作品番号 2012-91
高尾山薬王院
梅天高尾豪濛 梅天の高尾 豪濛
蛸踞老杉雲漢窮 蛸踞り 老杉 雲漢窮まる
古刹山門昏石磴 古刹の山門 石磴昏し
焚香冥想自清風 香を焚き冥想すれば自から清風
<解説>
吟友と高尾に旅し、薬王院まで歩く。珍しい神木蛸状の巨根など立ち止まり眺め、霧に覆われた荘厳さを感じる。
「神木」: 蛸杉という。
<感想>
転句の「蛸踞」は作者としては面白いところでしょうが、読者にはなんのことか分かりません。
視点もここだけ低く違和感がありますので、「兀立」「矗立」あるいは、高い所へ目を移すなら「鬱茂」「暢茂」というところでしょうか。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-92
猛暑夏日
炎雰三伏納涼然 炎雰三伏 納涼 然らん
與友遠尋瀧澤邊 友と与に遠く尋ぬ 滝沢の辺
山道鬱蒼溪谷美 山道鬱蒼として 渓谷美し
響鳴瀑布上雲煙 響鳴る瀑布 雲煙上る
<解説>
猛暑が続き、涼を求め友と藤枝郊外の滝沢に行く。瀑布のしぶきで涼気と自然を満喫した。
<感想>
承句の「滝澤」は地名であると同時に場所の情景も表していて、良いですね。
「与友」は「携友」が良いでしょう。
転句の「美」は形容の幅が広がりすぎますので、もう少し絞って「碧」とするのが「鬱蒼」との対応が良いでしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-93
初夏偶吟
窓外匆匆燕子飛 窓外匆匆として 燕子飛ぶ
櫻花既謝葉菲菲 桜花既に謝し 葉 菲々たり
繙書閑坐薫風裡 書を繙き閑坐す 薫風の裡
今夏方期千巻希 今夏方に期す 千巻に希まんと
<解説>
初夏、空に燕が飛び交い庭には、春の花々は既に謝し、葉が盛んのようである。
本を開き読もうと思う、薫風の裡。
この夏こそ本棚の書物を読もうと思う。
<感想>
題名の「初夏」を言うのに、承句の「桜」では時期が離れすぎで、「既謝」は当然だという気持ちで意味がぼやけます。
晩春の花でも良いですし、せめて「春花」くらいでどうでしょうか。
結句は本来ならば「今夏方期千巻書」としたかったところでしょうね。「千巻希」では意味が分かりにくいのと、「期」と「希」の重複も気になりますので、この句は再考をしてはどうでしょうか。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-94
初夏偶成
庭際書窓連日霖 庭際の書窓 連日の霖
空濛雀語告ャ陰 空濛として 雀語 緑 陰を成す
無爲靜坐風鈴黙 無為にして静坐し 風鈴黙す
檐滴蝸牛慰我心 檐滴 蝸牛 我が心を慰む
<解説>
連日の雨が降り、雀の声が木陰の中から聞こえてくる。
何もせずに只静坐していると、風も無く風鈴の音も聞こえない。
<感想>
「雀語」「蝸牛」の役割がつかめません。
特に「蝸牛」がどうして「慰我心」となるのか、「檐滴」の所に蝸牛がどんな様子だったかを説明すると良くなります。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-95
晩眺
黄昏無限好 黄昏 無限に好き
橋上曳藜尋 橋上
歇墾殘鐘裏 墾を歇む 残鐘の
洗犂流水潯
去雲催野雨 去雲 野雨を催し
遙嶺棃歸禽 遥嶺 帰禽を
一縷竈煙遠 一縷 竃煙遠く
家家閭巷深 家々 閭巷深し
<感想>
起句は李商隠の「楽遊原」の転句と結句を意識しての句ですね。
向晩意不適
駆車登古原
夕陽無限好
只是近黄昏
全体に落ち着いた良い詩だと思います。
ただ、全体が実景で流れているため、いつまでもこの叙景が続いていくような印象です。
結びの句にもう少し作者の感情が入ると収まりが良くなるでしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人
「黄昏無限好」は李商隠の「夕陽無限好」からだそうですが、 夕陽が無限に好いと解説されているのが殆どです。
私は以前から疑問をもっています。
