2021年の投稿詩 第301作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-301

  惜春即事        

僧院深閑柳色新   僧院 深閑として 柳色新たなり

池邊櫻樹落花頻   池辺の桜樹 落花頻り

千金一刻無人到   千金の一刻 人の到る無し

日没殘光獨惜春   日没して 残光 独り春を惜しむ

          (上平声「十一真」の押韻)


<解説>

 四月中旬、知多市の禅寺に家人の月命日参詣に詣った。
 コロナ禍のこの頃、参詣の人は無く、日没まで留まり徂く春を惜しんだ。

<感想>

 転句の「無人到」はコロナの関係ということですので、そうなると、題名にそれが分かるような言葉が欲しいですね。
「辛丑惜春」「疫禍暮春」などとすると、今年のことと分かりますし、転句もすっきりします。

 結句の「獨」は転句の「無人」から行くと当然の言葉、強調と考えればこれでも良いですが、別の言葉を検討しても良いかと思います。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第302作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-302

  初夏竹亭        

嫩黒濫晝日徐   嫩緑 風微かにて 昼日徐なり

森閑竹院坐繙書   森閑の竹院 坐して書を繙す

蒼穹翻燕間天地   蒼穹の翻燕 間(のど)かなる天地

初夏正陽心自舒   初夏の正陽は 心自ら舒なり

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 昼日は長くなり、気候涼しく、読書には最適の季である。

<感想>

 承句の「森閑」は辞書によっては和語として扱っている語ですが、漢詩では用例が無いからでしょうね。
「幽閑」「C閑」とすれば良いですが、「徐」「間」「舒」と同じような意味の語がありますので、「C涼」のような形が良いでしょうね。

 転句は「蒼穹」の空と「天地」の天が勿体ないですね。天と地、その間を燕が繋ぐという形で、下は地だけになるようにすると良いでしょう。
「翩翻飛燕剪天地」「頡頏燕子穿天地」などではどうでしょう。

 結句は「初」が韻字ですので「首夏」、あるいは韻字に持って行って「迎夏初」としても良いでしょうね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第303作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-303

  初夏即事        

雨歇桾濫燕翻   雨歇の薫風に 飛燕翻し

柔暉嫩葉拷A繁   柔暉の嫩葉は 緑陰繁し

佳辰供粽和菖浴   佳辰に粽を供し 菖浴に和す

麥氣侵簾滿草軒   麦気 簾を侵して 草軒に満つ

          (上平声「十三元」の押韻)


<解説>

 昭和初期の頃、田舎での五月の節句を思い出す

<感想>

 ちまき、菖蒲湯、懐かしい画面ですね。

 全体にまとまっている良い詩だと思いますが、起句の「飛燕翻」は言葉が重複しています。
「燕」を修飾する言葉はいっぱいありますので、「飛」ではない言葉にしましょう。
 また、「薫風」と「麥氣」が似ていますので、どちらかにしてはどうでしょう。
例えば起句を「雨歇街衢輕燕翻」としてみると、画面がはっきりすると思いますよ。

 結句は「簾」と「草軒」で場所を表す言葉が二つ出ていますが、窓から入って家中に満ちるという丁寧な説明でしょうか。
 近くに置けば強調効果になりますので、「麥氣薫風」と並べるのも良いですね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第304作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-304

  長良川懷古        

歸宿覧鵜藍水汀   覧鵜より帰宿す 藍水の汀

深更宴席酒閑醒   深更の宴席 酒閑かに醒む

極充歡樂哀情殖   歓楽を極充すれば 哀情殖(おお)し

阜郭遙望兵夢暝   阜郭 遥望す 兵どもの夢暝す

          (下平声「九青」の押韻)


<解説>

 長良川鵜飼いを友人等とかつて鑑賞したことを懐古し記す。
    おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな  犬山十八楼 芭蕉

<感想>

 転句は内容が深いですね。
 芭蕉の句を踏まえてのものでしょうが、それを考えなくても直前の「酒閑醒」が寂しさを引き出していますので、良い句になっていると思います。

 結句は、まず「阜郭遙望」ですが、時刻は「深更」ですのであまり遠くまでは見られないですね。
 また、「兵どもが夢の跡」を意識させる下三字ですが、転句の「哀情殖」と似通った感情をここでまた出すのは考えもの、せっかく積み上げてきた転句の好句が薄れてしまいます。
 結句は、淡淡と叙景に徹すると、全体のバランスが良いと思います。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第305作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-305

  遨菜園        

拓穢爲籬對草軒   穢を拓き 籬を為し 草軒に対す

豊穰豆薯僅坪恩   豊穣の豆薯は 僅坪の恩なり

歸農幾許餘閑裕   帰農 幾許ぞ 余閑裕たり

雨讀晴耕老更存   雨読 晴耕 老いて更に存す

          (上平声「十三元」の押韻)


