作品番号 2022-91
題故友舊居
野色枯凋映夕陽 野色 枯凋し 夕陽に映ず
窗前疎葛滿庭荒 窓前 疎葛し 満庭荒る
臘梅不語空餘馥 臘梅語らず 空しく余馥す
回顧往時思慕傷 往時を回顧し 思慕傷む
<解説>
往時、亡友の旧居を訪ねた時の記。今は転売されてその面影は無く、遺愛の臘梅も失せた。
<感想>
起句はお友達の家への道筋の景だと思いますが、次がもう「窗前」ですので、起句で家まで辿り着いておかないと画面が掴みづらくなります。
「小徑枯凋故友堂」のような形で、取りあえずは家を訪問し、その家の様子へと進めましょう。
承句の「疎葛」は「疎らな葛」ですが、逆に「小窗滿葛一庭荒」と葛に覆われた方が良いと思います。
結句は「回顧」と「往時」、「回顧」と「思慕」が重複感がありますね。
どれか一つを削って、最後を「夕陽」で余韻を残して終らせるのも良いかと思います。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-92
水仙
川堤槁悴凍雲移 川堤 槁悴 凍雲移る
颯颯晴和且佇湄 颯颯 晴和 且く湄に佇む
C爽水仙花絶俗 清爽の水仙 花は俗を絶つ
戰風白萼艷容滋 風に戦ぐ白萼 艶容滋し
<感想>
起句のまだ冬の寒さが残っている場面、承句では「晴和」ですので、このずれで季節の推移を出したのでしょうか。
二つの句が散けているように感じます。
早春にしろ晩冬にしろ、どちらでも良いと思いますので、統一してはどうでしょう。
後半は「清爽」「絶俗」「艶容」など、花の形容が続きますね。
特に「花絶俗」と「艶容慈」は繰り返し感がありますので、どれかを香りにするとか、別の形容を探すとかが良いと思います。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-93
賀新春
花發餘寒聞遠雷 花発いて 余寒 遠雷を聞く
夜來細雨百枝催 夜来の細雨 百枝催す
竹園閑靜交禽語 竹園 閑静なるも 禽語を交ず
迎歳重齡共擧杯 歳を迎へ 齢を重ぬ 共に杯を挙ぐ
<解説>
二月は祝日催事が多い。小生の誕生月でもある。満九十四歳、首を回らせば一炊の夢であった。
今後は健康第一。コロナ禍中ではあるが、小宴を催し、家族で歓談した。
<感想>
九十四歳、おめでとうございます。いつも勉強会でお元気な姿を拝見できるのが何よりも楽しみです。
題名だけ見ると「新年」の詩だと思いますので、「嘉早春(生日)」としましょう。
起句の「遠雷」は春の雷を暗示する言葉で、書き出しに入れると雰囲気が整いますね。
承句は「百枝」ですと「催」に繋がりにくいので、「百芽」「嫩芽」が良いでしょう。
承句の最後に植物関連を持ってきたので、転句を「竹」で始めると流れ過ぎですね。
「小園」でどうですか。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-94
麥踏
萬物高揚日日新 万物 高揚 日日新なり
東郊遊歩野橋春 東郊 遊歩す 野橋の春
寒風飄疾伊吹颯 寒風 漂疾す 伊吹の颯(はやて)
麥踏專心斜照人 専心に麦踏す 斜照の人
<解説>
早春の農村風景である。今は麦作は少なく、あまり見ることはないが、往時を思い出させる。
夕陽を浴びた農人の姿は詩情を喚起させる。
<感想>
春の田畑の好景ですね。
承句の「野橋」は川が流れている場所を表していると思いますが、麦踏みとの繋がりでは土地を狭く感じさせますので、「野原」と拡がりを残した方が大切です。
結句は無理に語順を読み替えなくても、「麦踏に専心す 斜照の人」とするのが良いですね。
そうなると、承句や転句も中二字が「〜す」となりますので、調整が必要です。
承句は「東郊を遊歩す」、転句は「寒風飄疾たり」と多少変化させましょうか。
これは、実は承句転句結句の下三字が皆「二字+一字」の名詞句で終っていることも原因で、どうしても四字目の切れ目が大きくなってしまうわけです。
例えば、転句を「伊吹雪嶺到寒氣」(伊吹の雪嶺 寒気を到らす)という感じで文構造を変えると自然に変化が生まれますね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-95