夕陽が無限に広がって好いと理解してました。
高橋先生も違った解説をしているようですが、その理由は、詩を作る者は「無限好」は夕陽の美しさを表現するには安直すぎて詩を矮小化して、稚拙のように感じるからですが、諸兄のどうおもわれますか
2012. 4. 6 by 謝斧
作品番号 2012-96
訪鳴海絞之里
有松纐纈巧工人 有松纐纈 巧工の人
丹念年年藍甕純 丹念年々 藍甕純なり
土藏黒磚白方格 土蔵 黒磚白方格
街衢優美保存眞 街衢優美 保存 真なり
<解説>
鳴海絞見学、丹念な手仕事技術の伝承、町並みの優美保存真に素晴らしかった。
「巧工」: 腕の立つ職人
「黒磚」: 黒瓦
「白方格」: 白格子模様、あわせて海鼠壁を指す
<感想>
題名に「鳴海」が入っていますので、起句にまた「有松」と地名が入るのは邪魔な印象。「伝承纐纈」としてはどうか。
転句はリズム感があり、よく町並みを表しています。4字目が孤平ですが、挟平格の関係で許される形です。
結句の「保存真」は全体のまとめとしては甘く、転句の格を壊していますので、表現を変える形が良いでしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-97
訪小布施岩松寺
卍翁携筆信州尋 卍翁筆を携え 信州尋ぬ
横溢鳳凰天板臨 横溢たる鳳凰 天板に臨む
睥睨八方雄偉絵 八方を睥睨する雄偉の絵
仰看忘我感銘深 仰ぎ看て 忘我 感銘深し
<解説>
小布施を訪ね、岩松寺にて北斎の八方睨む鳳凰の天井画を見たところ、雄大で迫力で満ちていた。
「卍翁」:葛飾北斎、晩年の号
「横溢」: みなぎりあふれる
<感想>
承句は「鳳凰」の何が「横溢」なのか分かりにくく、更に転句で「八方睥睨」とまた説明が始まるということで、まとまりが出ません。「横溢」を「留得」でどうか。
結句の「忘我」は「感銘深」を弱めて重複の感あり。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-98
秋日郊行
重陽終日訪秋行 重陽終日 秋を訪ふて行く
緩歩西郊一望晴 緩歩の西郊 一望の晴れ
田里旗亭吾覺渇 田里の旗亭 吾渇くを覚ゆ
漫遊酒賦老軀輕 漫遊酒賦 老躯軽し
<感想>
軽快な趣の伝わる詩です。
題名の「秋の郊外」の景が何もないので、山なり野なり、花なり、何か具体的な郊外を表すものが欲しいところです。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-99
迎米壽有感 其二
多年勞苦瑞雲披 多年の労苦 瑞雲披け
守拙讀書閑學詩 拙を守り書を読み 閑に詩を学ぶ
藝苑洗心吟徹曉 芸苑に心を洗い吟ずること曉に徹す
壽星堪喜浴仁慈 寿星喜びに堪えたり 仁慈に浴す
<解説>
私が、今、ここに生きられるのは、やはり無数の縁のかかわりあいに支えられています。
御先祖を大切に、報恩の心を大事にしたいと日々念じています。
<感想>
起句の「労苦」は、「瑞雲披」とのつながりが気になります。「努力」「積業」など肯定的な言葉が良いでしょう。
承句の「閑」もどうか、遠慮せずに「常」とした方が詩に勢いが出るでしょうね。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-100
晝日山居
棲遲消日碧溪前 棲遅日を消す 碧渓の前
清興不妨三伏天 清興妨げず 三伏の天
庭樹蟬聲醒午夢 庭樹蝉声 午夢を醒まし
爽涼渡水滿吟邊 爽涼水を渡って 吟辺に満つ
<感想>
起句の「棲遅」は「のんびりとした暮らし、歳月が流れる」などの意味で使う言葉ですね。全体の雰囲気を象徴する言葉になっています。
承句は「清興」と「三伏」は逆のように感じますがどうでしょうか。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-101
九月十三夜
颯颯金風坐二更 颯々たる金風 二更に坐せば
百蟲喞喞隔窓鳴 百虫喞々 窓を隔てて鳴く
今宵九月十三夜 今宵 九月十三夜
