2021年の投稿詩 第271作は 一竿 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-271

  秋暮訪山寺        

西郊邑里暮煙流   西郊 邑里 暮煙流る

残照僧房散歩遊   残照の僧房 散歩して遊ぶ

石径生苔殊有趣   石径 苔を生じ 殊に趣有り

菊花如画寺楼秋   菊花 画の如く 寺楼の秋

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 秋の夕暮れに近くの山寺を散歩、石畳の小道に苔が生え、菊の花が絵の如く寺の庭に咲いている。

<感想>

 起句は高い所からの遠望という感じがよく出ていますね。無理の無い句だと思います。

 承句は「僧坊」「散歩」というのはおかしく、この句はそれぞれの語の繋がりが弱いです。
 起句の景を見た場所を示す必要がありますので、「古寺山径」として、「散歩」への流れも作りましょう。

 転句ですが「石畳」ということですと「径」よりも「砌」が良く、「石砌」とすれば次の「生苔」も自然です。
 下三字の「殊有趣」は「苔が生えている」ことだけを指しての言葉ならば良いですが、その後に「画の如き菊の花」が来ますので、ダブルキャストは逆効果になります。
 一番の主役に「菊の花」を置くならば、転句の方は控えめにしないといけません。こちらに「残照」を持ってきて、挟平格になりますが「映残照」としましょう。

 結句は「寺」の字を承句に使ってしまいましたので、別の言葉にする必要がありますね。
 「満園」「満庭」などでどうでしょうか。



2021.11.15                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第272作は 石華 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-272

  三方五湖晩夏        

維舟曝網過漁ク   維舟曝網の漁郷を過ぎ

索道山巓風早涼   索道の山巓 風早涼

萬頃湖天秋已近   万頃の湖天 秋已に近く 

銀波澰澰月蒼蒼   銀波澰澰 月蒼蒼

          (上平声「七陽」の押韻)


<解説>

「索道」: リフトケーブルカー。

 漁を終えた舟が並び、網が干してある漁村を抜け、
 ケーブルカーを降りた山頂は、風が早くも涼しい。
 きわめて広い湖や空は、もう秋の気配、
 白銀色の波がきらきら光り、月の光が青白く冴えわたる。

 起句の「維舟曝網(いしゅうばくもう)」は、「舟を維(つな)ぎ、網を曝(さら)す漁郷を過ぎ」と訓じるべきでしょうか。
 動詞が三つも並ぶので、二字熟語は名詞で読みましたが。

<感想>

 掲載が遅くなってすみません。

 起句の読み下しですが、三つの動詞が並んでいても、「維」「曝」の主語は漁師さん、「過」の主語は作者ですので、初めの二つは同じように読めば、どちらでも問題無いです。
 「過」については、主語の変わる述語を突然入れることがそもそも疑問です。ただ、承句にケーブルカーで山に登ることが出てくる関係上、海から離れたことを示すために「過」を入れざるを得なかったという事情でしょうかね。
 「海村傍」として、ひとまず「維舟曝網」と村を近づけておきましょうか。

 承句は「索道山巓」は場面が変わったのでもう少し丁寧に描くべきで、「索道到巓」とした方が良いですね。
 「風早涼」「氣早涼」として、転句に風を持ってきます。
 これは、転句が「湖天」とまた上向き目線ですと、結句の「銀波」に行けないから、「湖水」とするためです。
 「秋已近」「早涼」で十分伝わっているので省いて、「萬頃秋風湖水面」としておくと、「銀波」への展開が自然になると思いますが、いかがですか。

 結句は「月蒼蒼」が急ぎ過ぎな感じで、前半のイメージでは午後の画面が目に残っています。
 「銀波」に引きずられたのか、逆なのかは分かりませんが、月の登場はもう少し待ってみましょう。


2021.11.29                  by 桐山人


石華さんから推敲作をいただきました。

    三方五湖晩夏(再敲作)
  維舟曝網漁村傍   維舟曝網の漁村の傍
  索道到巓氣早凉   索道 巓に到らば 気早涼
  萬傾秋風湖水面   万傾 秋風 湖水の面
  銀波澰澰葦蒼蒼   銀波澰澰 葦蒼蒼


「感想」を読ませていただき、赤面いたしました。起句から結句まですべてが…。
でも、明日のために悪いところの反省です。

 起句は、「帰り船や干し網の漁村を通ってケーブルカーで山頂へ」のつもりでした。
 承句は起句とつながっていませんでした。
 転句は視線があっちこっち、結句は時間帯が不自然。
 一応、「月」の替わりに「葦」としましたが、好きな風景なので、いつか、しっかり推敲したいと思います。

 お忙しいでしょうに、懇切丁寧な感想をいただき、ありがとうございました。

2021.12. 2                  by 石華

























 2021年の投稿詩 第273作は 哲山 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-273

  立夏        

晴耕雨読勵余生   晴耕雨読して 余生を勵ます

茶飯弧棲歳月更   茶飯弧棲するも 歳月は更(かは)り

自適悠悠労老朽   自適悠悠は 老朽に労(つか)れる

遮渠天碧地花盛   遮渠(さもあらばあれ) 天は碧(あお)く 地は花盛り

          (下平声「八庚」の押韻)


<感想>

 こちらも掲載が遅れて済みません。

 「弧」「孤」ですね。

 「晴耕雨読」「悠悠自適」の生活は理想とされますが、年をとるとそれも疲れるものだという趣旨ですね。

 結句も「空の青さや花の盛りなどもどうでも良い」という気持ちになる、という結句は重みがあります。
 人生百年時代の不安な影が漂っている詩だと言えますね。



2021.11.29                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第274作は 哲山 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-274

  梅子雨        

梅霪毎染紫陽花   梅霪 紫陽花を染(いろど)るといえど

悪疫恟恟使閉家   悪疫 恟恟として 家を閉ざしむ

光景一朝庭漫歩   光景の一朝 庭 漫(そぞ)ろ歩けば

蜘蛛渦縷聯珠華   蜘蛛の渦縷 聯珠の華

          (下平声「六麻」の押韻)


