作品番号 | 作 者 | 題 名 | 詩 形 | |
[01] | 謝斧 | 「綠陰風趣 一」 | 七言絶句 | |
[02] | 謝斧 | 「綠陰風趣 二」 | 七言絶句 | |
[03] | 謝斧 | 「綠陰風趣 三」 | 七言絶句 | |
[04] | 謝斧 | 「綠陰風趣 四」 | 七言絶句 | |
[05] | 謝斧 | 「綠陰風趣 五」 | 七言絶句 | |
[06] | 謝斧 | 「綠陰風趣 六」 | 七言律詩 | |
[07] | 玄齋 | 「綠陰風趣」 | 七言律詩 | |
[08] | Y.T | 「綠陰風趣 一」 | 七言絶句 | |
[09] | Y.T | 「綠陰風趣 二」 | 七言絶句 | |
[10] | Y.T | 「綠陰風趣 三」 | 五言律詩 | |
[11] | Y.T | 「綠陰懷古」 | 七言絶句 | |
[12] | 痴凱 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[13] | 岳峰 | 「綠陰風趣 一 (春窓偶感)」 | 七言絶句 | |
[14] | 岳峰 | 「綠陰風趣 二 (画趣進境)」 | 七言絶句 | |
[15] | 哲山 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[16] | 仲泉 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[17] | 茜峰 | 「綠陰風趣 再陟大杉谷」 | 七言絶句 | |
[18] | 道佳 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[19] | 綠風 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[20] | 東山 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[21] | 杜正 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[22] | 凌雲 | 「綠陰風趣」 | 五言律詩 | |
[23] | 點水 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[24] | 常春 | 「綠陰風趣 其一」 | 七言絶句 | |
[25] | 常春 | 「綠陰風趣 其二」 | 五言絶句 | |
[26] | 常春 | 「綠陰風趣 其三」 | 五言律詩 | |
[27] | 劉建 | 「綠陰風趣」 | 七言律詩 | |
[28] | 鮟鱇 | 「綠陰風趣 其一」 | 五言絶句 | |
[29] | 鮟鱇 | 「綠陰風趣 其二」 | 五言絶句 | |
[30] | 鮟鱇 | 「綠陰風趣 其三」 | 六言絶句 | |
[31] | 鮟鱇 | 「綠陰風趣 其四」 | 七言絶句 | |
[32] | 鮟鱇 | 「綠陰風趣 其五」 | 七言絶句 | |
[33] | 鮟鱇 | 「綠陰風趣 其六」 | 五言律詩 | |
[34] | 鮟鱇 | 「綠陰風趣 其七」 | 五言律詩 | |
[35] | 鮟鱇 | 「綠陰風趣 其八」 | 七言律詩 | |
[36] | 兼山 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[37] | 禿羊 | 「綠陰偶作」 | 七言絶句 | |
