作品番号 2008-1
元旦与故侶再游 元旦 故侶と再游す
無端歳旦故人来 端なくも歳旦 故人来る
珍味佳肴酔興催 珍味と佳肴 酔興を催す
十年再見涙先下 十年 再び見みえて 涙 先ず下り
歓笑及宵眉自開 歓笑 宵に及び 眉 自ずと開く
Junji 先生 新年おめでとう御座います。
本年も宜しく御願いします。
作品番号 2008-2
迎新年
烏飛兎走轉洪鈞 烏飛兎走して 洪鈞を転じ
戊子三元改暦晨 戊子の三元 改暦の晨
百八鐘聲拂煩悩 百八の鐘声 煩悩を払ひ
研澄心鏡迓新春 心鏡を研澄して 新春を迓ふ
作品番号 2008-3
平成二十年年賀
七十余回歳此新 七十余回 歳 此処に新たまる
康強医薬未相親 康強にして医薬未だ相親しまず
屠蘇三盞祈祥福 屠蘇三盞 祥福を祈る
四海平安戊子春 四海平安 戊子の春
作品番号 2008-4
平成二十年年賀(その二)
喞雲欲拝坐春風 喞雲を拝さんと欲し春風に座す
小院寒梅一蕚紅 小院の寒梅 一蕚紅し
椒酒三觴祈万寿 椒酒三觴 万寿を祈る
醺醺睡且入壺中 醺醺 睡り 壺中にいる
作品番号 2008-5
御題 火
人人竈突上炊煙 人人の竈突に 炊煙上り
聖帝怡顔浪速天 聖帝顔を怡ばす 浪速の天
敲石焚柴能撥火 石を敲き柴を焚て 能く火を撥し
温房煮薬好延年 房を温め薬を煮ては 年を延すに好し
携行炬燭威咆虎 炬燭を携行しては 咆虎を威し
照徹燈明導去船 燈明を照徹して 去船を導く
誤用殊哀作凶器 誤用しては殊に哀しむ 凶器と作るを
須臾千里燎原連 須臾にして千里 燎原連なる
『夜航詩話』に言うように、詞曲と詠物の七律を作らぬようにしていましたが、今回は御題ということもあって、その禁をやぶりました。
「浪速」は詩語において「浪華」に劣り、雅ではありませんが、平仄上やむを得ず使いました。もう少し推敲するべきでした。
「聖帝」:仁徳天皇
「燈明」:燈明台 灯台
「燎原」:火が野原を焼く 火が野原を焼くように盛んに燃え広がり、禍乱が容易に平らげ難い喩え。
<大意>
人材を育てて苦労すれば果たして、能臣となり民を安寧にするも誤用すれば姦雄となる。悲しい乎。
作品番号 2008-6
迎春試吟
石鼠偸生試詩筆, 石鼠 生を偸んで詩筆を試めさば,
倉庚振羽囀隣家。 倉庚 羽を振って隣家に囀る。
秀英居處庭梅早, 秀英の居るところ庭梅早く,
樹杪紅粧伴雪花。 樹杪の紅粧 雪花を伴ふ。
「石鼠」:大きな鼠。
「倉庚」:ウグイス。
「庭梅」:ここでは隣家の梅。
拙作、起句は承句と対に作り押韻していません。
作品番号 2008-7
新年書懐
初光煥燦暁霜鮮 初光煥燦暁霜鮮かなり
無恙迎春意浩然 恙なく春を迎えて意浩然
時節転移忘自耄 時節転移みずからの耄を忘る
迢程幾許任靴穿 迢程いくばくぞ靴の穿つに任せむ
初日の光が霜に反射して輝いている。
今年も無事に新年を迎え意気軒高である。
時の過ぎゆくは早く自分の老いを忘れるくらいだ。
これからの人生どのくらいあるかわからないが、脚の向くまま積極的に挑戦して、
自分の足跡を残していきたい。
作品番号 2008-8
迎戊子歳
滄海万川帰不盈 滄海 万川帰すれども 盈れず
白山一木蘗還陽 白山 一木蘗して また陽ならんとす
