作品番号 2010-271
久能山東照宮
茫洋駿海近前航 茫洋たる駿海 近く前む航
松柏蒼苔古色香 松柏苔蒼く 古色香る
石磴朱門東照社 石磴朱門 東照の社
茲眠權現尚聲望 茲に眠る権現 尚声望あり
<解説>
久能山中より駿河湾を一望し、広大な海に往き交う船がはっきり見える好天の日だった。
近年改装された社殿も華麗、見事で周辺の風色も古式ゆかしく、又、家康公の墓も歴史を語っている。
<感想>
起句で遠から近へと視野を移し、そのまま承句へ流れているのはよい工夫ですね。
転句で自然から人工物へと展開するのも良いと思いますが、結びの「尚声望」という感慨はそれまでとつながりが薄いでしょう。
家康公への自分の思いを述べるのが良いと思います。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-272
清里高原
山荘寂寞茂林中 山荘寂寞 茂林の中
八岳峰巒横碧空 八ヶ岳峰巒 碧空に横たわる
爽気高原風日美 爽気高原 風日の美
孟秋清里嶺雲充 孟秋の清里 嶺雲充つ
<解説>
吟友と信州方面に旅行に行き清里高原を散策、自然に恵まれた緑豊な静寂の中に山荘が点在している。
八ヶ岳連峰を眺望、澄んだ空気の碧空の中旅を楽しませてくれた。
<感想>
近景と遠景が交互に描かれていて、ややめまぐるしいですね。
承句の光景と結句の「嶺雲充」が重なっていることも原因かもしれません。起句と承句の内容を入れ替えるだけでも雰囲気が随分違ってくるはずです。
後半の爽やかさを持ってくるのには、起句の「寂寞」は「静謐」の方が良いと思います。
「清里」の地名が詩の中で生きていますね。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-273
偶成 其一
山蟬群噪燎長空 山蝉群噪 長空を燎く
流汗炎威日正中 流汗炎威 日正に中す
溽暑夏深三伏熱 溽暑夏深し 三伏の熱
旱雲増盛滿蒼穹 旱雲増々盛んにして蒼穹に満つ
<解説>
茹だるような暑さの中、蝉たちの鳴き声が何時になくうるさく汗も流れるようであった。
その時空を見上げると青空に雲が湧き起っていた。その雲は益々暑さを増してゆくかのようであった。
<感想>
起句の「長空」と結句の「蒼穹」が重複している感じで、印象がぼやけます。
結句の「旱雲」は「増盛」までは良いのですが、「満蒼穹」となると雲が空を覆うことになり、今にも雨が降りそうな画面になります。
不安を暗示して終わらせるのも一案ですが、ここは「満」の字を「裂」「聳」などにした方が趣意に合うように思います。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-274
偶成 其二
奔雷一閃裂曇天 奔雷一閃 曇天を裂き
白雨傾盆正作川 白雨盆を傾け 正に川を作す
冷氣爽清殘暑退 冷気爽清 残暑退くも
如呼午熱未衰蟬 午熱呼ぶが如く 未だ蝉衰えず
<解説>
雷が稲妻と共に雷声を耳をつんざくばかりに轟かせ、更に雨もバケツをひっくり返したような大雨であった。
それでもまだ蝉の声も衰えず、暑さも変わらなかった。
<感想>
結句の「呼」の主語は「蝉」ですので、この語を上に持ってこないといけません。あるいは、「如呼」を蝉にかかる修飾語とするならば、「未」の上にやはり「蝉」が欲しいですね。
暑さがまだ残っているというならば、転句の「冷気爽清残暑退」は強すぎるでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-275
漁村
瑠璃盤上幾螺 瑠璃盤上 幾青螺
舟去舟來灣裏過 舟去り 舟来たりて 湾裏を過ぐ
