作品番号 2020-61
新年 一
夜來積雪一窗明 夜来 積雪 一窓の明かり
歳旦風和春草萌 歳旦 風和み 春草萌ゆ
破蕾梅花通淑氣 破蕾の梅花 淑気通る
正迎喜壽氣愈清 喜寿を正に迎へ 気愈よ清し
作品番号 2020-62
新年 二
梅花蕾破動春情 梅花 蕾破れ 春情動く
送舊迎新看曉リ 旧を送り 新を迎へ 暁の晴を看る
有限人生好忘老 有限の人生 好し 老を忘れん
和顏喜壽暖風輕 顏を和ませ 寿を喜ぶ 暖風軽やか
作品番号 2020-63
新年
四海祥雲瑞氣生 四海 祥雲 瑞気生ず
迎春萬戸曉鐘聲 春を迎ふる万戸 暁鐘の声
令和元旦身多幸 令和 元旦 身は多幸
試筆朝陽心自平 試筆の朝陽 心自ら平らかなり
令和の元号初の元旦を迎えて
作品番号 2020-64
庚子新年
遼遠寺鐘歳月更 遼遠 寺鐘 歳月更む
寒窗煖酒一燈C 寒窓に酒を煖め 一灯清し
元朝風歇東方白 元朝 風歇み 東方白し
盎盎卿雲曉色明 盎盎たる卿雲 暁色明らか
大晦日、一年を振り返る時間(昭和の子どもの頃を思い出して)
新しい令和初のお正月を迎える朝の空気、日本人で良かった。
作品番号 2020-65
新年書懷
令和無恙歳朝迎 令和 恙無く 歳朝迎ふ
瑞靄晨鷄曉一聲 瑞靄 晨鶏 暁に一声
肅肅曈曈初日上 肅肅 曈曈と初日上る
惠風満地久安平 恵風 地に満ち 久しく安平たり
作品番号 2020-66
令和庚子歳旦
玉暦回來迎子年 玉暦 回り來たり 子年を迎ふ
清心元旦向華箋 清心 元旦 華箋に向かふ
愛書敲句遊風雅 書を愛し 句を敲き 風雅を遊ぶ
二百蕪詩椒酒前 二百の蕪詩 椒酒の前
作品番号 2020-67
庚子年頭作
八十人生添四春 八十の人生 四春を添ふ
五雲靉靆歳華新 五雲 靉靆 歳華新し
一家康健三元宴 一家 康健 三元の宴
老叟餘年書巻親 老叟 餘年 書巻親しむ
作品番号 2020-68
新年書懷
歳朝參詣暖風輕 歳朝 参詣 暖風軽し
家室相揃和氣生 家室 相揃ひて 和気生ず
拝拱爲君存宿志 拝拱す 君が為 宿志を存ずを
三兒笑語喜心平 三児の笑語に心平を喜ぶ
元旦の朝、恒例の初詣へ出かけた。近くの氏神様をお参りする。
暖かなお正月、家族が揃い和やかなひと時。
子供達のために手を合わせて祈った。
三人息子の笑い話を聞きながら、何事も無く安らかな今に幸せを感じた。
作品番号 2020-69
庚子元旦 一
曈曈初日照鴟甍 曈曈たる初日 鴟甍を照らし
一脈春風颭旆旌 一脈の春風 旆旌を颭(そよが)す
先献佛前新歳水 先に仏前に献ず 新歳の水
令和御宇願昇平 令和の御宇 昇平ならんことを願ふ
「御宇」: 天下を治めている期間。御代。
作品番号 2020-70
庚子元旦 二
歳旦風和節序更 歳旦 風和し 節序更まり
三元天地入春晴 三元の天地 春晴に入る
遙看白雪嶽芙蓉 遥かに看る 白雪の嶽芙蓉
旭日放紅山色明 旭日 紅を放って 山色明らかなり
作品番号 2020-71
庚子新年
正旦慶風佳氣迎 正旦 慶風 佳気迎ふ
旭暉映雪紙窗明 旭暉 雪に映じ 紙窓明らか
試筆悠悠眞適意 試筆 悠悠 真に意に適ふ
芳墨硯田忘世情 芳墨 硯田 世情を忘る
作品番号 2020-72
庚子新年
悠遠ク風童子聲 悠遠 恵風 郷子の声
早梅香裏報春明 早梅 香裏 報春明らか
孤窓筆硯忘時嗜 孤窓 筆硯 時を忘れて嗜む
夕暮可憐凍雀鳴 夕暮 憐むべし 凍雀鳴く
作品番号 2020-73
庚子新年
東風歳旦叩門聲 東風 歳旦 門を叩く声
良友携樽杯酒傾 良友 樽を携へ 杯酒傾く
梅朶芳香花色赤 梅朶 芳香 花色赤し
笑顏朗詠一詩成 笑顔 朗詠 一詩成る
作品番号 2020-74
庚子新年
輕暖慶雲夜雪晴 暖気 軽寒 夜雪晴る
東風習習一天明 春声 慶雲 門を叩く声
瑞光滿地新年旦 瑞光 細雨 一天明らか
春興欣然萬感生 春興 欣然 万感生ず
