作品番号 2018-361
偶成
節入立秋蟬語長 節は立秋に入り 蝉語長し
高天如水隱昏黄 高天水の如く 昏黄穏やかなり
西風一脈炎威去 西風一脈 炎威去り
浴後傾杯洗俗腸 浴後 杯を傾け 俗腸を洗ふ
作品番号 2018-362
賽高山雲龍寺
僧談寺史古禪堂 僧は寺史を談る 古禅堂
五百星霜法運昌 五百の星霜 法運昌(さか)んなり
日暮幽庭人影去 日暮の幽庭 人影去り
西風一脈弄秋光 西風一脈 秋光を弄す
作品番号 2018-363
濱名湖舘山寺賞月
遠訪禪宮爽氣流 遠く禅宮を訪へば 爽気流る
蟲聲處處使人愁 虫声處々 人をして愁へしむ
請看挂鏡舘山月 請ふ看よ 鏡を挂(か)く 舘山(かんざん)の月
湖上西風三五秋 湖上の金波 三五の秋
作品番号 2018-364
從田子浦望富嶽
八朶靈姿映雪輝 八朶の霊姿 雪輝に映ず
長汀十里海風微 長汀十里 海風微かなり
嗟乎歌聖絶佳句 嗟乎(ああ) 歌聖 絶佳の句
朗詠悠然未欲歸 朗詠すれば悠然 未だ帰るを欲せず
作品番号 2018-365
初夏即事
鄰家簷宇小禽繁 隣家の簷宇 小禽繁く
欲餌兩三雛命尊 餌を欲する 両三の雛の命尊し
閑坐幽吟心氣爽 閑坐して幽吟 心気爽やかなり
親朋方現共傾樽 親朋方に現わる 共に樽を傾く
作品番号 2018-366
大社旅行
出雲空港翠煙陬 出雲空港 翠煙の陬(すみ)
宍道湖邊燭燿樓 宍道(しんじ)湖(こ)辺 燭燿(しょくよう)の楼
喜壽金婚参拝旅 喜寿 金婚 参拝の旅
神前比翼玉顔柔 神前 比翼 玉顔柔らか
作品番号 2018-367
戊戌新年偶感
無限春光映彩霞 無限の春光 彩霞に映じ
惠風吹度入梅華 恵風吹き度り 梅華に入る
迎來戊戌古稀壽 迎へ来る戊戌 古稀の寿
白首殘年復那加 白首残年 復(ま)た那(なに)をか加へん
作品番号 2018-368
初夏偶成
幽篁戛玉午風C 幽篁 戛(かつ)玉(ぎょく) 午風清し
黄鳥關關尚弄聲 黄鳥関関として 尚ほ声を弄す
獨坐草堂閑煮茗 独り草堂に坐し 閑かに茗を煮る
拷A深處寄吾生 緑陰深き処 吾が生を寄す
作品番号 2018-369
憶広島原爆投下七十三年
一閃廢墟怨嗟縈 一閃の廃墟 怨嗟縈(めぐ)る
今猶希冀泰寧情 今猶ほ 希冀する泰寧の情
学童代表平和誓 学童の代表 平和の誓ひ
語繼衷心悲憤聲 語り継ぐ衷心 悲憤の声
作品番号 2018-370
吐月峰柴屋寺名月
宗長傳世古今心 宗長世に伝ふ 古今の心
独訪僧堂客夢深 独り訪ふ僧堂 客夢深し
秋月松梢柴屋寺 秋月 松梢に柴屋寺
清光益冴夜沈沈 清光益ます冴えて 夜沈沈
「宗長」: 連歌師(1448年島田に生まれる、1532年没)今川氏親に仕え、氏親没後は柴屋寺に引きこもる。
作品番号 2018-371
炎天詩
影短風無白日熒 影は短し風は無く 白日熒かに
呼呼吸吸息將停 呼呼吸吸 息将に停らんとす
誰知上帝判何罪 誰か知らん 上帝何の罪にて判じ
八九衰殘受火刑 八九の衰殘 火刑を受けんとは
作品番号 2018-372
蜩聲
夕陽欲落貫枝間 夕陽 落ちんと欲して 枝間を貫く
小佇林風洗暑艱 小佇すれば 林風暑艱を洗ふ