<感想>

 梅雨の一日、雨が上がった時に見つけた蜘蛛の巣が、水玉に光っている美しさを描いたものですね。

 転句の「光景」は「景」も光の意味で、「光り輝く」こと、つまり日が照っている朝という画面になります。

 承句はコロナ禍を伝える内容で、外出できないから雨上がりに庭を散歩したという流れでしょうか、「漫歩」ですとお庭の広さが出ています。

 結句は「下三平」になってしまったのが勿体なかったですね。



2021.11.29                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第275作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-275

  夏休        

久見茅家祖母顔   久しく見る茅家 祖母の顔、

心弾宅裏欲遊山   心は弾み 宅裏 山に遊ばんと欲す。

田園畔道追蜻蛉   田園の畦道 蜻蛉を追い、 

夕食西瓜夏日閑   夕に西瓜を食べて 夏の日閑なり。

          (上平声「十五刪」の押韻)


<解説>

 自然離れが進み久しいと養老孟子氏の著書にもあります通り、自然離れ都市化とかが問題にこれからなるでしょう。
「君のカブトムシは何処のデパートで買ってもらったの?」では少し違うように思いますね。
 夏休みぐらい、田舎で自然を満喫してほしいです。

<感想>

 題名の「夏休」は和語、というより現代語でしょうから、それなら「夏暇」でしょうね。

 全体に、子供の頃の思い出という感じで、「遊山」「畔道」「蜻蛉」「西瓜」と懐かしいものが並んでいます。

 詩を読んで、三十年くらい前の夏休みを満喫できれば、というお気持ちの詩ですね。
 現代を論評するということではありませんので、内容的には、どんな素材を配置するか、がポイントになります。

 その素材の点で言えば、どこにでもある風景ということで共感を重視したのでしょうが、逆に類型的で、吉田拓郎が昔「夏休み」という歌を作っていましたが、同じ趣向です。
 作者独自のものが無いと、思い出が漢字で羅列してあるだけというところになってしまいますね。

 起句は、田舎のおばあちゃん家に帰ったということでしょうが、「久」は「長い時間」という意味ですので、この場合も「ずっと見ている」と解します。「久し振り」とするのは和語ですね。

 結句の「夕食」は「晩ご飯が西瓜だった」と読んでしまいます。やや雑ですので、別の言葉の方が良いでしょう。



2021.12.11                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第276作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-276

  夏休 其二        

早化河童学泳川   早くも河童に化け 川に泳ぐを学ぶ、

虫網獲物在辺辺   虫網の獲物は辺辺にあり。

午眠夢想風通道   午眠の夢想 風の通り道、

只有山雲枉響蝉   只有 山雲 枉て響く蝉。

          (下平声「一先」の押韻)


<感想>

 こちらの詩も、「其一」と同様ですね。

 起句の下三字は語順としては「学川泳」でしょうが、押韻のために入れ替えましたか。

 転句の「夢想」はぽっかり浮いていますので、「窓下」くらいが良いでしょう。

 結句の「只有」「山雲」をどうして強調するのか、わかりません。また、「蝉」の声を出すのに「山雲」を並べるのも場所が違いすぎますので、「只見」として作者を登場させておくと、蝉の声を聞いたのも雲を見ているのも作者ということで収まりますね。



2021.12.11                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第277作は 凌雲 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-277

  震災十年後福島        

十年神社廃   十年 神社廃れ、 

動影只鳴禽   動影 只鳴禽のみ。 

孟夏耕田渇   孟夏 耕田渇き、

空家草路深   空家 草路深し。

人営消故里   人営 故里に消え、

遊鬼咽当吟   遊鬼 当吟に咽ぶ。

半棄旧懐町   半ば棄てる 旧懐の町、 

猶蘇土着心   猶 土着の心に蘇る。

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 福島と言っても放射能で汚染された一部の地域です。
 十年の年月が過ぎて、生活の基盤を他に移してしまった人も多いと思います。
 避難解除になっても半分は戻ることは難しいのではないでしょうか。

 故郷を失った悲しみを詩にしました。
 除染とかの問題もあり故郷を失った悲しみを詩にしてみました。

<感想>

 東日本大震災から十年目という年でしたので、色々と思い出すことや思うことも多かったですね。

 詩を残すこと自体が大切なことですが、気になる点だけ若干。

 第二句は「動影」に対して「鳴禽」は微妙ですね。

 頷聯は「孟夏」「耕田渇」も、「空家」「草路深」も、避難村の現状とは言い切れない、どこでもある話のように感じます。
 「C夏」「民家」という設定の方が意外性が生きて来るでしょうね。



2021.12.25                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第278作は 恕水 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-278

  在戸促織        

秋蛬在戸雨声寒   秋蛬 戸に在り 雨声寒し

喞喞清吟鼓羽跚   喞喞たる清吟 羽を鼓(ふ)るふに跚(よろめ)く

慢入深閨鳴切切   慢く深閨に入り 鳴くこと切切たり

思奇察是右疋残   奇しと思ひて是を察るに 右の疋 残なふ 

          (上平声「十四寒」の押韻)


<解説>

 コオロギが玄関にいる。冷たい雨を避けて入ってきたのだろうか。
 コロコロコロコロと清らかな鳴き声が聞こえてくるが、羽を振り動かすのによろめく。
 ゆっくりと奥の閨に入っていき、また、切々と鳴いている。
 不思議に思ってつぶさに見ると、右の後ろ足の先のほうが欠けていた。

<感想>

 コオロギの鳴き声だけでなく、奇妙な動きにも目を向けた点がこの詩の個性を出していますね。

 「喞喞」、「清吟」、「切切」と鳴き声の描写がありますので、そこに起句の「雨声」が必要かどうか。
 「雨」は分からないでもないですが、「声」は削った方が良いでしょうね。