家住津隈不知歳 家は津隈に住して 歳を知らず
朝朝暮暮聽漁歌 朝々 暮々 漁歌を聴く
<解説>
偶々海辺の村を通る。
遠くに霞む島、天に接する海、岸に連なる家々など、穏やかで美しい風景が目の前に広がる。入江を往来する船、津を隔てて立ち上がる裊やかな煙。
漁師達の愛して止まない、地球の一隅のこの桃源が、未来に亙りて恙無きことを祈りつつ、二首作る。
<感想>
転句は漁師のことを言ったのでしょう。
結句の「漁歌」は漁師が歌う歌ですので、それを「聴」くのは漁師以外の人、となると、主語が転句と結句で変換しているわけですが、これは揃えた方が良いので「唱」でどうでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-276
送歸帆
汀岸無風穩海波 汀岸 風無く 海波穏やかに
浮雲平處疊螺 浮雲平かなる処 青螺畳なる
遙知漁者已收網 遥かに知る 漁者 已に網を収むるを
箇箇歸帆夕照和 箇々の帰帆 夕照に和す
<感想>
転句の「知」は理性的な判断が来ると思いますが、「望」「看」として客観描写が良いでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-277
望穂高連峰於上高地
求涼散策傍溪流 涼を求め散策 渓流に傍ふ
緩歩尋詩登小丘 緩歩詩を尋ね 小丘に登る
殘雪清純連嶽靜 残雪清純 連岳静か
仰看青壁白雲悠 仰ぎ看る青壁 白雲悠かなり
<感想>
起句「散策」と承句の「緩歩」がやや重複感がありますので、読みで「歩を緩くして」とすると良いでしょう。
結句の「青壁」は眼前の連峰の様子でしょうか、すでに転句に語られていますので、空に眼を移して「青漢」、青にこだわらないならば「霄漢」「霽昊」でいかが。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-278
想李香蘭
嬌喉二八妙歌新 嬌喉二八 妙歌新なり
楚楚花顔惱殺人 楚々たる花顔 人を悩殺す
有涙浮沈青史裡 涙有り浮き沈み 青史の裡
日中友好保天眞 日中友好 天真を保つ
<感想>
転句の「有涙」は李香蘭が涙を流したということでしょうが、「浮沈」の後に来ないと、前半からの流れでは唐突に感じます。
「浮沈」はこの位置で動かないでしょうから、「有涙」に何か言葉を考えることになると思います。「銀幕浮沈青史上」くらいでしょうか。
他は個人的な感慨ですが、この頃の李香蘭を指して「日中友好」と言うのかどうか、少し気になります。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-279
盛夏陋屋
溽暑逾昌百日紅 溽暑 逾々昌んなり百日紅
斜陽陋屋待涼風 斜陽の陋屋 涼風を待つ
閑居醉飽忘塵事 閑居し酔飽すれば塵事を忘る
驟雨洗軒蘇活翁 驟雨軒を洗い蘇活の翁
<解説>
裏庭の百日紅が見事で暑さは酷いがビールのうまさは又格別。
初老の楽しみの一つ。
<感想>
「辱暑」と「百日紅」のつながりをもう少し出す必要があります。「緑濃」などとして色の対比にするなど、どうして「百日紅」がここで描かれているのかの意図がわかると良いでしょう。
「閑居酔飽」だけでも十分なきがしますが、更にその上に、ということで結句の「驟雨洗軒」が置かれているのでしょう。
やや贅沢だ、という気もしますね。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-280
新豪成
新獄濃物候妍 新緑愈々濃やかにして物候妍なり
薫風搖樹到吟邊 薫風樹を揺るがして吟辺に到る
西疇處處農耕急 西疇処々 農耕急に
蜀鳥啼過五月天 蜀鳥啼いて過ぐ五月の天