春日花下
夕暮春江雨帶煙 夕暮の春江 雨煙を帯び
長堤櫻樹競芳姸 長堤の桜樹 芳妍を競ふ
花天月地風流極 花天 月地 風流の極み
一刻萬金詩酒筵 一刻 万金 詩酒の筵
<感想>
春の夕暮れらしい良い好景ですが、雨は降っていた方が良いですかね。
「長堤櫻樹」と遠くを眺めたり、「花天月地」の言葉で月夜の宴を思いますと、起句は「映日鮮」の方がバランスが良いかと思います。
承句は「競」ですと、櫻樹が何と競っているのか、梅でしたら花が競い合うでも通じるのですが、桜は枝で一纏まりという感じだからでしょうか。
「弄」としてはどうでしょう。
結句は蘇軾の「千金」よりも多く「萬金」、大きく持ってきたのも詩の雄大さが出て、良いですね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-96
別離
止宿木蘭月影臨 止宿の木蘭 月影臨む
姸姿獨占夜沈沈 妍姿 独占 夜沈沈
深更風雨花空散 深更 風雨 花空しく散ず
適世別離傷客心 適に世は別離 客心を傷ましむ
※
<解説>
三月中旬、梅花は在るが、桜は未だし。木蘭の白い大型の花弁は遠目にも判る。
花の生命は短くて一夜の風雨に落花狼藉となる事は痛ましい。人生は別離である。
<感想>
起句の「止宿」は旅先の宿、木蘭の花と空の月、この二つの取り合わせが一幅の絵を形作っていますね。
ここは「四字目の孤平」になっているのが勿体ないですね。
「木蘭鉤月下」「木蘭浮月影」と踏み落としも考えられますが、「止宿」は最後の「客心」で分かるとも言えますので「白木蘭花月影臨」としてはどうでしょう。
先に旅先ということを示したければ、題名に「止宿知別離」と入れる形でしょう。
承句の「姸姿」は起句の「木蘭」と「月影」の二つを指すと考えたいですね。
その「姸姿」を独り占めして、夜が静かに更けていく、という風情も味があります。
転句から天候の急変、この展開も安定しています。
結句は「人生足別離」(于武陵)ですね、上四字がやや分かりにくいです。
「還見(遇)別離(還た別離を見る)」としてはどうでしょうか。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-97
春愁
竹軒菜圃晩春霞 竹軒 菜圃 晩春の霞
含笑麗姿胡蝶花 含笑の麗姿 胡蝶花
北雁歸徂新月淡 北雁 帰り徂く 新月淡し
傷魂暮立老生爺 傷魂 暮立す 老生爺
<解説>
春愁は児女の情と云うが、老残の身に、晩春の暮景はまことに淋しいものである。
<感想>
「蝴蝶花」は「シャガ」ですね。
「含笑麗姿」だけですと実際の姿が出てきません。
ここは具体的な描写が欲しいところですので、花の色とか、別の花とは違う点を挙げて欲しいですね。
転句は「雁」と「新月」が対になっていて、佳句ですね。
転句の素材配置が良い分、晩春の情が薄れてしまい、結句の「傷魂」が何に因るのかがちょっとぼやけてしまいました。
結句の方に「晩春霞」を持って来ると後半のまとまりが出ると思います。
起句は「老生家」などの形で「家」を韻字にすると良いでしょう。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-98
惜春
寒村孤往野川隣 寒村 孤往 野川隣る
柳拷ヤ紅滿目新 柳緑 花紅 満目新た
樹杪回頭覧飛絮 樹杪 回頭すれば飛絮を覧る
行雲流水惜徂春 行雲流水 徂春を惜しむ
<解説>
郊外の春の野は寂として、唯だ時が自然に流れるのみ、ここはコロナも戦争も無い。
<感想>
川沿いの柳や桃、色鮮やかな風景が目に浮かび、「柳拷ヤ紅」の成語も効果的ですね。
この春景色満開の中ですので、書き出しの「寒村」がややひっかかりますね。
「寒」は「まずしい、さびれた」という意味ですが、その大本は「寒さに凍える」ことから来ています。
「僻村」「郊村」など、他にも同様の言葉はありますので、そちらの方が良いでしょう。
転句は良いですね。
結句ですが、「行雲流水」の「人為を加えず在るがまま」という上四字と、「惜徂春」という感情はどうもしっくりきません。
