第17回 世界漢詩同好会総会(二〇〇七年四月一日)

 『世界漢詩同好会』の第17回総会は、四月一日に開かれました。
 詩題(今回は『陽春煙霞』)と押韻(今回は「下平声二蕭」)として、その日までに各国の幹事サイトに投稿された詩を交流し合うものです。
 日本では、この『漢詩を創ろう』のサイトが幹事となり、皆さんの交流詩を集約、掲載します。



 日本からの参加詩です。投稿順に紹介します。
 
]  井古綆    「陽春煙霞(琶湖舟遊)」     七言律詩
]  宮前明鳳    「陽春煙霞」          五言絶句
]  宮前明鳳    「陽春煙霞」          七言絶句
]  Y.T     「陽春見夕陽」         七言絶句
]  嗣 朗     「陽春煙霞」          七言絶句
]  香@風     「陽春煙霞」          七言絶句
]  展 陽     「陽春煙霞」          七言絶句
]  橋子沖    「陽春煙霞」          五言律詩
]  鮟 鱇     「陽春煙霞 五絶」       五言絶句
10]  鮟 鱇     「陽春煙霞 五律」       五言律詩
11]  鮟 鱇     「陽春煙霞 七絶 其一」    七言絶句
12]  鮟 鱇     「陽春煙霞 七絶 其二」    七言絶句
13]  鮟 鱇     「陽春煙霞 七律 其一」    七言律詩
14]  鮟 鱇     「陽春煙霞 七律 其二」    七言律詩
15]  橋 子沖   「陽春感覚」          七言絶句
16]  常 春     「陽春煙霞(看農鳥岳残雪)」  七言絶句
17]  常 春     「陽春煙霞(散策竹林有感)」  七言絶句
18]  宮前明鳳    「陽春煙霞」          七言律詩
19]  宮前明鳳    「陽春煙霞無情一」       七言絶句
20]  宮前明鳳    「陽春煙霞無情二」       五言絶句
21]  杜 正     「陽春煙霞」          七言絶句
22]  禿 羊     「陽春煙霞」          七言絶句
23]  菊太郎     「陽春煙霞」          七言絶句
24]  登 龍     「陽春煙霞」          七言絶句
25]  謝 斧     「陽春煙霞」          七言律詩


番号をクリックして下さい。















[1]
投稿者 井古綆 

[陽春煙霞(琶湖舟遊)]

煙霞痼疾趁春韶   煙霞の痼疾春韶を趁ひ

馳思琶湖心更跳   思ひを琶湖に馳せれば心更に跳ぶ

津港高楼去漸次   津港の高楼は漸次と去り

竹生霊島浮迢遥   竹生の霊島は迢遥に浮ぶ

藍天碧水塵腸洗   藍天碧水に塵腸が洗はれ

仏徳神恩俗念消   仏徳神恩に俗念が消ゆ

麗日舟遊有余得   麗日の舟遊に余得有り

斜陽瞬霎画霓橋   斜陽の瞬霎 霓橋を画く

<解説>

「煙霞痼疾」=山水の美を愛すること
「春韶」=春げしき
「琶湖」=琵琶湖
「津港」=大津港
「迢遥」=迢迢、はるか
「仏徳」=宝厳寺
「神恩」=都久夫須麻神社
「瞬霎」=一瞬の通り雨
「霓橋」=にじ

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[2]
投稿者 宮前明鳳 

[陽春煙霞]

亮光金樹粲   亮光りょうこう 金樹に かがや

無雪廣寒韶   雪 無く 広寒 うつく

池畔嫩芽遍   池畔に 嫩芽どんが遍く

靄霞陰翳調   靄霞あいかに 陰翳 調ふ

「廣寒」 = 月のこと、(月にあると言う「廣寒府」が由来。)

<解説>

 暖冬異変の今年は、雪国の金沢も殆ど無雪で推移しました。例年なら未だ冬とも言うべき3月の初めに、それも満月の夜に春の眺めを詠めるとは思いも寄らぬことでした。

<大意>
 満月の3月4日、暖冬無雪の今年は、兼六園の雪吊り樹木に、金箔飾りにライトアップ・イルミネーションが美しく映え、霞ケ池畔に若芽が萌え出して、月輪浩々たる夜景の下、もや霞みの陰翳が見事であった。

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[3]
投稿者 宮前明鳳 

[陽春煙霞]