作品番号 2020-75
庚子新年
詩朋賀宴酒杯傾 詩朋 賀宴 酒杯傾く
和氣笑顔心泰平 和気 笑顔 心は泰平
唱句吟詞新歳喜 句を唱ひ 詞を吟ずれば 新歳の喜び
梅香馥郁一天明 梅香 馥郁 一天明らか
作品番号 2020-76
庚子新年
和風歳旦一天晴 和風 歳旦 一天晴る
山色澄新故里城 山色 澄新 故里の城(まち)
淑氣滿窗年賀宴 淑気 窓に満ち 年賀の宴
笑顔古友酒杯傾 笑顔の古友 酒杯傾く
作品番号 2020-77
新 年
春陽氷解一天晴 春陽 氷解け 一天晴る
旭日鷄鳴嶺色清 旭日 鷄鳴 嶺色清らかなり
古友叩門交祝意 古友 門を叩き 祝意を交はす
薫風押背促郊行 薫風 背を押し 郊行を促す
作品番号 2020-78
新 年
歳旦滿村鷄犬聲 歳旦 満村 鷄犬の声
東風溫暖運春リ 東風 温暖 春晴を運ぶ
千門盡照曈曈日 千門 照らし尽くす 曈曈の日
賀客笑顏嘉泰平 賀客 往来して 泰平を嘉す
作品番号 2020-79
新 年
晦日聽鐘夜雪降 晦日 鐘を聴く 夜雪降る
新春天霽一望明 新春 天霽れ 一望明し
笑顔郷友愉吟裏 笑顔 郷友 吟を愉しむ裏
初詣賽人年月更 初詣 賽人 年月更(あらた)む
作品番号 2020-80
庚子新年
東風氷解喜新晴 東風 氷解け 新晴を喜ぶ
椒酒辛盤淑氣生 椒酒 辛盤 淑気生ず
馥郁梅花香滿座 馥郁たる 梅花 香は座に満つ
舊朋快飲笑談聲 旧朋 快飲 笑談の声
作品番号 2020-81
庚子新年
歳旦輕寒新雪明 歳旦 軽寒 新雪明し
迎春庭樹早鶯聲 春を迎ふる庭樹 早鶯の声
閑窓静淨瑞光満 閑窓 静淨 瑞光満つ
試筆芳牋心自平 試筆 芳牋 心自ら平らか
作品番号 2020-82
庚子新年
韶光暖日惠風C 韶光 暖日 恵風清し
誘友吟行歩歩輕 友を誘ひて 吟行 歩歩軽し
朗唱句詩新興趣 句詩を朗唱し 興趣を新たにす
六花時舞樹林明 恵風 時に舞ひ 樹林明し
作品番号 2020-83
庚子新年
春風脈脈瑞光生 春風 暖日 白髪生ず
草木花香淑氣横 草木 花香 淑気横たふ
古友交斟新歳酒 古友 斟み交はす 新歳の酒
笑顔歡語遠遊情 笑顔 歓語 遠遊の情
作品番号 2020-84
偶成
友朋招誘始詩吟 友朋 招誘 詩吟を始める
指導優優愛情深 指導 優優 愛情深し
日々散人愉清酒 日々 散人 清酒を愉しむ
悠々開放満天心 悠々 開放 満天の心
<解説>
詩吟を三十年ほど練習していて、図書館で平仄辞典が目に入り、自分でも作詩しようと思いました。
先生の本2冊、目を通しました。
今迄、漢詩の成り立ちを考えず、ただ大声で朗吟していました。
今、少し起承転結、対句の意味が分かりました。
人生最初の作です、文法の訂正、構成の不備をご指摘下さいますよう、お願いいたします。
<感想>
初の漢詩作品を拝見しました。
内容としては、良い友人と指導者に恵まれ、詩吟を楽しみ、生活を楽しんでいるお気持ちがしっかりと表れていると思います。
作詩で何よりも大切なのは、「どう詠むか」ではなく「何を詠むか」であり、伝えたいこと、言いたいことがはっきりして詩に向かわなくては、技術的な点でどれだけ優れていても、何よりも自分自身の心に残る作品にはなりません。
そういう点では、とても良い作品だと言えます。
ただ、漢詩では外国語の詩であり、しかも近体詩としても1000年以上の伝統を持った定型詩ですので、体裁を整えることも大切で、気持ちと表現の融合が大変な面でもあり、楽しい面でもあります。 苦労して出来上がった喜びは、規則がある分だけ一層大きなものになります。
そういう漢詩としての体裁を整えるということで再見しましょう。
まず最初に、表記の件ですが、「日々」「悠々」に使った「々」は漢字ではなく記号になりますので、当然平仄もありません。平仄の無い字は使わない(使えない)わけで、和製漢字(国字)の使用を禁止するのも同様の理由です。