<感想>

 承句の「坪」は日本語では「土地の広さ」を表しますが、漢語では「平らな土地」ということ、ここでは「僅かばかりの平地」となります。
 耕作地ということを出すならば「坪」を「疇」が良いですね。「田」ではちょっとイメージが違うかなと思います。

 こちらの詩も主題が重複している印象です。

 転句に「餘閑裕」がありますが、結句の「晴耕雨読」がまさにそれを言い換えているわけです。
 どちらかにまとめた方が良いので、今回ですと転句の方を直す形でどうでしょうか。
例えば、「帰農幾許春秋裡」のように、心情を出さない形が良いでしょうね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第306作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-306

  七夕回顧        

流火C霄銀漢   流火 清霄 銀漢青し

願絲供膳逆雙星   願絲 供膳 双星を逆(むか)ふ

隔河相對悲哀極   隔河の相対 悲哀の極みなり

傾酒追懷影入櫺   傾酒 追懐す 影櫺(れい)に入る

          (下平声「九青」の押韻)


<解説>

 往時母に指示され、妹と七夕飾りを作り庭に設置した。供物は母が用意した。
 父親や兄達は農事が多忙で一顧だにしない。
 短冊は全て「天の川」であった。

 今は幼稚園で同じことを奉仕している。

<感想>

 起句の「流火」はサソリ座の主星「アンタレス」、冬の「シリウス」と並んで古代には季節を知る大切な星で、この星が夜に南に見えれば夏、西に見えれば秋を表します。
 ここは書き出しに置くことで、場面が自然に夏の星空へと導かれますね。

 承句の「願絲」は、この七夕の「乞巧奠(きっこうでん)」はお裁縫が上手に供える糸。
 ここまでの前半は子どもの頃の回想、という設定ですかね。
 結句の「追懐」がそう思わせているわけですが、前半だけで見れば回想であると示す言葉が無いので、そのまま読めば現在の景だと理解して、転句までは読み進めてしまいます。
「傾酒」まで進んで、突然「追懐」が来るので「何を思いだしているのだろう」と落ち着かなくなりますね。
 回顧に持って行くなら前半に何か過去だを表す言葉を入れないといけません。
 「願絲」を「姉兄」とすると子どもの頃という雰囲気が出るかと思います。

 私の感覚では、転句の「悲哀」が良い表現だから、このまま現在の詩として持って行くのが良いかと思います。
「追懐」を「沈吟」などとしてはどうでしょう。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第307作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-307

  于蘭盆會展墓        

西郊十里澹秋光   西郊 十里 秋光澹(あわ)し

拝跪墳前萬感昂   墳前に拝跪す 万感昂ず

負笈幾年人自老   笈を負うて 幾年ぞ 人自ら老ゆ

望雲懷故牽愁長   望雲 懐故 愁を惹きて長し

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 郷を出た時は、戦時中でグラマン機に撃たれて車中泊し、遅れての入学(弘前高)であった。
 学成り来名して六十九年、老骨には故山は遥か彼方、ために仮の墓碑銘を作り、供養している。

<感想>

 転句の「負笈」は学問のために故郷を離れて遊学することです。
 この表現ですと、「学問のために幾年も故郷を離れて年老いてしまった」となり、唐代ならば科挙の試験に年老いるまで合格しないということで解釈できますが、現代の日本ではどうでしょうか。
 解説に合わせるならば、ここは「去國幾旬人自老」とするのが良いと思います。

 結句は「懷故」は上の「望雲」と重ねて「故郷を思い出す」ということでしょうが、「懷古」の「故」違いと誤解されやすいので、「懷舊」「憶昔」とか、そのままずばり「故里」でも良いと思います。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第308作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-308

  回顧陽關烽火臺舊跡        

碩沙萬里路絲綢   碩沙 万里 路絲綢

烽跡空留立故丘   烽跡 空しく留む 故丘に立つ

西出陽關天盡處   西して陽関を出づれば 天尽くる処

抗爭今昔使人愁   今昔より抗争あり 人をして愁へしむ

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 愛知県詩吟同好会有志で1988年(平成10年)7月31日〜8月7日、八日間の「シルクロードの旅」に行った時、敦煌からバスで陽関へ行き、烽火台跡地で合吟をしました。

<感想>

 尤韻の「綢」が効果的ですね。

 承句は「烽跡」ですと「烽火の跡」となります。「烽臺」「烽火臺」とする必要がありますね。
「遙望烽臺古塞丘」ですかね。

 転句は問題無いです。

 結句は、「今昔」を先に読まなくても、「抗争 今昔」で通じると思います。
 ウィグル自治区は現在でも政情が落ち着かない状態、旅行客の立場からも早く安定してほしいところですね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第309作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-309

  初夏即事        

雨歇桾濫燕翻   雨歇の薫風に 飛燕翻し

柔暉嫩葉拷A繁   柔暉の嫩葉は 緑陰繁し

佳辰供粽和菖浴   佳辰に粽を供し 菖浴に和す

麥氣侵簾滿草軒   麦気 簾を侵して 草軒に満つ

          (上平声「十三元」の押韻)