 「奇」の直接の原因である「跚」がやや遠いですね。韻字だから仕方ないかもしれませんが、「歩き方が変だ」から「奇妙だな」とすぐに流れた方が分かりやすくなるでしょう。



2021.12.25                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第279作は 恕水 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-279

  患無餌        

街上痩熊婪餌巡   街上 痩熊 餌を婪(むさぼ)り巡る

乱雲烘日雨傾盆   乱雲 烘日 雨盆を傾くるがごとし

不成哀訴但成吼   哀訴を成さずして 但だ吼を成すのみ

山腹樹枯無実恩   山腹 樹枯れ 実の恩(めぐみ)無し

          (上平声「十三元」の押韻)


<解説>

 街に痩せた熊が出没し、エサを求めて歩き回っている。
 異常気象で、暑さも雨の振り方も尋常ではない。
 熊は哀しみを訴えることもできず、ただほえるばかり。
 山の木は枯れ、実の恵みは、なくなってしまった。

<感想>

 熊出没のニュースはあちらこちらで出ましたね。
 異常気象のせいか、環境破壊が進んだせいか、餌を失った熊に同情もしますが、町中を歩いている姿は恐いです。

 句の順序として、餌が不足している状況を説明した句は近づけた方が良いですので、転句と結句はひっくり返した方が良いでしょうね。



2021.12.25                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第280作は 真瑞庵 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-280

  秋夜雑賦        

月夜清香籬菊叢   月夜 清香 籬菊ノ叢

何花院落数枝紅   何ノ花ゾ 院落 数枝ノ紅キハ

階前蟋蟀鳴又息   階前 蟋蟀 鳴キ又タ息ム

高臥興秋茅舎中   高臥シテ秋ニ興ズ 茅舎ノ中

          (上平声「一東」の押韻)


<解説>

 月の奇麗な夜、縁側に佇み目に止まった物、耳に届いた虫の声を詩にしてみました

<感想>

 秋の趣を描いた、清らかな夜の詩ですね。

 若干食い違うのは、「月夜」で明るい夜に、庭の紅い花が「何花」と言っている点。
 ご自分の家の庭ですので「紅い花」が何なのかは知ってる方が自然でしょうから、この疑問形は腑に落ちません。

 あとは、「籬」「院洛」「階前」「茅舎」と各句に場所を表す言葉が出て来ますが、こんなに必要でしょうか。
 特に結句の「茅舎」はいかにもの決まり言葉で、直前まで庭に居た筈なのに・・・・という感じですね。



2021.12.25                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第281作は 鮟鱇 さんからの作品です。
 御挨拶をいただきました。

 鈴木先生
 ご無沙汰していますが、いかがお過ごしでしょうか。

 小生、この二年、コロナ対策で閉門覓句の日々を過ごしていますが、詩が詠めるのは不幸中の幸いで、この11月に拙作6万首に達しました。
 その記念の一作、投稿させていただきます。

 自由に平仄を調え押韻ができるようになるにつれ、詩よりも詞曲を詠むことが多くなりました。
 今年の作詩数は3000首、そのうち2000首が詞曲。
 6万首の記念も詞、ただし新譜を試みました。

作品番号 2021-281

  新譜・裁詩六萬首開懷        

正光陰如箭中詩神,    正に光陰の箭が詩神に中(あた)る如く

呻吟廿四年。       呻吟して廿四年。

莫笑非才,        笑ふ莫れ 非才の,

戀慕繆斯,        繆斯(ミューズ)に恋慕し,

六萬首成篇。       六万首 篇を成すを。

喜空想自由,       喜びしは空想の自由,

寓情於景,        情を景に寓(よ)せ,

超今越古,        今を超え古へを越え,

覆海又移山。       海を覆へし また山を移す。

   ○             ○

揮夢筆,         揮ひし夢の筆,

潤玉杯,         玉杯に潤ひ,

化靈鶴,         霊鶴と化し,

張翼舞瑤天。       翼を張りて瑶天に舞ふ。

仰圓月、桂殿明輝,    円かなる月を仰げば、桂殿 明るく輝き,

見孀娥、孤影依欄。    見き 孀娥の、孤影の欄に依るを。

笑迎青眼勸霞漿,     笑みて迎へし青眼の 勧めたる霞漿,

滌洗紅塵盡清歡。     紅塵を滌洗して清歓を尽くす,

窗外銀河噴撒,      窓外の銀河 噴き撒(ち)らす,

星屑若飛泉。       星屑を飛泉のごとくに。

          (中華新韻八寒平声の押韻)

<解説>

「呻吟」: 吟詠する。苦吟。
「寓情於景」: 四字成語。情を託して景を描写する。
「神遊」: 心の中の旅。空想の旅。超今越古:四字成語:古今を超越する。
「覆海移山」: 大海をひっくり返し大山を動かす。力量の巨大なるを形容。
「夢筆」: 夢の中の筆。才思の敏捷,文章の華美を比喩。
「靈鶴」: 鶴のこと。
「瑤天」: 天の美称。
「霞漿」: 仙界の飲み物。
「紅塵」: 俗世の塵。
「星屑」: 星くずのこと。日本語だが中国語にも用例もある。
「飛泉」: 滝。

 漢詩作りを始めて24年と8カ月、2021年11月、拙作の数6万首に達しました。
 詩がおよそ1万4千首、詞曲が2万首、残りは漢俳や曄歌などの現代短詩です。
 なお、現代短詩も詩詞と同様に、平仄と押韻、つまりは韻律を考慮して詠んでいます。

 漢詩を始めたのは、一年ほど中国語を学んでいて四声の習得に苦労していたからです。
 漢和辞典を引いていて七言絶句に平仄と押韻を記した詩譜というものがあることをたまたま知り
 平仄と押韻に親しみながら漢詩を作れば、楽しみながら四声を学べるので一挙両得
 と考えたからです。
 もともと漢詩に興味があったわけではありません。

