩林 夕照 寥寥 晩林を歩む
殘蟬啼罷客愁深 残蝉啼き罷んで 客愁深し
龍蟠松樹千年翠 龍蟠の松樹 千年の翠
幽境裁詩秋可尋 幽境 詩を裁して 秋尋ぬべし
作品番号 2019-365
依元號令和
一三七四歳鳴梭 一三七四歳 梭鳴りて
大化杼初維令和 大化の杼初 令和に維ぐ
元號象徴民庶絆 元号 象徴す 民庶の絆
人心堅固絶干戈 人心堅固 干戈を絶たんとす
大化の改新(645)以来元号が続いて(1374)年に当たる。
「梭」; 機織りの横糸を通す管
「杼」; 機織りの横糸を通す道具
新号は船出したばかり どんな時代になるか判らない。
元号の称号はその時代の安寧を必ず願ったはず。
争うは必然がある。それでもなお戦禍は避けたい。
作品番号 2019-366
行山間
鳥語欣欣五月天 鳥語 欣欣 五月の天
喧騒壕組群遷 喧騒 緑蔭 群を組み遷る
峽風谷閣清清水 峡風 谷閣 清々の水
兩岸岩頭作拗川 両岸の岩頭 拗川を作る
「谷閣」; 谷に掛かる大橋
「拗川」; 曲がりくねった川
安倍奥千頭に入る前、渓谷とそれに掛かる大きな橋がある。
橋のたもとで休憩した時の状景。
爽やかな風と鳥の声が忘れられない。
作品番号 2019-367
初夏山中
拷e雛鶯在眼前 緑影雛鶯 眼前に在り
枝間踊躍様姿圓 枝間に踊躍 様姿円か
吃聲習練薫風裡 吃声 習練 薫風の裡
待望呼喉谷谷連 待望す 呼喉谷々に連なるを
鶯は人の前には殆ど姿を現さない。
中学生の頃、早朝から鳥かごを持って主に目白を追っかけていた。
そんな体験が奇遇の経験を得た。
作品番号 2019-368
龍孫
龍孫雨後竹林穿 龍孫 雨後 竹林を穿つ
驚喜何多溢徑邊 驚喜す 何んぞ多し径辺に溢る
掘筍老夫彎曲體 筍を掘る老夫 弯曲の体
搖籠歸路夕陽前 籠揺れる 帰路 夕陽の前
「龍孫」; たけのこ
知人が筍堀に招いてくれた。
掘り方を教えてくれた老人は、どんどん持ってけといって掘ってくれた。
自分はたった二本だけ籠にいれて帰っていく。
老人は季節の間、都度、食べ料だけ採って美味しく食べているんだろうなあ、と思ったが揺れる籠は、印象的であった。
作品番号 2019-369
秋夜寄友
雲漢轉西新雁過 雲漢西に転じて 新雁過ぎ
早涼瑟瑟透衣羅 早涼瑟瑟として 衣羅に透る
遙懐病臥叢林友 遥かに懐ふ 病臥 叢林の友
欲寄信書愁緒多 信書を寄せんと欲するも 愁緒多し
「叢林」: 樹木が群がって生えている林のように、多くの雲水が集って修行する禅林、道場
作品番号 2019-370
立天龍川鵲大橋畔憶七夕
七夕驅車立鵲橋 七夕 車を驅って 鵲橋に立つ
江風颯颯夜蕭蕭 江風 颯颯 夜蕭蕭
迥思織女牽牛會 迥かに思ふ 織女 牽牛の会
燦爛雙星望碧霄 燦爛たる双星 碧霄を望む
「双星」; 牽牛星(わし座の星アルタイル) 織女星(こと座の星ベガ)
鵲大橋; 浜松市笠井と磐田市匂坂を結ぶ天竜川に架かる橋。
カササギという鳥と笠井の「かさ」、匂坂の「さぎ」をかけて「かささぎ大橋」と命名されたという。
作品番号 2019-371
池畔觀蓮
早響蜩聲克稠 早に響く蜩声 緑樹稠(おお)し
皢光燦燦彩霞流 皢光(きょうこう)燦燦として 彩霞流る
香風吹轉翠盤露 香風吹き転ず 翠盤の露
紅藕嬋娟池水頭 紅藕 嬋娟 池水の頭(ほとり)
作品番号 2019-372
想令和改元
混濁世情何處移 混濁の世情 何処にか移らん
風評萬萬衆民姿 風評万万たり 衆民の姿
改元此定平成逝 改元此に定まり 平成逝く
歴史變遷安泰思 歴史の変遷 安泰思ふ
改元はいろいろのことを想起される機会でした。
作品番号 2019-373
今年最初看滿月
履端既去酷寒迎 履端既に去って 酷寒迎ふ
