作品番号 2015-181
良宵
一痕如璧爲誰圓 一痕 璧の如く 誰が為に円かなる
千古光暉新月懸 千古の光暉 新月懸かる
萬象秋澄無點翳 万象 秋澄みて 点翳無く
玲瓏分影幾山川 玲瓏 影を分かつ 幾山川に
「無點翳」: 一点の翳りも無い
<感想>
起句の「一痕」は欠けた月を表す言葉だと思いましたが。
対句ならば仕方ないですが、月を表す言葉は多いので他の表現を探してはどうでしょうか。
承句の「新月」は月齢ではなく「上がったばかりの月」、「千古」との組み合わせが趣を出しています。
結句は視野の広い秀句ですね。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-182
題畫
山勢奔騰洞壑重 山勢は奔騰して洞壑は重なる
怪巖挂倒歳寒松 怪巌 倒まに挂く 歳寒の松
亭亭翠影塵氛遠 亭亭たる翠影 塵氛遠く
一片幽雲掃鶴蹤 一片の幽雲 鶴蹤を掃ふ
「洞壑重」: 深い谷が続いている
「亭亭」: 高く聳える
「掃鶴蹤」: 鶴の足跡を消し去る
<感想>
「画」を前にしての作品ですが、墨絵でしょうか、重なる山々、崖の松、そして片雲、絵を見ている勢いが伝わってきます。
承句の「挂倒」は「倒」を上に持ってきた方が良いでしょうね。
結句は、「鶴蹤」を使って、「鶴の飛んでいった跡に雲が流れてきた」という動きのある表現になっています。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-183
甲午孟冬
立冬殘菊颶風奇 立冬 残菊 颶風奇なり
節候春秋變轉彌 節候 春秋 変転彌(あまね)し
借問乾坤安穏否 借問す 乾坤は安穏なりや否や
震災噴火地文危 震災 噴火 地文危ふし
<解説>
昨秋の台風はずいぶんと遅い時期にやってきました。
気候変動の危うさを感じました。
<感想>
起句は「立冬」がどうしたのか、「残菊」がどうしたのか、「颶風」のどこが「奇」なのか、関連の無い羅列で、バラバラの印象です。
「立冬」の「残菊」は季節としては問題無いですが、「奇」が混乱させるので削って、「立冬来襲颶風奇」というところでしょうか。
転句の「乾坤」は前二句を受けるなら「天公」として、結句の「地文」と対応させると良いでしょうね。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-184
駿河灣春望
彩霞駿海白帆歸 彩霞の駿海 白帆帰る
暮色富峰雲表微 暮色の富峰 雲表微かなり
追憶佳人煙景裏 追憶の佳人 煙景の裏
豆州遠望ム依依 豆州の遠望 ムに依依たり
<解説>
三保松原逍遥
暮れなずむ春景はいろいろな思いが交錯します。
<感想>
まず、結句の「依依」は「なつかしげで離れられない」ことを表しますので、ここは「依稀」でないとおかしいでしょう。
その場合に、転句の「煙景」と内容が重なりますので、「去花影」としておくのが良いですね。
「いろいろな思い」が転句に凝縮されているのですが、一瞬、実際に表れたのかとドキッとします。
あるいは、ドキッとしたいという気持ちの表れかもしれません。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-185
嚴冬御殿場富士
凛冽黎明風強天 凛冽の黎明 風強き天
氷姿嶽麓未醒眠 氷姿の岳麓 未だ眠醒めず
峰頭白雪如煙舞 峰頭の白雪 煙の如く舞ひ
魏魏山容正泰然 魏魏たる山容 正に泰然
「魏魏」: 高大なさま
<感想>
承句の「未醒眠」は「未だ眠りを醒まさず」とした方が良いですね。
結句の「魏魏」は「丸く盛り上がった」ということなので、良いでしょうか。
高く聳えると言う意味ですと、「矗矗」とか「峻崪」などが考えられますね。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-186
祈廣島原爆投下日
閃光一瞬熱風吹 閃光一瞬 熱風吹き
黒雨沛然街巷悲 黒雨 沛然 街巷悲し
六十九年希願默 六十九年 希願して黙す
