芙蓉漢詩集 第12集の第1作は A.T さんからの作品です。
 



  富嶽景 其一        

冬天日u似寒充   冬天の日 益(ますま)す 寒 充つるに似たり

雪禍常看報道中   雪禍 常に看る 報道の中

曉冷出門身體緊   曉冷 門を出ずれば 身体緊める

新裳富嶽玉玲瓏   新裳の富岳 玉玲瓏

          (上平声「一東」の押韻)























 芙蓉漢詩集 第12集の第2作は A.T さんからの作品です。
 



  富嶽景 其二        

寒梅麗色一枝春   寒梅の麗色 一枝の春

庭草方萌雀躍頻   庭草 方に萌えんとし 雀躍頻りに

轉眼欣欣情富嶽   眼を転ぜば欣欣たる 富岳の情

夕陽紅雪五雲新   夕陽 雪紅にし 五雲新たなり

          (上平声「十一真」の押韻)



<解説>

 年頭の富士山の姿を見て、早朝の時の詩一首と、夕方の赤富士の詩一首ずつ詠みました。























 芙蓉漢詩集 第12集の第3作は 蘭君 さんからの作品です。
 



  湖南省旅懷二題 其一        

舟航落日入煙汀   舟航 落日 煙汀に入る

楚水呉山取次經   楚水 呉山 取次に経たり

鳥似蘆花千點白   鳥は芦花に似て 千点 白く

嶼如鼇背一螺青   嶼は鼇背ごうはいの如く 一螺 青し

蒼梧野外墓田杳   蒼梧 野外 墓田 杳かに

雲夢澤邉秋葉零   雲夢 沢辺 秋葉 

帝子南巡還不返   帝子 南巡 還た返らず

二妃朝暮望滄溟   二妃 朝暮 滄溟を望む 

          (下平声「九青」の押韻)



<解説>

「帝子」: 中国の古代説話の中の五帝の一人、舜のこと 
     帝位につき天下は大いに治まっていたが、南方視察の途中、蒼梧の野に崩ずとある
「二妃」: 帝舜の后妃 娥皇と女英
























 芙蓉漢詩集 第12集の第4作は 蘭君 さんからの作品です。
 



  湖南省旅懷二題 其二        

一聲風笛破寒汀   一声の風笛 寒汀を破る

萬里波濤羇客舲   万里の波涛 羇客の舲

北朔塞雲天漠漠   北朔の塞雲 天 漠々

南方瘴霧晝冥冥   南方の瘴霧 昼 冥々

水連揚子無邊白   水は揚子に連って 無辺 白く

山接巴陵不斷   山は巴陵に接して 青 断えず 

繋纜洞庭秋八月   ともづなを繋ぐ洞庭 秋 八月

湖樓此夕雁初聽   湖楼 此の夕べ 雁 初めて聴く

          (下平声「九青」の押韻)























 芙蓉漢詩集 第12集の第5作は 辰馬 さんからの作品です。
 



  遊三保松原        

蒼天銀浪駿河灣   蒼天 銀浪 駿河湾

與友逍遙松籟環   友と逍遥すれば 松籟 環る

恰好旗亭望小憩   恰も好し 旗亭 小憩を望む

傾杯笑語是仙寰   傾杯 笑語 是 仙寰

          (上平声「十五刪」の押韻)



<解説>

 自宅近くの羽衣の松への散策です。























 芙蓉漢詩集 第12集の第6作は 辰馬 さんからの作品です。
 



  春日吟懷        

木蓮蓓蕾見春風   木蓮の蓓蕾 春風に見ゆ

鄰舎牆梅賞玩翁   隣舎の牆梅 賞玩の翁

一醉陶然促詩興   一酔 陶然 詩興を促す

呻吟三刻夕陽蒙   呻吟 三刻 夕陽 蒙なり

          (上平声「一東」の押韻)



<解説>

 毎々の苦吟の様を裏庭を見ながら作詩してみました























 芙蓉漢詩集 第12集の第7作は S.G さんからの作品です。
 



  新年作        

五雲萬里曙光新   五雲万里 曙光新なり

門巷風和天地春   門巷 風和ぐ天地の春

椒酒一杯詩骨健   椒酒一杯 詩骨健なり

梅花瓶裏喜佳辰   梅花瓶裏 佳辰を喜ぶ

          (上平声「十一真」の押韻)



