2023年の投稿詩 第361作は桐山堂半田の F・K さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-361

  詠半田山車祭二        

金天風穩四隣C   金天 風穏やか 四隣清し

遊樂好機知己迎   遊楽の好機 知己迎ふ

市井山車三十一   市井の山車 三十一

會心美祿一詩成   会心の美禄 一詩成る

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 タイミング良く、友だちを誘ってゆっくりと楽しめました。
 スマホは便利です。

<感想>

 承句までは問題無いですね。
 転句は「市井」でも悪くは無いですが、単なる説明という感じ。
「絢爛山車(絢爛たる山車)」と集まった様子を表してはどうでしょう。

 結句の「美祿」はお酒の別称、「會心」と繋がると心から楽しんでいる気持ちが良く出て来ますね。
 ただ、こちらの詩も「一」の字が重複しています。そうですね、下三字は「醉詩成(酔へば詩成る)」としておけば良いと思います。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第362作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-362

  夏日        

流金鑠石待雷霆   流金 鑠石 雷霆を待つ

移動暗雲天宇暝   移動する 暗雲で 天宇は暝し

持傘逍遥多發汗   傘を持ち 逍遥 発汗多く

突然豪雨暫休停   突然 豪雨 暫く休停する

          (下平声「九青」の押韻)


<感想>

 夏の日の一コマを切り取って描いたものですね。
 雨が降りそうな空模様だから傘を持って散歩に出て、急に降り出したから一休みした、ということですが、問題はどこに感動があるのか、ということですね。
 「すごい雨だった」「汗ぐっしょりで歩いたけど急に涼しくなった」「傘を持っていたから助かった」など、
 作者が心を動かした所がどこかにあったわけで、それを拾い出さないと単なる日記になってしまいます。
 全体の視点、内容をしっかり浮かび上がらせる工夫へと考えを進めていきましょう。

 前半でもう雷雨の気配がしっかり出ていて、傘まで持っているわけですので、「突然」はおかしいですね。

 転句の下三字、「汗」はここでは話がまた戻ってしまう逆効果、ここでもう雨を降らせましょう。「豪雨到」。

 そうなれば結句は「暫時休歩入旗亭」とややコミカルな終り方にして、作者の心情を表せますね。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第363作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-363

  肯尼亜旅行     ケニア旅行   

樹上樹間形宿奇   樹上の樹間で 奇(めずら)しい宿を形(あら)わす

階前塩水造営池   階前に 塩水の 池を造営する

自床窓外平原見   床(寝台)より 窓外の 平原を見る

動物悠悠食草移   動物 悠悠 草を食べ移る

          (上平声「四支」の押韻)


<感想>

 起句の「樹上」と「樹間」は違いがありますか。同じことならば繰り返す効果は疑問です。
 下三字は難解ですので、「樹上宿坊形甚奇」ということでどうでしょうね。

 承句は「階」は「堂に登る階段」ですので「樹上の宿」と合うのか、階段だけが立派だったのでしょうか。
 合いそうなのは「梯」ですか。宿がどうなっていたのか、結局、「奇」である内容は分かりませんね。

 結句は「動物」ではなく「獣」の字を使うべきですね。「群獣」が合うと思います。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第364作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-364

  坐右銘        

無名無學尚無金   名無し 学無し 尚金無し

論説堂堂盡赤心   論説 堂堂 赤心を尽す

偏坐右銘唯努力   偏(ひと)へに坐し 右銘は 唯努力

蘭摧玉折願方今   蘭摧(らんさい) 玉折(ぎょくせつ) 方今願ふ

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 結句の四字熟語をみつけ、辞書なしで出来た作品。
 なんとなく、感激して、、一題追加しました。

<感想>

 結句の「蘭摧玉折」は「美貌や能力のある人が夭逝する」意味だと思いますが、下の「願方今」とは合致しないので違う意味がありますか。

 前半は、ご本人のことを表しているのでしょうね。
「論説」が具体的にどのようなことを意味しているのか分かりませんが、人に憚らずに素直な思いを述べるということで、理解出来ます。

 転句は、先に用字のことで言えば、「偏」と「唯」は意味が重複していますのでどちらかで。
 「坐」は動作としては「坐」、名詞として「坐る場所」でしたら「座」と考えて、一律に「坐」としないように。
 ここは「座右銘」でないといけません。作者のことを表していると考えて、日頃から「努力」という言葉を大切にしている、と読めます。

 さて、結句となると、自分のことを「蘭」や「玉」に例えることはできませんので、これまでのことは誰か他の人の話だったのかと考え直して、
でも、最後は「若死にを今は願う」となると物騒なことになるし、この四字熟語は他の部分と噛み合っていないように感じます。
 他の所はとても良いと思いますので、この四字熟語の部分に別の言葉を入れてみてはどうでしょうか。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第365作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-365

  水害        

飛砂走石午時通   砂を飛し 石を走らせる 午時に通る

氾濫河川被害窮   氾濫する 河川 被害窮まる

不見稻苗滿泥水   稲苗 不見 泥水満る

減収秋穫老翁对   減収 秋穫 老翁对(うれ)ふ

          (上平声「一東」の押韻)


