作品番号 2019-301
惜春(一)
夜中小雨落花頻 夜中の小雨 落花頻り
池畔垂楊柳色新 池畔の垂楊 柳色新なり
時去復來多感慨 時去り 復た来る 感慨多し
吟朋把酒惜徂春 吟朋 酒を把り 徂く春を惜しむ
<解説>
四月上旬、恒例の花見の会を老人憩いの家で催した。
例年は数名参加したが、今年は二名である。
皆高齢で病身となり、来年はどの様になるか。
桜樹の傍らで朗詠(謡曲)・飲酒もまた楽しい。
<感想>
春を惜しむ気持ちと親しい友人を失う悲しみが重なって、感慨深い詩になっていますね。
起句は「夜中」よりも「夜来」とした方が漢詩の趣が出ますね。
承句は「垂楊」と直後の「柳」が重なった印象ですので、「柳楊翠葉新」としてはどうでしょうね。
転句は「時」が「復來」ではおかしいので、「倏瞬時遷」と入れ替えてはどうでしょう。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-302
惜春(二)
白衣笠杖遠遊身 白衣 笠杖 遠遊の身
兩者同行結願巡 両者 同行 結願の巡り
色即是空祈解脱 色即是空 解脱を祈り
老鶯林薮往殘春 老鶯 林薮 残春を往く
<解説>
拾数年前、四国巡礼を行った。
数次に分けて二年を要し、結願は三月末で讃州である。
すでに晩春で穏やかな南風が吹いていた。
<感想>
承句は弘法大師と一緒にという「同行二人」でしたね。
「両者」ですと、友人か誰かと二人でという感じで、分かりにくいのではないでしょうか。
無理に「両者」と入れなくても「遍路同行」とすれば通じるかと思います。
また、せっかくの四国巡礼ですので、四国の景物が少し入ると良いですが、どうでしょうね。
起句の下三字を「翠山巡」、承句は「結願眞(新)」とするとか、結句の「林藪」を「碧嶺」とすることなどが考えられますね。
その他は整った内容になっていると思います。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-303
惜春
陽光庭院落花頻 陽光 庭院 落花頻り
坐見山容惚゚ 坐して見る 山容 緑已に堰iととの)ふ
燕子歸來心氣爽 燕子 帰り來る 心気爽に
午風習習惜殘春 午風は 習習 残春を惜しむ
<解説>
春も残り少なくなり、遠くに見える山々も緑が鮮やかになり、今年もツバメが帰ってきた。
昼の風は穏かに吹き抜けるこの頃である。
家の窓から見える景色を詠んでみました。
<感想>
起句に「庭院」とあって、承句に「山容」とあると、どんな場所にいるのかやや不明。
信州かどこかの山里にある立派なお寺に来ているのかと思います。
起句は、「陽光倏倏」と日差しの強いことを出すか、「庭院」を「牆角」と小さめにしましょう。
承句は「坐」が要るかどうか、「遠望」とした方がすっきりすると思います。
「遠望郊山」とか「門外遙看」など、工夫してみて下さい。
後半は良いですね。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-304
偶成
小憩舒鳬野水濱 小憩する舒鳬 野水の浜
堤櫻花發岸邊蘋 堤桜花発き 岸辺の蘋
孤村郊外東風暖 孤村の郊外 東風暖かに
漫歩幽人水國春 漫歩する幽人 水国の春
<感想>
「舒鳧」はあひるのこと、のどかな春の情景が浮かびます。
「水」が重複していますので、どちらを残すかですね。
結句の方を残すことにして、起句は「江岸蘋」、承句は「誘幽人」。
結句の「幽人」は「悠悠」などとしてはいかが。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-305
賞梅花
梅花破蕾色温純 梅花 破蕾して 色は温純
疎影東君絶等倫 疎影 東君 等倫を絶す
爭姸玲瓏香馥郁 妍を争ひ玲瓏として 馥郁たる香
瓊姿士女賞新春 瓊姿の士女 新春を賞づ
<感想>
承句の「疎影」は確かに梅の別名ですが、語意は「まばらに開いている花」ですので、それが「絶等倫(他のものとは別格)」というのはおかしいですね。
また、「東君」が春の神様ですが、この語が間に入っているのも妙です。