禍福如波来又去 禍福は波の如く来たり又去る
蜩声有感対霊山 蜩声感有り 霊山に対す
落日の 光は長く 枝を射り
風は颯々 暑を払う
苦楽のさまは 波に似て
来ると思えば また去りぬ
蜩細く 鳴き始め
有情の空に 富士の山
ひぐらしを グラスに満たし 富士を飲む
作品番号 2018-373
秋日山村
龍河遡上絶人声 龍河遡上すれば 人声絶ゆ
虎嶽遮陽産暗阬 虎岳 陽を遮り 暗阬を産ず
造化非情無寸土 造化の非情 寸土無きも
秋風瞥見有農耕 秋風に瞥見す 農耕有るを
天竜川のずっと上流に、山間の僻地は深い谷の底で午後になると既に太陽も高い山に吸い込まれそうだ。
こんなに厳しく暮らしにくいところで、人はどうやって生計を立てているのかと思う。
造化の神の仕業は非情であるが、ふと見ると、それでも山の斜面で農作業をしている人がいた。
「木枯らしや 何に世渡る 家五軒」
蕪村の句をしみじみと思った。
作品番号 2018-374
小皇帝
未到三旬已得猷 未だ三旬に至らず 已に猷(はかりごと)得たり
微微哭笑動双侯 微微たる哭笑 双侯を動かす
家中擁有貪皇帝 家中 貪皇帝を擁する有り
夢裏猶探兩乳頭 夢裏に猶探す 両乳頭
二か月ほどの赤ちゃんは、もう生きる術を備えて、ちょっと泣いたり微笑んだだけで両親を自在に操る。
まったく、家には欲の深い皇帝がいるようで、夢の中でも小さな手は、オッパイを探している。
作品番号 2018-375
白檜曾高原
白檜曾林九折行 白檜曾(しらびそ)の林 九折の行(みち)
深山驚觀数家郷 深山驚き観る 数家の郷
雪巒赤石眺望擅 雪巒の赤石 眺望擅(ほしいまま)にす
淑浄高原塵世忘 淑浄 高原 塵世を忘る
南信濃、白檜曾高原にドライブ、つづら折の坂を上る事、約一時間
人里離れた奥深い山に、二・三の家が見える。
赤石連邦の山々の新雪を眺める、
静かな高原は淑浄、世の中を忘れさせてくれる。。
作品番号 2018-376
山河眺望
夏天一掃鏡湖風 夏天一掃 鏡湖の風
林樹蒼蒼郊野蓬 林樹蒼蒼 郊野蓬(しげ)る
逝水潺湲飛鳥叫 逝水 潺湲 飛鳥が叫ぶ
山河眺望翠微中 山河眺望 翠微の中で
澄みわたる空に、穏やかな風が鏡のような湖を通り、
遠くの木々は青々と生い茂り 野原の揺れ動く音
流れ去る水のさらさらと流れる音、飛ぶ鳥の鳴き声等、
静物が発する音を聞きながら、山河を緑の深い山の中腹から見渡す
作品番号 2018-377
朧月夜富士
晴嵐萬丈滿盈閑 晴嵐万丈 満盈閑なり
絶勝靈峰富士山 絶勝霊峰 富士の山
頂上煌雲朧戴月 頂上の煌雲 朧ろに月を戴き
天明湖畔是仙寰 天明の湖畔 是れ仙寰
友人より戴いた写真、が真珠のように輝き感動いたしました。
さっそく詠んでみました。
作品番号 2018-378
我街高丘
萩花發遍昔時丘 萩花発いて遍し 昔時の丘
戰後荒耕七十秋 戦後の荒耕 七十の秋
往事追懷糊口念 往時追懐 糊口の念
街坊難視野芳萩 街坊難視 野芳の萩
戦後の荒れた原野に開拓者として入植し、粥をすすりながら働き、今は野に咲く萩の花も見えない街になってしまいました。
作品番号 2018-379