<解説>

 新年を平穏で健康で迎えられたことに感謝し 梅花を生けてお酒でお祝いしました。























 芙蓉漢詩集 第12集の第8作は S.G さんからの作品です。
 



  驟雨        

奔雷閃閃壓層雲   奔雷閃々 層雲を圧す

白雨跳珠草木欣   白雨 珠を跳らして 草木欣ぶ

一陣狂風駆暑去   一陣の狂風 暑を駆って去る

長虹傾刻早斜曛   長虹 傾刻 早や斜曛

          (上平声「十二文」の押韻)























 芙蓉漢詩集 第12集の第9作は M.S さんからの作品です。
 



  倒富士        

連天景勝照斜陽   天に連なる景勝 斜陽にかがや

映倒霊峰湖面央   倒しまに映ゆ霊峰 湖面の央

冠雪山腰紅一被   冠雪の山腰 紅 一被

優然如畫燦明粧   優然 画の如し 明粧 燦たり

          (下平声「七陽」の押韻)



<解説>

 湖面央=湖面の半ば、中央
 燦明粧=明るいよそおいがきらびやか























 芙蓉漢詩集 第12集の第10作は M.S さんからの作品です。
 



  朧月夜富士        

深更湖畔是仙寰   深更の湖畔 是 仙寰

絶勝霊峰富士山   絶勝 霊峰 富士の山

高照笠雲秋月淡   笠雲を高く照らす 秋月 淡し

朧朧宇内滿盈閑   朧々 宇内 満盈の閑

          (上平声「十五刪」の押韻)



<解説>

 是仙寰=別世界
 朧朧=朧にかすむさま
 宇内=天地
 満盈閑=みちみつる静かさ
























 芙蓉漢詩集 第12集の第11作は 修玲 さんからの作品です。
 



  新年作        

新正淑氣五雲長   新正 淑気 五雲 長し

旭日曈曈放瑞光   旭日 曈々 瑞光を放つ

自壽草堂春盎盎   自ら寿す草堂 春 盎々

千門無事亦尋常   千門 事無く 亦 尋常

          (下平声「七陽」の押韻)


 赤々と燃ゆるがごとく
   昇り来る
 初陽に双手をあわせて祈る
























 芙蓉漢詩集 第12集の第12作は 修玲 さんからの作品です。
 



  夏雨        

遙雷殷殷半天雲   遥雷 殷殷 半天の雲

風起傾盆雨脚紛   風起こり 盆を傾けて 雨脚紛たり

樹樹生生蘇萬物   樹樹生々 万物蘇らす

農人待望共欣欣   農人 待望 共に欣欣たり

          (上平声「十二文」の押韻)

  雷の声轟々と
     耳をさす
    草木喜び踊っているかに

























 芙蓉漢詩集 第12集の第13作は 洋靖 さんからの作品です。
 



  新年偶感        

乾坤一轉瑞祥春   乾坤 一転して 瑞祥の春となる

家族相親談笑頻   家族 相親しみ 談笑 頻り

富貴無縁欣健在   富貴 縁無く 健在を欣ぶ

天恩感謝亦心新   天恩に感謝して亦 心新たなり

          (上平声「十一真」の押韻)


 目出度い新年を迎えて家族団欒談笑がたえない。
 今年もお金や財産がなくても健康を願って、天の恵みに又心新たに気持ちを切り替えて行こうと思った。























 芙蓉漢詩集 第12集の第14作は 洋靖 さんからの作品です。
 



  倫敦旅行        

機中遙望異郷坤   機中 遥かに望む 異郷の坤

傳統文化織倫敦   伝統と文化 織りなす 倫敦へ

世界遺財都欲見   世界遺財 都べて見んと欲し

魁梧天巧轉蓬奔   魁梧な天巧 転蓬で奔る

          (上平声「十三元」の押韻)


 一月にロンドンへ旅した。
 伝統と文化が織りなすとてもきれいな町で、世界遺産も沢山あり広大な自然の中をとびまわった。























 芙蓉漢詩集 第12集の第15作は 常春 さんからの作品です。
 



  賀上梓「山水清音」        

夫講詩詞婦影蹤   夫は詩詞を講じ 婦 影に蹤く

連珠蘊藉物情濃   連珠 蘊藉 物情 濃か

一家常在風騒裡   一家 常に在り 風騒の裡

大陸猶培落落胸   大陸 猶 培ふ 落落の胸

          (上平声「二冬」の押韻)



<解説>

 蕗紅さん(石川岳堂夫人)が詩集「山水清音」を上梓され、贈ってくださった。
 早速にと賀詞を送ったところ、折り返し楽しい唱酬、次韻詩を頂いた。

   拝承欣欣逐君蹤
   佳句琳瑯心意濃
   誰識風流酬唱楽
   詩縁相詰爽吟胸
























 芙蓉漢詩集 第12集の第16作は 常春 さんからの作品です。
 



  羇旅之夜        

千岫森羅憩   千岫 森羅 憩ひ 

萬梢濳息玄   万梢 息を潜めて 玄(ふか)し

歸林鳥沈黙   帰林の鳥 沈黙す

我亦自安眠   我も亦 自ずから眠り安らかならん

          (下平声「一先」の押韻)



