2013年の投稿詩 第301作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2013-301

  女児四歳        

吾家四歳女、   

已上幼児園。   

今歳誕生日、   

一班歓笑顔。   

          (上平声「十三元」・上平声「十五刪」の通韻)



<感想>

 陳興さんは、お仕事として日本での生活が長くなるとのこと、かわいい盛りのお嬢さんと過ごす時間が少ないことは寂しいことでしょうね。
 「班」は幼稚園の年少組とか年長組に分かれる「組」ですので、今年の誕生日は幼稚園でお祝い会があったのでしょうね。
 年末年始はご一緒されているのでしょうか、それとも春節まではおあづけでしょうか。

 通韻と書きましたが、中華新韻としておくべきでしょうね。
 起句の「下三仄」は多少気になりますが、「下三平」と違い、また五言絶句ですので良いでしょう。



2014. 1. 1                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第302作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2013-302

  東瀛夜読妻短信偶題        

帰国只一夕、   

東瀛還両年。   

今宵看短信、   

双泪落窓前。   

          (下平声「一先」の押韻)



<感想>

 一晩だけの慌ただしい帰国、切なさも愛しさも一層かきたてられるものでしょうね。
 結句の「双泪落窓前」が決して大げさでなく、素直に共感できるのは、前半の作者の状況についての説明が端的に描かれているからでしょう、五言詩の簡潔さの効果も大きいでしょうね。



2014. 1. 1                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第303作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2013-303

  朝游大阪城        

護城河外望牽狗、   

大阪城前買抹茶。   

朝過豊臣旧居所、   

数人朝跑繞河斜。   

          (下平声「六麻」の押韻)



<感想>

 起句の「護城河」が大坂城のお堀ですね。

 転句の「豊臣旧居所」は大坂城そのものを指すのですが、日本の私たちからすると天下の秀吉が築いた難攻不落の大坂城、またお城はお殿様がいらっしゃる宮殿楼閣というイメージもありますので、「旧居」では何となく寂しいですね。
 結句の「朝跑」は早朝マラソンですね。



2014. 1. 1                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第304作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2013-304

  上野不忍池        

不忍池中開菡萏,   

誠齋詩里説蜻蜓。   

西郷隆盛猶牽狗,   

此處岩崎旧邸庭。   

          (下平声「九青」の押韻)



<感想>

 起句の「菡萏」(かんたん)は蓮の花、あるいはそのつぼみを表します。

 承句の「誠齋詩」は分かりにくかったのですが、南宋の楊万里(号が誠齋)の「小池」を指しているものです。
 この詩はあまり知られていませんので、載せておきましょう。

    小池   楊万里(南宋)

泉眼無聲惜細流   泉眼聲無く 細流を惜しみ

樹陰照水愛晴(情)柔   樹陰水に照り 晴柔を愛す

小荷纔露尖尖角   小荷纔かに露はす 尖尖の角

早有蜻蜓立上頭   早に蜻蜓の上頭に立つ有り

          (下平声「十一尤」の押韻)


 「泉眼」は泉水の出水口、「晴柔」は「情柔」とも書かれますが、晴れた日の穏やかな風光を表しています。

 写景の詩ですが、「惜」「愛」の擬人法に作者の心が投影されるとともに、後半の蓮の花のつぼみが開きかけた様子、蜻蜓の飛来、細やかな自然の移り変わりを丁寧に描いている詩です。
 不忍池の描写はこの楊万里の詩にもう任せて、作者は上野を散策するというのが後半ですので、詩としての前後の脈絡が無いのが難点ですが、陳興さんはビデオを撮影するような感覚で、上野の景色を描写されたのでしょうね。





2014. 1. 1                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第305作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2013-305

  雷門        

雷門昨夜听雷声,   

聞道烟花因雨停。   

想必隅田川道外,   

飛光電閃落東瀛。   

          (下平声「八庚」「九青」の押韻)



<感想>

 こちらの詩も平水韻としては苦しい形ですね。
 詩には(2013/7/28)の日付が添えられていましたが、7月27日は隅田川花火大会の予定日。
 昨年の大会は大雨洪水警報が発令されたために中止になったようですが、その事情が前半ですね。

 後半は「隅田川」、日本の人はつい習慣(伝統)的に「墨水」と書こうとしてしまいますが、現代を描く詩だと考えると、こうして「隅田川」とそのまま表現するのは良いですね。