[38] | 岳喨 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[39] | 眞海 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[40] | 松閣 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣 一」 | 七言絶句 | |
[41] | 松閣 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣 二」 | 七言絶句 | |
[42] | 老遊 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[43] | 老遊 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣(八橋煎茶 一)」 | 七言絶句 | |
[44] | 老遊 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣(八橋煎茶 二)」 | 七言絶句 | |
[45] | 老遊 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣(八橋煎茶 三)」 | 七言絶句 | |
[46] | 風葉 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[47] | 一兔 (桐山堂刈谷) | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[48] | 觀水 | 「綠陰風趣」 | 七言律詩 | |
[49] | 忍夫 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[50] | 忍夫 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[51] | ニャース | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[52] | 山銀花(忍冬) | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[53] | 春空 | 「初夏偶作」 | 七言絶句 | |
[54] | 桐山人 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[55] | 桐山人 | 「綠陰風趣」 | 七言絶句 | |
[56] | 桐山人 | 「綠陰風趣」 | 七言律詩 | |
[57] | 調布T.N | 「綠陰風趣 深大寺」 | 七言絶句 |
[綠陰風趣 一]
初夏江楓翠色匀 初夏江楓 翠色匀しく
褰衣波静弄繊鱗 衣を褰げ 波静かに 繊鱗を弄す
好哉坐石綠陰下 好き哉 石に坐す 綠陰の下
説與詠風泝水濱 説與す詠じて風ず 泝水の浜
[綠陰風趣 二]
神宮境内淨無塵 神宮境内浄くして塵無く
初夏薫風綠樹新 初夏薫風 綠樹新し
竹簟枕書涼味足 竹簟書を枕にして涼味足く
無能却是屬閑人 無能却って是れ閑人に属す
[綠陰風趣 三]
皇太神宮賽社神 皇太神宮社神を賽し
野翁露坐綠陰新 野翁露坐して 綠陰新し
謬爲詩客貧窮久 謬って詩客と為って貧窮久しく
身擬沙鷗天地人 身は沙鴎に擬す天地の人
「皇太神宮」: 日本神話中、天照坐皇大御神
[綠陰風趣 四]
竹簟寛衣涼飌新 竹簟衣を寛緩めて 涼飌新しく
林中滌暑拭帨巾 林中暑を滌って 帨巾を拭う
四囲唯聞蒼髯叟 四囲唯聞 蒼髯の叟
非是荘生忘我人 是れ荘生が我を忘るる人に非ず
「唯聞蒼髯叟」: 松籟
荘生忘我 夫大塊噫氣,其名為風。是唯无作,作則萬竅怒號。而獨不聞之翏翏乎?山林之畏佳
[綠陰風趣 五]
夏初行樂野遊親 夏初行楽して 野遊親しみ
