2021年の投稿詩 第151作は 東山 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-151

  祝外孫誕辰        

去年今日始相親   去年の今日 始めて相親しむ

一歳成長情感新   一歳の成長 情感新たなり

倣口發聲希作語   口を倣ひて声を発するも 語と作ること希に

倚臺踏足困支身   台に倚りて足を踏むも 身を支へるに困しむ

乳牙纏母安心睡   乳牙母に纏はり 安心して睡り

玩具征兄赤面瞋   玩具兄に征せられ 赤面して瞋る

冀願康彊與誠意   冀願す 康彊と誠意とを

春風耳納祝生辰   春風の耳納 生辰を祝ふ

          (上平声「十一真」の押韻)


<解説>

 先日、二人目の孫が一歳の誕生日を迎えました。
 健康に成長してくれたらと思っています。
「耳納」は筑後の耳納連山のことです。

「乳牙」「乳歯」のつもりですが、どうでしょうか。

<感想>

 孫は本当に可愛いもの、「這えば立て、立てば歩めの親心」と言いますが、「爺心」でしょうか。東山さんのお喜びの顔が目に浮かびます。

 対句も工夫されていると思いますが、第二句の「長」「育つ」の意味では仄声ですので、ひっくり返して「長成」としておけば良いですね。

 頸聯は「乳牙」で良いと思いますが、次の「纏母」と繋がりますか。

 尾聯は「康彊」は分かりますが、「誠意」は一歳の誕生日には欲張り過ぎのような気もしますね。



2021. 5. 3                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第152作は 東山 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-152

  偉烈咸臨丸        

難航萬里水師元   難航万里 水師の元(はじめ)

初學艨艟六百噸   初学の艨艟 六百噸

將卒咸臨惜名烈   将卒 咸臨して名を惜しむの烈(いさを)

日章掲高入金門   日章高く掲げて 金門に入る

          (上平声「十三元」の押韻)


<感想>

 「咸臨」の名前は「君臣が親しみ合う」ということで、幕府の気合いが感じられる命名です。

 承句で、海軍の練習船として建造されたことを「初學」で示し、更に「艨艟」(もうどう)は「いくさ船」、つまり「軍艦」、大きさを「六百噸」、600トンとして、これで咸臨丸の説明がしっかり終りましたね。

 結句は四字目の平仄が合いませんが、「掲高」は語順が逆ですので、そのまま「高掲」とするところでしょうね。



2021. 5. 3                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第153作は 玉蝉 さん、山口県にお住まいの二十代の男性の方からの初めての投稿作品です。
 

作品番号 2021-153

  褻坊        

街衢凹凸昊   街衢 凹凸の昊

満地黒舗装   満地 黒き舗装

喜雨未漓暗   喜雨は未だ暗(くらき)に漓まずして

酸風仍渡腸   酸風は仍ほ腸(こころ)に渡れり

騒人朝固庶   騒人 朝(あさ)は固より庶(ちか)く

黙筆夜逾長   黙す筆に 夜(よ)は逾 長し

慕字蒸砂石   字を慕っては砂石を蒸し

怨文覆錦嚢   文を怨んでは錦嚢を覆すなり

誰論求道杳   誰か論ぜん 求道 杳(はるか)なるは

孰与養生陽   養生の陽(あきら)かなるに 孰(いず)れなるかを

孝子覚微覚   孝子 覚ゆや覚えざるや

晨暉沁褻坊   晨暉 褻(な)れにし坊(へや)に沁みいるを

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 初めて投稿させて頂きます。玉蝉と申します。
 昨年の夏頃より、平仄や語法などを独習しています。書籍や、様々なサイト様にお世話になっております。