<解説>

 昭和初期の頃、田舎での五月の節句を思い出す

<感想>

 ちまき、菖蒲湯、懐かしい画面ですね。

 全体にまとまっている良い詩だと思いますが、起句の「飛燕翻」は言葉が重複しています。
 「燕」を修飾する言葉はいっぱいありますので、「飛」ではない言葉にしましょう。
 また、「薫風」と「麥氣」が似ていますので、どちらかにしてはどうでしょう。
 例えば起句を「雨歇街衢輕燕翻」としてみると、画面がはっきりすると思いますよ。

 結句は「簾」「草軒」と場所を表す言葉が二つ出てますが、窓から入り家中に満ちるという丁寧な説明でしょうか。
 近くに置けば強調効果になりますので、「麥氣薫風」と並べるのも良いですね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第310作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-310

  夏日漫興        

爽然C籟入柴門   爽然と清籟 柴門に入り

涼滿林亭壕繁   涼は林亭に満ちて 緑陰繁し

夏到秋邀多感慨   夏到れば秋邀す 感慨多し

人生幾何涙空呑   人生幾何ぞ 涙空しく呑む

          (上平声「十三元」の押韻)


<解説>

 コロナ禍で晴耕雨読、全く外出していない。ふと感じた事を記した。

<感想>

 結句は四字目の平仄が違いますので、「幾何」を「幾許」にしましょうか。

 前半は夏の爽やかさが溢れるような言葉で、題名にもよく合っていると思います。
 部分的には「柴門」と「林亭」と場所を表す言葉はどちらかで良いでしょうね。
 「爽」「C」「涼」も似た感覚で並びますので、「爽」か「C」のどちらかを(或いは両方)を感覚を伴わない言葉にしておくと良いかと思います。
「飄然」「風籟」など。

 前半の好景の割に、転句で「夏が来るとすぐに秋を考えてしまう」というのは話が急すぎるような気がしますね。
 ご自身の人生を眺めるという結句は良い句ですので、転句の上四字を検討してはどうでしょう。
 夏の景色の中で、寂しさやはかなさを感じさせる物があると良いですが、そうでなくても、初夏の興を満喫する様子でも「多感慨」に繋がる要素はあると思います。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第311作は桐山堂半田の 睟洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-311

  夏日視槿花記思        

克影濃池面煌   緑樹 影濃やかに 池面煌く

蓮峰自若四山蒼   蓮峰 自若にて 四山蒼し

槿花一日親爲盛   槿花 一日なるも 親ら盛を為す

非短在眞心發揚   短に非ず 真に在り 心発揚す

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

 大暑に近い午後、近在の墓地公園に憩う。丘上の展望塔(標高略八十米)より御嶽山や南信の山並みが展望できる。
 以前は放歌高吟の者もいたが、今は訪れる人も無く、全く閑寂であった。園内に槿花を見つけた。

<感想>

 承句の「蓮峰」は固有名詞でしょうか、それとも「連峰」でしょうか。

 転句は「一日だけど」と逆接に持って行くためには、「親」を「尚」としておいた方が良いですね。

 結句は上四字は必要な情報なのかどうか、槿花はこの詩では主役ではありませんので、ここはもう一度前半の遠景とかに戻した方が落ち着くと思います。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第312作は桐山堂半田の T ・ S さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-312

  知多大野城懷古        

拷A閑階暑威輕   緑陰 閑階 暑威軽し

今昔衝天大野城   今昔 天を衝く 大野城

悲喜憶君懷古涙   悲喜 君を憶ふ 懐古の涙

幾多萬感寂無聲   幾多 万感として 寂として声無し

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 大野城は伊勢湾を望む丘にあります。
 織田信長の妹である「お市の方」の娘、お江が最初に嫁いで来たお城です。

<感想>

 承句は大野城の姿を伝えて良い句なのですが、この詩では「今昔」が邪魔になります。
 というのは、「今昔」と言うのは、長い期間、町のあちらこちらから多くの人が城を眺めていた、つまり人々に愛されていたことを象徴した表現、起句はその大野城に登っていった場面、間近で眺めて「今昔」とまで言えるか、疑問です。
 起句からの流れで行くなら、「仰看」とするのが良いですね。
 なお、起句の「階」は平声ですので、「徑」「棧」などが良いでしょう。

 後半はやや感情に流れて、例えば「悲喜」と「幾多萬感」と同じイメージの語とか、「君」は誰のことか、少し整理する必要があります。
「お江」を中心にするならば、戦国の波に翻弄された姿を転句で描いて、読者に主人公を理解してもらい、その後の結句で作者の気持ちを出すのが良いですね。
 「悲喜幾多姫(江)女涙 舊懷延竚寂無聲」のような形ですね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第313作は桐山堂半田の T ・ S さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-313