氷鏡玲瓏無限情 氷鏡玲瓏 限り無きの情
<感想>
中秋の名月を十五夜でなく十三夜に楽しむのは、古来からの伝統です。上杉謙信の有名な「九月十三夜」が知られていますね。
全体に落ち着いた良い詩ですので、最後の「無限情」だけがポンと投げ出したような印象で、月の描写で終えた方が余韻が残るでしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-102
母壽百歳
浜松市制伴元年 浜松市制 元年と伴いて
五月佳辰初度縁 五月の佳辰 初度の縁
闊達光陰開壽域 闊達の光陰 寿域を開き
期頤淡淡意悠然 期頤の淡々 意悠然たり
<解説>
明治四十四年に浜松市と共に誕生し、矍鑠と生き 本年五月に百歳を迎え明朗闊達な人生を送る阿母を寿ぎ幸せを感悦しました。
<感想>
浜松市と共に誕生されたことを起句で表したわけですが、「伴」の位置が意図を分かりにくくしています。「伴百年」ならば分かるのですが、平仄が合いませんね。無理矢理にいれるなら「誕浜松市制元年」というところでしょうか。
「期頤」は難しい言葉ですが、百歳のことですね。「淡淡」と「悠然」が重なるので、「期頤矍鑠」でも良いかと思います。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-103
唐突被災
被災唐突似龍蟠 被災唐突 竜の蟠るに似たり
海嘯紛紛地震歎 海嘯紛々 地震の歎き
滿目消沈傷陸奥 満目消沈 陸奥を傷め
萬民救済復興難 万民の救済 復興の難
<解説>
麗らかな春の日、東日本を襲った、大地震、お亡くなりになった方々及び行方不明の方々、未曾有の災難にあい大変な時、日本国民のみならず世界の国々の方々のご支援を頂き救援を感謝し一日も早い復興を心よりお祈りしております。
<感想>
転句の読み下しの「傷め」は「傷み」としないと災害の話が続いてしまいます。
結句の「難」は意図が逆になりそうなので、「闌」としてはどうでしょうか。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-104
聞鵑
滿山新拷ッ郷時 満山新緑 郷を憶うの時
裂帛一聲啼血悲 裂帛の一声 血に啼いて悲し
蜀鳥方搖懷舊念 蜀鳥方に揺らす懐旧の念
幽微月下涙空垂 幽微の月下 涙空しく垂る
<解説>
ホトトギスは長年故郷を思う時、一声激しく血に啼くような悲しい声で鳴く。
山全体が新緑につつまれ大きく深い谷間にホトトギスの声がこだまして響き渡っている。奥深くかすかな月明かりの下で故郷を思って涙が空しくしたたる。
<感想>
起句の「憶郷時」は作者の心情と取るのが自然なのですが、「満山新緑」とのつながりが無く、困ります。ホトトギスの気持ちになっての言葉だと理解をすると、一応つながるのですが、転句にその情が出ていて、結局、この三字は生きていない感じです。
どちらの心情にしても、ここは山の様子をもう少し述べた方が良いでしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-105
螢
梅雨初晴意氣揚 梅雨初めて晴れ 意気揚がる
旅亭新告雲郷 旅亭 新緑水雲の郷
飛交夜照金毬動 飛び交う夜照 金毬動く
目下風光俗念忘 目下の風光 俗念忘る
<解説>
新高ェ青々として気持ちが良く積極的に動きたくなる。きれいな川の流れのそばに宿を借りた。
飛び交うホタルの橙色がきれいにふわふわと動く目の前の風景に俗念を忘れた。
<感想>
こちらは、梅雨の晴れ間の爽やかな雰囲気がよく表れた詩だと思います。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-106
訪滄浪亭園
何奈被讒離故園 何奈せん讒を被むり 故園を離れ
滄浪亭上絶塵喧 滄浪亭上 塵喧を絶つ
現時遊客少時訪 現時の遊客 少時の訪れ
奇石綺樓廻急繁 奇石 綺樓 急ぎ廻ること繁し
<解説>
讒言で庶民となった蘇舜欽が滄浪亭と名づけて住んだのは千年前、呉越時代の広陵王別墅という。