<解説>


   ゲーテ 旅人の夜の歌(小塩節 訳詩)

  すべての峯の上を覆って 憩いがある
  すべての梢にお前はそよ風の息吹の跡をほとんど見ない
  小鳥は森に沈黙している
  待つがよい やがて お前も憩うのだ
























 芙蓉漢詩集 第12集の第17作は 常春 さんからの作品です。
 



  想啓蟄        

冬眠涵養活生源   冬眠 涵養す 活生の源

啓蟄百蟲盈草原   啓蟄 百虫 草原に盈る

蜂蝶回花求蜜急   蜂蝶 花を回り 蜜を求むる急 

蟇蛙入水占巢喧   蟇蛙 水に入り 巣を占めんと喧

震災收拾二年歴   震災の収拾 二年に歴る

興復構圖多面存   興復の構図 多面に存せん

扼腕良工待機久   扼腕の良工 待機 久し

今春須集萬人魂   今春 須ひ集めん 万人の魂

          (上平声「十三元」の押韻)



<解説>

  東日本大震災が地域も規模も学会の想定を超えたことから、最大の津波、最大の災害に備えると指針が出される。
 これでは復興ままならない。災害対策は「想定外」にどう対処するか、と提唱される方もおられる。同感!
 三年目の今年、復興の青図と、がむしゃらな取り組みを期待したい。

 私は「首都機能」を福島に分散する夢を今年の賀状に託した。

    年頭夢辛酉    
  遷都議案豁胸襟
  癸巳選良良識深
  課題土壌資基礎
  辛酉年頭福島今
























 芙蓉漢詩集 第12集の第18作は 緑楓林 さんからの作品です。
 



  看梅        

東風輕暖看梅遊   東風 軽暖 看梅の遊

竹外横斜花氣流   竹外 横斜 花気流る

俯仰枝頭星的礫   俯仰す 枝頭 星的礫

清香衣染興偏幽   清香衣に染みて 興 偏へに幽なり

          (下平声「十一尤」の押韻)























 芙蓉漢詩集 第12集の第19作は 緑楓林 さんからの作品です。
 



  山寺觀楓        

全山滿目競秋妍   全山 満目 秋妍を競ふ

苔徑停筇古寺前   苔径 筇を停む 古寺の前

染出楓林濃淡色   染出だす楓林 濃淡の色

疎鐘幽響四囲傳   疎鐘 幽かに響き 四囲に伝ふ

          (下平声「一先」の押韻)























 芙蓉漢詩集 第12集の第20作は H・Y さんからの作品です。
 



  東遊雜詩        

六花撲面布瑤瑛   六花 面を撲つ 瑶瑛を布く

旅館幽庭玉樹生   旅館の幽庭 玉樹 生ず

温酒傾盃夫婦絆   酒を温め盃を傾く 夫婦の絆

四山銀界浴泉情   四山 銀界 浴泉の情

          (下平声「八庚」の押韻)


夫婦で雪国に 温泉旅行に行ってきました。























 芙蓉漢詩集 第12集の第21作は H・Y さんからの作品です。
 



  同窓會        

歳月閑流已六旬   歳月 閑に流れ 已に六旬

舊朋再會友情新   旧朋 再会す 友情 新たなり

引杯談笑歡何盡   杯を引き談笑 歓 何ぞ尽きん

共願息災長壽身   共に願ふは 息災 長寿の身

          (上平声「十一真」の押韻)


久しぶりの同窓会、共に元気で人生を楽しみたいです。























 芙蓉漢詩集 第12集の第22作は 恕庵 さんからの作品です。
 



  夢中逢白頭翁        

山徑梅花發   山径 梅花 発き

東風殘雪融   東風 残雪 融ける

鶯聲春二月   鴬声 春 二月

探句白頭翁   句を探がす 白頭の翁

          (上平声「一東」の押韻)



 鈴木幹心様
昨年十二月十一日ご逝去。

 謹んでご冥福をお祈りします。
 杖携え悠然として南山を見つめる姿を時々思い浮かべます。
  合掌。























 芙蓉漢詩集 第12集の第23作は 恕庵 さんからの作品です。
 



  試筆樂        

元旦拈詩句   元旦 詩句 拈る

揮毫墨吐香   揮毫すれば 墨 香を吐く

龍蛇箋上走   竜蛇 箋上に走り

胸臆滿希望   胸臆 希望 満つ

          (下平声「七陽」の押韻)