 転句の「想必」は「きっと・・・・だろう」という推量の言葉ですね。



2014. 1. 2                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第306作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2013-306

  如夢令        

酷暑蝉逃吾屋,   

黒影初疑蝙蝠。   

何処有清凉,飛瀑,飛瀑,   

長挂懸崖幽谷。   

          (入声「一屋」の押韻)



<感想>

 昨夏の暑さはまさに「酷暑」、蝉さえも屋外から逃げてくるというところが何ともユーモラスですね。
 実際、私も夕暮れになると、蝙蝠か蝉か、飛び方がはっきり見えなくて迷うことがあります。

 そして、「飛瀑」から「長挂懸崖幽谷」の連想が、現実にはかなわないことが分かるから尚更、滑稽な味が出ていますね。



2014. 1. 2                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第307作は 深渓 さんからの作品です。
 

作品番号 2013-307

  客遊書懐        

往尽東西南北天   往き尽したり 東西南北の天

旅魂無奈問奇旋   旅魂 奈ともする無し 奇を問て旋る

老残妻逝始遊歴   老残 妻逝き 遊歴を始む

遍路念経将七年   遍路 念経 将に七年ならんとす

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>

 逝妻を弔わんとして四国八十八ヵ所の行脚を敢行して以来、侘しさを払わんとして万国行脚せり。
 嗚呼逝妻七年。

<感想>

 深渓さんからは多くの旅の記録をいただきましたが、詩にお書きになったように、奥様を亡くされてからのもの、始まりは四国巡礼でしたね。
 どれだけ旅をしても、奥様の居ない寂しさは消えないことが、この詩で表されていると思いました。

 若山牧水の「幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅行く」がつい頭に浮かんでくるように感じました。




2014. 1. 2                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第308作は 兼山 さんからの作品です。
 

作品番号 2013-308

  祝功勞賞受賞(畏兄猿渡公一君)        

現代劇場天下傳   現代 劇場 天下に傳ふ

悠悠五十有餘年   悠悠 五十有餘年

頑迷一徹今猶在   頑迷 一徹 今猶在り

功勞誰疑志益堅   功勞 誰か疑はん 志益堅なり

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>

 先般は友人追悼の拙詩「告別の詞」を送付致しましたが、今回は「平成25年度福岡市文化活動功労賞」を受賞した畏兄「沢渡公一君」に贈る祝詞「祝功勞賞受賞」を投稿致します。

 祝詞に「頑迷一徹」とは如何かとも思いますが、現在の彼が存在する由縁でもあります。
「現代劇場」では子や孫の年代の若者たちを相手に昔ながらの演劇創りに励んでいます。

   一座には子や孫の声文化の日  兼山



<感想>

 投稿詩では、雅号以外はいつもは個人名を直接出すのは控えて、イニシャルのみで掲載させていただいていますが、今回はお祝いでもありますし、なかば公人ということで、お名前を出させていただきました。

 功労賞についての新聞記事を見つけましたので、紹介しておきます。

 福岡市は23日、今年度の市文化賞受賞者を俳人、伊藤通明さん(77)=中央区=と指揮者、三浦宣明さん(63)=東区=、市民文化活動功労賞受賞者を演出家で劇団「福岡現代劇場」主宰、猿渡公一さん(83)=早良区=に決定したと発表した。贈呈式は11月14日に福岡アジア美術館(博多区)で開かれる。

中略

 猿渡さんは、28歳の時に劇団「福岡現代劇場」を旗揚げし、主に古今東西の古典・名作戯曲を演出してきた。後進の育成にも力を注ぎ、地元の児童劇団の指導など地域の人たちとも交流。
 市劇団協議会代表や市民芸術祭委員なども長年務めた。
          (毎日新聞 2013年10月24日 福岡都市圏版)
 兼山さんのご友人は本当に多士済済、充実した青春時代だったことがうかがわれますね。

 祝詞に「頑迷一徹」はどうか、ともありましたが、友人だからこその言葉だと理解しました。ただ、この語があるために、最後の「志益堅」が、「ますます頑固になっていく」とつい解釈してしまうてらいはありますね。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第309作は 哲山 さんからの作品です。
 

作品番号 2013-309

  秋光        

秋光只好日   秋光只だ好日

菊旺狗貪眠   菊旺んにして狗眠りを貪る

然何心不悦   然るを何ぞ心悦ばざる

懷時故影鮮   時を懷しめば故影鮮かなり

          (下平声「一先」の押韻)