まさに蘇州最古の庭園。車両事故も有り、隠棲の情を味わうこともなく、ただ駆け足で巡ることになったのは残念。
帰国して、蘇舜欽の詩に次韻して、五律、七律各一首を試みた。
<感想>
前半で蘇舜欽というか、滄浪亭の事情を語り、転句で「現時」と転換したのですが、転句の句中対が面白くできていて、良いですね。
結句の「廻急繁」は「少時」を説明しただけで、言わずもがな、庭の説明を続けた方が良かったかとも思いますが、とりわけ今年の旅は急ぎ足であった事を強調したのでしょうね。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-107
諏訪湖花火
高樓百尺憩温泉 高楼百尺 温泉に憩えば
巒巘九圍湖眼前
續續煙花浴池燦 続々たる煙花 浴池に燦たり
宛如神女浣吾肩 宛も神女 吾が肩を浣う如し
<解説>
湖畔のホテルは十四階に大浴場がある。窓いっぱいに花火が広がる。連打の花火に見とれて、いささか長湯をしてしまった。
<感想>
結句の比喩が独特で、詩を引き立てています。
こうした個性的な表現が出せるのは楽しいですね。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-108
聞杜鵑
更深裂帛杜鵑鳴 更深裂帛 杜鵑鳴く
夢醒孤身睡不成 夢醒めて孤身 眠り成らず
客舎蕭然灯影暗 客舎蕭然として 灯影暗し
郷愁脈脈數歸程 郷愁脈々として帰程を数えん
<解説>
自宅で夜半にホトトギスの鳴き声を聞いた時の体験を旅先に置き換えて作詩してみました。
<感想>
起句の「杜鵑鳴」と結句の「郷愁」でバランス良く詩が出来上がっています。
承句転句も破綻なく、趣のある詩ですね。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-109
松山海岸
青空一碧白鷗翔 青空一碧 白鴎翔び
松韻飄飄潮氣香 松韻飄々として潮気香る
來往漁船魚網曵 来往する漁船 魚網を曳く
長汀瀲灔對蒼茫 長汀瀲灔として 蒼茫に対す
<解説>
新居町の遠州灘松山海岸を散策した時の詩です。
<感想>
高い視点から低い所まで、画面一杯に情景が描かれていて、良いですね。
季節を感じさせる語が入ると、より実景の感が出るでしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-110
秋葉山
煙霧閑流秋葉峰 煙霧閑かに流る 秋葉の峰
老杉樹樹百千重 老杉の樹々 百千重
火防開運護符顕
神殿連延人禮恭 神殿連延 人礼恭す
<解説>
秋葉山本宮秋葉神社は、浜松市天竜区春野町の秋葉山頂付近にある神社で、全国秋葉神社の総本山である。
御神徳は火防開運の神として信仰されている。毎年十二月には有名な秋葉の火祭りが執り行われる。
<感想>
転句の「護符顕」は主語と述語の対応が変ですので、「護符貴」とした方が良いでしょう。
結句は「連延」が「神殿」と「人」の両方にかかるように読めるところが、工夫された点でしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-111
遊舘山寺
海風度水颺輕舟 海風水を度りて 軽舟颺る
月映湖心暮色浮 月は湖心に映えて 暮色浮ぶ
千客既消形勝處 千客既に消えし形勝の処
追涼醉歩思悠悠 涼を追って酔歩し 思ひ悠々たり
<解説>
毎日暑い日が続くので、夕方舘山寺に納涼に出掛けました。
<感想>
起句の「度水」と承句の「湖心」は重複している感じがしますので、起句の方を風の形容、例えば「嫋嫋」などにするのが良いでしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-112
驟雨
午下遠雷飜墨天 午下 遠雷 墨飜へる天
狂風驟雨百條濺 狂風 驟雨 百条 濺ぐ
忽降忽止自然妙 忽ち降り忽ち止む 自然の妙
遙見東山虹彩鮮 遥かに見る東山 虹彩 鮮かなり
<解説>
