作品番号 2022-241
初夏偶吟
閑人雨裏歩郊園 閑人 雨裏 郊園を歩せば
淡靄荒途夏木繁 淡靄 荒途 夏木繁し
何處殘鶯聞睍v 何れの処の残鶯か 睍vを聞く
一時入境忘塵煩 一時 境に入って塵煩を忘る
<解説>
一宮市内木曽川沿いには、整備された公園、自然そのまま等数多くあります。
先日、そぼ降る雨の中を散歩した時に見たもの、感じたままを描写しました。
<感想>
起句はどうも説明臭いですね。場所を書き入れれば「歩」などは要らない気がします。
「閑人五月雨中園」、あるいは「五月」を「初夏」として承句の「夏木」を「新樹」としても良いですね。
結句の「一時」はあまり意図が伝わってこないのですが、「しばらくの間」「あっという間に」と両方考えられますね。
ただ、どちらにせよ、「入境忘塵煩」と言うにはその要因となる叙景が足りないです。
具体的に登場するのは「夏木」と「鶯の声」の二つ、その「夏木」は「雨」と「靄」の向こう、鶯は何処かからの鳴き声だけで姿は無いわけで、情報量がかなり少ないと言えます。
具体的な描写が欲しいわけで、作者に「塵煩」を忘れさせるような感動を生んだ「物」を出して欲しいですね。
「閑人」は自分ですので勿論要りませんが、「雨」と「淡靄」もどちらかで良いし、「荒途」は残すべきかどうか、など色々考える所はあると思います。
「夏木」ももう少し形容できるかなとも思います。
by 桐山人
作品番号 2022-242
仲秋觀月
高秋此夕息山亭 高秋 此の夕 山亭に息(いこ)ふ
種種陰蟲聲滿庭 種種の陰蟲 声庭に満つ
萬頃無雲三五夜 万頃 雲無く 三五の夜
吟風弄月太泠泠 吟風 弄月 太だ泠泠たり
<解説>
仲秋の夕方、月を観に山上の亭に登れば、色々な蟲の鳴き声が庭中に聞こえる。
空には陰る雲も無く、十五夜の月に向かって吟ずれば、非常に清らかで涼しい。
<感想>
「山亭」に登ると、そこに「庭」がある、相当大きな「山亭」を想像しますね。
承句の方を「種種蟲聲叢裡聽」とすると落ち着きますかね。
承句で「蟲」の声によって視点が近くに来ましたので、今度は転句で「萬頃」と広がると、これも違和感が出ます。
先ずは「雲」から導入していく形で「雲散涼天」とすると、目の動きが緩やかになるでしょうね。
結句は「吟風弄月」と四字熟語をそのまま使いましたね。
ただ、この言葉は「風に吟じ月を楽しむ」という詩人の行為を表しますので、「泠泠」が合うのか心配です。
「吟心璧月太泠泠」とか「孤吟名月氣泠泠」のような形が良いですかね。
by 桐山人
作品番号 2022-243
西山C溪
處暑尋碑試勝遊 処暑 碑を尋ねて 勝遊を試む
中空瀑布興偏幽 中空の瀑布 興偏へに幽なり
泉成美酒孝行賚 泉は美酒と成る 孝行の賚(たまもの)
養老C談醉暫留 養老の清談 酔うて暫く留まる
<解説>
処暑に詩碑を尋ねて養老の滝へ遊び、親孝行の息子が父の為に滝の水を汲んで持ち帰ると、
それが酒になっていた話に酔い、暫く茶店に休む
<感想>
こちらは養老に来たことを示さないと、承句の「瀑布」が浮いてしまいます。
題名に入れるか、起句の下三字を「養老遊」とすると良いですね。
以前にお作りになった「梁川星巖碑」でしたか、あの詩は滝周辺の景が沢山出ていましたね。今回は養老伝説が後半を占めていますが、ちょっと多いかな。
転句だけでも良いと思いますので、「C溪」なりの叙景を結句に持ってきたいですね。
承句の「興偏幽」も具体性の無い言葉ですから、役に立ってはいませんね。
なお、「孝行」の「行」は仄声ですので、「孝心」としておくのが良いでしょう。
by 桐山人
作品番号 2022-244
尋西大海道極樂寺句碑
荒廢僧廬碧蘚滋 荒廃の僧廬 碧蘚滋し
開門也有石初知 門を開いて 也有の石初めて知る
近隣八景説陽炎 近隣の八景 陽炎を説く
文藝傳承風雅碑 文芸の伝承 風雅の碑
<解説>
詩碑めぐりの途中、廃寺に横井也有の句碑があることを知り、閉門中(施錠して三十年)でしたが、