「落花流水」なら分かりますが、「行雲流水」で行くならば「惜」は「愛」「賞」とした方がしっくりすると思います。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-99
早春即興
二月輕寒春動時 二月 軽寒 春動く時
臘梅脈脈擅芳姿 臘梅 脈脈 芳姿を擅にす
鶯梭睍v横斜影 鴬梭 睍v 横斜の影
一樹風流獨賦詩 一樹 風流 独り詩を賦す
<解説>
庭の臘梅が満開になり、毎日、香と光沢のある姿に癒やされています。
<感想>
起句の「二月」が微妙なところで、旧暦で考えると一ヶ月遅れます。
「雨水」とするか、「一月」として結句の「一樹」を変更する方法もあります。
転句の「鴬梭」は「鴬が枝を飛び回る様子」を表しますので、「睍v」を生かすならば「鴬歌睍v」、逆に「鴬梭」を使うなら「鴬梭遷轉」、下三字は「早梅樹」と先に梅だと示した方が良いですね。
結句は「風流獨賦詩」に繋がるようなものを上に置くような形が良いです。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-100
祝入學
風暖芳菲天地春 風暖かに 芳菲 天地の春
愛孫門出感懷新 愛孫 門出 感懷新たなり
優優利發才華在 優優 利発 才華在り
吾願前程康健伸 吾は願ふ 前程 康健に伸びんことを
<解説>
孫二人が小学校と中学校に今春入学します。少し早いですが、記念に作りました。
<感想>
おめでとうございます。これからが楽しみですね。
将来、漢詩が理解出来るようになった時に喜んでくれるような詩にしたいですね。
起句は「風暖花開天地春」と上四字を対語にしましょう。
承句は「門出」は和習ですし、お二人とも入学ということでしたら、「門出」ではなく「入門」の方が分かりやすいです。
「入黌孫子(黌に入る孫子)」ですかね。
結句は「吾」は要らないので、「只願」とした方が祖父母の気持ちが強く出ると思いますよ。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-101
春日花下
歩歩輕風古寺邊 歩歩 軽風 古寺の辺
嬋娟櫻樹梵鐘前 嬋娟 桜樹 梵鐘の前
飛花片片春愁兀 飛花 片片 春愁兀たり
歸鳥間関薄暮天 帰鳥 間関 薄暮の天
<解説>
夕桜を観に近くのお寺を散歩しました。淡紅の桜は満開で、風が吹くと散る風情はしみじみとしたものでした。
<感想>
全体に二字の畳語、重韻語が多く、「歩歩」「嬋娟」「片片」「間関」が続くので、音がうるさく感じます。
特に承句の「嬋娟」はどちらも下平声一先の韻字、つまり「冒韻」となっていますので変更したいですね。
桜を形容する言葉を入れましょう。
また、下三字は「桜樹」が「梵鐘前」ではおかしく、建物の前とした方が良いです。「梵台前」としましょう。
転句の「兀」は通常は「兀兀」「突兀」と使いますが、ここは「句中対」の関係ですね。「兀」以外ならば単純に「動」「起」などですね。
結句は「帰鳥」では「春愁」と重なって、全体が重くなり過ぎるような気もします。「黄鳥」として、少し明るくして終わらせる方が良いでしょう。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-102
訪瑠璃光院
名刹山深拷門 名刹 山深く 緑は門を掩ふ
苔庭泉石滌塵煩 苔庭の泉石 塵煩を滌ぐ
素花映日薫風裏 素花 日に映ず 薫風の裏
C晝悠悠淨六根 清昼 悠悠 六根を浄む
<解説>
数年前の五月に比叡山の麓の瑠璃光院を訪ねました。新緑・花馬酔木・瑠璃色の泉石が印象に残っています。
<感想>
良い詩ですね。
転句の「素花」は本当は花の名前が入ると良かったのですが、馬酔木は漢語では書きにくいですからね。
結句は「悠悠」ですと下の「淨六根」との関わりが弱いですね。
頭の「C」があるから、尚更「悠悠」が浮いて感じるのかもしれません。
転句から「風」を持ってきて、「午下清風淨六根」「五月清風淨六根」とすると流れが良くなると思います。
転句の下三字は瑠璃光院の景色を描けると良いですが、季節を感じさせる言葉でも良いでしょうね。
「晴嵐裏」とかですかね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-103