<感想>

 秋の爽やかな好天の日、起句の花は盛りで犬はのんびりと眠りこける。
 ところが作者の心は「不悦」、どうしてかと見ると「遺影」の言葉が浮かび上がってくる。
 五言絶句でこんなにストーリー性のあることが描かれていることに驚きですね。

 今回の詩は、各句の平仄(二四不同・下三連の禁)は整っているのですが、転句だけ粘法が崩れています。この句は本来は二字目が仄字でなくてはいけないので、「於此心蕭索」というくらいで整えておくと、ストーリーを生かした詩になると思います。
 この句だけが残念でした。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第310作は 鮟鱇 さんからの作品です。

作品番号 2013-310

  飛蛾投火人醉吟         

涼意報秋拂面風,   涼意 秋を報ず 面を拂ふ風,

夜光如水洗前庭。   夜光 水のごとく前庭を洗ふ。

飛蛾投火人金盞,   飛蛾は火に投じ人は金盞に,

醉客游魂月紫冥。   醉客は魂を游ばせ月は紫冥に。

有趣誇才揮彩筆,   趣有らば才を誇って彩筆を揮ひ,

裁詩得意放虚聲。   詩を裁し意を得て虚聲を放たん。

來年何處斯高興,   來年 いずこぞ 斯の高興,

是否黄泉天鏡清?   黄泉の天鏡 清らかならんか?

          (中華新韵十一庚平声の押韻)

<解説>

 虚聲:こけおどしの聲。

 中華新韵で詠んでいます。韵字は「風庭冥聲清」、第一句の「拂」は平声です。
 第三句「飛蛾投火人金盞」は句中対。句中対は、「飛蛾投(灯)火(散)人(投)金盞」のように( )を適当に埋めて補うことで対偶になる句作りをいいます。
 第四句「醉客游魂月紫冥」も句中対。「醉客游(夢)魂(明)月(游)紫冥」。


<感想>

 感想は不要かとも思いましたが、句中対がやや気になったので。
 第三句は鮟鱇さんの仰るのは、「飛蛾投灯火散人投金盞」という句から適当に埋めて補う(これは削るということではと思いますが)ことのようですが、「飛蛾投火人金盞」ですと「飛蛾 投火 人 金盞」と切りますから、どうしても「投火」と「金盞」が対に見えてしまいます。同じく「醉客游魂月紫冥」も「游魂」と「紫冥」が対に見えるわけで、句中対と考えない方が句としては分かりやすく感じます。
 「蛾投灯火人金盞」だと句中対だとすぐに納得できますが、面白い句ではないので替えられたのでしょうか。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第311作は 鮟鱇 さんからの作品です。

作品番号 2013-311

  好酒貪杯         

中秋明月照書屋,   中秋の明月 書屋を照らし,

大漢老翁脱世俗。   大漢の老翁 世俗を脱す。

晩境多閑又無恙,   晩境 閑多くまた恙なく,

清貧少好更求福。   清貧 好みは少なくも更に福を求む。

沈詩任筆擅詩韵,   詩に沈み筆に任せて詩韵をほしいままにし,

好酒貪杯中酒毒。   酒を好み杯を貪りて酒毒に中(あた)る。

醉死夢生人漱口,   醉って死に夢に生れて人 口を漱げば,

黄泉涌處泛鴻鵠。   黄泉涌くところ 泛かぶ鴻鵠。

          (中華新韵十四姑平声の押韻)

<解説>

 書屋:書斎。 大漢:大男。 鴻鵠:白鳥。

 第五句の「沈詩任筆」四字成語で沈約の詩と任ムの筆の意味。広く詩文を指す成語ですが、拙作はそれを字面どおりに読み、「詩に沈み筆に任せて」と詠んでいます。
 第五句は、「詩に沈み筆に任せて詩韵をほしいままにしたい」という私の願望をこめています。
 「詩韵をほしいままにしたい」、そこで、この作も、中華新韵で詠んでいます。中華新韵で詠む長所に、現代の中国語との矛盾なしに発音できることの他に、押韵の範囲が広がる、ということがあり、私の願いに適っています。
 なお、拙作は、平水韵では入声=仄声であっても、現代韵では平声である「屋俗福毒鵠」で押韻しています。また、第二句の五字目「脱」も平声で、四字目の「翁」は孤平ではありません。


<感想>

 恥ずかしながら「沈詩任筆」の成語は初めて知りました。調べると「筆」は「散文」のことのようですので、鮟鱇さんが仰る「詩文」がすっきりしていますね。
 その成語を使うにしても、ただでは使わないところが鮟鱇さんですね。ただ、私のように、「詩に沈み筆に任せて」とそのままに読んで鮟鱇さんの遊び心が通じない人も多いでしょうね。
 いや、その通じないところが既に鮟鱇さんの狙いかな?

