2004年の新年漢詩 第21作は滋賀県大津市の 拝唐 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-21

  (新年漢詩)迎宝舶     宝舶を迎ふ   

能看宝舶   未だ宝舶を看ること能はず

索泊船場   往きて索さむ泊船したる場を

夢歓新歳   夢を申して新しき歳を歓ぶ

吾舟越洋   来たれ吾が舟洋(おほうみ)を越えて

          (下平声「七陽」の押韻)

<解説>

 福を運ぶ宝船。今まで宝船に福を持ってきてもらったためしがないが、新年を迎えるにあたり、この年こそは、その到来を望むものである、というもの。
 「舶」「おおぶね」の意で、何とも欲深い。また福の象徴である宝船を自分で探しに行くのではなく、その到来を待っているところが、我ながら情けなくもある。
 和歌でいうところの「折句」の技法に似せ、未年から申年へのバトンタッチを表現してみました。なにぶん、初めて作りましたので、恥ずかしい限りであります。






















 2004年の新年漢詩 第22作は 藤原崎陽 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-22

  (新年漢詩)新年口號        

回來新暦甲申旦   回り來たる新暦 甲申の旦

四海波荒愴愴辰   四海波荒し 愴愴の辰

戦禍異郷花未綻   戦禍の異郷 花未だ綻ばず

鎮綏恐怖莫逡巡   恐怖を鎮綏しては 逡巡する莫れ

          (上平声「十一真」の押韻)























 2004年の新年漢詩 第23作は 佐竹丹鳳 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-23

  (新年漢詩)甲申新年        

家内平安在草廬   家内平安にして 草廬に在り

老来無事不閑舒   老い来って事無くも 閑舒たらず

新春佳興題詩處   新春の佳興 詩を題する處

恰似壷天微酔餘   恰も似たり 壷天微酔の餘

          (上平声「六魚」の押韻)























 2004年の新年漢詩 第24作は 長岡瀬風 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-24

  (新年漢詩)甲申新年書懐        

春風淑気到茅蘆   春風淑気 茅蘆に到り

案上盆梅一巻書   案上の盆梅 一巻の書

幸得頽齢身好在   幸に得たり頽齢の 身は好在なるを

渓山佳処意還舒   渓山佳き処 意還舒たり

          (上平声「六魚」の押韻)























 2004年の新年漢詩 第25作は 西川介山 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-25

  (新年漢詩)甲申新年書懐        

此生随意事難全   此の生意に随うも 事全うし難く

富貴無縁有誰憐   富貴縁無し 誰有てか憐れまん

草舎春囘甲申旦   草舎春は回る 甲申の旦

一身一醉一壺天   一身一酔す 一壷の天

          (下平声「一先」の押韻)























 2004年の新年漢詩 第26作は 偸生 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-26

  (新年漢詩)近況即事        

落地為何事   地に落ちて何事をか為さん

山中七十年   山中に七十年

琴書長冠垢   琴書 長しく垢を冠り

缸櫃數窮錢   缸櫃 しばしば錢に窮す

春夏茫茫惑   春夏 茫茫として惑い

秋冬耿耿癲   秋冬 耿耿として癲う

不嫌塵俗境   塵俗の境を嫌わざるも

時有背花眠   時に有り 花に背きての眠り

          (下平声「一先」の押韻)























 2004年の新年漢詩 第27作は 舜隱 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-27

  (新年漢詩)除夕偶聞朋友及第        

除夕徒閑爆竹希   除夕 徒に閑にして 爆竹希に

檢書雁語入荊扉   書を検するに 雁語 荊扉に入る

衿一射策穿柳   青衿 一たび射れば 策は柳を穿ち

亦拂腐儒塵裡衣   亦払う 腐儒が 塵裡の衣

          (上平声「五微」の押韻)

<解説>

 正月の準備も大方済んでしまい中途半端な閑を託っていた所へ、受験生の韓国の友人から大学に合格したとのメールが届きました。(韓国では新学期が3月に始る為、日本に比べて全体的に学事日程が早目です。)
 其の知らせに何やら自分も初心に返った思いがし、この詩が浮びました。
 最近何かとせわしい日々が続き、嘗てと比べてやや心に余裕を欠いているようにも思われます。其れへの反省からか、新年の課題のような内容になってしまいました。

年末というのに既に無性に閑を託ち、爆竹の声も未だ聞こえず、
何と無く本をめくっているとメールが一通届いた。
受験生の友人の放った答案は見事に標的を射止め、
其ればかりか私の衣に積った塵埃まで払って初心に返らせてくれた。






