春日花下
清風春草小橋邊 清風 春草 小橋の辺り
黄鳥花堤映日鮮 黄鳥 花堤 日に映じて鮮たり
詩景吟來心氣爽 詩景 吟じ来たる 心氣爽かに
野翁逍遥有飛鳶 野翁 逍遥 飛鳶有り
<解説>
陽気にさそわれて、近くの川縁を散策した様子を詠みました。
<感想>
春の穏やかさがよく表れていますね。
起句ですが、「草」ですので「橋」よりも「堤」の方が良いですね。
そうなると承句の方は「黄鳥花陰映日鮮」でしょう。
転句はこれで良いですが、結句の「逍遥」は「○○」ですので「二四不同」が壊れています。
「歩歩」「閑歩」として、「有」は「看」としておくと目が上に向いて行くでしょうね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-104
早春賦
竹外餘寒午後風 竹外の余寒 午後の風
早春時節夕陽空 早春の時節 夕陽の空
初鶯輕暖梅花信 初鶯 軽暖 梅花の信
茅屋門庭殘雪中 茅屋 門庭 残雪の中
<感想>
この詩は単語がバラバラと並んでいる感じですね。
「賦」ということで歌のようにしたいという意図かもしれませんが、下三字が皆「二字+一字」で並ぶのは単調で、面白くありません。
内容的にもしっくり来ないところがあり、起句の「午後風」と承句の「夕陽空」は時間が合いません。
時間経過を表すにしても、「早春時節」では一日の変化ではないので尺度が異なり、変ですね。
また、転句も「初鶯」「軽暖」「梅花信」と三つの言葉が繋がらない印象です。
「鶯」がどうしたのか、「梅花」はどんな様子なのか、そうした丁寧な描写をしていけば具体的な景も浮かんで来ます。
春先の単語を羅列しただけでは、何が言いたいのか伝わって来ません。
「余寒」「軽暖」もどちらかで良いですね。
全体の推敲は事物を絞る形で、表現を膨らませる方向で検討するのが良いです。特に、前半の下三字、転句の素材の整理というところでしょうね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-105
春寒
幽居黃鳥竹欄前 幽居の黄鳥 竹欄の前
遠岳依依白雪懸 遠岳 依依として 白雪懸かる
屋後風情春尚淺 屋後 風情 春尚ほ浅し
疎梅料峭薄寒天 疎梅 料峭として 薄寒の天
<解説>
今年は例年に比して寒さが厳しいです。状況を梅と鶯で表現したつもりです。
<感想>
こちらの詩は繋がりの分かる句が多いですが、やはり名前だけで終っている素材が「黄鳥」「疎梅」で、顔を出しただけでは可哀想ですね。
起句は「幽居」と「竹欄前」と場所を二つも出さずに、そうですね、「幽居」の方を「初音」としてはどうですか。
承句は「遠岳依依」で「遠くの山がぼんやり見える」というのは分かりますが、そのぼんやりの向こうに「白雪」ですとくっきり過ぎませんかね。
白雪も含めて「ぼんやり」と解釈すれば分からないでもないですが、「依依」をも少し別の言葉ではどうかと思います。
結句は「料峭」と「薄寒」が類義語でしつこく感じます。
先に書きましたように、「疎梅」の香りとか色などを描写すると落ち着いた詩になると思います。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-106
樂農
C和四月拷A中 清和の四月 緑陰の中
新樹醒來瑞氣融 新樹 醒め来たって 瑞気融(とお)る
節屆鋤禾農事勵 鋤禾の節に届(いた)って 農事に励む
陽光日午樂薫風 陽光の日午 薫風を楽しむ
<解説>
今年の四月は例年に比べ気温が高く、農作業がはかどりました。
<感想>
よく整っていて、爽やかな初夏の空気感が感じられますね。
承句は「醒來」の擬人化は良いですが、表現がちょっと回りくどく感じますね。
「草樹新生瑞氣融」と拡げて描いてはどうでしょう。
転句の「鋤禾」は、「粒粒辛苦」の語源になった李紳(晩唐)の「憫農」に表れた言葉でしたね。
その「粒粒辛苦」の詩が連想される形で、典故がよく働いていると思います。
ただ、読み下しのように「鋤禾の節に届る」と読む語順は無理ですので、そのまま「節は届りて 鋤禾 農事に励む」と読んだ方が良いですね。