 五言徘律・平起・平水韻 下平声七陽 のつもりで作りました。
 先生の添削・諸先輩のご批判の程を頂きたく存じます。

<解説>

「酸風」: 人を刺すような冷たい風

[1〜4句] 町の空は建物の影で凸凹している、大体の地面はアスファルトで、舗装路に雨は滲みない、作者の心地にも沁みない、という気分です。
[5、6句] 詩人肌で、夜更かしをしがち、筆が黙ってしまえば、更に夜が長い。
[第7句] 字を慕いもとめる、しかし砂石を蒸すような案配、(本質をとらえないまま行う修行は進歩しない)
[第8句》書いた文をにくんで、錦嚢を裏返して稿を取り出す(詩が出来たと思ったけど、錯や不足におもいたる)
「怨」は¨うらむ¨の時は両用でしょうか。そのつもりで使いました。
「砂石を蒸す」 楞厳経から。黄山谷の『送王郎』において「炊沙作糜終不飽」と出てきました。
[9、10句] どちらが優れているかを、誰が論じようか、論じるほどのことではないので、誰も論じない。そういって、ところで
[11、12句] 孝行な子よ、おまえは気づいているのか、気づいていないのか。着なれたかのように垢のついた部屋に、朝の光が、沁みて来ていることを。

というつもりです。

<感想>

 初めまして。作詩のご経験は九ヶ月程、とのことですが、色々な意欲が湧いて楽しい時期ですね。
 沢山の作品を送っていただきましたが、私の方の返事が遅れて済みません。

 五言排律は韻律が厳しく、対句の技巧も要求されます。
 お手紙では、「排律にしたかったからではなく、言いたいことが纏められなかった結果」で排律になったとのこと、逆に難しいことをされたと思いますよ。
 丁寧な解説も寄せてくださったおかげで、意図がよく伝わりました。

 詩題の「褻坊」は聞き慣れないですが、「褻」(せつ)は「普段着」ということから「慣れ親しむ」という意味を持っていますので、普段のご自身の部屋を表すのでしょうね。

 第一句は「空(昊)」が「凹凸」ではどうも伝わりませんね。「昊」「影」とすれば理解できます。

 この前半の四句は叙景で詩の場面設定になるわけですが、やや重い感じで次の第五句以降へと流して行く点は良いですが、作者が外を歩いているような印象で、次の句からは室内ですので繋がりが切れていますね。
 第三句四句で、窓から眺めた景色という雰囲気を出しておくと良いでしょう。

 第九句以降は、「誰論」「孰与」は対句で仕方ないとしても、更に「覚微覚」と疑問形を出すのはくどいと言うか押しつけがましく感じます。
 また、「孝子」と突然出したのはどのような意図なのか、思いが先走ってはいませんか。

 なお、「怨」については、漢和辞典によっては「平仄両用」と書かれているものもありますが、「うらむ・うらみ」の場合は仄声、「うらむ相手、仇」の時のみ平声、とする韻書が多く、それに従うのが穏当だと思います。



2021. 5. 4                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第154作は 玉蝉 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-154

  因霾無端詠        

黄塵籠白衣   黄塵 白衣を籠める

不擬河濱沃   河濱に沃ぐを擬っせず

荻旧褪金風   荻 金風に褪せるに旧く

春流行洗足   春流 行くゆく洗足す

          (入聲「二沃」の押韻)


<解説>

 土が降っているので何となく詠む

 黄色の塵が白衣を籠めるが、川辺でそれを濯おうとは思わない。
 川辺では荻が秋風に色褪せてから久しくたち。今は春の流れに足を洗いつつあるだろう。

 世事に煩うことを肯定する気分。
 そもそも荻の渚は洗濯をするのには向かない、ということもあります。
 後半は見えたままを言いました。


<感想>

 題名は「霾(ばい)に因りて端無くも詠む」と訓ずるのでしょうね。土ぼこり(「霾」)のせいでふと詠んだということでしょう。

 起句は思い切った表現で、通常は「白衣」「黄塵」「籠」でしょうが、逆にすることで、黄砂のひどさ、拡がりが浮き出てきて、良いと思います。
 読み下しは古典文法に則りますので、この場合には「籠む」となりますね。