  未完城        

無雲午影訪秋行   雲無く 午影 秋を訪ねて行く

大草登樓落葉聲   大草 登楼 落葉の声

歴史誰知思往事   歴史 誰か知らん 往事を思ふ

淒涼亂世志難成   淒涼 乱世 志成り難し

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 知多市大草城は未完の城です。

<感想>

 「未完」ということがこの詩では大事で、それを入れないといけません。
 承句は「登楼」と言ってしまうと、お城は完成していたように感じますので、「大草未完遺跡城」。
 そうなると、起句は「無雲碧宇晩秋行」でしょうかね。中二字はもう少し良い言葉があるかもしれません。

 転句は「未完」の事情を語るなら「往昔如庵繩墨地」とし、結句は「唯殘濠壘」で表して、最後の三字は作者の気持ちが入ると良いでしょう。
 景色をもう少し述べるなら、「石壘水濠留往昔」「唯有壘濠堆落葉」として、結句は上四字はこのままで、下三字をもう少し考えていくと良いでしょう。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第314作は桐山堂半田の T ・ S さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-314

  晩春        

晩花朝雨薄寒生   晩花 朝雨 薄寒生ず

風送芳塵掃地輕   風送る芳塵 掃地軽し

燕子飛空閑白晝   燕子 飛空 閑白昼

吟愁感事亦詩情   吟愁 事に感ず 亦詩情

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 四月早々に家の近くで燕が飛んでいるのを見かけた。
 燕を見ると、詩吟の「事に感ず」を思う。

<感想>

 春の終わりになっても、時に「薄ら寒さ」を感じることがありますね。
 陸游の詩に「暮春猶薄寒」の句があります。

 朝の雨が降っていると、承句の「風が地を掃う」という内容がおかしくなりますし、転句の「白昼」への流れができません。「朝」も「雨」も混乱させる情報ですので、どちらも削った方が良いですね。「晩花一日薄寒生」としてはどうですか。

 承句は「掃地」「輕」の主語が「風」なので、読み下しは「風は芳塵を送り 地を掃ひて軽し」が良いです。

 転句は「感事」を意識するなら「飛空」を「歸來」とするところ、また、下三字の読み下しは「白昼閑(しず)かなり」ですね。

 結句は「吟愁」が利いていて、「感事」が詩の題名と同時に作者の心情も表す形で良い表現になりましたね。
 そうなると、「亦」では単調なので、もう少し強くしたいですね。「逐詩情」(詩情を逐(お)ふ)などどうですか。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第315作は桐山堂半田の T ・ S さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-315

  思初夏        

麥秋窗外好風徐   麦秋 窓外 好風徐なり

庭院葡萄夏葉初   庭院の葡萄 夏葉の初め

映水郊村微月下   水に映ず 郊村 微月の下

所求夫婦樂幽居   求める所 夫婦 幽居を楽しむ

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 我が家の夏風景です。何度も何度も書き直しました。

<感想>

 前半は季節感がよく出ていて、爽やかなイメージが拡がります。
 実際はどうなのか分かりませんが、画面的には「葡萄」の葉は遠くから眺めるよりも窓に架かるような感じが良いですので、「窗外」と「庭院」を入れ替えてみてはどうでしょう。

 「麥秋庭院好風徐 窗外葡萄夏葉初」

 転句は急に散歩に出たのでしょうか、画面が変わりますね。
 最後が「幽居」ですので、できれば部屋の中に居た方が落ち着きます。
 また、「微月」と急に夕方とか夜になってしまうのも妙です。
 ここはご夫婦の「幽居」の楽しみが何か欲しいですね。私が勝手に書いてはいけませんが、例えば「閑坐茅檐長日午」(茅檐に閑坐す 長日の午(ひる)としてご夫婦の姿を出すだけでも、結句への流れが良くなります。

 結句は「所求」が下の「樂」と重なりますので、要りませんね。ここは「夫婦」の形容、例えば年齢とかを入れると具体性が増すと思います。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第316作は桐山堂半田の 靖芳 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-316

  初夏感懐        

風爽青苔日影徐   風爽やかに 青苔 日影徐やか

小庭幽草外郊居   小庭 幽草 外郊の居

如今白髪無人訪   如今 白髪 人訪ふ無し

正是不生名利虚   正に是れ不生 名利虚し

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 さわやかな初夏を迎えましたが、コロナ禍はいつになったら収まるのか、不透明なこの頃です。
 自分は年を重ね、接する朋もなくむなしく過ごしています。

<感想>

 素材の組み合わせとしては、「青苔」と「小庭」は逆の方が良いですね。「小庭」のままですと「四字目の孤平」になりますので、「閑庭」としておくと良いでしょう。

 承句も同様に「青苔国吹vが合いますね。

 転句は「現在は」ということでしょうが、わざわざ「今」と言わなくても「老來」とした方が自然ですね。

 結句の「不生」は『仏教辞典』で調べました。「不生不滅」の「不生」のようですが、難しいですね。「欲を去った悟りの境地」というところで、下の「名利虚」に繋がりそうですね。
 ただ、そう述べる根拠を探しても、「初夏の庭の景」と「白髪」「無人訪」なので、直接に理由にはならず、「正是」と強く言われてもピンとこないのが実状です。この仏教議論から逃げるなら「終日樂吟(終日 吟を楽しむ)」(この場合には起句の「日」を「陽」にします)とか、「耽溺詩書」など、上四字を検討してください。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第317作は桐山堂半田の 向岳 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-317

