作品番号 2011-1
(新年漢詩)新春即事
梅花皓白杏花紅 梅花は皓白 杏花は紅
歳旦祥雲瑞気籠 歳旦の祥雲 瑞気を籠む
隔牖誰弾千鳥曲 牖を隔て 誰か弾く 千鳥の曲
満天春色思無窮 満天の春色 思ひ 窮まり無し
<解説>
先生、新年おめでとう御座います。
転句の「千鳥曲」は和習ですが、「六段」と並んで我が国の古典箏曲を代表する名曲で私の一番好きな曲ですので、敢えて使ってみました。
作品番号 2011-2
(新年漢詩)新春年賀
辛卯歳朝祈静寧 辛卯 歳朝 静寧を祈る
菅船迷走似浮萍 菅船迷走 浮き草の如し
村翁無縁隠棲境 村翁は無縁 隠棲の境
朋友優遊娯楽亭 朋友と優遊 娯楽の亭
作品番号 2011-3
(新年漢詩)新春年賀 二
菅船難航漾海溟 菅船難航 海溟に漾よふ
探査未見北辰星 探査するも未だ見えず
新春暁旦祈平穏 新春暁旦 平穏を祈る
怒浪狂風速静寧 怒浪狂風 速やかに静寧ならんことを
「北辰星」: 北極星
作品番号 2011-4
(新年漢詩)賀平成辛卯新年
東方旭日在令辰 東方の旭日 令辰に在り
四海波平祝改新 四海波平らかにして 改新を祝す
千草萬木清浄耀 千草 萬木 清浄の耀き
梅兄竹弟老松親 梅兄 竹弟 老松親し
作品番号 2011-5
(新年漢詩)一月一日登七星山
斗極煌雲漢, 斗極雲漢に煌めき,
七星聳北辺。 七星北辺に聳ゆ。
行人陳賀頌, 行人賀頌を陳べ,
勇躍往山巓。 勇躍山巓を往(めざ)す。
<解説>
数年前の元旦、台湾台北市の北の陽明山群の七星山(1120m)に登りました。
七星山は台北市と新北市の境にあり、台北市の最高点です。
登山道を行く人は、この日ばかりは、声高らかに「新年快楽(しんにえんくあいらぁ)」=「あけましておめでとうございます」と賀頌を交わしながら、頂を目指していました。
私の登山は日の出後でしたが、詩では、御来光をねらいの未明の登山にしてみました。
作品番号 2011-6
(新年漢詩)歳次辛卯
臘盡春來月魄驅, 蝋は尽き 春来たりて 月魄駆ける
辛盤卯酒目如朱。 辛盤 卯酒 目朱の如く
夢中作句皆忘却, 夢中 句を作るが 皆忘却し
曉色催詩萬象蘇。 暁の色に 詩を催し 万象蘇る
「月魄」: 月の黒い部分、転じて兎を指す。
「辛盤」:五辛盤のこと。古来元旦に葱、蒜、韮等の五種類の辛い野菜を神に供えて食した。春餅。
作品番号 2011-7
(新年漢詩)歳旦偶成
僻庵元旦往来希 僻庵の元旦 往来希なり
寒雀窓前残照帰 窓前を寒雀 残照に帰る
独坐空庭吾欲老 空庭に独り坐して吾老いんと欲す
五雲迎客野人扉 五雲と客を迎へん 野人の扉に
東都の近郊の草庵には人の往来は希である。
窓前の木々の寒雀たちも黄昏の空に帰っていく。
独り身の吾荒れた庭にむかって老いようとしている。
だが、正月だめでたい雲とともに客をむかえたいものよと門の戸を開けて待っているのだ。
作品番号 2011-8
(新年漢詩)平成二十三年元旦
八十三齢迎歳新 八十三齢の 歳を迎へて新たなり
生來醫藥未相親 生来 医薬 未だ相ひ親しまず
漫遊四海漂然癖 四海に漫遊 漂然の癖
恥我彷徨奈此身 恥ず 我が彷徨 此の身を奈んせん
八十三歳の新春を迎えることができました。
生まれて此の方、医薬の縁なく元気です。
世界漫遊 ふらりと旅に出る癖あり。
あても無くぶらつく、此の身をいかんせん。
作品番号 2011-9
(新年漢詩)二〇一一年 祝年賀
鬆葉蒼蒼旭日紅, 鬆葉蒼蒼 旭日紅
五雲靉靆醉春風。 五雲靉靆 春風に醉ふ
賀正ス喜六親健, 賀正 ス喜す 六親健なるを
辛卯元朝対碧空。 辛卯元朝 碧空に對す
作品番号 2011-10
(新年漢詩)辛卯年新年作
門前松竹対晴空 門前の松竹 晴空に対す。
庭上梅花映日紅 庭上の梅花 日に映じて紅なり。
新歳草堂多宿望 新歳の草堂 宿望多し。
誓将進歩坐春風 誓ふに進歩を将ってし 春風に坐す。