午後、遠くの空が暗くなり雷が鳴り始めました。強風と突然雨が滝の様に降り、おどろきました。
忽ち降り、忽ち止む、自然とは不思議なものですね。
雨が上がり、東方の山に虹がかかってとても美しいものでした。
<感想>
起句の「飜墨天」は「墨を飜す天」と読み下した方が状況が分かりやすくなるでしょう。
結句は「遙見」を「遙望」「遙看」とした方が、作者の姿が明確になります。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-113
僦舟游鯛浦
遙看烟波遠 遥かに看る 烟波遠し
薫風洗暑清 薫風 暑を洗うて清し
叩舷魚影躍 舷を叩けば 魚影躍る
潑剌短長縈 溌剌として 短長
<解説>
夏の思い出に千葉への旅があり、あの巨鱗は龍宮の使者かと想像し、大鯛に乗り、海中を自由に案内していただき、乙姫様に回り逢えたらと思いました。
<感想>
起句は「遙」と「遠」が同じ意味合いです。
「遙」には人間界を越えた世界を見た思いが含まれるとのことでしたので、「遠」を「碧」くらいでどうでしょうか。
結句の「短長」は魚影のことでしょうが、それほど詳しく格必要はなく、「巨鱗」で十分ですね。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-114
哭長子禪道之墓前
無常流水魄歸泉 無常なり流水 魄 泉に帰す
朝露人生三十年 朝露なり 人生 三十年
老涙呑聲追往事 老涙 声を呑み 往事を追ふ
梅花一片暗香傳 梅花一片 暗香伝ふ
<解説>
一日一度は、静かに坐って、身と呼吸と心を調えたくおもっています。
「父 櫻
禪道は梅
祖母は菊」 拙句
<感想>
思いのよく伝わる詩ですね。
悲しい思いを詩にすることは一層辛さを増す面もありますが、思い出を語ることで思いを昇華させることもできるのだと私は思っています。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-115
蓮華寺池公園
藤架成途池水涯 藤架途を成す 池水の涯
芳香漾漾紫條垂 芳香漾々 紫条垂る
陽光散影多遊歩 陽光散影 遊歩多し
撫掌看花紅頬兒 掌で撫し花を看る 紅頬の児
<解説>
藤枝市郊外にあるこの公園は藤の名所です。
この日は子供の日でも有り、多くの家族連れで大賑わいでした。
母親に抱かれた二、三才の幼児が棚から垂れ下がっている藤の花に手を伸ばし、にっこり笑って眺めている姿が可愛く印象的でした。
<感想>
結句が、幼児へのあたたかい視線がにじみ出ていて、良い句ですね。
前半の叙景も、欲張らずに藤花に絞ったところが、後半のあたたかさとバランスが取れているでしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-116
再來上高地
青天蒼樹一鶯鳴 青天蒼樹 一鴬鳴く
告潺湲涼意盈 緑水潺湲 涼意盈つ
勝景琴心無限意 勝景心に琴く 無限の意
重來此地倍深情 重ねて来たる此地 倍々深情
<解説>
昨年より2ヶ月程早い7月初め再び上高地を訪れました。あの美しい景色を観る為です。
梓川の清流に傍い鴬の鳴き声を聞きながら、緑の木立の中を歩きました。
そして、河童橋に立ち、残雪の穂高連峰の変わらぬ素晴らしい景色に言葉も無く、倍々この地が好きになりました。
<感想>
承句の「涼意盈」は、もう一つ情景を入れても良いかと思います。
たとえば、風などを用いるのも一つです。
転句の「無限意」は「無限」という語自体が明瞭さを欠きますし、結句の「深情」との関係、また「意」が同字重出でもあるので、直しましょう。
転句に「涼意」を持ってくる形で推敲してはいかがでしょうか。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-117
環堵閑適
秋氣寒惜好 秋気 寒蝉好く
棲遲溪水前 棲遅す 渓水の前
訪朋爭黒白 朋を訪ねては 黒白を争ひ
案句學先賢 句を案じては 先賢に学ぶ
才拙有知分 才 拙にして 分を知る有り
地偏無欲錢 地 偏にして 銭を欲する無し
