作品番号 2023-271
春雨閑居
四望空濛煙雨時 四望 空濛 煙雨の時
殘櫻幾片使人悲 残桜 幾片 人をして悲しましむ
鳩巢哺子西窗側 鳩巣(きゅうそう) 子を哺(はぐく)む 西窓の側(かたわら)
草屋閑居獨案詩 草屋 閑居 独り詩を案ず
作品番号 2023-272
宮津温泉
遙訪宮津試勝遊 遥かに宮津を訪いて 勝遊を試む
若洲春景泊泉樓 若洲の春景 泉楼に泊す
浴餘冷飮寛舒處 浴余の冷飲 寛舒の処
西嶺斜陽入海流 西嶺の斜陽 海に入りて流る
<解説>
京都府宮津市にあり
令和五年三月に泊
作品番号 2023-273
春彼岸展墓
浮雲一片故山天 浮雲 一片 故山の天
彼岸風清祖塔前 彼岸の風は清し 祖塔の前
往事追懷閑合掌 往事 追懐して 閑かに合掌す
佳城寂莫上香煙 佳(か)城(じょう) 寂莫(せきばく) 香煙(こうえん)上(のぼ)る
作品番号 2023-274
春夜
水暖風香閑苑春 水暖かく風香る 閑苑の春
清明良夜與花親 清明の良夜 花と親しむ
詩家可愛千金景 詩家は愛すべし 千金の景
時仰天空月一輪 時に天空を仰げば 月一輪
<解説>
四月五日は清明、六日は満月でした。
作品番号 2023-275
雛人形
彼方電信属待人 彼方の電信 待人(まちびと)に属す
雨水皆良今夜 雨水 皆良し 今夜(ととの)ふ
雛飾壇前孫女舞 雛飾(ひなかざり)の壇前 孫女の舞ひ
媼爺重盞一家春 媼翁 盞を重ねる 一家の春
作品番号 2023-276
湖堰漕艇
漕艇領聲來復去 漕艇 領声 来て復た去る
韶光若葉奥園 韶光 若葉 奥園に(ととの)ふ
俯看蛙子卵生帯 俯(うつむ)き看る 蛙子 卵生の帯
野老心愉湖堰春 野老心愉しむ 湖堰(こえん)の春
作品番号 2023-277
見洞慶院蠟梅
新春古刹共朋遊 新春の古刹 朋と共に遊ぶ
名所森嚴自古幽 名所森厳 古より幽なり
早發蠟梅參本耳 早く発(ひら)く蝋梅 三本耳
行人閑歩蜜香流 行人 閑歩 蜜香流る
作品番号 2023-278
觀梅
麓園鈴鹿好姿梅 麓園鈴鹿(すずか) 好姿の梅
百樹枝垂爛漫開 百樹 枝垂れて 爛漫として開く
殘雪遠山春色淡 残雪の遠山 春色淡し
鳥聲纏客共徘徊 鳥声客に纏(まと)ひ 共に徘徊す
作品番号 2023-279
悼友
妍麗櫻花春色闌 妍麗たる桜花 春色闌(たけなわ)なるに
豈圖此日蓋骸棺 豈(あ)に図(はか)らん此の日 骸棺(がいかん)を蓋(おお)ふ
星霜七十交情篤 星霜七十 交情篤(あつ)く
默拜靈前不忍酸 霊前に默拝すれば 酸に忍びず
作品番号 2023-280
春彼岸英靈供養
就義精神永不泯 就(しゅう)義(ぎ)の精神 永しえに泯(ほろ)びず
深憂國難沒其身 深く国難を憂ひ 其の身を没す
香華虔獻忠靈塔 香華(こうげ)虔(つつし)んで献ず 忠霊塔
供養芳魂彼岸春 芳魂を供養す 彼岸の春
作品番号 2023-281
春日遊山寺
山麓梵城春水香 山麓の梵城 春水の香
輕風習習繞禪房 軽風 習々 禅房に繞(まつわ)る
落花啼鳥花分色 花落ち鳥啼いて 花の色を分つ
庭院蕭條浴佛光 庭院 蕭条 仏光に浴す
作品番号 2023-282
春遊伊根舟屋
春遍丹波島影長 春は遍(あまね)し 丹波の島影長し
客舩和景碧嵐光 客船の和景 嵐光碧なり
C風獨領鷗汀近 清風独り領して 鴎汀近し
芳草伊根舟屋ク 芳草の伊根 舟屋の郷(さと)
作品番号 2023-283
悼故友
舊友昇天令和春 旧友 昇天す 令和の春
清交回想慨情頻 清交を回想すれば 慨情頻りなり
相尊專一勤生業 相尊び 専一 生業に勤(いそし)む
市井無名有徳人 市井 無名 有徳の人