與誰携酒楽行路 誰とか酒を携さえ 行路を楽しまむ
明月清風無尽蔵 明月 清風 無尽蔵
作品番号 2008-9
戊子迎春
六十八回迎此春 六十八回(たび) 此の春を迎ふ
灸鍼医薬莫相親 灸鍼 医薬 相 親しむ莫し、
瑞雲蔽地恩波洽 (騒乱と汚濁の此の地球上にも)瑞雲 地を蔽ひ 恩波洽く
当喜健康情自純 当に喜ぶべし健康 情(こころ)自ずから純。
作品番号 2008-10
戊子年頭所懷
繁苛怠忽似阿瞞 繁苛怠忽 瞞に阿ねるが似し
法度招延白費漫 法度招延す白費漫るを
凄緊地球温暖化 淒緊なり地球温暖化
循環社會道辛酸 循環社会の道辛酸ならん
「繁苛」:法律規則などのわずらわしくきびしいこと
「怠忽」:怠惰と粗忽
「法度」:法律と制度
「招延」:よびよせる
昨年の世相を代表する文字は『偽』でした。建築土木、そして食品、様々な報道があり、行政の取締りがありました。
羊頭狗肉という古来からの手法も数多くありましたが、ある老舗の違反を糾弾する特別報道を見ているうちに、おやと疑問がわきました。
この老舗では、工場内コントロール室が、出荷、流通、店頭売れ残り、工場引き取りの総てを管理して、「偽装」を指示していたと会社ぐるみの偽装を批判していました。
1970年頃スチロールのトレイ、ラップ(フィルム包装)が普及し始めた時でした。「むき出しで売られる生鮮物は、色艶、においなどで判断でき、品質は買手責任だが、包装してショウケースに収めれば売り手責任になる」と、それまでの狭い範囲の品質管理から脱却して、保管、包装、販売と製造業者が手放すまでを包括することを求められたものでした。
この老舗の場合は、品質管理手法を駆使して、販売時点を製造の終点として品質保証する姿勢を維持し、買手とのトラブルは生じなかったが、現代の繁苛な法律に適合しなかった、との思いを強くしました。今、食品表示にかかわる法律は、JAS法、食品衛生法、健康増進法、計量法、景品表示法とならびます。これら法律の幾つかは、使い捨て思潮の70年代のもの、「もったいない」との視点から見直しする時期ではとの思いを詩に込めました。
食品ではありませんが製造業に半世紀携わった実感です。食品に限らず、どの分野の法律も浪費抑制、環境保護の観点から見直す必要があるのではないでしょうか。
今年の洞爺湖サミットでは、京都議定書制定時にまさる日本の積極性を期待しています。
作品番号 2008-11
新年書懐
初日光晶上暁天
廟頭点燭献香煙
凌歊早過立冬節
繰暦還迎戊子年
垂老無由霜襲鬢
逸居多暇酒求権
余世幾許不能計
遮莫酔吟詩百篇
作品番号 2008-12
歳首平成二十年
老梅将癒樹身痍 老梅将に癒さんとす樹身の痍
能耐寒風保蕾枝 能く寒風に耐えて蕾の枝を保(まも)る
養病寧居我如此 病を養って寧居すれば我も此の如し
自回生気到春時 自から生気回(かえ)るべし春到る時
作品番号 2008-13
想新年
陽光呼幸満晴空 陽光幸を呼び 晴空に満ち
柏酒春盤笑語同 柏酒春盤 笑語同じゅうす
古来名詩正励衆 古来名詩 正に衆を励まし
新年吟則気根充 新年に吟ずれば則ち気根充つ
詩吟仲間の新年懇親会に寄せて、和気壮気を詩する
作品番号 2008-14
新年書懐
今正平成二十年 今正に 平成二十年