結句は「陽光」と「日午」のどちらかを削って、「吟詠」のことを入れてはどうでしょうね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-107
春日花下
東風吹到競春姸 東風吹き到りて 春妍を競ふ
古寺芳園花欲燃 古寺の芳園 花燃えんと欲す
習習南檮*ャ脈 習習 南栫@香脈脈
森然溪谷色娟娟 森然 渓谷 色娟娟
<感想>
起句は「東風」が「競」う相手がありませんので、「競」を「誘」「弄」などにすると良いですね。
承句は「芳園」ですが、後半に香りを持ってくるならば「庭園」としておくと重複感が無くなります。
また、「欲燃」ではまだ花が真っ赤になっていませんので、後半への流れを考えてここは「正燃」(正に燃ゆ)としておくと良いでしょう。
転句は、ここでまた風に戻るのは疑問です。しかも「南」ですので方向が変わっていて、気になりますね。
具体的に梅を出してその香りが漂うようにして、「脈脈梅香繞襟袖」(脈脈たる梅香 襟袖に繞(まつわ)る)
結句は「古寺」から突然「渓谷」に行くので、どこに居るのか分からなくなります。
また、「渓谷」が「色娟娟」ですと、秋の紅葉のイメージになりますね。
当初の古寺を舞台にして、この句は再考されると良いでしょう。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-108
思春氣
籬落山茶繮眼旋 籬落の山茶に 繋眼は旋る
小庭葩卉嫩芽延 小庭の葩卉(き)に 嫩芽は延びる
逍遙草木頻凝視 逍遥し 草木を凝視頻りなり
何日櫻開待酒筵 何日桜開かん 酒筵を待つ
<解説>
散歩コースに、毎年桜見を行った場所の桜の芽をみる。
「繮眼」: メジロ
<感想>
題名の「思」はどんな意味を考えていますか。
通常ならば「春気」だけで充分ですので、更に「思」が付け加わると逆に意味が分かりにくくなります。
起句は「山茶」、承句は「葩卉」、転句でも「草木」、結句は「桜」と全ての句に植物が登場します。これは単調な風景描写になります。
植物以外の春の代表物を考えてはどうですか。
転句での「逍遙」は作者自身が登場したのでしょうが、事前に全く気配の無い中で出てきますし、流れとしては「逍遥する草木が頻りに凝視する」というちょっとホラーな世界が表れてきます。
結句は「桜」「酒」はありきたりですね。
初めに書きましたが、前半で春の植物を描いているのに「桜」を待っているようでは、「籬落の山茶」も「小庭の葩卉」も価値が無いような形になります。
桜や酒を出さない形で結句を考えましょう。
なお、起句の「繋眼」でメジロということですが、「繍眼」ではないですか。目の縁を白く縫い取りをしているようだということで表記されたものです。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-109
小庭春色
自宅南穹看白煙 自宅の南穹に 白煙を看る
東風節季又春旋 東風の節季 又春は旋(めぐ)る
小庭芍薬新芽出 小庭の芍薬 新芽出づ
無葉桃紅色彩鮮 葉の無い 桃紅 色彩鮮やかなり
<解説>
まだ少し、外気は肌寒いときのピンクの鮮やかさかを詩にする。
<感想>
起句の「自宅南穹」は正確には「自宅から見える南の空」、「自宅の南の空」ではどうも言葉足らずですね。
そもそも「自宅」は要らないでしょうね。
この「白煙」も何のことか、どこかで火事かと思いました。「雲」でしょうか。
承句で「旋」となるのは「春」ではなく「風」の方でしょうね。
順番を替えて「酣春節季好風旋」とした方が句として明解になります。
転句は良いですね。
結句は「無葉」とわざわざ見えない物を出すのは、どんな効果を考えているのでしょうか。
「桃紅」は修飾語と被修飾語の関係が逆で「紅桃」とすべきで、「桃紅」では「桃が紅い」という主語述語の関係です。
「芍薬」と「桃」で二つ花を出したのは、時間差を意識されたのでしょうか。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-110
鳥葬
空中大鷲巧遅翻 空中に 大鷲 巧遅に翻す
鳥葬葬儀遥在嶺 鳥葬 葬儀 遥か嶺にあり
残酷行為催禁止 残酷 行為 禁止を催す
