作品番号 2023-331
遺品館
鐵路淋漓梅雨蹊 鉄路 淋漓たる梅雨の蹊(みち)
忠魂祀社拷A齊 忠魂の祀社 緑陰斉(ととの)ふ
遺書切切棚中並 遺書切々 棚中に並び
遺影哀哀壁面凄 遺影哀々 壁面に凄たり
<解説>
遺族会の会長をしている親友から誘われ、護国神社の遺品館に数回行って当番をした。その時の感想
作品番号 2023-332
新春朝景
小波穏往砂濱黒 小波 穏やかに往く 砂浜黒く
霞彩豆州春色來 霞彩の豆州 春色来る
杳遠爆音舟疾走 杳(はる)かに遠き爆音 舟は疾走す
陽光富士雪峯開 陽光 富士 雪峯開く
作品番号 2023-333
秋宵
雨歇蓬麻蜻蚔鳴 雨歇(や)みて蓬麻蜻蚔(せいれつ)鳴き
良宵涼吹動秋聲 良宵 涼吹 秋声を動かす
餘音嫋嫋勸杯盞 余音嫋々 杯盞勧む
皎月玲瓏滿院清 皎月 玲瓏 満院清し
作品番号 2023-334
孤酌
九月涼風殘暑收 九月の涼風 残暑収まり
清光長影小池頭 清光は長影 小池の頭
一瓢一醉未猶睡 一瓢 一酔 未だ猶ほ睡(いね)ず
古桂庭中薫滿秋 古桂 庭中 薫り満つる秋
作品番号 2023-335
今晨
客舎風回落葉聲 客舎 風回り 落葉の声
霜華的的曉光清 霜華 的々 暁光清し
人遷物變古今嘆 人遷り 物変るは 古今の嘆き
生路依依行旅情 生路 依々たり 行旅の情
作品番号 2023-336
西行歌 漢俳
霜さゆる庭の木の葉を踏みわけて月は見るやと訪ふ人もがな 西行
霜白発光華 霜白く 光華を発し
月下庭前踏枯葉 月下 庭前 枯葉を踏む
誰訪野人家 誰か訪れむ 野人の家
作品番号 2023-337
雨聲
風吹松葉動還休 風松葉に吹き 動いて還た休みて
雨點藤芯煌轉遷 雨藤芯に点じ 煌(きら)めき転遷
山禽不啼懷靜寂 山禽啼かず 懐(おも)ひ静寂
慣聞簷際滴聲連 慣れ聞く 簷際 滴る声連なる
<解説>
対句に挑戦しました。
<感想>
対句ということで前半を見ますと、上四字は対応がしていますが、下三字については、六字目がやや疑問ですね。
起句の「還」は副詞(連用修飾語)として使っていますので、述語である「動」と「休」を繋ぐもの。
対して承句は「轉」は「轉遷」と熟語で読んでしまうと、「転じ遷る」となり、「煌」も含めて全て述語になってしまいます。
ということで行くと、対句にするなら承句の方を「煌めき 転た遷る」と読む必要があり、それで意味が通じるかが要ですね。
あと、起句の末字の「休」は平声ですので、「止」でしょう。
転句以降は、「不啼」「静寂」「聞」「滴聲」と続き、音に関わる語が多過ぎますね。
転句の上四字は平仄が合いません。「禽」は「鳥」の間違いでしょうね。
鳥が啼かないのは良いですが、そこで「懷靜寂」は言わずもがな、「一鳥不啼山已暮」でどうでしょう。
結句はここで作者の心情を出して、「C閑簷際」としましょうか。
2024. 2. 7 by 桐山人
作品番号 2023-338
閑居梅雨
雨過久久覺陶然 雨過ぐ 久久 陶然を覚ゆ
獨坐書窗藤架娟 書窓に独り坐し 藤架娟なり
偶欲揮翰磨墨懶 偶(たまた)ま翰を揮はんと欲するも墨を磨すること懶(ものう)し
有閑無仕幾時遷 閑有り 仕(しごと)無く 幾時か遷る
<解説>
梅雨で仕事に気が入らない様子を詠みました。
<感想>
起句の「久久」は「久し振り」の意味では和語、漢語では「長い間」、ここは和語のほうですね。
ありきたりになりますが「天霽」が丁寧でしょう。
承句は良いです。
転句はこれでも良いですが、「揮」よりも「把」の方が軽い感じになりますので、「磨墨懶」には合うでしょう。