昭和記憶入霞煙 昭和の記憶 霞煙に入らんとす
人生航路猶餘有 人生航路 猶餘り有り
萬事任波不繋船 萬事波に任せて 船を繋がず
明けましておめでとうございます。
鈴木先生 本年もご指導賜りたく
宜しくごお願い申し上げます。
早いもので平成も二十歳に到り、昭和は遠くなりにけりです。
「不繋船」:【若不繋舟(ツナガザルフネノゴトシ)】
虚心にして趣き向ふ所なきに喩ふ。
荘、列禦寇
「巧者労、而知者憂、無能者無所求、飽食而遨遊、凡若不繋舟、虚而遨遊者也」
(「字源」より引用)
作品番号 2008-15
二〇〇八年迎春即事(七律)
紅日破雲臨紫陌, 紅日 雲を破って,
白頭游目對蒼穹。 白頭 目を遊ばせて蒼穹に対す。
千門靜穩無煩事, 千門 静穏にして煩事なく,
萬戸閑和有酒功。 万戸 閑和にして酒功あり。
先飲屠蘇期百歳, 先づ屠蘇を飲んで百歳を期し,
暫陪孫子似三公。 暫く
將軍雄跨老騏化, 將軍 雄跨すれば老騏,
碩鼠飲河腸肚充。
<解説>
紫陌:都の通り。
将軍:ここでは小生の孫。
老騏:老いたる駿馬。ここでは小生。
碩鼠:太った鼠。以下、荘子の「偃鼠飲河不過満腹」の言葉を踏まえる。
作品番号 2008-16
二〇〇八年迎春覓句(五律)
夢醒尋常事, 夢醒めるは尋常の事,
梅開院落枝。 梅は院落の枝に開く。
歳朝風物改, 歳朝 風物改まり,
老骨感懷滋。 老骨 感懷滋し。
依舊傾椒酒, 旧に依りて椒酒を傾け,
履新求野詩。 新を
荊妻看電視, 荊妻
餐後煮茶時。 餐後 茶を煮るの時。
作品番号 2008-17
二〇〇八年迎春覓句(七絶)
一夢醒来椒酒香, 一夢醒め来たれば椒酒の香,
東窗天霽旭光長。 東窓 天霽れて旭光長し。
人當磨墨揮詩筆, 人まさに墨を磨いて詩筆を揮ふべく,
游目前庭梅傲霜。 目を前庭に游ばせれば梅 霜に
作品番号 2008-18
二〇〇八年迎春覓句(五絶)
元旦屠蘇酒, 元旦 屠蘇の酒,
仍舊作詩媒。 旧に
陳腐題梅綻, 陳腐なり 梅の綻ぶを題するは,
求新更一杯。 新を求めて更に一杯。
作品番号 2008-19
長相思・二〇〇八年迎春覓句
旭日新, 旭日 新たにして,
景光新。 景光 新たなり。
眼底荊妻粧点春, 眼底の荊妻 粧点して春となり,
共傾椒酒醺。 共に椒酒を傾けて醺す。
○
畫難眞, 画は真なり難く,
語最眞。 語は最も真なり。
暫作詩豪放唱頻, 暫く詩豪となりて放唱すること頻りなれば,
多情哭鬼神。 情多くして 鬼神 哭く。
作品番号 2008-20
相見歡・二〇〇八年迎春對酌
歳朝人擧金觴, 歳朝 人 金觴を挙げて,
吐清香。 清香を吐く。
喜對荊妻塗粉巧華粧。 喜び対す 荊妻の粉を塗りて巧みに華粧するに。
○
屠蘇酒, 屠蘇の酒,
生涯友, 生涯の友,
泰平光。 泰平の光。
偕老同穴堪誓共星霜。 偕老同穴堪誓ふに堪へて共星霜を共にす。
作品番号 2008-21
相見歡・二〇〇八年迎春即事
歳朝椒酒芳醇, 歳朝 椒酒 芳醇にして,
此迎新。 此に新を迎ふ。
陪我荊妻傾盞自成春。 我に陪して荊妻 盞を傾け自づから春と成る。
○
抱孫子, 抱くに
含食指, 食指を
保天眞。 天真を保つ
老認餘生福祿未全貧。 老いて認むに餘生に福祿あり 未だ全くは貧ならず。
作品番号 2008-22