<解説>
年頭にあたり、これからの人生について思いを述べた述懐ですか?そんなところですね。
めでためでたではつまらないものです。
フィクションのところもありますけど、フィクションだけではない部分 もあります。
年頭にあたりまた一つ夢ができる。そんな新年にしたいと思います。
作品番号 2011-11
(新年漢詩)辛卯口号
極北冰融雨雪霑 極北氷融けて 雨雪霑ふ
近時寒暖動搖嚴 近時寒暖 動揺厳し
伸威内外増摩擦 威を伸ばさんと内外 摩擦増す
諸事萬端何太尖 諸事万端 何ぞ太しく尖たる
昨年の世相は『暑』、長く暑い夏でした。
朝鮮半島も熱気過剰、祝融の柱が東に傾いたかのように黄海、東シナ海波騒ぎ、そしてわが国、内輪もめ・・
作品番号 2011-12
(新年漢詩)中俄界河黒龍江
興安北嶺上曨陽
瞻望東天願福祥
凝凍界河無脚跡
輝煌冰面已春光
駕乗馬橇行田野
母奔仔追憩道傍
観感睦親憧二宝
三千里外想家郷
作品番号 2011-13
(新年漢詩)迎新年
臘尽夜鐘寒意加 臘尽きて 夜鐘 寒意を加ふ
祭詩無事酒充茶 祭詩 事無く 酒 茶に充つ
北風凄切凍窓外 北風 凄切 凍窓の外
纔見暗中梅一花 纔かに見る 暗中 梅一花
除夜の鐘が一層寒さを感じさせる
無事に年を越して さあお茶より酒だ
北風はビュービューと窓をたたくけど
暗闇の中に、ほら、もう梅の花が開いているよ
厳しい昨年よりも今年は、世の中も少しは明るくなってほしいものです。
作品番号 2011-14
(新年漢詩)次韻桐山堂主人詩『迎新年』
鐘声鳴罷一齢加
獨喫空坊炉下茶
窓外吹山冠白雪
檐前梅樹待開花
作品番号 2011-15
(新年漢詩)時事雑感
人生有限復何疑 人生限り有り 復た何ぞ疑ふ
春夏秋冬花木慈 春夏秋冬 花木を慈しみ
友愛外交言不盡 友愛の外交 言ひ尽くさざるは
是元無異獨醒姿 是れ元から異無く 独り醒姿す
作品番号 2011-16
(新年漢詩)迎春
一年容易又迎年
有爲無情轉慨然
飽食暖衣今昔感
資源枯渇竟誰憐
初春や有為の奥山また一年
作品番号 2011-17
(新年漢詩)歳晩書懷
日短夜長忙事多 日短く 夜長くして 忙事多し
崢エ歳晩亦來過 崢エたる 歳晩 亦來たり過ぐ
未定詩稿迂愚甚 詩稿未だ定まらず 迂愚甚し
不厭推敲尚可磨 推敲厭はず 尚磨く可し
作品番号 2011-18
(新年漢詩)題辛卯勅題「葉」
旭日曈曈放瑞光 旭日 曈曈 瑞光を放ち
千門松葉吐清香 千門の松葉 清香を吐く
烏飛兔走迎還暦 烏飛兔走して 還暦を迎ふ
自寿人生仍倔強
「烏飛兔走」: 月日のあわただしく過ぎ去る様
朝日がまぶしくめでたい光を放っている
町中の門の門松の松葉が 清らかな香りを吐いている
月日があわただしく過ぎ去って 還暦を迎えることになった
自分の人生がまだ倔強(くっきょう)であることを祝いたい
作品番号 2011-19
(新年漢詩)大神酒
大~酒酌共傾杯 大神酒を酌して 共に杯を傾け
滿肚陶然亦快哉 満肚陶然として 亦た快哉
正是勸君同志樂 正に是れ 君に勧むる同志の楽しみ
盞巡含醉去旋來 盞巡り 酔を含んで 去って旋た来る
大
酔ひての後は待たで注ぎける (良寛)
作品番号 2011-20
(新年漢詩)對春
粗糲耽書一野人
山南鄙里復逢春
竈煤葦管何須愧
毎有遇賢唯問津
作品番号 2011-21
(新年漢詩)辛卯元旦口号
枕上追懐去歳遊 枕上 追懐す 去歳の遊
吟鞋処処泛双眸 吟鞋 処処 双眸に泛ぶ
隔窓横見繁飛雪 窓を隔てて 横ざまに見る 飛雪の繁きを
馳想凍林銀嶺頭 想を馳す 凍林 銀嶺の頭
作品番号 2011-22
(新年漢詩)賀新年
玉兎迎新旭日紅 玉兎が新年迎え 旭日は赤い
卿雲気暖喚春風 卿雲は気暖くして 春風を喚び
家家団欒屠蘇酒 家家で団欒して 屠蘇酒を
宴楽人人盞即空 宴楽しむ人人の盞(さかつき) 即ち空になる
「卿雲」: 泰平の時に現れる目出たい雲