<感想>
まとまっている詩だと思います。
結句の「蜀鳥」は望郷のニュアンスが強くなりますので、「時鳥」の方が良いでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-281
初秋偶成
風除午熱早涼生 風は午熱を除して 早涼生じ
雲挂遙山夕日傾 雲は遥山に挂かりて 夕日傾く
十里西郊詩趣好 十里の西郊 詩趣好く
閑翁伴蝶問秋行 閑翁蝶を伴いて秋を問うて行く
<感想>
前対格で格調が高くなっています。
結句の「伴蝶」は、作者の独自性が表れているところで、のどかな雰囲気が出ていると思います。
「問秋」は「尋秋」が分かりやすいですが、平仄の関係でしょうね。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-282
二條城懷慶喜
家康創設二條城 家康の創設 二条城
天漢如流萬世榮 天漢流るる如く 万世の栄
大政奉還懷慶喜 大政奉還の慶喜を懐ひ
朝廷日本是黎明 朝廷日本の是黎明
<解説>
大広間一の間において、十五代将軍慶喜が、諸藩の重役らを集め、大政奉還を発表し、徳川幕府の幕を閉じました。その歴史的な部屋に並んだ藩卿の人形の生々しい姿を見物し、慶喜の胸中を詠んでみました。
<感想>
先人に対して「家康」「慶喜」の呼び捨ては、歴史の本ならば構いませんが、漢詩では失礼なことになります。徳川家康は色々な呼び方があるでしょうが、慶喜は「慶公」とし、平仄を合わせることが必要です。
承句は徳川の世が長く続いたことと理解します。
結句の「朝廷日本」は天皇制になったということでしょうか。歴史的にも異論があるかもしれませんので、「維新日本」ではどうでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-283
懷先考入植高丘
劫餘入植棘高丘 劫余入植す 棘の高丘
開拓農耕四十秋 開拓農耕 四十の秋
田圃變容都市化 田圃変容 都市と化し
衰殘遺愛野芳萩 衰残す 遺愛野芳の萩
<解説>
昭和二十二年開拓に入植し、始めて鍬を持つ父母が荒地を耕し、粥をすすりつつ四十余年、政令街区の市街化区域となり野生の萩を見ることが難しい街となり、昭和と共に亡くなった父親を偲び、あらためて感謝の想いを詠みました。
<感想>
解説を拝見して、ご両親のご苦労を偲びました。起句の「棘」はその苦難を実感させる好字です。
承句の「四十秋」は「四十歳の年」と感じます。「四旬」あるいは「四十春秋」「四旬歳月」と上に持ってきたいところです。
転句の下三字は「作都市」「成万井」「成巷市」などでどうでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-284
生母命日作
水逝無心易簀辰 水は逝く無心 易簀の辰
天遙慈母性清眞 天遥かな慈母 性は清真
楚香追弔青山裡 香を楚き追弔す 青山の裡
朝露人生涕涙新 朝露の人生 涕涙新た
<解説>
「人生は川の流れ、一刻も留まることはない。何事も昨日のこと、後には戻れない。一瞬に生きている。」
・・・・つれづれに想う私の来た道
(小冊子自伝より)
<感想>
承句の「天遥」は「遥天」と逆にした方が分かります。
結句も「人生」よりも「人間」が良いでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-285
河津櫻
遠望疊嶺似仙郷 遠く畳嶺を望めば仙郷に似たり
十里花堤麗夕陽 十里の花堤 夕陽に麗し
天地有情風有色 天地に情有り 風に色有り
晩鐘歸雁涅槃堂 晩鐘 帰雁 涅槃堂
<解説>