結句の「無仕」は「お仕えすることが無い」ということで、通常は退職、辭職したことを表します。
それが「幾時」ですと、「退職して何時間経ったか」ということで時間の単位がおかしいですね。
ここは「仕事」ではなく、「為事」の方、となると「有閑」も「無爲」、中二字も「閑日」「暇日」として、一日の中の「幾時」と持って行くと良いでしょう。
2024. 2. 7 by 桐山人
作品番号 2023-339
懶苺蒔
殘炎漸去惠風吹 残炎 漸く去り 恵風吹く
如雪蕎華田圃奇 雪の如し 蕎華 田圃奇なり
懶蒔一行爲並列 蒔(うえかえ)を懶(ものう)し 一行 並列を為す
孫孫子子蔓生滋 子子 孫孫 蔓生滋(ふえ)し
<感想>
起句の「恵風」は「恵みの風」ということから「春の風」「晩春から初夏の風」のイメージが一般的で、上四字と食い違いますので、何か別の風にしましょう。
承句は「奇」で、「すぐれている」という意味もありますが、他と異なる、珍しいということからの意味ですので、ここは別の韻字を考えた方が良いですね。
結句は「子子孫孫」の読みが無理で、蔓がはびこるなら「孫孫子子」とちょっとゴツゴツした読みも良いです。
2024. 2. 7 by 桐山人
作品番号 2023-340
記短札
起風濤洗暑良宵 風濤起き 暑を洗ひて良宵
短札需望把翰遙 短札 望ひ需(もと)め 翰(ふで)を把りて遥かなり
天漢溶溶祈乞巧 天漢 溶溶 乞巧を祈る
案詩試筆硯池焦 詩を案じ 試筆 硯池焦る
<解説>
七夕の短冊の想いです。
<感想>
七夕の行事は中国伝来ですが、短冊は日本独自の物、「短札」だけでは伝わらないですね。
該当する言葉が漢詩には無いわけですが、「願糸」が中国の形式、倣うならば「願符」でしょう。
起句はリズムを崩した意図がよく分かりません。
「風濤」は「風と波」で意味的には大きな波を起こすような風を表します。
ここで「濤」を使うのもおかしく、リズムが悪いので一層意味が通じにくい句になっています。
承句は「空への願い」に繋がれば「遙」も分かりますが、ここは「把翰」が「遙」ですので、語順を替える必要があるでしょう。
結句にも「筆」が出て来ますので、どちらを使うかを検討してください。
転句の「溶溶」は「水が流れる」ですので「天漢」の形容としては良いですね。
結句は最後の「硯池焦」という言葉があるのでしょうか、どういう画面が想定が難しいので説明ください。
2024. 2. 7 by 桐山人
作品番号 2023-341
夕七不觀
滿耳蟬聲百轉調 耳に満つ 蝉声 百転調ふ
天空仰見在C宵 仰ぎ見る天空 清宵たり
突如暮靄銀河滅 突如の暮靄 銀河滅(なず)む
飛舞螢光一夜妖 飛舞す 蛍光 一夜妖(あざやか)なり
<解説>
七夕は見れず、代わりに蛍光を楽しんだ思い出です。
<感想>
題は「七夕」が自然です。「不觀」は目的語が欲しいですね。
起句の「百轉」はよく分からないですが、「百囀」でしょうか。
承句で「C宵」とあり、その直後に「突如」「暮靄」は違和感があります。
できれば承句の段階から、あまり綺麗な空を出さない方が良いですが、急なことという流れでは、転句を「夜雲忽起覆銀漢」としておきましょう。
結句は「光」が「飛舞」となるとおかしいです。
「群螢」とか、「螢」を下にして何か形容語を付ける形が良いですね。
「一夜」ですと、夜の間ずっと見ていた感じですし、先ほどの「急に陰った」ということでは短時間という雰囲気ですので、ここは「一幕妖(一幕の妖)」と舞台を見ているような感じとかも面白いと思います。
工夫してみてください。
2024. 2. 7 by 桐山人
作品番号 2023-342