<感想>

 今年も各地で水害が起きましたね。
 台風直撃だけではなく、台風周辺の雨雲が発達して線状降水帯が発生、という状況が多かったように思います。
 そんな状況を記録したものですね。

 起句は、主語が無いので、何が「通」ったのか、分かりません。
 となると、句としては「飛ぶ砂と走る石が お昼に通過して行った」となってしまいます。
 砂や石の所在が分かるように下三字は「濁流洪(みず)」、承句で「豪雨窮」とすると話がまとまるでしょう。

 転句は、「不見」ですと下三字と同じ内容になります。
「屋舍稲田泥水冒(屋舍 稲田 泥水冒す)」ですかね。

 結句は「何如秋穫」とし、「老翁」は「老農」の方が嘆きの理由がはっきり出ますね。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第366作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-366

  思子産宰相        

中原晋楚挟豪強   中原の 晋と楚の豪強に挟まる

小鄭修交向背常   小鄭の修交は 向背常なり

子産国家稽暴挙   子産は 国家の 暴挙を稽(ひき)とめるため

定成文法拒衰亡   成文法を定め 衰亡を拒ぐ

          (下平声「七陽」の押韻)


<感想>

 春秋時代の鄭の国の名宰相、子産をテーマにした詩ですね。

 起句で描かれたように、「晋」と「楚」の強国に挟まれた小国を守り抜いた子産、法治主義による国家の存続を果たした功績をしっかりと描かれていると思います。
 起句は「中原の晋楚が強豪を挟む」となります。
 目的語と述語の配置が難しいですね。「晋楚」を主語にして「正豪強」「兩豪強」とするのが良いですね。

 承句はこれで良いですね。

 転句はまた長い目的語の間に述語を入れてしまって、「国家が暴挙を稽る」という意味になってしまってます。
 上四字も「子産の国家」と読まれてしまいます。
 「暴挙」は当時の鄭の国情が不安定だったことを表したわけで、よくお調べになっていますね。
 その辺りをうまく表現できると良いですね。「子産先安内憂事(子産先づ安んず内憂の事)」ではどうか。

 結句は、「防」としたい所ですが、平仄が合わなかったのでしょうね。
「拒」も「ふせぐ」と読みますが、「こばむ」と読みそうで意味が今一弱くなります。
「久存亡(存亡を久しくす)」。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第367作は桐山堂半田の 向岳 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-367

  恩師        

壮年会社尽心真   壮年 会社で 真の心を尽す

退職楽団頭首身   退職して 楽団の 頭首の身

萍水相逢不知我   萍水 相逢も 我を知らず

高齢衰老健忘頻   高齢 衰老 健忘頻なり

          (上平声「十一真」の押韻)


<感想>

 前半で、在職中と退職後の姿を対比させ、「ばったりと出会った」という意味の四字熟語「萍水相逢」が効果的です。
 最後は「高齢だから」と思いやる形でしょうか。
 ちょっと寂しい気持ちが感じられますね。

 起句の「会社」というのは和製漢語です。
「奉職」が良いですが、承句の「退職」で「職」を避けたのでしょうが、承句の方が変更しやすいと思います。
 この下三字については、読み下しのようなお積もりでしたら、語順が違います。
「心を尽くして真なり」「尽心真なり」と読めば、意味と語順は一致します。

 承句は「爾後」で「その後」という意味の言葉もありますし、「帰老」という「年老いて退職する」という言葉もあります。

 転句は「知」では結句に繋がりませんので、「不認我」。下三連を避けて「無認我」。

 結句で「自分も同じだが」という感じを出すと、寂しさと共に諧謔味も加わります。
「相知重老健忘頻(相知る 年を重ぬれば健忘頻りなるを)」「高齢共見健忘頻」でどうでしょうね。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第368作は桐山堂半田の 聲希 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-368

  雲        

爲雨爲煙來載風   雨と為り煙と為って 風に載りて来る

濕坤蒸化返蒼穹   坤を湿(うるお)し蒸化して 蒼穹に返る

自由變幻廻天地   自由変幻 天地を廻り

育萬物生擔大功   万物の生を育むべし 大功を担ふ

          (上平声「一東」の押韻)


<解説>

 雲は雨や煙になって風に載って地上に来て 
 大地を潤おし蒸気になって大空に返る
 形を自由変幻に変え、天地を廻り 
 地上の万物の生を育むという大功を担っている

<感想>

 雲の姿や働きを多角的に捉えようという意図ですね。
 ただ、順番に見ると、起句は「雲の変化」、承句は「雲の働き」、転句は「雲の変化」、結句は「雲の働き」ということです。
 承句と転句を入れ替えることが出来れば、その方が流れが自然です。韻を合わせれば落ち着きますね。
 用語の点では、起句の「來載風」はこの語順ですと「来たりて風に載る」です。

 承句は「自由變幻繞蒼穹」として、転句は「濕坤蒸化」ですが、下の「廻天地」は承句と同じことになりますので、何か別の言葉が良いでしょうね。

 結句は語順が読みづらいです。「萬物育成」で十分でしょうね。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第369作は桐山堂半田の 聲希 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-369