 2004年の新年漢詩 第28作は 桐山人 からの作品です。
 

作品番号 2004-28

  (新年漢詩)冬 景        

凍雲垂地新霜皓   凍雲 地に垂れて 新霜皓く

寒樹疎枝細径幽   寒樹 枝を疎らにして 細径幽か

煖酒林間須客至   酒を煖めて 林間 客の至るを須てば

迷鴉一叫韻悠悠   迷鴉 一叫 韻悠悠

          (下平声「十一尤」の押韻)























 2004年の新年漢詩 第29作は 観水 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-29

  (新年漢詩)甲申歳旦發上海還東京     甲申歳旦 上海を発し東京に還る   

請看天際彩雲開   請う看よ 天際 彩雲開き

萬里滄溟瑞氣催   万里 滄溟 瑞気催すを

新迎嘉年宜買醉   新たに嘉年を迎う 宜しく酔を買うべし

美人安在共傾杯   美人 安くに在りや 共に杯を傾けん

          (上平声「十灰」の押韻)


 新年あけましておめでとうございます。

 昨年末から夫婦で中国を旅行し、新年も上海で迎えました。
機中、サービスのお屠蘇をいただきながら、気分よく日本に帰ってきたところです。

本年もよろしくお願い申し上げます。
























 2004年の新年漢詩 第30作は 徐庶 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-30

  (新年漢詩)元旦所懐        

餮饕酣歌聞管弦   餮饕 酣歌して管弦を聞けば、

坐羞安逸邀新年   坐に羞ず 安逸して新年を邀うるを。

中東守卒無舒服   中東の守卒 服を舒(ゆる)める無し

但願和同烹小鮮   但だ和同して小鮮を烹るを願う。

          (下平声「一先」の押韻)

<解説>

 食べて飲み、歌っては音楽を聴いて正月を楽しんでいると、
 何とはなしに安逸して新年を迎えているのが恥ずかしくなってくる。
 イラクでは兵士が休む間もなく活動しているが、
 どうにか平和的に政治が行われて欲しいと思う。























 2004年の投稿漢詩 第31作は 慵起 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-31

  (新年漢詩)江戸川上望両峰     江戸川上に両峰を望む   

汽輪発駅超江川   汽輪 駅を発して 江川を超す

霖雨水漲平岸泫   霖雨 水漲りて 岸と平らかになが

遥眺驚心富岳頂   遥に眺め 心を驚かす 富岳の頂

転首筑嶺澹雲妍   首を転ずれば 筑嶺 澹雲妍なり

          (下平声「一先」の押韻)

 JR武蔵野線の電車に乗ると、三郷駅を出て江戸川を越えるあたりで、富士山と筑波山がともに見えることがあります。
 そんなとき、なんとなく心踊り、よいことがあるような気がするのが不思議です。雨で水かさが増した江戸川の上を、電車で通過するときの情景を詠みました。

2004. 1. 1                 by junji





















 2004年の投稿漢詩 第32作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-32

  (新年漢詩)漢俳・三元四醉        

無恙一阿蒙。       恙なき一阿蒙。

三元四醉五雲中,   三元に四たび酔って五雲の中,

弄六義七聲。       六義・七声を弄ぶ。

<解説>

 「阿蒙」  愚か者
 「三元」  元旦
 「五雲」  めでたい雲
 「六義」  三種の詩体(風・雅・頌)と三種の表現法(賦・比・興)
 「七聲」  七つの音階

 あけましておめでとうございます。junji先生、本年もどうぞよろしくお願いします。

 拙作、元旦の朝、海の見える露天風呂につかり、明けゆく空の雲を眺めながら、年賀状のために用意していた曄歌(一阿蒙。三元一醉,五雲中)を推敲し、漢俳に作りかえたものですが、よくなったものかどうか。。。
 なお、「四醉」は、大晦日に酔い、元旦は、朝、昼、晩に酔うことを考えました。


2004. 1. 1                 by junji





















 2004年の投稿漢詩 第33作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-33

  (新年漢詩)迎春一醉 其一        

我是何猿笑鏡中,   我はいかなる猿ぞ 鏡中に笑い、

与誰歡語醉顔紅?   誰と歓語して酔顔紅ならん?