衾暖夢蘇窓外明 衾暖かく夢蘇(さ)めて 窓外明し
皎月三更清絶極 皎月三更に 清絶の極み
畫然陰影滿場盈 画然たる陰影 満場に盈(み)つ
今年(二〇一九年)一月二十二日最初の満月を看る。近隣また別世界でした。
作品番号 2019-374
想時
汀洲遠望夕陽沖 汀洲 遠く望めば 夕陽沖(やわら)か
暮景深閑一日終 暮景 深閑 一日終る
今到古稀耽感慨 今古 稀に到り 感慨に耽る
人生萬事自然中 人生万事 自然の中
「汀洲」; 浜辺
作品番号 2019-375
訪鳳來寺
閑林境寂鳳來通 閑林 境寂にして鳳来に通ず
參道蒼苔祗苑風 參道 蒼苔 祗苑の風
靜坐鐘音山上響 静かに坐せば鐘音 山上に響く
嶮阻峭壁法雲空 嶮阻の峭壁 法雲の空
「祗苑風」; 寺の境内に吹く風
「嶮岨」; けわしいこと
「峭壁」; そばたつ山
「法雲空」; 仏法雲の空
作品番号 2019-376
祝登科
今宵朗報破淺眠 今宵の朗報 浅眠を破る
苦節修文十五年 苦節の修文 十五年
上帝爲君開大道 上帝 君が為(ため)に 大道を開く
秋江得意月輝天 秋江意を得れば 月天に輝く
十余年の努力、法科大学院を二回やって、ようやく司法試験に合格した。
電話は涙で声にならない。きっと神様が君のために道をつけてくれたんだろうよ。
得意の絶頂、川辺を名月が照らしている。
作品番号 2019-377
遠聴初雷
雷光裂宙怪雲留 雷光宙を裂き 怪雲留まる
未到轟音搖稻頭 未だ到らざる轟音 稲 頭を揺らす
戴笠村夫視田憾 戴笠の村夫 田を視て憾(うら)みたり
先危盆雨帯泥流 先に危ぶむ 盆雨泥流を帯するを
黒々とした雲が迫ってくる。
雷光もピカピカしている。
この分では豪雨になりそうだ。
田を見回る農夫は、集中豪雨が田を泥だらけにしないか、恐れている。
作品番号 2019-378
初夏山中
褶曲梯田滿水新 褶曲の梯田 水を満たして新たなり
藍天白日映如鱗 藍天の白日 映じて鱗の如し
營營育稻千年累 営営 稲を育くむ 千年の累
美景寧哀寸土貧 美景 寧ろ哀れなり 寸土の貧
しわしわに曲がりくねった棚田は、水を満たして新鮮な風景だ。
青空の太陽光が反射して、ちょうど鱗のようだ。
営々と何百年もここで稲を育てていた人々は大変だ。
貧しいが故に僅かな土地を作ってきたが、美しいという棚田は、かえって哀れを誘う。
作品番号 2019-379
對鏡
我家嬌女未知装 我家の嬌女 未だ装ふを知らざるも
興味津津坐鏡房 興味津津 鏡房に坐す
挿髪載頭眞満意 髪に挿し頭に載せ 眞とに意を満たす
元來餻飾塑膠琅 元来 餻飾 塑膠の琅
四、五歳の娘はまだ装うことを知らないが、
大きな鏡を膝にのせて何やらのぞき込んでいる。
見れば髪飾りを挿した自分の姿のようだが、ご満悦の様子。
だが、その飾りは先ほど食べたケーキに乗っていたプラスチックのつまだ。
作品番号 2019-380
台風十九号被災
被災唐突似龍蟠 被災 唐突 龍蟠るに似たり
洪水紛紛崩岸歎 洪水 紛紛 崩岸の歎き
満目消沈房総痛 満目 消沈 房総を痛み
萬民救濟復興闌 万民 救済 復興闌なれ
作品番号 2019-381
夜坐感秋
半夜月光星火流 半夜月光 星火流る
籬辺蟲語使人愁 籬辺の虫語 人をして愁しましむ
空嘆君去黄泉遠 空しく嘆く君去って 黄泉遠し
歳歳難堪搖落秋 歳歳堪へ難し 揺落の秋
「黄泉」; 地下に湧き出る泉。死後の世界。あの世
作品番号 2019-382
中秋望月
碧天一筆玉輪描 碧天 一筆 玉輪描く
皓皓清光滿地饒 皓皓たる清光 満地饒(おお)し
信歩俳徊踏吾影 歩に信(まか)せ 俳徊 吾が影を踏む
爽涼秋夜聴殘蜩 爽涼 秋夜 残蜩を聴く
作品番号 2019-383
訪宮古島
風搖黍穂運微涼 風は黍穂を揺らし 微涼を運び
