作品番号 2019-241
秋雨閑居
落葉成堆是我家 落葉堆を成す 是れ我が家
蕭蕭細雨亂如麻 蕭々たる細雨 乱れて麻の如し
養痾牀上紙窓裡 痾を牀上に養う 紙窓の裡
如此愁何獨歎嗟 此の愁を如何せん 独り歎嗟す
作品番号 2019-242
重陽偶成
佳節登高四望賖 佳節の登高 四望賖(はる)かなり
金風嫋嫋亦何加 金風嫋々 亦た何をか加へん
吹香野菊路傍下 香を吹く野菊 路傍の下
欲折一枝殘日斜 一枝折らんと欲すれば 残日斜めなり
平成三十年の旧暦重陽は十月十七日でした。
中国では重陽節に、親戚・友人誘い合わせて小高い丘に登り、行楽の一日を過ごしたという。
王維・杜甫等に「登高」の詩あり。
作品番号 2019-243
小春偶吟
輕暖偸閑獨曳筇 軽暖閑を偸み 独り筇を曳く
浮雲一片爽吟胸 浮雲一片 吟胸を爽やかにす
山茶花綻小春路 山茶花綻ぶ 小春の路
四野無風秀士峰 四野風無く 士峰秀(ひい)ず
作品番号 2019-244
春郊偶成
麗日風暄芳草滋 麗日 風暄かく 芳草滋し
春郊一路訪朋之 春郊一路 朋を訪ねて之く
木蓮白映士峯雪 木蓮の白は 士峯の雪に映ず
停歩弄花心自夷 歩を停め花を弄すれば 心自から夷(たいらか)なり
作品番号 2019-245
新號令和誕生
平成退位叡深慮 平成退位 深慮叡(あきら)かならん
新號令和邦典毫 新号令和 邦典の毫
萬葉旅人歌不撓 万葉の旅人 歌撓けず
好期共感故心遭 好期 共感 故心に遭ふ
年号には三回遭う。
陛下が生前退位を決意した点が印象に残り起句とした。
隣国も関心事だろうが日本の古典からというのも斬新、承句とする。
転句は万葉人の気持ちを汲みたい。
詩意に現代人も共感、和顔が印象的、結句とした。
作品番号 2019-246
登鳳來寺
拷A蟬噪苦懷攀 緑陰 蝉噪ぎ 苦懐して攀る
初訪鳳來仙域閑 初めて訪ぬ鳳来 仙域閑たり
佛法僧吟微耳朶 仏法僧吟) 耳朶に微か
得聞~韻是靈山 聞き得たり ~韻 是れ霊山
若い頃鳳来寺山に登る。
四苦八苦で辿り着いた。
木陰で休んでいると耳の奥で極めて弱くコノハズクが鳴いている。
十分位か無言で聞く。
「帰る!」という声で我に還り途端に蝉の声が聞こえた。
皆にコノハズクの鳴き声を確かめたら知らないという。
あれは何だったろうか。
作品番号 2019-247
愛犬之死
愛犬昇天近近喪 愛犬昇天 近々に喪ふ
既看豫兆喘聲慌 既に看る予兆 喘声慌し
低徊妹狗遺骸側 低徊せる妹狗 遺骸の側
願汝春秋久健康 願ふ汝 春秋久しき健康を
隣家の愛犬が死に、嘆くこと一入、同情禁じえなかった。
作品番号 2019-248
春日鳥聲
秀哢飛來繞樹慌 秀哢飛来 樹を繞り慌し
無慚新蕾嫩芽荒 無慚なり 新蕾 嫩芽荒る
缺花三歳終縈網 欠花三歳 終に網を縈(めぐ)らす
一抹寂寥唯復芳 一抹の寂寥 唯だ芳復(かえ)る
ここ数年、ヒヨドリの好い声の囀りが聞こえていた。
庭の木瓜、咲くべき花が何時も斑で、美しいどころか酷かった。
網を張ってみると、以来鳥は来なくなった。
作品番号 2019-249
戉戌歳晩偶成
七旬養拙直持躬 七旬 拙を養なって直に躬を持し
一歳還過意不窮 一歳還た過ぎ 意窮まらず
月照寒窗臘殘夜 月 寒窓を照らす 臘残の夜
靜閑獨坐待春風 静閑 独り坐し 春風を待つ
作品番号 2019-250
己亥歳旦
曉光染出古靈臺 曉光染め出す 古霊台
習習春風動冷灰 習々たる春風 冷灰を動かす
又値新正無別事 又新正に値ふも 別事無し
拈香依例誦經來 香を拈じ例に依って経を誦し来たる
作品番号 2019-251
春彼岸戰没者慰靈
遠征萬里委黄泥 万里を遠征し 黄泥に委し