市議に頼んで入れてもらい、撮影をして来ました。
<感想>
極楽寺は一宮市内、今はもう「廃寺」ということですね。
西大海道で「八景」として「石原晴嵐」「北浦帰帆」「金底夕照」「神明山暮雪」「中山秋月」「前島落雁」「八龍夜雨」「無常寺晩鐘」の地を詠んだ句が刻まれ、横井也有の「かけろふの石や風雅の道をしえ」の句が彫られているので「かげろふ塚」と呼ばれるそうです。
解説に書かれた事情の下に詠まれた詩ですが、「也有石」を承句に置くのはどうなのでしょう。
碑の主役は「八景」の方でしょうから、「八景」は承句に置いた方が自然でしょう。「猶殘八景詠ク碑」し、転句で「也有説陽炎」とすれば流れが良くなります。
上二字は「大儒」と尊称を入れてはどうでしょう。
by 桐山人
作品番号 2022-245
暮秋雜詠
秋杪日和吟杖翁 秋杪 日和 吟杖の翁
川園光景盡天工 川園の好景 尽く天工
蘇堤千里草黃葉 蘇堤 千里 草黄葉
疑是仙衣掛碧空 疑ふらくは是れ 仙衣の碧空に掛かるかと
<解説>
雲が晴れて日光のうららかな秋の末、詩歌を考えながら自然に出来た木曽三川公園の絶景を見ながらぶらぶらと歩せば、
千里の彼方続く堤は草が黄葉している。その景は恰も仙人の衣が果てしない青空に伸び掛かっているようだ。
<感想>
転句の「蘇堤千里」は木曽川の河口まで繋がるイメージで、尾張の人ならではの感覚でしょうね。
それを枯れ草という間近な物で表すのは、「千里」との流れが苦しく感じます。
水の流れとか、ならばまだ分かりますが、草ということでしたら「十里」くらいの目で見える範囲にしておくのが良いでしょうね。
問題は、それで「天女の衣」と連想できるか、ということです。
実景を見ていないので申し訳ないですが、「盡天工」とまで言った実態が枯れた草の続く堤防、というのが、私にはどうも理解しにくいです。
通常でしたら、草枯れの景色は「寂寥」「荒涼」というイメージですので、それを崩したいという作者の意図は分かりますが、言葉が先行しているようで、結句は比喩をやめて景を詳しくした方が良いと思いますよ。
by 桐山人
作品番号 2022-246
初夏山野
晴柔孟夏巡茶園 晴柔 孟夏 茶園を巡る
麗日ク邨農事繁 麗日 郷邨 農事繁し
拷J閑着無客訪 緑雨 閑着 訪れる客無し
檮∴甌茗煮軒 薫香 一甌(おう) 茗を煮る軒
<感想>
起句の「晴柔」は「晴れた日の柔らかな日射し」を表します。
「柔」が春や秋の日射しの弱さを感じさせますので、初夏でギリギリでしょうかね。
下の「茶園」に持って行くとなると、「晴風」として、「巡」は平字ですので「渡」としましょう。
「茶」の字は結句に持って行きたいので、ここは「渡山園」としておきましょう。
承句は「麗日」とまた天候に持って行くのは煩わしいですので、「四月」として、起句の「孟夏」と重なる気がしたら「晴風午下渡茶園」としておきましょうか。
転句の「緑雨」は初夏に降る雨ですので、前半の晴れた景色が壊れてしまいます。
中二字の「閑着」は「閑でいる状態」を表すのでしょうが、平仄が合いませんので、「如滴拷A」「国澄T蒼」など。
下三字は「客の訪れる無し」と読み下します。
結句は「甌」は平字ですので合いません。
「一啜」「一碗」とし、下三字も平仄を合わせて「煮茶軒」としましょう。
by 桐山人
作品番号 2022-247
初夏郊村
新田滿水亂蛙喧 新田 水満ち 乱蛙喧す
山野蒼蒼夏木繁 山野 蒼蒼 夏木繁る
流風心受逍遙畔 流風 心受し 畦を逍遥す
幼時和暖古風存 幼時 和暖な古風存す
<感想>
田圃に水がいっぱいで蛙がやかましく鳴いている、という起句は問題ないですね。
そこから少し視点を変えて「夏木」に行くわけですが、「新田」から「山野」では繋がりが弱いですね。
「告汚A山夏木繁」としましょうか。
後半は畔道を風を受けて歩いていると、子どもの頃を思い出して懐かしい気持ちになるということでしょうか。