無雪暖冬寒氣凋   無雪の 暖冬に 寒気は 凋み

皇倥偬四温饒   青皇(せいこう)倥偬(こうそう)として 四温 饒(おお)し

催霞雨水春風動   霞を 催す 雨水に 春風 動き

啓蟄以前畦潤苗   啓蟄 以前に 畦(はたけ)は 苗を 潤す

「皇」 = 春の神 = 東皇
「倥偬」 = 忙しく慌しい様
「饒」 = 有り余る程多い。

<解説>

 北陸の3月は、例年なら未だ冬の季節で、陽春の吟詠は4月にならないと詩興涌かないことですが、暖冬の今年は早々と春の詠詩に至りました。

<大意>  例年ならシベリアから寒気団が南下して、除雪に忙しい筈なるも、暖冬異変の今年は殆ど雪無しで推移した。その為もあってか、三寒四温の順序も四温ばかりが多く、一足飛びに春の神の出番で、雨水や啓蟄の節気も農暦に外れ、もや霞み棚引く圃(はたけ)には、はや草苗の若芽が萌す風景である。

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[4]
投稿者 Y.T 

[陽春見夕陽]

桃花謝了草蕭蕭   桃花 謝りつくして 草 蕭蕭たり

徧長堤柳眼嬌    あまねし 長堤 柳眼 うつく

嗟歎無計留春住   嗟歎す 春を留め おらしむる すべ無きを

落日鎔金方寂寥   落日 金を鎔かして 方に寂寥



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[5]
投稿者 嗣朗 

[陽春煙霞]

靄霞四望雨晴朝   靄霞 四望 雨晴るの朝

舞動黄鶯影亦跳   舞動く黄鶯 影 亦 跳る

麗日烟光春似画   麗日 烟光 春 画に似るに

桃花入眼一天妖   桃花 眼に入りて一天の妖



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[6]
投稿者 黒浴@

[陽春煙霞]

彌生淡雪蕾萌凋   弥生の淡雪 蕾萌(らいぼう)凋む

古寺山行氣勢銷   古寺山行の気勢 銷す

閉坐繙來同輩句   閉坐し 繙きたる 同輩の句

詩心躍動解寥寥   詩心 躍動し 寥寥解く

<解説>

今年の異常気象(真冬は暖冬春に厳冬)の下での心境を作詩しました。

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[7]
投稿者 展陽 

[陽春煙霞]

草木春装鳥語嬌   草木も春の装い 鳥の声が可愛い

堤楊縷縷發青條   堤の柳なよやかに 青い枝を生ずる

敖遊小径忘昏暮   気ままに小道で遊び 日暮れを忘れ

隔水斜陽粲赤霄   水に隔てた斜陽の 赤い空があざやかだ



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[8]
投稿者 橋 子沖 

[陽春賛歌]

鳥雀竹林賑   

花陰香気漂   

煙霞万里定   

楊柳眼前揺   

日麗美人筆   

風清才子簫   

乾坤春季回   

好日必須驕   



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[9]
投稿者 鮟鱇 

[陽春煙霞 五絶]

萬紅吐香氣,   万紅 香気を吐き,

千紫亂春朝。   千紫 春朝に乱る。

閑却人間事,   閑却す 人間じんかんの事,

唯應探勝漂。   ただ応に探勝たんしょうしてさすらうべし。




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[10]
投稿者 鮟鱇 

[陽春煙霞 五律]

畫筆兩三条,   画筆 両三条,

堪尋花可描。   花の描くべきを尋ぬるに堪えたり。

千紅滿郊野,   千紅 郊野に満ち,

萬紫繞山腰。   万紫 山腰を繞る。

香墨硯池溜,   香墨 硯池に溜り,

飛蚊老眼飄。   飛蚊 老眼に飄う。

K櫻如雪亂,   黒き桜 雪の乱れるが如く,

黄鳥化鴉妖。   黄鳥 鴉の妖しきに化す。

<解説>


飛蚊:飛蚊症により生じる蚊
黒桜:墨で描いた桜
黄鳥化鴉妖:墨で描いたウグイスがカラスのようであること


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[11]
投稿者 鮟鱇 

[陽春煙霞 七絶 其一]

櫻雲盛涌月臨宵,   桜雲 盛んに涌いて月は宵に臨み,

堪賞春花如雪飄。   賞するに堪えたり 春の花の雪のごとくに飄えるを。

莫吝千金不沽酒,   千金をおしみて酒をわざることなかるべく,

何妨醉筆走箋遙。   何んぞ妨げん 醉筆の 箋を走ること遥かなるを。




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[12]
投稿者 鮟鱇 

[陽春煙霞 七絶 其二]