殉國誠情衞庶黎 殉国の誠情 庶黎を衛る
供養英靈春彼岸 英霊を供養する 春彼岸
淨香拈出弔菩提 浄香 拈出し 菩提を弔ふ
作品番号 2019-252
追悼龍巢院主遷化
料峭春朝如月天 料峭たる春朝 如月の天
業風底事使人憐 業風底事(なにごと)ぞ 人をして憐れましむ
悲雲重鎖龍巢崫 悲雲重く鎖す 龍巣の崫
空拝尊靈涙滍然 空しく尊霊を拝すれば 涙滍然たり
作品番号 2019-253
上高地開山祭
江畔猶寒峡谷晨 江畔猶ほ寒し 峡谷の晨
崢エ殘雪已陽春 崢エの残雪 已に陽春
澄清角笛開山告 角笛は澄清にして 開山告ぐ
登嶽安全遍萬人 登嶽の安全 万人に遍し
上高地の開山祭は、毎年四月二十七日河童橋の手前で開催されます。
地元のホルン奏者の人々の笛声が谷に響きます。
昨年はじめてこの日に行くことが出来ました。
作品番号 2019-254
田代池
名峰萬仞聳秋天 名峰万仞 秋天に聳ゆ
幾度曳筇心浩然 幾度か筇を曳く 心浩然
湧水澄明流滿滿 湧水 澄明にして 流れ満々
唐松黄葉映池鮮 唐松の黄葉 池に映じて鮮かなり
上高地は、もう何回も訪れましたが、田代池の静寂は何時行っても心が洗われる思いです。
作品番号 2019-255
辯財船
曉發知多暖靄津 暁に発す 知多 暖靄の津
水行千里二天艱 水行千里 二天の艱
孕風征帆殘長線 孕風 征帆 長線を残す
早達堅船江戸灣 早くも達す 堅船 江の湾
知多半島の諸港は、尾張回船で栄えていた。
一旦鳥羽まで行き一気に下田に入り、相模湾を北上すればもう江戸、早い時は二日の行程だった。
しかし、千石船でも船員は僅か四、五名、緊張続きの険しい航海だった。
作品番号 2019-256
對鏡
我家嬌女未知装 我が家の嬌女 未だ装ふを知らざるも
興味津津對鏡箱 興味津々 鏡箱に対す
挿髪載頭眞滿意 髪に挿し頭に載せ 真に意を満たす
元來糕飾塑膠琅 元来は糕飾 塑膠の琅
四、五歳の娘はまだ装うことを知らないが、大きな鏡を膝にのせて何やらのぞき込んでいる。
見れば髪飾りを挿した自分の姿のようだが、こ満悦の様子。
だが、その飾りは先ほど食べたケーキに乗っていたプラスチックのつまだ。
作品番号 2019-257
秋 小國~社
石瀬潺潺黄葉中 石瀬潺々 黄葉の中
秋深滿野物華通 秋 満野に深し 物華を通る
玉砂踏歩C風渡 玉砂踏み歩めば C風渡る
感謝安寧小國宮 感謝 安寧 小国(おぐり)の宮
「黄葉中」: 紅葉
「石瀬」: せせらぎ
「物華通」: 景色・風景・物の輝き
「安寧」: 世の中が穏やかで平和なこと
「小国宮」: 小国神社の宮
作品番号 2019-258
祝 新皇即位
新皇御代日逾紅 新皇の御代 日逾よ紅く
天地融融淑氣風 天地 融々 淑気の風
喜悦蒼生聞即位 喜悦の蒼生 即位を聞く
春芳慶事瑞光中 春芳 慶事 瑞光の中
「神皇」: 新たに皇位について人
「御代」: 天皇の治世・在位の期間を尊んでいう語
「天地」: 宇宙
「淑気風」: 目出度い気配が天地の間に満ちている。
作品番号 2019-259
下天龍
天龍積翠水運郷 天竜 積翠 水運の郷
舟棹急流歡喜揚 舟は急流に棹さし 歓喜揚がる
光彩陸離眞絶景 光彩陸離 真に絶景
黒雷ネ岸起清涼 緑風 曲岸 清涼起く
作品番号 2019-260
濱松祭
擧町装飾載車鍾 町を挙げての装飾 車に載せ鍾(あつま)る
合戰昂天勇壯鐘 合戦 天を昂ぐ 勇壮の鐘
長子誕生方繼嗣 長子 誕生す 方に継嗣たらん
薫風皋月盛濱松 薫風 皋月の浜松に盛んに
作品番号 2019-261
探春
東風送暖水温時 東風暖(だん)を送って 水温(ぬる)む時