  童子初夏 一        

院落鳴蛙叩草盧   院落 鳴く蛙 叩草の盧

連宵聒聒入梅初   連宵 聒聒 入梅の初め

早朝耕作疲労甚   早朝 耕作 疲労甚(はなはだ)し

風爽午眠心自舒   風爽やかに 午眠 心自ら舒(おだやか)なり

          (上平声「六魚」の押韻)


<感想>

 題名の「童子」は「子供の頃」ということでしょうか、「初夏懷昔」として「昔を思い出しての詩」だと先に示しておくと、詩の展開に助かります。

 起句の下三字は「草廬を叩く」と読みますが、これは蛙の鳴き声が粗末な我が家まで鳴き渡ってきたことを表します。
 そうなると、「鳴蛙」ではなく「蛙聲」「蛙鳴」としなくてはカエルそのものが家にぶつかってきてしまいますね。
 また、「院落」「草廬」と二つ場所を表す言葉があるため、移動したような印象になります。

 転句からは表現的には問題ありませんが、前半で蛙を二句にわたって描いていますので、無視はできません。
 蛙以外の物も出しておけば良いかもしれませんね。
 ここは、「連宵」「早朝」「午眠」と時刻を表す言葉が別々に出てくること、また「早朝から働き疲れ、風爽やかな午後には昼寝して気持ち良い」というのは、初夏の様子で「入梅初」と合わないと思います。
 文法や平仄を整ってきた分、内容で勝負ができるわけですので、矛盾が無いようにすることが大切になります。
 直す方向としては、後半(畑仕事、昼寝)に合わせるようにして、ぶつかる部分を修正しましょう。

 起句は「滿耳蛙聲叩草廬」(満耳の蛙声 草廬を叩き)」として、承句は下三字を「齊齊聒聒故ク閭」とややくどいですが蛙の声を出しておきましょうか。

 転句は現在の姿ではないので、「早朝」を「少年」とすると、作者の子供時代だとわかり、全体がまとまるでしょう。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第318作は桐山堂半田の 向岳 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-318

  童子初夏 二        

閑庭月影外郊居   閑庭 月影 外郊の居

炯炯野蛍心自舒   炯炯 野蛍 心自舒(おだやか)

宿昔從兄多教導   宿昔 兄従 教導多し

北窗終日讀殘書   北窓 終日 残書を読む

          (上平声「六魚」の押韻)


<感想>

 こちらの詩も、前半は夜、後半は「終日」と時間帯にズレがあることと、内容的にも「月影」「野螢」で分断があります。

 転句は「話題転換」ではありますが、あくまでも一つの詩の中でのこと、転句で飛んでも最後は戻って来ないといけません。
 「転句を隠して読んでも意味が通じる」ことが大切です。

 表現では前半は良い景で、うまくまとまっています。

 転句は「從兄」は「兄に従ひ」「兄より」というお積もりでしょうが、「いとこ」と考えられてしまいますね。
「阿兄」として誤解を避けるようにしましょう。

 結句の「讀殘書」は「残った本を読む」のではなく、「読み残し(読残)た書物」のことですので、ここは「讀詩書」とした方が良いですね。
 直すとすると、転句をどうするか、ですね。
 昔を思い出す形にするなら、例えば「兄弟少時雙几處」(兄弟少き時 几を双べし処)としておき、結句の方はそれに合わせて「老來孤惜讀殘書」(老い来たりて孤り惜しむ 読残の書)とすると、兄と二人で学んだ日々を思い出し、今はひとり、まだまだ勉強は途中だ」となり、前作とはちょっと別の視点で思い出の詩になりますね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第319作は桐山堂半田の 向岳 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-319

  吐蕃旅行        

吐蕃信仰佛心強   吐蕃 信仰 仏心強し

五体禱形姿態煌   五体 祷形 姿態煌(かがや)く

天宇列車神地進   天宇の列車 神地に進み

高原沙漠阜陵杭   高原の沙漠 阜陵を杭(わた)る

丘園眺陌師僧麗   丘園より 陌(まち)を眺め 師僧麗し

公道拝宮民衆康   公道より 宮を拝む 民衆康なり

流涙金城姻異族   流涙し 金城 異族へ姻(とつ)ぐ

古書歴史學初唐   古書にて 歴史 初唐を学ぶ

          (下平声「七陽」の押韻)