 しかし、平仄に苦しみながら漢詩を作っているうちに
 声調の習得もさることながら
 自由に思うのではなく、平仄に合わせて考える
 ということが面白くなりました。
 私はつまらない人間です。
 そのつまらない人間が自由に考えたとして、つまらないことしか思い付きません。しかし
 平仄に合わせる都合で当初の考えとは違うことを考えてみる すると
 当初は思いもしなかった考え 発見 気付きにたどりつくことがあります。
 所詮はつまらない人間の発見や気付きであり、ひと様から見ればやはりつまらないことかも知れませんが、
 本人にとっては眼から鱗。妙想天開 面白いです。
 それでついつい漢詩作りにのめり込んでしまいました。

 平仄、始めはとても大変でした。
 最初の絶句は1997年4月に詠みましたが、二週間かかりました。
 当時50歳、この調子では生涯に三百首が詠めればよいか、と思っていました。
 いつ死んでもおかしくないので、そう思っていました。
 しかし、考えを平仄に合わせて変えることに慣れてくるにつれ
 また、どうすれば効率よく作詩が楽しめるかを工夫するにつれ
 作詩数は飛躍的に増えました。
 漢詩を始めて6年目の2002年以降は毎年2000首以上を詠んでいます。

 詩はもとより数ではありません。
 詩を作ろうと思う以上、良い詩作りをめざし、努力と研鑽を積むべきかも知れません。
 しかし、私は

1 50歳を越えているので、いつ死んでもおかしくない
2 中国語の読み書き、会話について、まともな教育を受けていない
3 漢詩、漢籍について、まともな教育をを受けていず、知識もない
4 平凡な人生を送ってきたので詩情に乏しい

 そういう日本人です。
 良い詩を作るということは、私には高嶺の花です。
 そこで、そんな日本人が詩作りにおいて
 どこまでやれるか、どこまで楽しめるか
 ということに闘志を燃やし。平仄と押韻に熟練するため、多作に励みました。
 そして、私の代表作は、作詩数だと嘯いています。

 さて、その6万首達成記念の拙作ですが、絶句・律詩・詞のほかに詞の新譜を三首ほど詠んでいます。
 新譜は、既存の詞譜に依らずに私が考案した詞です。
 とはいえ、まったくの無から詞譜を作り上げたものではなく、上掲作は
 『八聲甘州』の詞譜をベースに、『水調歌頭』『沁園春』の句法を参考にして詠んでいます。

 以下、詞譜。ご参考まで。

 拙作新譜 詞譜・雙調101字,前段十句,三平韻,後段十句 四平韻
  ●○○○●●○○(一七),○○●●平。●●○○,●●●○,●●●○平。●○●●○(一四),●○○●,○○●●,○○●●,●●●○平。
  ○○●,●●○,●○●,○●●○平。●○●、●●○○,●○○、○●○平。●○○●●○○,○●○○●○平。○●○○○●,○●●○平。
   ○:平声。●:仄声。
平:平声の押韻
  (一七):前の八字句は,上一下七に作る。
  (一四):前の五字句は,上二下三ではなく,上一下四に作る。

 八聲甘州 詞譜・雙調97字,前後段各九句,四平韻 柳永体
  ●△○▲●●○○(一七),▲△●○平。●△○△●(一四),△○▲●,△●○平。▲●△○▲●,▲●●○平。△●△○●,△●○平。   ▲●△○△●,●▲○▲●(一四),△●○平。●△○△●(一四),△●●○平。●△△、△○△●,●▲○、△●●○平。○○●、▲○△●,▲●○平。
   ○:平声。△:平声が望ましいが仄声でもよい。
   ●:仄声。▲:仄声が望ましいが平声でもよい。
   平:平声の押韻
  (一七):前の八字句は,上一下七に作る。
  (一四):前の五字句は,上二下三ではなく,上一下四に作る。




<感想>

 6万首、おめでとうございます。
 正直に言うと、6万という数字があまりに膨大過ぎて、なかなか現実感が湧いてこないくらいです。何か比較にならないかと、このホームページに投稿され掲載した作品を数えてみましたところ、24年で七千首くらいでした。
 その九倍、うーん、やっぱり実感は湧きませんので、ただ「すごい」としか言えませんが、お許し下さい。

 鮟鱇さんの詩想のスケールの大きさ、今回の詞でも後段では思いの留まるところを知らず、月世界から宇宙の果てまで、神仙を儔として、自由に飛んでますね。
 このスケール感は二十年間変わってないですね。
 いつまでも若々しい感性を保っているのは、詩詞の世界で心を自由に遊ばせているからなのでしょうね。



2021.12.27                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第282作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-282

  驚嘆藤井聡太四冠達成        

記録更新今不驚   記録更新 今や驚かず

雖然圧勝是天才   然(しか)りと雖(いえど)も圧勝 是れ 天才

龍王奪取最高位   竜王 奪取 最高位

ク土沸騰声似雷   郷土 沸騰 声 雷に似たり

          (上平声「十灰」の押韻)


<感想>

 今年の明るいニュース、としてはナンバーワンでしょうかね。
 私も同じ県の住人として、とても嬉しく思っていますし、とても十代とは思えない藤井さんの謙虚な人柄は、郷土の星と喝采するのも当然ですね。

 承句の「雖然」「然」は分かりにくいですね。
 「藤井さんの強さにはもう驚かないとは言っても、それでも圧勝の姿には驚いてしまう やっぱり天才だなぁ」ということでしょうが、「いままでも驚いたが、ますます凄い」という感じで、起句は「幾度驚」として、承句の上四句を検討してはどうでしょうね。



2021.12.27                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第283作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-283

  悼瀬戸内寂聴先生        

人世悲歓身滿盈   人世の悲歓 身に満盈(まんえい)

包容説法放精靈   包容の説法 精霊(せいれい)を放つ

驚騒得度長年礎   驚騒(きょうそう)の得度 長年の礎

白壽高僧慇寂聴   白寿の高僧 寂聴を慇(いた)む

          (下平声「九青」の押韻)