三元天下無明月,   三元 天下に明月なく、

四海人家有酒功。   四海の人家 酒功あらん。

          (上平声「一東」の押韻)


 2004年元旦の夜は、ほぼ上弦の半月をみることができました。
 しかし、ここは、古式・旧暦に従えば、元旦の月は新月、目には見えないはず、という虚構のもとで書いています。

<感想>

 

2004. 1. 1                 by junji





















 2004年の投稿漢詩 第34作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-34

  (新年漢詩)迎春一醉 其二        

心猿意馬戀情人,   心は猿のごとく意は馬のごとくに情人を恋い、

半梦如愚昏耄春。   半ば夢みて愚のごとき昏耄の春。

我醉佯鰥妻也寡,   我 酔って鰥(やもお)といつわれば妻も寡(やもめ)、

艷容傾酒潤朱脣。   艶容 酒を傾けて朱脣を潤さん。

          (上平声「十一真」の押韻)


 「心猿意馬」   あれこれ考えて心が定まらず落ち着かないこと
 「情人」      現代中国語で恋人のこと
 「昏耄」      老いぼれること



2004. 1. 1                 by junji





















 2004年の投稿漢詩 第35作は 岡田嘉崇 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-35

  (新年漢詩)甲申御題 幸        

一家休祉一身清   一家休祉して一身清く

安寧諸方漫不争   安寧たり諸方 漫に争わず

幸福人中何頼逹   幸福人中 何に頼りてか逹せん

平和周悉弟兄情   平和を周悉す 弟兄の情

          (下平声「八庚」の押韻)



2004. 1. 1                 by junji





















 2004年の投稿漢詩 第36作は 柳田 周 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-36

  (新年漢詩)年頭詠     年頭に詠ず   

春暁先萌銚子東   春暁先ず萌す銚子の東

水天髣髴欲微紅   水天髣髴 微紅ならんと欲す

舳艫相哺漁船影   舳艫じくろふくむ漁船の影

凛凛海人生気隆   凛凛として海人 生気さかんなり

          (上平声「一東」の押韻)



2004. 1. 1                 by junji





















 2004年の新年漢詩 第37作は韓国の 觀水會詩集 から、新春の詩を何編か紹介しましょう。
 C溪さんの属しておられる詩社の発行された『觀水會詩集』から引用させていただきましょう。
 韓国の漢詩人の方達が現在どんな詩を作っておられるか分かるのではないでしょうか。



作品番号 2004-37-1

  [新年招飲]      C 溪

雨水今經氣尚寒  無前大雪積層巒

漲溪自奏瑤琴曲  饑鳥時覘濁酒盤

可笑浮生彭澤醉  敢望聖世武城彈

年年勝地詩壇盛  吾輩随縁可盡歡

   (上平声「十四寒」の押韻)




作品番号 2004-37-2

  [新年招飲]      一 平  

奔忙課事自難寛  此日逢場始得歡

好古擧皆遊翰墨  從今不必具衣冠

山陽已見青芽短  嶺上猶存白雪寒

久阻之餘舒襞積  語兼詩酒坐相看

   (上平声「十四寒」の押韻)




作品番号 2004-37-3

  [新年招飲]      近 堂  

天候立春猶峭寒  結氷路上歩行難

千林積雪鳥飛絶  萬樹開花客坐看

隔歳隔年幾隔面  多情多話且多歡

新元異變神嗔否  不遇民生事百端

   (上平声「十四寒」の押韻)




作品番号 2004-37-4

  [昭陽迎春]      槐 南

望中碧海水溶溶  唯有青峰昔日容

湖畔柳枝春意動  天涯雪嶺瑞雲封

沙鷗伴客詩魂觸  山影投江畫料供

萬國相求和解策  何時南北喜迎逢

   (上平声「二冬」の押韻)




作品番号 2004-37-5

  [樂園迎春]      栢 村

韶光先到樂園中  凍雪全消造化功

守拙幾年窮蟹室  敍懷今日醉仁風

梅花獨秀群花異  春意相歡客意同

師友偕筵供一笑  昇平不必祷天翁

   (上平声「一東」の押韻)

























 2004年の新年漢詩 第38作は 一陽 さんからの作品です。
 

作品番号 2004-38



  寄新春遊歩道        

鳥囀斜聞下谷沿   鳥の囀りを斜めに聞いて谷沿いを下れば、

徐徐雨上湿風乾   徐々に雨上がりの湿った風は乾く。

天空仰見雲烟拡   天空を仰ぎ見れば雲烟拡がりて、

正月光輝稍後延   正月の光輝は稍後に延びそう。

          (下平声「一先」の押韻)