 三月の自詠自書清真書道展に向けて、新年の試筆は心新たに、清空に書す。
 洗心の想いが、寒さの中にみなぎります。























 芙蓉漢詩集 第12集の第24作は 洋春 さんからの作品です。
 



  雪中作        

樹影溪流未促春   樹影 渓流 未だ春を促さず

枝頭柳眼不知晨   枝頭の柳眼 晨を知らず

玲瓏仰視白山雪   玲瓏 仰ぎ視る 白山の雪

客舎行人詩思新   客舎の行人 詩思 新なり

          (上平声「十一真」の押韻)


 飛騨の白川郷より白山を遠望した時の事を思い出して詩にしてみました。























 芙蓉漢詩集 第12集の第25作は 洋春 さんからの作品です。
 



  探桃花        

詩景探求初一遊   詩景 探求 初 一遊

枝頭點點暗香流   枝頭 点々 暗香 流る

桃花源記陶濳説   桃花源の記 陶潜の説

芳信更求登小丘   芳信 更に求めて 小丘に登る 

          (下平声「十一尤」の押韻)


 寒さも少し和らいだ頃、「桃はまだかいな」と久し振りに外に出てみました。
 桃はまだ咲いているという程でもなく、二つ三つしか見当たりません。
 陶潜の「桃花郷」の話を思い出しながら、日当たりの良い高みに登ってみました。























 芙蓉漢詩集 第12集の第26作は 青淵 さんからの作品です。
 



  花前對酌        

庭花爛漫一時開   庭花 爛漫 一時に開き

有友窗前對酌催   友 有りて窓前 対酌 催す

勤勉輕蜂繞紅紫   勤勉の軽蜂は 紅紫を繞り

醉狂芳片泛春杯   酔狂の芳片は 春杯に泛かぶ

          (上平声「十灰」の押韻)























 芙蓉漢詩集 第12集の第27作は 青淵 さんからの作品です。
 



  春日即事        

新晴風暖獨煎茶   新晴(しんせい) 風暖かくして独り茶を煎れば 

當牖江山詡物華   牖(まど)に当たる江山 物華を詡(ほこ)る

雙蝶盍望春野闊   双蝶 盍ぞ春野の闊きを望まざる

朝來偏繞小庭花   朝来 偏に繞る 小庭の花

          (下平声「六麻」の押韻)























 芙蓉漢詩集 第12集の第28作は 洋景 さんからの作品です。
 



  看雪        

早晨皓皓照書帷   早晨 皓皓 書帷を照らす

滿目無塵天霽時   満目 塵無く 天 霽るる時

庭樹如花方窈窕   庭樹 花の如く 方に窈窕たり

驚看深雪美濃羈   驚き看る深雪 美濃の羈

          (上平声「四支」の押韻)


 真冬に岐阜に旅行した際、辺り一面の真っ白な世界、宿の庭樹の花の咲いたような美しさは今も忘れられない思い出です。
 反面、雪深い中の生活は困難では・・・と、思われました。























 芙蓉漢詩集 第12集の第29作は 洋景 さんからの作品です。
 



  北國春        

薫風一路北方邊   薫風 一路 北方の辺り

殘雪峰巒耀耀娟   残雪の峰巒 耀々として娟なり

十里堤櫻花若浪   十里 堤桜 花 浪の若し

遲春煙景信濃川   遅春 煙景 信濃川

          (下平声「一先」の押韻)


 四月の末に新潟へ旅行しました。
 どんどん北に向っていくと残雪の峰々が美しく耀いていました。
 信濃川の堤には、桜が咲き波の如く延々と続き、煙る景色がとても印象的でした。























 芙蓉漢詩集 第12集の第30作は 洋景 さんからの作品です。
 



  飛梅圖        

社頭寒較減   社頭 寒 較 減ず

幽艷遇花精   幽艶 花精に遇ふ

點點魁春發   点点 春に魁け 発き

芬芬隔柵盈   芬芬 柵を隔てて盈つ

菅公憂貶謫   菅公 貶謫を憂ひ

何遜詠詩情   何遜(かそん) 詩情を詠む

延佇横斜影   延佇す 横斜の影

飛梅心緒傾   飛梅 心緒 傾く

          (下平声「八庚」の押韻)


 九州福岡にある大宰府天満宮の飛梅の図見て詠んでみました。

「菅公」: 菅原道真公 梅をこよなく愛した。
「何遜」: 南朝梁の人(468−518) 梅を好み良詩を詠んだ。