やや面倒ですが、「日日」「悠悠」と書くように留意してください。
独学での創作ということですが、押韻はしっかり整っています。
もう一つの漢詩の規則である平仄については、第二句(承句)第三句(転句)にやや難があります。
平字を○、仄字を●、押韻字を◎と表記しますが、今回の詩は次のようになります。
第一句 ●○○●●○◎
第二句 ●●○○●○◎
第三句 ●●●○○○●
第四句 ○○○●●○◎
平仄には一句の中での規則として「二四不同」「二六対」があり、句の配列の点で「反法」「粘法」があり、ほとんどの部分は整っていますが、承句と転句のみ、「二六対」になっていません。
承句は「愛情」を「慈愛」とし、転句は「清酒」を「濁酒」とすればひとまず平仄は整いますので、それで作者が納得できれば良いですね。
その他では、起句は「招誘」をもっとはっきり「招(誘)我」とご自身をしっかり出すと、吟に入った事情が分かります。
承句は「指導」よりも「教導」とすれば、先生の指導ということが分かるようになります。
どちらも一字のことですが、「招」と「誘」のように同じ意味の字は整理して、情報量を増やす変更です。
転句はご自身の生活を述べたわけですが、「愉清酒」という形で詩吟以外の楽しみを出すと、話が浮いてしまいます。
「愉朗唱」として、吟を楽しみ、そのおかげで心がゆったりするという結句へ流れるようにすると、全体がまとまりますね。
2020. 3.15 by 桐山人
作品番号 2020-85
誓和平
少年遊興養難成 少年 遊興 養成り難し
持杖高齢老不栄 持杖 高齢 老いて栄えず
日本未来望正路 日本 未来 正路望む
日日民衆誓和平 日々 民衆 和平を誓ふ
<感想>
詩意は、「若者は遊び呆けて期待できない(起句)、老人は高齢だから今更栄えることはない(承句)、日本の未来には正しい道を進んで欲しい(転句)、日々国民は平和を願っている(結句)」ということで、大きな視点の詩になっていると思います。
ただ、全体の流れで見ると、若者への不安と高齢化社会の現状、そして未来への希望までは繋がりますが、結句の「日日民衆誓和平」は、これが事実ならば心配は無いわけで、前半の記述と矛盾し、やや舌足らずの感は否めません。
結句は「民衆」ではなく、「私は思う」という形で、自分自身の気持ちであることを表すべきですね。
技術的なことでは、平仄を書きますと
●○○●●○◎
○●○○●●◎
●●●○○●●
●●○●●△◎
結句のみ、平仄が合いませんが、他は良いですね。
「日」の字は転句にもありますので、「同字重出」となり、これは禁忌です。
そういうことで行くと、結句をまず平仄と内容で合うようにしましょう。
二字目を平字にする必要がありますので、ここに「野翁」と自分を出して、中二字はどのように「和平を誓う」かを言うと良いでしょう。「切切」とかでしょうか。
ここに「日日」を入れても良いですが、その時は転句の「日本」を「我國」としましょう。
どちらの詩につきましても、押韻、平仄についても勉強されていることが分かりますし、用語も詩吟の経験からでしょう、無理なく使っていらっしゃいますので、人生初の作詩としては十分と言える作品ですね。
このまま作詩を続けて慣れて行けば、ご自身の作品を吟詠することもできると思います。
頑張って下さい。
2020. 3.15 by 桐山人
作品番号 2020-86
金婚譜
赤縄堅結幾浮沈 赤縄 堅結にして 幾浮沈
比翼携扶歳月深 比翼 携扶して 歳月深し
連理松枝風籟爽 連理の松枝 風籟爽やかなり
琴筝相和五十臨 琴筝 相和して 五十に臨む
<解説>
金婚式を迎えました。
漢詩で祝いたく苦吟の数日でした。
結句の「五十」の平仄は矢張り駄目でしょうか。