白頭回想斷腸思 白頭回想す 断腸の思ひ
<感想>
転句の「黙」は「沈黙する」の意味しかありませんので、この句は「六十九年間、ただ祈るだけで沈黙したままであった」となり、結句は「その(沈黙していた)六十九年を振り返ると断腸の思いだ」ということになります。
戦争の頃を思い出すということでしたら、「想」と「思」が重なっていることもありますので、「回想」を「懷昔」とすると良いでしょう。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-187
早春偶成
東風驟暖一天晴 東風 驟暖 一天晴る
曲徑探梅點素英 曲径 梅を探れば素英を点ず
無頼鶯兒情不淺 無頼の鴬児 情 浅からず
遊人和喜共吟行 遊人 和らぎ喜び共に吟行
旅の愁い、その愁いの醒めない様がありありと眼前に見える。憎々しい春の景光がまた川縁の亭にやって来た。
それは花を咲かせるのだが実に出し抜けであり、また鶯を鳴かせるのはあまりにもくどいのだ。
<解説>
<感想>
転句の「無頼鶯児」は「辺りに遠慮無く鳴く鶯」ということでしょうが、それが「情不浅」というのはやや不釣り合い。
杜甫の「絶句漫興 九首 其一」に
眼見客愁愁不醒 眼に見る 客愁は愁いて醒めざるをとありますね。
無頼春色到江亭 無頼の春色 江亭に到る
即遣花開深造次 即ち 花をして開かしむるも 深く造次ぞうしなり
便教鶯語太丁寧 便ち 鶯をして語らしむるも 太だ丁寧なり
作品番号 2015-188
象棋偶成
舊朋一戰坐茅茨 旧朋 一戦 茅茨に坐す
臨局爭雄相識姿 局に臨み雄を争ふ 相識る姿
奇策縱横爐火下 奇策 縦横 炉火の下
紙窓欲暮雪花披 暮れんと欲す紙窓 雪花披く清玄
<感想>
転句の「爐火下」は場所を示しただけで、それならもう起句に「坐茅茨」とあるので、邪魔ですね。
上の「奇策縦横」と併せるように「爐火赤」が合うでしょう。
結句は「紙窓暮れんと欲す」の語順で読みます。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-189
家康公没後四百年浜松城
謹賀風花放瑞光 謹賀の風花 瑞光を放つ
新正四百記星霜 新正四百の 星霜を記す
神君此地青雲志 神君此の地 青雲の志
出世城萌古戦場 出世城萌す 古戦場
<感想>
今年の正月は浜松でも雪だったようですね。
結句の「出世城」は浜松城ですが、それが「萌」はよく分かりませんね。
浜松城の前に、若草が生え始めているような書き方が良いでしょう。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-190
産土神瑞穂神社祭
劫餘鎮守轉清涼 劫余の鎮守 転た清涼
瑞穂宮碑顕我郷 瑞穂の宮碑 顕(み)る我らが郷
奉舞稚兒風白爽 奉舞の稚児 風 白爽
神前獻納笛笙揚 神前献納 笛笙揚(よう)たり
<感想>
承句は「我が郷を顕(しる)す」と読んで、村の歴史を刻んでいると読みたいですね。
転句の「風白爽」はかぶりがあり、「白風」「風白」が秋風を表しているので、更に「爽」は余分です。
「風白殿」が良いでしょう。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-191
秋日田家
西郊十里午風涼 西郊十里 午風涼し
信歩村村農事忙 歩に信す 村村 農事忙し
滿眼蕎花詩料好 満眼の蕎花 詩料好し
秋光群雀是吾郷 秋光群雀 是れ吾が郷
五百戸碑 昔の栄華 露けしや
すすき野原に 過疎は進みつ
<感想>
転句の「詩料好」は、これで一つ話が終わってしまいます。そうなると、今度は結句が独立した形になり、「吾郷」を象徴する物は「秋光」と「群雀」ということになり、「群雀」が詩の主眼になってしまいます。
主題を絞って、
野径蕎花群雀聚
秋光満眼是吾郷
が良いでしょう。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-192
過古戰場
恩讐一夢幾悲傷 恩讐一夢 幾悲傷
壘壘空餘古戰場 塁塁 空しく余す古戦場
