2023年の投稿詩 第241作は桐山堂刈谷の 芳親 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-241

  梅雨書懷        

靜晝書窗雨滴音   静昼 書窓 雨滴の音

小庭梅落碧苔侵   小庭 梅落ち 碧苔侵す

蝸牛試篆芭蕉葉   蝸牛 篆を試む 芭蕉の葉

連日空濛夏未深   連日 空濛 夏未だ深からず

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 自宅の庭の実梅や蝸牛の様子から、梅雨の季節を感じます。

<感想>

 うーん、起句の「靜晝」と「雨滴音」の対立は狙ったものですかね。
 雨垂れの音しか聞こえないから静かだ、という対比表現は、芭蕉の「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」と共通する手法だと考えれば一応納得できます。

 その効果をしっかり伝えるならば、上二字を「寂寞」とするわけですが、ただ、今回は梅雨景色を詠むことが主眼です。
 作者の孤独感とか部屋の静寂を強調する必要は無い、と言うより、そこが目立つと逆に承句以降がぼやけてしまいます。
 「靜」という情報は削って、「窗下坐聞檐滴音」くらいでしょう。

 承句と転句は素材がうまく配置されていて、画面が目に浮かびますね。

 結句は「雨」が使えますので、「連雨空濛」とするとすっきりします。
 下三字は季節がややずれています。梅雨は初夏ではないので、ここは書くとしたら「夏已深」です。
 「閉翠陰」などでも良いと思います。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第242作は桐山堂刈谷の 芳親 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-242

  七夕傳説        

庭院虫聲到半宵   庭院 虫声 半宵に到る

願糸五色倚風搖   願糸 五色 風に倚りて揺らぐ

天河如滴輝頭上   天河 滴る如く 頭上に輝き

織女牽牛渡鵲橋   織女 牽牛 鵲橋を渡る

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 七月七日に夜空を眺め、中国の七夕伝説を想う景を詩にしました。

<感想>

 句の流れを見ると、叙景が起句と転句、七夕関連が承句と結句、となると、承句と転句を入れ替えたくなりますね。
 それで並べて見て、どちらが良いかという選択ができます。

   庭院虫聲到半宵  星河如滴滿天澆  願糸五色倚風動  織女牽牛渡鵲橋


 うーん、七夕関連ではあっても、「願糸五色」自体は「織女牽牛」とは直結しないですから、逆に「天河」の方が繋がりが濃い気がしますね。
 原案で行きましょう。

 語句だけ確認しますと、承句の「倚」と「搖」は似ていますので「竹風」で。

 転句の「天河」は単なる説明になりますので、天の川にこだわらずに「空一面の星」という感じで、それが「如滴」とした方が幻想的な美しさが出るかと思います。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第243作は桐山堂刈谷の 游山 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-243

  麥秋田家        

垂楊冉冉舞前檐   垂楊 冉冉として 前檐に舞ひ

初夏風情萬物沾   初夏の風情 万物沾ふ

拄杖傍田蛙鼓聒   杖を拄(つ)き 田に傍へば 蛙鼓聒(かまびす)し

橘花破蕾馥芬添   橘花 蕾を破り 馥芬添ふ

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 柳の枝が柔らかく垂れ下がり、檐にユラユラと風に舞い、初夏の趣が人の心や物の動きをうるおわす。
 畑に沿って散歩すれば蛙は鳴き、柑橘の白い花はよい香りを放って私にそってくる。

<感想>

 「冉冉」は「じわじわと進む」「柔らかく垂れる」の意味があります。「垂楊」によく合いますね。
 その枝が檐で風に吹かれて「乱」れるのを「舞」と表したのですが、風が無いと折角の工夫が飛躍になってしまいます。
「風檐」で「風が吹き通う檐」となりますので、「舞風檐」とすると完璧でしょう。

 承句はここで「初夏風情」「萬物」とまとめてしまうのは、結論がやや早過ぎの感がします。
 もう少し、景を述べてから、と思いますので、承句を「破蕾橘花香馥添」と結句の内容を持ってきてから、
 結句で「夏初萬物」と書き出せば、まとめとして読みやすくなると思います。

 下三字は「爽C沾」のような形で行けると思います。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第244作は桐山堂刈谷の 游山 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-244

  尋花史跡淺野公園讀歌碑        

苑牆躑躅紫紅繁   苑牆の躑躅 紫紅繁し

藤架玉英香滿園   藤架の玉英 香園に満つ

淺野功名發祥地   浅野の功名 発祥の地

長勲禰禰兩碑存   長勲(ながこと) 祢祢(ねね) 両碑存す

          (上平声「十三元」の押韻)


<解説>

 浅野公園は、浅野長勝→長政…長勲(広島藩最後の殿様)が、大正二年に先祖ゆかりのこの地を買い上げて、一宮市の公園になったそうです。
 地元有志の協賛によって史跡保存会が結成され、その時に作られた長勲公の漢詩が二碑と長勝の養女(「祢祢」豊臣秀吉の正室北政所)の歌碑一基が建立されています。

 起句の下三字を「白紅繁」とするのは「紅白」を入れ替えて身勝手でしょうか。
 また、承句の「玉英」は「珠簾」では飛躍し過ぎでしょうか。

<感想>

 題名は「歌碑」は「詩碑」か「碑」だけ。語順は「(於)史跡淺野公園尋花看詩碑」ですね。

 起句の「苑」と承句の「園」は、意味としては同じですので勿体ないかな?。
 「園」は韻字ですので変更しないようにして、冒頭を「門墻」「牆頭」などに変更するのが良いでしょう。
 「紫紅」は「白紅」でも構いませんよ。「紅白」に特別な意味を持たせて熟語扱いするのは逆に日本語用法です。
「紫」は次の「藤」に使いたいですね。

 その承句は、「玉英」よりも「紫英」の方が具体性が出ます。
「珠簾」の場合、藤の花の形容を「簾」と見立てて比喩にしたい、という気持ちならば「珠簾」も面白いと思います。
 折衷して「紫簾」も良さそうです。