聽蟲聲
斜日漸沈殘暑收 斜日漸く沈み 残暑収まる
天空如水月光幽 天空 水の如く 月光幽なり
叢中絡緯咽窓外 叢中絡緯 咽ぶ窓外で
妙韻連綿坐惹愁 妙韻連綿 坐ろに愁を惹く
作品番号 2018-380
冬夜讀書
北風凛冽雁聲寒 北風 凛冽 雁の声寒し
活火爐邊披典刊 活火 炉辺 典刊を披く
赤壁詩篇珠玉調 赤壁の詩篇 珠玉の調べ
醍醐方得接賢歡 醍醐 方に得たり 接賢の歓び
作品番号 2018-381
納涼
滑稽夙聞出雲謡 滑稽 夙に聞こゆ 出雲の謡
唱和探鰌歩折腰 唱に和し鰌(どじょう)を探る 歩み折腰
響瀬舞臺沿路衆 響瀬の舞台 沿路の衆
充盈愉色納涼宵 愉色 充ち盈つ 納涼の宵
「愉色」: 喜び溢れた顔色
一日一往復の静岡―出雲空港便を記念した三泊のツアーに七月下旬参加した。
第一夜、玉造温泉の宿の前、小川にかかる舞台での余興。
締めくくりの安来節は最高だった。
作品番号 2018-382
佇廣島平和公園夜
遺樓曝骨月光孤 遺楼 骨を曝して 月光に孤
七十三年姿不渝 七十三年 姿(すがた)渝(かわ)らず
廣島悲酸長久語 広島の悲酸 長久に語らんと
秋冬春夏萬人呼 秋冬春夏 万人呼ばはる
第三夜、広島泊。僕が原爆ドームを初めて見たのは六十六年前1957年、街のあちこちに原爆の痕跡が見られた。
作品番号 2018-383
聞報道唖然
父更折檻母無翳 父 折檻 更(こもごも)するも 母翳ふなく
痩細猶書心可憐 痩せ細りて 猶書す 心可憐
幼女悲哀消那處 幼女の悲哀 那処(いずこ)に消えしか
震驚報道涙潸然 震驚の報道 涙潸然たり
虐待、殴打にとどまらず食事も与えず、我が子を死亡させた両親。
そして、その子が毎朝ひらがな練習、書き残した言葉に、只涙するばかり。
作品番号 2018-384
大草山上夜景
炯迫白燈雙遠紅 炯として迫る白灯 双(なら)び遠のく紅
湖頭不夜駐停洪 湖頭 不夜 駐停洪(あふ)る
瞰臨公道眼花繚 瞰(み)臨(おろ)す公道 眼花繚たるも
仰望星天今古同 仰望すれば 星天 今古同じ
「眼花繚」: 目まぐるしい
大草山上のホテル。窓から見る湖右手は、パーキング。
右すぐ下に東名高速道が見え、続続と迫り来る車のライト一つ一つがウロコのよう、大蛇さながら。
並ぶ下り線は尾灯が薄れゆく。
作品番号 2018-385
七竅
七竅聚頭司汝知 七竅 頭に聚まり汝が知を司る
五官秘寶更無疑 五官 宝を秘めて更に疑ひ無からん
醜聲鼻哂蒼蠅影 醜声 鼻哂(しゅうせいびしん) 蒼蠅の影
口過舌鋒黄口兒 口過 舌鋒 黄口の児たり
冷眼巧言情性愧 冷眼巧言 情性愧(はじら)ひ
溫顔朴訥晩成奇 温顔朴訥 晩成奇(すぐ)る
見聞濁世易馴悪 見聞の濁世 悪に馴れ易く
恒有蘭交且我師 恒に蘭交の有りて且に我が師とせん
「七竅」: 七つの穴、耳目鼻のそれぞれ二つと口
作品番号 2018-386
裸婦素描
朋儕調畫架 朋儕(ほうさい) 画架を調(ととの)へ
綽約拂羅裳 綽約 羅裳を払ふ
翠黛千金笑 翠黛 千金の笑
紅唇百媚香 紅唇 百媚香せ
繊腰伸玉指 繊腰 玉指伸び
才貌搖瑛瑭 才貌 瑛瑭揺れる