極目蕭條焦土下 極目蕭条たり 焦土の下
昔時無跡野花香 昔時跡無く 野花香し
南朝の つわものどもに 思ひはす
金剛山上 雪は舞ひけり
<感想>
承句の「壘壘空餘古戦場」は古戦場の遺蹟が連なって残っていることを表すのですが、結句の「昔時無跡」とどうつながるでしょうか。
また、「極目蕭条」は秋の寂しさを感じますが、「野花香」はどんな花か。「焦土下」は何時の話か、疑問が多く残りますね。
結句を「無人旧跡野花香」として、ひとまず回避でしょうか。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-193
春日郊行
吟盟趁約早春郷 吟盟 約を趁うて 早春の郷
澗畔梅林散放香 澗畔 梅林 放香を散ず
黄鳥巧聲無影囀 黄鳥声巧みに 影無く囀る
逸遊探句俗情忘 逸遊 句を探して俗情忘る
<解説>
吟朋と約束して、春をさぐりに出掛けた。
<感想>
起句の「吟盟」は詩吟の仲間ということですが、「吟朋」とストレートに言った方が伝わりやすいでしょう。
転句は「巧声」を「声巧み」とは読めません。「声を巧みにして」と読みます。
下三字は説明で散文的なので、「囀無声」(囀るに声無し)として収めます。
結句の「俗情忘」はこの言葉自体が俗なので、「久晴光」「夕陽長」のように叙景にするか、「興偏長」と肯定形にするかですね。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-194
夏日海村
逃來三伏海邊樓 逃来三伏 海辺の楼
縹渺蒼波涼意流 縹渺たる蒼波 涼意流る
戯浪群鷗含笑景 戯浪群鷗 含笑の景
忘時忘我爽如秋 時を忘れ我を忘れて爽かな秋の如く
<解説>
夏の暑さを避ける為、海辺のホテルで家族で避暑を楽しんだ。
<感想>
転句は「浪に戯るる群鴎」、結句は「爽やかなること秋の如く」と読みます。
転句の「含笑」は誰の笑いなのか、分からないですね。
鴎が仲良く浮かんでいるということで、「雍睦景」(なごやかでむつまじい)ではどうでしょう。
2015. 7.17 by 桐山人
作品番号 2015-195
慶東京驛開業百年
百年慶祝東京驛 百年を慶祝す 東京駅
鐡路東西南北核 鉄路 東西南北の核
外構悠揚近古紅 外に構ふ 悠揚近古の紅
内延質実斬新陌 内に延ぶる 質実斬新の陌
早朝刻刻運行聲 早朝 刻刻 運行の声
深夜營營保全責 深夜 営営 保全の責め
錯雜猶維圓滑流 錯雑 猶ほ維(ささ)ふ円滑の流れ
誠心接待江湖客 誠心に接待す 江湖の客を
<解説>
東京駅は大正3年12月、第一次大戦で青島のドイツ要塞を攻略した青島守備軍司令官の凱旋祝賀と合わせて開業式典を行っている。欧州で4年に及んだ大戦の緒戦半年足らずの時期である。
現在、線路面でも地上20m高にある中央線、地下30mにある京葉線と多層複雑である。
歴史、現況、丸の内北口のギャラリーで楽しめる。
<感想>
技術畑の常春さんらしい視点からの詩で、改めて、東京駅の歴史とそれを長年支える方々の努力を感じました。
東京駅に行く楽しみが増えましたね。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-196
春雨看花
一花雙葉上 一花 双葉の上
俯首蘂珊瑚 首俯(た)れて 蘂(しべ)は珊瑚
蹲踞徐觀察 蹲踞(そんきょ)して徐(おもむ)ろに観察する
傘中妻與吾 傘中の妻と吾
<解説>
牧之原にカタクリの花の名所がある。
発芽から七年、長さ一〇pほどの双葉の上に茎をすっくと伸ばして花をつける。
下向きに反り返った花弁から突き出したメシベの色も美しい。
中国名 猪牙花。
<感想>
「観察」とおっしゃっていますが、二葉の上に花が著くというところなど、丁寧に見ていらっしゃる詩ですね。
雨の中、ご夫婦で花を見ているお姿が目に浮かび、カタクリの花にふさわしい、ほんのりとした余韻が残ります。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-197
有感