まず転句ですが、ここは仄句(二字目が仄字)のところが平句になっていますね。
また、「風」は結句にも出ています。「一日逍遥郊外畔」というところでしょうね。
結句は「幼時」は良いとして、「和暖」「古風」は無理矢理入れた言葉ですね。
昔を思い出して、ということならば「幼時追憶」「追懐往昔」です。
最後は、何を思いだして、どういう気持ちなのかを表すところですので、詩の要ですね。
この下三字に集中して、言葉を探してみましょう。
by 桐山人
作品番号 2022-248
立秋偶成
路頭野菊一輪秋 路頭の野菊 一輪の秋
風爽蜻蛉往事悠 風爽やか 蜻蛉 往事悠なり
晩照西空充暮思 晩照の西空 暮思充つ
連山染赤夕陽収 連山 赤く染め 夕陽収まる
<解説>
真っ赤な大きな夕陽に感激し、足を止めて沈んでいくまで見届けた時の詩です。
<感想>
起句の「一輪秋」の「一輪」は月を指すのですが、「野菊が一輪だけの秋」となるとどうでしょうね。
「滿香秋」とか「一香幽」などが良いですね。
承句は「往事悠」が上四字とも繋がらず、転句以降にも関連する言葉は無いので、孤立していると言うか、唐突な言葉ですね。
ここは欲張らずに、「蜻蛉」の様子で「飛影悠」とか「獨占秋」などを考えましょう。
転句の「晩照」は夕日のこと、最後の「夕陽」と同じ言葉ですので重複感があります。換えた方が良いですね。
また、下の「暮思」もよく分かりませんので、「遙望西空充暮色」くらいが良いですね。
結句は「赤染」の語順が正しいです。平仄的には逆にしても問題ありませんので、直しておきましょう。
最後は「夕陽収」が良いか、「夕陽悠」が良いか、「悠」にするならば結句優先で、前の方を修正していきましょう。
by 桐山人
作品番号 2022-249
初夏山家
雨霽南風拷A繁 雨霽れ 南風 緑陰繁し
初成梅子悦康存 初成の梅子 悦康を存す
日長籬落無人過 日長く 籬落 人の過ぐる無く
惟有蟻軍遶小軒 惟だ有り 蟻軍 小軒を遶るを
<感想>
初夏の画面は出ていると思いますが、起句の「陰」は平声ですので、ここが残念でしたね。
「克」としておけば良いと思いますが、次も植物ですので別のものを考えても面白いですね。
例えば「爽涼繁」などどうでしょう。
承句は「初成」ですと、今まで育たなかったけど初めて実をつけたという感じです。ここは「新成」でしょう。
転句は「人の過ぎる無し」の理由が「日長」だけでは弱いですね。「垣籬日午」とすれば日射しの強さが出せると思います。
結句は「惟有」が決め言葉というところですが、「無人過」と言った後ですので、ややしつこいかなと感じます。
蟻の姿を形容してみましょう。
「斉整」とか「隊伍」、もっと面白い言葉が入るかもしれませんね。ご検討を。
by 桐山人
作品番号 2022-250
月見泥棒
野市家家暮色青 野市の家々 暮色青し
芒萩供物置茅亭 芒萩 供物 茅亭に置く
盗童遯走月光下 盗童 遯走す 月光の下
今夜中秋涼滿庭 今夜 中秋 涼庭に満つ
<解説>
私の住んでいる地域には、今も「お月見泥棒」という風習があります。
中秋の名月の夕方、子供達が家々を回り、 こっそりお供え物をいただいていきます。かわいい泥棒さんです。
<感想>
起句の「野市」がよく分かりませんが、地名でしょうか。それとも「田舎の集落」ですかね。
承句転句ともに流れが良く、子供達の笑い声が聞こえてくるようです。
「遯」は「逃げる」の意味で「遁走」とも書きますね。
下三字は「月光下」よりも「月明下」とした方が明るさが際立ちますね。
結句は「庭」で良いかどうか、転句までは外を走り回る子供達、急に落ち着いて庭に居るのはどうでしょうか。
「正是中秋夜氣泠」「今夜中秋心氣寧」なども含めて、下三字をもう少し検討しましょう。
by 桐山人
作品番号 2022-251
麝香葡萄
仲夏薫風輕燕翻 仲夏 薫風 軽燕翻る