山人塵事少 山人 塵事少に
閑淡樂餘年 閑淡 余年を楽しむ
<解説>
今年喜寿を迎えて、日常生活の雜感を詠んでみました。
「環堵」:みすぼらしい家。
「寒蝉」:秋のせみ、ひぐらし。
「棲遅」:隠退する。
「黒白」:囲碁を打つ。
「閑淡」:のんびりと、交わりもあわく。
<感想>
二句目の「棲遅」は尾聯とのつながりもあり、ここで出すのが良いか悩みます。
「紅楓」くらいを入れてどうかと思いましたが、ただ、頷聯に生活ぶりが出ていますので、やはりここにのんびりした生活のことを言っておいた方が良いようにも思います。
となると、二句目はそのままにしておいて、七句目の「山人」を「老来」とするのが良いかもしれません。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-118
旅愁
暗蛩聲切切 暗蛩 声切々
何處桂香流 何処か 桂香流る
池畔柳枝爽 池畔 柳枝爽やかにして
南軒燈影幽 南軒 灯影幽なり
酒仙懷玉兎 酒仙は玉兎を懐ひ
詩聖詠高樓 詩聖は高楼を詠む
月下中庭白 月下 中庭白し
羈窗坐惹愁 羈窓 坐に愁ひを惹く
<解説>
北陸に旅行した際、庭の広い素晴らしい宿でした。
池には長い橋が架かっていて、そこを通って玄関に辿りつきました。
季節は秋、折りしも空には お月様が浮かんでいました。
ふと、李白の詩 杜甫の詩などが脳裏を過ぎりました。
「酒仙」:李白
「詩聖」:杜甫
「羈窓」:旅の窓
<感想>
律詩二作目とは思えない仕上がりになっていると思います。
頷聯の「池畔」と「南軒」は対として読むことはできますが、そうですね、「階前」などでしょうか。
頸聯は「酒仙」で李白を出し、「詩聖」で杜甫を出したのは古人を偲ぶ思いを描いたのでしょうが、「だから何?」ということが問題です。尾聯に「月」が出てきますので、李白は「静夜思」がすっきりしますが、杜甫で「高楼」と「月」を重ねるのは難しいわけです。
頸聯をそのままで行くなら七句目に「古人情」を出すことに、七句目を生かすなら頸聯を検討するということになります。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-119
喜刈谷桐山堂寄詩
桐山門下素懷詩 桐山門下 素懐の詩
眞率平明肝膽披 真率平明 肝胆披らく
駿遠同人合青眼 駿遠の同人 合に青眼なるべし
参州共有近縁絲 参州 共に有り 近縁の糸
<解説>
刈谷東高校「漢詩の創作」講座 作品発表会 毎回楽しく傍聴しております。今回 中国語での朗唱もあり、読み下しとは異なる、リズムに酔いました。
この講座を巣立たれる方々へ 隣接 遠江、駿河の漢詩同人との交流をお勧めします。東海地方の共通の風土に立って、お互い詩嚢を肥やしましょう。
<感想>
今回の芙蓉漢詩集には、私の学校の漢詩講座受講生の作品も何首か寄せさせていただきました。
静岡と愛知は隣同士、これからも漢詩を通じての交流ができれば嬉しいですね。
2012. 4. 3 by 桐山人
作品番号 2012-120
初春即興
新春淑気酒三觴 新春 淑気 酒三觴
万事回来老故郷 万事回り来たりて 故郷に老ゆ
有志無功閑日月 志有るも功無く 閑なる日月
詩成独喜一枝香 詩成りて独り喜べば 一枝香し
<解説>
今年の春は遅く梅の開花も四週間も遅れました。
いつもご指導ありがとうございます。今年も月に一回はお送りしたいと思っているのですが。
<感想>
正月は新しい年を迎えた気持ちとともに、過ぎた年月を憶う時でもありますね。
承句の「万事回来」が下の「老故郷」と組み合わされると、これまでの人生の様々なことが思い出されているのだろうと感じられ、前半がよくまとまった形になっていると思います。
転句は上四字が正月の割にはやや重く感じられ、せっかくの承句の良さが消えているように感じます。
結句は「一枝春」でも良いですが、結びとなる部分ですので、「一梅香」ともう少し具体的にした方が華やかさが出るでしょう。
2012. 4. 3 by 桐山人