ここを「馥郁芳香絶等倫」ならばわかります。
転句は「姸」の平仄が違いますので直さなくてはいけません。
「東君」も入れたいところですが、とりあえず「艷耀玲瓏爭姸朶」としておきましょうか。
結句は良いですね。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-306
惜春(一)
南風颯颯雨如塵 南風颯颯として、雨塵の如し
四月街頭克鱒V 四月の街頭、克鱒Vたなり
借問親朋何日會 借問す親朋、何れの日にか会せん
年年歳歳念徂春 年年歳歳、徂く春を念ふ
<解説>
大学を卒業して数年後、当時の気持ち。
毎年春の終わり頃になると、学生時代の友人と再会したい気持ちになっていた。
<感想>
起句は「雨如塵」ですと街頭の樹木が見えなくなります。句としてまとめるなら「拂細塵」、仕事に向かうということで「登業晨」としても良いでしょう。
承句は「克磨vよりも「漉t」とした方が視覚的に自然ですね。
転句の「借問」は「ちょっとお尋ねしたい」という意味ですので、全体の気持と合うでしょうか。「離散舊朋何日會」など。
結句は「年年歳歳」でも良いですが、ちょっと大げさな感じもします。
「偸閑懷昔看徂春」と昔を懐かしむとか、「盤桓樹下傷徂春」などとすると悲しみが出るでしょう。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-307
惜春(二)
黄昏江上駐車輪 黄昏江上、車輪を駐む
遠近薫風告F新 遠近薫風、緑色新たなり
正是輕寒C暮景 正に是れ軽寒、C暮景
心閑吟嘯鳥聲頻 心閑かに吟嘯すれば、鳥声頻なり
<解説>
晩春の少し肌寒い夕方、車で川べりに行った時の気持ち
<感想>
起句の「車輪」は「銀輪」とするか、結句を直す前提で「鳥飛頻」が考えられます。
承句は「遠近」ですが、「近」は分かりますが「遠」で「薫風」はどうか。何が「告F」なのかもはっきりしませんので、「柳樹薫風」としておく、「柳」でまずいなら「水樹」とぼかす方法もあります。
転句の「軽寒」は季節が合いません。「畫圖」「畫中」でどうか。
結句は「吟嘯」と「鳥聲頻」ではうるさくて、「心閑」とはならないでしょう。
吟と鳴き声が調和したならば韻字を「堰vで、あるいは余韻を残す形で「晩春濱」でしょうか。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-308
惜春
晴風河畔落花塵 晴風河畔 落花の塵
啼鳥聲聲甑|新 啼鳥声声 緑処新た
黙黙路人皆疾歩 黙黙路人 皆疾歩
觀櫻樂事復明春 観桜の楽事 復た明春
<解説>
河畔の桜並木も散ってしまい、口々に桜を賞賛していた道行く人々も無言で先を急いている。
又来年の春に花見を楽しもう、という気分を表現致しました。
<感想>
前半は、晩春から初夏への変化を出そうという意図がよく表れています。
承句の「甑|新」は「鳥の声が高フ場所で新しく聞こえた」ということでしょうか。「處」がどうも気になりますので、「阪ネ新」としておくのはどうでしょうね。
後半は、転句で「黙黙」「疾歩」となると、桜も鶯の鳴き声も新緑も、人々は全く無関心に通り過ぎていくという感じで、「春を惜しむ」という気持が伝わってきません。
同じような言葉になりますが、「急歩行人」と置いて「皆無語」とすると印象が変わります。「皆」を「雖」とすると、結句への繋がりが生まれるでしょう。
結句はできるだけ原案の語を生かして「觀櫻樂事待明春」ですかね。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-309
游山亭
萌芽林滿鳥聲新 萌芽 林に満ち 鳥声新たなり
蓓蕾播馨今茲春 蓓蕾 播馨 今茲の春
爲樂友朋山亭集 楽しみを為す友朋 山亭に集ふ
騒人長夜擧杯頻 騒人 長夜 杯を挙げること頻
<解説>
四月中旬、軽井沢はまだ春の始まり。
風流人が集まって夜遅くまで話が尽きない。
その手元には酒があります。
<感想>
起句は「滿林」という語順にしたいところ、平仄を合わせましたか?「樹」を使って「樹樹」「林樹」「飾樹」などでどうか。