<解説>

「神地」:  拉薩(神の土地)
「阜陵」:  小高いおか
「宮」:  ポタラ宮(菩薩の宮)
「金城」:  皇帝の娘(この人は養女)でチベットに嫁いだ

<感想>

 直接体験したことをそのまま描くと、これだけすっきりした詩になるというお手本ですね。

 首聯から頸聯まで、チベットの景を描いてよく伝わって来ます。

 残念なのは尾聯で、この詩で言うべきなのは、「金城公主」が異族に嫁いで涙を流したことではなく、唐とチベットの和解、仏教の浸透、そうした役割を果たしたことでなくてはいけませんね。
 涙を流してしまっては、今見ているチベットの景色も否定することになります。
 下三字も「初唐」に限定してては、中国とチベットの長い複雑な歴史に目をつぶると宣言するようなものになります。
 この聯だけは作り直して、せっかく整った律詩を完成させてください。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第320作は桐山堂半田の 向岳 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-320

  自適        

七六春秋幻世營   七六 春秋 幻世営(いとな)む

両親異色健康生   両親 異色のもと 健康に生(うま)れる

父嚴至極呈家訓   父は厳しく 至極 家訓呈す

母穩無量受愛情   母は穏やか 無量の 愛情を受ける

就職勤勞謀詐感   就職 勤労 謀詐(ぼうさ)感じる

退休學習博文宏   退休 学習 博文を宏(ひろ)くする

悠悠野老愉吟詠   悠悠 野老 吟詠を愉(たのし)む

連日作詩心眼明   連日 詩を作り 心眼を明(あきら)かにす

          (下平声「八庚」の押韻)


「謀詐」:  はかりごと、いつわり

<感想>

 「自適」という題では尾聯の内容だけを取り出した形、前半の回想の部分も含ませたいところです。

 第二句の「両親異色」は何のことか分かりませんし、「健康生」は主語が両親なのか私なのか、句からはわかりません。

 第三句、第四句とも、この構造では「至極に呈す」「無量に受く」と、中二字は下の動詞を修飾する形であり、「至極の家訓」とか「無量の愛情」とはなりません。
第四句は「受」では「お母様が愛情を受け取った」ことになります。

 頸聯は、ここから主語が作者自身になったことを示さないと、「両親」から読者は離れられません。
お父様の就職の話なのかと思いました。
 ご自身のことだとして読むと、「謀詐」は犯罪に使われる言葉、表現が不穏当ですね。
 どのようなお気持ちを持っておられたのかは詳しくは分かりませんが、自分一人で働く芸術家なら別ですが、他人と共同で働く「就職」でしたら、同僚でおられた方々も「共犯」になります。
 「本当の自分を偽っていた」というくらいの意味かもしれませんが、表現を間違えると他人を傷つけることになります。別の言葉を探すべきですね。

 この聯は「就職して勤労するも 謀詐を感じ 退休して学習し 博文を宏くす」と読んでおきましょう。
 ただ、「博文」はそもそも「ひろい学問」のことですので、それを「宏くす」というのも疑問はあります。

 尾聯は良いですね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第321作は桐山堂半田の 向岳 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-321

  紙        

製紙勤勞活四旬   製紙 勤労 四旬活(くら)す

悲僖記録扮詩人   悲僖を記録し 詩人を扮する

人間進展殲精力   人間 進展 精力を殲(つく)す

偉大発明懐蔡倫   偉大 発明 蔡倫を懐ふ

          (上平声「十一真」の押韻)

「蔡倫」… 後漢の宦官。世界で初めて製紙技術を発明

<感想>

 起句は製紙の仕事に四十年就いていたということですね。
「紙」については題名に書かれていますので、「專業勤勞成四旬」が分かりやすいでしょうね。

 承句はその四十年を経て、自分の人生を詩人のように記録しているという、現在の姿でしょうか。分かりにくいですね。
「悲僖載筆鄙情新」としてはどうでしょうか。「人」の字の重複もこれで解消できますね。

 転句は、文化の進展に精力を尽くしたということですかね。
「紙」との関係が弱いので、方向としては「紙の存在が人類の発展に寄与した」として、結句に繋げたいですね。
「人間與紙展文化(人間 紙と与に文化展ぶ)」。
「與」はもう少し違う字が良いかもしれませんが(「以」とか「依」か?)ひとまずのところで。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第322作は桐山堂半田の 向岳 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-322

  内津峠        

北位連山別愛岐   北位に 連山 愛岐を別ける

武尊東伐返京時   武尊(たけるのみこと) 東伐し 京に返る時

副官絶命伝言嘆   副官 絶命 伝言に嘆く

乎内津哉古記遺   乎内津哉(アー現{うつつ}かな) 古記に遺す

          (上平声「四支」の押韻)


<解説>

「愛岐」:  愛知県を岐阜県
「武尊」:  やまとたける
「乎内津哉」:  (あーうつつかな)
「古記」:  『日本書紀』

<感想>

 現代という感じを出すために「愛知」「岐阜」という呼称を使ったのでしょうが、それならば今、目の前の内津峠の景色を描かないといけません。
 承句から神話の時代の話になりますので、却って違和感が強く感じます。