遺址雲
一乘峽谷歩荒屯 一乗 峡谷 荒屯を歩す
牆礎泉邊石蘚痕 牆礎 泉辺 石蘚の痕
孤影白雲鴉叫慘 孤影の白雲 鴉叫惨(いたま)し
必衰盛者涙空呑 必衰す 盛者 涙空しく呑む
<解説>
令和五年六月、有志と越前加賀を旅行した。
越前朝倉氏の拠所一乗谷は発掘中、当時の遺品は何も残っていない。
唯、礎石を見ると転た無常を感じ、藤村の詩「小諸古城」を思い出す。
<感想>
起句は「村」(旧字は邨)ではいけませんかね。
「戦」を意識しての用字かとは思いますが、それなりの街構えにはなっていたのだろうと思います。
承句は良い表現です。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-343
初秋暮景
謐宵C爽遠峰 謐宵 清爽 遠峰青し
籬落萩英彩寂庭 籬落の萩英 寂庭を彩る
月白如今良夜何 月白し 今の良夜を何如せん
虫鳴哀切把杯聽 虫鳴 哀切 杯を把りて聴く
<感想>
起句は「謐」は「静謐」で使われますが、「静か」という意味を持っています。
ただ、「謐宵」という言葉はありますかね。「C宵氣爽」「靜宵C爽」が良いと思います。
承句の「萩」は本来はヨモギを表し、ハギとするのは日本の用法らしいですが、「萩花」で分かると思います。
転句は末字の「何」は平声ですので、文法的には崩れますが、「月白如何此良夜」(月白く如何ぞ此の良夜を」
結句は起句の「謐」とぶつかりますが、気持ちの伝わる句ですので、起句の方を検討した方が良いですね。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-344
晩秋閑居
霜葉遙岑鐘韻幽 霜葉の遥岑 鐘韻幽か
裏庭歩月露光稠 裏庭 月に歩す 露光稠し
一行過雁秋將老 一行の過雁 秋将に老いんとす
河漢濤濤天際流 河漢 濤濤 天際に流る
<感想>
画面設定としては、最初に遠景、「鐘韻幽」で近づいて、「裏庭」で作者の居る場所までズームしてくる流れは分かりやすいですね。
しかし、時間の設定となると、やや落ち着かないです。
承句と結句は夜の場面ですが、起句で「霜葉の遙岑」を見るためには昼間でないといけません。
転句の「過雁」を見るのは夜でも可能ですが、夕方が素直でしょうね。
そうなると、承句の「歩月」がやや急ぎ過ぎということでしょうね。「裏庭獨歩露珠稠」ならば良いでしょう。
「裏」という情報の必要性がよく分かりませんので、「叢庭」でも良いかと思います。
後半はこのままで良いですね。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-345
仲秋感懷(一)
涼風晴朗晩山遐 涼風 晴朗 晩山遐か
月白星稀影漏紗 月白く 星稀なり 影は紗を漏る
過雁哀鳴三五夜 過雁 哀鳴 三五の夜
峰川萬里置杯嗟 峰川 万里 杯を置き嗟(なげ)く
<感想>
秋らしい趣が感じられて、落ち着いた詩になっていると思います。
起句の「山」と結句の「峰」、どちらに入れる組み合わせが良いか、というところですが、「峰川」という言葉があまりしっくり来ないので、結句の方を「山川」とした方が良いと思います。
また、月を見て故郷を思うという設定にするなら、最後を「故山」とか「ク川」とするのも良いでしょうね。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-346
仲秋感懷(二)
遙岑荒徑野亭邊 遥岑 荒径 野亭の辺
樹影寒蜩哀哭憐 樹影の寒蜩 哀哭憐れむ
凋落梧桐既秋半 凋落す 梧桐 既に秋半ばなり