起句では「萌芽」で承句は「蓓蕾」、時差が若干ありますが、樹木の種類によって異なるということで理解。
ただ、「播馨」ですと「蕾」ではなく、「花」が開かないといけませんので、「播」まで行けるかどうか疑問が残ります。
「蓄馨」「潜馨」でしょうかね。
承句の「茲」は平仄が違いますので、「今正春」「今弄春」などとしましょう。
転句は「友朋爲樂」が本来の並び、そうなると下の「集」は述語が重なります。
また、「亭」は平字ですので、「山館宴」「山舍宴」と名詞で終るのが良いです。
結句の「騒人」は作者自身でしょうか、前の「友朋」も受けてとなると、余分な言葉になります。「通宵歡語」「笑顔高語」などでしょうか。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-310
游宿場
山峰餘雪水雲晨 山峰に余雪あり 水雲の晨
滿溢嫩芽暉映新 満溢 嫩芽 暉映新たなり
旅亭清遊交誼厚 旅亭 清遊 交誼厚し
三觀歡感賦詠頻 三観の歓感 賦詠頻り
「三観(さんがん)」: 空観(くうかん)・仮観(げかん)・中観。
すべての事物がそのまま仏教の理法にかなっていると感得すること。
<解説>
中山道の山の宿は春が遅い。
残雪を見ながら早春の花を感じる。
「三観」を使って詩を作る。
<感想>
起句の「水雲」は山の中で「水」が気になります。「淡雲」でしょうか。
承句は「嫩芽」を受けて「暉映」だとやや弱いので、「青翠新」「生色新」。
転句は「亭」が平仄違いですので、「宿」「屋」などに替えておきましょう。
結句は「三觀」が生きていますね。ただ、「詠」の平仄が残念、「詠吟」とするところでしょうか。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-311
春日感懷
幽庭一夜雨連晨 幽庭 一夜 雨は晨に連なる
幾片落紅又暮春 幾片の落紅 又 暮春
風物可憐茫似夢 風物 憐れむべし 茫として夢に似たり
起來窓外惜花人 起き来たりて 窓外 花を惜しむ人
<解説>
旅先で春を惜しむ気持で作りました。
初めて「だれにもできる漢詩ホームページからですの作り方」を参考に作りました。
難しかったです。
<感想>
※作者は今年講座に参加された方で、漢詩創作は全く初めてということです。
平仄で重要になるのは、一句での「二四不同」「二六対」、そして「四字目の孤平」になります。
今回の詩でも留意されていることが分かりますが、承句(第二句)は「落」の平仄が仄ですので、四字目の孤平になってしまいましたね。
ここは「落紅」を「紅英(○○)」「紅花(○○)」として解消するとか、「又」を同じ意味で平字の「還」に替えると良いでしょう。
内容的には大きな齟齬はありませんし、それぞれの句も整っています。後は、句を並べる順番を検討すると良いですね。
例えば、結句の「起來」は、逆に言えば「それまで寝ていた」ことになりますが、第二句の光景を眺めるためには窓まで来ないと無理ですね。
そうなると、この第四句は第二句の前に来ないとおかしくなります。
ということで、入れ替えた形にしましたので、参考にしてください。
一夜幽庭連雨晨 一夜 幽庭 連雨の晨
起來窓外惜花人 起き来たれば 窓外 花を惜しむの人
可憐風物茫如夢 憐れむべし 風物は茫として夢の如く
幾片落紅還暮春 幾片の落紅 還た 暮春
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-312
惜春
游園樹下擧觴頻 游園の樹下 挙觴頻なり
老若稱花花作塵 老若 花を称し 花塵と作る
爛漫香雲風乍起 爛漫たり 香雲 風乍ち起こり
百華撩乱惜徂春 百華撩乱 徂く春を惜しむ
<解説>
公園の桜の木の下が盃を交わす声が聞こえ、老若を問わず花を称え、その花が塵となっていく。
一陣の風が花を散らし、もう春が行ってしまう。
<感想>
花の下での宴会となるとやはり桜、桜の時期に「徂春」ですとやや早いでしょうね。
この最後の下三字を直して題を「酣春」とすればまとまった詩になると思います。