 地元春日井の歴史に関わることで、それを詩にしようという狙いも良いですね。
 武尊の関わり事をまとめた部分は分かりやすく描かれています。
 ただ、どうしても説明的になり、解説書を読んでいるような印象なのと、承句以降の三句、全体の七割以上もそのことに費やすのはどうでしょうか。

 「乎現哉」と内津峠の由来を語ることが結局詩の主題というのも、やや寂しい。
 武尊の心情を思いやるような方向が出てくると詩がすっきりすると思います。

 こうした歴史を詩にする「史詩」は昔から作られていますが、事実列挙に終らずに、作者の気持ち、登場人物の気持ちを考える方向は不可欠でしょうね。
 承句に内津峠の景色を入れ、後半で武尊の行動と心情が出るようにし、内津峠の名前の由来は注に添えるくらいが良いでしょう。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第323作は桐山堂半田の 向岳 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-323

  悲話        

昔日庄川氾濫時   昔日 庄川 氾濫時

村娘人柱有言隨   村娘 人柱 言有随ふ

如今此地墳塋在   如今 此地 墳塋在り

十五一生哀史馳   十五 一生 哀史に馳せる

          (上平声「四支」の押韻)


<解説>

「馳」:心をよせる

 此の地、今は開発され、工場の駐車場になっています。
 石碑が存在します。

<感想>

 これは愛知県春日井市の「十五の森」の説話ですね。

 起句は問題無いですね。

 承句の「人柱」は和語ですので、「牲牢娘子」でしょうか。
 下三字の「有言隨」は「人身御供を出すようにという言葉があり」、それに「隨った」ということでしょうね。やや分かりにくいかな。

 結句は「哀史馳」の「馳」が苦しいです。
 「上平声四支」でしたら、韻字に「悲」がありますし、「碑」もありますので、その辺りで考えると良いでしょうね。
「悲」を最後に置けば、作者の心情が余韻として残りますし、「碑」にすれば叙景となり映像として目に残りますね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第324作は桐山堂半田の 健洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-324

  野間大坊        

海風颯颯大坊頭   海風颯颯 大坊の頭

洗首池邊暮景幽   洗首池辺 暮景幽なり

墳上木刀懷往事   墳上の木刀 往事を懐ひ

千年遺恨使人愁   千年の遺恨 人をして愁へしむ

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 愛知県美浜町の野間大坊(大御堂寺)は昔ながらの景観で、平治の乱で敗れ、逃げてきたこの地で死んだ源義朝の無念を今も感じさせる風情のある寺である。

<感想>

 起句は「大坊」よりも「古堂」が良いでしょう。

 承句は「血の池」よりも事情が分かって、表現としてはこちらが良いです。

 転句は「懷往事」はあまり意味が無い言葉で、せっかくの「洗首池邊」がくどくなります。
「無數木刀堆塚土」ですかね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第325作は桐山堂半田の 健洲 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-325

  桶狭間古戦場懐古        

雨中桶峡動陰謀   雨中の桶峡、陰謀を動かす。

殲滅今公散積憂   今公を殲滅し、積憂を散ず。

爾来凄風増領土   爾来凄風、領土を増やし、

下天布武治諸侯   下天に布武して、諸侯を治む。

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 信長は桶狭間で少数の奇策で今川義元を破った。
 以降、天下布武のもと、戦のない社会を目指し勢力を拡大していった。

<感想>

 桶狭間の戦いから信長の時代が始まったことを表していますね。
 これはこれで、一つの視点ですので良いと思います。

 起句は「陰謀」よりも「奇謀」が良いですね。

 承句は今川義元を「今公」で通じますかね。「積憂」でもありますし、「今川家」という感じで「今川」とした方が分かりやすいでしょうね。

 転句は平仄が合いませんので、「爾來」を「從此」、「凄風」もはっきりと信長とわかるようにしたいので、「信長」「織田」で良いと思います。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第326作は桐山堂半田の F ・ K さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-326

  初夏即事        

梅霖閑日坐茅廬   梅霖 閑日 茅廬に坐す

寧靖感情樂讀書   寧靖の感情 書を読む楽しみ

益友手翰無限意   益友の手翰 無限の意

透簾庭戸晩鍾疎   透簾 庭戸 晩鍾疎なり

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 メールが多くなりましたが、たまに友達から届く手紙は嬉しいものです。

<感想>

 相手の気持ちが伝わる手紙は嬉しいものですね。

 起句は問題無いですね。

 承句は「四字目の孤平」ですし、「寧靖」がすでに「安らか、おだやか」という感情を含んだ言葉ですので、「感情」は屋上屋、中二字を修正する形が良いですね。静かな状態を表す「沈沈」など、考えてみてください。
 下三字は「書を読む楽しみ」とは読めませんので、「読書を楽しむ」としておきましょう。

 転句は「益友」が良いか「舊友」が良いかですね。離れていることを考えると「益(ためになる)」よりも「舊」「故」の方が良いかと思いますが、どうでしょう。
 「無限意」は大げさに感じますが、取りあえず「意」は「喜」が良いでしょうね。