 承句の「擬」は「ほっす」ですか。分かりやすい「欲」では何故いけないのか、読みにくさが気になります。
 もう一つは、ご本人も書かれていますが、なぜ洗おうとしないのか、という理由ですね。
 それが転句から答えてもらえるのかと思うと、突然、「荻」「金風」で季節が飛んでしまい、しかも結句では「春流」とまた春に戻って「洗足」となりますので、混乱しますね。

 転句は「旧」の使い方が悪く、何を言っているのか分からなくなります。「旧荻」としても平仄は大丈夫ですので、その方がまだ過去の話だと分かりやすいでしょう。

 結句の「洗足」も唐突で、「誰の足や!」と突っ込みたくなります。ひょっとして屈原の「楚辞」でしょうか、ただそうなると、春の流れが濁って行くことになります。
 となると、河原はかつては枯れた荻がはびこり、今は水が濁って、白い服など洗う気になれないということですかね。
 それなら河原でなくて部屋に戻れば良いのに、どうして帰らないのか。

 とこうなってくると、ボタンの掛け違いみたいなもので、作者の描こうとした世界からどんどん逸脱していきます。
 これは、まず、詩の主題がはっきりしないことが原因で、「霾」から何を言おうとしているのか、が伝わって来ないからです。
 もう一つは、直接関係の無い「荻」や秋の季節を入れたり、「沃」と同意の「洗」を用いた点で、余分な情報を読者に与えてしまう「不用意な措辞」も原因です。

 繰り返しになりますが、「黄塵」によって詩心が動いたわけですので、そこをもう少し詳しく描くとか、関係のある物を画面に配置するような方向で再敲されると良いと思います。



2021. 5. 4                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第155作は 玉蝉 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-155

  春分池塘        

夕照田塘缺鳥歌   夕照 田塘 鳥歌 欠き

孤雲倒蘸半蹉跎   孤雲 倒蘸 半ばに蹉跎たり

知知寸寸螻蛄始   知知 寸寸 螻蛄 始まり

草上景風祇一過   草上 景風 祇(まさ)に 一過

          (下平声「五歌」の押韻)


<解説>

「到蘸」: 逆さまに水に影を映す 春分の池の土手

 耕作地にある溜め池は夕焼けのなかで鳥の鳴き声を欠いて、はぐれ雲は水に影を映して(池の)真ん中あたりでグズグズとしている。
 ヂィーヂィーと少しずつオケラが鳴き始めて。草の上を心地よい風がまさに一度通り過ぎた。

 結句の「祇一過」「ただ一度渡っただけだ」、というよりは「一度だけだが確かに渡った」というつもりです。

     鴨去っておけら始まる彼岸かな

<感想>

 こちらの詩は、全体の流れもできていて、読みやすい詩になっていますね。

 起句は普通は「帰鳥歌」とするのでしょうが、転句の「螻蛄」の声を拾い上げるために、音を控えたのでしょう。
 ただ、「缺」というのは、本来あるべきものが無いことを表します。となると、意識としては、「夕方の田圃では鳥の声が当然聞こえる筈だ」と考えているわけですが、それは読者に通じるでしょうか。
 「遠くの方で鳴いている」とか「声はするけれど微か」のような表現の方が現実感が出ると思います。

 承句は「孤雲」ですので「倒」という感覚はどうでしょう。
 「半蹉跎」と映った雲の形容は後に出てきますので、そちらを重視して、「蘸影」としておくのが良いでしょう。

 転句は「知知」が擬音語、「寸寸」「少しずつ」ということで、畳語がリズムを良くしていますね。

 結句は「一度だけだが確かに渡った」という気持ちを表すのに、「祇一過」が最適かどうか、ですね。
 「祇」は「ただ・・・・だけ」と強調して良いと思います。読み方は「まさに」とする必要は無いでしょう。
 「祇」「時」とか「今」とするとか、下三字に「心地よい」という感慨をより強く出すなども考えられますね。



2021. 5. 5                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第156作は 中山逍雀 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-156

  廬山途上之作回文(順讀)        

懐留筆達苦無踪,   

廟塔晴嵐緑樹叢。   

堆起雲峯雲靉靉,   

接來霧澗霧濛濛。   

衣沾草露才花白,   

杖曳泉飛已葉紅。   

誰寄槖嚢詩骨健?   