素風習習白駒遄 素風 習習 白駒遄(はや)し
<感想>
全体にまとまっていますね。
転句の下三字は「秋已半」とした方が読みやすいですね。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-347
杪秋閑日
閑居孤影野姿爺 閑居 孤影す 野姿の爺
滿目蕭然獨自嗟 満目 蕭然 独り自ら嗟たり
老菊衰蘭黄葉舞 老菊 衰蘭 黄葉舞ひ
風陽高短煮C茶 風陽 高低 清茶を煮る
<解説>
本年は異常気候で、十月になっても温暖が続き、晩秋の季節感は十一月頃である。
北半球では冬至に近くなるにつれ、太陽は遠くなり、日中時間も短くなる。
<感想>
起句は「孤影」を動詞で読むのは苦しいですね。また、ここの「孤」は次の「獨」と同じ意味になりますので、ここで入れる必要はないと思います。
「秋午」と季節を表す言葉にしておくと、次の「滿目蕭然」が生きて来ると思います。
承句、転句は問題無いと思います。
結句は「風陽」がよく分からないのですが、「風は高く 陽は短い」という互文でしょうか。
ここは最後の「煮C茶」が突然で、それまでの寂しげな晩秋の雰囲気と合わないですね。
「四時如此」のような、転句までをまとめておいて、そこから気持ちが離れるような展開で無いと、なかなか繋がりが作りにくいですね。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-348
冬夜感懷
窗櫺氷結白家宸 窓櫺 氷結す 白家の宸
勤點書窗老更親 勤めて書窓を点ず 老いて更に親しむ
癸卯將終駒過隙 癸卯 将に終らんとす 駒隙を過ぐ
一杯温酎冽中春 一杯の温酎 冽中の春
<解説>
「數杯温酎雪中春」(白居易『和李中丞与李給事山居雪夜同宿小酌』)
<感想>
起句の「白家」は「粗末な家」、「宸」はこれは宮中の建物、御殿になりますので、繋がりがおかしいです。
韻字で探すと「白家人」「白家呻」くらい。「白頭人」も入りますが今いちですかね。
起句と承句で「窗」が重複。「書檠」が「書物を読むのに使う燭台」ですので、平仄も意味も丁度良いでしょうね。
結句は「冽中」が「一杯」に合うかどうか、白居易にこだわらなければ「掌中春」「盞中春」などが手頃でしょう。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-349
冬夜望ク
嚴寒凛冽月如鉤 厳寒 凛冽 月は鉤の如し
家室寒燈鐘韻幽 家室の寒灯 鐘韻幽(かす)かなり
夢繞山雙涙落 夢は青山を繞り 双涙落つ
越年傾盞嗾ク愁 越年の傾盞 郷愁を嗾(そそのか)す
<感想>
起句は「厳寒」と「凛冽」が繰り返しの印象です。
「夜寒」とか「寒威」とした方がすっきりしますね。
この詩も、起句の「寒」が承句でも出て来て、同字重出です。ここは「孤燈」で良いでしょう。
「家室」は「白屋」でも、こちらの詩では問題無いです。
転句は「山」で故郷を憶う形になるか、「故山」とすればはっきりしますけど、「青年時代の風景」というような意味合いが籠められているのでしょうかね。
結句の「嗾」は「早く早くとせきたてる」という意味ですので、良い表現ですね。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-350
第百回東京箱根間繼走
旅宿山莊雪徑苔 旅宿の山荘 雪径の苔
先人諸氏遠方來 先人 諸氏 遠方より来たる
永年傳統一堂下 永年の伝統 一堂の下
京國箱根祝百回 京国 箱根 百回を祝す
<解説>
我が母校も昨年は何十年振りで予選会を通り、出場しました。