毎年二月十五日頃咲き出す河津桜は有名になりました。私も何回か訪れました。遠望の天城山の嶺々の雄大な景色にまた魅せられ、寝釈迦さまの涅槃堂からの鐘もまたよろし。
<感想>
緑水さんのご逝去を悼み申し上げます。
全体に、落ち着いた良い詩だと思います。
河津桜という題に即するならば、地域の特性を出すために、起句の「遠望」を「天城」とすることも考えられます。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-286
中秋賞月於爪木崎
蒼茫巨海一天秋 蒼茫たる巨海 一天の秋
明月新懸萬里流 明月新たに懸る 万里の流れ
七島遙望清夜興 七島遥かに望む 清夜の興
波心淡照送行舟 波心の淡照 行舟を送る
<解説>
爪木崎の駐車場の小高い芝生の丘に立って眺めた景色。眼前に広がる海原は正に心を洗ってくれます。そこを航行する船も又よろし。
<感想>
数詞である「一」「万」「七」も良いですが、使われている措辞も趣深く、心に残る詩です。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-287
哭緑水大兄
豆州杜牧鷗盟友 豆州の杜牧 鴎盟の友
酌酒論詩告邊 酒を酌み 詩を論ぜし緑水の辺
雁信俄傅絶絃恨 雁信 俄に伝う絶絃の恨み
憶君清貌誦遺篇 君が清貌を憶いて 遺篇を誦す
作品番号 2010-288
登夏山
求涼登到白雲辺 涼を求め登り到る 白雲の辺
踏破嶙峋立頂巓 嶙峋踏破して 頂巓に立つ
忽起狂風吹暑去 忽ち起る狂風 暑吹き去り
光浮遠岫碧重鮮 光は遠岫を浮かせ碧重り鮮なり
<解説>
涼しさを求めて俗世間を離れた清らかな山に登った。
けわしい山を歩き通して、やっとの思いで頂上に立った。
忽ち風が強く吹いて暑さを取ってくれた。
太陽の光をあびて遠くの山々の碧がとても美しく浮んでいる。
「嶙峋」: けわしい山
「遠岫」: 遠くの山々
<感想>
起句の「登到白雲辺」で、承句の内容はもう示されていますので、起句の「登到」を考えてみるとどうでしょう。
あるいは、承句に「嶙峋」以外には具体性が足らないかな、と感じますので、そのあたりを推敲されたらどうかと思います。
結句の「光浮」は、太陽の光ということなら「日」とした方がよいですが、「連山」とするのも考えられます。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-29
避暑偶成
六甲山中涼意盈 六甲山中 涼意盈つ
別荘酌酒葛衣輕 別荘酒を酌み 葛衣軽し
可看夜景街兼港 看る可し夜景 街港と兼せ
宛似銀河覺有情 宛も銀河に似て 有情覚ゆ
<解説>
六甲の山中、涼しさが盈ちている。
別荘で浴衣に着替え酒をくみかわした。
六甲山から見る夜景の街と港が美しくまるで別世界のようだ。
天の川の様にきれいで詩を作ろうと云う気持ちがわいて来た。
「葛衣」: ゆかた
<感想>
結句の「覚有情」は、それまでのところで十分に出ていますので、改めて言うべきではないでしょう。
この三字は、「銀河」がどんな様子なのかに使うと効果的で、例えば、「宛も銀河の万点明らかなるに似る」などが考えられますね。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-290
看仲秋月
雨霽雲收月色深 雨霽れ雲収りて 月色深し
風微地白草蛩音 風微かに地白く 草蛩の音
仲秋相酌交懷舊 仲秋相い酌みて 交々懐旧す
拙訥糟糠半百心 拙訥糟糠 半百の心
<解説>
雨が止んで雲ひとつない仲秋、綺麗な月だった。
中天に差し掛かる頃合いまで、杯を重ねながら、夫婦で50年の来し方あれこれを思い出した。
月に祝福された金婚の宴かな!