作品番号 2011-23
(新年漢詩)新年偶成
旭日曈曈佳気満 旭日 曈曈 佳気満つ
庭梅郁郁鳥聲新 庭梅 郁郁 鳥声新し
迎年思念歡無恙 年を迎へ思念すは 恙なきを歓び
安分悠然韻事親 分に安んじ 悠然と韻事に親しむ
作品番号 2011-24
(新年漢詩)辛卯新年
朝陽映発報佳辰 朝陽映発 佳辰を報ず
柏酒三杯気自新 柏酒三杯 気 自ずから新なり
政事喧喧争不尽 政事喧喧 争い尽きず
国家盤石祷天神 国家の盤石 天神に祷る
元旦は幸いに好天に恵まれ
例年の様に屠蘇で祝ったが、
政事は混迷し、国家の基盤を揺るがせている。
作品番号 2011-25
(新年漢詩)寿福
百八鐘声淑気回 百八の鐘声 淑気回る
三朝且発一枝梅 三朝 まさに開かんとす 一枝の梅
椒觴満已春盤腆 椒觴 已に満ちて春盤腆し
暁闇含朱泰運來 暁闇 朱を含んで泰運来る
作品番号 2011-26
(新年漢詩)新年
辛卯新春度谷風 辛卯の新春 谷風度り
祥煙靉靆日曈曈 祥煙靉靆 日曈曈
人間叡智方無限 人間の叡智は方に無限
必向辛酸開昧濛 必ずや辛酸に向かって 昧濛を開かん
「昧濛」: 濛昧
作品番号 2011-27
(新年漢詩)新年
跌蕩昇平頽廢周 昇平に跌蕩てったうして 頽廃周あまねく
已忘戰禍幾春秋 戦禍を忘れて 幾春秋
暖衣飽食誰垂訓 暖衣飽食 誰か垂訓せし
奪島拘民孰告尤 島を奪はれ民を拘はれ 孰にか尤めを告げん
勝作覇王爲殺戮 勝って覇王と作れば 殺戮を為し
涙盈降国只怨讐 涙は降国に盈ちて 只怨讐のみ
當知得隴新望蜀 当に知るべし 隴を得て新たに蜀を望むを
憲法金言成盾不 憲法の金言 盾と成るや不や
「跌蕩」: 勝手気ままにふるまうさま
「奪島」: 北方四島を指す
「拘民」: 北朝鮮による吾が同胞への拉致を指す
「孰」: 非力な国連を指す
「五句六句」 (普遍的に)戦争による無辜の民への行為の愚かさをいう。勿論、曾て我国が犯した行為をも含めて
「七句」 正しくは“得隴望蜀”(人間の)欲望にきりが無いことのたとえ
「憲法金言」: 憲法の前文。・・・・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して・・・・・・
作品番号 2011-28
(新年漢詩)新春雑感一
歳朝先拝曙光紅 歳朝 先ずは曙光の紅なるを拝し
松竹旭旗千戸同 松竹 旭旗 千戸に同じ
但願今年無一事 ただ今年の無事を願えば
炊煙昇処太平風 炊煙 昇るところに太平の風
作品番号 2011-29
(新年漢詩)新春雑感二
瑞雪呈祥犬吼初 瑞雪は祥を呈し 犬の吼える初め
新年爽気到吾廬 新年の爽気 吾廬に到る
炊煙鳬鳬山辺里 炊煙 鳬鳬 山辺の里
和満家家又晏如 和が家々に満ちて 又晏如
<解説>
大晦日には雪がふりましたが、元日の朝は見事な晴れ。
私の住む京田辺はまだ田舎の雰囲気を留めております。
正月の風景も昔ながらにほのぼのとしております。今年が無事で平穏な年であることを祈願して作詩しました。
作品番号 2011-30
(新年漢詩)萌芽
丹波雲海泛然霞 丹波の雲海 泛然(はんぜん)として霞(かす)み
田野鹿猪生意誇 田野 鹿 猪 生意誇る
人跡盛衰青史地 人跡の盛衰 青史(せいし)の地
霧消光顕確萌芽 霧消(むしょう)し光顕(こうけん)す 確かな萌芽(ほうが)を
<解説>
雲海で丹波の山々はかすんでいる。
その田や野では、鹿、猪など万物が成育する力を誇っている。
また、ここは古来から人々の盛衰の歴史の大地でもある。
こうして、風情ある地をじっと眺めているうちに、やがて霧も晴れ、野山に春へ向けて確かな萌芽の兆しを感じることができる。
自然と歴史の中に萌芽を感じ詠みました。
「生意」: 万物が成長する力
「光顕」: 明らかに表れる
「青史」: 歴史のこと
「霧消」: 霧が消えて
「萌芽」: 草木が芽を出すこと。物事がおこりはじまろうとする萌し