「人世」: 世の中
「精霊」: 天地万物の基となる霊気
「驚騒」: 人々が驚き騒ぐ
「長年」: 長生き
「白寿」: 九十九歳

<感想>

 そうですね、寂聴さんも今年お亡くなりになったお一人でしたね。
 いつまでも生きていらっしゃるような感じで、百歳も超えられると思っていました。

 「高僧」と表現することには、いささか抵抗のある方も居るかもしれませんが、味わいのある方でしたね。



2021.12.27                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第284作は 岳城 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-284

  新型疫病現状考察        

疫病俄然収束傾   疫病 俄然として収束の傾

豫防対策勵精成   予防対策 励精 成る

疑心暗鬼欧州状   疑心暗鬼 欧州の状(すがた)

規制緩和非是聲   規制の緩和 非か是の声

          (下平声「八庚」の押韻)


「新型疫病」: 新型コロナウイルス
「励精」: 気持ちを引き締めて努力する

<感想>

 コロナの流行があっという間に落ち着いて、その原因というか、何が効果があったのかがさっぱり分からないようですね。
 と言うことは、また流行が来た場合も、あっという間で、原因も分からないままに、大規模になるのかなと、素人目にはそう見えますね。

 ヨーロッパでは「オミクロン株」が大流行となり、休まる時はほんの僅かだった感じですね。
 「疑心暗鬼」が現状を表すのに最適かどうか、何を指しての言葉なのかが判然としません。ここは現状に対する、別の言葉を探された方が良いと思います。
 「已到新型」のような形ですかね。



2021.12.27                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第285作は 地球人 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-285

  晩秋即事        

夕陽風暖暮天晴   夕陽 風暖かく 暮天晴る

晩艶如燃菊満棚   晩艶 燃ゆるが如く 菊棚に満つ

日落扶揺紅葉散   日落ち 扶揺 紅葉散ず

冷雲飛霰夜寒生   冷雲 飛霰 夜寒を生ずる

          (下平声「八庚」の押韻)


<感想>

 久し振りですね。
 晩秋、小春日和の暖かさから日没後に一気に冷えるという、季節の雰囲気を出そうという狙いですね。

 起句は「夕陽」と「暮天」が重なります。更に見ていくと、承句にも「晩」、転句にも「日落」と同意語が続きますね。
 「秋陽風暖一天晴」が良いでしょう。

 承句は語を入れ替えて「霜菊如燃晩艶棚」として、「晩艶」は句頭より後に置いた方が良いでしょう。

 転句から時間が変化するわけですが、「扶揺」は「つむじ風」、起句の「風暖」からの変化が激しいですね。
 風の様子にも落葉にも繋がる「蕭蕭」あたりが風量というか強さ的にも妥当かと思います。

 結句はまず、「冷雲」ですが、「暮天晴」から行くと、「雲」がいつ出てきたのか、悩みます。
 また、「飛霰」は前半の状況からは落差が大き過ぎて、「夜寒」まで持って行きたいところでしょうが、頑張り過ぎです。
 人物を登場させて(作者自身でも良いです)、室内に居るならば「書窓獨坐夜寒生」、外に居るならば「郷村獨歩夜寒生」のような形で、語句を微調整してはどうでしょう。



2021.12.28                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第286作は 川竹 さん、香川県高松市にお住まいの七十代男性の方からの初めての投稿作品です。
 ホームページの感想もいただきました。

  初めて、知りました。(十年位前に一度見たような気はしましたが、その時は作ることは考えていませんでした。)
  漢詩を作る動機になってありがたいと思います。


作品番号 2021-286

  臘梅        

迎臘惜陰香已放   臘を迎へ 惜陰 香已に放ち

吟神凛凛句新裁   吟神 凛凛 句新たに裁つ

環堵霜晴北窓外   環堵 霜晴れ 北窓の外

東風未動蕾先開   東風未だ動かざるに 蕾先んじて開く

          (上平声「十灰」の押韻)


<解説>

 もう11月になり時間はたちまち過ぎて蠟梅は香を放っている
 凛凛として心情を詠み句が新たにできた
 霜晴れの中書斎の窓からは家の周りの垣根
 春の風はまだだが蠟梅の蕾がまず咲いた。


<感想>

 新しい漢詩仲間をお迎えでき、とても嬉しく思っています。
 詩作は一年ほどとのことですが、各句の平仄も整い、よく勉強されていると思います。
 各句の配置の点で言えば、全て「反法」になっています。本来ならば承句と転句は粘法になるところ、ただこれも「拗体」として認められる範囲です。

 全体で見ると、まず気がつくのは、「香已放」「蕾先開」の順番、読者は最初から読んでいきますので、描写としては「蕾」が開いてから「香」が来ないと不自然ですね。
 例えば、句の順番を入れ替えて、

   東風未動蕾先開
   迎臘惜陰香已來
   環堵霜晴北窓外
   吟神凛凛句新裁

 としてみると、流れがよく分かると思います。
 (承句は韻を合わせるために「來」にしました)


 もう1点気になるのは、題名で「臘梅」とした割に、臘梅自体の描写が少ないことです。
 「香」はどんな香りを「放」つのか、「蕾」はどんな姿で「開」いているのか、具体的な描写を入れて主人公は「臘梅」だとはっきりさせると、題名だけが浮いてしまう感じは減ると思います。





2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第287作は 東山 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-287

  尋太宰府坂本宮        

舊府新鶯梅苑中   旧府の新鴬 梅苑の中

聲楷淑氣馥粧風   声は淑気に楷ひ 馥りは風を粧ふ

千年歌宴人何在   千年の歌宴 人何くにか在る

萬葉華開都督宮   万葉の華は開く 都督の宮

          (上平声「一東」の押韻)