  避灼熱漫歩夕時        

白日坐居詩作專   白日居に坐し 詩作に専(ふけ)る

夕時漫歩近郊邊   夕時に漫歩す 近郊の辺(ほとり)

遥望西嶺落陽景   遥かに望む西嶺 落陽の景

返照彩雲紅美天   返照雲を彩り 紅美の天たり

          (下平声「一先」の押韻)


<解説>

 暑い日中は家で専ら詩作に耽って
 夕時に近郊を散歩した
 遥かに西嶺を望むと丁度陽が沈んでいくのが見え
 夕焼けにより雲が赤く染まって、とても美しい光景だ。


<感想>

 こちらは素直に場面が展開していて、一緒に歩いているような気持ちになります。

 起句の下三字の「詩作專」は「詩作専らにす」と読みます。
 承句転句とも問題無いですね。

 結句は「紅美」が面白くないですね。
「紅艷」のようにすると、意味が深まるでしょう。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第370作は桐山堂半田の 聲希 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-370

  新秋偶感(一)        

夜來雷雨夢遊中   夜来の雷雨 夢遊の中(うち)

快感微涼早曉穹   快感 微涼 早暁の穹

絡緯蟬南野徑   絡緯 青蝉 南野の径

垂搖黃穗是秋風   垂揺の黄穂 是れ秋風

          (上平声「一東」の押韻)


<解説>

 昨夜の雷雨は夢を見ているような面持ちだった。
 一夜明けた今朝はそのためか少し涼しかった。
 コオロギやツクツクボウシが南の野道で鳴き、
 垂れて揺れる黄熟した稲穂 ああ 秋風だ。


<感想>

 分かりやすい詩になりましたね。

 承句の「快感」は表現がストレート過ぎますので、「已得(已に得たり)」くらいが良いでしょう。

 承句で気温、転句で音、そして結句では秋を目で見るという、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる」の境地ですね。

 結句の「是」は、詠嘆という形に解釈しましたが、「目で秋を知る」という形を出すなら「看」でも良いですね。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第371作は桐山堂半田の 聲希 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-371

  新秋偶感(二)        

林間攜杖樂禽遊   林間杖を携えて 禽遊を楽しむ

來渡枝枝交語周   来たりて 枝枝を渡り 語を交して周る

夕日青蟬聲韻響   夕日青蝉 聲韻の響き

是便應告夏期収   是 便わち応に告るべし 夏期の収(おわり)を

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 近くの丘陵へ散歩に行き林の鳥が遊ぶのを楽しむ
 枝から枝に飛渡りまた帰って言葉を交わしている
 夕方にはツクツクボウシの鳴く声が響き渡った。
 これはきっと夏の終わりを告げているのだと感じた。


<感想>

 起句の「樂禽遊」、楽しんでいるのは作者ですか、鳥ですか。
 モヤモヤとした感じですね。
 ここは作者とはっきりさせて「吟遊」「閑遊」とし、承句で「禽鳥枝枝」とすれば場面は保たれます。

 転句の下三字「聲韻響」はどれも同じことを表していますので、三つ並べるのはどうでしょうか。
 蝉の「聲(韻)(響)がどうだったのかを書くべきですね。
 また、ここで「音」を使うと、承句の「交語周」とぶつかってしまいます。
「蟬」を使うなら承句を、「鳥の声」を使うなら転句の素材を検討すべきですね。

 結句も「是」「便」「應」と虚字が並びますが、どれもあまり意味の無い強調の言葉ですので、感動が大きくなるよりもくどい感じですね。
 秋を教えてくれるものをもう少し拾い出してはどうでしょうね。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第372作は桐山堂半田の 聲希 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-372

  晩秋偶成(一)        

覺猶慵起晩秋天   覚むれども 猶ほ 起くるに慵(ものう)し 晩秋の天

開戸青空冷氣傳   戸を開くれば青空 冷気伝ふ

初見遙岑冠雪景   初めて見る 遥岑 冠雪の景

知冬不遠震吾身   冬遠からずを知り 吾身を震はす

          (下平声「一先」上平声「十一真」の押韻)


<解説>

 目が覚めても何となく、起きずにぐずぐずしている晩秋の或る日
 それでも起きて戸を開けると、真っ青に晴れていて、冷気が伝わって来た
 遠望すると雪が積もっている山が見えた
 (今年は暖かかったけれども)冬が近づいているのだなと感じ(寒いのは嫌な)我が身が震えた


<感想>

 起句の「猶慵起」は白居易の詩ですね。「日高睡足猶慵起」で始まる名詩でした。
 そして、白居易は簾を撥げて「香炉峰の雪」を看るという行動をしますが、こちらは御岳山でしょうかね。

 素材や構成はとても良いですが、韻字を間違えましたね。
 「天」「傳」は下平声一先韻ですが、「身」は上平声十一真韻ですので、これはいけません。
 どちらに揃えるかですが、基本的には結句に合わせるべきですね。