 個人的には「大漢老翁」で鮟鱇さんのお姿が目に浮かび、「醉死夢生」「黄泉」などの最近のお好みの言葉が出てきて楽しく拝見しました。
 すみません、レベルの低い感想でしたね。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第312作は 鮟鱇 さんからの作品です。

作品番号 2013-312

  進徳修業         

時有閑人老好學,   時に閑人あり 老ゆるも學ぶを好み,

進徳修業作蝴蝶。   徳を進め業を修めて蝴蝶となる。

乘風彼此篩光影,   風に乘って彼(かしこ)に此(ここ)に光影を篩ひ,

張翅春秋求律絶。   翅を張って春に秋に律絶を求む。

偶到端溪流墨水,   偶(たまたま)到れば端溪 墨水を流し,

暫游霞洞展眉睫。   暫く游んで霞洞に眉睫を展ばす。

百年裁賦終飛倦,   百年 賦を裁して終(つい)に飛ぶに倦み,

飄落黄泉涌墓穴。   飄落す 黄泉の墓穴に涌くに。

          (中華新韵三皆平声の押韻)

<解説>

 進徳修業:進徳修業:道徳を高め、功業を建てること。
 光影:光陰の意味があるが、ここでは光と影。
 律絶:律詩と絶句。 端溪:硯の産地。 墨水:墨汁。 霞洞:仙洞。

 中華新韵で作り「學蝶絶睫穴」で押韻しています。
 これらの韵字は平水韵では入声であり仄声ですが、中華新韵では平声です。また、第二句の「徳」も平声です。入声から平声(第一声、二声)へ変化した字はとても多いです。
 平水韵で詠む場合は、入声すべて仄声、という扱いでよいのですが、私は、個々の入声が、現代音では仄なのか平なのか、を調べて作詩した方がよいと思います。
 入声に迂闊な作詩をしていると、中国の人に中国語で読まれ、二四六がすべて平声になるなどして、響きが悪い、と思われかねない作品になる場合があります。

 さて、拙作、最初は、次の漢語俳句でした。

      五七令・進徳修業

  閑人老好學,進徳修業作蝴蝶。
  ○○●●平,●○○仄●○平(中華新韵三皆平仄両用の押韻)

  閑人老ゆるも學ぶを好み,
  徳を進め業を修めて
  蝴蝶となる。

この作、読み下せば短歌。

   閑人の老ゆるも學を好むあり進徳修業(シントクシュウギョウ)蝴蝶となりぬ 画蛇添足

 第二句だけを読み下せば 俳句。

   徳を進め業を修めて飛ぶ蝴蝶

 次に七言絶句にしてみました。

      七絶・進徳修業

  時有閑人老好學,進徳修業作蝴蝶。乘風張翅游山水,飄落黄泉涌墓穴。
  ○●○○●●平,●○○●●○平。○○○●○○●,○●○○●●平。
                     (中華新韵三皆平声の押韻)

  時に閑人あり 老ゆるも學ぶを好み,
  徳を進め業を修めて蝴蝶となる。
  風に乘り翅を張って山水に游び,
  飄落す 黄泉の墓穴に涌くに。

 しかし、この七絶は、転句と合句(結句)の間に飛躍があり、あっさりし過ぎているように思いました。
 そこで、轉句を二句にわけて対偶にし、飛躍している部分を、対偶ほか三句を追加して補足し、律詩にしました。
 始めから律詩に詠むと決めてかかっていたり、どうしても七絶に収めこまなければと思っていたりすると、あまりうまくいきません。
 特に絶句では言葉足らず、という場合がよくありますので、そういう時は律詩にしてみるとよいと思います。


<感想>

 そうですね、七絶では結末をつけるためにどうしても無理してしまう場合も多く、あと一句有れば、という気持ちになります。ただ、一句では駄目で四句増やさなくては律詩になりませんので、今度は言いたくないことも膨らませなくてはいけないというジレンマにはまりますけれど。