孺子追蟬躓石頻 孺子蝉を追って石に躓くこと頻なり
阿母憐看泣兒笑 阿母憐むも 泣児を看て笑ひ
午餘添寝綠陰新 午餘添寝すれば 綠陰新し
[綠陰風趣 六]
兩股酸哀労老身 両股酸哀しては 老身を労り
攀登石磴景澄真 石磴に攀登すれば 景澄真なり
啜茶遊目情初爽 茶を啜り遊目すれば 情初(ようやく)爽やかに
託興裁詩心自伸 興に託し詩を裁すれば 心自ら伸ぶ
幽絶山深翠嵐滿 幽絶たり山深くして 翠嵐は満ち
森然樹密綠陰新 森然として樹密に 綠陰新し
松濤軒下涼風足 松濤軒下 涼風足(おお)く
書写三堂隔俗塵 書写三堂 俗塵隔つ
[綠陰風趣]
南薰習習綠陰新 南薫 習習として綠陰 新たに
庭院殘芳落盡辰 庭院の残芳 落尽の辰
淸淡澄心求句者 清淡として心を澄ませて句を求むる者
靜安揮筆綴詩人 静安として筆を揮ひて詩を綴る人
籬邊柳搖參差甚 籬辺の柳 揺れて参差たること甚だしく
頭上鵑鳴飛去頻 頭上の鵑 鳴きて飛び去ること頻りなり
半日幽莊風不止 半日の幽荘 風 止まず
暫休吟骨夕陽臻 暫く吟骨を休めて夕陽に臻る
初夏の頃の爽やかな南風がそよそよと吹いて新たに青葉の陰が出てきて、
庭の散り残りの花がすっかり散る時期になりました。
心が清らかであっさりとして心を凝らして詩句を考える人がいて、
静かで安らかに筆を振るって詩句を綴っている人がいました。
垣根の辺りの柳は揺れて、甚だしく葉が互いに入り混じっていて、
頭上ではホトトギスが鳴いて、頻りに飛び去って行きました。
半日の間、静かで奥深い別荘には風が止むことは無く、
暫く詩人の痩せて弱弱しい身体を休めていると、夕日が出る時間帯になっていました。
[綠陰風趣 一]
草薫日暖翠風頻 草薫り 日暖かく 翠風頻り
寂寞虚園不見人 寂寞たる虚園 人を見ず
閑坐繙書涼蔭裏 閑坐して 書を繙とく 涼蔭の裏
柳条如帳隔紅塵 柳条 帳に如(に)て 紅塵を隔つ
[綠陰風趣 二]
近郊草茂鳥聲頻 近郊 草茂り 鳥声頻り
晴日氣蒸無客人 晴日 気蒸して 客人無し
鬱鬱綠陰催午睡 鬱鬱たる綠陰 午睡を催し
覺來且忘浮世塵 覚め来たって 且し忘る 浮世の塵
[綠陰風趣 三]
故園潭水潯 故園 潭水の潯(ほと)り
綠蔭少行人 綠蔭 行人少(まれ)なり
胡蝶花間戯 胡蝶 花間に戯れ
黄鸝樹上頻 黄鸝 樹上に頻り
風來拂池面 風来たって 池面を拂へば
波湧弄浮蘋 波 湧いて 浮蘋を弄ぶ
四阿時閑坐 四阿 時に閑坐して
須臾忘世塵 須臾(しばし) 世塵を忘る
[綠陰懷古]
鬱鬱綠陰蓋比隣 鬱鬱たる綠陰 比隣を蓋ひ
蕭条故苑杜鵑頻 蕭条たる故苑 杜鵑頻り
傷懐劉武舊時宴 傷懐す 劉武 旧時の宴
落日荒園愁殺人 落日の荒園 人を愁殺す
「劉武」: 漢の景帝の弟で、梁王に封ぜられ、孝王と諡された。
国都、睢陽に壮麗な宮殿を築き、多くの文士を招き、御苑(兎園)に住まわせ、日夜宴を催した。
[綠陰風趣]
青楓樹下問同人 青楓樹下 同人に問ふ
一切風情一切春 一切の風情 一切の春
七十年来包戈甲 七十年来 戈甲を包む
何爲西北洗輕塵 何為れぞ西北 軽塵を洗ふ
止まったような時間。友人に問うてみる。
一切の風景の中に一切の春はあろうか?と。
七十年来 戦にまみえず武器は包み込んだままだ。
何をしたいのか?西北の地の塵は洗えるのか?
眼中の風景の中に、彷徨う明日の群像が重なる。
あの人々はどこから来たのだろうか?
国の核実験にさらされた「あの」民族であろうか。
[綠陰風趣 一 (春窓偶感)]
史書讀罷半窗春 史書読むを罷めよ 半窓の春
病室凝情朋友仁 病室情を凝らす 朋友の仁
須及妙方夫婦絆 須らく妙方に及ぶべし 夫婦の絆
快哉有志莫逡巡 快哉の志有り 逡巡する莫れ
実兄が大病を患い、入院した際に励ましの意味で贈った詩です。
大変喜んでくれた兄も、その一ヵ月後に身罷りました。