 起句の「天」は「晨」として、朝の景としましょう。この「天」はもともと承句に「青空」があるので、言葉の重複が感じられたものですので、丁度良いと思います。

 承句の末字は、韻字の中で探せば良いですが、「振(さかん)」「陳(つらなる)」「頻(しきり)」「彬(あきらか)」など色々ありそうですね。色々試してください。
 韻字が変わりましたので、承句の「青空」は「高天」とした方が秋の感じや「冷氣」への流れも良いでしょうね。

 転句の「初見」は「今年になって初めて」ということでしょうが、「御岳遙望」と山の名前を出した方がこの場合には実景の感じがよく出ると思います。
 下三字の「冠雪景」を「初看雪」とするのも良いでしょうね。

 結句は「遠」が転句の「遙」と意味の上で近いので、先ほどの「遙望」を「霊峰」とするか、「不遠」の方を「將近」とするか、どちらかで考えましょう。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第373作は桐山堂半田の 聲希 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-373

  晩秋偶成(二)        

十月下旬涼未漂   十月下旬 涼 未だ漂はず

薄衾半袖日常饒   薄衾半袖 日常饒し

夜來雷雨妨遊夢   夜来の雷雨 遊夢を妨げし

初見晩秋寒趣朝   初めて見る晩秋 寒趣の朝

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

 十月下旬だけれども、未だに涼しくならない。
 日頃、夜の掛布団は薄く、着るものも半袖が多い。
 昨夜寝ている時に、目が覚めるほどの雷雨があった。
 今朝は寒気があり、やっと晩秋らしい趣があった。


<感想>

 こちらの詩は、今年の異常な暑さを表したものですね。
「晩秋」とは名ばかりで、それこそ立冬の直前まで夏の暑さが続く天候、孫が最近、「今年は秋が無いね」とか「秋が無くなってしまう」と異常気象を語っています。

 前半は問題無く書かれていると思います。

 後半ですが、「夜來」ですと「夜中からずっと」、ちょっと「雷雨」には長いですかね。
 「殘宵」「五更」が良いかな。

 結句も「初」と直接的な表現よりも、同じことを言うわけですが、「忽見」「已遭」という側面からの表現が詩的になります。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第374作は桐山堂半田の 聲希 さんの作品です。
 作詩教室で八月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-374

  晩秋偶成(三)        

朔風強到誘寒流   朔風強く到り 寒流を誘ふ

須臾僻村釀晩秋   須臾にして僻村 晩秋を醸す

楓紅黃樹眞華麗   楓紅黄樹 真に華麗

凍身野老止觀遊   凍身の野老 観遊を止む

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 十一月中旬頃に、急に強い寒気が押し寄せた時のことを謳った

 北風が強く吹き出し、急に寒くなった。
 今まで秋らしさがなかった僻村が忽ち晩秋の雰囲気になった。
 楓の葉は赤く、銀杏が黄色く色好き本当に華麗な景色になった。
 かく言う私は寒さで凍えてしまい、楽しく見て歩くことができなくなった。


<感想>

 起句は良いですが、承句の「須臾」はどちらも平字。
 この句は二字目が仄字にならないといけませんので、「僻邑須臾醸晩秋(僻邑 須臾にして晩秋を醸す)」。

 転句も本来は二字目が仄字になるところ。拗体とも考えられますが、結句も平句なので転句の方を合わせましょう。
 「黃樹紅楓極華麗」と挟み平で行きましょう。

 ここまでは晩秋の紅葉の村里が描写されていますので、正直なお気持ちが出たのだと思いますが、最後まで風流に徹する方が良いです。
 「止」の一字を「楽」と替えるだけですっきりすると思います。



2024. 2.18                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第375作は桐山堂刈谷の 芳親 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-375

  雷雲        

碧天潑墨K雲來   碧天 溌墨 黒雲来たる

一陣狂風殷殷雷   一陣の狂風 殷殷の雷

閃閃滂沱喧似瀑   閃閃 滂沱 喧瀑に似たり

庭除洗暑午涼催   庭除 暑を洗ひ 午涼催す

          (上平声「十灰」の押韻)


<解説>

 蒸し暑い夏の午後、激しい雨を降らせる雷雲の様子を書きました。

<感想>

 起句の「涔墨」は比喩として面白いところ、良いですね。

 承句は「殷殷」は良く働いていますが、同じ流れで転句の「喧」はどうでしょう。どちらかで考えた方が良いですね。

 転句は「閃閃」の主体がありません。上四字で光を描いて、下三字で「雨滂沛」と雨の様子を描けば収まると思いますので、検討してください。

 結句は「洗暑」が余分で、と言うか、「午涼催」と同じですので、ここもどちらかで良いですね。「午涼」は良い言葉ですので中二字の検討ですかね。

「雷雲」という題に対して、こうして見るとちょっと雲の描写が少ないかな?
例えば、転句に「一陣狂風電光閃」とまとめると、承句でもう少し雲が描けて良い形になるでしょうね。

 起句を生かすように、検討してみましょう。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第376作は桐山堂刈谷の 芳親 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-376