 鮟鱇さんがお書きになったように、今回の詩では絶句の方では確かに「あれ、もう落ちちゃうの!」という感じがしますので、律詩で随分楽しみも長くなり、分かりやすくなりました。
 「百年裁賦終飛倦」の「飛倦」はもうちょっとパンチが効いてほしい気がします。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第313作は芙蓉漢詩会の 蘭君 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-313

  暮歸        

歩下翠微晩意濃   歩して翆微を下れば 晩意濃やかなり

雲霾樹杪鎖千峰   雲は樹杪につちふるうて 千峰を鎖す

西天寂寞鳥飛盡   西天 寂寞 鳥 飛び尽き

隔塢送來人界鐘   塢を隔てて 送り来たる 人界の鐘

          (上平声「二冬」の押韻)



<解説>

「人界鐘」: 人住む村の鐘

<感想>

 承句の霾(つちふる)は、「霾りて」の送り仮名でしょう。土が降って霞むが字義ですので、「雲」よりも「風」の方がすっきりするのではないでしょうか。
 結句の「塢」は土手、堤。浜名湖に限定するわけではないですが、水郷の雰囲気が出て良いですね。





2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第314作も芙蓉漢詩会の 蘭君 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-314

  桑村        

山擁桑村無四隣   山は桑村を擁して 四に隣無く

雲離孤岫巻舒頻   雲は孤岫を離れて 巻舒頻りなり

情馳日入古原上   情は馳す 日 入りて古原の上の

汲澗灌蔬蓑笠人   澗を汲みて蔬に潅ぐ 蓑笠の人に

          (上平声「十一真」の押韻)



<感想>

 承句の「岫」は陶潜の帰去来辞にも出てきますが、中国では雲は山の洞穴から生まれるという考えがありますので、それを受けての語で、俗世を離れた雰囲気がよく出ています。
 雲が岫から出るのは朝ですので、「離」は「求」くらいでどうでしょう。

 転句の「情馳」は「馳情(情を馳す)」でも良いのですが、心が動くという形の自発のニュアンスが大事なのでしょう。
 結句の「汲澗」の読みは「澗に汲む」かなと思いますが、どうでしょう。





2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第315作も芙蓉漢詩会の 蘭君 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-315

  閑客        

廬臨C澗與山隣   廬は清澗に臨みて 山と隣る

不許高車來颺塵   許さず高車の来たりて塵をぐるを

閑客行藏人假問   閑客の行蔵 人 し問はば

灌花栽竹不如貧   花に潅ぎ竹を栽して 貧に如かずと

          (上平声「十一真」の押韻)



<解説>

「閑客」: 下野の人、風流人
「高車」: 身分の高い人の車
「不如貧」: 貧ほど好いものはない


<感想>

 転句の「行蔵」は「出処進退」、ここは「世に対する心構え」というところでしょうか。

 結句の「不如貧」はおもしろいですね。「貧」はもともと、「貝(お金)を分ける」ことで、財産をあれこれと分割してしまうのでまずしくなることを表している語。
 財物が無い、無欲を象徴したという意図でしょう。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第316作も芙蓉漢詩会の 蘭君 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-316

  漱煩        

老餘日課裁詩慵   老余の日課 詩を裁する慵く

野徑盤桓曳短筇   野径 盤桓して 短筇を曳く

何處百般煩可漱   何れの処にか 百般煩をすすぐ可く

橋頭少聽水聲淙   橋頭 しばらく 水声の淙たるを聴く

          (上平声「二冬」の押韻)



<解説>

漱煩=煩わしいことから離れる
盤桓=たちもとほる、ふらふら歩く
淙 =水のさらさらと流れるさま、又は音


<感想>

 転句の「百般」は「千般」「万般」などの語もありますが、手頃な数で、起句の「老餘」とよく対応しています。

 「漱ぐ可く」は「漱ぐべく」と平仮名で。




2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第317作は芙蓉漢詩会の 辰馬 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-317

  日進月歩        

新造細胞醫療初   新造の細胞 医療にはじ

天涯基地未来廬   天涯の基地 未来の廬

何人後世能凌駕   何人ぞ 後世 能く凌駕するは

碩学英雄感有餘   碩学 英雄 感余り有り

          (上平声「六魚」の押韻)