ご多忙のところ誠に恐縮ですが記念の句で大切にいたしたく 是非ご添削をお願い申し上げます。
運命の赤い糸に結ばれて今まで多くの浮き沈みを経てきたことです。
二人して携え 扶けあいながら長い年月を過ごしてきた。
今や相生(あいおい)の松風は爽やかにして、
琴の音も和みあって五十年 金婚式を迎えることです。
<感想>
金婚式おめでとうございます。
まず、結句の「十」の平仄ですが、杜牧の詩の例を用いて可能という考えもあります。しかし、通例では古典詩を作る場合には仄声として判断します。
せっかくの記念の詩ですので、瑕疵と批判されることは避けた方が良く、同義の「旬」を用いるのが妥当だと思います。
夫婦の堅い愛情を表す言葉をちりばめて、めでたい内容になっていると思いますが、逆にやや使いすぎの印象もあります。
起句と承句でほぼ同じことを言っていますが、ここは前半で五十年を総括する意味で納得できます。
しかし、転句以降もそれが続き、結句も起句承句と同様の句意になりますので、結局全部の句が五十年を振り返ってのことになり、詩全体が単調になります。
せめて、転句の「連理」を承句に持ってきて、「比翼連理」と繋げても良いと思います。
転句については、一旦現在の時点に持ってきて、周囲の情景(叙景)などを置くと、詩にリズムが生まれるでしょう。
転句がそういう形で落ち着けば、結句の「五十(旬)臨」も「改めて」過ぎた歳月を振り返る形になって、全体のまとまりが出ると思います。
「風籟爽」を残しても良いでしょうから、上四字を検討されて、完成をお待ちします。
2020. 3.17 by 桐山人
過日は私の『金婚之譜』をご添削くだされ真にに有難うございました。
ご指摘の事々、目からうろこのように適切なご助言に感謝いたします。
推敲を重ねたのですが最初の句想に拘ってしまうものだということがよくわかりました。
仰るように 転句の部分がやはりとても難しくまたまたご批評を仰ぐところです。
突然に老樹が出てきてそれも青いというのはおかしいでしょうか。
年は取っても未だ若い気分であることを表現したかったのですが…。
金婚譜
赤縄堅結幾浮沈 赤縄 堅結にして幾浮沈
比翼連理歳月深 比翼 連理の歳月深し
老樹未青風籟爽 老樹 未だ青く風籟爽やかなり
琴筝相和五旬臨 琴筝 相和して五旬に臨む
運命の赤い紐に結ばれ 二人相携えあっていくつもの波風を乗り越えてきました。
老樹は未だ青く茂り 渡る風は爽やかであります。共に奏でる琴の音もなごみあって、五十年の金婚式を迎えるところです。
2020. 4.13 by 如風
転句の「未青」は「まだ青くない」となりますので、話が変ですね。「未」を「猶」にすれば通じるとは思います。
ただ、初案で「松枝」をお使いになったのは「変わらない緑」ということでお使いになったのだとわかりましたので、
その気持ちを生かす形ですと、「勁葉老松風愈爽」「常刻シ枝風復爽」という形も考えられますね。
2020. 4.17 by 桐山人
作品番号 2020-87
春日書懐
雛鶯訥訥譟南枝 雛鴬 訥々 南枝に噪ぎ
小鮒期樺オ穀r 小鮒(しょうふ) 匆々 緑池に跳ねる
歸臥三年水雲裡 帰臥 三年 水雲の裡
一竿風月一生涯 一竿の風月 一生涯
<解説>
「訥訥」: 口ごもったり、つかえたりするさま。
「匆匆」: あわただしい。
「帰臥」: 隠居すること。
「一竿風月」: 魚釣りなどで、俗世を離れて自然を楽しむこと。
対句にしてみたかった。陸游の「一竿風月」を使ってみたかったので。
三年前に退職し、漢詩を始めてから詩の材料さがしで、身近な自然の小さな変化に気付くようになりました。
詩作の上達は遥かな道ですが、投稿させていただくようになってから、桐山先生のアドバイス以外にも得たものは、とても多いです。
<感想>
遥峰さんは今回からお名前を「石華」さんに変更されましたので、よろしくお願いします。