例えば、「弄三春」でどうでしょうね。
そうなると、転句の「風」も「乍」よりも「自」が穏やかになるでしょう。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-313
惜青春
朋友唱和學舎春 朋友 唱和す 学び舍の春
相扶相励在幾人 相扶け 相励ましし 幾人か在り
待望何日此思果 待望す 何れの日か 此の思ひ果たさんと
時節到來物候新 時節到来す 物候新たなり
<解説>
学友が春、学舎で声を合わせ読み、歌っている。
扶けあい励ましあって、切磋琢磨した幾人かが居た。
この学舎の思いを、いつの日か果たしたいと待ち望んでいる。
万物が気候に応じて変わる時節となった今。
<感想>
まずは細かい平仄のことから。
今回は平仄両用の字がいくつかあり、誤用がありますね。
起句の「和」は「なごやか」で平字、「調和する」で仄字になります。
承句の「幾」は「いくつ」と数字に関わる場合に仄字、他の意味「きざし、ちかい」の時に平声です。
転句の「思」は「おもう」と動詞で平字、「おもい」と名詞で仄字です。
また、結句は「四字目の孤平」になっています。
前半は学生時代の思い出。このままですと、現在同窓会が開かれて、昔の校舎で仲間が校歌を歌っているように感じます。
昔であるとはっきり示した方が良いですから、承句は「昔日」「懷昔」で始めるのが良いですね。
何を「唱和」したか分かりませんので、「懷昔青衿學舍春」としましょう。
承句は「幾」を替えなくてはいけません。「何」と疑問にしたり、「友千人」と強調しても良いですが、ここは学生時代のことですので、「四時親」と韻字毎替えましょう。
転句からはやや飛躍があり、「此思」が何なのかが伝わりません。
再会したいという気持かと思いますので「夙望再見奈期日」。
結句にこの気持を持って行くなら、転句は「同朋久闊在何處」としておきますが、今回はこれで結句をまとめてみましょうか。
以下は参考例です。
懷昔青衿學舍春
相扶相励四時親
同朋久闊在何處
再會宿望嘉節晨
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-314
晩春
蒼天園裏簇游人 蒼天の園裏 游人簇がり
五月改元談話頻 五月 改元 談話頻り
池畔櫻雲花片片 池畔の桜雲 花片片
平成末葉惜徂春 平成の末葉 徂く春を惜しむ
<感想>
無理なくお作りになっていますね。
前半は、公園にリタイアした年齢の方々が集まって話が弾んでいるという光景でしょう。
承句の読み下しは、やや切れ目が変則になりますが、「改元の談話」と続けた方が面白さが出ますね。
転句でまた「池畔」と場所が来ますので、これを「園裏」の代わりに入れて、転句の方は桜の舞うのに合わせて「風」でも吹かせてはどうでしょうか。
結句の「末葉」は色々な意味がありますが、ここでは「一つの時代の変わり目」ということですね。
散文的に書けば「平成茲盡惜徂春」ということでしょうが、「末葉」で詩情を感じさせます。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-315
令和元年春
滿目紅桃已仲春 満目の紅桃 已に仲春なり
晴空蝶舞鳥聲新 晴空に蝶は舞ひ 鳥の声新た
天皇即位慶元祀 天皇 即位 元祀を慶ぶ
麗日高吟老更親 麗日 高吟 老いて更に親しむ
※
<解説>
新しい時代の幕開けに漢詩を書くことができて、とてもうれしく思いました。
<感想>
前半は改元のおめでたさと春爛漫の気配が出ていて、気持ちが良いですね。
転句の「天皇」は和語ですが、今回は仕方ないと言うか、こう書くべきだと思いますので良いでしょう。
問題は結句で、「良き日に高らかに吟じ」までは良いですが、「老更親」はどういう気持ちを表したいのかが伝わりません。「令和」を入れる形で「令日和風老若親」などはいかがでしょうか。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-316
晩春書懷
野寺舞花遙憶親 野寺 花舞ひ 遥かに親を憶ふ