[綠陰風趣 二 (画趣進境)]
百尺竿頭茅屋春 百尺竿頭 茅屋の春
凌波一路入佳辰 波を凌ぐ一路 佳辰に入る
綠陰眞髓畫中景 綠陰真髄 画中の景
行矣前途意氣新 行け 前途 意気新たなり
仕事を定年退職した友が、若いときから培った画家の道に専念できることを祝って贈った詩です。
[綠陰風趣]
綠風來一過 綠風来って 一過
午院落花頻 午院 落花頻りなり
何處蚊吟掠 何処よりか蚊吟掠める
間庭獨送春 間庭 獨り春を送る
[綠陰風趣]
蕭蕭雨洗碧華新 蕭蕭雨は洗ふ 碧花新なり
春愁恍然坐憶人 春愁恍然坐に人を憶ふ
涼簟風搖一杯酒 涼簟風揺らぐ一杯の酒
泉聲林下滌心塵 泉声林下心塵を滌ふ
[綠陰風趣 再陟大杉谷]
激岩飛瀑綠條新 岩を激(う)つ飛瀑 綠條新たなり
搖漾橋梁登峪瀕 揺漾する橋梁 峪の瀕を登る
崩壞改修縫石径 崩壊の改修 石径を縫ふ
謝恩再陟喜佳辰 再陟に謝恩し 佳辰を喜ぶ
関西の秘境と言われる大杉谷に30年ほど前登った。
峡谷美に魅せられまたいつか是非登りたいと思っていた。
ところが、吊り橋の老朽化による事故、台風による土砂崩れ等で 約10年間 一部を除き 通行禁止になって、昨年4月やっと開通した。
岩をうつ数々の滝や淵を見、揺れる吊り橋のスリリングさを楽しみつつ、沢に沿って岩道を登る。
綠が鮮やかだ。
台風で崩壊した部分は修復され そこを縫うように道は続く。
その労働に感謝しつつ、再びここを登れたことに限りない喜びを感じた。
[綠陰風趣]
詩仙三六對聯仁 詩仙の三六 対聯は仁
山紫水明風雅巡 山紫水明 風雅巡り
綠黛鴨川抄歴史 綠黛の鴨川 歴史抄す
名儒志尚詠吟眞 名儒の志尚 詠吟は真なり
詩仙堂にある三六人の詩仙の対句は誠に仁の心をそなえた方ばかりである。
頼山陽の書斎、山紫水明は、風雅の趣きがあります。
綠の木々の中に流れる鴨川には、歴史の移ろいが抄し出されているようです。
丈山と山陽を巡る漢詩紀行で、二人のまっすぐな志に、心をうたれるものがありました。
[綠陰風趣]
水溢田園苗稼新 水溢れる田園 苗稼新らし
歸來雙燕鳥聲頻 帰り来る双燕 鳥声頻り
間停路傍薫風渡 暫く路傍に停まれば薫風渡る
眼界森然綠展茵 眼界の森然 綠茵(しとね)を展(の)ぶ
[綠陰風趣]
雨晴古刹綠風巡 雨晴れて古刹 綠風巡り
幽砌靑苔淸景新 幽砌青苔 清景新たなり
楓下繍牀茶一碗 楓下の繍牀 茶一碗
野人暫擬雅懷人 野人暫く擬す 雅懐の人
[綠陰風趣]
初夏門庭綠已匀 初夏の門庭 綠 已(すで)に匀(ととの)う
寄書舊友幾多人 書を寄す旧友 幾多の人
昔時學舎師朋集 昔時の学舎に 師朋 集(つど)ふ
追憶交遊照眼新 交遊を追憶し 眼を照らして 新たなり
初夏、庭の草木が綠で覆われる頃、何人もの友人から手紙を受け取り、高校の同窓会に参加しました。
昔学んだ校舎に先生と卒業生が集まり、校舎を見学しました。
机などは新しくなっていましたが、昔、教室で勉強した様子、クラブ活動で校内を走りまわった様子がまざまざと目に浮かんでくるのでした。
[綠陰風趣]
梅桜笑對人 梅桜 人に対し笑み、
饗宴忽過春 饗宴 忽ち春を過ぐ。
灼灼忘花茂 灼灼と花を忘れ茂り、
油油受日新 油油として日を受け新た。
南風將誘夏 南風 将に夏を誘ひ、
驟雨已洗塵 驟雨 已に塵を洗へり。
夕趣殘虹遠 夕趣 残虹遠く、
幽深在近隣 幽深にして近隣に在り。
[綠陰風趣]
驕陽連日泛晴旻 驕陽 連日 晴旻に泛び
庭樹綠陰文墨親 庭樹の綠陰 文墨に親しむ
鳥語蟬聲無俗韻 鳥語 蝉声 俗韻無く
清風如水滌心塵 清風 水の如く 心塵を滌ふ
[綠陰風趣 其一]
吊床綠陰横此身 床を吊り綠陰 此の身を横たふれば
樹聲葉影四方新 樹声葉影 四方新し
携書不讀時瞑想 書を携へて読まず 時に瞑想すれば
天地無邊心自伸 天地無辺 心自ら伸びやか