<解説>
和漢詩
春節来前 旧友は逝く
淡交を回想すれば 百感有り
相敬し専心 生業に勤しむ
惜しい哉 有徳中隠の人
作品番号 2023-284
古廟春寒
藤枝古廟往來稀 藤枝の古廟 往来稀なり
巨樹春寒對夕暉 巨樹 春寒 夕暉に対す
破服老翁蹲抜草 破服の老翁 蹲(うずくま)りて草を抜く
無酬作務恰如祈 無酬の作務 恰(あたか)も祈りの如し
<解説>
藤枝駅近くの、とある古びた神社を歩いた。
陽が傾いて少し冷える時間に、何やら蹲る人影があった。
取っては籠に入れ、少し前進しまた根を掘る。
誰も見ていない孤独な作業をしばらく見た後で声をかけると、
「近所の氏子の一人だが、幼稚園児の遊び場になっている境内だから、ケガのないよう小石を拾い、草を取っている」
と話してくれた。
誰に言われたのでもない、無報酬の尊い行為が祈る姿に見えて来た。
作品番号 2023-285
櫻樹有感
櫻花落盡爽風微 桜花落ち尽くし 爽風微かなり
順利天行萬物輝 順利なる天行 万物輝く
濁世浮沈誰可免 濁世(じょくせ)の浮沈 誰か免るべけんや
聊施小善却招譏 聊(いささ)か小善を施し却って譏りを招く
作品番号 2023-286
赤穂塩
背瀬登丘海眼前 瀬を背にして丘を登れば 海は眼前
茶烟立處小舟連 茶烟立つ処 小舟は連なる
轟名此地精塩業 名轟(とどろ)く此の地 精塩の業
惜惜今來不見田 惜惜たり今来 田を見ず
<解説>
千種川を渡って低い丘陵を、ほんの数百M行くと、突然多島海が見えた。
小雨もあがった小さな港には漁船ばかりが並んでいた。
赤穂の精塩がここから出荷されて全国に名を轟かしたのだが、
今は塩田は宅地や公園になって見る影もない。
作品番号 2023-287
郁金香(チューリップ) 吉田公園
花壇鮮好三條列 花壇鮮やかに好し 三条の列
黄綺得班桃與緋 黄綺 班ち得たり 桃と緋を
日日維修多篤志 日々の維修 篤志多し
植栽季節四時輝 季節の植栽 四時の輝き
<解説>
大井川河口右岸にある県立吉田公園、花壇の左右各々40b程3色のチューリップが見事であった。
芝庭の左右に赤黄ピンク、ピンク黄赤、近寄ってみるとこの花壇は3〜4b毎に区切られ、ボランティアグループの名札がある。
作品番号 2023-288
規制緩和
嬉春集會客來歸 嬉春の集会 客来帰し
滿席聲援顔眼輝 満席の声援 顔眼輝く
冠禍三年緩規制 冠(コロナ)禍 三年 規制緩やか
夏遊秋興意當揮 夏遊 秋興 意当に揮(ふる)わん
<解説>
侍ジャパンの活躍、テレビに釘付けとなった。
旧に復して観客席の熱狂。
規制緩和を実感。
作品番号 2023-289
白骨温泉
乘鞍山腹古温泉 乗鞍山腹 古温泉
硫臭微泡湯湧圓 硫臭 微泡 湯円(まど)かに湧く
伸腿浸肩浴三昧 腿を伸ばし 肩を浸し 浴三昧
心身蘇活意悠然 心身 蘇活して正に悠然
<解説>
白骨温泉、硫黄の付着で浴槽が白くなる。
白舟と呼ばれていたところ、小説「大菩薩峠」執筆のため此の地に逗留した中里介山が、「白骨の地五彩絢爛たる絶景」と記したことにより、白骨が定着したと言われる。
ぬるま湯で長く浸かっていられるのも魅力。
作品番号 2023-290
退隠二十年
退隠離京二十年 退隠 京を離れ 二十年
弄花戯鳥四時遷 花を弄(いじ)り 鳥に戯れ 四時遷る
舊書亂讀遠塵世 旧書 乱読 塵世遠ざかるも
時事是非忘老然 時事の是非 老を忘れ然(も)ゆ
<解説>
七十三歳で隠退、この地に定着した。
一九七十年代、工場建設、そして勤務、十年ほど住み親しんだ地である。
今九十三歳思いもよらぬ長生。この地のお蔭か