貧困眞情觀察深 貧困の真情 観察深く
紛爭處處底邊尋 紛争 処処 底辺に尋ぬ
敢探危隙何衝動 敢へて危隙を探る 何の衝動ぞ
百日俘囚愜素心 百日俘囚なるも 素心愜(きょう)ならん
<解説>
イスラム国の声明を読む姿痛々しかった。
テロの死刑囚と引き換えに生還することを本人は決して望んでいなかったであろう。合掌。
<感想>
ISによるジャーナリストの後藤さん殺害、映像も流れて衝撃的な事件でした。
常春さんは、彼のこれまでの行動と、捕らえられている中での彼の心に思いを馳せて、不当な要求に屈することを望んではいなかっただろうということを「百日俘囚愜素心」でまとめられていますね。
後藤さんのジャーナリストとしての行動が悲しい結末になったこと、若者の死に本当に心が痛みます。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-198
看梅
東風一路滿村春 東風一路 満村の春
竹外横斜逢美人 竹外 横斜 美人に逢ふ
素艷多情香脈脈 素艶 多情 香脈脈
詩心記得興尤眞 詩心記し得たり 興尤も真なり
<感想>
「東風一路」は江馬細香でしょうか。
承句は梅の代名詞が並んでいますね。
「竹外」は蘇軾、「横斜」は林逋、「美人」は高啓でしょうが、「竹外横斜」までで十分ですね。「梅影新」くらいで、梅という言葉を出しておくと良いでしょう。
「素艶」は白い梅、気が多いから香をあちらこちらにばらまいている。この転句は「美人」を受けてのイメージでしょうか。それなら、承句の「美人」を残さなくてはいけませんから、「横斜」を「横枝」でしょうか。
結句の「興尤眞」は無理矢理付けた結びという印象です。
どういう点が「尤眞」なのか、説明し切れていないまま書いてしまったため、読者に伝わりません。
まだ、「雅懷頻」「雅情新」の方が良いです。叙景で終るのも良いでしょうから、「鳥声新」も良いでしょう。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-199
新秋即事
庭梧樹竹野堂清 庭梧 樹竹 野堂清し
瑟瑟西風涼意盈 瑟瑟たる西風 涼意盈つ
咫尺新蟲天地好 咫尺(しせき)の新虫 天地好し
今宵轉愛讀書情 今宵転(うた)た愛す 読書の情
<感想>
「庭梧樹竹」の組み合わせは不自然で、「庭梧叢竹」が良いでしょうか。
ただ、どうして「野堂清」のかがよくわかりません。「碧梧翠竹」と色を添えてはどうでしょう。
転句からは場面が夜に転換したのでしょうか。「咫尺新蟲」を聞いて「天地好」と言うのは気になります。
「新蟲」だけでは物足りなく、「滿耳蟲聲」くらいが欲しいところです。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-200
立安土城址
風急江清孤鳥翔 風急に江清くして 孤鳥翔び
春秋四百草茫々 春秋四百 草茫々
空餘覇業都如夢 空く余す覇業 都て夢の如し
故壘簫條半夕陽 故塁簫条として夕陽半ばなり
<解説>
安土城址を訪ねたときの詩です。
琵琶湖を眼下にひかえ、信長公もここから天下統一の夢を抱いたのかと感慨しきりでした。
<感想>
「々」は記号で漢字ではありませんから、漢詩では使わないようにしましょう。
結句の「簫條」は「蕭条」でしょう。
うまくまとまった詩で、寂寥感がよく出ていると思います。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-201
春寒
霜白朔風蕭泌吹 霜白く 朔風 蕭泌として吹き
庭梅一點寂氷姿 庭梅一点 氷姿寂たり
春寒料峭清閑日 春寒 料峭 清閑の日
爐畔繙書又入詩 炉畔 書を繙き 又詩に入る
<解説>
今年の春先は大変寒く、庭の梅も遅く、室内にいる時間が多くなりました。
<感想>
承句の「寂」は邪魔で、「有」の方がシンプルで良いでしょう。
転句は「春寒」も「料峭」も「春先の肌寒さ」ですので、「春寒料峭」の熟語もありますね。
その肌寒さと「清閑」の組み合わせは悩ましいところ、自注からは「寒いから部屋で閑だ」となるようですが、それを読み取るのは難しいですね。