対句で前半を仕立てて、「一竿風月」を使っての作品ですね。
「雛」「小」を付けて、お書きになったように「身近な自然の小さな変化」を描かれた前半は、対句としても仕上がっていると思います。
この二句だけで見るとまとまってはいるのですが、転句の「水雲裡」という大きな感覚につなげることを考えると、「南枝」は「庭の南の枝」のイメージが強くなります。
郊外を歩いている形で、「南枝」を「林枝」、合わせて「穀r」を「野池」としてはいかがでしょうか。
結句は「一竿風月」で生きて行きたいという思いの言葉でしょうが、「生涯」では転句の「歸臥三年」に不似合いです。
結句の結びを直す形で、例えば白居易の詩の言葉を借りて、「一竿風月是家貲」とか、あるいは転句の上四字をもう少し周りの風景にしておくと良いかと思います。
2020. 3.20 by 桐山人
鈴木先生の感想にありました「郊外を歩いている形」で気が付き、題を「春日書懐」より「春日筇杖」が良いのではと替えました。
ご指導のあった転句は、結句の「一竿の風月」の具体的内容を上四字にしまして、下三字「水雲の裡」は、起句と承句の景色から「山」と「水」で「山水の裡」としましたがどうでしょうか。
結句の読みは、いろいろありましょうが、強く感じる方を選びました。
2020.3.22 by 石華
転句の前半は上々かと思います。
下三字の「山水」は、前半の「林」や「池」の小ささとは不釣り合いですね。
「郷邑」「故里」などを使う方向でどうでしょう。
結句はこれで良いと思いますが、起句の「譟」が読み下しで「噪」になっているのに気がつきました。
同じ意味ですが別字ですので、統一するのが良いですね。
2020.3.30 by 桐山人
作品番号 2020-88
孟春聽雪
春寒村邑朔風鳴 春寒の村邑 朔風鳴りて
撲牖翻簾廻雪聲 牖を撲ち 簾を翻す 廻雪の声
白曉應看有銀樹 白暁 応に看るべし 銀樹有るを
紅爐尚擁已三更 紅炉 尚ほ擁し 已に三更
<解説>
世界中、ウイルスで酷いことになっています。先生、投稿者の皆様がご無事でありますように。
小生も母も高齢(96)、ともに持病があり、かなり用心しています。
「紅炉」は「火鉢」でお願いします。
家の中で、外の様子を聞いています。明日は玉樹が見れるでしょう。
でも、音がうるさくて眠れず、火鉢を抱えて夜中になりました。
<感想>
石華さんは福井にお住まいでしたね、春を迎えてもまだまだ雪が降り積もり、寒さが厳しい画面がよく伝わります。
起句は「村邑」となっていますが、「北國」とした方が良いですね。
「朔」も「北」を表しますので遠慮したのでしょうか。
承句の「廻雪」も、「翻簾」だったり、「聲」と音に持って行くならば「風雪」とした方が自然で、句としては実感の籠もったものになると思います。
そういう点から、結論として起句の「朔風」は削って、下三字を別の言葉に換えた方が良いでしょう。
転句は「白」を頭に持ってきましたが、これも下を「應看白銀樹」とすべきところ、「白」を上に置いたために「有」という無駄な字が入った分、回りくどい句になってしまっています。
頭を「早曉」「明旦」とすることもできますが、後半は句の構造上対句にはなりません(結句は文法上は「尚擁紅爐」となるべきです)ので、逆に副詞の位置を動かした方が良く、「應看明朝白銀樹」のようにしてはどうでしょう。
そうすると、「應看」が実はあまり意味の無い言葉ということも分かりますね。
何か他の情報を入れてはどうでしょうか。
結句はこのままで、佳句ですね。
2020. 3.20 by 桐山人
結句の文法の誤りについては、平仄の合う語が見つかりまして、何とか直せましたが、起句下三字と転句の冒頭については、正直、苦し紛れです。
元の悪い詩は、推敲するより、きっぱりとあきらめて作り直した方が良いような…。