[綠陰風趣 其二]
出梅清色溢 出梅 清色溢れ
楊柳綠陰匀 楊柳 綠陰匀ふ
日午江南邑 日午 江南の邑
消閑翁媼隣 消閑 翁媼隣る
[綠陰風趣 其三]
三竿早炎熱 三竿 早くも炎熱
湖畔衆多人 湖畔 衆多の人
牛背牧童戯 牛背 牧童戯れ
蓮舟嬌女巡 蓮舟 嬌女巡る
綠陰棋局興 緑陰 棋局に興じ
簷下果瓜陳 簷下 果瓜陳ぶ
宛似時空滯 宛ら 時空滞る似し
奈何心却新 奈何ぞ 心 却て新らし
[綠陰風趣]
糉子纏絲爆竹晨 粽子 糸を纏ひ 爆竹の晨
童孩垂釣水声新 童孩 釣を垂れ 水声新た
薫花似錦霑朝露 薫花 錦に似て 朝霑す露
芳草如綿臥夕茵 芳草 綿の如く 夕臥す茵
海沸江翻雖有鬼 海沸き 江翻り 鬼有りと雖も
山崩地震豈無神 山崩れ 地震ふ 豈に神無からんや
危機四伏衆評漫 危機 四伏して 衆評漫ろ
險象環生國歩頻 険象 環生して 国歩頻り
[綠陰風趣 其一]
綠風吹面爽, 綠風 面(かお)に吹いて爽やかに,
白首看書新。 白首 看るは書の新しき。
夕暮鳴鴉過, 夕暮 鳴鴉過ぎゆきて,
歸途送日輪。 歸途に送る 日輪を。
[綠陰風趣 其二]
綠陰堪午飲, 綠陰 午飲するに堪へ,
野店酒香巡。 野店に酒香巡る。
溪響催吟興, 溪響 吟興を催(うなが)し,
忽成俳句新。 忽として成す 俳句の新しきを。
[綠陰風趣 其三]
綠風吹面消春, 綠風 面(かお)に吹いて春を消し,
白首傾杯潤唇。 白首 杯を傾けて唇を潤す。
忽借醉顔乘興, 忽ち醉顔を借りて興に乘り,
低吟俳句鮮新。 低吟す 俳句の鮮新なるを。
[綠陰風趣 其四]
綠風清爽掃紅塵, 綠風 清く爽やかに紅塵を掃き,
白首逍遙沿碧淪。 白首 逍遙して碧淪に沿ふ。
如鏡山湖輝碎錦, 鏡のごとく山湖 輝いて錦を碎き,
閑聽蟬語暮林呻。 閑に聽く 蝉語の暮林に呻くを。
[綠陰風趣 其五]
綠陰深處有俳人, 綠風 清く爽やかに紅塵を掃き,
探索季題求句新。 季題を探索して句の新しきを求む。
仰看鵬雲恐雷電, 仰ぎ看たる鵬雲に雷電を恐れ,
急忙揮筆鼓吟唇。 急忙(せわしく)筆を揮ひ吟唇を鼓す。
[綠陰風趣 其六]
最好是青春, 最も好きは是れ青春,
夏天心意貧。 夏天に心意 貧し。
綠肥花痩盡, 綠肥えて花は痩せ盡くし,
我老涙酸辛。 我老いて涙 酸辛たり。
回憶生涯過, 回憶す 生涯の過ぎしを,
空傾村酒醇。 空しく傾く 村酒の醇なるを。
涼陰無世路, 涼陰に世路なくも,
晩境漫傷神。 晩境みだりに神を傷む。
[綠陰風趣 其七]
綠陰風氣爽, 綠陰に風氣爽やかに,
朱夏景光陳。 朱夏の景光陳ぶ。
散歩穿閑徑, 散歩 閑徑を穿ち,
行吟到古津。 行吟 古津に到る。
碧湖横滿滿, 碧湖 滿滿と横はり,
白水耀鱗鱗。 白水 鱗鱗と輝く。
老少同舟客, 老少同舟の客,
樓船追日輪。 樓船に日輪を追ふ。
[綠陰風趣 其八]
碧宇雲飛篩皎日, 碧宇に雲飛んで皎日を篩ひ,
綠陰風爽間紅塵。 綠陰 風爽やかに紅塵を間(へだ)つ。
讀書止渇買村酒, 書を讀みて渇(かわ)きを止むるに村酒を買ひ,
枕肘遊魂佯野人。 肘を枕に魂を遊ばせて野人の佯(ふり)をす。
醉夢渾成張鳳翅, 醉夢 渾成(天然生成)して鳳翅を張り,
翻衣炫耀似龍鱗。 翻へる衣 炫耀して龍鱗に似る。
詩情如此無聲病, 詩情 此くのごとくして聲病なく,
走筆醒來而欠伸。 筆を走らせ醒め來たれば欠伸(のび)をす。
[綠陰風趣]
萬物滿盈吟興新 万物 満盈 吟興新たなり
綠陰逍遙寂無人 緑陰 逍遙 寂として人無し
苑池一瞥水紋漾 苑池 一瞥すれば 水紋漾ふ
疑是鯉魚思句頻 疑ふらくは是れ 鯉魚か 思句頻りなり
古池や翠に映える水の面
[綠陰偶作]
初夏荒園綠茁新 初夏の荒園 緑茁新たなり
樹陰風度絶浮塵 樹陰 風度りて 浮塵を絶す
元来不管世間事 元来 管せず 世間の事