封植果樹照東軒 封植 果樹 東照す軒
枯枝幾時葉生初 枯枝 幾時 葉初生まれる
獄如糸朶朶繁 緑蔓 糸の如し 朶朶繁る
<解説>
軒先にマスカットの樹を植えました。
最近枯枝から小さな葉が出てきて、蔓が伸び始め、毎日見るのが楽しみです。
<感想>
「麝香葡萄」はマスカットの中国語表記で、香りが良いからとのことです。
全体に果実としての話ではなく、育っていく様子を描きたいようですので、題名はただ「(植)葡萄苗」でも良いかもしれませんね。
起句は夏の情景を並べたということで、これは良いですね。
承句は「植」の平仄が違います。「封植」自体はこの詩では適切な言葉ですので使いたいところ、「葡萄封植」と上四字を持ってきましょうか。
その場合には下三字は「東軒を照らす」となりますので、「照」は「面」が良いですね。
転句は「枯枝」が実感のある表現ですが、「葉が無い」ことと「枯れる」ことは違いますので、気になります。
その他、この句は四字目の平仄が違う点、下三字も平仄と語順がおかしいので直しましょう。
「枝枝經日見新葉(枝枝 日を経て 新葉を見る)」
結句は「朶朶」が葡萄の葉を表すのにどうか、というところでしょうね。
また、「朶朶」と「繁」も重なるようにも感じます。
「延蔓如糸拷e繁」とかでしょうか。
by 桐山人
作品番号 2022-252
仲秋觀月
九月東都盡日停 九月 東都 尽日停まる
巍然大厦市聲聽 巍然 大厦 市声の聴
一輪明鏡擧頭望 一輪の明鏡 頭挙げて望む
寥落獨看層閣陘 寥落 独看 層閣の陘(はざま)
<解説>
数年ぶりに東京に行きました。
田舎と違い高層ビルの間に見る月は絵の軸のようでしたが、歩いている人達は スマホを見たりで下を向く人が多かったです。
<感想>
転句は「一輪」では「仲秋の月」に対しては弱いので、「玉輪」「煌煌」など月の美しさを出しましょう。
結句の「寥落」は群衆の中の孤独、というか誰も月を見ない寂しい気持ちを表したと思いますが、「落ちぶれてしまった」という意味ですので、こちらはちょっと言い過ぎかな。
「寂寂獨看」でも通じますが、「名月獨看」とすれば「仲秋の名月なのに独りで眺めている」というニュアンスは出ると思います。
by 桐山人
作品番号 2022-253
初夏偶成
雲蔽千枝草色暄 雲は千枝を蔽ひ 草色暄なり
晝間密雨叩柴門 昼間の密雨 柴門を叩く
C寥庭上虫聲細 清寥の庭上 虫声細し
殘暮幽然盡日昏 残暮 幽然として 尽日昏し
<解説>
題名と内容が合っているか、心配です。
<感想>
うーん、この詩に関しては、題名と内容というよりも、内容の不統一が気になりますね。
全体のまとまりという点で、感覚がやや甘くなっているように感じます。
まず、「雲蔽千枝」はどういう画面か、と言えば、雲が随分低く垂れ込めて木の枝を覆うような状態です。
そこに「草色昏」ならば分かりますが、「草色暄」では話が合いません。
承句は「晝間」とわざわざ言う必要があるかどうか。
時間経過のために必要なのかもしれませんが、詩全体で見ても「晝間」「殘暮」「盡日」と時間を表す言葉が多く、うるさく感じます。
「密雨」は細かな雨ですので、「叩」が適切かどうか。
転句からは別の日の話のようで、雨が門を叩いていたのに「虫聲細」では聞こえない筈ですので、「虫」は書くべきではないですね。
「C寥」も雲が垂れ込めていた、あるいは「草色暄」のどちらに対しても妙です。
結句は「殘暮」が「幽然」、「盡日」が「昏」とどう区別するのか、「盡日」と来れば「晝間」も「暮」もどちらも含むわけで、「暮」か「盡日」かどちらかにすればすっきりします。
by 桐山人
作品番号 2022-254
秋夜感懷
草虫歌唱滿中庭 草虫の歌唱 中庭に満つ
缺月凭牆夜色冥 欠月 牆に凭れ 夜色冥(くら)し
老大醉顏蓬髪亂 老大の酔顔 蓬髪乱る
因風涼意酒初醒 風に因る涼意 酒初めて醒む
<解説>
月が牆に凭れるという表現ができるか?