  九月十三夜        

雨後中庭桂氣幽   雨後の中庭 桂気幽なり

無雲皎皎月光流   雲無く 皎皎 月光流る

芭蕉水滴虫聲好   芭蕉の水滴 虫声好し

滿地良宵詩思悠   満地 良宵 詩思悠なり

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 十月二十七日に、雨が上がり「後の月」を見る事ができました。仲秋の明月とは趣が異なり、しっとりと白い月でした。

<感想>

 私も同じ月を観ました。少し欠けていますが、大きくてきれいな月でしたね。

 起句は「桂氣」では少し遅過ぎませんか。ここはあまり余分なものは要りませんので、「秋氣」「夜氣」くらいで良いと思います。

 承句で月を出すのが良いかどうか、これは悩ましいところです。
 流れとしては、起句で「中庭」に目を向けていますので、「芭蕉」や「虫聲」も近い所に置いた方が無難と言えますね。
「芭蕉水滴草虫幽」として、起句の末字を「流」にしましょうか。

 転句は「散雲璧月光皎皎」という感じですかね。

 結句は「詩思悠」はちょっと安易に逃げましたね。せっかく伝統的な十三夜の月を愉しんでいるわけですから、どんな思いがしたのかをもっと書かなくてはいけません。
 例えばですが、「今夕良宵千古悠」とか。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第377作は桐山堂刈谷の 聖陽 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-377

  三嶺山行        

絶巓天籟曉葱蘢   絶巓 天籟 暁葱蘢(そうろう)

三嶺雲迎千變容   三嶺 雲は迎へ 千変の容

靉靆如屏秋未到   靉靆 屏の如し 秋未だ到らず

感時臨眺罩山峰   時に感じて 臨眺し 山峰を罩(かこ)む

          (上平声「二冬」の押韻)


<解説>

 大学時代、ワンダーフォーゲル部でした。四国険山三嶺縦走した時の雲を思い作りました。

<感想>

 全体のバランスで見ると、雲は良いですが、山々の描写がもう少し欲しいようには思います。

 起句の「葱蘢」は「草木が青青と茂ること」ですので、上が「天籟」ではちょっと食い違いますね。

 承句の「三嶺」を持ってきて、「絶巓三嶺曉葱蘢」ではどうですかね。
 承句は「縦走」で始めてはどうでしょうね。

 転句は下三字の「秋未到」が上四字と繋がらないので、もう少し雲のことを書いてはどうでしょう。

 結句はそうなると「早秋」で始めて、「天籟」と繋げる形でしょうね。
 最後を「罩」でなく「険」とか、「山峰」を表す言葉が良いですね。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第378作は桐山堂刈谷の 容将 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-378

  雲        

旱乾田圃迅雷轟   旱乾 田圃 迅雷轟く

甘雨沛然驅野縈   甘雨 沛然として 野を駆け縈(めぐ)る

坐待農人歌一曲   坐して待つ 農人 歌一曲

K雲水盡入新晴   黒雲 水尽き 新晴に入る

          (下平声「八庚」の押韻)


<感想>

 起句の「旱乾」は「日照りで枯れ上がった」ということ
 暑さで田圃も弱っているところに「迅雷轟」と来ますので、承句の「甘雨」が納得できる展開になっていて、画面をうまく構成されていますね。

 承句の「野」は起句の「田圃」よりも範囲を拡げたのでしょうか、「驅地」とした方が目の前という印象になります。

 転句は「坐待」ですと、雨宿りする場所が詩に出て来ませんので、農人が田圃でずぶ濡れになって坐っている感じです。
「避待」くらいが良いでしょう。

 結句は「忽盡」と時間を表した方が良いでしょうね。

 この詩は「雲」の課題に対してのものですが、肝心の雲の描写が少ないですね。
 承句か転句で一言有ると、「雲」の課題に合うと思いますので、一工夫してみてください。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第379作は桐山堂刈谷の 容将 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-379

  秋景        

濛濛曉靄立荒丘   濛濛たる暁靄 荒丘に立ち

霧盡天披白雁遊   霧尽き 天披き 白雁遊ぶ

百里金風禾穂稔   百里の金風 禾穂稔る

黃雲滿地一郊秋   黄雲 地に満ちて 一郊の秋

          (下平声「十一尤」の押韻)


<感想>

 承句以降の広々とした田園の描写に対して、起句が極端に異なっていて、この一句だけ浮いている感じです。
 時間の変化による景色の姿を表そうということでしょうね。
「曉靄」は良いですが、「濛濛」まで言う必要があるか、「丘に立つ」のも良いですが、「荒」となると後半の稔りがしぼんでしまいます。
 ということで、まず起句を「曉靄天披」で始めて、承句は作者のこととか、他の景色などを描くと良いかと思います。なお、「白雁」は「白鷺」の方が良いでしょうね。

 そうなると仄起式になりますので、後半も入れ替えて、「黃雲滿地垂禾穂」「百里金風一望秋」という感じですかね。

 全体で見ると、「白」「金」「黃」とちょっと色が目立ちますので、「黃雲」は「稲雲」の方が良いかな、と思います。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第380作は桐山堂刈谷の 容将 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-380