萬紫千紅吐香氣,   万紫千紅 香気を吐き,

一吟十里踏花朝。   一吟十里 花朝を踏む。

櫻雲流處風烟淡,   桜雲流れるところ風煙淡く,

人立長堤詩味饒。   人 長堤に立てば 詩味おおし。




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[13]
投稿者 鮟鱇 

[陽春煙霞 七律 其一]

夢醒南窗見碧霄,   夢醒めれば南窓に碧霄へきしょう見え,

老殘延壽到花朝。   老残 寿を延ばして花朝に到る。

隨風漫歩春光暖,   風に随い漫に歩めば 春光暖かく,

側耳閑聽鳥語嬌。   耳をそばだて閑に聴けば 鳥語嬌なり。

笑入櫻雲賞香雪,   笑って桜雲に入り香雪を賞し,

將揮詩筆坐山腰。   将に詩筆を揮わんとして山腰に坐る。

夕烟流處無聲病,   夕煙流るるところ声病なく,

雅韵玲瓏平仄調。   雅韻 玲瓏にして 平仄調う。




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[14]
投稿者 鮟鱇 

[陽春煙霞 七律 其二]

櫻雲盛涌遶溪橋,   桜雲 盛んに涌いて渓橋を遶り,

悦目山光映水搖。   悦目の山光 水に映じて揺らぐ。

花客尋幽列如蟻,   花客 幽を尋ね 列をなして蟻の如く,

詩人覓句醉傾瓢。   詩人 句を覓め 醉って瓢を傾く。

吟爭黄鳥領春晝,   吟じ争えり 黄鳥の春昼を領したると,

看過青娥誇柳腰。   看過ごせり 青娥の柳腰を誇りおるを。

揮筆染箋連鳳字,   筆を揮い箋を染めて鳳字を連ね,

菲才偏靠酒功饒。   菲才 偏えにらむ 酒功の饒きに。






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[15]
投稿者 橋 子沖 

[陽春感覚]

漠漠煙霞千里妖   漠々たる煙霞千里に美しく

候禽一路上青霄   渡り鳥は一路青い空に上る

數奇才子筆琴極   数奇の才子の筆(文筆 絵画)琴(音楽)は極まる

春色著人詩味邀   春の景色人にきて詩的興味をむかえる

<解説>

春の自然の景色と、渡り鳥、才子の芸術的感情の高まり、詩的興味の到来を喜ぶ。

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[16]
投稿者 常春 

[陽春煙霞(看農鳥岳残雪)]

殘雪鮮明農鳥彫   残雪鮮明 農鳥を彫る

棚田烟淡聽春韶   棚田の烟淡く 春韶を聴く

例年吉兆今秋奈   例年の吉兆 今秋は奈んぞ

逸軌天公恩景饒   逸軌の天公 景饒を恩むや



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[17]
投稿者 常春 

[陽春煙霞(散策竹林有感)]

雨晴村落紫霞漂   雨晴れて村落 紫霞漂う

新筍叢生竹葉椒   新筍叢生して 竹葉椒たり

君子宜春拂雲勢   君子春を宜び 雲を拂う勢あり

白頭遲日覺秋凋   白頭遅日 秋凋を覚ゆ


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[18]
投稿者 宮前明鳳 

[陽春煙霞]

冬季常年積雪饒   冬季は 常年 積雪 おおきも

今期異變六花凋   今期の 異変で 六花 凋む

東皇已到寒威滯   東皇 已に 到るも 寒威 滞まり

雁鶴回歸烟霧遙   雁鶴 回帰して 烟霧 遥かなり

水弛蒸霞増暖氣   水 弛み 蒸霞は 暖気を 増し

風和春意集疎條   風 和らぎ 春意は 疎條に 集る

陽光易濕冥濛裏  陽光は 湿り 易し 冥濛の 裏 

天惠韶雰詞賦超   天恵の 韶雰しょうふんは 詞賦を 超ゆ

<解説>

 先の参加時は、全くの暖冬異変の感懐であったが、その後「寒の戻り」で「真冬」に逆戻りした様。改めて「陽春烟霞」の感懐を律詩で記してみました。

<大意>
1月2月には殆ど積雪は無かったが、3月になって降雪あり、寒威もぶり返して、暖冬異変も帳消しの感である。それ即ち「寒の戻り」で「真冬」に逆戻りした様。それでも渡り鳥が北へ帰る頃とも相なると、日々暖気も増して、春の霞みは雨模様なるも、その韶華の景色は言葉で表わすに至難である。