作品番号 2023-291
春觀梅
老梅破蕾満千枝 老梅 蕾を破る 千枝に満つ
馥郁C香春到時 馥郁たる清香 春の到る時
相伴吟朋行樂宴 吟朋 相伴って 行楽を宴(たの)しむ
山巓幽賞絶佳姿 山巓 幽賞 絶佳の姿
<解説>
二月に詩吟仲間と吟行会を実施しました。
コロナ禍の中でしたが感染対策を実施し、久しぶりの行楽を楽しみました。
作品番号 2023-292
侍日本WBC優勝
熱狂世界揺球場 熱狂の世界 球場揺(ゆる)がす
胸躍聲援勢奮揚 胸躍る声援 勢い奮揚
感動國民洶日本 感動の国民 日本洶(わ)く
奪還優勝酒盈觴 優勝を奪還して 酒は觴に盈つ
<解説>
WBC「侍日本」の活躍は日本に感動と夢を与えてくれました。
劇的なシーンは何度見ても興奮を覚えます。
作品番号 2023-293
喜冠毒規制解除
規制解消初夏坊 規制解消 初夏の坊(ちまた)
衆人街賑是尋常 衆人 街賑はひ 是れ尋常
素顔露見光輝女 素顔の露見 光輝の女(むすめ)
習癖三年心配忘 三年の習癖 心配忘る
<解説>
コロナの規制もやっと解除され街に賑わいが戻り、以前の生活になりました。
しかし、三年の期間は長く、マスク生活に慣れてしまい、外すのに戸惑う人もあろう…
作品番号 2023-294
歸故郷
人出連休五月天 連休 人出 五月の天
歸ク高速道延連 帰郷の高速 道延びて連なる
自由行樂車窓夢 行楽の自由 車窓の夢
再會児孫欣喜然 児孫に再会し 欣喜然り
<解説>
規制なしのゴールデンウイーク。
日本、外国と旅行者で賑わっています。
帰省する人も渋滞覚悟の里帰り、これも仕方がないのか・・・
作品番号 2023-295
麥秋田家
茶香麥熟燕窺簷 茶は香り 麦は熟して 燕は簷(のき)を窺ふ
鮮穀|林新筍繊 鮮緑 竹林 新筍繊(たお)やか
歸路延延尾燈列 帰路 延々 尾灯の列
黄昏山染仰新蟾 黄昏 山染まりて 新蟾(しんせん)を仰ぐ
<解説>
新茶が薫り 燕賀巣作り、筍が伸びてくる。
夕方になると車の列ができ、西山に日が落ち東から満月が顔を出す
作品番号 2023-296
晩春書懷
菜花散落學童歸 菜花散り落ち 学童帰り
雲影時來暮雨微 雲影時に来たりて 暮雨微(かす)か
戰禍歐州哀老若 戦禍の歐州 老若哀し
胡笳萬里月生幃 胡笳万里 月幃(とばり)に生ず
作品番号 2023-297
老柿之詠
五十年前苗柿植 五十年前 柿苗を植ゑ
養鷄舎裏日光纔 養鶏舎裏 日光纔か
杳眇昭和栽者奈 杳眇 昭和 栽ゑし者奈(いか)んぞ
儼然喬樹幹如巖 儼然 喬樹は幹 巌の如し
<解説>
五十年程前 鶏を飼っていた叔母が柿の木を植えてくれた。
今は太い大木になって残っている
作品番号 2023-298
育雛之愉
電燈光下幼雛遊 電灯光下 幼雛遊ぶ
給餌爭求頻唱酬 給餌争ひ求(もと)め 頻りに唱酬
轉月和聲齊羽翼 月転り 声和ぎ羽翼斉(ととの)ふ
達成飼育覺離愁 飼育達成し 離愁を覚ゆ
作品番号 2023-299
晩春書懐
雲雀翻然田野飛 雲雀(ひばり) 翻然 田野に飛び
萬櫻零亂藉仙衣 万桜 零乱 仙衣に藉(し)く
暖光三月折新柳 暖光 三月 新柳を折り
贈別怱怱春色歸 贈別 怱怱 春色帰る
<解説>
甥が進学し、県外へと行くことになった気持ちを晩春の景色に託しました。
作品番号 2023-300
春雨
千嶂濛濛細雨煙 千嶂 濛濛 細雨煙(けぶ)る
孤村寂寂賞心旋 孤村寂寂 賞心旋る
古城春苑着花未 古城 春苑 花を着けしや未(いま)だしや
暫待微晴溝水前 暫し微晴を待たん 溝水の前
「賞心」: 風景を美しさを楽しむ心