十月に行われる予選会を通って、今年も本戦に出場して欲しいものです。
<感想>
まずは起句、韻字は「苔」では「雪」に合いませんので「皚(しろ)し」で。
承句は叙景を続けて、人が集まっていることは書かなくても良いと思います。「芦湖風冷曉雲開」のような形。
転句の「永年傳統」は結句の「祝百回」をぼかしてしまいますし、駅伝の場面だと分かるようにしたいです。
「新春繼走學徒譽」と来れば、結句への自然な流れが生まれるかと思います。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-351
釣宿
釣魚前日晩波明 釣魚の前日 晩波明らか
打岸強風夢未成 岸を打つ強風 未だ夢成らず
雨脚南消雲散散 雨脚 南に消え 雲は散り散り
翌朝早曉喜新晴 翌朝の早暁 新晴を喜ぶ
<解説>
北陸の釣り宿に宿し、春の真鯛を釣りに行ったが、翌朝風波が強く出帆できない時もあった。
<感想>
わざわざ北陸まで行って、天候不順が理由で舟に乗ることもできないのは残念至極、よく分かります。でも、それが自然相手で仕方ない面ですね。
起句は「釣魚」でなく「釣行」が自然ですが「冒韻」ですね。
題名を「釣行」として、起句は季節とか、場所という情報を入れるのが良いですね。
例えば、「越前投宿」とか、「早春投宿」とするのが良いと思います。
下三字の「晩波明」は韻字の「明」がおかしく、「晩濤聲」くらいが適当ですが、次の承句では「打岸」ですので、こちらを「波」とした方が自然です。
あるいは、「打岸」を「窗外」としても良いので、案としては二つ。
(甲)「越前投宿晩濤聲 窗外強風夢未成」か(乙)「早春投宿晩風聲 打岸波濤夢未成」ですね。
「眠れない」ということですと室内に居た方が良いので、(甲)の方が良いですね。
転句はだんだんと嵐が収まったということですが、寝床に居て「雲」は見られません。
「短夜三更収雨脚」(短夜 三更 雨脚収まり)という形で。
結句は「朝」と「曉」は同意語、一つで良いので「曉天雲散喜新晴」かな?
この句はまだ説明臭いので、もう少し検討しても良いかと思います。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-352
晩秋獲蟹
秋深門巷送潮風 秋深し 門巷 潮風を送る
竟夕江流一瞬中 竟夕 江流 一瞬の中
夜月粉飛漂泊久 夜月 粉飛して 漂泊久し
移來獲蟹白頭翁 移り来たりて蟹を獲る 白頭の翁
<解説>
今年も友人に誘われ蟹を獲っています。
理由はわかりませんが、日によって好不漁が激しい、まさにワタリ蟹です。
<感想>
起句は「秋深」ことと「送潮風」の関係が分かりません。「渡霜風」の方が良くないですか。
また、この詩は舟で出て行く内容ですので、「門巷」と町の中を設定するのは妙です。「堤上」「堤畔」ですかね。
承句の「竟夕」は「一晩中」「夜中ずっと」、下三字の「一瞬中」との繋がりが通じないですね。「竟夕移舟獲蟹翁」。
転句は「佳刻好潮微一瞬(佳刻 好潮 微かに一瞬)」としましょう。
結句は月夜の景色を詠み込み、「白頭孤影月玲瓏」「白頭搖搖月波中」などでどうでしょう。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-353
朱夏即事
庭樹飛來蟬語長 庭樹に 飛來る 蝉語長し
碧雲茅屋避炎陽 碧雲 茅屋 炎陽を避ける
披襟揮汗人閑坐 襟を披き 汗を揮い 人閑に坐す
啜茗舐毫詩作忙 茗を啜り 毫を舐め 詩作忙し
<解説>
猛暑の中、夏休みの宿題をこなしている様子を詠んでみました。
<感想>