寫出良工手 写し出す 良工の手
圖成既夕陽 図成る 既に夕陽たり
作品番号 2018-387
苦寒
凍雲漠漠夜深天 凍雲 漠漠として 夜深の天
霜雪侵窓風冷然 霜雪 窓を侵し 風冷然たり
孤影小齋寒氣酷 孤影 小斎 寒気酷し
敝袍呵手與詩仙 敝袍 手を呵す 詩仙と与に
作品番号 2018-388
遠州灘
松韻飄飄似浩歌 松韻飄飄 浩歌に似る
長汀瀲灔去来波 長汀瀲灔として 去来する波
接空滄海遠州灘 空に接す 滄海 遠州灘
遙望霊峰詩趣多 遥かに望む 霊峰 詩趣多し
作品番号 2018-389
潮見坂
潮光搖蕩遠州灘 潮光 搖蕩 遠州の灘
散碎波濤響翠瀾 散り碎く波濤 翠瀾響く
更上遠望浮世畫 更に上り遠望す 浮世の画(え)
靈峰富士正堪看 霊峰富士 正に看るに堪へたり
作品番号 2018-390
五山梵鐘
湖北翠微斜日前 湖北の翠微 斜日の前
歸鴉目送暮煙天 帰鴉 目送す 暮煙の天
五山鐘韻郷村響 五山の鐘韻 郷村に響く
古刹高名百代傳 古刹 高名 百代伝ふ
「湖北」: 奥浜名湖
「五山」: 大福寺、魔訶耶寺、方広寺、龍潭寺、初山宝
林寺
作品番号 2018-391
弁天夕陽
夕陽今切照湖流 夕陽の今切(いまぎれ) 湖を照らして流れ
波上紅朱華表浮 波上 紅朱 華表浮かぶ
松燭焚漁風物筏 松燭を焚いての漁 風物の筏
美觀情趣遠江州 美觀情趣 遠江の州
「今切」: 今切口。太平洋と浜名湖で繋がっている。
「華表」: 鳥居
「松明」: たいまつの灯り
「筏」: たいまつを焚いての漁(たきや漁)。地元に伝わる伝統的な漁法。
作品番号 2018-392
瀬戸歴史探訪
奇巌礫島翠嵐纏 奇巌の礫島(つぶてじま) 翠嵐纏ひ
湖畔巡遊動細漣 湖畔 巡遊すれば 細漣動く
仰望峯頭尾那嶺 仰ぎ望めば 峯頭 尾那(おな)の嶺
歌碑萬葉古風傳 歌碑の万葉 古風伝ふ
「瀬戸」: 地名
「礫島」: つぶて島。ダイダラボッチ(巨人)伝説で知られている。
「尾那(尾奈)」: 地名(古くは乎那)
「万葉歌碑」:
花散らふ
この向つ峯の乎那の
峯の洲につくまで君が
齢もがも (東歌)
作品番号 2018-393
新茶祭想舊友
南風新茗嫩芽芳 南風 新茗 嫩芽芳し
一面豪u心氣康 一面 緑の丘 心気康らか
富嶽遙望君墾地 富岳 遥かに望む 君の墾地
紅顔追憶幾星霜 紅顔 追憶 幾星霜
同級生の友人、熱心に茶を造っていたが十年前に亡くなり息子が後を継いでいる。
力不足ながら応援している。
毎年五月のお茶の会を開いているときの詩です。
作品番号 2018-394
詠大浦牛蒡
複根大葉何魁偉 複根 大葉 何ぞ魁偉
一兩歳年餘不枯 一両 歳年 余 枯れず
斷首更栽別天地 断首 更(あらた)に栽う 別天地
今春猶育正珍殊 今春 猶ほ育ち 正に珍殊
太くて柔らかい大浦牛蒡は形が悪く太くて空洞のある牛蒡です。
とても強く首部は冬に枯れても春になると復活してきます。
作品番号 2018-395
孤影 葉牡丹生遠地
庭植先年葉牡丹 庭に植うは先年 葉牡丹
發芽今歳石泥端 発芽 今歳 石泥の端
遠地飛翔生命力 遠地 飛翔す 生命力