  冬至        

朔風街巷向錢湯   朔風の街巷 銭湯に向かふ

遺俗浴槽花柚香   遺俗の浴槽 花柚香し

歸舍團欒飧七種   帰舍 団欒 飧(そん)は七種

一窗月照夜方長   一窓 月は照らす 夜方に長し

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 冬至の七種 南京・れんこん・にんじん・ぎんなん・きんかん・かんてん・饂飩(うんどん)

<感想>

 「冬至七種」は全て名前に「ん」が二回入る食べ物で、「運」が身体に入るということ。となると、やっぱり冬の鍋ですね。
 急に寒くなり、スーパーに行っても、鍋材料やおでんの具などがやたらと並んでいて、湯気が恋しくなりますね。

 起句の「朔風」は北の風、冬を感じさせる言葉ですね。
「錢湯」は日本の言葉で、探しても良い言葉が見つかりませんので、そのまま「錢湯」としたのでしょうね。
 今回の詩は、全体に日本の文化風習ですので、このままで良いと思います。
 和語を修正するなら自宅のお風呂という設定に持って行く形でしょうね。

 承句の「遺俗」の「遺」は「のこす」「わすれる」の二つの意味があり、この「遺俗」も「昔からの風習をのこす」と「世俗を忘れる」と二通り、「いぞく」と音読みして区別をしています。
 この場合には、昔ながらの冬至の風景というところ、そうすると起句で書かれた「銭湯に行く」という表現自体も現代では少なくなりましたが、この風情を楽しむためだったかと納得できます。

 転句の「飧」は「夕食」がそのまま漢字になったもの。ここの「舍」はどちらかというと「旅館」の意味が強いので、作者がどこに居るのか、悩ませます。
 それほど強い意味が無いなら、「歸到」くらいが良いでしょう。
 逆に、冬至に温泉に行った時の詩だとするなら、題名にそれを入れた方が良いでしょうね。

 結句はちょっと寂しげな雰囲気がありますので、「一窗」を「暖窗」とするとか、「月」の形容を工夫してみると、団欒の温もりが出てくると思います。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第381作は桐山堂刈谷の 清井 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-381

  初夏水村        

初夏樹陰国舌   初夏 樹陰 緑草繊なり

雨餘晴日水村沾   雨余 晴日 水村沾す

驚心光彩如箭過   驚心 光彩 箭如過ぐ

翡鳥江潭振翼潛   翡鳥 江潭に翼振せ潜む

          (下平声「十四塩」の押韻)


<解説>

 近所の川辺を散歩していたら、カワセミに出会いました。

<感想>

 起句は「四字目の孤平」ですので、「国吹vを「草」にしましょうか。

 承句は分かりやすい表現になっていると思います。

 転句は六字目の「箭」は仄声なので、順番を替えて「過如箭」。
 これは時間の過ぎるのが矢のように速いという意味ですが、ここはカワセミの飛ぶ姿を「光彩」としたのかな?
 承句から転句への流れで行くと、先にカワセミが飛んでいる場所、この場合には「江潭」ですので、そこをまず示すようにすると、場面転換ができます。
 現行ですと、承句では「水村」と広い視野になっていますので、それを引きずって、村全体に光が差して驚くことが現れたように感じます。

 まず、転句を「驚心一影江潭上」として、川の上に視点を置き、種明かしを結句でするようにしましょう。
 そうですね、「翡鳥飛揚閃閃潜」とカワセミの様子を少し丁寧に書いても良いでしょう。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第382作は桐山堂刈谷の 清井 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-382

  晩秋郊村        

山門松老訪古宮   山門 松老 古宮を訪ぬ

層塔伽藍斜日中   層塔 伽藍 斜日の中

讀經聲止鐘聲響   読経 声止み 鐘声響く

流霜菊冷盡鳴虫   流霜 菊冷 鳴虫尽く

          (上平声「一東」の押韻)


<解説>

 田舎の古いお寺に行きました。国宝の多宝塔がありました。同じ意味の字が入りすぎたでしょうか。

<感想>

 起句は平仄が合いませんので、「古宮」を「禪宮」に。

 承句は「斜日」よりも「夕照」の方が合うでしょう。

 転句は「聲」の重複を効果的と考えるかどうか、ですね。
 この後に更に結句で「鳴虫」とまた音が来ますので、ここは別の物にしましょう。
 平仄の点でも四字目は平字、六字目は仄声になります。
「讀經聲幽霜氣滿(読経の声幽か 霜気満つ)」

 結句は「菊香C冷」として、最後の三字も音でない方が良いですかね。検討してみてください。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第383作は桐山堂刈谷の 鉃山 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-383

  以色列攻撃加沙地区        

電視頻傳慘状窮   電視 頻りに伝ふ 惨状窮まるを

加沙染血戰袍紅   加沙 血に染まる戦袍紅なり

潛身砲焔無辜庶   砲焔に身を潜む 無辜の庶(もろびと)

和議難成亂不終   和議 為し難く 乱終らず

          (上平声「一東」の押韻)


<感想>

 昨年はウクライナ、今年はパレスチナ(ガザ)の戦争報道に胸を傷めましたね。

 発端は中東で立ち位置を強化しつつあったイスラエルに対して、自分の存在を思い出させようと侵入してきたハマスの側にあるわけですが、「そっちがやったから仕返しをしてやるんだ」と言うイスラエルも同様で、こんな保育園児のような論理で生命の危機に遭わねばならない人々が気の毒でなりません。