<感想>
前半が叙景、後半で作者が登場、詩の展開としては整っていますね。
起句の「中庭」は「建物の間の小庭」になりますので虫の鳴き声としてはよく釣り合います。
ただ、そのまま承句に行くと、「牆」の上の月を見なくてはいけませんので、作者を移動させる必要があります。
面倒ですので、「南庭」としておけば問題無くなりますね。
承句の「月が牆に凭れる」というのは月が垣根に寄りかかっていく、つまり沈みかけている月になりますね。
夜中に沈むとなると上弦の月、表現としては独特ですが面白いと思います。
転句は、「老大」が何故そんなに飲んだのか、春の花見と違いますので、もう少し落ち着いた感じが良いでしょう。
そうすれば、「ふっと吹いた風で酔いが醒めた」というのも通じますが、乱酔状態では結句はちょっと無理ですね。
by 桐山人
作品番号 2022-255
秋山偶成
奇韻飛空天際流 奇韻 空を飛び 天際に流る
僧坊小苑白雲悠 僧坊の小苑 白雲悠たり
杯池虫響無魚影 杯池 虫響けば 魚影無し
ク思看山滿目秋 郷思 山を看れば 満目秋なり
<解説>
起句と承句の繋がりが無いかなぁ?
<感想>
起句の「奇韻」は「素晴らしい響き」ということで、難しい言葉ですね。
この場合には何を指すのか、が判然としないのですが、「飛空」と「天際流」は同意ですので、どちらかでもう少し具体的なことを入れて欲しいですね。
また、「天際」まで読者の目線を引っ張っておいて「僧坊小苑」と小さくして、また、すぐに「白雲悠」と遠くへ行かせるのは、バランスが悪く、仰る通り、繋がりが無いとも言えます。
「小苑」と「白雲悠」はとにかく組み合わせが悪く、また、転句はその僧坊の庭の様子ですので、削るとしたら「白雲悠」の方でしょうかね。
後半を見ると、転句では近景、結句ではまた遠景となり、全体にまとまりがありません。
結句の「ク思」という感懐は、この秋山の景色が気に入らないと言っているような感じですので、別の言葉が良いです。
できれば、「この場所にずっと居たいなぁ」と思わせるような表現が良いですね。
by 桐山人
作品番号 2022-256
麦秋足助
風爽幽林夏木繁 風爽 幽林 夏木繁し
山亭湍P水聲喧 山亭 湍瀬 水声喧(かまびす)し
晩餐足助交歡友 晩餐 足助にて 友と交歓す
我戀舊遊懷古恩 我 旧遊を恋ふ 懐古の恩
<感想>
起句は「幽林」と「夏木繁」が合いますか。
足助でもありますから、「山村」くらいが適当かと思います。
承句の方に「林亭」と置けば落ち着きますね。
転句で一気に「晩餐」となると、一体どこで夕食を食べているのか、川沿いでバーベキュー?という感じ。
ご友人と一緒ということがこの詩では大切ですので、「催朋」とか、単に「舊朋」と書き出した方が良いですね。
「足助」は題名にもありますので、どちらでも良いですが、まだ夜までは行かない方が良いです。
結句で「談笑晩餐」くらいでようやく夜になって、満足する感じが良いですね。
by 桐山人
作品番号 2022-257
立秋偶成
西灝風C慈雨収 西灝 風清し 慈雨収まる
殘蟬盡日拷A稠 残蝉 尽日 緑陰稠し
遠觀田圃緋車両 遠観の田圃 緋の車両
何地羇遊無限愁 何地 羇遊 限り無きの愁ひ
<感想>
起句の「西灝」は「秋の雄大な気」ということで、どちらかと言うと「天高く馬肥ゆる」という中秋が適しますかね。
でも、イメージは良いですね。
それに対して「雨収」が必要かどうか。もっと広々とした感じで、どこか遠くに行きたくなるようなことが欲しいですね。
承句の「殘蟬盡日」は、一日中蝉の声を聞いて庭を見ているだけで、つまらないということでしょうか。ここは今一、狙いがはっきりしません。
転句は名鉄の電車でしょうか。誘ってくれますね。面白いと思います。
結句は、あまり嘆かないで、さあ、どこに行こうかな、というくらいの感じで収めると、明日には出かけるかなと期待感が出て、余韻が出ます。
by 桐山人
作品番号 2022-258
秋日感懷
野風蕭瑟竹林青 野風 蕭瑟 竹林青し
郊畛寺墻赤卒停 郊畛の寺墻 赤卒停まる
搖落木陰吹土笛 揺落の木陰にて土笛吹く
梵鐘響振遊魂醒 梵鐘 響振 遊魂醒む
<感想>
起句は秋らしい趣がまず出されて良い句ですね。