老耄寧居抱甕人 老耄 寧居す 抱甕の人
[綠陰風趣]
南風習習動青蘋 南風習習として 青蘋を動かす
午下池頭柳色新 午下の池頭 柳色新たなり
白屋焚香閑作句 白屋 香を焚いて 閑かに句を作り
綠陰正好樂清貧 緑陰正に好し 清貧を楽しむ
[綠陰風趣]
櫻花散盡牡丹辰 桜花散り尽くして 牡丹の辰
一望暄妍思句頻 一望暄妍 句を思ふこと頻なり
夏午禪房紅白砌 夏午 禅房 紅白の砌
綠陰妖艶眼前新 緑陰と妖艶 眼前新たなり
[綠陰風趣 一]
薫風撫頬水光新 薫風頬を撫で水光新たなり
躑躅配紅旋四隣 躑躅紅を配し 四隣を旋る
一椀沾喉煮茶處 一椀 喉を沾ほし 茶を煮る処
杜鵑迎夏哢聲頻 杜鵑 夏を迎へ 哢声頻り
[綠陰風趣 二]
綠樹濃陰普四隣 緑樹陰濃くして 四隣に普し
鯉型旗幟上天新 鯉型の旗幟 上天新たなり
忘憂一刻茶渝酒 憂ひを忘れ 一刻 茶を酒に渝ふ
燕子銜泥初夏親 燕子 泥を銜み 初夏を親しむ
[綠陰風趣 (八橋煎茶 一)]
一廟綠林停白鷺 一廟の緑林 白鷺を停め
八橋古澤動新蘋 八橋の古澤 新蘋を動かす
松陰煮茗茶筵席 松陰 茗を煮る茶筵の席
閑坐虚懷隔俗塵 閑坐 虚懐 俗塵を隔つ
「蘋」: 水草
「茗」: 番茶(二番の夏芽、三番の秋芽)
「茶筵」: 茶席
「虚懐」: 無心
「俗塵」: 俗世間
[綠陰風趣 (八橋煎茶 二)]
熟麥翻波飛燕頻 熟麥波を翻し 飛燕頻り
禾苗整整水田新 禾苗 整整として 水田新たなり
松濤時憩煎茶席 松濤 時に憩ふ 煎茶の席
烏玉入爐迎野人 烏玉爐に入りて野人を迎ふ
「松濤」: 松が風切る音。松籟
「烏玉」: 炭
「野人」: 農人
[綠陰風趣 (八橋煎茶 三)]
松子辭枝待主人 松子 枝を辞して 主人を待ち
入爐煙颺土瓶呻 爐に入って煙は颺がり土瓶は呻く
綠陰深處通僊妙 綠陰深き處 通僊の妙
七十浮生不歎貧 七十の浮生 貧を歎かず
「松子」: 松かさ
「土瓶」: 急須
「浮生」: 人生
[綠陰風趣 (八橋煎茶 四)]
梨白榴紅鳥影頻 梨白く榴紅く 鳥影頻り
日長汗滴綠清新 日長 汗は滴り 緑清新
午陰竹榻敲詩夢 午陰竹榻 詩を敲くの夢
渡樹輕風對鄙人 樹を渡る軽風 鄙人に対す
「日長」: 夏至
「竹榻」: 竹の椅子
[綠陰風趣]
薫風爽快鳥聲頻 薫風 爽快 鳥声頻り
叢木晴朝綠色新 叢木 晴朝 緑色新たなり
萬架薔薇香馥郁 萬架の薔薇 香馥郁
夏陽燦燦賞花人 夏陽燦燦 花を賞づるの人
[綠陰風趣]
拂曉仰天啼鳥頻 払暁 天を仰いで 啼鳥頻り
光風雲破正申申 光風 雲破れ 正に申申
康娯夏氣君知否 夏氣を康娯せん 君知るや否や
樹下清陰夢裏人 樹下 清陰 夢裏の人
[綠陰風趣]
朝來急雨滌埃塵 朝来の急雨 埃塵を滌ひ
孟夏叢林萬緑新 孟夏の叢林 万緑新たなり
草上遊蜂是良友 草上の遊蜂は是れ良友
樹間啼鳥亦佳賓 樹間の啼鳥も亦た佳賓
濃茶一啜當乘興 濃茶一啜 当に興に乗ずべし
秀句三吟欲養眞 秀句三吟 真を養はんと欲す
仰視行雲深氣息 仰いで行雲を視て気息深く
光風解髮爽心身 光風 髪を解いて 心身爽やかなり
今朝方にわか雨あって あらい流したチリほこり
夏のはじめの林かげ 緑皆々新しい
草むらの上とんでいる 蜂は素敵な友だちで
木々の間でないている 鳥も立派なお客さま
濃い茶一口含んだら 気分も乗って来るだろう
よい詩句二三唱えては 自然のままに楽しみたい
顔をあげたらそらを行く 雲をながめて深呼吸
きらめく風が髪ほぐし 心も体も爽やかだ
[綠陰風趣 一]
田園散策悦清晨 田園 散策 清晨を悦び
湛艶桐花画不真 艶を湛へし桐花 画くとも真ならず
聞道桐蔭鳳凰止 聞くならく 桐蔭に 鳳凰止まれば
施政国是順人倫 施政 国是 人倫に順ふ
桐木に鳳凰がやどることは、良き為政の徴といいますが、今の政治は如何でしょうか?