 もっと振り返れば、イギリスの「三枚舌」政策や、イスラエルの建国にまで、あるいはユダヤの民の流浪にまで溯るのかもしれませんが、神聖な神の地で人を殺す戦争をする、そこが私にはまず信じられません。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第384作は桐山堂刈谷の 静巒 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-384

  聞二胡        

翠眉玉指綺羅嬌   翠眉 玉指 綺羅嬌ぶ

緩急琴聲雅曲調   緩急の琴声 雅曲の調べ

粲粲雙星C夜興   粲粲たる双星 清夜の興

銀河空下樂良宵   銀河の空の下 良宵を楽しむ

          (下平声「二蕭」の押韻)


<解説>

旧暦の七夕の夜、名古屋能楽堂の二胡のコンサートに行きました。転句へのつながりと結句が難しいです。

<感想>

 起句の「嬌」は何と読んでいるのでしょう、通常は音読みで「きょうたり」とします。

 承句の「調」は「ととのう」という動詞ならば下平声二蕭ですが、「音色」などの意味では仄声になります。
「饒」で「ゆたか」としておきましょう。
 前半はステージの様子が目と耳で描かれて分かりやすいですね。

 転句で急に七夕の話に持って行くのが苦しいところかもしれませんが、最後の「興」を「宴」とすれば、
 何か催しのある夜だと分かりますので、「雙星」の意味も具体性が出て来ます。

 結句は最後の「良宵」が「C夜」と重なる感じがします。名古屋ではあまり星も見えなかったかもしれませんが、
「滿天銀漢樂秋宵」と、単に季節を表すだけにしておくと重複感が弱くなりますね。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第385作は桐山堂刈谷の 汀華 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-385

  南紀海宿        

石磯旅宿海風涼   石磯(せきき)の旅宿 海風涼し

打岸濤聲響南洋   岸を打つ涛声 南洋に響く

浩浩滄溟天漸暮   浩浩たる滄溟 天漸く暮るる

客窗夕麗送斜陽   客窓 夕麗 斜陽を送る

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 この宿で見た夕日がこれまでで一番美しかったので詩にしました。

 「石磯」… 岩が突き出た海岸
 「滄溟」… 大海

<感想>

 よくまとまった詩になっています。
 ただ、承句の「南」の平仄が違います。「外洋」で合わせられますが、もう少し検討しても良いかもしれません。

 結句は「せきれい」と読んで「夕日の美しさ」を表します。良い言葉が入りましたね。

 あとは、どの句も仄字で始まっていますので、一句だけでも平字にして、変化を出しておくと良いですね。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第386作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-386

  樂四葩蕚        

季夏芳庭萬萬株   季夏の芳庭 万万の株

紫陽七變碧成朱   紫陽の七変 碧朱を成す

知初葩卉蕚爲集   初めて知る 葩卉(はき) 萼集りて為す

露濕光暉色愈娯   露湿ひ 光暉 色愈(ますま)す娯しむ

          (上平声「七虞」の押韻)


<解説>

 家内の趣味「花園」の四葩を見ていたら、「もっと萼を見てよ」のアドバイスに詠みました。

<感想>

 起句は「季夏」ですと「夏の終わり」ですが、アジサイならば梅雨の頃、「仲夏」の方が良くないですか。
 また、「萬萬」はちょっと多過ぎるようにも思いますが、形原温泉の「アジサイの里」は「五万株」だそうですから、まあ、あれくらいの広さの「芳庭」ならば良いかなと思います。

 承句は「碧は朱と成る」と読んだ方が良いですね。

 転句は上二字の語順が違います。連用修飾語(副詞)は述語の前に置くのが原則です。
 ここは平仄的にも逆で問題ありませんね。
 この下は「萼が集まって花となっている」ということでしょうね。その形で漢文にしていけば良いです。
「初知萼集爲葩卉(初めて知る 萼集まりて葩卉と為る)」とすれば分かりやすいです。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第387作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-387

  紫陽花七變化        

庭際秧新兩四株   庭際 新たに秧う 両四の株

珍奇純白有還無   珍奇 純白 有りや還た無しや

時來七變蕚虹色   時に来たる七変 萼虹色

代土替肥精彩娯   土を代へ 肥やしを替へ 精彩を娯しむ

          (上平声「七虞」の押韻)


<解説>

 紫陽花の白色と七変化を知り、詠みました。

<感想>

 起句の「秧新」も語順が逆です。副詞は述語の上、の原則です。
 下の「兩四株」はどう数えるのでしょうか、「四株が二つで八株」ということですか。漠然と「いくつか」ということなら「三四株」ですね。