微涼雨後鳥聲新 微涼 雨後 鳥声新た
閑愁一脈添風趣 閑愁一脈 風趣を添ふ
朧月散輝獨送春 朧月 輝を散じ 独り春を送る
<感想>
起句は「舞花」の語順ですので「舞ふ花」と読みます。
ここは「花飛」「花翻」が良いでしょう。
承句は上四字と「鳥聲新」が繋がりが弱いですね。「微涼」は「雨後」で伝わりますので、鳥がどこで鳴いているのかを示す形で「枝枝」「庭柯」とすると収まりが良くなります。
転句は「閑愁」が「一脈」というところを面白いと見るか、どうかです。
収まりやすいのは「南風一脈」として下三字を「詩趣」「情趣」とする形が良いかと思います。
結句は「四字目の孤平」です。また、「送春」という気持ちに流すためには月の光をどう表すと良いかを考えましょうか。
「朧月含愁共送春」のようにしていくと良いですね。
晩春書懷(推敲作)
野寺花飛遙憶親 野寺 花飛び 遥かに親を憶ふ
庭柯雨後鳥聲新 庭柯 雨後 鳥声新た
南風一脈添情趣 南風一脈 情趣を添ふ
朧月含愁共送春 朧月 愁ひを含み 共に春を送る
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-317
春日即事
芳菲野蝶踏青人 芳菲 野蝶 踏青の人
紅雨流鶯風色新 紅雨 流鶯 風色新たなり
坐見詔華桃李影 坐して見る 詔華 桃李の影
嫩リ藉草燕賓臻 嫩晴 草を藉きて 燕賓臻る
<感想>
起句はそれぞれの関係が無くて、バラバラの感じです。「踏青」の場所を書かないといけませんね。
「芳菲」「紅雨」「桃李」も同じようなものが並びますので、「春光滿野踏青人」のような形です。
承句もバラバラですので「樹樹流鶯」としましょう。
転句は「桃李」を生かすように持って行かなくてはいけません。「留歩閑林桃李影」でしょうか。
結句は「嫩晴」ですが、ここで「紅雨」が働くのでしょうね。ただ、前半は雨の雰囲気はありませんので、無理に降らせることはないでしょう。
ここも「嫩晴」「藉草」「燕賓臻」がつながりが無く、「燕が草を藉いて来た?」という感じで悩みますね。
「藉草」を入れるならその主語を上に示すとか、「燕」の行為をもう少し丁寧に表すなど、整理した方が良いですね。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-318
晩春
亂江鳥語小園春 乱江 鳥語 小園の春
蝴蝶嬌容物候新 蝴蝶 嬌容にして物候新たなり
策杖獨經垂柳岸 策杖 独り経る 垂柳の岸
歩行疼痛老衰身 歩行 疼痛 老衰の身
<感想>
起句は「乱江」よりも「晴江」が良いでしょう。
承句、転句は問題無いです。
結句は「歩行」を「難堪」とした方が良いですね。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-319
室生寺石楠花
杉樹森森雨後新 杉樹 森森 雨後新なり
光風嫋嫋鳥聲親 光風 嫋嫋 鳥声親しむ
碧苔石段無塵俗 碧苔の石段 塵俗無し
頭上花梢共惜春 頭上の花梢 共に春を惜しむ
<感想>
前半は対句になっていて、バランス良く仕上がっています。
起句の「森森」は「草木が繁っている」ことですが、「雨後新」とのつながりが弱いですね。「蒼蒼」としても内容としては同じになると思いますので、そちらの方が良いでしょう。
承句の「光風」は「雨上がりの爽やかな風」で、この場面によく合いますね。
「鳥聲新」は上四字との繋がりが弱いので、ここでお寺に来ていることを表すと良いでしょう。「紺園」という言葉がお寺を表しますので、「紺園晨」でどうでしょう。
転句は「石段」は「石砌」が良いので「古苔石砌」でしょうか。ただ、この詩では題名の「石楠花」が弱いので、ここで入れることにすれば「石楠花發古苔砌(石楠花は発く 古苔の砌)」という感じでしょうかね。
転句に石楠花を入れると、結句は「花」が要らなくなりますので、再敲を進めてみましょう。
下三字についても、「共(獨)惜春」も良いし、転句から「無俗塵」を持ってきても良いですね。
室生寺らしく「宝塔五層催惜春」などの景もありますね。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-320