 結句は「長勲」や「禰禰」の呼び捨ても気になりますが、二人とも出す必要はあるでしょうか。
 どちらかに絞ることで行けば、「長勲」の方かと思いますので「長勲公」「藩公」と描くのが良いでしょうね。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第245作は桐山堂刈谷の 游山 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-245

  望紀州熊野丸山千枚田        

仲夏紀州晴日明   仲夏の紀州 晴日明らかなり

三山古道少人行   三山の古道 人の行くこと少(まれ)なり

停車坐愛千田圃   車を停めて 坐ろに愛す 千田圃

士女駢肩種稲粳   士女 駢肩して 稲粳を種(う)う

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 今回の詩は、十二年前に熊野古道、熊野三山を車で旅したことを思い出して創作しました。
 世界遺産熊野古道の峠を歩き、狭い車道を走り抜けると、日本最大の棚田、丸山千枚田(一三四〇枚)の最上部から一望する絶景が素晴らしかったことを表現してみました。

 起句に「紀州」の固有名詞を使いましたが、和語になりますでしょうか。
 結句の「駢肩」は「肩を駢(なら)べて」と訓読した方が分かりやすいでしょうか。

<感想>

 写真を見て思い出して、ということで、前半はやや現実感が乏しく説明的な感じがしますが、後半はしっかり描けていると思います。

 起句の「紀州」は地名としての使用ですので、問題無いです。
 「仲夏」ですと丁度今頃、これでも良いですが、「C夏」として下の「晴日明」と繋げるような形もあります。

 承句は「三山」ですと「少人行」の理由が分かりませんし、ただ説明しているだけになります。
「鬱蒼」とか情景を表す言葉が良いですね。

 転句は、「停車」があると古道まで車で走ったように感じます。
「忽看滿目千梯圃」くらいでしょうか。

 結句は「肩を駢べ」と訓読するのが良いです。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第246作は桐山堂刈谷の 游山 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-246

  梅雨感懷        

麥秋改序拷A深   麦秋 序改まりて 緑陰深し

庭上枇杷黃熟琛   庭上 枇杷 黄熟の琛(たま)

午下書窗蝸試篆   午下 書窓 蝸篆を試む

梅霖未歇鬱陶心   梅霖 未だ歇まず 鬱陶の心

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 起句と承句で外の情景を表現してから、転換して午後から書斎の中での叙情を述べて感懷としました。
 「陰深」は冒韻になりますか。

<感想>

 起句は「改序」ですと「序を改めて」となります。
 平仄的にも意味的にもどちらでも良いですね。
 ここが冒韻になるかと言うと、「陰」と「深」は分の構造上では別々のもの、独立した単語同士ですので冒韻になります。
 避けるならば「穀セ沈」(これは畳語ですので冒韻にはなりません)。

 転句は下三字、カタツムリが篆書のような跡を残すのは問題ないですが、「書窗」となっていますので、カタツムリは室内を歩いていることになります。
 作者自身のことでしょうから、ここは挟み平で「試蝸篆」としておくと「私が書を愉しんでいる」となりますね。
 後半の意味としては「午後から書に取り組んでみたが、長雨で心は晴れないままだ」ということになります。
 これで良ければ結句もこのままで良いですね。
 もう少し明るくしたいなら結句の下三字の「心」の内容を色々試してみても良いですね。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第247作は桐山堂刈谷の 游山 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-247

  尋田圃野菜遭雷雨        

火雲閃閃迅雷轟   火雲 閃閃 迅雷轟き

白雨疾風溝澮盈   白雨 疾風 溝澮盈(み)つ

一旦休農忽天變   一旦農を休すれば 忽ち天変ず

中空萬丈彩虹横   中空 万丈 彩虹横たはる

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 去る六月二十八日の午後、夏野菜の収穫中、突然の稲光りと落雷、疾風と玉の雨に襲われ、恐怖の十分間。
 物かげに避難して時の過ぎるのを待つ間に、畝の間は全て側溝になる。
 休憩している間に遠雷となり、忽ち天は一変して大空には非常に長くて美しい虹がたなびいた。
 「待てば甘露の日和あり」でしょうか。

<感想>

 これは「待てば甘露…」どころではなく、無事で良かったですね、という話じゃないですか。
 最近は天候の変化が激甚で、降れば記録的な豪雨ですので、危険が常に身近にある状態、気を付けてください。

 前半は迫り来る雷雲、地を叩く雨、側溝から溢れる水、緊迫感が感じられます。

 転句は「一旦休農」はノンビリした印象、「寸刻避回潜野屋」としておいて、結句で「中空忽看彩虹横」とすれば全体の流れもよくなります。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第248作は桐山堂刈谷の 游山 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-248

  七夕愛惜        

西郊日暮獨逍遙   西郊 日暮 独り逍遥す

織女牽牛渡鵲橋   織女牽牛 鵲橋を渡る

天地願望銀漢下   天地 願望 銀漢の下(もと)

玄宗楊貴話良宵   玄宗 楊貴 良宵に話す

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 秋の気配を感じる日暮れ時に、独りあっちこっちを眺めながら歩いていると、夜空で織女星と牽牛星が烏鵲橋を渡る逢瀬が思い浮かぶ。
 また、『長恨歌』の「七月七日長生殿」以下を兼ね合わせてみました。

<感想>

 『長恨歌』のご指摘の部分を読むと、唐のあの時代には七夕の日、乞巧奠が行われていて、願い事を星に託したことが分かりますね。
 そのことを含めて、転句の「天地願望」でしょうね。
 ここはよくわからない部分もありますが、天上では織女牽牛が無事な逢瀬を祈り、地上では人間(例えば玄宗と楊貴妃)が永遠の愛を願う、ということで、
 結句に繋げようという狙いですかね。
 ただ、「銀漢下」と限定すると、「天地」の「天」が苦しくなります。「天上人間多宿望」

 結句は「玄宗楊貴」と名前を出すと、もう承句で「織女牽牛」と二人分出ていますので、人名で八文字は多過ぎます。
 人物名でなくても、「長生殿裏」でも行けると思います。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第249作は桐山堂刈谷の 容将 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-249