波滌珊瑚映夕陽 波は珊瑚を滌(あら)ひ 夕陽に映ず
千哩海南宮古島 千哩の海南 宮古島
麗花爭發世塵忘 麗花 争ひ発き 世塵を忘る
作品番号 2019-384
爐邊讀書
紙窓映月轉凄涼 紙窓は月に映えて 転た凄涼
獨坐爐邊夜正長 獨り炉辺に坐せば夜正に長し
添炭巻舒猶不倦 炭を添へて巻舒けば 猶ほ倦まず
臘梅半壁吐清香 臘梅 半壁 清香を吐く
作品番号 2019-385
哀聖堂火災
哥徳嚴森市島央 哥徳(ゴシック)厳森たり 市(シテ)島の央(なかば)
巴黎中世象徴香 巴黎(パリ)中世 象徴の香
茫然崩落惨凄報 茫然たり 崩落惨凄の報せに
聖母慈顔修復光 聖母(マリヤ)の慈顔 修復に光(めぐみ)あらん
パリ、ノートルダム大聖堂火災、尖塔が消失した。
ケルンと並ぶゴシック建築の雄である。
外観も素晴らしいが内部天井を仰ぎ見てその荘厳に打たれた。
早期復旧に祈る。
作品番号 2019-386
康復體操
老氣横秋希遠冬 老気秋に横ふも 冬遠きを希み
定期康復體操庸 定期 康復(リハビリ)体操 庸(つね)とす
屈肢伸背須機械 肢屈し 背伸ばすに機械を須(もら)ふ
微汗身心當放鬆 身心微かに汗し 当に放鬆(ほうしょう)
社会福祉会館にパワーリハビリの機械六機がある。
お互い声を掛け合い、リズムを取って小一時間汗をながす。
週一回の愉しみである。
「放鬆」; リラックス
作品番号 2019-387
颶風有感
疾風威力斷文明 疾風の威力 文明を断ち
停電日常生活縈 停電 日常生活に縈(まつわ)る
実感地球温暖急 実感す 地球温暖 急なるを
何猶抜本塞源行 何ぞ猶(ためら)ふ 抜本 源を塞ぐ行いを
房総半島に集中被害をもたらした台風、小型ではあるが鋭利な刃物のようであった。
近海の海水温度上昇が齎した新しい型、これからも威力増大するであろう。
炭酸ガスを減らす。
小出しの追加規制で原発を九年も止める愚、静岡県のたき火禁止、草木も高温燃焼で完全炭酸ガス化を奨励する愚、共に即刻見直しを。
作品番号 2019-388
憶第九演奏百年
板東俘虜逸材多 板東の俘虜 逸材多し
官史寛容可切磋 官史寛容 切磋を可とす
餘韻尤其衆心洗 余韻尤も其れ 衆心洗ふは
聞街歡喜混聲歌 街に聞こゆ 歓喜 混声の歌
第一次大戦期、青島等で俘虜となったドイツ軍兵士は板東収容所に集められた。
所長松江豊寿は会津人、俘虜に対し公正友好的に処した。
ここでの第九演奏が本邦初演となった。
作品番号 2019-389
中田島砂丘 遠州濱
極目天連水 目を極むれば 天水に連なり
翻波涼動風 波を翻して 涼風に動く
漣漪渦曲浦 漣漪 曲浦に渦まき
靉靆舞蒼空 靉靆 蒼空に舞ふ
傍母戯兒子 母の傍に 児子の戯れ
從夫奔幼童 夫に従(つ)いて 幼童の奔る
雙鷗來復去 双鴎来りて復た去り
孤艇彩霞中 孤艇 彩霞の中
作品番号 2019-390
奉賀 復元臼杵石佛群(大分)
臼杵磨崖石佛姿 臼杵磨崖 石仏の姿
千年風雪有誰知 千年風雪 誰か有りて知らん
如來手足嘆顚倒 如來の手足 顚倒を嘆き
彌陀身頭傷隔離 弥陀の身頭 隔離を傷む
精進近隣諸事補 精進の近隣 諸事補け
潔齋工匠復元司 潔斎せる工匠 復元司る
三尊立像森嚴極 三尊立像 森嚴極め
全土民心參観嬉 全土の民心 参観嬉しむ
「臼井石佛」は、平安時代後期から鎌倉時代にかけて彫られ、遠く千年の歴史と文化を伝える六十余体の磨崖佛である。
国の重要文化財の指定を永年の歳月をかけ、保存修理工事を平成六年三月に終える。
頭部のみの姿であった大日如来も本来の姿に復元され、臼井磨崖佛四群五十九体が、平成七年六月国宝に指定された。
復元に学者、技術者、工匠や村民達が四十余年の歳月を費す。