生民死去冀昇天 生民 死去し 昇天を冀ふ
<解説>
イラン旅行のひとこま 拝火教の、アフラマズーダを見学
<感想>
「翻」は「上平声十三元」、嶺は仄字、天は「下平声一先」、これでは韻を踏んだことにはなりません。
起句は韻字を「旋」とすれば一応、話は繋がるでしょう。
転句の「残酷」というのは文化の違いで、死体を焼くことも土に埋めることも残酷な行為と言えば言えます。
要はそれぞれの土地の風俗であり、それを批判的に語るのはどうでしょうか。
ここは転句を検討しましょう。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-111
思大王
大王戦勝入場城 大王 戦勝し 城に入場する
宮殿燃焼暴逆驚 宮殿を 燃焼 暴逆に驚く
廃址石頭楔文字 廃址に 石頭の 楔文字
如今太古識光栄 如今 太古の 光栄を識る
<解説>
大王はアレキサンドロス、ベルセポリスの跡地にて
<感想>
起句は「入場」か「入城」であり、「入場城」では目的語が二つでおかしいですね。
「城」をもう少し説明して「入岩城」では景色に合いませんか。
承句は「燃焼」では「暴逆」に対して弱いですね。
ここは大王の行為を表さなくてはいけませんので「破壊宮樓」としましょう。
下三字も「驚」では作者の行為になってしまいますので、「暴逆嬴」で読みは「暴逆嬴(あま)す」としましょうか。
結句は「太古の光栄」とは繋がりません。「遙看太古識光栄」(遥かに太古を看て光栄を識る)でしょうか。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-112
読宮城谷昌光作家小説
漢字夢中心酔親 漢字に夢中になり 心酔して親しむ
中華古代著才人 中華の古代の才人を著はす
多多典故驚知識 多多の典故の知識に驚く
絶品文章読者臻 絶品の文章 読者臻(おお)し
<解説>
数冊読む。読みだしたら、止まらない。
<感想>
起句の「夢中」は「夢の中」の意味で、「熱中する」という意味では和習です。
上の四字と「心酔親」は繋がりませんし、「漢字が夢の中に現れて心酔している親」となって意味が通じません。
漢字に興味があって読み始めたら面白くてたまらない、ということでしょうが、上四字がある分だけ話がわかりにくくなっています。
「一読陶然心酔頻」という形でしょうね。
起句が落ち着けば、承句以降は素直に読めます。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-113
読塩野七生作家小説
卒業渡欧遊学 卒業し 渡欧し 遊学が堰iととの)ふ
伊邦古代想望頻 伊邦の古代 想望すること頻りなり
私論事実書西史 私論と事実で 西史を書く
平易文章衆読人 平易な文章で 読人衆(おお)し
<解説>
西洋史に興味を持たせて頂いた作家です。
「伊」: イタリア
<感想>
塩野七生さんは「ローマ人の物語」でしたね。
もう十年か二十年くらい前になりますが、私も夢中になって読んだ記憶があります。
起句の「堰vはどういう意味でお使いになったのでしょうか、「辰(とき)」「身」「春」など他の韻字を検討した方が良かったですね。
承句は「想望頻」なのは塩野さんですか、作者ですか。
まあ、どちらとも取れるところが面白いところとも言えますから、ここはこれで良いですね。
転句は「書」では失礼で「著」としましょう。
「私論事実」は塩野さんを弁護されたお気持ちでしょうが、雄大なスケールと豊かな想像力など、作品そのものを評価する表現を探した方が良いと思います。
結句は「読人」で、「読者」からの連想でしょうが、これは造語で、意味が通じません。
ここは「魅了人」とするとか、ここで「頻」を使うと句をまとめやすかったと思いますよ。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-114
思河上肇教授
国家施政正為論 国家の施政に 正しい論を為す
入獄四年真意翻 入獄 四年 真意を翻す
牢檻漢詩初勉学 牢檻で 漢詩を勉学初める
心中苦悩表明源 心中の苦悩の源を表明する
<解説>
六十年前、河上教授の貧乏物語を読み、今でも心に残った一冊です。