危岩磴桟徑重重。   

  

  廬山途上之作回文(倒讀)        

重重徑桟磴岩危,   

健骨詩嚢槖寄誰?   

紅葉已飛泉曳杖,   

白花才露草沾衣。   

濛濛霧澗霧来接,   

靉靉雲峯雲起堆。   

叢樹緑嵐晴塔廟,   

踪無苦達筆留懐。   


<感想>

 「二十年振り」というお便りを中山逍雀先生からいただきました。
 「平仄討論会」でも何度かご意見をいただき、懐かしい思いです。

 実は中山先生には2017年に北京で「詩詞中国」の会合があり、その時にご一緒させていただきました。
 しばらく漢詩詞から遠ざかっていらっしゃったそうですが、コロナ禍の蟄居生活で、以前見たこのサイトを思い出されたとのこと、投稿もいただきましたので、ありがとうございました。

 回文詩で、順読と倒読(逆順)の両方を添えていただきました。
 押韻はこれは中華新韻でしょうか、七言律詩ですので対句も必要な構成、達者な展開で楽しく読みました。




2021. 5. 5                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第157作は 陳興 さんからの作品です。
 まとめていただきましたので、若干の補注を添え、紹介させていただきます。

作品番号 2021-157

  福清彌勒岩        

山為彌勒幾人知,   

識得石峰微笑姿。   

應是久看滄海闊,   

世間無事値凝眉。   

          (上平声「四支」の押韻)


「福清彌勒岩」: 福建省福清市にある中国で現存する最大の弥勒像。高さ9メートル、横8.9メートルで花崗岩で造られている。



2021. 3.31                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第158作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-158

  賦詩送長五出征        

孤光北望有星辰,   

高冷至今無比鄰。   

渺似飛螢遊宇宙,   

輕如解甲落龍鱗。   

          (上平声「十一真」の押韻)


「長五出征」: 中国の宇宙ロケット「長征五号」、昨年11月に月探査機「嫦娥5号」を載せて発射されたものを指す。





2021. 5. 5                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第159作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-159

  浣溪沙        

昨夜澄天獵戸星,   

無邊潮水拍山城。   

銀河安好各無爭。   

早有赴征稱大白,   

期無病毒害生靈。   

平安一夜雪能聽。   

          (下平声「八庚」の押韻)


「獵戸星」: オリオン座の星



2021. 5. 5                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第160作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-160

  獵戸座        

雪後清澄星象生,   

心從獵戸座中平。   

微光三點連成線,   

間隔迢迢億萬程。   

          (下平声「八庚」の押韻)






2021. 5. 5                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第161作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-161

  庚子年冬至        

餃子湯圓選已難,   

橘紅時候記団欒。   

遼東昨夜愛眉月,   

曾照童年搓糯丸。   

          (上平声「十四寒」の押韻)




2021. 5. 5                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第162作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-162

  韓非子        

六合驅秦戰車,   

孤城破敗有青芽。   

至今仍説韓非子,   

不得韓王用法家。   

          (下平声「六麻」の押韻)




2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第163作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-163

  再讀石川丈山富士山次韻        

纜車斜上白雲巓,   

河口再看深似淵。   

富士山前渾不覺,   

三千米上雪連天。   

          (下平声「一先」の押韻)


「河口」: 指的是日本富士山下的河口湖。



2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第164作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-164