  麥秋田家        

杜宇嚶鳴舞上檐   杜宇 嚶鳴 上檐に舞ふ

秧歌到處氣炎炎   秧歌 到る処 気炎炎

暫時佇立觀農稼   暫時 佇立して 農稼を観れば

忽變青田喜色添   忽ち青田に変じて 喜色添ふ

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 南方から時鳥飛来を合図に田植えが始まる風習がある。

<感想>

 起句の「嚶鳴」は「鳥が仲良く鳴く」ことですので、ホトトギスの鳴き声と合いますかね?
 私のイメージが「啼いて血を吐く」に偏っているからでしょうか。
 もう一つは「舞上檐」、これは燕を連想してしまうのですが、どうでしょう。
 お書きになった「田植えの合図」ということで行けば、「號」で「人に呼びかける」の意味が良いかと思います。中二字も合わせるなら「高啼」など。

 承句は「處處」として「あっちでもこっちでも」とした方が臨場感が出ると思います。

 後半は、田植えがあっという間に進んで行く様子ですね。
「暫時」という時間を表す言葉と「忽變」が同じような意味合いです。
 役割としては「忽變」の方が重要ですので、転句の方を換えましょう。「扶筇」とか「行人」で行けると思います。

 結句は良いですね。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第250作は桐山堂刈谷の 容将 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-250

  入梅        

竟日冥濛烟雨深   竟日 冥濛 煙雨深し

苑池聊浪濕衣襟   苑池 聊浪 衣襟を湿ふ

漂漂微臭栗花落   漂漂たる微臭 栗花落つ

競麗四葩朋盍簪   麗を競ふ 四葩 朋盍簪

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 名古屋市緑区の大高緑地公園を散策。
 「栗花落」とは、「梅雨」の言葉が伝わる前の、梅雨の時期を表す言葉だそうです。

<感想>

 「竟日」は「一日中」、「竟夕」ならば「一晩中」という用法もあります。
 ついでに「聊浪」は「ぶらぶら歩く」、「盍簪」は「友人を集める」で、漢字だけ見ると意味を間違えそうですが、よく勉強されてますね。

 前半は、雨の中を散歩する作者が背景と一緒に目に映ります。
 転句からは一転、栗の花の香り、私も以前栗の花の香りを「鬱香」と書いたことがありますが、ムッとするような香りですね。
 丁度梅雨の頃に落花しますので、解説に書かれたように「梅雨入り」を表す言葉にもなっています。
 「臭」は本来は香り全般に使いましたが、現在では「嫌な香り」「くさい」という方に使いますね。
 栗の香りに用いるならば、「漂漂」ですと風に乗って高く舞い上がる感じがしますので、「漂搖」の方が垂れ籠めているようなイメージになると思います。

 結句の「四葩」は「アジサイ」の別名で、俳句の季語として使われていますが、漢詩では見ないですね。
 どうかな?「八仙花」が本来の名称ですので、「八仙」の方でどうですか。
 もう一つ、「競麗」ですが、転句に「花」を使いましたので、どうしても「栗の花」と「アジサイ」が「麗を競う」と読んでしまいます。
 でも「臭い香り」の、しかも「落ちた花」ですので、勝負にならない。
 そこで初めて、「アジサイ同士が競っている」となりますが、これは余分な手間がかかりますね。

 転句を「栗花微臭漂搖裏」とすれば栗花そのものは存在が小さくなって転結の流れは良くなります。
 でも、「梅雨入り」の意味も含めて「栗花落」を持ってきたのでしょうから、残したいですね。
 そうなると、場所を表す言葉の「水畔」「沢畔」で目線を動かすところでしょうかね。
 「競麗」が無くなりましたので、下三字を少し直して「嬌盍簪(嬌として盍簪)」「催盍簪(盍簪を催す)」が作者の意図に合うかと思います。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第251作は桐山堂刈谷の 容将 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-251

  七夕        

迎秋互祝心身健   秋を迎へて 互ひに祝す 心身の健なるを

斟酒倶欣五穀饒   酒を斟んで倶に欣ぶ 五穀饒(ゆた)かなるを

夜宴竹竿多宿願   夜宴の竹竿 宿願多し

雙星雲去會良宵   双星 雲去り 良宵に会す

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 今年の七夕は八月二十二日 。起句と承句は、短冊に書く願い。

<感想>

 踏み落としで前半を対句に持って行ったわけですね。
 ぴったり合わせるように、起句の「心身」を「一身」とすると良いですね。

 転句の「竹竿」は七夕飾りのものですね。このままなら「竹枝」の方が良いかな。
 結句の「雙星」に視線が流れるようにするなら、「竹竿上」と下に持ってくる形が考えられます。
「多願糸糸竹竿上」「今夕願糸多竹上」など。

 結句の「雲去」は、雨が降ると会えないわけですから必要な情報ですが、強いて言えば「良宵」で伝わりますね。
「銀漢」「C漢」と天の川を入れても面白いと思います。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第252作は桐山堂刈谷の 汀華 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-252

  麥秋田家        

未明膏雨小庭沾   未明の膏雨 小庭沾ふ

晴旭泠泠掲疎簾   晴旭 泠泠たり 疎簾を掲ぐ

杲杲麥風吹面快   杲杲たる麦風 面を吹きて快し

雪衣飄蕩碧山尖   雪衣 飄蕩 碧山の尖

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

「膏雨」: めぐみの雨  
「杲杲」: 日を浴びて輝くさま  
「泠泠」: 清く澄んださま

<感想>

 起句で雨の情景、「膏雨」ですのでそれなりの量(時間)降りますから、読者は今でもまだ雨は続いている、つまり「雨の庭」という画面を頭に浮かべます。
 それが、承句で急に「晴旭」と来ると、ちょっと違和感がありますね。
 ただ、転句からの遠景を考えると晴れてくれないと困りますので、例えば、雨を朝ではなく夜に降っていたという形で「夏初夜雨小庭沾」とするか、残念ですがいっそ雨をやめてしまうか、でしょう。