起句は話としては分かりますが、「飛來」と言う必要があるでしょうかね。
「樹」と「蟬」と並べば「飛來」してきたのは分かりますから、ここは別の情報、「庭樹」か「蟬」について描写を考えるのが良いですね。
「蟬語」は「長」ともう書かれていますので、ここは「庭樹鬱蒼」が良いでしょう。
承句は「茅屋避炎陽」は分かりますが、「碧雲」はどういう働きをしているのでしょう。
作者を登場させて「老翁」「田翁」ならば句としてもまとまり、よく分かります。
ここで作者を登場させておくと、転句の上四字への流れも良いです。
転句の「人」はもう要りませんので、「獨」とか「暫」などを入れておくと良いですね。
結句と対の感じを強めるならば、「恒心鈍」など、「鈍」は「弱」「耗」でも面白いかと思います。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-354
帆船日本丸
桅竿遙望好秋天 桅竿(きかん) 遙かに望む 好秋の天
佇立雄姿在眼前 佇立 雄姿 眼前に在り
活潑鮮華登檣禮 活潑 鮮華 登檣礼
客心歡極送行船 客心 歓極り 行く船を送る
※
<解説>
半田市の衣浦港に練習帆船日本丸が入港し停泊。
最終日に訓練生がマストに登り「登檣礼」を行い出港して行った時の様子を思い出し詠んでみました。
「登檣礼」… 帆船の出航時に船員を帆桁などに配置し、見送りに来た来客に対する謝礼を行うもの。帆船における最高の礼式である。
<感想>
起句の「桅竿」は「帆柱」、帆柱を上に眺めていくと秋空が拡がっているという光景でしょうね。
それですと、「遙望」の主体は作者、「桅竿」が孤立しています。
「遙望」を「高架(高く架かる)」など「高」という語が入ると良いですね。
承句の「佇立」「雄姿」は日本丸のことですね。
転句の「活潑」は訓練生、「鮮華」はまた日本丸かなと思いますが、配置から見ると「登檣禮」をしている訓練生でしょうか。
その辺りを整理して、前半は日本丸、転句は「登檣禮」の様子と分けた方が分かりやすいでしょう。
承句は「鮮白勇姿在眼前」、転句は「活潑若人檣上禮」。「佇立」を起句に貰っても良いですね。
結句の「客心」は見物に来た作者自身を表しているのでしょうが、「客心」の意味自体は旅での寂しい心ということですので、表現として誤解されそうです。
「遊人歡目(遊人目を歓ばせ)」とか「怡怡老客(怡怡たる老客)」で行けると思います。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-355
歳暮感懷
老我如今貧病哀 老我 如今 貧病哀れ
晨昏靜處草堂隈 晨昏 静処す 草堂の隈
崢エ歳晩迎春計 崢エ(ソウコウ) 歳晩 迎春の計
世上平安愁未開 世上の平安 愁ひ未だ開かず
<解説>
歳末となり、世の中の騒動や、行く末短い自分の今を詠んでみました。
<感想>
起句は「我」とわざわざ入れるよりも「野老」「老骨」「老去」「老大」など色々な表現がありますので、一人称は避けましょう。
承句の「靜處」は「處」を動詞として読んでいるようですので、「静かに処す」ということですかね。
すっきりしませんので、「閑寂」「閑靜」として「草堂隈」を修飾するようにした方が良いでしょう。
転句の「崢エ」は本来は「山が高く険しい」ことを表す言葉ですが、「年末の慌ただしさ」も表します。この句はすっきりした良い句です。
結句は「平安」ですと「世の中は平安である」となります。
「愁」の内容が分からなくなりますので、「世上喧紛」「擾亂世間」などが良いでしょう。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-356