<感想>

 東山さんは令和3年度の多久市の「第24回ふるさと漢詩コンテスト」で「奨励賞」を受賞されました。
 東山さんの日頃の熱意が形となり評価された、という感じで、同い年の私としては嬉しく誇らしいですね。
 おめでとうございます。

 さて、太宰府坂本宮は現在の元号である「令和」のゆかりの地とされた場所です。
 「令和」の言葉の出典は「万葉集」で旅人が開いた歌会の序文からとされています。坂本宮はかつて大伴旅人の邸宅のあったところだという説があり、この歌会の場所は坂本宮だと思われたからです。
 実際に旅人の邸宅跡だという確認はできていないそうですが、1300年の時間を超えて現代と繋がる感覚は嬉しいですね。

 そういう観点で作品を拝見すると、「千年」「萬葉」の言葉が生き生きと存在感を発揮してきます。
 また、最後の「都督宮」もよく理解できます。

 欲を言えば、題名にでも良いですので、「令和」の文字を入れていただけると分かりやすくなると思います。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第288作は 東山 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-288

  秋山行        

遠趁白雲樵徑深   遠く白雲を趁へば 樵径深し

人烟已絶靜楓林   人烟已に絶えて 楓林静かなり

C溪流憩洗塵處   C渓に流憩して 塵を洗ふ処

幽鳥一聲殘好音   幽鳥一声 好音を残す

          (下平声「十二侵」の押韻)


<感想>

 こちらは「秋の山行」と訓むのでしょうね。
 「白雲」を追いかけて「樵徑」を辿っていくわけですので、そもそも「人烟」が見えるのかどうか、疑問ですね。
 「烟」「聲」が良いのですが、結句に使うので避けたのでしょうか。

 「白雲」が既に「脱俗」を象徴していて、そこに同じく「人烟絶」では転句の「洗塵」が生きて来ないように思います。
 結句の「一聲」「幽禽」とすれば、上二字はかなり自由な選択ができるでしょう。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第289作は 一竿 さんからの作品です。
 

作品番号 2021-289

  古池釣行        

雨餘忘暑古池潯   雨餘 暑を忘る 古池の潯

午下悠悠坐柳陰   午下 悠悠 柳陰に坐す

蘆岸疎葦魚戯処   蘆岸 疎葦 魚戯る処

一竿碧水塵外心   一竿 碧水 塵外の心

          (下平声「十二侵」の押韻)


<解説>

 雨後近所の池に行き、柳の木陰に座り釣糸を垂れる、岸部の葦に小魚が戯れ自分は浮きを見つめ無心となる。

<感想>

 のどかな魚釣りの心境ですね。

 これはもともと「釣行」したわけですので、承句は「坐」と言うよりも「釣」とすっきり出しておいた方が場面がよく分かって良いですね。

 場所を表す言葉、「古池潯」「柳陰」「蘆岸」が続きますので、転句の「蘆岸」「碧水」として、結句の中二字は作者自身を表す言葉で「野老」とか、お若いならば「詩叟」「痩士」、風景に持って行くなら「絲線」など、考える幅が出ると思いますよ。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第290作は桐山堂半田の 芳親 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-290

  初夏偶吟        

林園新告春愁   林園 新緑 春愁を洗ふ

C晝陽光鳥語柔   清昼 陽光 鳥語柔らかなり

夏蝶翩翻風弄影   夏蝶 翩翻 風影を弄す

蓁蓁一路意悠悠   蓁蓁 一路 意悠悠たり

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 桜の季節が終わり、新緑の美しい季節になりました。散歩をすると自然の移ろいに元気を貰えます。

<感想>

 結句の「蓁蓁」「草木が盛んに繁る様」ですが、起句の「新香vでもう雰囲気は出ちゃってますね。
「蓁蓁」を使うならば起句に持ってきて、「林園」と交換した方がすっきりすると思いませんか。

 承句は「C」があるとせっかくの新緑の美しさに対して余分ですね。
 客観的な描写として「午下」としておくと、逆に「陽光」をイメージできて、詩情が深まると思います。

 他は良いですね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第291作は桐山堂半田の 芳親 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-291

  初夏海濱        

白沙縹渺碧雲舒   白沙 縹渺 碧雲舒なり

瀲灔潮光跳小魚   瀲灔 潮光 小魚跳ぶ

島影長橋殊有趣   島影 長橋 殊に趣有り

松陰一榻好風徐   松陰 一榻 好風徐なり

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 五月の連休に蒲郡の竹島に行きました。明るい日射しの中、海辺を散歩しました。

<感想>

 五月ですと、蒲郡ホテルの前のツツジが見頃かと思いますが、詩に出てきませんから、今年は花の時期がずれていましたかね。

 起句の白く続く砂浜と碧雲のコントラストは立体感や遠近感があって良いですね。

 承句は逆に遠くから近場へと視線を持ってきましたが、せっかくの起句の拡がりが縮んでしまうのが残念です。
「跳小魚」は橋の上から、あるいは島の岩場から見えた方が自然です。
「渡過長橋跳小魚(長橋を渡り過ぐれば小魚跳ぶ)」として、転句からはもう竹島に渡った画面にするのが良いでしょう。

 転句は「竹島歩遊殊有趣」として結句の「松陰で一休み」へと繋がりをつけてはどうでしょうね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第292作は桐山堂半田の 芳親 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-292

  梅雨書懷        

林苑陰晴曲徑通   林苑 陰晴 曲径通ず

牛蛙喧聒小池中   牛蛙 喧聒 小池の中

四葩色彩堪忘暑   四葩の色彩 暑を忘るに堪る

午下逍遙新竹風   午下 逍遥 新竹の風

          (上平声「一東」の押韻)


<解説>

 梅雨の晴れ間に林園を散歩しました。
 池の中から牛蛙の鳴く声が聞こえ、たくさんの紫陽花(四葩)が美しく咲いていました。

<感想>

 「陰晴」は「曇りと晴れ」、下三字との繋がりが弱いですね。
 一番良いのは「新晴」(雨の晴れ間)ですが結句に「新」がありますので、同じような言葉ですと「嫩晴」という言葉。この場合には「曲徑」を「幽徑」にしておきましょう。