<解説>

 iPS細胞の初めての臨床治験が始まるとの報に接しての感慨

<感想>

 承句の「天涯基地未来廬」は宇宙ステーションでしょうか、地では極微小の研究、天では悠遠な宇宙の研究、ということで科学技術の「日進月歩」を並べたのでしょうが、起句と承句のつながりをつかむのは難しく、何のことか分かりにくいでしょう。
 題名に「科学技術日進月歩」と入れると、少し通じやすくなるかと思います。

 結句の「碩学英雄」は、学者も政治家も、ということでとらえると、「感有余」も作者自身の感慨ではなくなり、一応落ち着きます。
 ただ、転句の「何人」とのつながりで行くと、答になりそうな「碩学英雄」は避けておきたいところですね。このまま行くなら、「盡賛誉」でしょうか。





2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第318作も芙蓉漢詩会の 辰馬 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-318

  祝三保松原世界文化遺産登録        

碧空聳立富峰巓   碧空 聳立 富峰の巓

如畫祥雲駿海鮮   画の如き祥雲 駿海鮮やか

萬代松林盛名壽   万代の松林 盛名寿ぐ

二旬辛苦涙潸然   二旬の辛苦 涙潸然

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>

 二十年に亘る努力が実った三保の住人とし富士山共々の登録を喜ぶ

<感想>

 合評会では題名の「美保の松原」が詩に出てこなくて気になりましたが、推敲して「萬代松林」と入れられたのですね。

 結句の「二旬辛苦」は突然で、題が無いと理解が苦しいのですが、地元の皆さんの喜ぶ気持ちと、登録の記録の詩としては分かります。
 本来はこの「二旬辛苦」についてもう一句分くらいは費やしたいところですが、絶句の制約上苦しいところだったのでしょう。
 律詩に持って行けば直しやすいでしょうが、絶句のままで考えると、構成を練り直して、承句に美保の松原を入れてしまい、転句にこの「二旬辛苦」を持ってきて、結句で世界遺産に登録されたことを喜ぶ形にすると収まりが良くなるでしょうね。





2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第319作も芙蓉漢詩会の 辰馬 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-319

  午睡        

驟雨沛然煙霧流   驟雨 沛然として 煙霧流る

炎威雲散汗珠収   炎威は雲散 汗珠収む

老躯凌暑爛柯夢   老躯 暑を凌ぎ 爛柯(らんか)の夢

覚寤檐鈴忘一憂   檐鈴に覚寤 一憂を忘る

          (下平声「十一尤」の押韻)



<解説>

 今年の暑さは結構きつくて、ついうとうとしてしまいます

<感想>

 前半で暑さが去ったのに、更に転句で暑さしのぎですと、違和感が残りますね。

 転句の「爛柯夢」は「南柯夢」から修正されたのですが、辰馬さんは碁がお好きだったと思いますので、なるほどと納得です。  結句は「覚寤檐鈴」は「覚寤の檐鈴」と詠むところでしょう。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第320作も芙蓉漢詩会の 辰馬 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-320

  高校野球        

蒼天聖地快音頻   蒼天 聖地 快音頻り

俊抜球兒甲子園   俊抜されたる球児の甲子園

投打青春賭名譽   投打の青春 名誉を賭す

ク関聲援滿場温   郷関の声援 満場温かし

          (上平声「十一真」・上平声「十三元」の通韻)



<解説>

 二年前は 母校の活躍を応援しました

<感想>

 転句は「賭」は良い言葉ではないので、「負名誉」かなと思います。
 結句は良いですね。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第321作は芙蓉漢詩会の S.G さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-321

  拷A讀書        

小庭初夏拷A繁   小庭 初夏 緑陰繁し

飛燕薫風寂無喧   飛燕 薫風 寂として喧無し

一巻史篇專一讀   一巻の史篇 専一に読む

百年往事碎身痕   百年 往事 砕身の痕

          (上平声「十三元」の押韻)



<感想>

 全体に詩題に適した措辞で、雰囲気も良く出ていると思います。

 承句は二六対が崩れていますので、修正が必要です。また、上四字と下三字のつながりも弱いですね。起句と承句を混ぜ合わせて、「小庭初夏寂無喧 飛燕薫風緑樹繁」という感じでしょうか。

 結句は誰が「砕身」なのか、わかりにくいですね。「百年往事至高魂」「百年芳躅砕身魂」などでしょうか。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第322作は芙蓉漢詩会の S.G さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-322