2020.3.23 by 石華
「元の悪い」ということはありませんよ。
後になって読み返して「おやおや」と自分で悩んでしまうことも確かにあるでしょうが、詩は自分の子どもと同じ、愛情を注いで生まれた子ですので、大切に育ててあげましょう。
即効性のある処方箋がすぐに見つからなくても、やがて、必ず良い方向が出てきますので、諦めず、飽きず、ゆっくりと考えましょう。
起句は「雷鳴」ですか、苦し紛れかもしれませんが、実景として捉えることもできます。インパクトが強いので、「風雪」が脇役になります。
この場合には題名に「春雷」という言葉を入れる必要があります。
転句は「何処」は結句の「擁鑪榼」からの言葉でしょうか、しかし、承句からの流れでは全く通じません。「火鉢にしがみついて寒さを震えながら」考えるならば、「どこかしら」ではなく「どこもかも」でしょうね。
「滿地」くらいが合うと思いますよ。
結句は「尚擁」を上に持ってくると平仄が合いませんので、勘違いでしょうか。ただ「榼」も仄声ですので、ここをどうするかですね。
「擁」を「依」「扶」など平声にすれば良いですかね。
2020.3.30 by 桐山人
作品番号 2020-89
偶感
今日無窮迎歳時 今日 無窮 歳時迎える
悠悠閑酌感懐滋 悠悠 閑酌 感懐滋し
辛盤世上非容易 辛盤 世上 容易非ざる
四海風雲我亦知 四海 風雲 我亦知る
<感想>
向岳さんは三作目になりますね。
今回の詩は平仄も押韻も問題無く、勉強が進んでいらっしゃることを感じます。
内容としては、新年を迎えたお気持ちが描かれていますので、題名は「偶感」では弱く、「新年書懷」とすっきりとしておくと良いですね。
起句は「無窮」、「感無窮」「思無窮」「道無窮」など韻脚として使われることが多い言葉ですが、この場合は、何が「無窮」なのか、あるいは「無窮」にどうなのか、気持ちが先走っていて言葉が足りませんね。
「今日」を削って、「春意無窮」とか「瑞氣無窮」のような言葉を入れると良いですね。
但し、それは「無窮」を残す形で、実は承句の「感懷滋」と意味的には重複しています。どちらを残すかと言えば韻脚の方でしょうから、「無窮」にこだわらずに、起句には元旦らしい情景を描いても良いと思います。
承句は良いですが、転句は「辛盤」は自分の目の前のおせち料理、突然「世上」と視点が変わり、しかも「非容易」と不穏な趣を出すとなると、承句の「悠悠閑酌」や前半のめでたい気持ちが台無しになってしまいます。
また、この下五字は結句でまた「四海風雲」と繰り返すわけですから、めでたいのかめでたくないのか、主題がはっきりしません。
転句まではお正月の自分の姿を描いておいて、結句は「我不知」とした方が「世の中のゴチャゴチャはオレの知ったことじゃない」となり、前半の内容からの流れとしてはまとまります。しかし、それでは向岳さんの本意ではないでしょうから、どうしましょうね。
承句の「悠悠」が邪魔ですので、「辛盤椒酒感懷滋」として、転句を「閑居重老隔塵世(閑居して老を重ね塵世を隔つも)」とすると結句が生きて来ますかね。
2020. 3.21 by 桐山人
作品番号 2020-90
道
長安千里發陌阡 長安 千里 陌阡より発ち
大道無名貫太玄 大道 無名にして 太玄を貫く
惚恍老聃西杳去 惚恍と 老聃 西の方 杳かへ去る
弧雲一片崋山邊 弧雲一片 崋山の辺り
<感想>
悠然とした心境を「道」に例えて表したのでしょうね。
承句の「太玄」は道家が尊ぶ道です。
前半は、千里の道も一歩から、無為自然で名も無き道が根本であるというところでしょうか。
「老聃」、すなわち老子が、城門で衛兵に『老子道徳経』を書き与えたと言われますが、転句はその場面ですね。
結句は「孤雲」でしょうね。
2020. 3.22 by 桐山人