[綠陰風趣 二]
五月開鎌麦穂伸 五月 開鎌 麦穂伸び
薫風一路燕飛頻 薫風 一路 燕飛ぶこと頻りなり
吟行偶到山辺寺 吟行 偶に到れり 山辺寺
楓樹緑陰如導真 楓樹の緑陰 真に導くごとし
麦秋の琵琶湖東を遊歩して、偶然に石馬寺という古刹に到りました。偶然の発見こそ遊歩の醍醐味です。
[綠陰風趣]
愛跑城中選早晨
懶猫閉眼発欠伸
樹陰可謝遮朝日
清気薫風送汗身
[綠陰風趣]
獨上城墟對半旻 独り上る城墟 半旻に対す
陰濃綠樹更淸新 陰濃やかに緑樹 更に清新
誰成妙曲壇之浦 誰が成すのか妙曲 壇ノ浦
淡淡流風夢美人 淡々たる流風に 美人を夢みたり
自宅の窓から見える「古城山の山上の緑陰」と対岸の壇ノ浦、赤間関、赤間神社を舞台としました。
[初夏偶作]
四囲萬緑雨餘晨 四囲の萬緑 雨余の晨
池畔薫風動白蘋 池畔の薫風 白蘋を動かす
誰詠唐詩加玉笛 誰か詠ふ唐詩 加(また)玉笛
悠然一刻正怡神 悠然たる一刻 正(まさに)神を怡まん
郷土の漢学者阿藤伯海氏の生家と広大な敷地は現在公園になっています。
ここで、吟詠の講座が開かれています。
[綠陰風趣 一]
樹陰綠色雨餘新 樹陰の綠色 雨餘に新た
川水含泥轟響瀕 川水泥を含む 轟響の瀕
双鷺遠堤殘白影 双鷺 遠堤 白影を残し
郊村緩歩午風頻 郊村 緩歩 午風頻り
[綠陰風趣 二]
雨餘萬草一齊新 雨餘 萬草 一齊に新た
高樹杜鵑交叫頻 高樹の杜鵑 交叫頻り
流憩綠陰清爽氣 流憩す綠陰 清爽の気
輕風陣陣傍吟人 輕風 陣陣 吟人に傍ふ
[綠陰風趣 三]
初夏郷村雨霽晨 初夏郷村 雨霽れし晨
堰堤南北水光匀 堰堤 南北 水光匀し
白鷺歩沙閑啄蚌 白鷺は沙に歩して 閑かに蚌を啄み
老翁坐石久垂綸 老翁は石に坐して 久しく綸を垂る
訪朋野徑路三里 朋を訪ね 野徑 路は三里
懷昔溫情年五旬 昔を懷ひ 温情 年は五旬
醉語高吟喜依舊 酔語 高吟 舊に依るを喜べば
杜鵑一叫絶風塵 杜鵑一叫 風塵を絶たん
[綠陰風趣 深大寺]
大樹悠悠蔽碧旻 大樹悠悠と 碧旻を蔽ひ
綠陰風渡鳥聲頻 緑陰 風渡り 鳥声頻りなり
皇都郊外古僧刹 皇都の郊外 古僧刹
早曉逍遙洗俗塵 早暁 逍遙し 俗塵を洗ふ