2019年の投稿詩 第331作は桐山堂刈谷の 游山 さんからの作品です。
 自由課題の作品です。
 初案での私の感想と合わせて、まとめて掲載させていただきます。

作品番号 2019-331

  初夏偶成        

吟行村巷柳毿   吟行す 村巷 柳毿毿たり

上下烏衣來自南   上下す 烏衣 南より来たる

水漲青田蛙鼓聒   水漲る青田 蛙鼓聒し

我家四面野興酣   我が家の四面 野興酣なり

          (下平声「十三覃」の押韻)

<解説>

 初夏の時節、家の近くを散歩しながら、目と耳に入った情景です。

<感想>

 柳の木、飛来したツバメ、田植えの終った青青とした田、蛙の鳴き声、辺り一面の初夏の風物を拾い集めて、丁寧に並べてありますね。
 ただ、「吟行村巷」で見た光景なのか、それとも「我家四面」の景なのか、言い換えれば「出かけて見た」のか「家で眺めた」のか、そこが食い違います。
 作者としては「私の住んでいるこの村」の趣を出したいのでしょうが、それなら「我家」は不要、逆に「家から眺めた初夏の風景」とするなら、わざわざ「村巷」まで「吟行」しなくても良いわけです。
 少し範囲を広げて、結句は「比鄰初夏野興酣」でどうですか。

 承句の「烏衣」は「黒い衣」で姿を眺めての比喩です。「燕」の字は象形、「鳦」と書くのは「乙」がジグザグに飛ぶ様子を表し、スイッスイッを飛ぶ鳥ということになっています。
」  「上下」だけで「飛」という表現が無いと、「上と下に停まっているツバメ」という感じがします。
「頡頏」という言葉がありますが、これは上下に飛び交う様ですので「飛燕頡頏」。
「巣燕」「乳燕」「帰燕」などの語も、それぞれにイメージが拡がる語ですね。





2020. 1.10                  by 桐山人
























 2019年の投稿詩 第332作は桐山堂刈谷の 游山 さんからの作品です。
 自由課題の作品です。
 初案での私の感想と合わせて、まとめて掲載させていただきます。

作品番号 2019-332

  梅雨閑詠        

霖雨溟溟懶出家   霖雨 溟溟 家を出づるに懶く

淺斟低唱聞鳴蛙   浅斟 低唱すれば 鳴蛙聞こゆ

黒湯院細腰樹   緑蕪 庭院 細腰の樹

紅紫轉姸詩興加   紅紫 転た妍なりて 詩興加ふ

          (下平声「六麻」の押韻)

<感想>

 転句は二つの点、一つは「黒刀vですが、これは雑草が生い茂る荒れ果てた庭を言います。
 謙遜のおつもりでしょうが、アジサイの美しさを言うのに背景がこれではバランスが悪いと思います。

 もう一つは「細腰樹」でアジサイと分かるかどうか、「細腰」はしなやかな美女を表しますので、そういう意味ではふさわしいかもしれませんが、アジサイに普通はあまり「樹」というイメージはなく、花の方に関心は向いていると思います。
 先にアジサイだと分かっていれば良いので、「八仙花下細腰柄」とすれば通じますかね。



2020. 1.10                  by 桐山人
























 2019年の投稿詩 第333作は桐山堂刈谷の M・O さんからの作品です。
 自由課題の作品です。
 初案での私の感想と合わせて、まとめて掲載させていただきます。

作品番号 2019-333

  初夏        

霖雨霏霏晝尚昏   霖雨 霏霏として 昼尚昏し

一庭新樹掩柴門   一庭の新樹 柴門を掩ふ

紫陽花裏畫蝸篆   紫陽花の裏 蝸篆を画す

香散掀簾坐小軒   香散じ 簾を掀げ 小軒に坐す

          (下平声「十三覃」の押韻)