  三十九光年外        

地球空與月球鄰,   

宇宙至今尋住民。   

相隔光年三十九,   

反疑吾輩外星人。   

          (上平声「十一真」の押韻)


<解説>

 聞三十九光年外發現一恒星類似太陽擁有七大行星疑其中或有另一個地球。



2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第165作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-165

  朱鷺        

新潟初來識朱鷺,   

嘴長如劍卻殷紅。   

越光米小應堪啄,   

銜得春思一粒中。   

          (上平声「一東」の押韻)




2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第166作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-166

  題靜思圖 不及山前滴一泉        

月下香爐上紫煙,   

小僧盤坐木魚邊。   

禪經翻破三千卷,   

不及山前滴一泉。   

          (下平声「一先」の押韻)




2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第167作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-167

  流浪猫        

隨意草間能自睡,   

尋常樹下避人來。   

有心應謝送糧食,   

飯後仍遊垃圾堆。   

          (上平声「十灰」の押韻)




2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第168作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-168

  偶題 春愁凝在舊章中        

春愁凝在舊章中,   

雪隱東皇太華宮。   

忽惜山花無主發,   

欲將彎月作持弓。   

          (上平声「一東」の押韻)




2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第169作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-169

  秦賦        

六國徒勞謀覆秦,   

城樓箭羽密如鱗。   

若非一統無強漢,   

摧毀阿房是萬民。   

          (上平声「十一真」の押韻)




2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第170作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-170

  望冬夜星空        

數點流光月似弓,   

無眠如我幾家同。   

夜深休向銀河想,   

恐有星球大戰中。   

          (上平声「一東」の押韻)




2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第171作は 陳興 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-171

  寒夜月牙        

無人訪處上來灘,   

仰對月牙犀角寒。   

數葉落池秋又晩,   

微風毎錯認龍鼾。   

          (上平声「十四寒」の押韻)




2021. 5. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第172作は 哲山 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-172

  竹林庵        

引籠雖自戒   引き籠って 自戒すると雖も

酒色惑余情   酒色 余情に惑ふ

穢本能煩悩   本能を穢せば 煩悩

誰聴撃竹聲   誰か聴く 撃竹の聲

          (下平声「八庚」の押韻)


<感想>

 起句はコロナによる自肅でしょうか。
 家に籠もっていますので普段では出来ないことを身につけようと思うのですが、酒を飲んでしまうともうダメで、何事も進展しないというのは、全く私の姿を映しているようですね。

 結句の「撃竹聲」は、唐代の香厳智閑禅師の故事「撃竹大悟」からの言葉でしょうか。
 「悟りを開く」ことを暗示している言葉ですね。
 転句の「本能」「煩悩」が禅問答のようで、難しいです。



2021. 5.16                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第173作は 哲山 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-173

  序舞        

人間五十下天宮   人間五十 下天の宮

覇者俄知命運窮   覇者 俄かに知る 命運窮まるを

不及是非本能寺   是非に及ばず 本能寺

一栄一落一夢中   一栄一落 一夢中

          (上平声「一東」の押韻)

<感想>

 織田信長が本能寺での最期の時に舞ったのが『敦盛』で「人間五十年 下天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり」でした。
 令和二年の大河ドラマも、最終回が本能寺の変、視聴率を持ち上げた場面でしたね。
 誰にも知られている歴史事件の一幕を切り取って、無駄なく整理されていると思います。

 転句は挟み平の形で理解できますが、結句は「夢」の平仄が違いますので、ここだけは直しましょう。



2021. 5.16                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第174作は 禿羊 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-174

  往熊野古道小辺路 其一 露宿大瀧村     熊野古道小辺路を往く 其の一 大瀧村に露宿す   

登降百里険途連   登降 百里 険途連なる

遊子不憂何處眠   遊子 憂へず 何れの処に眠るかを

秋日挂峰暮陰迫   秋日 峰に挂かりて 暮陰迫り

葉紅染澗水如燃   葉紅 澗を染めて 水燃ゆるが如し

          (下平声「一先」の押韻)