 「牛蛙」の「ボーボー」という鳴き声は印象に残りますが、この詩で蛙の種類まで言う必要はあるかどうか。特に「牛蛙」はアメリカからの外来種ですので、ちょっと風雅さに欠けるかな。「鳴蛙」「群蛙」などどうですか。

 転句は「色彩」ではなく、実際に色を出した方が鮮やかで「紫彩」「翠」としてみると印象の強さの違いが分かると思います。下三字の読みは「暑を忘るるに堪ふ」で「たる」は「足る」でしょう。

 結句は問題無い、良い句ですね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第293作は桐山堂半田の 芳親 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-293

  大垣蛤塚        

山遙村靜一川流   山遥か 村静かに 一川流る

映水殘楓古渡舟   水に映ずる残楓 古渡の舟

渺渺蕉翁漂泊旅   渺渺 蕉翁 漂泊の旅

句碑夕照已深秋   句碑 夕照 已に深秋

          (下平声「十一尤」の押韻)


<解説>

 三年前の秋、「奥の細道」むすびの地を訪れました。「蛤のふたみにわかれ行く秋ぞ」の蛤塚を見ながら、芭蕉の心境に思いを馳せました。

<感想>

 起句は「山」「村」「川」と主語が三つ入って、バタバタした印象です。
「山村閑靜一川流」と一つ減らしましょうか。
 あと、大垣ならではの風景が入ると良いですね。今のままですと、日本全国どこでも通用する句です。何か無かったか思いだしてみましょう。

 承句は良いですね。ただ、「殘楓」とここで述べると秋の終わりはもう分かったことになります。
 そうなると、結句の「已深秋」が今更という感じになります。どうするか、結句を考えてから戻りましょう。

 転句は「渺渺」の位置が「漂泊」から遠く、「渺渺たる蕉翁」と読みそうですね。
 芭蕉を上に置くなら「俳聖(○●)」という語もありますし、大垣ということならば旅の終わりということも入れたいところですね。

 結句は下三字と上の対応がスムーズではないですね。
 承句と入れ替えて、承句を「夕照句碑津渡舟」、結句を「殘楓映水已深秋」とした方が結句が生きて来ますね。
 承句で「句碑」が出れば、転句の上二字は「遙憶」くらいでも良いでしょうね。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第294作は桐山堂半田の 醉竹 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-294

  懐辛丑花時        

小庭槭樹嫩芽萌   小庭 槭樹 嫩芽萌え

接骨木花黄込ト   接骨木花 黄緑栄(かがや)く

晴暖寰中如無戚   晴暖 寰中 戚(うれ)ひ無きが如く

喈喈鳥雀又春生   喈喈 鳥雀 又春生ず

          (下平声「八庚」の押韻)

「接骨木」:にわとこ


<解説>

 人間たちは疫病に縛られ自制を余儀なくしているが、自然界は何事も無きが如く、
 草木、鳥獣、また巡って来たいつもの暖かい春を謳歌している。
 桜の様な華やかさは有りませんが、この時期のニワトコの若葉と花の色は正に春の色だと思います。


<感想>

 秋の紅葉も美しいですが、この時期に葉を出すモミジの鮮やかさも素敵ですね。
 前半に二つの植物を出しましたので、どう扱うかですね。

 承句は「接骨木花」と言うと、「黄香vが花の色となり、緑の葉が消えます。
「花」だけに焦点を絞るか、「花」を「枝」として両方を感じさせるかですね。
「接骨木」を中心に据えて描くなら、起句は「槭樹」と具体的な植物名は出さずに背景に徹するのが良いでしょう。

 転句は平仄が合いませんね。「如」「若」にして挟み平にしましょうか。

 結句は「又春生」は上四字との繋がりが無いのと、読者は前半や「晴暖寰中」の言葉で「春」が来たことはとっくに分かっていますので、「春生」の結びでは今更という感じで弱いですね。
 取りあえず「喜春生」とすれば上四字との繋がりは出ますが、別の結びを考えても良いでしょう。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第295作は桐山堂半田の 醉竹 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-295

  初夏即事        

猗猗新麹D風徐   猗猗(いい)たり 新緑 好風徐

杜宇明聲告夏初   杜宇の明聲 夏初を告ぐ

散歩前山得香筍   散歩す 前山 香筍を得るも

今時不缺食松魚   今時 缺かせず 松魚を食ふを

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 目に青葉 山ホトトギス 初鰹 です。

「松魚」は「堅魚」のほうが中国には通じるかもしれませんが、日本の漢詩でよく使われているようなのでそのまま使いました。

<感想>

 初夏の風物詩でまとまっていますので、どこが悪いというわけではありませんが、どの句も印象が弱く、あまりワクワクしてきません。
 何となくリアリティが無く、頭で拵えたようなところがあって、読者が一緒に山歩きをしているという感覚を持てないからかもしれません。

 「目に青葉」の句との照合が目的ならばこのままでも仕方ないですが、例えば、全体を山歩きの光景として、起句に「前山散歩好風徐」とすると、「青葉」「ホトトギス」の順番が前後しますが、転句のホトトギスの「明聲」も拡がりと奥行きが出て来ます。

 転句は「新葉猗猗盈目香vのようにして、「香筍」は控えておいた方が「かつお」が引き立つでしょう。

 結句は「今時」は「この季節は」という意味でしょうね。「晩餐」「今宵」あたりが分かりやすいと思いますがいかが。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第296作は桐山堂半田の 醉竹 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-296

  麻雀        

曉窗晴日雀聲頻   暁窓 晴日 雀声頻り

躍躍雛禽羽翼貧   躍躍 雛禽 羽翼貧なり

稲穂垂時悩農父   稲穂 垂れる時 農父を悩ますも

閑居小院是嘉賓   閑居の小院 是れ嘉賓

          (下平声「八庚」の押韻)