 承句の下三字は「有るか無いか」ということですので、承句は「珍しい純白の花は有るかなぁ」ということでしょうね。

 転句は「時來」が分かりません。「來」が「看」なら「偶然見た」でちょっと分かりやすくなります。
 その下は「七變」を受けて「虹色」、ただ虹は七色とは限らず、国によって違いますので、直接に「七つの色」ということではなく、「沢山の色」くらいが良いでしょう。
 ちなみに、虹を七色と数えるのは日本の他に韓国、イタリア、オランダだそうです。
 六色は米英、五色は独仏中、ロシアは四色だそうです。
 日本で言えば「赤」から「紫」まで虹の色は無限にあるわけで、それをどこで「色分け」するかに違いが出たのは、文化や教育に因るものです。

 詩に戻りますと、結句ですが、肥料や土質を変えることで色の変化を出しているという苦労を述べたところ、
 うーん、それでしたら転句の「七變」をこちらに持ってきて「精彩」と交換した方がすっきりするかと思います。
 孤平を避けて「替肥」は「更肥(肥を更へ)」としておきましょう。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第388作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-388

  奥飛驒湯煙        

向奥飛驒憶往年   奥飛騨に向かひ 往年を憶ふ

危峰穹昊競鮮姸   危峰 穹昊 鮮妍を競ふ

水蒸滭沸源泉響   水蒸 滭沸(ひつふつ) 源泉の響き

醫體露天羇寓前   体を医(いや)す 露天 羇寓の前

          (下平声「一先」の押韻)


<解説>

 源泉まで歩を進め、一服中に句を案じました。

<感想>

 起句の「憶往年」は以前にも来たことがある、という意味合いでしょうか。
 奥飛騨に来たことと昔を想うことは直接には繋がりません。
 詩の中で、昔のこととか、時の流れなどが表れていれば良いですが、この詩では現在の景色しか出ていませんので、この下三字は直すべきでしょうね。

 承句の「競鮮姸」はよく使う言葉ですが、「危峰」と「穹昊」では共通して何を競うのか、「鮮姸」に当てはまるものがありません。
 峰にしろ、空にしろ、色を出すような形で考えるべきでしょうね。

 転句の「滭沸」は「沸き上がる」ことですので、温泉の湯が湧き出ているということで「源泉」の感じが出る言葉ですね。
 ただ、「水蒸」は言葉としては「水は蒸す」としか読めませんので、ここはおかしいですね。
「源泉滭沸」ならば分かりやすいですので、下三字を検討するのが良いですね。

 結句は「露天」だけでは足りず、「露天風呂」と書かないといけません。
 それだけを入れるのは無理ですので、露天風呂に入ったことは題名に入れて、丁度「湯煙」が俗っぽいので替えましょう。
 結句の方は「寛心」くらいで良いでしょう。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第389作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-389

  奥飛驒露天風呂        

驅車半日向飛驒   駆車 半日 飛騨に向かふ

ク土溫差十度涼   郷土 温差 十度涼し

被笠露天源泉馥   笠を被(おお)ひ 露天 源泉の馥(かお)り

胃腸功驗一杯湯   胃腸 効験 一杯の湯

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 露天風呂をまとめました。

<感想>

 起句の末字「彈」は、元々は「馬」という意味だったそうですね。
 この字は「下平声五歌」の韻目ですので押韻が合いません。平声ですので踏み落としにもなりません。
「飛驒路」としておくのが良いでしょう。

 承句は具体的な数字を出して作者の記録としては面白いですが、他の人には何度の差があろうと関係無い話ですので、
 そうした他人に詩を見せるつもりで、「この場所が涼しい」ということを表現するように再敲してください。

 転句は笠をかぶって露天風呂に入ったということですね。六字目が平字になったのは残念です。
「露天」は「露の降りる空」という意味で、「露天風呂」は和習の感じもありますので「野天」が安心ですね。

 結句は「胃腸」だけですと、温泉の効能を聞いているような感じで、詩の結びとしては疑問です。
「心身」ともに効果があると持って行くべきですね。



2024. 2.25                  by 桐山人
























 2023年の投稿詩 第390作は桐山堂刈谷の 孜堂 さんの作品です。
 作詩教室で8月以降に提出されたもので、その折の私の感想も添えました。

作品番号 2023-390

  馬鈴薯樂花        

三苗三樣異橢形   三苗 三様 楕形異なる

白蝶低迷漉t停   白蝶 低迷 緑葉に停まる

突兀白花如積素   突兀 白花 積素の如し

薫風帶C夏泠泠   薫風 清を帯び 夏泠泠たり

          (下平声「九青」の押韻)


<解説>

 馬鈴薯作業の感想です。
 「三苗」は三種類の芋の種。真っ白い花に白蝶が舞い、雪景色の想いでした。

<感想>

 起句の「橢」は『漢語林』では平声と書かれていますが、通常は上声で使いますので、そちらで考えた方が良いですね。
 これを使いたい、ということでしたら、承句に使うしか無いですね。

 承句で蝶の姿が出て来ますが、詩の流れとしては承句は花の描写が良く、転句から蝶が登場、結句で風が登場するという展開ですね。

 転句は「突兀」の表現と花が合うのか、もう少し別の言葉の方が良いと思います。

 結句は四字目の「C」が平声ですので直さなくてはいけません。

 あと、承句と転句で「白」が重複していますので、ここも直しましょう。
 その辺りを推敲の方向にして考えてください。



2024. 2.25                  by 桐山人