<解説>

 鬱陶しい梅雨時、紫陽花の若葉の裏に見事に絵をかくかたつむりを見つけた時のことを詩にしました。

<感想>

 前半はほの暗いイメージで、後半で紫陽花の鮮やかさに進むのかと思いきや、葉の裏に目を向けたわけですね。
 これはこれで、意表を突く面白さがあります。

 まずは承句を「鬱蒼庭樹」と暗い形にしておきましょう。
 結句は「掀簾」が疑問です。作者は今どこに居るのかを考えると、転句の描写から言えば庭に立っている筈です。そこから「簾を掀げ」るのは何のためでしょうか。
 もう一つ、「坐小軒」も雨が降っているのにわざわざ坐るのは変です(お尻が濡れてしまいます)。
どこかで雨が止んだことを言った方が良いですが、前半から急に変わるのも気になります。

 転句までは整っていますので、結句の画面を再敲してはどうでしょうか。



2020. 1.10                  by 桐山人
























 2019年の投稿詩 第334作は桐山堂刈谷の 風葉 さんからの作品です。
 自由課題の作品です。
 初案での私の感想と合わせて、まとめて掲載させていただきます。

作品番号 2019-334

  與舊朋觀十五夜祭        

故郷十里亂山横   故郷 十里 乱山横たひ

暮天燈淡及二更   暮天 灯淡く 二更に及ぶ

節祭寺庭吟酌好   節祭 寺庭 吟酌好し

今宵三五月光明   今宵 三五 月光明らかなり

          (下平声「八庚」の押韻)

<感想>

 起句で故郷の姿、承句で祭りを待つ夕方の様子、転句からは夜の祭り風景ですね。

 承句の「暮天」「二更」と時刻が合いませんね。かと言って「一更」では早すぎるようにも思いますので、ここは韻字を替えてはどうでしょう。
 平仄も合っていませんので、この句は「日暮燈淡秋氣清」とか「野氣清」とかが良いでしょうね。

 他の句は良いと思います。



2020. 1.10                  by 桐山人
























 2019年の投稿詩 第335作は桐山堂刈谷の 風葉 さんからの作品です。
 自由課題の作品です。
 初案での私の感想と合わせて、まとめて掲載させていただきます。

作品番号 2019-335

  排球全国大会        

高知南国式開催   南国高知 式開催

無袖鳴子笑幾回   無袖 鳴子 笑幾回る

雖老排球県代表   老たるといえども排球県代表

千秋膠漆喜歡來   千秋 膠漆 喜歓来たる

          (上平声「十灰」の押韻)

  <解説>

 バレーボール七十才以上の全国大会(おふくろ大会)に愛知県代表チームで参加した時の詩です。

<感想>

 県代表ですか、大活躍ですね。私も高校時代バレーボールを部活動でやっていましたので、楽しさはよく分かりますが、七十才では素晴らしいですよ。
 難しい素材ですが、ご自身の体験を漢詩で記録することは、とても良いことだと思います。

 まず、起句の読み下しは「高知 南国」の語順でないといけません。
 大会は中国では「賽」を使いますので、「式」をこちらに変更すると良いですね。

 承句は平仄が違っていましたね。
「鳴子」はこの詩では大切ですので、これを上に持っていって「鳴子珠袍」などでしょうか。

 結句の「千秋膠漆」はチームメイトとの友情の深さを言ったのでしょうが、やはり大げさですね。
「春秋朋輩(春秋の朋輩)」で、長年一緒に過ごした仲間、ということですが、この辺りをベースにして考えてはどうでしょうね。



2020. 1.10                  by 桐山人
























 2019年の投稿詩 第336作は桐山堂の 聖峰 さんからの作品です。
 桐山堂第6回詩會の題で上平声一東韻の課題作品です。
 初案での私の感想と再敲作も合わせて、掲載させていただきます。

作品番号 2019-336

  冬日        

冷雲翻影愛松風   冷雲 影を翻し 松風を愛す

殘菊昏鐘心有忡   残菊 昏鐘 心忡有り

葉盡寒鴉歸一寂   葉尽きて 寒鴉 一寂に帰す

三餘凛烈月玲瓏   三餘 凛烈 月玲瓏

          (上平声「一東」の押韻)