<解説>

 昨年の晩秋、熊野古道小辺路を歩きました。
 高野山から熊野大社まで約70kmの行程です。
 ほとんど山道で峠を三つほど越えて行きます。
 歳を取って一日どれだけ歩けるか判りませんので、どこででも寝られるようにとテント持参の山行となりました。結局、3泊4日となりました。



<感想>

 アウトドア派の禿羊さん、変わらずにお元気のようですね。
 なかなか旅行にも出かけられない時世ですが、昨年のコロナが少し落ち着いていた時機ですね。

 起句の「降」「降伏」の意味で平声、「登り降り」で仄声ですので、ここは仄声になりますね。
 転句は四字目の孤平ですが、下が「挟み平」ということですので、大丈夫とします。

 起句の「百里険途」と聞くだけで、もう「無理無理、歩けない」と弱音が出そうですが、「不憂何處眠」と来ては、もう禿羊ワールドですね。



2021. 5.23                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第175作は 禿羊 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-175

  其二 宿伯母子岳上西家跡     其の二 伯母子岳上西家跡に宿る   

山間廃址湿秋霖   山間の廃址 秋霖に湿れ

数点烏兜妖紫深   数点の烏兜(うとう) 妖紫深し

露宿楓林敷落葉   露宿 楓林に落葉を敷き

風聞惻惻鬼魂吟   風に聞く 惻惻たる 鬼魂の吟

          (下平声「十二侵」の押韻)


「烏兜」: トリカブト

<感想>

 私は「伯母子岳西家跡」がどんな風景なのかも知らないのですが、山間の露宿という寂しげな雰囲気、「廃址」「烏兜」「妖紫」などの言葉が恐ろしげな趣も漂わせてきますね。
 最後に「惻惻」「鬼魂吟」と来ては、とても独りでは野宿はできません。

 禿羊さんの変わらない行動力と精神力に感服します。



2021. 5.23                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第176作は 禿羊 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-176

  其三 無涯里     其の三 無涯の里(果無の里)   

登来石径天空里   石径を登り来たる 天空の里

蕭索秋光満四垠   蕭索たる秋光 四垠に満つ

田老閑談一年興   田老 閑かに談ず 一年の興

垂桜爛漫抵濃春   垂桜 爛漫たる 濃春に抵(いた)れと

          (上平声「十一真」の押韻)


<感想>

 こちらは起句踏み落としですね。
 「蕭索」の秋の景色の中、「やっぱり桜の季節が一番だなあ」というのはよく分かる内容ですね。

 転句の「談」「論」でも面白いかもしれません。



2021. 5.28                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第177作は 禿羊 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-177

  其四 越無涯嶺     其の四 無涯嶺を越ゆ   

峻嶺遂踰終旅程   峻嶺 遂に踰えて 旅程を終へんとす

欣然飛屐下坡行   欣然 屐を飛ばして 坡(さか)を下りて行く

遙望縹渺熊江水   遙かに望む 縹渺 熊江の水

忽看樹叢神社甍   忽ち看る 樹叢 神社の甍

          (下平声「八庚」の押韻)

<感想>

 こちらで旅も終わりですね。
 お疲れ様でした。

 承句の「欣然」「飛屐」の言葉、後半の対句でのリズムの働きで、喜びの気持ちがしっかり出てきますね。



2021. 5.28                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第178作は 恕水 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-178

  登黄鶴楼        

黄鶴宙中翔集楽   黄鶴 宙の中 翔集の楽しみ

白亀岩上負暄歓   白亀 岩の上 負暄の歓び

布衣津渡幾千載   布衣 津渡すること 幾千載

晴日水声悠久安   晴日 水声 悠久安し

          (上平声「十四寒」の押韻)