「春寒料峭是閑日」「春寒料峭得閑日」というところでしょうか。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-202
看梅
村園到處早梅妍 村園到る処 早梅妍なり
黄鳥廻溪雪後天 黄鳥渓を廻る 雪後の天
醉折一枝無所寄 酔うて一枝折るも 寄する所無く
嗅香案句托吟箋 香を嗅ぎ 句を案じて 吟箋に托す
<感想>
「村園」と「渓」は一つの画面に収まるでしょうか。
仮に実景だとしても、読者は視点をどこに置けば良いのか悩みますね。
「村園」を「山村」とするか、承句の「廻溪」を「廻声」(声を廻らす)とすれば解消すると思います。
後半は、枝を折って良いかの疑問はさておき、「嗅香」は「尋香」「踏香」などが良いでしょう。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-203
彼岸雜詩
彼岸櫻開彼岸天 彼岸桜は開く 彼岸の天
菩提寺畔綺羅妍 菩提寺畔 綺羅妍なり
添香掃墓謝家祖 香を添へて掃墓 家祖に謝す
遺愛招魂五十年 遺愛 招魂 五十年
<感想>
起句は「彼岸」を重ねて工夫されたところかもしれませんが、時候として用いるなら「春分天」とした方が良いですね。
題名も「春分雑詩」でしょう。
承句の「綺羅」は桜の美しさを比喩としたのですが、「妍」で十分ですね。
また、起句の頭に出した「彼岸桜」をまた承句の末で出す構成ですが、下三字を交換した方が視点や画面はすっきりします。
例えば「彼岸桜開満目妍 菩提寺畔仲春天」のような感じですね。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-204
遊小石川後樂園 其一
尋訪名園秋動時 尋訪す名園 秋動く時
西湖幽岸柳條衰 西湖の幽岸 柳条衰ふ
通天橋畔清泉響 通天橋畔 清泉響き
風竹吹香景最奇 風竹 香を吹き 景最も奇なり
<解説>
小石川後楽園は回遊式築山泉水庭園。
水戸光圀の代に明の朱舜水の意見を用い、円月橋、西湖堤など中国の風物を取り入れ、中国趣味豊かな庭園です。
<感想>
実際の風景をご覧になって作られたので、ついつい色々と素材を入れたくなるところ、固有名詞も含めて、どう絞るかが難しいですね。
結句の「景最奇」は、「西湖」の名称から、蘇軾の「飲湖上初晴後雨 二」の詩が浮かんだものでしょうね。
承句の「衰」は秋を表したのでしょうが、全体の情景に合わず、「垂」の方が調和するでしょう。
結句の「最」は何と比べての言葉なのか、「逾」が適当だと思います。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-205
遊小石川後樂園 其二
高欄天外白雲飛 高欄は天外に 白雲飛び
圓月橋頭蟲語微 円月橋頭 虫語微かなり
秋水清波殘照映 秋水の清波 残照映ず
桂香馥郁且忘歸 桂香 馥郁 且く帰るを忘る
<解説>
転句は下三字を挟み平にして、「映残照」とした方が自然ですね。
<感想>
起句は視野の大きな描写になっていて、作者の感情も伝わってくるようです。
これでも良いですが、次の句を見ると対句に持って行きたくなりますね。
西湖堤上午雲飛
円月橋頭虫語微
という感じでしょうか。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-206
看菜花
山容四望夕舂奇 山容四望すれば 夕舂奇なり
輕歩春風草色宜 春風 軽く歩めば 草色宜し
朧月菜花今昔樂 臘月 菜花 今昔の楽しみ
此歌此景唱吾詩 此の歌 此の景 吾 詩を唱す
<解説>
春の夕暮れ時、菜の花の咲く野原を見ていたら「朧月夜」の歌を思い出しました。
<感想>
起句の「山容」は山の姿、つまり山と向き合う形になります。
それが「四望」とつながると違和感があります。
「青山四望」とするのが良いですね。
承句は「軽歩す 春風 草色宜し」の語順でしか訓読できませんが、内容的には大きな違いは生まれないでしょう。