<感想>

 起句の下三字は上の四字とつながりますか。読み方を「松を愛する風」とすれば、作者が風を愛したとなります。
「聽松風」としても同じような内容になりますが、まだつながりは弱いでしょうね。
「運冬風」と叙景に持って行くと良いでしょう。

 承句は「心に忡(うれ)ひ有り」と読みますが、誰の何の憂いなのか、唐突な印象です。
 また、「菊」「鐘」は関係無いし、転句も「葉盡」「寒鴉」もバラバラという感じですね。
 どうせならば、承句の中二字を「花衰」と憂いのある趣きにし、転句には「鐘」を持って来て「鐘韻寒鴉」とすると、夕暮れ感が出ますね。

 結句の「三餘」は「冬・夜・雨」ですので、「凛烈」にどこが当てはまるのか、悩みますね。
 下三字の「月玲瓏」も、月が美し過ぎて夜が深い感じで、夕暮れの空には合いません。
 全体に、結句はこれまでの三句から浮いています。
 ここは一旦、下三字を再考する方向で検討するのが良いでしょう。





    冬日(再敲作)
  冷雲翻影運冬風   冷雲 影を翻し 冬風を運ぶ
  殘菊花衰心有忡   残菊 花は衰へ 心に忡ひ有り
  鐘韻寒鴉歸一寂   鐘韻 寒鴉 一寂に帰す
  半彎岑蔚感無窮   半彎 岑蔚 感窮まり無し

 結句の検討ですね。
「感無窮」は良いなぁという感動ですので、「心有忡」と合うかどうか。
「一寂」を結句に持って行ってはどうでしょう。

 そうなると、結果から持ってくる必要がありますね。
 転句は「幽暮寒鴉隠岑蔚(幽暮 寒鴉 岑蔚に隠る)」として、結句を「鐘聲寂寂」とすれば、下三字を「半彎空」としても釣り合いがとれるでしょうかね。

2020. 1.10                  by 桐山人
























 2019年の投稿詩 第337作は桐山堂刈谷の 游山 さんからの作品です。
 自由課題の作品です。
 初案での私の感想と合わせて、まとめて掲載させていただきます。

作品番号 2019-337

  尋祖父江町黄葉祭        

露店繁華活氣揚   露店 繁華 活気揚がる

巡妻祭典牧山ク   妻と巡る祭典 牧山の郷

百年鴨脚今猶健   百年の鴨脚 今猶ほ健たり

落葉紛紛滿地黄   落葉紛紛として 満地黄なり

          (下平声「七陽」の押韻)

<解説>

「祖父江町」: 愛知県稲沢市。ギンナン生産量日本一、大粒ギンナン発生の地。
「牧山」: 佐藤牧山 幕末から明治にかけての儒学者、尾張藩校明倫堂最後の第十六代督学。
「鴨脚」:形が鴨の足に似ていることからイチョウの別名。伊勢湾台風で四十五度傾いたが、大粒ギンナンの原木「久寿」のこと。

<感想>

 起句の「繁華」は重字で「繁繁」が良いでしょう。

 承句は「巡妻」はおかしく、「妻を巡らせた」となります。
「誘妻」「伴妻」でしょう。
 また、「祭典」はどうも和習の感じがありますので、「游歩」としておくと良いでしょうね。



2020. 1.10                  by 桐山人
























 2019年の投稿詩 第338作は桐山堂刈谷の Y・N さんからの作品です。
 桐山堂第6回詩會の題で上平声一東韻の課題作品です。
 初案での私の感想と合わせて、まとめて掲載させていただきます。

作品番号 2019-338

  冬日        

紅粧勝景滿山楓   紅粧の勝景 満山の楓

紛飛枯葉渡溪風   紛飛の枯葉 渓を渡る風

感深不語板橋上   感深く語らず 板橋の上

冷氣侵肌落日中   冷気肌を侵す 落日の中

          (上平声「一東」の押韻)