承句も、郊外のあぜ道やお寺の垣根の上にトンボが止まる、という形で遠近を使って立体感のある景になっているのですが、「四字目の孤平」なのが残念。
「垣墻」「門墻」とできますが、どこの「垣根」なのかがわからなくなりますね。
寺を上に持って行く形が良いですかね。
「村寺門墻」として、早めにお寺に目を向けることにしましょうか。
転句はお寺の外ならこのままで良いです。お寺の中に居るなら「院落樹陰」ですね。
結句は「下三平」になっていますので、「遊魂」を「雅情」、旅先ならば「客魂」でしょう。
鐘の音で楽しい時間が壊された、という気持ちを出すなら「響振」を「忽響」、少し穏やかにするなら「暮鐘遠響」で帰る時間になった、という形で鐘を恨むのは避けられます。
by 桐山人
作品番号 2022-259
麥秋賞鉄線蓮
雖小滿涼三畝園 小満と雖も涼し 三畝の園
競青紫白線華繁 競ふ 青紫白 線華繁し
移根易地毓成賜 根を移し 地を易へ 育成賜ふ
芬馥須臾雙蝶屯 芬馥 須臾 双蝶屯す
<感想>
起句は上四字の表現が煩わしいので、「小満風涼」(小満 風は涼たり)で同じニュアンスは伝えられるでしょう。
また、起句に「小満」と季節を表す言葉が入りましたので、題名の「麥秋」は削った方が良いですね。
承句は文法的には問題ありませんが、「線華」で通じるかどうか、だけが心配ではあります。
転句は「賜」ですと身分が上の人に育てていただいた、という感じになります。
「移根」「易地」の作業をしたのは作者でしょうから、そうすると意味的には「賜」は「久」くらいが良いです。
結句は「須臾」で短い時間ということですが、これですと花の香りは短時間しか無かったということになります。
作者の狙いは、「すぐに」ということでしょうから、「即時」が良いです。
全体に見ると、後半の繋がりが弱いので、語句を入れ替えて、「移根易地育成繁 線華競色白青紫」が良いです。
by 桐山人
作品番号 2022-260
不出家
尾張蔓延令 尾張 蔓延令
三年病毒滔 三年 病毒滔(はびこ)る
繙書家不出 書を繙き 家を出でず
案句弄吟毫 句を案じ 吟毫を弄す
<感想>
起句の「蔓延令」は当事者の私たちは分からないでもないですが、本来は話が逆で、「蔓延防止の法令」でないといけません。
これですと「蔓延せよという法令」になります。
また、「尾張」だけですと「三河」はどうなったとなりますので、ここは「県下」とした方が良いですね。
承句の末字「滔」は水が勢いよく広がることを表す字で、「病毒」に対して良い語ですね。
この下三字は良い形ですので、「本邦病毒滔」とすっきりさせ、起句を検討する方がよいでしょう。
後半は「案句」を転句に持っていき「繙書」と対にしたいところ、「繙書時案句」でどうですか。
結句の方も「不出」を残して「不出弄吟毫」も良いでしょうし、「蟄伏弄吟毫」と少し大げさに持って行っても、五言詩らしくなって面白いでしょうね。
by 桐山人
作品番号 2022-261
自詠
離職八年過 職を離れ 八年過ぐ
繞頭五絶望 頭を繞らし 五絶に望む
山家多季語 山家 季語多し
案句毎監ク 句を案じ 毎(つね)に郷を監(み)る
<感想>
五言ですので「孤平」については二字目が対象になります。(「二字目の孤平」)
この詩では、承句がいけませんね。「繞頭」は「頭を使って」ということですから、「勞心」くらいが良いです。
下三字は「望五絶」の語順でないと理解できません。これでは「五回絶望した」ですかね。
これでは押韻も合いませんので、「五言初入囊(五言初めて囊に入る)」「五言爲一行(五言一行を為す)」。
転句は「季語」では和語ですね、「好節」「適節」が良いでしょう。
結句は「監」で「見張りをする」ということでしょうか。「看」と普通の形にした方が五言の詩は分かりやすくなりますね。
by 桐山人
作品番号 2022-262
鶯對話
伴犬早春歩 犬を伴ひ 早春歩む
流鶯斷續鳴 流鶯 断続に鳴く
響聲回口笛 声響き 口笛を回(かえ)す
問答往來輕 問答 往来軽し
※
<解説>
久し振りの口笛を吹けど鳴らずで奮闘
<感想>
こちらは五言らしい軽快な詩になっていますね。
こうした小さな出来事をまとめるには五絶が良いとも言えますね。