影孤寂寂月中看 影は孤にして 寂寂 月中に看る
コンクリートの割れ目から生えた葉牡丹の種子が大きく花開いた生命力の強さに驚いた。
作品番号 2018-396
看小一孫之登下校
振手先頭志氣昂 手を振り 先頭 志気昂く
吾孫潑剌自成行 吾が孫溌剌 自ずから行を成す
學終尚在託兒所 学び終へて 尚ほ在り 託児所
背負書鞄已夕陽 背負う書鞄(ランドセル) 已に夕陽
父母が帰りが遅いので幼時から長時間保育され、小学校に上がっても帰りが七時頃になる孫達が科愛想だが、現在は仕方がないことなのだろうか?
作品番号 2018-397
偶成
川上斜陽麗 川上 斜陽麗しく
泛舟垂釣遊 舟を泛べ 垂釣の遊
茜雲詩興足 茜雲 詩興足る
紅葉滿村秋 紅葉 満村の秋
のんびりと秋の景色に同化しているような時を楽しみたく思いにふけります。
作品番号 2018-398
雨中歩濱名湖辯天島海岸
濤聲聽曲浦 濤声 曲浦に聴く
歩歩想漁歌 歩歩 漁歌を想ふ
細雨斜風裡 細雨 斜風の裡
潮香遍海阿 潮香 海阿に遍し
二つの詩とも、「斜」という文字が気になり、自分を重ね合わせて使用してみました。
いや「斜」より元気をもらいつつ、一歩一歩前進と木喰さんが励ましているようです。
作品番号 2018-399
夜坐感秋
嫋嫋西風涼氣悠 嫋嫋 西風 涼気悠かなり
天晴銀漢若龍流 天晴れ 銀漢 竜の若く流れ
火星接近光輝赫 火星接近 光輝赫(あきら)か
宇宙茫洋浪漫秋 宇宙 茫洋 浪漫の秋
今年の初秋は火星がとても良くみえました。
赤くて大きく輝いて、しばらくの間観察できました。
作品番号 2018-400
奥山方廣寺
林下鬱蒼斜径通 林下 鬱蒼として斜径通じ
三重層塔映霜楓 三重層塔 霜楓に映ず
穿雲杉木千年樹 雲を穿つ杉木 千年の樹
羅漢溫顔古梵宮 羅漢 温顔 古梵宮
遠江八景の中の一つ
奥山方広寺の境内には五百の羅漢様が鎮座しておられ、そのお顔の中には、自分に似た顔が何処かにあると言われています。
「羅漢」: 修業し煩悩を脱して悟りを得た聖者
作品番号 2018-401
那耶哥羅(ナイヤガラ)瀑布觀光
遙遙北米地邊尋 遙遙 北米の地辺尋ぬ
世界遊人大瀑潯 世界の遊人 大瀑の潯
目眩肝膽驚愕極 目眩み 肝膽(かんたん) 驚愕の極み
耳聾脳裏感銘深 耳聾し 脳裏 感銘深し
街中飛沫霏霏散 街中 飛沫 霏霏として散じ
湖下虹橋耀耀擒 湖下 虹橋 耀耀として擒する
看夢五旬方覺醒 夢に看ること五旬 方に覚醒
艱忘水勢與轟音 忘れ艱し 水勢と轟音と
カナダのナイアガラの滝を観光した時の詩です。
とにかく大迫力で、観ていると、吸い込まれそうで怖いくらいでした。
作品番号 2018-402
信州葛温泉
鬱律溪亭准戲樓 鬱律たる溪亭 戲楼に准ふれば
寒光還是似觀優 寒光 還た是れ 優を観るに似る
檐雪幕垂煌點滴 檐雪 幕のごとく垂れて 点滴 煌めき
天華慢舞泮龍頭 天華 慢舞して 龍頭に泮く
「鬱律」: 煙が盛んに立ちのぼるさま
「溪亭」: 高瀬渓谷の葛温泉の外風呂のあずまや
「戲樓」: 表演雜技戲曲的樓台。
C・蒲松齡『聊齋志異・鼠戲』:“毎於稠人中,出小木架,置肩上,儼如戲樓状。乃拍鼓板,唱古雜劇。”