望晩春
雨霽繁枝照眼新 雨霽れ 繁枝 眼を照らして新たなり
鶯聲斷續望餘春 鶯声は断続 余春を望む
泥香巢燕茅檐下 泥は香ばし 巣燕は茅檐の下
往履年年日月輪 往履 年年 日月輪る
<感想>
転句までは良い流れで、きれいにまとまっています。
結句の「履」は「復」ですかね。
この句は、ツバメが毎年毎年帰ってくるのを見て、歳月の流れを感じたということでしょうか。
まず、「年年」と「日月輪(めぐ)る」の違いが分からないですね。
「歳歳歸來報好辰」のような句で締めてはどうでしょうか。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-321
祝十五春
碧天啼鳥百花春 碧天 啼鳥 百花の春
孫學更更慶瑞辰 孫の学び 更更 瑞辰を慶す
常願忘無千里意 常に願ふ 忘るる無かれ 千里の意
応援寧靜與茶親 応援 寧静 与茶を親しむ
<解説>
今年孫が高校に進学しました。夢見る心を忘れず、仲間と仲よく、学校生活を送れるように願っています。
<感想>
ご入学おめでとうございます。
お祝いと激励の詩で、お気持ちがよく出ています。そのお気持ちが伝わるように、流れを整理しましょう。
起句は「啼鳥」があまり働きが無いので、空がキラキラ輝いていたということで「燿燿」などとしておくと良いですね。
承句は「更更」がよく分からないのですが、「ますます」という気持ちでしょうか。
「累學孫兒」(学を累ぬる孫児)でしょうか。
転句は「忘無」は「莫忘」、「千里意」は「千里の道も一歩から」の気持ちでしょうか。やや伝わりにくく「千里歩」「千里蹤」でしょうね。
結句はガンバレというお気持ちですね。
どう持って行くかですが、例えば「時來寧日與茶親」(時に来たりて寧日与に茶を親しまん)、「時々はやって来てゆったりのんびりとしてお茶でも飲もうね」という感じ、影ながら応援するというのもあります。
祝十五春(推敲作)
碧天燿燿百花春 碧天 燿燿として 百花の春
累學孫兒慶瑞辰 学を累ぬる孫児 瑞辰を慶す
歓喜莫忘千里蹤 歓喜の莫忘 千里の蹤
時來寧日與茶親 時に来たりて寧日与に茶を親しまん
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-322
送春
佳季難怡餘病身 佳季 怡び難し 余病の身
殘葩已落草堂隣 残葩 已に落つ 草堂の隣
老鶯不語無人訪 老鶯 語らず 人の訪れる無し
門外蕭然春晩辰 門外蕭然 春晩の辰
<感想>
起句は、誰もが怡ぶはずの春(「佳季」)だけど私は病があるから怡べない、ということですね。
これは良い句ですが、春の始まりや真っ最中だとぴったりなのですが、今は晩春で春が終わろうとする時、一般的には病気でなくても誰もが寂しくなる時期。
そうなると病身の感慨としては「逾」とか「更」という言葉の方がすっきりするわけで、この起句の上四字は変更した方が良いですね。
「難怡」を「看過」とし、「餘病」は「養病」でどうでしょう。
他は良い句で仕上がっていると思います。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-323
春日
滿池水色動青蘋 池を満たす水色 青蘋を動かす
午下郊村旨酒醇 午下の郊村 旨酒醇し
醉語舊朋歸路晩 酔語の旧朋 帰路晩し
櫻花片片小園春 桜花 片片 小園の春
<感想>
起句と承句の流れについては、これ自体は悪くはありません。ただ、「旨酒醇」という下三字は転句と同じ場面なので、結局、転句の内容が承句からずるずると続いて行く感じになり、転句の働きが弱く、その分、前半も働きが悪いわけです。
この「旨酒醇」を結句の結びにすると、まとまりが良くなると思います。
そういうことで言えば、結句と承句を入れ替えても良いのではないでしょうか。
仄起式にして、書き出しは「池上清風動榊_」などとする。実は「水色」が「青蘋を動かす」というのも気にはなっていましたので。
前半が叙景にまとまれば、転句からは「舊朋時會水亭畔」という形で話が進めやすくなると思います。