作品番号 2020-91
冬空
帰途冬独佇 帰途 冬 独り佇む
思案我仰天 思案ありて 我 天を仰ぐ
早晩多星耀 早晩 星は多く耀き
如看皎上弦 みまもるが如し かがやく 上弦
<解説>
冬、出先から帰るときに、バス停で思いついた詩です。
思いついてから、漢詩になるまで時間がかかり、主人が、「皎」などの漢字を教えてくれて完成しました。
休日に一日がかりです。
ご無沙汰しました。
<感想>
返事が遅くなりました。
ご夫婦での共同作業、いつも微笑ましく思っています。
道を歩いていて、ふと見上げた星の美しさは冬の空ならではのものですね。そこに上弦の細い月を配した構図も良いと思います。
起句は「帰り道」で「冬」で「独り」で「立っていた」ということで、場面設定をしたわけですが、五言の句に詰め込み過ぎで、句自体がもたついていますね。
「冬」ということを直接言わなくても、例えば承句の下三字を「望寒天」とすれば良いので、この「冬」は削れますね。また、帰り道ということですと多分ひとりだとも分かりますので、「独」も削ってみると起句がかなりすっきりします。
「帰途佇街巷」というところでしょうが、まだ説明文のようですので、うんと思い切って下三字を「風索索」という感じで叙景に持って行くのも良いと思います。
承句は何を考えていたのか、心配事とかあったのならそれらしく書く必要がありますが、ここでは「案句」くらいで詩を考えていた形も良いでしょう。
転句の「早晩」は色々な意味がありますが、ここでは「もうすぐ」くらいの意味でしょうね。
「多星耀」はこのまま読めば「多くの星耀く」ですね。
結句は「上弦」だけですと「月」と分かるのに手間取りますので、できれば「月上弦」としたいところ。
ただ、せっかくご主人がアドバイス下さった「皎」ですので削るには忍びないかもしれませんが、「如看」の比喩が、星と月が寄り添うような感じを出して、作者の穏やかな心情が窺われる表現ですので、優先するのはこちらでしょうね。
ご主人の凌雲さんに、私からお詫びを言っておきます。
2020. 3.22 by 桐山人
作品番号 2020-92
無題
東雲神仏祟 東雲 神仏の祟り、
災積帝都危 災い積って 帝都危うし。
聖獣狂求血 聖獣 狂いて血を求め、
民衆恐献犠 民衆 恐れて犠を献ずる。
佞臣難解理 佞臣 理を解しがたく、
経世果忘慈 経世 果たして慈しみを忘れたるか。
四面無衣唄 四面 無衣の唄、
西風正義旗 西風 正義の旗。
<解説>
プリンシパルのない日本と言う事を嘗て白洲次郎氏は言っていたそうです。確かに欧米で教育を受けてきた人にはそう見えるかも知れません。
しかし、実はプリンシパルは日本にもあって脈々と受け継がれてきてます。言葉にははっきりしづらいのですが、確固としてあります。
と、白洲次郎氏にもアンチテーゼを展開したい気分です。
最近詩を書く題材に困るようになり、SFタッチに上のような漢詩を書いてみました。
詩論にそぐわないのはごもっともですが、実験的に書いてみました。
表現の自由としてこれぐらいは許されるかと思う次第であります。
<感想>
「聖獣」は何かの比喩なのか、「佞臣」は誰のことかな、など色々と想像することはできますが、でも、映画のシーンを観ているようなストーリーが感じられる展開で、素直に詩を楽しむことができました。
力の入った詩ではないかと思いましたよ。
四句目だけは平仄が合いませんが、「民衆」は「衆民」の間違いでしょう。
七句目の「無衣」は『詩経』からの言葉で、戦に向けて結束を高める歌の意味と解しました。
やや言葉足らずかな、と思うのは、一句目の「東雲」と八句目の「西風」で、この「東」「西」は何か意図があるのでしょうか。
また、六句目の「経世」は上の「佞臣」と対応させるなら「横政」でしょうか。
2020. 3.22 by 桐山人