最近、一海知義教授の著作のなかで、河上教授の名前があり、漢詩を読みました。
<感想>
起句は下三字で、無理矢理に平仄を合わせた感じですね。
「正に論を為す」ならば読めますが、「正しい論」と繋げるのは駄目です。
承句も「真意を翻す」でなく「真意翻る」が正しいですが、詩の内容へは影響しませんので、読み下しだけ直しましょう。
転句結句は語順が正しくないですね。平仄を合わせるために文法が崩れては、正しく意味を伝えることもできません。
転句の場合は、「勉学」が先に来てその後に「漢詩」が来ますし、結句は「表明」が先に来て「心中苦悩源」が下に来るのが正しい語順。
平仄を合わせて考えると、転句は「始学漢詩牢檻裏」。
結句は「苦衷」という言葉があり、それだけで「心中苦悩」と同じですので、「表明□□苦衷源」という形で。
更に二文字分情報を添えられますので、どんなことを言うと良いか、お考えになると良いですね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-115
初春梅林遊行
午下探梅不見梅 午下梅を探るも梅を見ず
春池一月林園廻 春池 一月 林園廻る
漫觀路傍芳香處 漫に観る 路傍 芳香の処
八重寒紅獨自開 八重 寒紅 独自に開く
<解説>
一月中旬近くの池にある梅林に行った。どの品種もまだ開いていなかった。
なにげなく見ると、少し離れた所に八重寒紅梅だけが他の梅に先駆けて満開であった。
<感想>
起句は「探梅不見梅」というのは語呂としては面白くできていますが、種類が違うとは言え、結局「梅を見た」わけですから、表現が悪いですね。
時期が早過ぎたということですので、「人の姿がまだまばらだ」と言えば「花がまだ開いていない」ということを暗示することができます。
ということで、まず起句は「一月春池稀客來」として、梅はまだ出さないようにしましょう。
承句は「下三平」ですので、「午天閑歩獨探梅」。
「林園」を頭に置いても良いですが、「春池」と已に場所を表していますので、繰り返す必要は無いでしょう。
転句は「偶觀(たまたまみる)」、「清香」が場面に合うかと思います。
結句は「重」は「かさなる」の時は平声ですので、平仄が合いません。固有名詞ではありますが直した方が良いですね。
「八重」を「重弁」、下を「花自開」として、題名に花の名前を入れると良いでしょう。
「初春遇八重寒紅梅」ですかね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-116
天橋立遊行
天橋滿地數千松 天橋 満地 数千の松
白渚青穹許撼胸 白渚 青穹 許く胸を撼かす
景勝變容驚秘計 景勝の変容 秘計に驚き
登丘望倒現飛龍 丘に登りて倒に望めば飛龍現る
<解説>
天橋立の景観は、自然の造形で日本三景の中でも神秘性がある。
展望台から逆さに見る景色も飛竜に見えて自然の力に感心した。
<感想>
起句は「滿地」が説明的で気になります。
「天橋白渚碧青松」と景色を並べた方が良いです。
承句は青空の他に何か描く物を思い出して書いて欲しいですね。
転句の「景勝変容」は何のことを言っているのか、分かりにくいですね。
この景勝を作った自然の力ということでしょうか。それでしたら「変容」ではなく「形成」の方が良いですね。
結句の「望倒」は逆で「倒觀」でしょうね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-117
游薩唾峠
青天白日海風C 青天 白日 海風清し
眺望佳哉歩歩輕 眺望 佳哉 歩歩軽し
久久欣欣同好士 久久 欣欣 同好の士
暫時忘疫酒杯傾 暫時 疫を忘れ 酒杯傾く
<解説>
昨年十一月下旬、コロナに注意しながら、新旧の交通網と富士山の絶景を見ることができました。
<感想>
薩唾峠は江戸時代は険しい峠道で、東海道の難所でしたが、由比の海岸と富士山を望む景勝の地でもあったと聞きます。
十一月は少しコロナも落ち着いていた時機でしたね。
久し振りの行楽に心が弾んでいる様子が伝わって来ます。
後半は友人と一緒の楽しさになりますので、前半はできるだけ景を入れたいですね。
具体的には承句の「佳哉」が不要でしょう。