最後はお酒の話になれば、出来上がりですね。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-324
送春
朋友吟筇白髪人 朋友 吟筇 白髪の人
樹陰閑語笑談頻 樹陰 閑語 笑談頻なり
小園啼鳥忘塵事 小園 啼鳥 塵事忘る
寧日平安又送春 寧日 平安 又春を送る
<感想>
全体にまとまっていますが、一点だけ、転句の「啼鳥」は「忘塵事」と繋がりが無く、ぽっかりと浮いている言葉ですね。
ここは庭園が世俗を離れた雰囲気だったことを言わなくてはいけませんので、「小園静謐」「潺潺清水」という言葉でどうでしょうね。
結句は「又」が良いか「復」が良いか、面白いところですね。
じっくりとお考えください。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-325
惜春
碧空荒院落花津 碧空 荒院 落花の津
啼鳥遷枝一片塵 啼鳥 遷枝 一片の塵
清晝關關池邊靜 清昼 関関 池辺静かなり
舊朋閑語惜徂春 旧朋 閑語 徂く春を惜しむ
<感想>
転句の「邊」は平声ですので、ここは直さなくてはいけませんね。
内容としては、起句の「津」は川の渡し場ですので、上の「荒院」とのつながりが気になります。承句を見ても川は関係なさそうですので、ここは変更しましょう。
「頻」も考えられますが、次の「一片塵」とのつながり、「晨」も良いですがこちらも転句の「清昼」とのつながりなどがありますので、「辰(とき)」としておきましょう。
転句の「関関」は、「啼鳥」と前にありますし、静かな雰囲気を出すには邪魔で、ここは「清晝誘朋池畔歩」という感じで。
結句は「舊朋」を削って「拷A」、あるいは、風でも吹かせて「薫風颯颯」「南風一陣」などでしょうか。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-326
備中松山城
峻坂登高煙景新 峻坂 高く登れば 煙景新なり
石壁塁塁向天陳 石壁 塁塁 天に向かひて陳ぶ
唐風皎潔火灯牖 唐風 皎潔 火灯の牖(まど)
遠望桜雲艷麗頻 遠望すれば桜雲 艷麗にして頻なり
<感想>
備中松山城の小高い様子、建物の石垣、天守閣、必要なものは十分に入っています。
起句は「高く登る」ならば「高登」の語順、「登高」ですと「高きに登る」となります。どちらでも可能で、いただいた「登高」のままならば読み下しを「高きに登れば」としておけば良いです。
承句の「陳」は平らに並べることを意味しますので、「石壁」に対してどうなのか。韻字としては「巡」でしょうか。「壁」は仄声ですので、内容的にもここは「牆」の方が良いですね。
転句の「皎潔」は「潔」の意味が強く、汚れが無い態度や様子を表します。ここは天守閣を表していると思うのですが、詩だけ読んで分かるのは難しく、ここの中二字に「閣」の字を使ってはどうでしょうね。
「珠閣」「白閣」「楼閣」など、色々考えられますね。
結句は「遠望」ですと起句の「煙景新」との変化があまり感じません。「望」を使うなら「一望」「四望」として、天守から周りをぐるりと眺めている形が良いでしょう。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-327
惜春
江魚潑剌水村晨 江魚 潑剌 水村の晨
山鳥嚶鳴花下賓 山鳥 嚶鳴 花下の賓
天地悠悠心自在 天地悠悠 心自在
薫風漾埼S徂春 薫風 緑を漾はせ 徂春を餞す
<感想>
スケールの大きな詩で、春が過ぎ行くという自然の雄大さを感じさせます。
前半の対句は「潑剌」「嚶鳴」などは同韻字を重ねての音調上の効果も出ていて良いです。
惜しいのは、「江魚」「山鳥」の対。
まず「江魚」の「江」は下の「水」と重なること、「江」と「山」、「魚」と「鳥」はぴったりなのですが、「水村」の直後に「山鳥」ですと、水辺なのか山の中なのか、どこにいるのか分からなくなります。
「遊魚」「歌鳥」などではどうでしょう。