<感想>
金婚、おめでとうございます。「相」「交」に思いが籠められている感じで、良い措辞だと思います。
結句の「半百」も、「五十」ではない「半」の字が、夫婦で力を合わせる印象で、こうした言語感覚が良いですね。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-291
野邊山高原
鐵路高程尺四千 鉄路高程 尺四千
碧空澄度少塵煙 碧空澄み度り 塵煙少し
今茲欲接衆星信 今茲 接せんと欲す衆星の信
承露杯盤新祓天 承露の杯盤 天に祓いて新し
<解説>
野辺山駅は高程1345m、わが国鉄道駅で最も高いところにある。そして、宇宙電波観測所、T字型に84台のアンテナが並ぶ太陽電波観測鏡など壮観である。
迷子になった惑星探査機「ハヤブサ」を捕捉したのは隣接臼田にある直径64mのバラボラアンテナ。
「祓天」: 掃天のこと。電波で天を掃き信号を補足する。
「承露盤」: 漢武帝が設置した高さ20丈の杯盤。
<感想>
こちらの詩は、漢詩では表しにくい科学技術方面ですが、常春さんの関心の強い分野で、意欲的な詩作がいつも楽しみです。
転句の「欲」がやや弱いので、「将」として「今にも〜しそうだ」としてはどうでしょうか。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-292
秋日與朋友遊西郊開宴
山路驅車久 山路 車を駆ること久し
古村茶圃連 古村 茶圃 連ぬ
金英彩疎籬 金英 疎籬を彩り
錦繡映晴川 錦繍 晴川に映ず
炙肉温新酒 肉を炙り 新酒を温め
解顔坐素筵 解顔して 素筵に坐す
團欒情不盡 団欒の情 尽きず
佳句記花箋 佳句 花箋に記す
<感想>
第二句の「茶圃連」が静岡の特色を出していて、さりげないながらも、この詩を個性的なものにしています。
対句もよく練っておられると思いますが、第三句の「疎籬」はどちらも平声ですので平仄が合いません。。
第六句「坐素筵」は朋友との宴という意味合いで考え、二字目の孤平を避けるためにも「闌旧筵」でも良いでしょう。
第八句、自分で「佳句」と言うのも気になりますし、「情不尽」からの時間経過も欲しいので、「有句」「採句」などでいかがでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-293
秋日訪山寺
山中古刹遠來尋 山中の古刹 遠く来たり尋ぬ
錦繡千楓秋正深 錦繍たる千楓 秋正に深し
颯颯西風雲掃盡 颯々たる西風 雲掃き尽くし
紅飛散亂緑苔侵 紅飛散乱して 緑苔を侵す
<感想>
情景が分かりやすい詩になっていると思います。
転句の「雲掃尽」は、ここで空に視点が行くと、結句の「緑苔」には戻りにくくなります。
題にも「訪山寺」とありますので、この三字は寺の建物の様子などを出し、それが「西風」に吹かれたとすると、流れが良くなると思います。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-294
梅天家居
霏霏細雨幾長昏 霏々たる細雨 幾長昏
陰欝茅檐獨杜門 陰鬱たる茅檐 独り門を杜ざす
路上泥深無客訪 路上泥深くして客の訪ねる無し
倦書無奈坐幽軒 書に倦み奈ともする無し幽軒に坐す
<感想>
承句で「独杜門」とあるように、自分の意思で閉門しているわけですので、転句の「無客訪」は当然のことになります。
誰か来て欲しいというのが実情でしょうから、承句の下三字を変更するのが良いでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-295
蓮華萩寺 其二
日照山門彼岸天 日は照る山門 彼岸の天
萩花爛漫綺羅妍 萩花爛漫 綺羅妍なり
法談傾耳三生話 法談に耳を傾けば 三生の話
來拜行人香篆連 来り拝す行人 香篆に連なる
<解説>
今年も九月の萩まつりに蓮花寺より招待を受け 詩吟をぎんずることになりました。
萩の花もきれいに咲き とてもにぎわいます。
「香篆」: 篆刻のある香炉
<感想>