 承句は六字目の「疎」の平仄が違いますので、「簾」の修飾語を替えましょう。

 転句は「杲杲」ですが、これは光を形容する言葉ですので「風」を修飾しては変ですね。
 逆に承句の「泠泠」で苦労したのなら、そちらに持って行って「杲杲朝陽」でどうですか。

 転句に戻ると、「麥風」は「麦畑を吹き渡る」ですので、それがまた「吹面」では重複感があります。
 「麥浪泠風」と「泠」を使っても良いですね。

 結句は「雪衣」は「白い衣(を着た鳥)」で鷺などを表しますが、「雪」の字が季節に合わないので違和感があります。
 残念ですが、「白鷺」とそのまま言った方が良いので、「飄揚白鷺」としましょう。  再敲作も出して貰いました。

   麥秋田家(再敲作)    夏初夜雨小庭沾  未明の膏雨 小庭沾ふ
  杲杲朝陽掲素簾  杲杲たる朝陽  素簾を掲ぐ
  麥浪泠泠吹面快  麦浪 泠泠たり 面を吹きて快し
  飄揚白鷺碧山尖  飄揚たる白鷺 碧山の尖


 前半の時間変化、見直してみると、やはりやや強引な感じはしますね。
 もう一つは、「夜雨」と「朝陽」が同じ位置で並んでいるのも目立ちます。
 まずは「夜雨」と「朝陽」の横並びを解消して「夜來膏雨」。

 あるいは、横並びを逆に生かして、上四字を対にする形で「霏微夜雨」も考えられます。
「霏微」はどちらも「上平声五微」の字、つまり畳韻語ですので、隣の「杲杲」の畳語とも合うと思います。
 前半を対句にするのも面白いですが、それだと下三字も揃える必要がありますので、それは宿題にしましょう。

 転句は「麥浪泠泠」だけだと何が「吹面」のか分かりませんね。
 下三字を「風撫面」と主体を入れるとか、残念かもしれませんが「泠泠」を「泠風」とするなど、考えられます。

 結句は、「山頂を舞う」ということをあまり気にしなかったのですみません。
 「白鷺」ではそこまで飛ばないでしょうから、「飄揚」はそのままで中二字に「禽影」「雙鳥」の方が良いように思います。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第253作は桐山堂刈谷の 汀華 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-253

  梅雨感懷        

凄涼零雨拷A陰   凄涼たる零雨 緑陰陰たり

寂歴香臺獨此尋   寂歴(じゃくれき) 香台 独り此を尋ぬ

一樹四葩庭院奥   一樹の四葩 庭院の奥

繁英紫蕊淨人心   繁英 紫蕊 人心を浄くす

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

「零雨」: しとしとと降る雨
「香臺」: 寺  
「四葩」: あじさい

<感想>

 梅雨の雰囲気はよく出ていますね。

 起句の「凄涼」は「(痛いくらい)寂しい」という雰囲気を表す言葉ですので、次の「寂歴」と重なります。
 「冷たい」という方向に持って行きたいなら、「C涼」「冷涼」「泠泠」とか「霖霖」など。

 承句は下三字の「此」が邪魔ですね。
「孤客」とするのが意図に近いかと思いますが、「簷滴音」も面白いかな。

 結句は、ここに「凜」を入れるように考えて、転句を「紫蕊四葩」、結句は「凜然獨立」「凜然獨占」。
「淨人心」でも良いですが、もう少し時間をかけて下三字を考えてはどうですか。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第254作は桐山堂刈谷の 汀華 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-254

  七夕        

涼風銀漢夜迢迢   涼風 銀漢 夜迢迢

烏鵲成群架長橋   烏鵲 群を成し 長橋を架ける

牛女再逢纔一日   牛女 再逢 纔かに一日

開樽瓜果坐C宵   開樽 瓜果 清宵に坐す

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 毎年塾の子供たちと七夕飾りを作ります。
 以前は短冊に大きな夢、奇想天外な考えを書く子が多かったです。
 最近は身近で堅実なこと、家族の幸せを願う子が多いです。

 一生懸命考えて、丁寧に書いている姿を見ると心があたたかくなります。
 貴重な一夜、美しい星空の下、良き夜を過ごそうという気持ちで作りました。
 一字目が全て平字になってしまいました。

「銀漢」: 天の川  
「烏鵲」: カササギ

<感想>

 起句は秋の夜らしくて良いですね。

 承句は「長」の平仄、「ながい」だと平声、「そだつ」だと仄声、この場合は平声、「畫橋」ですかね。

 転句は「牛女」で牽牛と織女、「纔一日」は分かりますが、だから何なのか、というところが結句への流れになるのですが、やや弱いですね。
 解説に書かれたように「貴重な一夜だから」という応援の気持ちが出るようにしたいところ。
「慶此日」、「織女牽牛祈再會」、どうかなあ?

 結句の方を「献樽奠菜侍C宵(樽を献じ菜を奠し清宵に侍せん)」とひとまずして、転句の下三字をもう少し検討してみましょう。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第255作は桐山堂刈谷の 聖陽 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-255

  初夏偶成        

銜泥雙燕頡頏簷   泥を銜む 双燕 頡頏の簷

初夏梅霖国舌   初夏 梅霖 緑草繊たり

竹蔭幽居沖淡影   竹蔭 幽居 沖淡の影

尋香新蝶逐風添   香を尋す 新蝶 風を逐ひて添ふ

          (下平声「十四塩」の押韻)


<感想>

 初夏の雰囲気はよく出ていますね。

 起句ですが、「頡頏」は「上下に飛ぶ」姿ですが、これは田とか道の上を飛んでいるわけで、「簷」では不釣り合いですね。
 行ったり来たりするということで「往來簷」とすれば、親燕が巣作りや餌運びで何度も行き来する感じになりますね。

 承句は「梅霖」が画面を壊していますね、雨が必要でしょうか。
「閑庭」と場所を出しておくのが良いと思います。

 転句は「沖淡」が難しい言葉、「おだやかでさっぱりした雰囲気」ということのようですが、何の「影」なのでしょう。

 結句では「尋香」で蝶が来るのですが、花が見えないので悩みます。
 「香」が強い花を事前に出しておかないといけないでしょう。
 この時季ですと、「梔子」「薔薇」などが良いですかね。
 それとも、名前ははっきり出さずに「幽花」としてぼかす手もありますね。