<解説>

 黄鶴楼に登る

 黄色い鶴が、大空を楽しそうに群れ飛んでいる。
 一匹の白い亀が、岩の上でひなたぼっこを楽しんでいる。
 人々は、これまでもずっとそうしてきたように、船で川を渡っている。
 晴れた冬の日、長江もこれまでと同じように穏やかに流れている。

<感想>

 前対格で書かれていますが、特に「黄鶴」「白亀」が鮮やかですね。
 「翔集」は基本的なことで申し訳ないのですが、「黄鶴」は群れて飛ぶのですか。どうも黄鶴楼の伝説が頭にあって、貴重な数少ない鳥のように思ってました。
 印象としては下三字を「翻翼樂」が対としても良いかと思います。

 後半は対句ではないですが、「幾千歳」「現在までの長い時間」「悠久」「これから先の永遠の未来」と対応して読むと、歴史の中に佇む黄鶴楼が浮き上がって来ますね。
 その場合、「声」が良いか、流れや水そのものを出した方が良いか、楽しい考え所ですね。



2021. 6. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第179作は 恕水 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-179

  過武侯祠        

錦官城外恵陵東   錦官城外 恵陵の東

此地称揚不朽功   此の地 称揚す 不朽の功

三国興亡今昔感   三国の興亡 今昔の感

竹林小径仰飛鴻   竹林の小径 飛鴻を仰ぐ

          (上平声「一東」の押韻)


<解説>

  武侯祠に立ち寄って
 成都の町はずれ、劉備の墓の東。そこに武侯祠がある。
 ここでは、劉備を助けた諸葛孔明の不朽の功績が称えられている。
 魏、呉、蜀が覇権を争った三国時代の興亡も今は昔。
 竹林の小道で、孔明の姿を重ね合わせて、空飛ぶ大鳥を仰ぎ見るのだ。

<感想>

 こちらは成都の武侯祠ですね。
 私が行った時はもう夕方でしたので人も少なく、竹林に囲まれて幽暗、静寂の中でした。
 コロナウイルスが無ければ、もう一度、いやいや何度でも行きたい場所ですね。

 「錦官城外」が成都の昔を浮かばせて、初めから歴史の世界に読者を誘う良い書き出しですね。

 流れるようにお作りになったと思いますが、承句の「不朽」と転句の「今昔」という対立概念の語が近すぎるので、やや違和感があります。
 転句と結句の内容を入れ替えるような形で描き、景色もせっかくですので「竹林」に加えてもう一つくらい素材が欲しいですね。



2021. 6. 8                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第180作は 石華 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-180

  初夏夕景        

新克R山濃淡鮮   新緑の山山 濃淡鮮やか

紅襟飛影算秧田   紅襟の飛影 秧田に算ふ

停筇初霽村流景   筇を停む 初めて霽るる村の流景

寸刻殘虹挂遠天   寸刻の残虹 遠天に挂かる

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 雨が止んだので外へ出てみると、消えそうな虹が見えました。

<感想>

 虹を結句に持ってきたので、転句に雨上がりのことを書かなくてはいけなくなりましたね。
 ただ、そうなると、起句や承句の景色は雨の前なのか、雨の後なのか、悩んでしまいます。
 「初霽」を起句の「新香vと入れ替えて、あらかじめ雨上がりを示しておくのはどうでしょうか。

 或いは、題名を「雨餘夕景」としておく方法もありますね。

 後は、承句の「紅襟飛影」をどう見るか、茂吉の「のど赤きつばくらめ二つ梁に居て・・・・」とあるように、燕の「紅襟」は喉元です。
 燕が飛んでいる時にはスピードがあって、私はあまり赤い襟という感覚はありませんが、動体視力の違いでしょうか。
 できれば「飛影」「飛燕」として、ツバメだと強調しておくと読者に伝わりやすいと思いました。



2021. 5.11                  by 桐山人