「寒光」: 寒々とした景色。冬景色
「優」: 楽舞や諧謔を演じた芸人の総称
「檐」: 屋根のすその突き出した部分
「點滴」: しずくがしたたり落ちる
「天華」: 雪の別名
「慢舞」: ゆったり軽やかに舞う
「泮」: 溶ける
「龍頭」: 温泉が流れ出す蛇口
<感想>
掲載が遅くなりすみません。
莫亢さんのこの詩は、見たものを素直に描こうという意図で書かれたものでしょうね。
後半の軒端の雪が溶けて流れる様、空に舞う雪が蛇口で溶ける様など、細かい描写が光ります。
ただ、映像的には結局「雪」であり、二句とも同じようなものが並んでいるだけで変化が無く、作者がどこに面白さを見いだしたのかは言葉足らずの印象です。
前半の温泉のあずまやを舞台に喩えたのは斬新で良いですね。
その湯煙の中から役者が登場するかのような描き方で期待は十分なのですが、「幕が垂れた」先に見えるのは「雪の滴り」では、何に対して「似觀優」という気持が湧いたのか、逆に疑問になってきます。
せっかくの発想が、どんどん後に行くにつれ尻すぼみになっていくようで、残念です。
ここは、後半にもう一つ、目玉を置かないと詩が成り立たないと思いますが、いかがでしょう。
2019. 3.24 by 桐山人
作品番号 2018-403
冬日偶成
小陽春夕北風疏 小陽春(こはるび)の夕べ 北風疏(とお)る
群雀中庭落葉虚 群雀 中庭 落ち葉虚し
帰咲残花斜日裏 帰り咲く 残花 斜日の裏
老翁曝背愛閑居 老翁 背を曝し 閑居を愛す
<感想>
小春日の一日、穏やかな気持に浸っての感懐が表れていると思います。
細かいところで見ていくと、起句の「北風」はなぜ「北」にしたのでしょね。
これでは寒々とした景にしかなりませんので、全体の色調を暗くしてしまいます。「小春日」に吹く風はどんな風が良いか、その観点が必要ですね。
同様に承句の「落葉虚」も逆の色彩ですので、韻字を替える方向ですね。
転句の「咲」は漢語では「笑う」の意味ですので、「発」でないといけませんが、そもそも「残花」が「帰咲」というのもおかしな言い方ですね。
「散り残った花」と言わずに、例えば「黄花」「白花」と色を示しておくだけでも矛盾は解消します。
ただ、ここは直前の「落葉」があるため、どうしても木の花を想定してしまいます。そうなると、該当するのは何の花になるのか、悩みませんか。
そういう意味でも承句の下三字は検討が必要でしょうね。
結句は良い句だと思います。
2019. 3.24 by 桐山人
作品番号 2018-404
初冬偶成
村園殘柿帶寒霜 村園の残柿 寒霜を帯び
流目南山新雪粧 目を流(うつ)す南山 新雪の粧ひ
酒甕菜菹収窖藏 酒甕 菜菹 窖蔵に収め
熅熅火閤K甜ク 熅熅たる火閤 黒甜のク
<解説>
前半は在所の初冬の様子。
後半は酒の好きな私が、冬支度を終えて、のんびりしている様子です。
よく「内容に品がない・重みがない」ようなことを言われますが、日常の小さな風景に、人間味を加えた詩が自分らしさを出せる気がしています。
<感想>