転句の「口笛」は中国では楽器(小さな竹笛)になりますので、ここは和習です。
「應聲回口哨」とするのが良いでしょう。
結句は楽しい一時の感じが「輕」の字に出ていますね。
by 桐山人
作品番号 2022-263
四季櫻樂三花
鶯韻群芳色 鶯の韻き 群芳の色
因風亂舞葩 風に因り 乱舞の葩
滿條櫻蕊降 条(えだ)に満つ 桜蕊降る
千葉樂三花 千葉 三花の楽しみ
<解説>
庭前の四季桜の観察にて詠みました。
<感想>
題名の「三花」が分からないのですが、詩の内容から考えると、開いた姿、散る姿、葉桜ということでしょうか。
私自身は直接聞いたことが無いので、少し説明が要るでしょうね。
起句は表現がおかしいですね。
これでは「鶯の鳴き声」が「群芳の色」で、視覚と聴覚がごっちゃになります。
「色」を「裏」とすれば視覚で揃います。
承句でもう花が散るのはよくありません。
これですと、承句と転句で同じことを言っているわけで、変化が少なく、特に五言では転句の変化が弱いのは詩を単調にさせます。
承句までは満開の美しさで整えておくべきでしょうね。
転句は「千枝櫻蕊降」、結句は「新葉」が良いですね。
by 桐山人
作品番号 2022-264
初夏茅齋
書屋懸簾凊 書屋 簾を懸けて凊(すず)し
燕銜泥覓巢 燕は泥を銜(ふく)み 巣を覓(もと)め
紫藤垂杪長 紫藤 杪に垂れて長し
不響讀書聲 響かず 読書の声
<感想>
全体に平仄に気を付けていらっしゃることは分かりますが、転句の末字「長」が仄声になるのは「育つ」「生長する」の意味の時だけです。
ここは「長い」の意味ですので平声と考えなくてはいけません。
起句と結句に「書」が重複していますので、ここも直しましょう。
内容的には転句まで、書斎の様子がまとまっていますね。
結句ですが、「響かず」ということは「響く」ということが前提にあって、本来は響いてくる筈なのに聞こえないという気持ちの表れです。
そうなると、誰の「讀書聲」が聞こえてこないというのか、また、聞こえてこないということで何を言いたいのか、その辺りの情報を転句までのところで書いておかないといけませんね。
流れとしては転句で作者の姿を描いて、「読書声」に繋げておくと良いのですがね。
「燕」を残すか「藤」を残すかはお好みで良いと思います。
by 桐山人
作品番号 2022-265
題柚子花
四面低溫枝密 四面 低れし枝密にして
雪花繁蕊香 雪花 繁蕊香し
此R傷手刺 緑を栾(あつ)めて 手を傷つくる刺
浮柚療湯溫 柚を浮かべ 温湯で療(いや)す
<感想>
「低」は動詞として読んでいますが、「ひくい枝」と読みます。
「垂枝」とした方が良いでしょう。
転句はここで「香vを出すと、前半の対句の効果が弱くなります。
結句は「浮柚」と言われるとどうしても果実を浮かべるように考えます。
この場合にはまだ花の段階ですので、この詩も時間軸が気になりますし、手指の傷を柚子湯で治すというのも変な感じです。
前半は良い景色になっていますので、後半をあまり急がずに、結句でもう一度叙景に戻る形が良いと思います。
by 桐山人
作品番号 2022-266
戲題新栽葱
移根毋槁悴 根を移し 槁悴する毋かれ
花序逐行風 花序 行風を逐ふ
新葉向丹日 新葉 丹日に向かふ
五壟慈養中 五壟 慈養の中
<感想>
新しく葱を移植したということでしょうか。それならば起句は良く分かりますね。
承句の「花序」は葱坊主、「擬宝珠」と呼ぶのは問題ありませんが、「擬宝」で切るのは無理矢理ですね。
もともとは「宝珠」に「擬」すところからの名前ですので、「宝」と「珠」を切ってはいけませんね。
代案として書かれた「擬宝珠追風」ならば意味は通じますが、「下三平」ですのでこれは駄目です。
「行風」は流れる風、葱の花が風に揺られているという画面でしょう。
転句は承句からの時間軸がやや気になります。葱の花が出来た後に「新葉」という順番ですか。
結句は「五壟」はうねを五つ設けたと考えて、写実的と言えばそうですが、他の言葉を考えてはどうでしょう。
「慈養中」は「新葉」と考えると、じっくりと育っている様子でしょう。
そういう意味では後半でひとまとまりということなのでしょうね。