<解説>

 ここ数年、雀の姿を見なくなっていたが、今春はかなり多く見る。
 うまく飛べない雛の頑張っている様子は、新○○生を連想し応援したくなる。

<感想>

 最初題名を見た時に、碁だけでなく「マージャン」も佐竹さんはされるのかと思いました。
 定着したイメージがありますので、「雛雀」「曉鳥」としてはどうでしょう。

 起句は「窗」を「庭」とした方が承句との関わりが良いでしょうね。

 転句は秋になったらと想像した画面ですね。

 結句で「是嘉賓」と喜んでいるのは、小雀の成長した姿を思うからで、「悩農夫」と「害鳥」になることからではありません。となると、「悩農夫」ではなく、「雀が育つ」という内容でないといけません。
 結句については、「閑居」だけでは「嘉賓」を迎えた気持ちが弱いので、「閉居幽院」「閑愁小院」でどうでしょう。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第297作は桐山堂半田の 輪中人 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-297

  思春        

黒雲蓋宙雷聲新   黒雲宙を蓋かし雷聲新なり

風烈移季萬物春   風は烈しく季移り萬物の春

十里櫻花林下路   十里 桜花 林下の路

曾遊田畝大江濱   曾て遊ぶ 田畝 大江の濱

          (上平声「十一真」の押韻)


<感想>

 起句は「春雷」で春の到来を示した形ですね。
「蓋」は何と読んでいるのでしょうか。「おおふ」「かくす」が一般的ですね。
この句は下三字がどれも平声(「下三平」)なので、「遠雷頻」としておきましょう。

 承句はこちらは「春一番」でしょうか。ここは「季」が仄声ですので平仄が合いません。
「一日烈風蘇水濱」というところでしょうか。

 後半は「林下」「田畝」「大江濱」と場所を表す言葉が幾つも出てきて、はて、一体どこにいるのかと悩みます。

 転句は「十里長堤櫻樹路」として「林」はやめましょう。

 結句は「曽遊」ですと昔の景色で、話が分からなくなります。
 前半も含めて現在の景色にした方が良いですので、「逍遙滿目亂花春」というのはどうですか。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第298作は桐山堂半田の 輪中人 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-298

  穀雨        

田家四月雜草舒   田家 四月 雑草舒(の)び

穀雨晴天埋菜蔬   穀雨の晴天 菜蔬を埋む

耕起農夫齡八十   耕起す 農夫 齢八十

春光燦燦汗塩如   春光 燦燦 汗塩の如し

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 穀雨に野菜を植えました。十一種類、七十株と播種三種類でした。
 だんだん苦痛になってきて、あと一、二年かと思っています。

<感想>

 起句は「雑草」というのはどうでしょう。また、「草」は仄声ですので、「草芽舒」でどうでしょう。

 承句の「埋」は「土の中に見えないくらい入れる」ということで、これでは深過ぎませんか。「栽」「培」が適当だと思いますよ。

 結句は下三字、「塩如」の語順が逆です。「如」は使えませんので、「汗濡鋤」(汗鋤を濡らす)が良いでしょう。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第299作は桐山堂半田の 輪中人 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-299

  夏初偶成        

夏初閑日苦吟餘   夏初 閑日 苦吟余す

聒聒鳴蛙叩草廬   聒聒(かつかつ)として鳴蛙 草廬を叩く

皐月遠雷天籟起   皐月の遠雷 天籟起こし

郊村白雨閲田閭   郊村の白雨 田閭を閲す

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 梅雨時の子供の頃の風景を思い出して、蛙の合唱や恐かった雷を思い出して書きました。

<感想>

 承句は「蛙聲」でしたら「蛙の鳴き声が門を叩くように家まで響いてきた」と理解できますが、「鳴蛙」ですと直接的には「鳴いている蛙が叩いた」となり、蛙が訪問してきたようになります。
まあ、そんな童話のような場面は考えず、蛙の声が聞こえてきたと大抵は読み取ってくれるでしょうが、「蛙聲」「蛙鳴」と少し変えるだけで調整できますので、直した方が良いですね。

 転句の「皐月」は陰暦五月、今ですと六月になりますので、「夏初」ではやや遅い感じです。季節を表す言葉は一つで良いですから、ここは「天籟遠雷風忽起」(天籟 遠雷 風忽ち起こり)としてはどうでしょう。

 結句は「郊村」は、承句でも「草廬」で場所を示していましたので、どうでしょうね。要らない情報に感じますが、入れるならば起句の「夏初」の代わりに入れても良いでしょう。  ここは蘇軾の「望湖樓醉書」からいただいて「黒雲白雨」と並べてはいかがですか。



2022. 1. 2                  by 桐山人
























 2021年の投稿詩 第300作は桐山堂半田の 輪中人 さん、今年度前期の課題作品です。
 課題提出時の私の感想も添えます。

作品番号 2021-300

  初夏釣魚        

夏日舟行夜釣魚   夏日 舟行 夜魚を釣る

江流浩浩好風餘   江流 浩浩として 好風余し

納竿歸港涼波裏   竿を納め 涼波の裏を帰港す

碧水鏡面月影虚   碧水の鏡面 月影虚なり

          (上平声「六魚」の押韻)


<解説>

 初夏、近くの川へ舟行して釣果は無かったが、静かな日で気持ちよく、時間が過ぎるのを忘れるくらいであった。

<感想>

 起句は「夏夜」と書き出した方がしっかりした句になります。下三字の方は「獨釣魚」でどうでしょう。

 転句は読み下しを「竿を納め帰港す 涼波の裏」とします。

 結句は上の六字が皆仄声ですので、中二字を平字にしましょう。
 ここに「盈盈」「滔滔」など、水の様子を表す言葉として畳語を入れるようでしたら、バランスの関係で承句の「浩浩」を「浩然」としておくと良いでしょうね。



2022. 1. 2                  by 桐山人