一路春隄花草滋 一路春隄 花草滋し
時聽初鶯聲緩渡 時に聴く初鴬 声緩やかに渡る
寒梅纔發賞心宜 寒梅纔かに発して 賞心宜し
作品番号 2019-262
山寺觀楓
秋山幾曲訪禪宮 秋山幾曲りか 禅宮を訪ぬ
霜葉如燃錦繡叢 霜葉燃ゆるが如く 錦繍の叢
幽響鐘聲氣清浄 幽響 鐘声 気清浄
行人難去夕陽中 行人去り難し 夕陽の中
作品番号 2019-263
看櫻
新晴十里故山涯 新晴 十里 故山の涯(ほと)り
良舌流鶯詠彩霞 良舌の流鴬 彩霞に詠ふ
吟望櫻雲惟一白 吟望すれば桜雲 惟だ一白
東皇畫處醉韶華 東皇画く処 韶華に酔ふ
作品番号 2019-264
蘭州炳靈寺
蘭州壁接長空 蘭州の青壁 長空に接し
風渉黄河古道通 風は黄河を渉り 古道に通ず
佛愛行人臨水坐 仏は行人を愛しみ 水に臨んで坐す
炳靈寺跡白雲中 炳霊寺跡 白雲の中
作品番号 2019-265
駿府城発掘調査
~君殘影尚今縈 神君の残影 尚今縈(めぐ)る
東海要衝駿府城 東海の要衝 駿府城
出土豐家金箔瓦 出土す 豊家金箔の瓦
覇權角逐解明更 覇権の角逐 解明更なり
駿府城は天正期、駿河、遠江、三河、甲斐、信濃の五か国を治める徳川の居城として築かれ、小田原攻めの後、徳川は関東移封に伴い、豊臣直系中村一が入り改城。
江戸幕府成立後、大御所の居城として、慶良一二年大改築。
全国大名に普請を命ずる天下普請となった。
作品番号 2019-266
想邊野古
移設難航邊野古 移設難航す 辺野古
沖繩基地集中煩 沖縄 基地の集中煩し
負擔輕減最良策 負担の軽減 最良の策ならん
時勢今求本土屯 時勢 今求むは本土の屯(きち)
大戦で最も犠牲の多かった沖縄に七十五年目の今尚米軍基地の過半を置く。
普天間の移転、本土にしたらと思う。
三十八度線の緊張はやがて日本海に移ろう。
これを勘案すれば、移転先自ずと定まるのでは。憲法に非核三原則と、三軍の保持を明記すれば、米軍縮小も視野に入ろう。
作品番号 2019-267
癌切除用内視鏡 其一
銜口導筒容挿入 口に銜む導筒 挿入に容(やさ)し
細圓管束達瘍巢 細円の管束 瘍巣に達す
繊刀各種適宜換 繊刀 各種 適宜に換へて
癌腫微塵消若泡 癌腫 微塵 泡の若く消ゆ
歳末腸の具合が悪かった。
六年前大腸癌を切除している。
またかな?検査をお願いしたところ「ついでに上も視ましょう」胃癌が見つかった。
そして、この病院初の内視鏡での胃癌切除患者となり一週間入院した。
患者の苦痛は全く感じなかったが、ワイヤーの先にある数ミリのナイフを扱う医師は大変だったろう。
作品番号 2019-268
癌切除用内視鏡 其二
癌腫切除昏睡中 癌腫の切除 昏睡中
覺醒直識萬端終 覚醒 直ちに識る 万端終るを
亦知胃壁胸窩斂 また知る 胃壁 胸窩に斂まるを
肥厚病巢消遣工 肥厚の病巣 消し遣ふこと工(たくみ)
安静剤が効いて、内視鏡を喉に通す前から昏睡「終わりましたよ」の声で目を覚ます。
癌とその周辺しっかり切り取ってくださった。
翌朝気が付いたのだが、堅く膨れていた胃が、鳩尾に収まっていた。
恢復したとの喜びが湧いてきた。
作品番号 2019-269
廢寺
棄俗焚香萬卷諳 俗を棄て 香を焚き 万卷諳(そら)んず
操經説法利無貪 経を操り法を説いて 利貪る無く
奈何窮鬼潛齋裡 奈何せん 窮鬼 斎裏に潜む
廢寺風潮未敢探 廃寺の風潮 未だ敢へて探らず
作品番号 2019-270
惑星探査機「隼二」
到着龍宮小惑星 「龍宮」 小惑星に到着す
遼遙降下地肌 遼遥 降下 地肌青し
彈丸噴射采塵石 弾丸噴射して 塵石を采る
祈願歸還廣宇冥 帰還を祈願するも 広宇冥たり