雲
擁雪層雲白日遮 雪を擁する層雲は白日を遮り
垂低霧露漉ム霞 低く垂れた霧露は緑林を霞む
時時何事變容貌 時時何事ぞ容貌を変ふ
爲咲例年四季花 例年四季の花を咲かせるため
結句から六麻韻としたが、起句承句の韻字選びが難しかった。
<解説>
雲は年間を通して姿形を変えて雨、雪や霧となって地を潤す。
それによって例年四季の花が観られるのだとの気持ち。
<感想>
起句に「層雲」がありますが、変化する雲が主題ですので、あまり特定の雲を置かない方が良いです。
「層層」と畳語にしておき、主語は隠しておきましょう。
承句は「低く垂れる」ということですと、連用修飾語は述語の前に来ますので、この場合には「低垂」です。
転句でこれは雲なのだと種明かしをしますので、「時時」を「雲形」とか「天雲」にした方が良いですね。
結句の「咲」は「口を開いて笑う」の意味で、「(花が)さく」とすると和習になってしまいます。
「發」でも良いですし、「爲」は説明調になりますので「正發」。
この句は「四字目の孤平」になっていますので、「例年」を「年年」とする必要がありますね。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-357
詠異常気象一
火雲炎熱四隣攻 火雲 炎熱 四隣攻む
列島消金三伏中 列島 金を消す 三伏の中
靈智謂人全不及 霊知なりと人は謂ふも全てに及ばず
北窗開放又無風 北窓 開放するも 又無風
<解説>
今年の夏はクーラーと友達でした。
庭の手入れもままならない程の外気温、草だけは元気だと思いました。
<感想>
起句は分かりやすい句になっています。
承句の「消金」は「銷金」ですかね。「銷暑日本」「銷暑此邦」が良いですね。
転句は何を「靈智」と言っているのか、ちょっと話が飛んでいます。
「結集英知不全及(英知を結集するも全ては及ばず)」と部分否定にした方が、前後の流れが出て来るかと思います。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-358
詠異常気象二
晩光庭宇古松枝 晩光の庭宇 古松の枝
不意夜陰雷電時 不意の夜陰 雷電の時
不識未來天地理 不識 未来 天地の理
小村嘉稲有餘思 小村の嘉稲 余思有り
<解説>
天候の異常と近くの田の早稲の色づきへの思いを詩語に託してみました。
この辺りは盆前後の収穫が多いようです。
<感想>
全体には雷だけでは「異常気象」に繋げるには弱く、特に起句や結句の平穏な景色からは難しいですね。
規則としては、承句と転句で「不」の字が重複していますので、これは直す必要があります。
承句は「不意」が変化を出しますので残して、「不意電雷豪雨時」とか。
転句は「未来のことは分からない」となると「異常気象」について考えることも否定されてしまいますので、ここは逆に「有感」とすると、承句の雷からの流れができます。
結句の「思」は名詞として使うと仄声になります。
動詞として使うか、韻字を替えて「唯今嘉稲小村怡」としても良いでしょう。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-359
寄十五夜
茅庭白萩接秋空 茅庭の白萩 秋空に接す
樹下草深喞喞虫 樹下 草深し 喞喞の虫
獨座擧杯邀満月 独座 杯を挙げて 満月を邀(むか)ふ
無情遊有五更風 無情の遊有り 五更の風
※
<解説>
今年の十五夜は格別とのこと(満月)。このあたりは雲も無く、楽しめた月夜でした。