結句の「唱吾詩」も「吾が詩を唱ふ」と読みますので、意図と表現が合っていない状態です。
「託吾詩」でしょうか。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-207
客中不聞杜宇
初夏一聲孤月鳴 初夏一声 孤月に鳴く
旅窓欹耳不分明 旅窓 耳を欹つれど分明ならず
杜鵑望蜀歸何日 杜鵑 蜀を望み 帰るは何日ぞ
詩客思家到四更 詩客 家を思ひ 四更に到る
<感想>
こちらの詩は、まず、詩題の「不聞杜宇」が変で、「聞こえなかった」のでは、どうして「杜鵑」のことを考えたのか疑問です。
はっきりとは聞こえなかったにしろ、「聞杜宇」でなくては、そもそもこの詩が成り立たなくなります。
起句はこの形では「孤月が鳴く」で「孤月に鳴く」はやや苦しいところ。「孤月」を句頭に置く形で検討してはどうでしょうか。
結句は杜鵑から無理矢理つなげた印象です。「四更」も平仄かもしれませんが時刻が遅過ぎで、現実感が無い、理屈で作った詩という感じがします。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-208
北海道記念旅 其一
北國遙尋航路偕 北国 遥かに尋ねんと航路偕(つれだ)つ
旅情兼併五旬思 旅情兼ね併す 五旬の思ひ
人生共歩甘酸半 人生共に歩み 甘酸半つ
夏日波平無上覊 夏日波平かにして無上の覊
<解説>
平成二十六年夏、金婚記念で北海道を旅しました。
往路は茨城県の大洗港からサンフラワー号で北海道の苫小牧港まで行き、道東を観光し、美瑛、富良野を経て札幌に出て、
復路は寝台特急カシオペア号で上野に戻り、帰浜しました。
<感想>
金婚を迎えられたこと、おめでとうございます。
お祝いの記念の詩ですので、お気持ちが表れていれば、私の方が付け加えることは無いのですが、せっかくの記念の詩でもありますので、より良い表現を求めてということで、ご参考にしてください。
其一は「偕」が「上平声九佳」韻ですので、通韻となっていますが、承句の「思」が名詞用法で仄字ですので、「五旬懐」としたいところ。
その流れで行けば、結句の結びを「涯」で終るようにして、「上平声九佳」韻で揃えてはどうでしょう。
語句としては、「偕」「兼併」「共」などが重なっていますが、まあ、お二人の愛情の深さゆえだと理解しましょう。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-209
北海道記念旅 其二
天晴早發玉湖頭 天晴れ 早に発す 玉湖の頭
一路直伸行道州 一路直伸 道州を行く
青草丘陵窓外去 青草丘陵 窓外に去り
百花滿目似虹悠 百花満目 虹に似て悠かなり
<感想>
こちらの詩は、転句の「窓外去」に味気がなく、「展窓外」と広がりを出したいですね。
あるいは、「碧豪u陵香草野」とラベンダー畑を感じさせるのも良いですね。
2015. 7.19 by 桐山人
作品番号 2015-210
北海道記念旅 其三
蒼海客船快 蒼海 客船快し
清涼北國之 清涼 北国へ之(いた)る
知床湖水淨 知床 湖水淨く
大雪瀑聲滋 大雪 瀑声滋し
花影泰西畫 花影 泰西の画
斜陽即興詩 斜陽 即興の詩
如今忘世俗 如今 世俗を忘る
心癒至高覊 心癒す 至高の覊
<感想>
頷聯の「大雪」は「大雪山」のことですが、素直にそう読んで貰えるかは疑問です。「石狩」とか「十勝」では駄目でしょうか。
頸聯の「泰西」と「即興」も名詞と状態を表す形容詞ですので、対応が苦しい感じです。
良い言葉が浮かびませんが、「即興」を「古典」として名詞対応にしてはどうでしょう。
尾聯の「忘世俗」は世の中を忘れると言うより、日常生活から離れたという気持ちでしょうから、ここは「忘俗事」が良いでしょう。
「癒」も「病気が治る」の意味ですので、ここは「称意」「得意」などで。
韻字については、第二句の「北国之」が読みにくいですので、「北国羇」として、第八句の方は「時」を入れてはどうでしょう。
2015. 7.19 by 桐山人