前回も同じ蓮華萩寺の詩『遊蓮華寺』を拝見しましたが、より一層萩が鮮明になりましたね。
萩寺のホームページも拝見しましたが、きれいな萩の花の写真が載せられていて、「綺羅妍」もなるほどと納得しました。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-296
題紅葉
紅雲奪目亂山秋 紅雲目を奪う 乱山の秋
染出萬楓風雨收 萬楓染め出して 風雨収まる
吟友歡皆眞似畫 吟友皆歓び 真に画に似たり
爭妍勝景約重遊 妍を争う勝景 重遊を約す
<解説>
昨年、吟の仲間と群馬方面に紅葉を見に行きました。
出かける時は雨でしたが、目的地に着く頃には雨も上がりました。
大変きれいで来年も来ることを約束しました。
<感想>
前半はよく描写できていると思います。
転句の「真似画」は、このままでは「吟友」が主語になってしまいます。
転句と結句の下三字、あるいは上四字同士で、(平仄は後で考慮するとして)内容的にはそっくり入れ替えると良いでしょう。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-297
偶成
避暑山中心自清 避暑山中 心自から清し
倚欄靜聽一蟬鳴 欄に倚り静かに聴く 一蝉の鳴くを
有時讀後枕書臥 時に有り読後 書に枕して臥す
知否仙家世外情 知るや否や仙家 世外の情
<解説>
今年は記録的な暑い暑い長い夏でした。
とある日、午睡の友に駱賓王「獄に在りて蝉を詠ず」、李商隠「蝉」をめくり、羽化登仙の夢を見つつ 体を休めることができました。
<感想>
蝉の鳴き声は通常はワンワンと数が多くうるさいものですが、「一蝉」とすることで、山中の静かさがよく出ていると思います。
「羽化登仙」のニュアンスが出ると、詩としてまとまりが出ると思います。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-298
秋江垂釣
江流舟任水 江流れ 舟水に任す
不盡棹歌長 尽きず 棹歌長し
一路秋光靜 一路 秋光静かに
蒼波魚氣香 蒼波 魚気香し
<解説>
また、ある日。
王維「桃源行」、柳宗元「江雪」に出会い、静寂な自然の世界にふとすいこまれ、これまた眠ってしまいました。
<感想>
分かりやすい内容になっていると思います。
承句の「不尽」はやや冗長な感じで、「不耐」とすると作者の心が出てきます。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-299
高尾山亭夏日
多摩山峽草花馨 多摩山峡 草花馨し
懷石珍饈溪上亭 懐石珍羞 渓上の亭
風度拷A涼萬斛 風度る緑陰 涼万斛
蟬聲午下隔簾聽 蝉声午下 簾を隔てて聴く
<解説>
八月多摩の奥高尾へ出掛けました。
辺りは草花が咲き、料亭は打水と手入れの行き届いた庭園で迎えてくれました。
緑いっぱいの木立ちを吹く風は涼しく暑さを忘れてしまいそうな時、蝉の鳴き声が聴こえてきました。
<感想>
よく工夫された詩だと思いますが、承句の「懷石珍饈」への導入がやはり欲しいように感じます。「渓上亭」へ通じる径の説明をして、転句に料理を持ってくるのも案の一つかと思います。
2010.12.25 by 桐山人
作品番号 2010-300
仰穂高連峰於上高地
白雲山峙蕩塵縁 白雲山は峙だち 塵縁を蕩ふ
峭谷危崖翠嶂連 峭谷危崖 翆嶂連なる
碧水梓川涼一味 碧水の梓川 涼一味
河童橋畔賞心専 河童橋畔 賞心専らなり
<解説>
夏の終り上高地を訪れました。
抜けるような青空、白い雲それに山の緑と、清らかな流れで涼を運ぶ梓川。河童橋から観る穂高の山々の景色はこの上なく素晴らしく心に焼きついています。
「一味」: ひたすら
<感想>
起句の「山峙」と「翠嶂連」が重なる感じです。起句は「白雲」がどうしたのかを示す必要があるでしょう。
転句は「水」と「川」が同じですので、「紺碧」などの語が良いのですが、承句に「翠」があるので、川の流れる様子を表す語を用いた方が良いかもしれませんね。
2010.12.25 by 桐山人