 結句は「蝶」が主語になり、結局、「尋」「逐」「添」と三つのことをしている形になっていますが、煩わしいですね。
「爽風添」とすれば下三字が独立して落ち着きますし、意味的にも「蝶に風が添ふ」形で詩情が深まります。

 再敲作も出していただきました。

   初夏偶成(再敲作)
  銜泥雙燕往來簷  泥を銜む 双燕 往来の簷
  初夏閑庭国舌凵@ 初夏 閑庭 緑草繊たり
  竹蔭幽居沖淡影  竹蔭 幽居 沖淡の影
  薔薇新蝶爽風添  薔薇 新蝶 爽風に添ふ

 「閑庭」になって、初夏の趣が深まったように感じます。

 転句の末字の「影」ですが、何の影か、はっきりしません。
「叢竹幽居沖淡影」と竹の「影」とするか、「竹裏幽居沖淡午」と時刻を出すのもあります。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第256作は桐山堂刈谷の 聖陽 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-256

  梅雨感懷        

霑花細雨古池潯   花を霑す細雨 古池の潯(ほとり)

相喚蛙聲騒擾吟   相喚ぶ蛙声 騒擾(そうじょう)に吟ず

竹徑露穿苔蘚濕   竹径 露穿つ 苔蘚湿たり

雲迷雨後帶愁斟   雲は迷ふ 雨後 愁を帯びて斟む

          (下平声「十二侵」の押韻)


<感想>

 起句は「雨」と「花」と「古池」という取り合わせも自然で、良い句ですね。

 承句は「騒擾」が難しい言葉ですが、「擾」が「乱す・乱れる・わずらわしい」などの意味を持つ字ですので、「世間を擾乱する」というような大事件で使います。
 ここは、蛙の大合唱を大げさに表したものですが、面白いと思います。

 転句でまた植物が出て来て、画面が戻ったような感じがしますね。
 植物を使うなら承句と転句は入れ替えた方が変化が出ますし、「騒擾」と作者の気持ちも少し出たところで、結句に行くと良いでしょうね。

 結句は残念ですが、「雨」の字が起句と重複しています。
 また、雨が上がったということになると、「帶愁」が弱くなりますね。
 「帶愁」を生かすなら雨が続いているように、逆に雨上がりを言いたいなら「愁」ではない気持ちにするように考えてください。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第257作は桐山堂刈谷の 聖陽 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-257

  七夕        

光陰離思蕣花搖   光陰 離思 蕣花揺く

落日蟬聲天上遙   落日 蝉声 天上遥かなり

映月星河C露夜   映月 星河 清露の夜

紅絲綺樹任風飄   紅絲 綺樹 風の飄するに任す

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 漢詩の国中国と、七夕の意味合いの違いで、使いたい言葉の中、テーマが曖昧かもしれません。

<感想>

 起句は「光陰」がちょっと苦しいかな。
 「離思」は次の「蕣花」をアサガオ(牽牛花)ととれば、繋がりは分かります。
 ただ、アサガオだと見ると、次の「落日」、夕方まで引っ張るのは苦しくなります。
 起句は「蟬聲夏日蕣花搖」としてまず夏の景色を出し、承句で「離思一年天上遙」でまとまるでしょう。

 でも、この前半から転句で夜の場面に移るのはまだ苦しいでしょうから、転句から徐々に夜に進むような形で考えると良いですね。
 そうなると時間繋ぎ(?)で七夕の景色、つまり結句の内容を持ってきてはどうですかね。
 あまりうまくないですが、「符願紅絲迎節奠」のような形。

 結句は、最後を「宵」にする形で、露と星河(天漢)を入れると良いです。
 月は七夕では夜中に昇り始めるので、まだちょっと早いですね。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第258作は桐山堂刈谷の 鉃山 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-258

  初夏山村        

三春已盡燕窺簷   三春 已に尽き 燕簷を窺ふ

紫豆花開興更添   紫豆 花開いて 興更に添ふ

連日力耕農事急   連日 力耕 農事急なり

山村恰入夏初簾   山村 恰も入る 夏初の簾

          (下平声「十四塩」の押韻)


<感想>

 十分に「山村」の趣が出ていますので、「水村」にこだわらなくても良いですね。

 起句の「三春已盡」と「恰入夏初」が同じ意味ですので、ここが弱く感じます。
 春が終わり、夏が来たということを何から感じたのか、その具体的な事物で季節の変化を表すわけですので、季節を表す言葉が先行すると実景がぼやけてしまいますね。

 起句を直すなら上四字を「南風剪剪」、結句を直すなら下三字を「午風簾」でも良いですね。

 もう一点は、転句で農作業の話になりましたので田圃に居るようなイメージになります。
 そうなると最後の「簾」という室内の調度品が微妙になりますので、「淹」で「とどまル」「ひたス」ということで、「山村初夏翠煙淹」。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第259作は桐山堂刈谷の 鉃山 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-259

  秋夜吟        

西風瑟瑟夜寥寥   西風瑟瑟 夜寥寥

寒氣侵肌醉忽消   寒気 肌を侵し 酔忽ち消ゆ

織女牽牛相會否   織女 牽牛 相会ふや否や

仰天思友坐深宵   天を仰ぎ 友を思ひ 深宵に坐す

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

七夕をメインに書けませんでした。  彦星とたなばた姫の出会いは有るという。自分は友と・・・・、というそんなことを思い、作りました。

<感想>

 風が「サラサラ」と吹き、夜は静かに更けていく。
 この書き出しは秋の趣をしっかり出していますね。

 承句は「寒氣」まで言って良いかどうか、直接には出していませんが、七月七日ですのでまだ初秋。
「寒気侵肌」には一月くらいは早いので、「涼氣」くらいで抑えたいですね。