代わりにせっかくですので富士山を入れて、上四字全部を使っても良いくらいだと思いますよ。
転句は「士」でも良いですが、「友」かなと思います。
結句は最後が急ぎ過ぎで、詩だけで見ると、峠にお酒を担いで行って頂上で飲み交わしたということになります。
季節感を出して、「聽秋聲」「楽秋晴」などでどうでしょう。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-118
一乘谷懷古
朝倉遺跡白雲流 朝倉遺跡 白雲流る
昔日全容興自幽 昔日の全容 興自ずから幽
往古尋思空谷裡 往古 尋思 空谷の裡
談叢時忘晩風柔 談叢 時を忘る 晩風柔らかなり
<解説>
何年か前、同好の友達と一乗谷へ行きました。公共交通を使うので不便でしたが、印象に残る遺跡でした。
<感想>
起句は「遺跡」に「白雲」というのがやや急ぎ過ぎ。遺跡自体を見上げるということが欲しいですね。
承句は「全容」は「完全復元」ということでしょうね。
ただ、遺跡自体がどうであったのか、という形容が欲しいところ、「荘厳」「勇壮」「華麗」のような語句を入れられると良いですね。
逆に転句からは「尋思」「談叢」「時忘」など、作者の行動を表す言葉が多く、やはり遺跡の様子を語る言葉が欲しいですね。
「往古」は「昔日」と同じですので、転句の上四字に「谷」のことが具体的に述べられると良いですね。
また、結句の「談叢」は「話が尽きない」こと、「空谷」は「人気の無い谷」ですので結句に繋ぐためにも転句で友人と旅行中だという情報を入れた方がよいですね。
転句が収まれば、結句はこのままでも良いですが、中二字は「忘時」の語順が正しく、そうなると平仄で「二四不同」が崩れてしまいます。
「幾刻」「忘刻」でしょうね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-119
懷ク 一
西風葉落晩山遐 西風 葉落 晩山遐か
茅舎菊花冷氣加 茅舎の菊花 冷気加はる
獨坐ク愁蟲喞喞 独坐 郷愁 蟲喞喞
暖夜濁酒月已斜 暖夜 濁酒 月已に斜めなり
<解説>
朝夕の冷えこみ感じるこの頃、虫の音がひときわ耳に入ります。
<感想>
作者の居るのは自宅ですので、起句の「晩山」は「遠山」が良いでしょうね。
承句は「冷氣」でも良いのですが、「菊花」が名前だけで終ってしまいますので、もう少し花の姿や香りを出してあげるべきでしょうね。
この句は四字目の孤平でもありますので、「香氣加」くらいでしょうか。
転句は詩題の「懐郷」に合わせたものですね。
ただ、ここは「坐」している場所を示した方が良く、題に合わせるなら起句の「晩山」を「故山」とすれば十分です。
結句は平仄が違いますね。平句となる所ですので、そうですね、「芳醺美酒」として下三字を考えましょう。
「月斜」を生かすなら「月將斜(月将に斜めならんとす)」と再読文字にすれば良いですね。
2022. 6.27 by 桐山人
作品番号 2022-120
懐ク 二
涼秋楓樹色鮮加 涼秋 楓樹 色鮮やかに加はる
雁列西行懷我家 雁列 西行 我が家を懐かしむ
庭宇啾啾燈下坐 庭宇 啾啾 燈下に坐す
欣快ク信煮C茶 欣快 郷信 清茶を煮る
<解説>
一日一日色づく木々を眺めながら生活しています。
今住んでいる静岡市内は、木々の変化を感じられ、また、それが自宅との違いを潔く感じます。
<感想>
起句は本来は「色加鮮」となるのですが、押韻の関係で入れ替えたものですね。
やや苦しいですが、許容範囲でしょうね。
承句は「雁列西行」で故郷に直結する言葉ですが、「我家」では故郷の家なのか、今の家なのかがわかりませんね。
ここでも「故家」とすると良いです。
せっかく「雁」が来ましたので、結句の「郷信」という繋がりの濃い言葉と組み合わて、「雁列西行郷信賖(はる)か」とすると、故事を生かした句になります。
転句は、雁を眺めていたわけですから夜になっては時刻が進み過ぎですね。
「窓下」で抑えておきましょう。
結句は「快」の平仄が違います。
「郷信」も無くなりましたので、何か良さそうな言葉を入れてみましょう。
懐郷ですので、あまり「欣」「快」の字は合わないと思います。
2022. 6.27 by 桐山人