「東皇」=青皇=春の女神
「疎條」=葉も疎らな枝
「韶雰」=韶華=春の景

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[19]
投稿者 宮前明鳳 

[陽春煙霞無情 一]

半島端頭大鯰跳   半島の 端頭に 大鯰 跳ね

突然激震戰春朝   突然の 激震は 春朝を 戦(おのの)かす

被災報道傳驚愕   被災の 報道は 驚愕を 伝へ

搖返不休魂欲消   揺り返し 休(や)まずして 魂 消えんと 欲す

<解説>

 3月25日朝9時42分頃、震度6強の能登半島地震では、肝を潰した感懐です。
 地元では、まさかあの様な大地震が起こるとは思いも寄らぬことで、当日は号外の夕刊を出す報道でした。

「搖返」=余震(その後5日間で255回)

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[20]
投稿者 宮前明鳳 

[陽春煙霞無情 二]

大鯰突然暴   大鯰 突然に 暴れ

唸呻家屋搖   唸呻てんしんして 家屋 揺らぐ

能登風土懼   能登の 風土は おそろし

激震麗霞消   激震に 麗霞は 消ゆ

<解説>

 俚謡に「能登は優しや土までも」と唄われ、能登の自然風土はその人情と共に、豊かな光彩を放ったものだが、今回の大地震でそのイメージは吹っ飛んだ感である。
 でも、各地からのボランティア支援も陸続と駆けつけて下さり、相変らずの余震はあるものの、人々は間もなく、復興の槌音と共に立ち上がることでしょう。

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[21]
投稿者 杜正 

[陽春煙霞]

丘上春霞坐半宵   丘上の春霞 半宵に坐す

看桜酒客発長謡   桜を看る酒客 長謡を発す

洋行明日離情切   洋行 明日 離情切なり

紅雨恍然魂欲消   紅雨 恍然と 魂 消せんと欲す

<解説>

 春らしくなり、丘の上は霞がかかっている。今は宵の口。丘の上に腰を下ろすと、客が夜桜を見ながら酒を飲んで謡を歌っている。自分は明日から米国に長期出張と思うと、この日本の情景から実に離れがたい。
 降り注ぐ桜の花の下で、あまりの情趣に恍然と気を失うばかりだ。

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[22]
投稿者 禿羊 

[陽春煙霞]

一朶初開暄暖朝   一朶 初めて開く 暄暖の朝

晴光穿葉鳥声嬌   晴光 葉を穿って 鳥声嬌かなり

春山肩耒覓新筍   春山 すきを肩に 新筍を覓むれば

千里煙霞雪嶺遙   千里 煙霞 雪嶺遙かなり



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[23]
投稿者 菊太郎 

[陽春煙霞]

摘芳游客独逍遥   芳を摘む游客 独り逍遥

四野風光春色嬌   四野の風光 春色 嬌たり

偶到長堤煙樹径   たまたま到る 長堤 煙樹の径

飛花一片帯陽飄   飛花 一片 陽を帯びて飄える



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[24]
投稿者 登龍 

[陽春煙霞]

萬櫻爛漫太平謠   萬櫻爛漫太平の謠

渡水禽聲隔水招   水を渡る禽聲水を隔てて招く

早暖霞光遠景好   早暖霞光遠景好し

郊遊十里世機消   郊遊十里世機消す



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[25]
投稿者 謝斧 

[陽春煙霞]

坡公曾説好春宵   坡公曾って説く春宵の好きを

我愛虚舟古渡朝   我は愛す 虚舟古渡の朝

隔水風花紅靄靄   水を隔てて風花 紅靄靄

連堤煙草緑迢迢   堤を連ねて煙草 緑迢迢

蒸藜炊黍羞魚膾   藜を蒸し黍を炊いで 魚膾を羞め

燒筍煮芹添酒瓢   筍を燒き芹を煮て 酒瓢を添う

醉客陶陶野遊嬉   醉客陶陶として野遊を嬉み

村村処処艷陽嬌   村村処処 艷陽嬌かなり

「坡公」=東坡 春宵一刻値千金


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