霜天曉角・明治神宮界隈歳朝長
江戸姑娘, 江戸の姑娘,
歳朝競盛裝。 歳朝に盛裝を競う。
明治神宮堪拝, 明治神宮 拝むに堪へ,
近原宿、適華妝。 原宿に近く、華妝に適す。
○
陽陽, 陽陽として,
遊興忙, 遊興に忙しく,
喫茶談酒房。 茶を喫し酒房に談ず。
窗外斜暉未暮, 窓外 斜暉 未だ暮れず,
夜欲短、日將長。 夜は短かからんとし、日はまさに長からんとす。
<解説>
江戸姑娘:東京の娘。明治神宮の「明治」、振袖の盛裝=晴れ着との兼ね合い、平仄を考慮してとの兼ね合いで「江戸」という言葉にした。
陽陽:明るく楽しむさま。
酒房:ここではカフェバー。
この詞は下記、拙作短歌を詞に展開してみたものです。
どやどやと江戸の娘は晴れ着着て明治の
作品番号 2008-23
山栖即事(倣長吉詩)
大夢處世竟何如
僅得山畦小甲蔬
米粟將能耐乏匱
風光不必覓嬴餘
青帘毎夕常賖客
黄帙旬年未讀書
寧用巷言牛馬問
九垓無告任梟盧
作品番号 2008-24
平成二十年元旦
曈曈初日上 曈曈たる初日は上り
迎得杖朝年 杖朝の年を迎へ得たり。
平素謝疎遠 平素の疎遠を
新正詩一篇 新正 詩一篇にて謝す
「曈曈」: 夜の明けわたる様
「杖朝」: 八十歳。八十歳で朝廷において杖をつくことを許された故事。
「 謝 」; お詫びする。
作品番号 2008-25
迎春
宝幢沿線佛心生 宝幢の沿線には佛心生じ
古刹庭陰萬感縈 古刹の庭陰には萬感
歴史尊崇呼謎久 歴史の尊崇は謎を呼んで久しく
現今塵界逐途行 現今の塵界 途を逐って行けば
水郷蘆葦鳥禽囀 水郷の蘆葦に 鳥禽囀り
淡海消長環境爭 淡海の消長は環境の争ひ
傳統商魂辞訓識 伝統の商魂は辞訓に識し
景光灑眼客情C 景光眼に灑いで客情Cし
作品番号 2008-26
迎春
埜静山空新歳旦
人稀塵少綺窗前
欲磨古墨徐呵硯
半酔茫然耽酒僊
作品番号 2008-27
寒中紅花
萬象無聲白雪晨 万象 声無く 白雪の晨
茶梅盡発落紅頻 茶梅発き尽くして 落紅頻り
美哉此國四時運 美しき哉 此の國 四時の
猶得三元物候新 猶ほ得たり 三元 物候新た
「三元」: 元旦のこと。「年」「月」「日」の初め(元)だから。
作品番号 2008-28
詠梁上君子
勿言髭子矜機知 言ふ勿れ 髭子機知を矜り
以詐為魁十二支 詐を以て十二支に魁と為る
從此無那罹捷牙 此れ從り那んともするなし捷牙に罹るを
卻哀窮鼠囓貪貍 卻って哀れむ窮鼠貪貍を齧むを
作品番号 2008-29
深謝鈴木先生
騷人應募謝深慈 騷人応募 深慈を謝し
倉卒看過有内規 倉卒看過する 内規有るを
七秩愚生存視力 七秩の愚生 視力を存し
研精紙背賦蕪詩 紙背を研精して蕪詩を賦す
※ 深慈=鈴木先生の弛まざるご努力。
作品番号 2008-30
題戊子勅題「火」
歳旦瞳瞳旭日紅 歳旦
祥烟街路已春風
我家火閤新年酒 我家の
萬国昇平問碧翁 萬国の昇平 碧翁に問ふ
「瞳瞳」: 朝日の昇る様
「祥烟」: めでたき気
「火閤」: こたつ
「昇平」: 世が良く治まる
「碧翁」: 天
「元日」: 初日の出が赤く輝いている
めでたい雰囲気の町の中には既に春風が吹いている
我が家では こたつの中で御屠蘇を酌み交わしている
今年の世界の平和はいかほどであろうか