<感想>

 平仄の点では、「二四不同」「二六対」という句の中の平仄は良いのですが、平句(二字目が平字の句)が三つ並んで仄句(二字目が仄字の句)が一つ、これは「反法」「粘法」で考えるとバランスが悪い形です。
 手っ取り早いのは、結句をこのままにして、起句を仄句にすることでしょう。
 上四字をひっくり返して「勝景紅粧」とし、下三字は「満地楓」としましょうか。
 「山」が無くなるのが少し残念ですので、「山景紅粧満地楓」がよいかと思います。

 転句は「感深」は不要な言葉、この気持を詩の内容で伝えることが大切です。
 下五字を「孤影板橋上」として、一人で橋の上に立っている形にしましょう。
 その上で頭の二字を何か考えると良いですね。



2020. 1.10                  by 桐山人
























 2019年の投稿詩 第339作は桐山堂刈谷の 清井 さんからの作品です。
 桐山堂第6回詩會の題で上平声一東韻の課題作品です。
 初案での私の感想と合わせて、まとめて掲載させていただきます。

作品番号 2019-339

  冬日        

勝景尋來古寺楓   勝景 尋ね来たる 古寺の楓

北都一路畫圖中   北都 一路 画図の中

優輝見返阿弥陀   優輝 見返る 阿弥陀

拈華微笑夕陽紅   拈華 微笑 夕陽紅し

          (上平声「一東」の押韻)

<解説>

 京都永観堂の見返り阿弥陀仏を見て。

<感想>

 起句は「尋來」ですので、楓を見に来たことになりますね。

 承句は「一路」で、お寺の中からまた外に出ることになります。
  洛北尋來古梵宮
  滿庭霜葉畫圖中
 とした方が流れは良いですね。
 冒韻にはなりますが、「霜葉」を「楓葉」にするのも良いです。

 転句は「阿弥陀」が全て平字ですので、ここは「弥陀佛」ではいけませんか。

 結句の「拈華」は「拈香」かと思いますが、どうでしょう。



2020. 1.10                  by 桐山人
























 2019年の投稿詩 第340作は桐山堂刈谷の 小圃 さんからの作品です。
 自由課題の作品です。
 初案での私の感想と合わせて、まとめて掲載させていただきます。

作品番号 2019-340

  晩春        

嫩晴風靜四山巡   嫩晴 風静かに四山巡る

宮川清流萬里親   宮川の清流を万里親しむ

一葦舟子釣魚遊   一葦の舟子 魚を釣りて遊ぶ

碧霄仰見惜徂春   碧霄を仰ぎ見て 徂く春を惜しむ

          (上平声「十一真」の押韻)

<感想>

 七言句を四つ作るという課題でしたが、絶句に持って行くとなると、まず転句の末を仄字に直す必要がありますね。
 平仄も合わせたいので、「一葦舟夫釣遊影」としましょう。

 起句は何が「四山巡」のか、句の流れとしては「風」と思われますが、それが「静」ですと収まってしまいます。
 「風爽」「風快」としておくと良いですね。

 承句は「川」では平仄が合いませんので「宮水」、「萬里」はかなり長いので、「十里」くらいでどうでしょう。

 結句は「仰見」として作者が見上げる行為が出てますが、「碧霄」とありますので、要らない言葉でしょうね。
 晩春らしい空の様子を描くと良いでしょうね。


    晩春(再敲作)
  嫩晴風快四山巡   嫩晴 風快(はや)く四山巡る
  宮水清流十里親   宮水の清流を十里親しむ
  一葦舟夫釣遊影   一葦の舟夫 釣りをして遊ぶ影
  嬌雲寧日惜徂春   嬌雲 寧日 徂く春を惜しむ

 転句の読み下しは「釣りをして遊ぶ」は煩わしいので、「釣遊の影」と熟語で読んだ方が良いですね。
 平仄の点では「●●○○●○●」ですが、下三字は「挟み平」となっていますので、「○●●」とみなすことになっていて、二六対も守られています。
 「回棹去」(○●●)でも良いですので、どちらが良いかはお好みで結構です。

 結句は起句と内容にあまり変化が無いですね。
 「碧霄」から始めて中二字を「舞鳥」とか「雲散」、あるいは「鳥声處處」「新青樹下」なども考えられますね。

2020. 1.10                  by 桐山人