転句は「悠悠」は句としては良いのですが、起承句と同じ位置に、同韻の熟語が来ていますので、ここまで畳語にすると、三句が同じパターンになります。残念ですが、「悠然」としておく方が転句の役割が生きてくるでしょう。
結句は佳句ですね。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-328
春郊
雀遊花影幾度春 雀遊ぶ 花影 幾度の春
澄江碧水故郷親 澄江 碧水 故郷親しむ
詩友歓談車轔轔 詩友 歓談 車轔轔
郊野萬枝緑色新 郊野 萬枝 緑色新なり
<感想>
第一句は良い光景です。
「雀」となると朝のイメージが強いので、「鳥」と一般的な形にしておいた方が良いでしょう。
平仄を合わせるなら、いっそ「花影鶯声幾度春」と鶯を持ってきてもよいです。
第二句は、「江」も「水」もどちらも川ですので、どちらかを山にしましょうか。
第三句は下三字「車轔轔」で「車中の会話」を持ってくるのは難しいですね。ここは多分転句になりますので押韻も必要ありませんので、「友朋笑語満車牖」ですかね。ただし、この句を使うためには、その前に「友」と一緒に車に乗っているという状況を、直接言わないにしても事前に伝えておく必要がありますね。
作者の気持ちとしては「故郷親」で表現できるということかもしれませんが、苦しいですね。
帰郷したことを言って、旧友と歓談ならば流れますが、それでも「何故、車の中」というのは残ります。
故郷は関係ないとしても、「詩友」と旅に出ていることがわかるようにしておきましょう。
第四句は「郊野」と下の五字がつながりません。「郊野」「萬枝」のどちらかを直す必要がありますね。
「千樹萬枝風色新」とひとまずしておけば収まりはします。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-329
春日
山櫻花下鳥聲新 山桜の花下 鳥声新たなり
垂柳幽枝湖上春 垂柳の幽枝 湖上の春
一杯茶湯清閑日 一杯の茶湯 清閑の日
小庭慈雨獄ウ塵 小庭の慈雨 告o無し
<感想>
第三句の平仄で「二四不同」が崩れているのは見えますが、まずは、粘法の点から行くと、第三句(転句)は二字目が仄字の「仄句」にならないといけません。
二字目を仄字にすれば自動的に四字目は平字、六字目は仄字となりますので、その形に合わせれば平仄はクリアです。
例えば、「一椀茶湯閑靖日」
内容的には「山」「湖上」「小庭」とあって、場所がどうもすっきりしません。「山」はまだ「山桜」という種類を表すとも見えますが、「湖上」と「小庭」はしっくりしません。
「湖上」を「亭上」として、山荘にでも居る形にしましょう。
そうなると、結句の「小庭」がおかしいので、「門前雨後」のような形が考えられますね。
2020. 1. 7 by 桐山人
作品番号 2019-330
安閣
リ晝公園告F新 晴昼の公園 緑色新た
隣庭雪鷺水遊頻 隣庭の雪鷺 水に遊ぶこと頻り
娟娟遺産安閣 娟娟の遺産 安閣
不厭招邀嘉友賓 厭はず 招邀 嘉友の賓
<解説>
愛知県安城市にある安閣で、陶芸家の作品展の賛助として「ちりめん細工展」を行った。
素人であるにもかかわらず・・・。思いがけない経験だった。
<感想>
この詩は「告F新」となって始まっていますので、季節としては初夏ですね。
さて、そうなると「雪鷺」が気になってきませんか。この語は鷺の羽の白いことを雪に喩えた表現ですが、「雪」という字が入るとこの比喩が食い違ってきます。
そのまま「白鷺」と書いた方が良いですね。
公園ですので「隣庭」は「池塘」「堰池」が良いです。
また、下三字の「水遊頻」は「歩遊頻」くらいでしょう。
「娟娟」はしとやかな女性の美しさを表す言葉ですので、「遺産」を修飾するのにはどうでしょう。
立派な建物ということならば、「融然古色」「風光秀逸」など、「融然」は他の言葉で印象に即した語を探してはいかがでしょう。
結句の「招邀」は「招いて待ち受ける」ということですが、「不厭」となると「嫌がらずに招いた」という微妙な表現になります。
「一日招邀嘉友親」(一日 嘉友を招邀して親しむ)とするのが良いでしょう。
2020. 1. 7 by 桐山人