  新秋夜坐        

庭梧搖落聞秋信   庭梧 揺落 秋信を聞く

雨滴未休蟲韻疎   雨滴 未だ休まず 虫韻疎なり

可味新涼山館夕   味わうべし新涼 山館の夕べ

一燈靜對古人書   一灯 静かに対す 古人の書

          (上平声「六魚」の押韻)


<感想>

 起句の「聞」、承句の「雨滴」と「蟲韻」と聴覚が働いていますので、結句の「静對」が違和感があります。
 「獨」「尚」など色々考えられますが、私なら「自」として、転句までの条件が揃えば自然に風雅な心になる、というニュアンスで行きます。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第323作は芙蓉漢詩会の M.S さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-323

  舘山寺山        

登山寂靜爽風香   寂静と 山に登れば爽風香る

菩薩雲帯夕陽   菩薩青雲 夕陽を帯ぶ

浩浩C漣煌眼下   浩々たる清漣 眼下に煌めき

湖心秋月暎妍光   湖心の秋月 妍光を映ず

          (下平声「七陽」の押韻)



<解説>

 年に何度も行って楽しんだ、舘山寺のお寺さんの山を初めて登り、頂上に佇み素晴らしい眺めに驚きました。

<感想>

 起句は「山に登れば 寂静として 爽風香る」と読むべきですね。
 ただ、「寂静爽」と形容詞が重なり、あまりきれいな句ではないですね。
舘山寺だということもできれば示したいところですので、「舘山中嶺」としてはどうでしょう。

 承句の「菩薩」は唐突ですが、起句で場所が明解になれば良いでしょう。ただ、「帯夕陽」が「青雲」で良いかどうか。平仄から考えると、「松雲」「溪雲」などでしょうか。

 転句は、本来は「眼下清漣浩浩煌」とした方が分かりやすい句ですので、いっそのこと承句にもってきて、承句と転句を入れ替えてはどうでしょう。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第324作は芙蓉漢詩会の M.S さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-324

  登大草山        

索道渡空湖上山   索道空を渡る 湖上の山

晴嵐獨歩翠微閑   晴嵐独歩す 翆微の閑

民家點在白燈火   民家 点在 白灯の火

殘照暎雲紅彩還   残照 映雲 紅彩還る

          (上平声「十五刪」の押韻)



<解説>

 夕方のロープウエイに乗り湖上を渡り大草山に登り夕日の紅と、民家の白い明かりが映りあう素晴らしい夕気配に感動しました。

<感想>

 承句はどう見ても昼間の句で、夕方とするには難があります。
末尾の「閑」は「間」で良いでしょう。

 転句は「白燈点点人家火」とした方がすっきりしますね。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第325作は芙蓉漢詩会の 修玲 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-325

  客中聞鵑        

新鵑裂帛斷腸聲   新鵑 裂帛 断腸の声

血涙誰憐萬里程   血涙 誰か憐まん 万里の程

半夜開窓山月冷   半夜 窓を開けば 山月冷かなり

客中寂寂望郷情   客中 寂々 望郷の情

          (下平声「八庚」の押韻)


  梅雨明けの空鳴き渡る
  ほととぎす
  いにしえびとを想いてぞ聴く


<感想>

 前半は「裂帛」「断腸」「血涙」と続くと、あまりに表現が大げさで、杜鵑の故事を受けての話だとしても、それに共鳴する心情があるわけで、作者にどんな辛いことがあったのかと思います。

 承句は「万里」だとするとここまでが杜鵑の話、「千里」とすれば作者の置かれた状況を表すことになります。「血涙」をもう少し穏やかにしておくと、「千里」として、杜鵑と作者が一体化する面白さが出るでしょう。

 結句は「寂寂」の感情語は言わずもがなで、「勃勃」として客観的な描写の方が良いかと思います。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第326作も芙蓉漢詩会の 修玲 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-326

  看菊        

黄黄白白野人家   黄黄おうおう 白白はくはく 野人の家

皎潔占秋籬畔花   皎潔 秋を占む籬畔の花

沾露耐寒霜後色   寒に耐えて露にうるおふ霜後の色

清香馥郁十分誇   清香 馥郁 十分に誇る

          (下平声「六麻」の押韻)