 結句は「庭」を出すよりも部屋の中に居ることを感じさせる言葉にすると画面が整いますね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第327作は桐山堂半田の F ・ K さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-327

  登呂遺跡        

餘閑訪古曳筇行   余閑 訪古 筇を曳きて行く

田舎田疇往昔情   田舎 田疇 往昔の情

村落名所遊老弱   村落の名所 老弱遊ぶ

日常平穩一詩成   日常 平穏 一詩成る

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 近くの登呂遺跡に行ってきました。

<感想>

 登呂遺跡は今どんな風になっているのでしょうかね。
 全体に「遺跡」というイメージが弱く、田舎の一風景という感じがしますね。

 題名に入っていますが、固有名詞を冒頭に入れておくと、何処に行ったのかが明瞭になります。
「晩春登呂曳筇行」(晩春の登呂 筇を曳きて行く)とすると、次の承句からが「登呂遺跡」の描写だとはっきりわかります。

 承句は「田舎」よりも「田圃田疇」、「往古」よりももっと過去を感じさせる言葉が良いですね。
「千古」あるいは「太古」とした方が縄文時代らしいですね。

 転句は「所」が仄声です。また、下三字「遊老弱」は「老弱遊」と戻って読むのは無理です。
「遊老は弱し」と読めてしまうからです。
 書き出しを「老弱來遊」として、下三字を考えると良いですね。

 結句の「日常」は転句を受けて「老弱が遊んでいる穏やかな様子」を指しているのでしょうが、「作者の日常が平穏」と読みそうです。
 ここは「日常村落」として、敢えて「平穏」は書かない方が良いですね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第328作は桐山堂半田の F ・ K さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-328

  駿府春        

駿河城跡入C穹   駿河 城跡 青穹に入る

滿目櫻花舞輕風   満目の桜花 軽風に舞ふ

昔日榮光名不朽   昔日の栄光 名は朽ちず

都人心緒瑞雲中   都人の心緒 瑞雲の中

          (上平声「一東」の押韻)


<感想>

 駿府城は天守は再建されていないですね。
 見上げる楼閣があると「入C穹」も視線の動きが自然なのですが、「城跡」から空へと目を動かすのは苦しいですね。
 ここは承句の「輕風」を持ってきて、「駿河城跡渡輕風」としてはどうでしょう。

 承句は「二六対」が壊れていますね。こちらを「滿目櫻花舞碧空」とした方が視線の動きが自然ですね。

 転句は「昔日栄光」が何を指しているのか、駿府城に「不朽」と言う程の栄光があったとは言えないですね。
 また、結句の「都人」も誰のことを言っているのでしょうか。
 この転句結句の二句は、作者の意図が伝わってきません。
 読者に伝える気持ちで再敲をお願いします。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第329作は桐山堂半田の F ・ K さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-329

  花信        

天風穩四隣C   青天 風穏やかに 四隣清し

高木白冠懷古名   高木の白冠 懐古の名

歴史先人誰共語   歴史の先人 誰と共に語らん

新茶贈友遠遊情   新茶を友に贈る 遠遊の情

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 近くの公園にナンジャモンジャの木々がありました。見頃でした。

<感想>

 ナンジャモンジャを詩の題名にすることは無理ですね。
 ナンジャモンジャ自体も、色々な植物に付けられていることもありますので、中国語で置き換えることはできませんね。
 直接名前を言わずに、「白花萬枝」とか「蓋枝銀冠」などでそれとなく伝えることはできるでしょうね。

 承句の「懐古名」は何か名前に由来とか故事があるのでしょうか。私は思い浮かびませんので、またお教えください。
 注を添えるとよいかもしれませんね。

 転句は次に「友」が出てきますので、「誰共語」が邪魔になります。
「先人」がどうしたのか、を述べる形が良いでしょうね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第330作は桐山堂半田の F ・ K さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-330

  水無月祓        

ク村風色碧雲舒   郷村 風色 碧雲舒る

夏越茅輪感有餘   夏越の茅の輪 感余り有り

退散病魔人類願   退散 病魔 人類の願ひ

閑座深念偏晏如   閑座 深念 偏く晏如

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 今年は半田と静岡で茅輪をくぐる事ができました。
 左足から輪をまたぐ作法とか、孫と静岡では四社巡りました。

<感想>

 六月三十日が一年の半分、そこで惡疫祓いが神社で行われるのが「夏越の祓え」「水無月祓え」ですね。

 起句は「風色」では景色がはっきりしないので、「風緩」「風淡」とか、具体的にしましょう。

 承句はこの句だけを見ると良いですが、作者の心情を表す言葉が「感有餘」と結句の「偏晏如」と両方出てくるのが気になります。

 結句は「晏如」で落ち着いてしまうと転句の「願」が浮いてしまうので結句を直す方向で、転句の「人類」は「萬人願」と挟み平が良いでしょう。
 結句は平仄も直します。
 神社で祈った感じで「社頭深念湑湑」でどうでしょう。



2022. 1. 2                  by 桐山人