李白の「月下獨酌」より引用もしました。
<感想>
李白の「月下獨酌」は次の古詩でしたね。
月と自分の影と三人で酒を楽しむという幻想的な詩でした。
月下獨酌
花間一壺酒 獨酌無相親 花間 一壺の酒 独り酌んで 相親しむ無し
擧杯邀明月 對影成三人 杯を挙げて明月を邀へ 影に対して 三人と成る
月既不解飲 影徒隨我身 月既に飲むを解せず 影 徒らに我が身に随ふ
暫伴月將影 行樂須及春 暫く月と影とを伴ひ 行楽 須く春に及ぶべし
我歌月徘徊 我舞影零亂 我歌へば 月 徘徊し 我舞へば 影 零乱(りょうらん)す
醒時同交歡 醉後各分散 醒時は同に交歓し 酔後は各々分散す
永結無情遊 相期邈雲漢 永く無情の遊を結び 邈(はる)かなる雲漢に相期さん
(五言古詩 上平声「十一真」と去声「十五翰」の換韻)
「行楽」… 楽しみをなす 「零乱」… 乱れ動く 「無情遊」… 清らかな交遊 「邈雲漢」… はるか遠くの天の川
「引用」ということで見ると、転句の「擧杯邀滿月」、結句の「無情遊」を借りたというところですかね。
これくらいならば気になりませんし、また「無情遊」は具体的には書かれていませんが、李白のように月下で舞をしたことを暗示し、風雅な趣が出ています。
語句として、まず「萩」ですが、これは「秋の草(艸)」ということで国字だと牧野富太郎博士は言っているようです。
漢語ではヨモギの仲間を指します。中国名では「胡枝花」「天竺花」と書きます。
古来から日本の漢詩人は「萩」を詩に詠む時に「萩」の字が使えず、「秋野紫花」などと形態を描写する形で描いていました。
つまり、伝統的に苦労してきた花なのです。
勿論、日本人には「萩」の字が一番しっくり来ますので、読者を日本人と限定してということならば使った例も江戸期にはあります。
従って、次の「想秋郊村」もそうですが、私的に楽しむ「萩」バージョンはそれで良いとして、しかし、対外的には別の表現をしたものも検討しましょう。
ということで行くと、起句は「胡枝花白映秋空」「C秋小院白花隆」「庭花皓皓接秋空」のような形でしょう。
「萩」を使うならば、「白萩苒苒暮秋空」「小庭秋暮白萩隆」などですね。
承句は「四字目の孤平」ですので、「樹下深陰」「庭草幽深」などでしょうね。
転句は折角の十五夜ですので「明月」とし、「檐坐斟杯對明月」。
結句は「有」の位置がおかしいですので、「無情遊樂」で収まると思います。
「五更」は午前四時頃になりますので、ちょっと遊び過ぎですね。「二更」くらいが前半からの流れでも順当かと思いますがどうですか。
2024. 2.18 by 桐山人
作品番号 2023-360
詠半田山車祭一
今朝風靜好天高 今朝の風静か 好天高し
昨夜雷雲一刻騒 昨夜の雷雲 一刻騒ぐ
參集山車三十一 参集 山車 三十一
傳承美技絡糸操 伝承の美技 絡糸操る
<解説>
祭前の西日本あたりの不順な天気をニュースで知り、この辺りも夜の雷雨で心配でした。
五年に一度、やはり何事も無く終って欲しいと願っていました。
何はともあれ気象情報が気になります。
<感想>
起句と承句は順番を替えて、昨夜の雷、今朝の天気とした方が分かりやすいです。
一番言いたいことは後半ですので、前半はすっきりとさせたいです。
転句の「山車」は和語ですので直すなら「繍車」「輿車」「祭輿」など。
やはり使い慣れた言葉が良いということでしたら、題名にも入れてますので、何を指しているのかは分かって貰えたということで「山車」で行くのでしょうね。
結句は「絡糸」を「偶人操」「傀糸操」でどうでしょう。
2024. 2.18 by 桐山人