日常の小さな風景の中に詩情を見つけることは、漢詩に限らず、詩を創作する際には最も重要なことだと私は思っています。
確かに、素晴らしい風景を見たり、涙が溢れるほど感動する場面に出会った時に詩を書けば、相応の詩が書けるかもしれません。しかし、そうした絶景のスポットに旅ができるのは、普段の生活を送っていたら一年に何回か、人生の一大事と言える感動の瞬間なんて大安売りはできません。
「日々旅にして、旅を住処とする」ような生活は私たちにはできないわけです。
では、一般人は詩を書くような感動も無いのか、というとそんなことはなくて、例えば、子どもの成長する姿、街角の小さな善意、ふと耳にした懐かしいメロディ、名前も忘れた庭の花のつつましやかな香り、そうした物事は些細なものですが、それこそが日々の感動です。
毎日の生活の中に在る「小さな」感動を感知し、それを言葉やリズムやメロディで増幅して記録することがそもそも「詩」だと思います。
遥峰さんの方向性は間違っていませんので、後はどれだけ、「自分の詩」になるかですね。
さて、今回の詩は、懐かしい気持ちで読ませていただきました。
子供の頃、私の家でも毎年、漬け物を大きな瓶に幾つも漬けては、空井戸の中に下ろして保存していました。
私の住む地域は温暖でしたので、まだ冷蔵庫も無い時代、代わりに空井戸が使われて、夏はスイカ、秋から冬は漬け物がつるべの下でした。
そんな五十年以上も昔の、父母や祖母の姿、作業を手伝っていた自分も含めた我が家の光景が蘇ってきました。
きっと父親は、遥峰さんのこの詩のような気持ちで、ゆったりと昼寝をしていたのだろうなぁと思うと、何ともセンチな気分(死語か?)になれました。
良い詩だと思います。
少しだけ直すと、起句の「村園」は「山村」とし、承句の「南山」は「遙峰」「連峰」などとすると、画面がより大きくなると思います。
2019. 3.26 by 桐山人
作品番号 2018-405
飼柴犬
我曹老境淡愁心 我曹の老境 淡愁の心
熟考子孫恩愛深 熟考の子孫 恩愛 深し
饋贈狗児驚喜刻 饋贈さる狗児 驚喜の刻
再燃翁媼育成擒 再燃す翁媼 育成の擒
<解説>
日々 スポーツジムへ行ったり又野菜作り
地域のボランティア活動とそれなりに忙しく?過しているつもりでしたが
子や孫からみると「ボォ―と生きてんじゃねえよ」といったところか。
9月末 生後1か月余りの柴犬を飼えと連れてきました。
悪戦苦闘中、体力的にも、金銭的にも。
<感想>
起句の「我曹」は「自分の仲間」、ここでは「(昔と違って)私の世代のじいさん、ばあさんは」という気持ちでしょうね。
承句は「熟考」、「恩愛深」とも、説明としても揶揄としても表現が中途半端ですね。
「孝子慈孫熟考深」としてはどうですか。
転句は「驚喜」なのは「翁媼」でしょうし、実際にプレゼントの柴犬を見た時は可愛くて大喜びしたと思いますが、前半の矜恃はどこに行ってしまったのか。
もう少し、意地を見せて欲しいところです。
ここは自分の感情は結句に収めて(結句は十分に味わいのある句です)、転句は柴犬の可愛い姿を表現しておくのが良いと思いますよ。
2019. 3.26 by 桐山人