 転句は、この句だけで見れば問題無いですが、次の「思友」のことを考えると、「会えたかどうか」という気持ちよりも「きっと会ったはず」として、「私も必ず友に会おう」と流れると良いでしょう。

 この下三字は「今夕會(今夕会さん)」として、結句は「仰天」を「思友」に繋がる良い言葉を考えましょう。
「遙懷故友」とか「舊情憶友」「暫時想友」などが考えられますが、何か良い表現は無いでしょうかね。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第260作は桐山堂刈谷の 鉃山 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-260

  遊福島        

一日遊來福島ク   一日 来たり遊ぶ 福島の郷

城中夏景占C涼   城中 夏景 清涼を占める

沼湖如鏡磐梯寫   沼湖 鏡の如く 磐梯を写し

宿舘居心愁事忘   宿舘 居心よく 愁事忘る

          (下平声「七陽」の押韻)


<感想>

 起句の「遊來」はこのままなら「遊び来たる」です。
 でも、通常は「來遊」としますし、平仄的にも語順を替える必要はないですので、「來遊」でどうですか。

 承句は町中の様子で、転句は郊外、という流れでしょうが、町の様子が具体的に出ているわけではないので、必要かどうか。
 場面の転換も慌ただしく感じますので、こちらに「沼湖」を持ってきて、中二字は「夏景」では弱いので、「風渡」とか「水靜」などを考えましょう。
 ここで「夏」の字が消えましたので、起句の「一日」を「初夏」「夏日」としましょう。

 転句はそうなると、下三字は「磐梯嶽」。上四字で磐梯山の姿を描くことにしたいです。
 というのも、全体に具体的な景色の描写が無く、説明文のような感じがするからです。
 あるいは「逗宿磐梯麓」として、宿のことをここで出してしまうのもあるかと思います。

 結句は「居心」ではなく、旅館がどうなのか、を書きたいですね。
 王維の「客舎」ではありませんが、「愁事」を忘れさせてくれる要素が欲しいわけです。
 「客舎閑閑世事忘」が面白いかな、と思いますが、まずは転句から、後半を練ってみてください。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第261作は桐山堂刈谷の 岑芳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-261

  初夏水村        

入夏梅天舊燕歸   入夏し 梅天 旧燕帰る

南梔J露有微波   南薫 雨露 有微波つ

沙場習習晩涼時   沙場 習習として 晩涼時

暖氣蟬休日漸過   暖気 蝉休み 日漸過なり

          (下平声「五歌」の押韻)


<感想>

 「初夏」と「梅天」は時季が違い、梅雨のどんよりした空というイメージではないですから、逆の「晴天」が良いです。

 起句は韻を合わせたいので「下平声五歌」で探すと「娑」が「舞う、ひるがえる」という意味、「歸燕娑」としましょう。

 承句の「南栫vは「南からの夏の風」、これは良いですが、次の「雨露」、下の「有微波」は画面が合いませんね。

 転句の「習習」は「風がそよそよと吹く」ことですので、これを中二字に入れ、下三字は「透輕羅(軽羅を透す)」。
 転句は「沙場」がどこから出て来たのか、これは「沙漠」の意味です。
 「沙汀」として川沿の渚を出し、中二字で「水」、下三字は末字を仄字にするようにして、「淙淙到」。

 結句の「暖氣」は初夏ではおかしいのと、「蟬」も早過ぎるので、「滿目C涼」としておきましょう。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第262作は桐山堂刈谷の 岑芳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-262

  梅雨感懷        

雨後黄昏晩露深   雨後 黄昏 晩露深し

南風夏木桂花陰   南風 夏木 桂花の陰あり

蟬啼暑日登山寺   蝉が啼く 暑日に 山寺に登る

碧殿經聲鐘磐音   碧殿に 経声 鍾磐の音あり

          (下平声「十二侵」の押韻)


<感想>

 承句の「桂花」ですが、これはモクセイで秋に香りを発しますので、「夏木」の下に来てはおかしいですね。
 また、時間帯ですが、起句では「黄昏」「晩露」で夕方を表していますが、承句以降は昼間の景色としか読めませんね。
 また、題名の「梅雨」があっさりと「雨後」で片付けられ、その後に関わりが出てこないのも問題です。

 直接的に雨の情景を詠まなければならないわけではありませんが、「ああ、梅雨の時期の景色だな」と思えるようにしないといけません。
 言葉や素材の選択の段階で、題名を意識すると良いですよ。
 ということですが、この詩を「梅雨」と持って行こうとすると承句以降を全部直す必要が出てきます。
 反対に承句以降を中心にして、題名は課題からは外れますが、「夏日山行」としちゃいましょう。
 内容的には、暑い夏の一日、山寺に行ったということになります。

 起句はそうなると朝の場面にして、雨上がりの爽やかな様子にしましょう。
「殘夜雨過朝露深(残夜の雨過ぎ 朝露深し)」で、「殘夜」は「明け方、夜明け」のことです。

 承句は「桂花」を替えますが、「夏木」がありますので、別の花や木を出すよりも「夏木」を詳しく述べた方が良いでしょうから、「夏木作輕陰」「夏木拷A陰」という感じで、「陰陰」は「ジワーと一面おおう」という意味です。

 転句は「暑日」とするのは早いので、「一日」。

 結句は六字目の「磐」が違っていましたね。よく似ていますが、「磐(バン)」は岩の意味で平声、「磬(ケイ)」は楽器の意味で仄声ですので、「磬」でないと話が合いません。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第263作は桐山堂刈谷の 岑芳 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-263

  七夕        

白露秋懷夜寂寥   白露 秋憶ひ 夜寂寥なり

雲山沓嶂望迢迢   雲山 沓嶂にして 望迢迢たり

汀煙靜渚南回雁   汀煙にして 静渚 南回の雁

雨絶波澄影動搖   雨絶え 波澄で 影動揺る

          (下平声「二蕭」の押韻)