流れとしては、「移根」から「新葉」、その後に「慈養」から「花序」と流れると「葱の一生」という感じで時間の流れがすっきりすると思います。
by 桐山人
作品番号 2022-267
秋思
芒黄垂觝地 芒黄 垂れて地に觝れる
靜聽百虫幽 静かに聴く 百虫幽なり
柿熟禽銜餌 柿熟し 禽餌を銜(ふく)み
賞心望滞留 賞心 滞留を望む
<感想>
起句の「觝」の読み下しは「觝(ふ)る」
「幽」の字は「ほのか、くらい、かすか」という意味ですので、虫の声にしても「百虫」では食い違ってしまいます。
「草虫」ならば話は通じますが、上の「靜」とも重複しますので、句全体を見直した方が良いですね。
転句は「熟した柿を鳥が食べている」という光景ですか、鳥が柿を口の中にくわえる形で、相当大きな鳥でないといけませんね。
鳥を出すにしても下三字は詩的なものではなく、説明だけの句になっていますので良くないです。
転句が甘い分、結句の「賞心」は何に心が動いているのか、あるいは「望滞留」の理由もはっきりしません。
転句の推敲次第になるでしょうが、この句も「賞心」と「望滞留」が同意のことを言い換えただけで、作者の心が見えてこないです。
上二字か下三字、どちらかを別の言葉にした方が良いでしょう。
by 桐山人
作品番号 2022-268
苅穫
黄雲田舎趣 黄雲 田舎の趣
苅穫粒音幽 苅穫 粒音幽なり
覓餌燕群舞 餌を覓め 燕群舞す
停機排百優 機を停め 百優を排す
<感想>
起句は「黄雲」が「趣」というのが通じませんね。
「田圃廣」とか「田圃悠」と押韻してはどうですか。
承句は「粒音」は何のことでしょうか。
転句ですが、実った稲を求めて「群舞」するのはツバメですか。
ツバメは虫を食べるし、時期的にもツバメよりも雀の方が自然ですし、「群舞」にも適すると思います。
ツバメを出したかったら、別の行動にした方が良いですね。
結句は機械を停めたわけで、「耕」を止めたわけではありませんから、このままで良いと思います。
ここの「百優」は何でしょうか、「百憂」の間違いですか。
ただ、「百憂」だとしても、それまでの内容のどこからこういう気持ちが湧くのか、それほど大きなものが無いので悩みます。
「百憂」を忘れるほどの素晴らしい景を転句までに入れるか、この下三字を変えるか、どちらかでしょうね。
by 桐山人
作品番号 2022-269
樂梨花
桃杪落葩庶 桃杪 葩落つること庶(おお)し
鵠Z雙蝶飛 緑濃 双蝶飛ぶ
平棚千樹雪 平棚 千樹の雪
香氣乍過衣 香気 乍ち衣を過(よぎ)る
<感想>
承句は「鵠Z」は蝶の形容ですか。
それとも新緑の季節を表したのでしょうか。ここは言葉足らずですね。
転句はここから主題の梨に行くのでしょう、花を「雪」に例えるのは良いと思いますが、桃の話から突然「雪」では読者は付いていけません。
「梨」の語を入れたいですが、「平棚」も欲しいところ、やはり言葉足らずの感はあります。
五言で行くならば「梨棚」として「平」はあきらめるしかないですね。
結句は「過」が疑問。「千樹雪」ということですとかなり広い農園、そこから花の香りが来るならば「盈」とか「沾衣」が良いでしょう。
by 桐山人
作品番号 2022-26
仲秋觀月
墜露黄芒老蛬聽 墜露 黄芒 老蛬を聴く
半輪斜月滿幽庭 半輪の斜月 幽庭に満つ
案詩覓句題何限 詩を案じ 句を覓め 題何ぞ限らん
頻費推敲杯酒停 頻りに推稿に費やし 杯酒停まる
<感想>
起句の地上の景から承句で空も融合させるのは良いですね。
難点は、「半輪」の「斜月」が「庭に満ちる」ほどの光をもっているか、です。
それより以前に、「仲秋觀月」の題で「半輪斜月」を何故見るのか、満月にすれば問題無くなります。
もちろん、満月以外の月の良さもありますので、そちらを楽しむというなら題名を「秋月」くらいにしておくと良いです。
ということで、ここはひとまず題名に合わせて、満月、明月にして行きましょう。
「皎然月影」とか「皎然璧月」でも良いでしょう。
転句の「題何限」ですので、どんどん詩ができるというイメージですので、李白になったつもりで結句を考えた方が良いですね。
そうすると、最後は「杯不停」として、上四字を豪快に考えて下さい。
by 桐山人