半年の丹精思い眺めいる
 菊の香に酔い
  花に酔いつつ


<感想>

 起句の「黄」は「おう」と読むのは呉音、「こう」と読めば漢音、「白」は「はく」で漢音、「びゃく」で呉音です。揃えて「こうこうはくはく」が良いです。
 転句の読み下しも語順が逆で、「露に沾ひ寒に耐ふ」になります。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第327作は芙蓉漢詩会の 洋靖 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-327

  聞鵑        

欝陶克覆溪池   欝陶の緑樹 渓池を覆ふ

裂帛一聲啼血悲   裂帛 一声 血に啼いて悲しましむ

蜀鳥方搖懷舊念   蜀鳥 方に揺れる 懐旧の念い

幽微月下涙空垂   幽微 月下 涙空しく垂る

          (上平声「四支」の押韻)



<解説>

「懐旧念」: 自分の生涯の過去を忍ぶ

<感想>

 前の修玲さんの詩と同じく、「杜鵑」を題にすると、どうしても大げさな表現になってしまいますが、「裂帛一声啼血悲」の一句に収めたことで、杜鵑が啼いたという事実だけを述べている形になり救われています。

 ただ、転句も「蜀鳥」としてしまうと、前半からずるずると引きずった形で、「懐旧念」も「涙空垂」も杜鵑の心情と解され、杜鵑を詠った詩になってしまいます。
 「蜀鳥」を「孤客」とすれば、転句から作者の心情へと転換したことが意識されます。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第328作は芙蓉漢詩会の 洋靖 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-328

  世界遺産富士        

信仰富士裕然姿   信仰の富士 裕然たる姿

三保松原前面持   三保の松原 前面に持ち

文化先貲殘歴史   文化の先貲 歴史に残る

積年悲願達成怡   積年の悲願 達成怡ぶ

          (上平声「四支」の押韻)



<解説>

「前面持」: 手前に置いて
「先貲」: 遺産  

<感想>

 起句の「信仰」の「仰」は仄声ですので、ここは「仰望」が良いでしょう。

 転句の「文化先貲」が「文化遺産」という意味ですが、「残歴史」は「先貲」と同じことですので、「称後代」くらいが良いでしょう。
 難しいのは、「積年悲願」で、何が「悲願」なのかとなると「世界自然遺産登録」、つまり重大なのは富士山ではなくて、それが「登録」されたこと。それを説明するのに「達成」だけでは伝わらないので、富士を描くか登録を喜ぶか、説明を丁寧にする必要がありますね。  10年後にこの詩を読んだ時に、理解されるかどうか、という観点で読み返すと良いでしょう。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第329作は芙蓉漢詩会の 緑楓林 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-329

  水村夏夜        

銀河斜落水雲郷   銀河 斜に落つる 水雲の郷

夏夜江樓酒氣香   夏夜 江楼 酒気香る

汨汨濤聲炎熱散   汨汨いついつたる濤声 炎熱散じ

微風脈脈醉何妨   微風脈脈として何ぞ酔を妨げん

          (下平声「七陽」の押韻)



<解説>

 暑い夏の銀河がきれいに見える夜でしたが、場所を海辺の酒席に置き換えて詩想をふくらませて作詩してみました。

<感想>

 起句は良い句で、浜名湖らしい趣が出ています。

 転句で「濤声」が「炎熱散」としておいて、結句でまた「涼風」と来ては効果が半減してしまいます。
 「海風」が良いですが、前半の「水」「江」と重なるのをどの程度気にするかですね。



2014. 1. 5                  by 桐山人
























 2013年の投稿詩 第330作も芙蓉漢詩会の 緑楓林 さんからの作品です。
 11月2日に「芙蓉漢詩集第13集」の合評会が開かれ、桐山人も参加しました。
 感想はその折のものをベースにしています。

作品番号 2013-330

  晩秋即事        

西風蕭瑟渉荒園   西風 蕭瑟として荒園を渉り

落葉紛飛衣上翻   落葉 紛飛 衣上に翻る

寂寞蛩聲秋欲老   寂寞たる蛩声 秋老いんと欲し

猶憐殘菊帯霜痕   猶憐む 残菊 霜痕を帯ぶるを

          (上平声「十三元」の押韻)



<解説>

 落葉が舞い散る公園を散歩しているときコオロギが鳴いているのを聞いて作詩してみました。

<感想>

 よくまとまった良い句だと思います。



2014. 1. 5                  by 桐山人