<感想>

 起句の「白露」は現在の九月初旬、七夕には少し遅いですね。詩題が明確ですので、「白露」は使えません。「露」だけ残して「草露」とすれば良いです。 「秋懷」は読み下しが「秋憶い」になっています。「秋懐」とそのまま音読みし、「秋の思い」としましょう。  次の「夜寂寥」はこの句だけなら問題無いし、よく使われる言葉ですが、この詩では他の句と並べると、「夜」ではどうか。遠くの景色や飛ぶ雁が見えるわけですので、ここは「轉寂寥」としておきましょう。  承句は「沓嶂」が難しい言葉ですが「重なる峰」ということですね。  転句は「煙汀靜渚」とした方が対応が良いです。  結句は「雨絶」ということですと、それまで雨が降っていたことになります。転句までを雨の景にするよりも、この「雨絶」をやめた方が良いでしょうね。「風渡波燈影動搖」ならば画面は乱れてはいないでしょう。  さて、見直してみると、それぞれの言葉は食い違うようなものはそれほど無く、全体の統一感はあるのですが、肝心の「七夕」が出ていないことに気付きます。どこかの句に「天河」とか「織女牽牛」などの語を入れられれば何とかなりますが、まあ、今回の場合ですと、詩題を「秋日」とか「秋夜」として、時間的な食い違いを解消するようにするのが良いでしょうね。  再度「七夕」で推敲するか、「秋夜」で見直すか、どちらかで再提出してください。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第264作は桐山堂刈谷の 梗艸 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-264

  初夏田家        

桾理鞄ョ藤花簾   薫風 揺動する 藤花の簾

雙燕乘香戻屋檐   双燕 香に乗り 屋檐に戻る

鮮国コ邊田滿水   鮮緑 村辺の田は水満つ

目前樂景歳時占   目前の景を楽しみ 歳時を占ふ

          (下平声「十四塩」の押韻)


<感想>

 題名につきましては、「水村」は合わないし、「麥秋」も内容としては足りないので、合わせ技で「初夏田家」としておきました。

 起句の「藤」は平声ですので、ここは「下三平」になっています。
 ひとまず「紫花」として、「藤」だということをはっきりさせたいならば中二字に「藤苑」とか「藤架」と入れる形ですね。

 承句は「燕が香に乗じて」という表現が面白いですね。

 転句は「鮮香vだと木だとか草が緑ということを示す必要があります。季節を表す「新香vにしておけば落ち着きます。

 結句はちょっと疲れが出て来た感じですかね、「眼前佳景」とすれば、下の「歳時占」へと繋がるとは思います。
 ただ、もう少し自分の気持ちが出た結びの方が詩の流れは良くなると思いますので、「もう一息」ですね。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第265作は桐山堂刈谷の 梗艸 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-265

  梅天散歩        

梅天散歩樂天涔   梅天 散歩 天涔(てんしん)を楽しむ

旁畑隱蛙芋葉陰   旁畑 蛙隠れる 芋葉の陰

打地雨音忘往事   地を打つ雨音 往事を忘れる

跳水回傘快童心   水跳 傘回す 童心快なり

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 雨の日の散歩。里芋の葉に落ちた雨がコロコロ転がるのを楽しみ、蛙がジーと見ている私に気付いて里芋の葉の陰に隠れる様子を楽しみ、
 帰り道は子どもの頃のように水を跳ねて傘を回して楽しんだという詩です。

<感想>

 雨の日でも歩けば楽しい出会いがあるということですね。
 流れがよく分かり、楽しんでいる作者の姿も目に浮かびます。

 起句の「天涔」は難しい言葉ですね。
「涔」は「みずたまり」「長雨」という意味ですので、「空からの雨」というところですかね。

 承句は「畑」は国字ですので使えません。「圃」が仄字で「田園」の意味ですので、そちらにしましょう。
 「隱蛙」は「蛙を隠す」「隠れる蛙」と読み、どちらも意味は通じますが「四字目の孤平」は直す必要があります。

 転句は「往事を忘れ」ては駄目で、思い出すようにしないと結句が生きて来ませんよ。

 結句の「跳水」は平仄が「○●」ですので、ひっくり返して「水跳」とすれば丁度反法に合います。
 足で水をバシャバシャと跳ねるとすると、やはり「跳水」の語順が良いですから、上四字を「傘遊跳水(傘の遊び 水を跳ねて)」となりますね。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第266作は桐山堂刈谷の 静巒 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-266

  梅雨光前寺        

杉樹煙霏衝雨尋   杉樹 煙霏 雨を衝きて尋ぬ

聳然高塔歳時深   聳然(しょうぜん) 高塔 歳時深し

垣間淨蘚放微晃   垣間の浄蘚 微晃を放つ

照千一隅傳教心   一隅を照らす 伝教の心

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 雨の中、駒ヶ根の光前寺を訪ねました。石垣の中にかすかに光る光苔。最澄の言葉を思い出しました。

<感想>

 駒ヶ根の光前寺には私も何度か行って、光苔も見ました。厳かな趣の寺だっとと覚えています。

 起句は「煙霏」の「衝雨尋」の繋がりは分かりますが、「杉樹」を尋ねたわけではないですから、上二字が浮いていますね。
 尋ねた場所が欲しいですので、最初に「寺塔」とし「聳然」でも「煙霏」でも次は良いでしょう。

 承句の方に杉を持ってきて「鬱蒼杉樹歳時深」で、流れは良くなると思います。

 転句は「垣間」より「石間」「石中」とか、「淨苔垣石」ですかね。
 結句は「照千一隅」と「千」の字が本来入るのだと初めて知りました。
 「千を照らすのは一隅」ということで、勉強になりました。ただ、「千」は平声ですので、平仄が合わないのが困りました。
 「照千一隅」は最澄の言葉として(言わば固有名詞扱いで)このまま頑張っちゃうことも出来ないわけではありませんが、「千」が入る言い方が一般的ではないので、多くの人は違和感の方が強いかもしれません。
 平仄を合わせるとすると上四字を「是照一隅」「憶照一隅」のように一字上に置く形とか、「照」は削って「一隅」だけで伝える(例えば「正看一隅」)ような形でしょうね。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第267作は桐山堂刈谷の 小圃 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-267

  七夕彫        

雨過庭際願絲彫   雨過 庭際 願絲挑る

短冊蒼茫葉竹飄   短冊 蒼茫に葉竹と飄る

仰見九天銀河淡   仰ぎ見る 九天 銀河淡し

二星相喚C漢橋   二星 相喚ぶ 清漢の橋

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 起句で色々考え過ぎ、分けが分からなくなりました。保育園児の様子をどう表現したら良いか。
 句の頭も仄字でそろってしまいました。

<感想>

 起句は「彫」は「かざる」と読みますが、意味的には「削って装飾する」というのが字義。
 読み下しのように「挑」が良いですかね。
 題名も「七夕」だけで良いでしょう。

 承句の「短冊」は和習です。
 その下の「蒼茫」は空を表しているでしょうね。
 ただ、ここで空に視線を持って行くのは転句からの話がぼやけますので、「五彩箋符葉竹飄」としておくのが良いでしょう。

 転句は「蒼茫」を中二字に持ってきて、下三字は「河漢淡」として平仄を合わせておきましょう。

 結句も平仄が合いませんので、「鵲懸橋」でどうでしょう。

 句頭が平字あるいは仄字で揃ってしまった場合(「平頭」)は、どれかの句で解消はできます。
 この場合でしたら、結句の「二星」を「雙星」とすれば大丈夫です。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第268作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-268

  麥秋田家        

雨過西疇麥黃纖   雨過ぐ 西疇 麦黄繊(こまやか)なり

人多笑語稔年添   人多く 笑語 稔年を添ふ

紫藤搖曳閑蝶翅   紫藤 揺曳 蝶翅閑かに

莫恨爲農霜雪髯   恨むこと莫かれ 農と為りて霜雪の髯(ひげ)

          (下平声「十四塩」の押韻)

<感想>

 それぞれの字の平仄は良いですが、起句と転句は「二六対」が崩れていますね。
 起句は「黃麥纖」と並べれば平仄は合いますが、黄色く熟した麦が「繊」というのはどうなのでしょう。
 韻字があまり多くはないので探しにくいですが、この場合でしたら「淹」(おおフ)が良いでしょう。

 承句は語順が逆で「多人」と書いて「人多く」と読みます。
 ただ、多いのは下の「笑語」だとすれば、「人 笑語多くして」と読み下した方が内容と合うでしょうね。
 ここは「添」が不明瞭です。
 「願」「希」あたりが良いですが、韻字には無いので、「占」(うらなフ)「瞻」(みル)で。

 転句は藤の花が揺れているという場面、下三字は「蝶」だけでは寂しいので、「誘蜂蝶」。

 結句は「莫かれ」とするよりも、「不」「無」と自分の気持ちとはっきりさせた方が良いでしょうね。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第269作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-269

  孫子初夏遊水村        

田泥深處歩留連   田泥 深き処 歩留連す

孫子如雷號叫邊   孫子 雷の如く号叫の辺

點滴流輳澆數畝   点滴 流輳 数畝に澆(そそ)ぐ

粒禾寶愛不論錢   粒禾 宝愛 銭を論ぜず

          (下平声「一先」の押韻)


<感想>

 転句の「輳」は「シン」とルビを付けていますが、それでしたら「轃」の方で、平声で意味は「車のすのこ、到着する」となります。
 書いてある「輳」は「あつまる」という意味ですが、読みは「ソウ」、これは仄声です。
 なので、ここは「輳」は使えません。四字目に「流」を入れれば落ち着きますので、「合流」「流流」「千流」などでどうですか。
 一滴一滴が流れ集まり数畝にそそぐ、これは視点としては面白いですが、あまり現実的な画像としては使い難いので、「點」とか「數」は邪魔ですね。
「滴滴合流澆畝畝」「滴滴萬流澆十畝」

 この後半は稲の大切さが描かれていて、まあ、ちょっと「不論錢」が俗っぽいですが、話としては分かります。
 このことと、前半のお孫さんの話は、田圃ということで共通なだけで、逆に言うとお孫さんはどうでも良いことになります。
 詩題は「孫子遊」ですから、結びにもう一度お孫さんを戻してあげましょう。

 あと、お孫さんが田圃に入るのは田植えを手伝うためですか。
 そのことを書かないと、子供が田圃に入って歩き回って騒いでいるとなりますし、そうなると後半も「孫にいじめられる田圃だが稲は宝だ」となります。
 「禾童雙寶」として「禾と童 双つながら宝」でどうですか。



2024. 1.30                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第270作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 七月までの作詩教室で提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-270

  初夏水村        

克庭陰避朱炎   緑樹 庭陰 朱炎を避く

風吹颯颯鐸聲添   風吹き 颯颯 鐸声添ふ

峰巒倒影映流水   峰巒 影を倒して 流水に映ず

一架垂藤香氣霑   一架 藤垂れ 香気霑(うるお)ふ

          (下平声「十四塩」の押韻)


<感想>

 「水村」という設定ですが、起句はどこの「庭陰」に入り込んでいるのでしょうか。
 風鈴の音も聞こえてくるようですからどこかのお寺さんを訪ねたというところでしょう。
 ここは六字目の「朱」が「二六対」が崩れていますので、直しましょう。

 承句は「吹」の字が「颯颯」を考えると無駄です。
 ここを「C風」とか「林風」「南風」とか、風についての情報が一字分加えることができ、この辺りが大事なところです。

 転句は山々の姿が「流水」に映りますかね、流れない池の水なら分かりますが、わざわざ「流」が入るとどうかな?
 また、この句だけ遠景で水辺ということですが、無理矢理「水村」に持って行った感があります。
 次の句ではもう庭の景色にもどるわけで、「緑樹の庭園」からの景色としては苦しいところ。
 いやいや、そういう景色のよく見えるお庭なのだ」ということでしたら、具体的な場所を題に入れるか、承句の「鐸聲」の代わりに「遠くを眺める」というような意味合いの言葉を入れたいですね。

 結句は「藤垂れ」ならば語順は主語述語の順で「藤垂」、現行ですと「垂れた藤」です。



2024. 1.30                  by 桐山人